少女終末旅行 ワンドロ集   作:チビサイファー

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寝ぼすけユーリにご注意を

 

 ある日のこと。少しばかり移動に疲れた私とちーちゃんは、手近な場所を見付けてお昼寝をしよう、ということになった。

 

 毛布を地面に敷いてコートを毛布がわりに乗せる。ちーちゃんは運転して疲れていたのだろう、あっという間に眠ってしまった。私はと言うと、実を言うとあんまり眠くなかった。後ろでいつも寝てるからね。

 

「すぅー……すぅー……」

 

 と、ちーちゃんは隣でかわいい寝息を立てて眠っている。それはもう気持ちよさそうにすやすやと。ほっぺをつんつんしてイタズラしたくなっちゃうけど、でもそれやって起こしたら怒られちゃうね。

 

「んっ……ゆー、う」

 

 あら、寝言。夢の中で私と何かしているのかな。ちょっと観察してみる。

 

「…………」

 

 なにも言わなくなっちゃった。ちぇ、つまんないの。

 

「……えい」

 

 私は優しくほっぺを突いてみる。むにむにと指が沈みこんで気持ちがいい。ちーちゃんは起きることなく、「ううん」とちょっとだけもぞもぞする。なんか起きそうにないから、もうちょっとだけちょっかいだしちゃおうかな。

 

 今度は鼻を摘まんでみる。ぴたりと止まる呼吸。最初こそ何もないけど、どんどんちーちゃんの目元が苦しそうになっていく。あ、ぴくぴくしてる。なんか面白い。でもそろそろ離さないと起きちゃうかな。

 

 指を離すと、ちーちゃんは大きく息を吸って吐く。おお、危ない危ない。ビバ深呼吸。

 

 じゃあ次は何をしちゃおうかな。私はしめしめとちーちゃんの顔を見つめ、手をワキワキと動かす。ならいっそ、服をでこピンなんかをしてみたりとか? おもしろそう!

 

 どんな声出しちゃうのかな。「うひゃぁ!」とか可愛い声出すのかな。いや、無言で睨んでパンチが待ってるかも? どんな反応でも気になってしまう。よし、やろう。ちーちゃん言ってたよね、古い言葉で「善は急げ」って。きっとこういうことなんだよ!

 

 でこピンの形を作り、ちーちゃんのおでこにロックオン。さぁ、楽しい楽しい時間が……。

 

『こら、ユー!』

「わ、わわっ!?」

 

 突然ちーちゃんの声が響く。それもおっきい。建物に響きまくって、体が震えてしまうくらいだ。

 

「え、ちーちゃん? あれ、寝てるはずじゃ」

 

 そう思って目線を下す。あれ、ちーちゃんがいない!?

 

『こっちだよばか』

 

 ずずん、と足元が揺れる。突然太陽がいなくなって、私は真っ暗な影に包まれる。見上げるとそこには……。

 

「……ちーちゃん?」

『おう』

 

 でっかいちーちゃんがいた。

 

「……すっげー! でかいでかい! ちーちゃんなに食べたらそんなに大きくなれるの!?」

『別に、普通にこうなった。ていうかおまえ、私にちょっかいかけるのやめろ』

「えー、いいじゃんいいじゃん。なんか気持ちよさそうに寝てたし。イタズラしたくなってみたもん。ほら、ちーちゃん善は急げって言ってたじゃん」

『意味違うし』

「え、違うの?」

『違う』

「そっかー。まぁ、いっか」

『飽きたな、お前』

「細かいことは気にしなーい」

 

 私は毛布の上に倒れ込む。おっきなちーちゃんが私をぬーんと見下ろした。いやー、大きいな。まさかちーちゃんに背を抜かれるとは思わなかった。でもお胸は相変わらずぺったんこだね。

 

『そこかよ』

「そこだね」

『っていうか、私になんか言うことあるだろう』

 

 なんか言うことあったっけ?

 

「なんだっけ?」

『いたずらして、ごめんなさいだろうが』

 

 そう言うとちーちゃんの手が伸びる。わ、結構怖い! たまらず飛び起きて逃げようとするけど、フードを掴まれてひょいと持ちあげられてしまう。

 

「わわ、おー、高い。良い眺め」

『呑気すぎかよ』

「ちーちゃん、ちょっと頭に乗せて歩いてみてよ! 空飛んでるみたいで楽しい!」

『ポジティブすぎかよ』

「おねがいおねがい!」

『やだー』

 

 そう言うとちーちゃんはぱっと指を離す。あれ、え、ちょっと高くない? なんかめっちゃ私落ちてるんだけど。

 

 っていうか、地面がない?

 

『私が寝ているときは、ちょっかい出すなよー』

 

 そんなちーちゃんの声が耳に残って、私は暗闇の中へと落ちていく。でも、不思議と怖くない。なにか次お話が始まりそうな、そんな雰囲気を感じた。

 

 

 

 

「……ほへ」

 

 私は目を覚ます。目の前には見慣れない部屋の天井。横を見るとシンプルなフローリングと壁紙、テレビ。こちこちと響く時計の音。

 

 ここはどこなんだろう。なんか、大きなちーちゃんに摘まみあげられて、そのまま暗いところに落とされたような。

 

「んっ、ユー、起きたの?」

 

 声のした方に首を曲げる。そこには眠そうな顔をしたちーちゃんが私のことを見つめていた。

 

「あー、ちーちゃんおふぁよー」

「よだれ、垂れてるよ」

 

 そう言いながらちーちゃんはティッシュを私にくれる。んー、ありがとありがと。

 

 そうそう、思いだした。今日はちーちゃんの家でお泊りだった。

 

「どうかしたのか?」

「うん、いや。変な夢見てた」

「どんな夢?」

「えっと……ちーちゃんが出てきてたんだけど、えっと……」

 

 私は夢の内容を思いだそうとする。けど、ちーちゃんの顔は浮かぶけど、それ以外の何もかもが白い靄に包まれたかのように何も見えなくなる。

 

「あー、忘れた」

「怖い夢だった?」

「ううん。なんか面白かった気がする。でもちーちゃんと一緒だったのは覚えているよ」

「そっか。うれしいな」

 

 あれ、なんかちーちゃんが優しい? いや、と言うより……なんていうか、あれ、上手く口にできないけど、いつもと違う気がする。

 

「私も、ユーの夢見てた。なんかね。————なところで、————見たいなのに乗って……そこには私とユーしかいなくて」

 

 と、ちーちゃんは夢の内容を話してくれた。それを聞いた私は、不思議とその話を聞くのは初めてじゃないような気がした。

 

「それで、最後にはユーと一緒に眠るんだ。とても幸せな気分で」

「そっか……」

 

 一通り話し終えたちーちゃんは、きゅ、と手を握ってきた。私はドキリとする。そのあたりで気づいたけど、何でちーちゃん裸? いや、そうだ、私とちーちゃんは……そういう関係だからこういうことをするのは当たり前で……あれ? なんかおかしい。いつもしてるはずなのに、変な感じがする。

 

「ユー?」

 

 とろりと、甘い声色でちーちゃんが呼びかける。どきりとする私の心臓。初めてじゃないのに、初めてのような感覚。まだ夢の中に入るようで不思議な感じ。

 

 でも、嫌いじゃない……。

 

「ううん、なんでもない」

「そう、よかった」

 

 そう言ってちーちゃんは私に顔を近づけてくる。あ、おいしそうな唇。喉が渇く感じがして、指を絡めて私もちーちゃんにそっと顔を近づけて、触れ合った……。

 

 

 

 

「……んが?」

 

 私は目を覚ます。視界の中に、空に向かって伸びていく建物と狭い青空。よだれが垂れていることに気付いて、手でごしごしと拭く。

 

「ユー、起きた?」

 

 視界の中に、ちーちゃんがひょっこりと現れる。緑色の、いつものちーちゃん。まだ少し頭が回ってなかったけど、たくさんの夢を見ていたんだっていうのはわかった。だからちょっと疲れた感じがする。

 

「ん、おはよちーちゃん」

「だいぶ眠ってたぞ。日がもう傾いちゃってる」

「ちーちゃんは眠れた?」

「ああ。と言っても、お前が起きるちょっと前に起きたんだけどな」

 

 そう言ってちーちゃんはコートを羽織る。私は大あくびしながら同じようにコートを羽織り、ヘルメットをかぶる。それでもって立ち上がろうとして、足がもつれた。

 

「わ、ユー!」

 

 ちーちゃんがとっさに受け止めてくれたおかげで派手に転ばずに済んだ。結構危なかった気がするけど、頭が上手く回らなくて危機感が持てない。

 

「いてて、ごめんちーちゃん」

「まだ寝ぼけてるのか、もう少し座っていいから休んでろ」

 

 そう言ってちーちゃんは私を支えながら座らせてくれる。ありがと、優しいちーちゃんは大好きだよ。

 

「それならもっと頭を使ってくれよな」

「ふあぁい」

 

 ぽんぽんとちーちゃんは埃を払い落してくれる。ちょっと顔が近い。まん丸おめめに、ぷにぷにほっぺ。そして、唇。

 

 あー、おいしそうだな。そう言えばさっき食べた時も美味しかったな。また食べよっと。

 

—ちゅっ—

 

 うん、美味しい。あれ、ちーちゃんなに固まってるの? ん、なんか顔赤くない? え、何したかって? いや、さっきもしたじゃん、ちゅー。おいしそうだったし、それにちーちゃんもさっき私にして来て…………。

 

 …………あ。あれ、全部夢か。そっかそっか、そうだった。あれ全部夢だったんだ。あはは、私ちーちゃんと夢の中でチューしてたんだね。

 

 やっべー。やっちまった。私は次に振りかかるちーちゃんの拳を覚悟する。

 

「この、ばかぁっ!!」

 

 ちーちゃんの鉄拳クラートが、私の頬にダイレクトヒットした。

 

 

 

 

 了

 

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