十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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相変わらずパソコンがないままで、更新ペースが落ちてます……。


第二十夜 蔵王に響くエキゾースト

 

 東京の夜は、ネオンがきらびやかだ。

 銀座の一等地に店舗を構える、高級イタリアン料理店。ガイドブックには、三ツ星レストランとして紹介されている為、平日でも客足は途切れない。

「……こういうお店は初めてかしら?」

 ワイングラスを手に持つ川越清美は、実に優雅で良く似合っている。

「…………ええ。全く馴染みがない物で……」

 対に座る内田孝は、委縮している様子だ。ちなみに、飲んでいる物はレモンティーである。

 

 川越は一口白ワインを味わってから、言葉を出した。

「あなたが、次の出番なのよ?

 だから景気付けに、こんな美女がご馳走してるんじゃない」

(……それを自分で言いますかね)

 内田は、口元まで出てきた言葉を、パスタと共に飲み干した。

「ねぇ……。貴方、次のバトルに勝算は有るの?」

 川越の質問に対して、内田の表情は少し強張っていた。

「……どうですかね。ここまでの状況を見てる限り、相手も中々の実力ですし」

 イマイチ頼りない返答に、川越は反射的に頭を抱えるしかなかった。

「まったく……。もう、このバトルは終盤戦なのよ?

 ゾディアックにも名を連ねた“嘆きのプルート”が、そんな弱気でどうするのよ……」

 そうぼやく川越だが、内田の実力はよく分かっている。

「……最善は尽くしますよ」

 それが内田の口からでた答えだった。

 

 

 蔵王山。山形県に位置するこの峠は、東北の走り屋達の聖地であった。

 この蔵王山も、街道サーキットに生まれ変わり、多くの走り屋達が詰め掛けるようになった。

 元々多くの走り屋達が腕を競いあっていた峠だけに、全国でも屈指のハイレベルな街道サーキットであるのだ。

 “アブッソルートエンペラー”の称号を得ている“イエティファング”こと、今泉恭一は街道でも十本の指に入る実力者だ。

 その彼が走りを見定めているのは、一台のパールホワイトに染められたJZX100のマークⅡである。

「……アイツはふざけてんのか?」

 今泉の言葉は、吐き捨てる様だった。

 

 何せ、マークⅡはどのコーナーも普通に曲がらず、深いアングルのドリフト走行を決めていた。白煙を立ち上らせ、ブラックマークをアスファルトに擦り付ける。

 テクニックの裏付けには間違いないのだが、この走りがキングダムトゥエルブの刺客とあれば、別問題の話になる。

 

 キングダムトゥエルブのツアラー使い、“ライオネル”の異名を持つ永友神保は、ピットエリアで、2セット目のタイヤ交換を終わらせていた。

「流石にあんだけケツ振ってりゃ、新品でも三本走ったらボウズだな……」

 溝の無くなったタイヤを見て永友は呟いた。

「アンタ……どういうつもりだ?」

 今泉はいら立っている様子で、永友に声をかける。

「……どうって。俺なりに蔵王を攻略しようとして、攻めてるんだけど?」

 永友は、当然とばかりに答えた。

「あの派手なドリフト走行でか? バカバカしい……」

 その答えに、今泉は呆れ果てた。

「そうか? カッコいいだろ?」

 永友はニヤリと笑い、自慢げに言い放つ。

「……確かに、その腕前は認める。あれ程見事なドリフトを出来る奴は、蔵王どころか街道全てでもそう居ない。

 だが十三鬼将と戦う上で、速さを無視したドリフト走行に何の意味がある?

 そんな走りなら、俺が走った方がよっぽど速い」

 今泉は、断言した。

「まぁー、そう思うかもしれないけどさぁ。とにかく見ててくれよ。

 十三鬼将に一泡吹かすのは、俺に任せとけって」

 自信満々に、笑みを見せる永友。

「……フン。好きにしろ」

 今泉はそう告げて、ピットエリアから立ち去った。

 

 しかしだ。

(……あの男の異常な余裕はなんだ?

 十三鬼将の実力は、ここまでのバトルで理解してる筈だろう……。大物なのか、只のバカなのか……?)

 その永友の態度に、奇妙な違和感を覚えているのも事実だった。

 

 

 バトル当日の夕方。

 これまでのバトル同様に、早めの時間帯から蔵王山にも多くのギャラリーが詰め掛けている。しかし、今泉は空を見上げ顔を険しくした。

(……風は湿り気が強いな。恐らく、天候は荒れるだろう)

 長年走り込んできただけに、今泉にしてみれば天候を予測する事は、造作も無い事だ。

 それ故に、今回のバトルを一層分からなくする要因だ。

 

 その予想は見事に的中し、蔵王山に厚い雲がかかると、空からは大粒の雨が降り始めていた。

 

 

 パーキングスペースには多くの傘の花が咲き、今宵のバトルの主役達に視線を注いでいる。

 向かい合うのは、パールホワイトのJZX100マークⅡツアラーVと、ワインレッドのJZX110のヴェロッサVR25。

 どちらも、トヨタを代表するセダンである。そして、多くの走り屋。特にドリフト野郎に愛されるマシンである。

「……いい天気になりましたね」

 内田は、空を見上げながら言う。その顔つきには、余裕さえ伺える。

「ホントだな。こういう天気だと……燃えるな」

 永友も、自信を漲らせている。

「100系のマークⅡ……。良いクルマに乗ってますね」

「そういうアンタも、ヴェロッサじゃねえか。良い趣味だぜ」

 お互い、同種のマシンを駆るもの同士で、シンパシーでも感じ取ったのか。

「……でも、負ける訳には行きませんから、全力で戦わせてもらいます」

 穏やかな表情の中に、闘志を見せる内田。

「ああ……。そいつは俺も同じさ。本気で行くぜ」

 口元は笑うが、永友の目つきは鋭く研ぎ澄まされた。

 

 同種のマシンだからこそ、負けられないバトルになるのだ。

 

 

 スタートラインに、二台のセダンが整列。

 固唾を飲んで見守るギャラリー達。傘を差しながらそこに混ざっているのは、“ブラッドハウンド”の佐々木だった。

(……まさか、あの永友がキングダムトゥエルブとはね)

 佐々木の胸中は、気が気では無かった。

 

「アンタは……十三鬼将のアリスト使いだろ?」

 声を掛けられ、佐々木は振り返る。

「……そうだが、アンタは?」

「この蔵王を仕切らってる、今泉ってモンだ。今日はギャラリーなのか?」

 声をかけたのは、蔵王の主だ。

「まぁな。付き添いも兼ねててな」

 佐々木は、少しだけ今泉を見て、視線をスタートラインへ戻した。

「アンタは、どっちが勝つと思う?」

 今泉の問いに、佐々木は少し頭を掻いた。

「……内田って答えたい所なんだが。

 相手が中々厄介な野郎なのさ。あの永友って男は……」

 佐々木の口調は、少し硬い物になっていた。

「あのドリフト野郎がか?」

 今泉は、首を傾げる。

「ああ……。グリップ派じゃ知らないかもしれねーが、あの永友は……“幻”のD1ドライバーだ」

 そう告げると、1JZのエキゾーストノートが、蔵王山に響き渡っていた。

 

 

 雨の降りしきる中、レッドシグナルが灯った。そして、ブラックアウト。

 ハイパワーな1Jを搭載するFR同士だけに、スタートで上手くトラクションをかける事は必須。

 上手く頭を押さえたのは、ヴェロッサだ。

(スタートで前に出れましたね……)

 このまま逃げるべく、内田は愛機にフルスロットルをくれる。特に、雨等によって視界が悪い時は、先行する方が遥かに有利となる。

 そして、追走する永友。

(さーて……追いかけっかな!!)

 どっしりと腰を据えて、朧げに見えるヴェロッサのテールランプを睨みつける。

 

 

 二台のJZX系のマシン。型式こそ違うが、基本コンポーネンツに共通点は多い。

 JZX110のマークⅡと、兄弟車であるヴェロッサ。その特徴の強い見た目からは、想像もつかない程チューニングベースとしての素性は高い。

 その前モデルとなるJZX100マークⅡも、チューニングベースとして人気を博したマシンである。

 この二台は、特にドリフト界での評価は非常に高い事は著名だ。

 ハイパワーの1JZを搭載し、重さをカバーできる。その上でホイールベースが長いために、安定感の高さが光る。特に、深いアングルのドリフトを決めた時、限界付近の動きがマイルドでコントロールしやすい事が言われる。

 これはJZX90以降のツアラーV系のマシンに言われることで、これこそがドリフト界で代々ベースマシンとして選択されてきた理由だ。

 

 それ故に、二台ともチューニングの方向性はよく似た物になり、パワーも重量もそれ程の大きな差は無い。

 ただし、内田のヴェロッサと永友のマークⅡに大きな差異があるとすれば、足回りの仕上げ方にある。

(前半の高速区間で逃げたい所ですが……)

 内田がそう思うのも無理はない。

 新たにニューマシンとして仕上げたヴェロッサは、これまでのマシンと同様に首都高速をターゲットにしている。つまり、高速域で実力を発揮できるように、足回りは比較的固めに締め上げている。あまり柔らかいサスペンションでは、高い速度域でのロールやピッチングが大きくなり、挙動を乱しやすくなる為だ。

 しかしだ。

(このウエットコンディションじゃ、トラクションが……)

 ハードなサスペンションは、低ミュー路でのグリップは期待できない。サスセッティングが、思いっきり裏目に出てしまっているのだ。

 

 対して、追いかける永友。

(……首都高仕様のマシンは、雨じゃ辛いようだな)

 攻めきれないヴェロッサの挙動を見て、ほくそ笑んでいた。

 永友の走りから分かる通り、基本的にドリフトコントロールのし易さを優先したセッティングを施している。

 近代のドリフトマシンは、グリップ走行でも通用するレベルのトラクションを必要とする。それに加え、ドリフトの場合は荷重移動を積極的に利用できるように、サスペンションを柔らかめに仕上げて、しなやかな動きを求める方向性にある。

(それに……俺はウエットコンディションが大好物でな!!)

 このコンディションに加えて、街道と言うテクニカルなステージ。永友にとっては、絶好の舞台だったのだ。

 

 山頂のパーキングスペースで、今泉は佐々木に改めて聞きただす。

「あの永友って奴は、D1ドライバーって事なのか?」

「ああ……。しかも飛びっきりのな」

 一呼吸置いて、佐々木は言葉を続ける。

「あの永友は、たった一度だけ参戦したD1グランプリで3位に入賞してんだ。

 だが……それ以来一度も、D1はおろかローカルイベントのドリフトコンテストも出ていない。当然、雑誌の取材にも出なかった。

 それ以来、あの男は“幻のD1ドライバー”って謳われてるんだ」

「……そりゃ確かにすごい。だが……それと街道のバトルに、関係あるのか?

 まして、速く走る事とドリフトのテクニックと関係あるとは思えないが……」

 今泉の疑問は消えない様だが、佐々木はこう答える。

「……D1には追走があるんだよ」

「追走?」

「二台が先行と後追いでドリフトを競うんだよ。それこそ、接近した状態でドリフトで並走するからな。テクニックも大事だが、それ以上に駆け引きも必要だ。

 上位に入賞するなら、その追走で勝ち上がらなきゃいけねぇんだが……当然、競う相手は追走に慣れてるドライバーばかりだ。

初参戦して、まぐれで3位まで勝ち上がれるものじゃないぜ……」

 佐々木の解説を聞き、今泉は納得が出来たようだ。

「そこまでの実力があるのなら、確かにテクニックは有るようだな」

「……それによ。

 その時のD1は……今日と同じくらいに雨が降ってた」

 そう呟き、佐々木は空を見上げた。

 

 




ヴェロッサって、マニアックなイメージがありますが、中身は110マーク2と同じなんですよねー。

結構好きですが、周囲は理解してくれません(笑)。
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