十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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志賀草津のバトルの続きです。

何故、元ゾディアックが十三鬼将に加わっているのかが明かされます。



第十三夜 元ゾディアック

 

 

 テールトゥノーズで志賀草津を下る、GTOとステージア。更に、一車身差でR34が追走する。

(……この草津で、俺が着いていくのが目一杯になっちまうとはな)

 スラッシャーの城長ですら、ここまで速いなど予想していなかったに違いない。

(何者なんだよ……キングダムトゥエルブと十三鬼将の奴らは)

 その表情が険しく曇っていた。

 

 逃げ切りたい川越だが、桐谷にコーナーリングでジリジリと追い詰められていく。

 

 しかしだ。

(……大したプレッシャーのかけ方ね。だけど……)

 その瞳に諦めの色は無い。

(迅帝に比べたら……月とスッポンよ!!)

 彼女が一番打倒したい相手は、今のバトル相手の桐谷ではない。十三鬼将の“迅帝”こと岩崎基矢なのだ。

 

 十三鬼将は、基本的にチームとして機能しない。それには、大きな理由が二つある。

 一つ目は、大将の岩崎自身が全員をまとめる気は無い事だ。岩崎が大将となっているのも、あくまで一番速いから大将と言うだけで、実質このメンツをしきっている訳では無い。

 その上、岩崎は相当に自由人で破天荒。個々をまとめる事はどころか、率先して規律を破る側の人間だ。当然の事だが、集まったメンバーを仕切れる訳が無い。

 二つ目は、十三鬼将のメンツが、そもそも打倒迅帝を目論んでいる奴ばかり。十三鬼将の面々が、そもそも迅帝に敗れた側の走り屋だった。

 

 その中でも、かつて首都高で最速と呼ばれた、十二人の走り屋“Zodiac”に属していた、川越清美はその気持ちは特に強かった。

 

(……貴方達は知らないでしょうね。首都高でトップを走る事の意味を……)

 

 ゾディアックとは、日本語に訳すと黄道帯を意味する。黄道という空にかかる上下九度の帯の事を指し、そこには西洋占星術でおなじみの十二の星座がかかっている。

 そこから名を取り、最速の十二人の走り屋はゾディアックと名乗った。

 高いカリスマ性と、激速のマシンメイキングとそれを乗りこなすテクニック。彼らは首都高最速集団として、その地位を確固たる物としていた。

 

 しかしだ。

 確かにゾディアックは速かったが、同時に当時は首都高のベテラン達が、取り仕切っていた面があった。

 故に、血気盛んな若手が不在で、どちらかと言えば大人な走り屋ばかり。不要なバトルは受けなかった上に、それに他の走り屋達もそれが普通だと思っていた。何処かに慣れと慢心があったのだろう。

 その末路は迅帝に次々と撃墜され、ゾディアックに属していた大半は、潮時と考え引退を決意。首都高トップとしては、あまりにも寂しい幕切れでとなった。

 そして、その中から首都高に残ったのはミッドナイトローズの川越清美と、嘆きのプルートこと内田孝の二人だけだった。

 

 そのステージのトップである事は、同時に狙われる立場にあるという事だ。

 川越は、その事を痛いほど分かっている。

(……バカと天才は紙一重っていうけれど。

 ……岩崎はその紙一重の上に立っている。そんな男なのよ)

 それが、川越から見た首都高最速の走り屋の姿だった。

(アイツを何時か撃墜(おと)す為に……私は負ける訳にはいかないのよ!!)

 

 

 GTOと言う重戦車で、志賀草津のダウンヒルを攻める以上、タイヤとブレーキのマージンを残す事は必須。しかし、余力を残して逃げられる相手では無い事は明白だった。

 中盤を過ぎた頃から、コーナー手前でGTOのブレーキランプが細かく点灯し始めた。

(……ブレーキのタッチが少しだけ落ちてきたわね。だけど……このペースだと、恐らくブレーキもタイヤも苦しくなるわ……)

 川越がブレーキペダルをダブり始めた。その動作に、桐谷が気が付かない訳が無い。

(……重さがブレーキにきているようだな)

 桐谷はニヤリと微笑を浮かべた。

 

 川越のGTOは中期型のツインターボMRをベースにカスタマイズしており、型こそ若干違うが、魚住のGTOとチューニング面では共通点が多い。川越のGTOのパワーこそ550馬力だがトルクは70キロ近く発揮する。元々低回転の力強さが武器の、6G72の素性を生かして製作した。魚住のGTOとエンジンに違いがあるならば、腰下まで手が入っていない点が大きく異なる点となる。

 足回りやブレーキに加え、駆動系などもマイナー車の宿命か、同じパーツを使用している部分も多い。

 しかし、十三鬼将に属する二台のGTOに、大きく違う点があるのはボディの軽量化の進め方にある。

 魚住のGTOは、特注のカーボン物のパーツを使ったりウインドウをアクリル製にしたりと、レーシングカー並みに極限まで軽量化を進めている。対して川越のGTOは、あくまで市販パーツで出来る範囲の軽量化を進めている。したがって、魚住のGTOよりも遥かに重たかった。

 もっとも、川越自身がドンガラの内装などにする気が無かった事もあるのだが。

 

 二台の争いを追走する、城長もGTOの異変に気が付いていた。

(……GTOのブレーキが苦しいみたいだな。ステージアは、問題ないのか?)

 そう勘繰るが、桐谷のステージアのブレーキは、Z33のブレンボキャリパーを流用している分、ブレーキに不安は無かった。

 

 ここが仕掛け所とばかりに、桐谷はプレッシャーを与える。

 右に左に車体を揺さぶって、先行するGTOにプレッシャーをかけ続ける。

(……どうした? そろそろ限界なんだろう?)

 ステージアがGTOのテールをマークしたまま、バトルは後半セクションへ飛び込んでいく。

(ゴールまでそこまで距離が無いわね……)

 川越は、改めてステアリングを握りしめる手に、力を込めた。

(……お願い。ブレーキもタイヤも持って!!)

 祈る思いで、ラストスパートをかける。

 

 追う桐谷も、勝負所を見定めている。

(……残りの距離を考えれば、ダブルへアピンの突っ込みでぶち抜く!!)

 ここまでプレッシャーをかけ続けてきた桐谷も、最終セクションで勝負をかける。

 

 そして、そのコンマ何秒か後方の城長。

(……二台まとめて抜くのは厳しいか? だが……ここまできたら、玉砕覚悟だ!!)

 志賀草津のスラッシャーとして、諦める気は毛頭ない。

 

 

 短いストレートを挟んで、最終セクションの難所である右、左と続くダブルヘアピンが迫りくる。

(ここさえ、抑えれば……)

 GTOがインに車体を振って、ブロックラインを通る。

(読み通りだ……)

 しかし、桐谷はそれを読んでいた。

 

 二台がブレーキングを開始。

 ステージアがアウト側から、レイトブレーキングでGTOに並びかける。

(一個目をインベタで通るなら、二つ目の突っ込みでインを抑える!!)

 桐谷はブロックする事を見越しており、二つ目で勝負をかける判断をしていたのだ。

 

 サイドバイサイドのまま、一つ目のヘアピンの立ち上がりで、GTOが僅かにリードを奪う。

(……インを抑えられない!!)

 しかし、ステージアがノーズをねじ込んで、ブロックさせない。

 続く二つ目のヘアピンで、ステージアがインを取って鼻先を突き出した。

(抜かれる……!!)

 万事休す、と川越は覚悟した。

 

 その時、更にステージアのイン側に、ヘッドライトの閃光が飛び込んできたのだ。

(……悪いが、地元スペシャルラインを使わせて貰うぜ!!)

 イン側の路肩のダートに、車体半分を落としながらスカイラインが来ていた。

「……てめぇ!!」

 思わず桐谷は罵った。

 

 城長は、ダブルへアピンで二台が並ぶと読んでいた。そこで、短いストレートで意図的に間合いを図り、二つ目のヘアピンでまとめてオーバーテイクを仕掛けたのだ。

 城長の言う、スペシャルライン。

 志賀草津の場合、高原の中を走る道路になっており、最終セクションの路肩にガードレールが無いのだ。その事を利用し、車体半分はみ出して芝生の上を強引に走る荒業を披露した。

 

 ダブルへアピンを立ち上がった三台。狭い筈の街道で、まさかのスリーワイド。

スーパーGTでも中々お目にかかれない三台並びで、緩やかな最終コーナーに並列しながら飛び込んでいく。

 

(ここは譲らないわ!!)

 

(……俺のステージアに勝てる物か!!)

 

(ここで、俺が負ける訳にはいかねぇんだ!!)

 

 高速の左コーナーを立ち上がり、三台がフルスロットル。

 

 

 ゴールラインを駆け抜けた時、三台とも並んだままゴールしたようにしか見えなかった。

 

「誰が一番先にゴールしたんだ?」

「わからねぇよ……」

「誰が勝ったんだ?」

 

 その瞬間をみたギャラリー達は、皆騒めいている。モニターに写される結果を、固唾を飲んで待つしかなかった。

 

 そして、正式結果が出た時。

 真っ先にゴールにノーズを滑り込ませたのは、ステージアだった。続いてスカイライン、GTOと言うオーダーだった。

 しかし、三台の差はコンマ何秒と言う僅かな差の中にひしめき合うと言う大接戦であり、志賀草津の街道サーキットに、新たな伝説の一ページとして刻まれる事になった。

 

 

 下りのパーキングエリアに並ぶ三台のマシン。

「あんた……どういうつもりで、乱入したんだ?」

 勝者の桐谷だったが、城長に真っ先に抗議を始めた。

「別に意味を言う必要があるか?

 他のスラッシャーは知らねぇが、地元の走り屋としてただ黙ってる事が出来なかったから、バトルに乱入させてもらったよ」

 城長は、何処か吹っ切れた様子で答えた。

「……私は負けた身だから、特に何も言うことは無いわ。

 貴方達、速かったわ。素直に認めてあげましょう」

 素直に賞賛した川越だが、その言い回しには何処かに悔しさが出ていた。

「ふん……」

 桐谷は素っ気ない反応で答えた。

「……地元のスラッシャーとして、アンタらと勝負できた事は素直にうれしく思うぜ。

 首都高の十三鬼将も、キングダムトゥエルブも、実力が半端ないって事は身に染みたぜ。それは素直に思ってる」

 城長の言葉に、桐谷も川越も少し口元を緩めていた。

 

 

 志賀草津。まさかの三つ巴バトルは、キングダムトゥエルブが勝利をもぎ取った。

 

 

 

 表六甲と志賀草津で、激戦が繰り広げられていた同じ夜。

 

 富士スピードウェイから、数十分ほどの距離に店舗を構えるレーシングガレージ。ファクトリーFUJIの工場内には、夜遅くにも関わらず明かりが灯っていた。

「……ったく。久々に来たと思ったら、また、面倒な話を持って来やがって……」

 ぶつくさと文句が止まらないのは、このレーシングガレージの主である藤巻直人だった。

「そう言わないでくれよ藤巻さん。ちゃんと代金は払うからさぁ……」

 その面倒な話を持って来たのは、岩崎基矢その人だ。

「代金の話だけじゃねぇぞ。

 いきなり来て“アレ”をどうにかするって事だ。こっちも仕事が立て込んでるって言うのによぉ……」

 藤巻の文句は止まらない。

「……全く相変わらず小言が多いな。ハゲるぞ……」

 ボソリと呟いた瞬間、岩崎にチョークスリーパーを極める藤巻が居た。

 

 そして、ここで本題に入った。

「んで……なんでわざわざそんな話を頼みに来たんだよ?」

 藤巻の質問に対し、岩崎は少し真剣な顔つきで答えた。

「まぁ……俺の師匠だったら、察しは付くと思うけどさ。

 ……色々、噂も耳に入ってると思うしね」

 その一言に、藤巻はニッと笑った。

「相変わらず手のかかる弟子だな」

「頼むぜ……藤巻さん」

 人知れず、迅帝も動き始めていた。

 

 




志賀草津も決着です。

あえて三つ巴にしたのは、単にスリーワイドが書きたかっただけです(笑)。


まぁ、峠でスリーワイドができると奴がいたとしたら、そいつらはスタントマンになる事をおすすめします。

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