少女終末旅行 ワンドロ集   作:チビサイファー

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コルクボードの記憶

 

 ちーちゃんは写真を撮るのが好きだ。小さい頃とかは読書がすごく好きだけど、いつだったか好きな小説の挿絵の綺麗な絵を見て、それが本当に存在している場所だからそこに行って写真を撮りたい、って感じで、小さなデジタルカメラを振り回し始めたのがきっかけだっけ。

 

 割とその後もカメラを持ち歩いてたりして、ついにはかわいいデザインのミラーレス一眼を買っていた。「死にもの狂いでバイトした甲斐があったよ」と、ちーちゃんは嬉しそうに言っていた。私は一緒に入れることが少なくなってちょっと寂しかったんだけどな。

 

「で、どこだっけ。ちーちゃんの行きたいって言ってた場所。ウニ塩湖?」

「ウユニ塩湖だよ。海鮮じゃないんだから」

「でも、ちょっとおいしそうな響きに」

「聞こえない」

 

 だめかー。ちーちゃんはカメラのフォルダをぽちぽちと眺めている。それはもう楽しそうに。

 

「ほら、ユー。この花とか綺麗に撮れてるだろ?」

「ん、ほんとだね」

「確か、この花はミヤコワスレっていってな。花言葉は…………」

 

 と、ちーちゃんは撮った花について話しだす。すごくうきうきしていて、楽しそう。撮られた花がちょっとうらやましくて妬けちゃう。まぁ、花に焼きもちしたところでどうということは、だけども。

 

 私はカメラの画面を覗きこむちーちゃんを見てふと思う。ああ、すごくかわいいな。せっかくこんなに可愛いくて、カメラがあるのに写真が残ってないなんて。

 

 そこで、私はふと思いつく。そうだ、私がちーちゃんの写真を撮ればいいんだ。

 

「ねぇちーちゃん」

「ん、なんだ?」

「私も、カメラとか買ってみようかな」

「…………おお!」

 

 ぱっと、それこそ花が咲くようにちーちゃんは笑顔になった。やばいそれ、惚れる。超かわいいんだけど、ギルティなんだけど。

 

「どんなのが欲しいんだ? 何を撮りたい?」

 

 わくわくとちーちゃんが聞いてくる。いや、ちーちゃんを撮りたいんだけど。って素直に言ったらなんて反応するかな。なんか本気じゃないって思われそう。うーん、とりあえず風景?

 

「そうか、風景か! じゃあ予算とか用途とか色々突き詰めて、ユーが扱えそうなものを……」

 

 と、ちーちゃんは楽しさ半分、真剣半分で私の為にいろいろ調べ始めた。いつもクールなちーちゃんが、こんなにも熱くなっているなんて。これこそ写真に収めたい。

 

「予算は?」

「まぁ、5万とか?」

「となると、入門機のこれとか、ミラーレスのレンズセットが……」

 

 その日は日がどっぷりくれるまでちーちゃんとカメラ選びを専念した。正直、利点とか、性能の違いとか、メーカーとかレンズとか、ちんぷんかんぷんでよく分からなかった。けど、とりあえず参考写真を見て、本体と買うレンズは決める。

 

 ちーちゃんを、すごく綺麗に写せる奴なら、私は頑張って買えるからね。

 

 

 

 

「なんでよりにもよってそれを買うんだよ」

 

 とある電気街の帰り道。ちーちゃんはでっかい袋を抱えた私を呆れた目で見つめている。まあ、無理もないと思う。十万越えするカメラを分割で買ったから。

 

「しばらくはもやし野菜炒めだな」

「まあまぁ、大は小を兼ねるっていうし?」

「そもそも扱えるのかよ……」

「とりあえずオートモードで頑張る」

「……まぁ、間違ってないけどさ」

 

 はぁ、とちーちゃんはため息。私自身今後の生活が相当苦しくなるのは間違いないけど、でもいいんだ。

 

 とりあえずカメラの扱いを覚えようと、私は決心した。

 

 

 

 

 それから、私たちは一緒に写真を撮りに行くことが増えた。学校の昼休みや、休日とか、空いた時間で外に出かけて色々撮った。風景、野良猫、乗り物、たくさん練習した。

 

 私の買ったカメラはプロも使っている人がいる機種らしいから、性能がすごいと言われた。最初はよく分かんなかったけど、連射してみたら「ババババババッ!!」って音を立ててシャッターを切ったからやべぇと思った。パラパラ漫画撮れるじゃん。

 

 まぁ、そんないいカメラなわけだら、私は一緒に写真を撮る振りをして、ちーちゃんの顔を見る。画面を覗きこんでピントを合わせている瞬間の顔が真剣そのものだ。すごいなー、こんなちーちゃんも好きだな。

 

 ぱしゃり、と私はちーちゃんの真剣な横顔を撮る。集中しているからか、こっちに気付いていない。よかった、気を付けないとね。いつかちーかわ写真集を作って驚かせてあげたいな。いや、でもストーカーっぽいかな。

 

 ちーちゃんは写真を撮って、すぐに画面を見る。満足な出来だったのか、口元が釣り上がっている。あ、今だ。ぱしゃり。

 

 そんな感じで、私のカメラはカモフラージュ用の風景写真のフォルダと、ちーちゃん専用のフォルダ二つができた。一度に二種類も撮るから、それなりに技術もめきめき上がってきていた。というか、結構楽しい。ちーちゃんを撮る合間に撮る風景も、慣れてくればスマホじゃ比べ物にならないくらい綺麗に撮れるし、ちょっと難しいテクニックを使って上手く撮れたらすごくうれしい。

 

 ちーちゃんの気持ち、ちょっとわかるな。

 

 そう思いながら、私はちーちゃんを撮ったフォルダの中身を見る。写真を撮ってるところ、アイスを食べてるところ、眠そうに歩いているところ、机に突っ伏して寝ちゃってるところ。色々なちーちゃんを私は記録していく。

 

 私の撮りたいを叶えてくれるカメラの存在は大きかった。できないができる。そして突き詰めればできることが多くなっていく。知識の広がりって、きっとこういうことを言うんだろうね。

 

 そんなある日だった。

 

 私がカメラをちーちゃんに預けて、トイレに行ったときだった。見ると、ちーちゃんは驚いた表情で私のカメラを覗きこんでいる。あ、やばいもしかして。

 

「ユー、これ……なんで私の写真が……?」

 

 あっちゃー……風景用フォルダに変えるのを忘れてた……。バレちゃったか。

 

 怒られるかな、勝手に撮って軽蔑されちゃうかな? そんなことを思いながら、私は正直に説明した。

 

「その……写真撮ったりしてるちーちゃん、すごく楽しそうで、可愛いからさ……でも、ちーちゃんの撮った写真はあっても、ちーちゃんが写った写真がないから……」

 

 そう言うと、ちーちゃんはじっと私のことを見て、カメラを見て、そしてちょっと目を泳がせる。

 

「……その、ユー。実は、さ」

 

 そういってちーちゃんは自分のカメラを少し操作して、私に見せてくれるた。

 

 私が、写っていた。

 

「え……」

「その……私も最近ユーの写真、撮ってて。お前も写真撮ってる時、なんだかんだで真剣で、それに……美人だし……」

 

 そういって、ちーちゃんは顔を赤くする。なんだ、そうだったのか。結局私たちは同じだったのか。

 

「……ふふっ、盗撮魔だね」

「な、お前もだろう!」

「そうだった。わたしめー」

 

 こつん、と私は優しく拳を頭にぶつける。

 

「自分には優しいんだから……」

「えへへ……」

「……ふふっ」

 

 と、私たちはどちらからともなく笑いだす。ああ、いますごくいい笑顔なのに、カメラ持てないや。

 

 でも、今はこれでいい。このちーちゃんの笑顔は、私の頭のカメラでしっかりと撮影に成功しているから。

 

「……なぁ、ユー。せっかくだからさ、二人で一緒に写ってるのを撮ろうよ」

「お、いいねー。お互いのカメラで行っちゃおう」

 

 そうして、私たちはお互いのカメラをベンチに置いて、セルフタイマーを起動させる。まずはちーちゃんのカメラではい、チーズ。それでもって次は私のカメラではい、チーズ。

 

「……いい笑顔だな」

「そうだね」

 

 そうして撮れた写真は、現像したあとにお互いのを交換した。ちーちゃんのカメラで撮ったのが私の家に、私のカメラでとった写真がちーちゃんの家に置いてある。

 

 たぶん、この写真は年々増えていくんだろう。少しずつ年を取っていく私たち。でも、写真があればいつでもあの頃を思い出せる。

 

 時々過去を振り返るのも、いいものだね。私は、コルクボードに増えていくちーちゃんとの写真を見つめて、微笑んだ。

 

 

 

 

 了

 

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