タイトルで誰なのかはバレそうな気がしてますが……。
シルバーのわナンバーのフィットが、東北自動車道を北上していた。見るからに、走り屋とは無縁そうな車両なのだが。
「はぁー……。なんで、俺までこんな事してるんだか……」
ぼやきながら、レンタカーのフィットを運転するのは、榛名でのバトルを制した坂本だった。
「文句言うな。今まで、俺一人でやってたんだぞ……」
助手席で文句を垂れるのは、大塚一二。十三鬼将の一人で“ルシファー大塚”と呼ばれる、首都高の猛者だ。
普段はS2000を駆り、環状線を暴れまわる走り屋であるが、何故今現在フィットに乗っているのか。
その訳は、あの日のくじ引きにあった。
「あーあ……。俺だって外れ引かなきゃ、S2000で街道で暴れまわってたのによ……」
大塚の嘆くような言葉は、本日に入り四回目になる。
とは言っても、元々峠向きのS2000に加えて、大塚のそれはターボも武装している。街道の勝負となれば、間違いなく水を得た魚となる筈だったが。
その出番は、外れクジによって水の泡と消えてしまった。当然、他のメンツとクジを取り換える事も、あっさりと断られる始末だった。
「んな事言ったって、今更仕方ないだろ……。
で……調べはついてるのか?」
坂本は、ここで本題を切り出した。
「ある程度はな。
キングダムトゥエルブの12人の正体は大体掴めてる。どいつもこいつも、街道で名の知れてる連中だったから、少し聞きまわったらすぐに掴めたぜ。
ただ、特定の街道に出没する訳じゃなく、近隣の街道に不定期で来るタイプだったからな。スラッシャーみたく、峠の主って訳じゃないが……間違いなく速いな」
大塚はそこまで調査を入れていた。
そう。外れクジを引いた大塚に頼まれたことは、キングダムトゥエルブの正体と足跡を調査する事だった。
その為、愛機のS2000では無く、あえてレンタカーで各地の街道サーキットに通い詰めてるのである。
もっとも、007のジェームスボンドの気分が味わえる訳は無く、ネットやギャラリーの聞き込み位しか調査のしようが無い訳だが。
「そうか……。
んで、キングダムトゥエルブの首謀者は、解かってるのか?」
「ああ……。“街道プレジデント”。そう呼ばれる走り屋だ」
大塚はその名前を出した。
「……その名前は聞いた事あるぜ。
かつて、各街道サーキットを制覇した唯一の走り屋。エモーショナルキングって称号を得たが……二年前からパッタリと姿をくらましてるんだろ?」
坂本も、その名を聞いた事はあった。
「おー。よく知ってるねー」
大塚は茶化す。
「……あのなぁ。俺は首都高に上がる前は、元々箱根で走ってたんだぞ?」
呆れた様に坂本は言い返す。
「知ってるよ。だから、お前にも手伝って欲しいんだ。バトルも終わって暇だろうし……」
「うるせーな。どーせ、女も作れねークルマバカだよ」
坂本はそう言い返すが、大塚は気に留めないで話を続けた。
「……一番の問題は、その“街道プレジデント”だけは足取りが全く掴めないって事だ。
仮に街道中に名が知られた走り屋だったら、少しでも目撃情報は出てきてもおかしくなさそうな所だけど……それが丸っきり無いのは妙だろ?」
「……つまり、表には出てきてないって訳だな」
「そういうこった。だから、レンタカーで街道を巡ってる訳よ」
「なるほどね……」
その考察を元に、今宵の二人は蔵王へ向かっていた。
三菱Z15型GTO。
三菱自動車のフラッグシップとして、1990年から2000年までの間、10年に渡り販売されたスポーツカーである。三菱らしい個性的なデザインと、グラマラスなボディは一目見てGTOだと言う主張が見えてくる。
販売面ではスポーツカーブームの終焉によって苦戦を強いられたが、その特異な存在感から根強いファンが多い事も事実である。
十三鬼将に名を連ねる二人の走り屋も、そのGTOに魅せられている人物である。
レインボーブリッジのそばに佇む、芝浦パーキングエリア。
ロッソコルサと鮮やかなブルーに染まる、二台のGTOが並んで停車する様は、実に迫力がある。首都高の走り屋であれば、その二台のマシンの手綱を握るものは、一目でわかるだろう。
「……まさか、GTO二台が同じ夜に街道でのバトルになるなんてね。奇遇じゃない」
川越清美は、美麗な顔立ちを不敵に笑みを作り出した。ミッドナイトローズの異名を持つ彼女は、美人かつゴージャスな雰囲気を持ち出す走り屋であり、ファンも多い。が、その私生活に謎が多い。
「奇遇ねぇ……。そんな事より、このバトルは今までの戦況を見ても、油断は出来ないな。
少なくとも、バトルしてきた全員が口を揃えて、強敵だったと言っている」
魚住静太は釘を刺す様に告げる。彼はダイングスターの通り名で知られ、十三鬼将でも特に実力のある走り屋で、四天王と呼ばれる謳われる一角だ。
「それは、私だってこの目で見てきたから、解かってるわよ?
あの子が負ける所だって、初めて見たんだし」
川越は笑みを崩さないまま答えた。
「……それなら良いがな」
魚住はポーカーフェイスを保ったままだ。
互いにGTO使いとして、名の知れた走り屋同士。どちらも、どれ程のドラテクを持つのか、今更語るまでも無いのだ。
「……勝つぜ」
「……ええ」
二台の重戦車が、街道へ繰り出すのだった。
表六甲。関西エリアを代表する、もう一つの街道サーキットだ。
六甲山と言えば、六甲おろしと言う歌謡曲に取り上げられる程、関西を代表する著名な山である。
故に、関西地区を代表する街道サーキットであり、かつては走り屋達の聖地であった。
この表六甲を取り仕切るスラッシャー、“ファイナルレグ”の異名を持つ飛鳥周は、キングダムトゥエルブの刺客の走りを、じっくりと見定めていた。
ギャラリーコーナーを駆け抜けたそのマシンを見て、一言だけ溢した。
「あいつは……速いで」
長年表六甲を走り込み、只でもレベルの高い六甲の頂点に立った男にそこまで言わせた。
何本か走り込んだ後に、キングダムトゥエルブのその走り屋は、パーキングスペースに停車した。表六甲のスラッシャーとして。そして、今回のバトルの見届け人として、飛鳥は声をかけた。
「……中々やるやんけ、兄ちゃん」
「そりゃ、どうも」
そう答えた、キングダムトゥエルブの走り屋“戦矛の鉄槌”こと冨津家康。しかし、両者の合間に流れる空気に、友好な雰囲気は無い。
むしろ、そのままバトルにでも以降しそうな程、張り詰めた空気が流れていた。
「……バトルやったら、受けたってもええんやで?」
飛鳥は、挑発する様に言うが。
「そうだな……。前哨戦変わりに、十三鬼将の奴をぶっちぎってから、相手をしてもらうぜ。
アンタの六甲仕様のランエボの方が、恐らく手強いだろうからな」
冨津は、ニヤリと笑みを見せて答えた。
「大した自身やな……。十三鬼将の走り屋は眼中に無いんか?」
「……無いって訳じゃないぜ。
ただ、俺の経験上峠でのランエボは嫌ってくらい速い事を、俺はよく知ってるからな」
「ほー……」
冨津の言い分に、飛鳥は感心した様に答えた。
「もっとも……俺のR32GT-Rなら負けはしない」
そう付け加えた冨津に、飛鳥は何も答えなかった。
バトル当日。
表六甲の観戦エリアは、詰め寄ったギャラリー達でごった返していた。その中に佇む、ミントグリーンのBNR32スカイラインGT-Rは、一際ギャラリーの目を引き付けている。冨津家康の愛機は、臨戦態勢に入っているのか、エンジンの熱が冷めきっていない。
以前、裏六甲での激しいバトルがあった影響か、その噂が多くのギャラリー達を呼びだしたのである。
その様子は、長年表六甲を取り仕切る飛鳥でも、初めて見る光景だった。
「えらい繁盛のしようやな……」
そう呟くと、飛鳥の元に一人の走り屋が声をかける。
「飛鳥。今日の表六甲は、祭りになっとるで、しかし……」
顔をしかめながら現れたのは“メタルウィザード”こと、天童雅也だ。
「天童……。お前も見に来たんか?」
「そうやで。こないハイレベルなバトルは、そうしょっちゅう見えるもんやあれへんて」
今回は見物を決め込む天童は、割とお気楽な気分だった。
「……ほーか。やけど、裏六甲の時のバトルは、インプに乗っとるキングダムトゥエルブの走り屋が勝ったんやろ?」
飛鳥は、直接見た訳では無いため、結果のみしか知らない様だった。
「ああ、そうや。インプとイチゴーの戦いやった。
やけど、そいつは“ギリギリで勝てた”とまで言いよったで。四駆のインプやけど、FRのシルビアに追い込まれとったんや。
十三鬼将の連中は、はっきり言って侮れんで」
「ほーか……」
天童にそこまで言われると、飛鳥も一層興味をそそられた様だ。
「ほんでな。……今日のバトルのギャラリーは数も多いねんけど、来とる奴も大物が多いみたいやで?」
天童の言葉に、飛鳥の首は縦に動いた。
「俺もそう聞いてん。
大阪環状のNOLOSERに湾岸のDartsの面々。他にも、環状やら街道やらの有名人が、ようけおいでなすっとるわ……」
飛鳥の言葉を聞き、天童は一言だけ溢した。
「今夜は只で済みそうにないで……」
飛鳥は何も答えなかったが、胸の内は同じだろう。
ギャラリーのざわめきが、ひそかに大きくなった。麓から聞こえてくる、野太いV6ツインターボのエキゾーストノートは、六甲山ではほとんどなじみが無い。
「きたでー!!」
一人のギャラリーが叫んだ時、全ての視線がそのマシンに注がれた。
鮮やかなブルーに染まる、希少な最終型GTO。
「あれが……十三鬼将かい」
飛鳥の口から、自然と言葉が出ていた。しかも、その中でも四天王の一角である“ダイングスター”が表六甲の勝負に挑むのだ。
超ド級の走り屋だけから放たれる独特のオーラを、そのGTOは身に纏っていた。
「あのGTO……ホンマモンやで」
天童さえも思わず口走った。
「せやな……」
飛鳥も、否定できるわけも無く同調していた。
面と向き合う両雄。魚住と冨津が対峙すると、いつの間にかギャラリーが静まり返っていた。
「アンタが……十三鬼将の刺客だな?」
冨津は、そう聞きただす。
「そうだ。あんたがキングダムトゥエルブの走り屋だろう」
そして、魚住に言われた時、冨津の首は縦に動いた。
「……いいバトルにしたいからな。手抜きは無しだ」
そう言葉を出した魚住。
「良いぜ。そのつもりだ……」
冨津も、そう答えた。
超ド級の走り屋同士。バトル前に、言葉など必要が無かった。
スタートラインに並ぶ、二台の鉄馬。操る騎手は、互いにその名を知らしめる走り屋である。
歓声を上げるギャラリー達の耳には、その咆哮が確実に響いていた。
レッドシグナルが点灯。その瞬間、ざわめいたギャラリーが、次々に閉口していく。
そして、ブラックアウト。
六甲山に、二台のエキゾーストノートと、スキール音が木霊した。
三菱GTOって、マイナー車のイメージですが……。実は、すごく好きな一台です。
欲しいけど、燃費はロータリーといい勝負らしいです。