少女終末旅行 ワンドロ集   作:チビサイファー

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既読なし

 

 なんてことのない、ある日の週末だった。私は夕食もお風呂も終えて、何となくテレビでやってた映画を見ていた。

 

『くそ、なんでだ! なんで連絡がつかないんだ!?』

 

 どうやら殺し屋の女の子と、その友達のごく一般的な高校生とのちょっと変わった友情物の映画らしい。殺し屋である女の子は、友人の携帯が突如として繋がらなくなった事に不安を抱いている。

 

(ああ、これ殺し屋の敵対組織が、友達さらった奴だろうなぁ)

 

 この先の展開を何気なく予期して、実際その通りのことが展開される。

 

『もしもし!? やすな、おい急に電話が切れたぞ……』

『ククク……残念だったな、殺し屋ソーニャ』

『だ、誰だ貴様!? やすなはどうした!?』

 

 ほーら、言わんこっちゃない。私は机の上に置いてあったせんべいをばり、と食べる。時計をちらりと見ると、映画はそろそろ佳境を迎えそうな頃合いだった。

 

 ピコン。スマホの通知音が鳴る。どうせユーなんだろうなと思って手に取ると、やっぱりユーだった。

 

『バイト終わったー。つーかーれーたー』

 

 はいはい、今日は忙しいかもって言ってたもんな。私はお疲れさま、と入力して送信する。

 

 ピコン。返事早いな。

 

『ちーちゃん疲れたー、お腹すいたー、なんか食べ物持ってきてー』

 

 お前は私を便利屋か何かだと思ってるのか。送信っと。

 

 ピコン。だから早いって。

 

『ちーちゃんは私の嫁だからご飯とか作ってくれてそうな気がして』

 

 今日は何もないぞ。こちらとて食材には限りがあるんだから。お前家に何も食べ物ないのか?

 

『ぬぁい。でもお腹すいた』

 

 買って帰れ。

 

『あん、ちゅめたい。でもそうするー。今度ちーちゃんのハンバーグ食べたいなー』

 

 わかったわかった、今度家に来たら作ってやるよ。そう返事をすると、スタンプでやったー、と喜び、愛してるのスタンプ。調子のいい奴め。

 

 ユーとのチャットを終えて、テレビに目線を向ける。殺し屋の女の子が、友達を探して必死に町中を走り回っている。どうやら時間が無いらしい。え、なに? 見付けられなかったらそのまま永遠に連れ去られる?

 

 何となく私はさらわれた女の子をユーリに当てはめてみる。いや、普通立場逆だと思うけど、にしてもそんなことされたら私はどうなるのだろうかと考える。いや、まぁ素直に言うけど、そりゃ困るし許さないと思う。

 

 でも、あいにく今の私の身にそんなことが起きても、ユーを取り返せる自信が湧かない。こんなインドアを具現化したような私の肉体で何ができるっていうのやら。ああそうだ、どうせならユーリが助けに来てくれよ。そのほうが待ってればいいから楽だ。

 

 そんなバカなことを考えていたら、着信が来た。ひそかに会いこん設定した寝顔のユー。私はなんてことなく通話ボタンを押しこむ。

 

「もしもし、ユー?」

『いぇーい、ちーちゃん。暇だから電話しちゃった』

「本当に暇人だな。私は暇つぶしかよ」

『えー? でもちーちゃん電話好きでしょ?』

「なんのことやら」

『またまた、とぼけちゃってー。知ってるよー、この前ビール飲んだ時ちーちゃんこう言ってたよ』

「ユー。それ以上言うとお前に作ってやるハンバーグは豆腐100%ハンバーグになるから覚悟しろ」

『ごめん』

「いいよ」

『今何してたのー?』

「ん、まあ適当にテレビ見てたよ。今日の映画ショー」

『あ。それ確か私が前読んでた漫画の映画化したやつ! 確か名前はキルミ……って、わっ、わわ!!』

 

 突然スピーカー越しのユーの声が跳ね上がり、私は思わず受話器を遠ざける。Sの向こうでガサゴソどたどたと音が鳴り、時折ユーの慌てた声が聞こえる。

 

「ゆ、ユー? どうしたの、大丈夫?」

『————、————うわっ!!?』

 

 ぶつっ。それからユーとの通話が途絶える。何だ今の、何かあったのか?

 

 私は再度通話ボタンを押しこんで、ユーにつうわを 試みる。しかし、一瞬で繋がりませんという表記が現れる。もう一度通話ボタン。繋がらない。

 

「…………なんだったんだ?」

 

 私は一応、チャットテキストを送信する。なんかあったのか? 少しトーク画面を見つめて返事を待つ。既読なし。そうだよな、いきなり返事することもそうそうないし。少しだけ待ってみよう。

 

 私はスマホを置いて手洗いにいく。あのガサゴソした音は何だったのだろうかと考える。何かに遭遇したとか? それに驚いて、スマホを落としたとか。

 

 その考えをしたところで、妙な胸騒ぎを覚える。まさか、まさかとは思うけど、ユーの身に何か起きた? 例えば、突然誰かに口をふさがれた、とか?

 

「……いやいや、ないない。考え過ぎだ」

 

第一にだ。ユーの力は下手な男性よりも強いから簡単に捕まるわけが……。

 

 そう思ったとき、私はさっきの映画の展開を思い出す。確か、さらわれた女の子は数人がかりで、尚且つ薬のような物を嗅がされて眠ってしまった。もし、ユーも同じことをされたら……?

 

 私は少しだけ急ぎ足でお手洗から出る。手を乱暴に洗って、部屋に戻ってスマホの通知を確認する。新着なし。何やってるんだ、まだ帰らないのか? そう思って時計を見ると、まだ五分と経っていなかった。

 

「…………」

 

 私はもう一度通話ボタンを押す。コール音すらならず、繋がりませんの無慈悲な文字。少し震えそうな手を抑えてチャット画面。どうした、返事しろ。

 

「…………っ」

 

 私は時計とスマホを何度も往復する。まだか、返事は。既読は。つかない。さっきから一分も経っていない。もう一度通話ボタンを押しこんでみる。門前払い。既読の確認、未読状態。

 

「……ユーっ!」

 

 私は居てもたってもいられなくなり、コートをひったくると乱暴に鍵をかけて、家を飛び出した。ここからユーの家までそこそこ距離はあるが、構ってられない。

 

 全速力でユーの家を目指す。くそ、家から出てまだ家四件分しか走ってないのに、もう息が上がってきた。こんなことなら小さい頃のユーの運動にもっと付き合っておくんだった。

 

 あっという間にヘロヘロになりながらも、私はユーの家を目指して右に左に道を進む。そんなわけはない、分かっている。ちょっとテレビを見過ぎたせいで、変になってるんだ。だからあいつの家に行けば、いつものアホ面を私に向けてくれるはず。

 

 でも、でも。万が一、その万が一が起きてしまっていたら?

 

 私は今日のことを一生後悔する。取り越し苦労ならそれでいいんだ。でも、でも、不安がぬぐえない。なんだこの胸騒ぎは。私とユーの長い付き合いから来る直感とでも言うのか? 今までにないくらい、恐ろしい気配を感じた。

 

「っ、ユー、リっ!」

 

 何度目かの交差点を曲がって、ようやくユーリの家の近くにたどり着く。顔が熱くて目がくらくらする。全然酸素が足りていないんだ。でも、せめてもう少し早く進んでくれ。

 

 ついにユーの住んでいるアパートにたどり着いた

。私は最後の力を振り絞って階段を駆け上がり、ユーの部屋のインダーホンを鳴らした。

 

「っはぁ、っはぁ、ユー……ユー!」

 

 どんどん、と私はドアを叩く。返事がない。まさか本当に何かあったのか? 部屋の明かりが点いていないか確認する。そうだ、そう言えば点いていない。まさか、本当に……!?

 

「ユー!」

「え、なにちーちゃん」

 

 後ろから間の抜けたあの声。私は慌てて振り向くと、そこには買い物袋を抱えたユーリがきょとんとした顔で私の事を見ていた。

 

「ユー……」

「ど、どしたのちーちゃん。そんなに慌てて。ああ、汗もたくさん……とりあえず入って」

 

 と、ユーリはドアのカギを開けようとして、私はその前に両手を肩に置いて引き留める。

 

「ユーっ……大丈夫?」

「いや、えっと。大丈夫なのはちーちゃんだよ」

「さっき、電話、きれて……」

「あー。電池切れ。ごめんね、返事できなくて」

「でもっ、さっきなんか……うわって声が……」

「ああ。猫見付けてかわいかったから。それで手が滑ってスマホ落としそうになって、わたわたしてたら同時に電池切れちゃった」

 

 そういってユーは真っ暗な画面になったスマホを見せてくれる。それを見て私は体の力が一気に抜けてしまい、その場に倒れ込みそうになる。

 

「わ、ちーちゃん!」

 

 幸いユーが地面に頭をぶつける前に受け止めてくれたから怪我をすることはなかった。っていうか柔らかいんだが。ああ、胸か……これからエアバッグって呼んでやる。

 

「ほら、ね。とりあえず中に入ろうよ。飲み物もあるからさ」

「…………うん」

 

 何事もなくユーは私を部屋に招き入れる。相変わらず爆撃を受けたような散らかりようだったが、そのいつもの景色が何よりも安心できた。

 

 それと同時に、私の顔はあっという間に赤くなる。ほんと、何やってたんだろう。バカみたい。ありもしないことであんなに慌てて、ヘロヘロになって、ユーに助けてもらうなんて。

 

「ちーちゃん、お茶でいいー?」

 

 台所からそう声をかけユー。私は顔を上げるのも恥ずかしくて、手のひらを上げて頷かせる。

 

「はーい」

 

 この動きで理解してくれるのだから、ユーはありがたい。にしても、この状況あとでどう説明したらいいんだろうか。映画見て、似たようなことが起きて、不安で仕方なかった。そんなこと言おうものならユーはケラケラ笑うに違いない。そんでもってしばらく弄り倒すに決まってる。

 

 …………でも。それでいいのかもしれない。何事もなく、いつものようにじゃれ合えるこの日常が。

 

 ほんと、取り越し苦労で良かったよ。私はさっきまで大慌てで走っていた自分を思いだし、苦笑する。そんな私にお茶を差し出し、向かい合う形でユーが座ると、さっきじゃれ合っていた猫の話を始めた。

 

 

 

 

 了。

 

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