少女終末旅行 ワンドロ集   作:チビサイファー

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 最近少し気になることがある。何を隠そう、私の腐れ縁の幼馴染のユーリの様子が少しおかしいことだ。

 

 何がおかしいかと言えば、簡単に言うと毎日寝不足気味なところである。いや、ユーに関していえば授業中や昼休み、暇さえあればグースカと寝て体力を回復するのだが、最近のこいつに関してはいくら眠っても睡眠が足りていない様子なのだ。

 

「ユー、最近なんかおかしいぞ?」

「ふぇ、なにがぁ?」

 

 と、目の下にくまを抱えながら、ユーはにへら、と笑う。ただ、その笑みすらも疲労が色濃く、見てる分には痛々しかった。

 

「最近ずっと寝不足気味じゃないか。ほら、自分の顔見てみろ。

 

 そういって、私は持っていた手鏡をユーに向ける。ユーはそれをじっと見つめ、次に私を見て、そして鏡に視線を落とした。

 

「……私、美人だね」

「あほ」

「でもちーちゃんはすっごく可愛いよ」

「ありがとよ」

 

 いつもならちょっと照れるところだけど、今のユーを見たらそうも思っていられない。鏡を直して、私は机に突っ伏しているユーと同じ目線になる。

 

「ほら、もう学校終わってるぞ。眠いなら早く帰ろう」

「へーい」

 

 のらりくらり、とユーは立ち上がり、教室の扉へ向かう。おいおい、鞄忘れてるぞ。

 

「おおっとと……私、かばんちゃん」

「馬鹿なこと言ってないで、ほらしっかり」

 

 ユーに鞄を持たせて、私たちは教室から出る。そろそろ限界が近いのか、ユーは時折壁にぶつかりそうになりながらようやく学校を出た。これじゃあ一人で家に帰せないな。

 

「ユー、今日は家まで一緒に行くから」

「んわぁーい、ちーちゃんお泊り……」

「いや、泊りはしないよ」

「あぁ……でも、見られたら、困るなぁ」

 

 うん? 何が困るんだ? 何か私に隠していることでもあるのか?

 

「え、あ。いや、なんでもないよー」

 

 その後、私はふらふらなユーがどこかにぶつかったりしないようにしながら、家に送り届けた。

 

 

 

 

 その日の夜。私は少しばかり寝つきが悪かった、もちろん、原因はユーだ。寝るのが大好きなあいつが寝る間を惜しんで一体何をしているのだろうか。それが気になって仕方ない。

 

 もしかして新しいゲームでも買ったのだろうか。いや、それだったら喜々として私に感想を言ってくるに違いない。

 

 となると、気になるのは「見られたら、困るなぁ」という言葉だ。あいつ、私が泊ったらなにか困ることでもあるのだろうか。隠し事? ユーが、私にか?

 

「……わからん」

 

 私は何度も何度も、ユーが何を隠しているのか考えたが、そのいずれも腑に落ちない。落ち無さ過ぎてイライラしまくった。こうなったら納得のいく予測を導き出してやる。

 

 そうして、ユーの隠しているものを予測していくにつれて、脳が活性化していく。脳が活性化するということは、目が覚めるということで。

 

 結局、私も明け方まで眠ることができなかった。

 

 

 

 

 次の日。ユーはまたふらふらとしながら遅刻ギリギリで教室に入ってきた。しかも、くまが濃くなっている。何だお前、また寝なかったのか。私はそう問い詰めた。

 

「あはは、大丈夫だよ、だいじょうぶ」

 

 ユーは疲れ切った表情で笑みを浮かべる。その無理矢理作った笑顔が痛々しくて、私の胸をずきりと貫く。ええ、もう限界だ。

 

「でも、これでかんせ……」

「ユー! こっち来い!」

「ぇえ、ちょっとっ、ちーちゃん……!」

 

 どたばたするユーを無理矢理引っ張り、私は教室から連れ出す。ああ、授業? んなもん今日は休む。このわからずやに受けさせてやる授業なんてない。っていうか受けてもどうせ寝るだろう。

 

 階段を駆け上がり、屋上のドアを開けて飛び出す。ああ、いい天気だ。春が近いから日差しも温かいし、ちょうどいい気候だ。

 

「ちーちゃん……どしたの?」

 

 ユーは目が覚めきっていない顔で私に問いかける。なんというか、やっと移動が終わった、もう寝かせて。そう言いたそうな顔だ。結構大胆なことをしてきたのになんでも無さそうな顔をしていた。

 

「なぁ、教えてくれ。最近どうしてそんな寝不足ばかりなんだ? さすがに心配なんだよ、頼むから答えてくれ」

「…………」

 

 まだ少し頭が追いつかないのか、ユーは言葉を出さなかった。しかし何やら『あー』と言った後、手に握ったままだった鞄に手を入れ、可愛く包装された本の様だった。

 

「おたんじょうび、おめでと」

「…………え?」

 

 そう言われて、私は今日の日付を思いだす。そうだ、私の誕生日だ。ユーのことばかり気に掛けていて、すっかり忘れていた。

 

「ちーちゃんのためにつくったんだよー」

「……じゃあ、ずっと寝不足、私が見たら困るってのは」

「えへへ……始めるの遅かったからさ」

 

 そう言うと、ユーの体がふらりと崩れる。私は危うくそれを受け止めて、床との衝突を回避させる。

 

「ゆ、ユー! おい、しっかりしろ」

「あー、ねっみぃ……ねむい……」

「…………ああもう、ほら」

 

 私は床に座り、足を楽な体制にさせると、ぽんぽんと太ももを叩く。それを見たユーは少し呆けていたが、そのままこてりと私の太ももの上に沈みこんだ。

 

「もう寝てろ。プレゼントありがとうな」

「ふぁあい……」

 

 最後の力を振り絞った返事をして、ユーは寝息を立て始めた。さて、ユーは私に隠れて一体なにを用意したのだろうか。

 

 包装された本を開けて、中身を取りだす。それは一冊の絵本だった。結構きれいに作られていて、知らない人が見たら市販品と思うレベルだった。

 

 しかし、市販のものではないというのは、すぐにわかった。なぜなら、表紙に私のイラストが描かれていたからだ。

 

「これ……」

 

 中身を開く。それは、私を主役にしたおとぎ話だった。

 

 むかしむかし、あるところに、ちーちゃんという可愛い女の子がいました。ちーちゃんはとてもかしこくて、なんでもできるすごい人です。

 

 でも、本当は少し寂しがりやで、独りぼっちがきらいで……。

 

 と、言った感じでかわいらしいイラストを元に、話は展開していく。まったく、読んでみると都合の言い展開が多いな。

 

 でも。

 

 私には分かる。この丁寧に作られた絵本、印刷。こういった知識を集め、活用するのはさぞ大変だっただろう。あまりの丁寧さに気付きにくかったが、この絵本はユーリが完全に手作りで作ったものだ。その証拠に、随所に手作り感溢れる荒さが目についた。

 

 けど、それを差し引いても、この絵本は素晴らしい出来だった。内容については、まぁ目を瞑ろう。ユーリらしいハッピーエンディングだった、とだけ述べておこうか。

 

 この絵本を作るには、相当の労力だったに違いない。だからこいつは寝る間も惜しんで、ずっと作ってくれていたのだ。そして、私に手渡したから、安心できたのだろう。

 

「…………ありがとう、ユーリ」

 

 私は膝の上で安らかに眠っている。幼馴染の頭をそっと撫でる。いいだろう、今日はとことん付き合ってやるよ。

 

 春の日差しを浴びながら、私は軽く欠伸をする。そう言えば昨日こいつのことばかり考えて、私自身も寝不足だったな。まあいい、このまま睡眠欲に身をゆだねてしまおうか。

 

 瞳を閉じて、私は眠りへ向かっていく。ユーリの心地よい寝息を聞いていると、とてもいい夢が見れそうな気がした。

 

 

 

 

 了

 

 

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