十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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日光バトルも、いよいよ決着です。


第十六夜 電子制御の罠

 

 

 いろは坂の名物と言える、タイトな連続へアピン。極めて平均速度が落ちるこの区間は、差を広げる事も厳しいが、差を縮める事も難しい。

 世界のサーキットを見れば、モナコGPで有名なモンテカルロ市街地コースのフェアモントへアピン。或いはマカオGPが開催される、ギアサーキット名物のメルコへアピン等を彷彿とさせる。

 極端なタイトコーナーが連続する故に、オーバーテイクする事はまず不可能。従って、立ち上がりが速い4WDのランサーが先行している時点で、極めて有利な展開だとギャラリーは思っていた。

 

 しかしだ。

(……引き離せない。何故だ?)

 立ち上がりでアドバンテージがあっても、ランサーにRX-7が喰らいつく。この展開は、誰も予想していなかったに違いない。

(……確かにタイトコーナーで速度が落ちるのは仕方ない。

 だが……立ち上がり以外では奴の方が確実に速い!!)

 内藤の鬼気迫る走りに、伊達には焦りが生まれ始めていた。

 

 RX-7がランサーエボリューションに食い下がっている、最大の理由とは。

(ランエボの加速は、確かに速いぜ。

 ただ……加速して速度が乗る分、減速のポイント……つまりブレーキングのタイミングが必然的に手前になる。その分、こっちがブレーキで突っ込みゃ、加速の差は消せる。

 それに加えて、ランエボの純正クロスミッションなら、ここじゃ2速まで使わなきゃならねぇ……)

 そう。その鬼気迫る走りを生み出す最大の要因は、ギア比にあった。

(そのクロスしたギア比が仇になってる……。

タイムを削るってのは……細かなモディファイの積み重ねだぜ!!)

 内藤が作り変えていたのは、エンジンだけではない。どんな素晴らしいエンジンでも、最もパワーの出る回転を使えなければ猫に小判となってしまう。そこで選んだのが、レース専用のクロスミッションだ。

 

 クロスミッションとは、各ギア比を接近させて加速力に比重を置いたミッションだ。ランエボ等にも純正で搭載されているパターンが多い。

 しかし、純正のクロスミッションの場合、1速、2速の低いギアを基準にして各ギア比を決めている。従って、低速コーナーの続くラリーやジムカーナなどで、最適なギアの選択肢が増えるため、威力を発揮する場合が多い。

 

 そして、レース専用クロスミッションのギア比の場合は、最高速を基準にギア比を選択していく。つまり、高速域になればなるほど、回転の落ち込みは少なくなる。半面、1速のギア比が極端にロングレシオとなる為、ゼロ発進の加速力はかなりおちてしまう為、ファイナルギアのセッティングをやり直す必要がある。

 

 一見すれば、ランエボのクロスミッションの方が、いろは坂に適しているともとれる。

しかしだ。

(一回のシフトチェンジのロスを減らしたとしても、コンマ1秒のロスを十回繰り替えしてりゃ、一秒のロスになる。

 こっちは9000まで回せば、1速吹け切りでヘアピンに突っ込めるんだぜ!!)

いろは坂のヘアピン区間の場合、マックスでも100キロに届かないため、内藤のRX-7は1速のままでヘアピンとヘアピンの間をクリア出来るのだ。

 

 クロスミッションの欠点とされるのが、シフト回数が増える事にある。

 シフト回数が多い場合、ゼロヨンなどの場面ではシフトチェンジ時のロスが増えてしまう為、クロスミッションではタイムを遅くしてしまう場合が多い。これは、サーキット等の短い直線でも同じケースとなる。

 伊達もそのパターンに陥っていると言えるのだ。

 

 内藤は長年にわたり、このFC3Sをモディファイし続けてきた。だからこそ、あらゆるステージでも戦えるだけの、ノウハウを持っているのである。

 

 

 ヘアピン区間で引き離せない伊達は、焦りの色を浮かべていた。

 そして、その焦りこそが、電子制御の罠にはまり込む要素となっていた。

 

 右のヘアピンが迫る。フルブレーキングから、ヒールアンドトゥで1速に落とす。そして、ステアリングで舵角を当てた時。

(……何だ?)

 伊達の両手に、違和感が走っていた。

 それでも、クリッピングポイントを綺麗に取り、後は電子制御に任せてアクセルを踏み込んだ。一見すれば、ランエボにおけるセオリー通りのコーナリングなのだが。

(……ステアリングの応答が、僅かだが悪くなってる)

 伊達がハイペースでいろは坂を攻めた代償。

 それは、フロントタイヤの熱ダレだった。

 

 フロントヘビーな4WDの場合、フロントタイヤの熱ダレが早い事は、よく知られた弱点と言える。

(……まさか、予想以上にグリップが落ちてきているのか?)

 ここでフロントタイヤが根を上げてしまうのは、伊達に取って想定外だった。

 そして、続く左のヘアピンでは、僅かだがクリッピングポイントを外してしまう。

 

(やっこさん……フロントタイヤがタレてきたな)

 その光景を、百戦錬磨の内藤が見逃す訳が無かった。

(電子制御はドライバーに余計な操作をさせないから、少しくらいタイヤが熱ダレしてる程度なら、車が何とかしてくれる。

 ただし……その電子制御でも消せないくらいアンダーが出る様になったら、相当にタイヤに負担が来てるって事だ。ランエボの電子制御がいくら優れてても、最後にそれを路面に伝えるのは全てタイヤだ……。タイヤの限界だけは、どんな車でも変え様がねぇんだ。

 マシンが優れてるって事には、良し悪しがある。これが……電子制御の罠なんだぜ!!)

 口元をニヤリとさせ、内藤は愛機に鞭を打つ。

 

 

 ヘアピンセクションも、あと僅か。

 そこを抜ければ、ヘアピンを挟んでストレートがある為、加速力とブレーキングの上手さが試される。

(……ストレートがあれば、何とか引き離せる!!)

 フロントタイヤの苦しい伊達は、その加速力で何とか差を広げたい所だ。

(さてと……ここからが正念場だ!!)

 追走する内藤は、ここが勝負所と決めていた。

 

 低速セクション最後の、右ヘアピンを立ち上がる。

(ここで引き離すしかない!!)

 綺麗に立ち上がったランサーが、僅かに引き離した。続く緩やな左コーナーでは加速しながら、3速へシフトアップ。

(……くっ!! やはりアンダーが出るか……)

 アンダーステアを嫌い、伊達は僅かにアクセルオフ。

(……こっから仕掛けるぜ!!)

 その隙に、RX-7が一気に差を詰めて、テールトゥノーズに持ち込んだ。

(……しかし次は左のヘアピンだ。インは譲らん!!)

 伊達は次のコーナーを見越して、インをキープするブロックラインを通る。

(……ブロックしようって魂胆だろうが、そうはいかねぇぞ!!)

 しかし、内藤もそれはお見通しだった。こちらも3速にシフトアップし、フルスロットル。13Bのフルパワーで、ランサーを一気に追い上げる。

(それだったら……アウトからだ!!)

 そして、4速。一気に速度が乗り、RX-7がランサーに並びかける。

(……そこまで上が伸びるのか!?)

 伊達も驚愕する程、内藤の組んだ13Bの伸びは凄まじかった。加速で勝る筈のランサーを、一気に仕留めにかかる。

 

 サイドバイサイドのまま、次のコーナーへ並んで飛び込む。緩く右に曲がってから、一気に左へ曲がり込む為、ヘアピンのブレーキングは極めてシビアになるのだが。

(……負けてたまるか!!)

(……勝負だ!!)

 両者、レイトブレーキングで左へアピンに突っ込んでいく。

 

 ここにきて、RX-7のノーズが僅かに前に出た。

(……やばい!!)

 そして、ランサーのフロントタイヤは悲鳴を上げていた。ステアリングを切り込むが、プッシュアンダーを誘発し、フロントが外へ逃げていく。

「……ッ!?」

 ゴツン、と鈍い音が内藤の耳に聞こえた。

 ランサーのノーズがRX-7の横っ腹に僅かに接触してしまい、RX-7の挙動が乱れる。

「バッ……カヤロ!!」

 しかし、内藤はマシンの挙動を瞬時に把握。適切なカウンターとアクセルコントロールで、車体の姿勢を立て直した。

(我ながら……なんたる不覚だ)

 一方の伊達は、接触の瞬間に大きく失速。易々とRX-7を、前に出してしまった。

 終盤での手痛いミスは、バトルに置いて大きな分岐点となってしまうのだ。

 

 そして、内藤のRX-7が日光のゴールラインを駆け抜けた。

 

 十三鬼将“追撃のテイルガンナー”が、会心の勝利を上げる。

 

 

 ふもとのパーキングスペースに、戦い終えた両雄が、再び対峙する。

「……あーあ。板金代が高そうだな……」

 へこんだドアを見ながら、内藤はいやらしく言い放った。

「……すまねぇ。タイヤがタレてるのに、ブレーキングで突っ張ったらこの様だ……」

 伊達は、実にバツが悪そうだ。

「ま、この程度で済んだだけマシだ。二台まとめてコンクリートの餌食になったら、今頃救急車に乗ってるぜ?」

 内藤にそう言われ、伊達は少しだけ安堵の息を漏らした。

「ま、ランエボは良い車なのは認めるぜ。

 だが……どんな電子制御も、タイヤの性能を超える事は不可能だからな。あんたもそれは理解してるだろうけどな」

 内藤の言葉に、伊達は無言で頷いた。

「ま、限界走行の中で車を労わるのは、難しいわな」

「ああ……。

 ただ、一つだけ聞かせてくれ」

 伊達は、内藤にこう問いただした。

「なぜ、旧型のFCで俺のランエボと渡り合えるんだ?

 いくらチューニングを進めてるとしても、俺はここを長く走り込んでる。腕はともかく、マシンで劣ってるとは思っていないんだ……」

 伊達の疑問に、内藤はこう答えた。

「……俺は今日のバトルの為に、エンジンもギア比も足回りも、全部セッティングを変更してきてる。

 確かに日光を走ったことは無ぇよ。でもな……十何年も同じ車に乗ってりゃ、街道ならこういうセッティングにすれば良いって事は、頭の中で把握できるもんだぜ」

「…………そういうモンなのか」

「伊達に車屋じゃねぇからな。

 あとよ。アンタのランサーは、AYCとACDのセッティングも煮詰めてあるんだろうが、曲がりすぎてるぜ。

 だから、左、右って揺り返す時に一瞬だけアクセルを踏めてねぇんだ。それに、曲がりすぎてるから、フロントタイヤのタレが早くなるんだよ」

「……なんだと!?」

 バトル中にそこまで洞察されているとは、伊達は思いもしなかった。

「ランサーがマシン的に劣ってる訳じゃねぇよ。

 ただ……セットアップは俺の方が上手かった。それがバトルの結果に出てるってこった」

 内藤は、得意げな顔を見せながら断言した。

(……なんて走り屋だ。このバトルは……俺の完敗だ)

 伊達は、ぐうの音も出せなかった。

 

「……やるじゃない」

 バトルを終えた内藤に、そう声をかけてきたのは、ギャラリーしていた緒方だった。

「緒方……。見てたのかよ?」

「ええ……。良いバトル、見せてもらったわ」

 緒方にそう言われ、内藤はフッと息を溢した。

 

「さすが内藤さんだ。俺らが、まだ敵わねぇわけだわ」

 そう言ってきたのは、同じくギャラリーだった大塚。

「……おれのFDのエンジンも、組んでもらおうかな。金無いけど……」

 そして、坂本もそう言い放つ。

「大塚に、坂本まで見に来てたんかよ……」

 そうは言いながら、内藤の表情は少し綻んでいた。

 

「アンタたちは……十三鬼将のメンバーなのか?」

 三人の姿を見て、伊達は聞いた。

「おう。金遣いと性格は悪いが、確かに速いぜ」

 内藤の紹介の仕方に、三人は不服そうな顔を見せる。

 

 一度咳払いしてから、大塚はこう切り出した。

「あんたが、キングダムトゥエルブの伊達って人だろ。色々、キングダムトゥエルブの事は聞いてるんだけどさ。

 一個だけ聞かせてくれ」

「……なんだ?」

 

 

「“街道プレジデント”……覇魔餓鬼は何処で何をしてるんだ?」

 

 大塚に聞かれると、伊達は考える素振りを見せた。

 そして、その答えは。

「正直に言うと……わからないんだ」

「……わからない?

 あんた達、キングダムトゥエルブは、徒党を組んでるんじゃないのか?」

 その回答に、大塚はそう問い詰めるしかなかった。

「俺達は、確かにキングダムトゥエルブと名乗ってはいる。

 だが……全員が揃って顔を合わせた事がある訳じゃない。もちろん、名の知れた奴らばかりだから、車と走りは知ってはいるがな……」

 伊達の回答は、歯切れの悪い物だった。

「……あんた達、キングダムトゥエルブは……どういう訳で結成してるんだ?」

 内藤が続けて切り出した。

「俺達は覇魔餓鬼さんにスカウトされたってだけさ。街道で速い奴らを集めてるから、その話に乗らないかって言われてな。

 実際、他のメンツの中で何人かはバトルしたことある奴らだったし、自分を試す良いチャンスだと思えたしな。

 ま、その初陣が首都高の走り屋が相手になるとは思いもしなかったが……」

 そう語る伊達。内藤も大塚も嘘を言ってる様には、感じられなかった。

「……じゃあ、その“街道プレジデント”は、各地のバトルには顔出していないって事なのよね?」

 緒方の言葉に対して、伊達の首は縦に動いていた。

「……何か、裏がありそうだな」

 坂本は、直感的にそう感じていた。

 

 

 “街道プレジデント”の行動。そして、キングダムトゥエルブの結成の理由。

 

 謎を残して、街道に不穏な空気が漂い始めていた。

 

 

 




多分、街道シリーズをやり込んできた人なら、キングダムトゥエルブの大将の正体が分かるんじゃないかなと思っております。
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