少女終末旅行 ワンドロ集   作:チビサイファー

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寂しんぼさんとのお電話

 

 

「……あー。だるい」

 

 誰もいない自分の部屋。私は帰宅してシャワーを浴びて、適当に残っていた缶詰を食べて、ベッドに転がりこんでそれから動かずにいた。

 

 本当ならちーちゃんの家に行ったりするけど、今日は遅くまでバイトがあるからと一緒に帰れなかったし、無理に家にお邪魔するのもあれだったからおとなしく自分の家に帰ってきたのだ。

 

 でも、だるい。だるい、とにかくだるい。ちーちゃんがいない。つまんない。しかも今日は一段とそのだるさが強くて、何もやる気が起きなかった。夕方食らいにベッドに飛び込んで、トイレ以外で起きて無いレベルだ。

 

 たぶん、放っておいたら私はこのままベッドと一体化するのだろう。ふっかふかのユーリ布団ですよー。ちーちゃんに限り、お値段税込み無料で送料無料。ご注文は私の携帯電話までにお願いしまーす。そんなバカっぽいことを考えていた時だった。

 

 電話のコール音が鳴る。着信音で誰からなのかをすぐに理解し、私のA体の全細胞が活性化する。

 

 ベッドから跳ね上がると机の上に置いていた携帯をひったくる。画面には「ちーちゃん」の文字。自分でも分かるくらい私は嬉しそうな笑みを浮かべると、通話ボタンを押しこむ。

 

「もしもしちーちゃん?」

「おう、ユー。起きてたのか」

 

 スピーカーから、もしかしたら自分の親よりも聞いたかもしれない可愛い声。私は喜びで裏返りそうな声を抑えながら、平静を装って返事する。

 

「まぁね。今バイト終わり?」

「うん。ちょっとしんどかった。棚卸してたから」

「あー、超めんどい奴」

「超めんどかったよ」

 

 電話の向こうのちーちゃんの声は、少しばかりくたびれている様だったけど、どこか嬉しそうな雰囲気も持っていた。たぶん、私と話せて安心したのだろう。あ、自惚れじゃないよ。ちーちゃんが酔った勢いでそんなこと言ってたから。

 

「遅い帰り道は女の敵だしな」

「一人で歩くのもつまんないしね」

「全くだ。しかも人っ子一人も歩いていないし」

「あれなら私の家に来てもいいんだよ?」

「遠回りだろうが。それにお前家は発掘作業ができるレベルで散らかっているからお断り。片付けられるようになったら考えてやる」

「えー、ちーちゃんも手伝ってよー」

「何回も手伝って改善しなかっただろうが。なんなら爆薬で吹き飛ばしてもいいぞ」

「発掘なだけに」

「そういうこと」

 

 ふふっ、と私たちは電話越しに笑う。ああ、ちーちゃんの声を聞くと本当に安心するんだ。バイトの日とかでちーちゃんとお喋りできない時はとても寂しい。だからこうして電話が来ると、私は何よりも最優先で通話ボタンを押すようにしている。もし私が犬だったら、ワンワンと吠えて尻尾が千切れそうなくらいフリフリしていたに違いない。我ながらバカっぽい考えかな、と思ったりする。

 

「そっちは何してた?」

「んー、ちーちゃんのこと考えてた」

「きもいな」

「えー酷い」

「冗談だよ。ったく、私のことなんか考えるより、もっと自分のこと考えたらどうなんだ」

「ちーちゃんのことを考えることこそが、私のことを考えることにつながるんだよ」

「よく分からん」

「分かんないだろうね」

「じゃあ私もユーリのことでも考えようかな」

「おお、なになに、何考えてくれるの?」

「成績と、就活と、爆破が必要な部屋の片づけ方」

 

 げ、それは勘弁だちーちゃん。耳が痛くてたまらないや。

 

「お前、『げ』とか思っただろ」

「なぜ分かったし」

「長い付き合いだからそれくらい分かる」

「ちーちゃん……エスパー!?」

「だったら瞬間移動でとっくに帰ってるよ」

「あらー、そっか。そしたらこうして電話することもないのかな」

「…………いや、そうでもないよ」

 

 ちーちゃんは少しだけ小声になって言う。

 

「たぶん、家に帰ってもお前に電話してる」

「……ふ、ふへ……えへへ、嬉しい」

「…………あー、もう。くそ、恥ずかしくなってきた。忘れろ忘れろ」

「えー、やだ」

「だと思ったよ。お前の得意な忘却に任せるとするよ」

「でも私ちーちゃんのことたくさん覚えてるから、たぶん忘れないかなー」

「お前はどうでもいいことばかり覚えているからな」

 

 ううん、どうでもよくないよ。ちーちゃんのことだったら、私は何でも覚えていられるんだよ。ちーちゃんのこと、大好きだからね。

 

 なんて、私は言わない。言うなら直接会ってからが一番いいから。そうしたら、顔を真っ赤にして「なに言ってるんだお前!」と照れちゃうちーちゃんが見れるから。

 

 でもー、いざいうとなると、私も結構恥ずかしいんだけどね。次はいつアタックしちゃおうかな。

 

「ユー、お前今よからぬことを考えているだろ」

「はて、なんのことやら」

「お前が『はて』って使うときは、なにか誤魔化してるんだって分かってるからな」

「げっ」

「よし、図星だな」

「ちーちゃんやっぱりエスパーでしょ」

「そうかもしれないな」

 

 またちょっとおかしくなって、私たちはまた笑い合う。直接会って話すのも大好きだけど、こうして会えない時に電話してお喋りできるっていうのは、本当に嬉しいし、楽しい。この世に携帯電話がなかったら、きっと私とちーちゃんは毎日寂しんぼだったに違いない。

 

「っと、そろそろ着くかな」

「えっ」

 

 ちーちゃんの言葉で、私は思わず声を漏らしてしまう。

 

「ん、もうちょっと話して居たかった?」

「あー、えへへ。まぁね」

「私もそうしたいんだが、ちょっと今晩やることあってな。また明日学校で会おうな」

「うん。じゃあまたね、おやすみ」

「ああ。おやすみ、ユー」

 

 名残惜しかったけど、私は電話を切る。いつものことだよ、無事にちーちゃんが家に着けたのならそれでいい。

 

 でも……強烈な寂しさと、だるさがまた私を襲った。今日は何で何だろう。

 

 ふと、窓の外を見上げてみる。ただでさえ暗い夜空は、いつもより暗く見えた。そうか、今日は月がないんだ。大好きなお月さまは、今頃地球の影にすっぽりと収まってしまってかくれんぼ中なのだろう。

 

 ぼふん、と私はベッドに顔を突っ伏す。ちーちゃんもいない、お月様もいない。なんだか誰もかもが私からいなくなった気がして、一層寂しくなる。そんなわけないのに。明日になればちーちゃんにまた会えるのに。

 

「…………ちーちゃん」

 

 私は思わずつぶやく。会いたいな。会いたいな。本当はもっともっと電話したかったな。

 

 ピコリン。携帯の通知が鳴る。脱力した手でそれを手に取る。新着メッセージ一件、ちーちゃんからだ。たぶん、おやすみって言ってくれたんだろうね。

 

—瞬間移動した。さて、寂しがり屋はどこにいる?—

 

「…………!」

 

 私はベッドから跳ね上がる。床に散らばった本やゴミ箱に足を取られながら、私は玄関のドアを勢いよく開けた。

 

「よっ。エスパーになれたみたいだ」

 

 ちーちゃんが、そこにいた。

 

「ちー……ちゃん」

「どうしてって感じだな。電話でもわかるぞー、お前寂しかったんだろ。だから、今日はこっちで寝るよ。部屋の爆破は勘弁してやる」

 

 してやったりの表情を浮かべるちーちゃん。私はそんなちーちゃんの顔がたまらなく嬉しくて、愛おしくて、たまらず真っ平らなその胸に飛び込んだ。

 

「うわっ、と、おいユー、そんなに寂しかったのかよ」

「……違うもん。バランス崩しただけだもん」

「へへ、そっか。プリン食べる?」

「たべる」

 

 ありがとうちーちゃん。電話越しでも私のことが分かるちーちゃんは、やっぱりエスパーだったよ。ほんと。

 

「大好き」

 

 

 

 

 了

 

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