ぐい、と私はビールを煽る。深夜帯のテレビの画面を無心で眺めている。でも、お酒が入ってるせいかそんなに頭に入ってこない。
「……つまんないね」
と、私に肩を乗せながらユーが言う。ああ、そうだな。
「お酒、無くなっちゃったね」
「私ので最後だもんな」
そう言いながら、私は缶の中に残った最後の一口を一気飲みする。こん、と机の上に置いてユーの頭に自分の頭を乗せる。
「……暇だね」
「うん」
「まだちょっと飲み足りないね」
「缶ビール三本飲んでそれか」
「足りないもん」
「……なら、コンビニ行くか」
「いいの?」
「たまには、いいだろ」
「やた」
ユーは私から離れると軽く上着を羽織る。私はまだ少しだけベッドにもたれ掛かっていたかったけど、ユーが腕を引っ張って無理矢理起こされる。
「はい、ちーちゃんの」
「ああ」
ユーから上着を受け取って家の鍵と財布を手に取り、家を出る。ちょっとだけ冷たい食う気が私たちを撫でる。
「まだちょっと寒いね」
「ん、そだな」
桜の咲く季節にはなったが、いかんせん夜はまだ冷えることが多い。上着を渡してくれたユーリに感謝だ。
てこてこ無言で私たちは歩く。お酒を飲んだから顔がポカポカしてる。当たる風がちょっと冷たくてきもちいい。
ぎゅ、と私はユーリの手を握る。温かいな。ちょっとだけ頬ずりしたくなる。でも、その前に握り返してきてくれて嬉しくなる。
頭がふわふわする。いつもはしないけど、私はユーリの方に頭を乗せて、並んで歩く。コンビニまで10分のデート、といったところだろうか。
「ちーちゃん甘えん坊だね」
「いいだろ、たまには」
「私はいつだっていいんだよー」
「ありがたみがなくなるだろ」
「ありがたみばっかり気にしてたら、日常なんて無くなっちゃうよー」
「私との関係は特別な方がいいんじゃないのか?」
「うーん。特別な日常って感じ?」
どうやらこいつには何を言っても自分風味に変換してしまうから無駄だろう。でも、そういうところがいいところで、私が好きなところでもある。
「お前のそういうところ、本当に好きだよ」
「そう? えへへ、私は全部のちーちゃんが好きだよ」
「あー……そう言う。なら私もお前の全部が好きだよ」
「うれしいなぁ、ちゅーする?」
「家でな」
細い十字路を曲がり、ちょっと大きめの通りに出る。コンビニはもう少しだ。
「おおー、この家の桜満開だね」
と、ユーリが民家の塀から飛び出ている桜を見つめる。確かに、綺麗な桜だ。
「庭に桜があると、春はいつでもお花見できるからいいよねー」
「手入れが大変そうだから、私は公園に咲いている奴でいいよ」
「あん、ちーちゃん夢がないなぁ」
「お前が手入れしてくれるなら植えてもいいぞ」
「めんどーい」
「ほらな」
「でも、ちーちゃんとのお花見したいなぁ」
物欲しげな顔でユーリはそう言った。いや、だまされないぞ。お前は花見の食べ物の方に気が向いているんだろう。
「ばれたか」
「ばれてる」
「でも、ちーちゃんとじゃないと嫌かな」
「そうか」
これは本当だろう。一人で花見や、私以外と花見をするユーリなんて思いつかない。
「……新学期まだ先だし、明日の夜にでも行こうか」
「やったー」
にへら、と嬉しそうにするユーリ。そんな相棒の顔を見ながら、私はお弁当をどうするか考える。あー、でも作る時間もないし、コンビニの惣菜を合わせればいいかな。
そんなことを考えているうちに、近くのコンビニにたどり着いた。籠を持ってお酒コーナーへ。お互いの好きなビールをもう二本三本ほど入れて、おつまみを少々。え、なに? 缶つまみ? 高いから却下。ポテチにしとけ。
不服そうな顔をしながらも、ユーリはちゃんとポテトチップを持ってきた。とんちを効かせて一番のビッグサイズを持ってきやがった。
「ポテチはポテチだよ」
「……ああ分かったよ。ただしうすしお味にしろ」
「え、コンソメのがいい」
「うすしおにしないなら買わない」
「ぶーぶー」
といいつつも、ユーリはうすしおを持ってきた。うむ、よろしい。買ってやろう。
ちらりとお弁当コーナーを見てみる。明日の朝ごはんは……いらないか。炊いたご飯が残っている。
レジに並び、私たちは会計を済ませる。ユーリが私の分の袋も持ってくれた。お前イケメンだな、だから好きなんだよ。言わないけど。
「ちーちゃん、飲みながら帰ろうよ」
「行儀悪いぞ」
「桜もちょこちょこ咲いてるし、お散歩花見ってのもいいんじゃない? 人もいないし」
そう言われて、私は周囲を見てみる。深夜だから人通りは少ないし、車もいない。火照った体を撫でる冷たい空気、確かにこんな日に飲むお酒も一興だろう。
「……一本だけな」
「わーい!」
袋をガサゴソとさせて、ユーは自分のビールを取りだし、ついでに私のも渡してくれる。二人で同時にプルタブを開けて、来た道を戻る。さっきの満開の桜が目に入った。
「おーはーなーみー」
「しないぞ、家に帰るのが先」
「あーん、花びらでも散らないかなー」
「明日辺りなら散るんじゃないか?」
「散る様は、美しい……人間もまた同じ」
「じゃあ私も散った方がいいか?」
「…………やだぁ!」
ぎゅう、とユーリは突然飛びついてくる。でもわたしは 意外と冷静だ。なんかそんな気がした。いや、もしかしたらそうしてほしかったのかもしれない。まったく、酔ってると甘えん坊になる。でも、この方が何かと楽だ。気分もいい。
「ちーちゃんは、散らなくても美しいよぉ! かわいいよぉ! 私のお婿さーん!」
「婿かよ……どうせぺったんこだよ」
「そんなちーちゃんのぺったんこ、だいすきー!!」
「あーもう、暑苦しい」
「私はさむぃん!!」
めんどい。ユーリの頭をぐりぐりしながら、私たちは歩みを進める。コンビニの冷蔵庫で冷やされたビールがおいしい。
「ぬふふー、ちー、ちゃん!」
「わっぷ、危ないだろ、飛びつくなよ。お前は犬か」
「犬だからちゅーもするよー!」
むちゅむちゅと私のほっぺにキスを始めやがった。こいつ割と出来上がってる。私の方が冷静なんじゃないか?
「なんだよ、今日は悪酔いしてるぞ」
「えへへー、私だって、そんな日もあるよー」
「……はぁ。分かったよ。帰ったら抱きしめてやるから」
「ちーちゃん、だいすき」
ちゅう、とついに唇まで奪ってきやがった。なんか珍しいものを見た気分だ。やんわりと体を離して、ユーリに歩くよう促す。今日は甘えん坊な日なんだろうなと思い、帰ったら甘やかしてやろうと心に誓う。
すると、どこからともなくひらり、と一枚だけ散った桜がユーリの頭に乗る。それが何となくおかしくて、私は笑みを浮かべてしまった。
了