十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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久々の更新です。

未だにパソコンを購入してません……。


第二十一夜 雨中のドッグファイト

 

 蔵王の特徴の一つは、前半区間と後半区間では全く光景が異なる事にある。

 ダウンヒルの場合、前半セクションは極めて速度の乗る高速コーナーが続く。そして、後半は高低差のあるタイトコーナーの連続となる。従って、蔵王を攻略するには、非常に懐の深いマシンが求められるのだ。

 

 内田にとっては、この雨のコンディションは、厳しい物になってしまった。

(……このコンディションは、本当に最悪ですね)

 パワーをリアの二つのタイヤで路面に伝えるFR車は、基本的に低ミュー路は苦手なレイアウトになる。ましてや、ハイパワーマシンとなれば尚更に弱くなる。

(……ですが、負ける訳には行かないんですよ!!)

 それでも、内田は攻め続ける。絶妙なアクセルワークで、巧みにリアタイヤのトラクションを稼ぎ出す。

 しかし永友のマークⅡは、ぴったりとヴェロッサをマークしている。出来る限り高速区間で差を広げたい内田に取っては、厳しい展開だ。

 

 降りしきる雨は、容赦なく路面からのグリップを奪っていく。その悪コンディションを物ともしない永友は、マークⅡを完全に支配下に置く。

(へっへっへ……。悪いね、首都高のアンちゃん)

 多少テールが滑ろうとも、アクセルを踏み込んだまま絶妙なカウンターで対処。更に、コース幅を目一杯まで使い切る。

 ウエット路面でも、そのアグレッシブなキレた走りに、ギャラリーの視線は釘付けだ。

 

 

 ドリフト走行の場合、意図的にホイールスピンさせてテールスライドを誘発させるため、立ち上がりではどうしてもロスが出来てしまう。

 しかし、ウエットの様に路面ミューが低い場合、タイヤグリップの限界が低くなってしまう為に、グリップ走行よりもむしろドリフト走行の方が速い場合もある。

 何よりも、マシンがテールスライドしても躊躇する事無くアクセルを踏み込んでいけるのが、ドリフト野郎の強みなのだ。

(……ウエットだからと言って、派手にケツを振ってたら遅いからな。浅い角度のドリフトで、アクセルを踏んでいけば……確実に雨は速く走れるぜ!!)

 永友の、絶対的な自信は揺るぎない。

 

 二台のバトルは、勾配のきつくなるテクニカルエリアに突っ込んでいく。

 蔵王のテクニカルセクションは、ヘアピンとヘアピンの間のストレートが長い。その分、立ち上がりのトラクション性能。そして、スピードが乗る分ブレーキの性能が問われる。

(……やはり、ここは上手く抑えて行くべきですね)

 内田は、インを閉めるブロックライン。バトルにおける上策だ。

 

 そのブロックラインに対し、永友の走りは。

(そんなセコイ走りじゃ、面白くねぇだろ!!)

 進入から大きくテールを流す、派手なドリフト走行だ。確かに、永友にしてみれば、ドリフトはお家芸その物。

 しかも、ヴェロッサにドリフトしたまま追走しているのだ。

 

 その走りは、内田もミラー越しに見ていた。

「…………」

 これは永友の挑発なのか。それとも、単にドリフトしたいだけなのか。

 

 続くヘアピンでも、堅実なグリップ走行の内田と、派手なドリフト走行の永友。しかも、速さに差は無い。マークⅡはドリフトしたまま、ヴェロッサを煽り倒す。

(……そっちがその気なら!!)

 この挑発に、内田の走りは突如として変わった。

 

「……ッ!?」

 永友の目に映ったのは、突然テールスライドを見せるヴェロッサのテールランプだった。

(……これなら、貴方の土俵でしょう!!)

 内田も、進入から大きな角度を付けたドリフトで、永友を牽制したのだ。

 ヴェロッサが突然のドリフトを見せた時、ギャラリー達からどよめきにも似た声が上がっていた。

 

 しかしだ。

「……面白れぇ!!」

 その走りに、永友はヒートアップする。

 マークⅡもドリフト走行で、ヴェロッサをピッタリと追走。二台の4ドアセダンが、見事な接近ツインドリフトを披露した。

 

 雨中の最中、二台の見事なドリフト走行に、ギャラリーのどよめきは歓声に変わっていた。

 

 

 当然、山頂のパーキングスペースに陣取る佐々木と今泉は、その走りをモニターで見ていた。

「……あいつらはバカなのか?」

 ドリフトで競い合う二台に向け、今泉は呆れた様である。

「……走り屋何て、基本バカばっかりだろ。賢いきゃ、こんな金かかる趣味は択ばねぇだろ?」

 佐々木は、淡々と答えた。

「そうかもな……」

 今泉は、再びモニターを凝視した。

(……内田。その土俵に乗った所で……勝ち目は余計に無いぜ)

 佐々木の心の内は、気が気では無かった。

 

 

 ウエット路面を物ともしない、見事なドリフトでダウンヒルを駆け抜けていく二台。

 しかし、永友の土俵に乗ってしまった内田は、致命的なミスを犯している事に、気が付いていなかった。

 

 ヴェロッサの横っ腹にノーズを喰い込ませ、マークⅡは見事な追走を見せる。

 そして、その間も永友はきっちりと、内田の事を観察していたのだ。

(……首都高仕様のヴェロッサで、そこまで横向けれるのは大したもんだぜ。

 でもな……ドリフト仕様のマシンと、それ以外のチューニングには決定的な違いがあるんだぜ!!)

 ドリフト仕様ならではのチューニング。

 それは、ステアリングの切れ角にある。切れ角アップと言われるチューニングだ。簡単に言ってしまえば、ハンドルを切った時の角度を大きくしているである。

 グリップ走行等で速く走る場合、ステアリングの舵角は出来る限り小さくする事が理想とされる。これは、ラリーでもジムカーナでも同様となる。

 ステアリングの切る量が多ければ多いほど、走行抵抗が増えてしまいロスが生まれてしまう。また、ステアリングを多く切れば、理想的なコーナリングフォースを生み出せず、アンダーステアを誘発してしまう。

 

 しかしドリフトの場合は、ステアリングの切る量が多ければ多いほど、深いアングルをキープしたままドリフトする事が可能になる。

 特に現代のドリフトコンテスト等では、車体を真横に向ける程の深い角度のドリフトが求められる為、ステアリングの切れ角は多ければ多いほど良いとされる。

 これこそが、ドリフトマシンに置ける、最も特異なチューニングなのだ。

 

 先行する内田だが、次第にドリフト中にハンドルの修正が増えていく。

(……ドリフトには、少し硬いですね)

 ヴェロッサの足回りは、そもそもドリフトを前提にはしていない。ハード目に締め上げたサスペンションは高速域での安定性は良くなるが、低速域では荷重が移りにくくピーキーな動きになってしまう。

 それに加え、ノーマルの切れ角では極端に深いアングルに耐えられない。

 只でも微妙なアクセルコントロールと、ステアリングワークが要求されるウエット路面の中で、内田は綱渡りの様な操作でその挙動を抑え込んでいる。

(……相手と同じ土俵に立って勝つ。これこそが……ゾディアックの流儀です!!)

 かつてゾディアック。そして、十三鬼将。首都高というステージの中、トップで戦い続けてきた“嘆きのプルート”の意地が、そこにあった。

 

 

 いよいよバトルは最終セクションへ。

(……ここまでベタベタに張り付いてんのに、マシンを乱さずにコントロールしてやがる。ドリフト仕様でも無いのにな……)

 テクニックも流石だが、精神力も見事なもんだな!!)

 永友は内心で、内田を賞賛しきった。

 

 蔵王の最終セクションは、Rの小さいヘアピンを二つ超えると、最後は大きく曲がり込んでいく3速の中速コーナーとなる。

(……このまま、ただで後ろでドリフトしてるだけではないでしょうね)

 内田は、改めて気を引き締める。

 当然バトル終盤となれば、永友は狙っていた。

(……最終コーナーで、インを刺してやるぜ!!)

 狙いはそこに絞っていた。

 

 低速のヘアピンも、見事なツインドリフトでクリア。

 そして、残すは最終の中速コーナー一つとなった。蔵王に詰め掛けたギャラリーも、息を飲んで見つめていた。

 

(……ここがラストです!!)

 内田は、ここでも進入から綺麗なテールスライドで飛び込んだ。

(……決めるぜ!!)

 永友のマークⅡも、ピッタリと並走しながらドリフトを決める。

 

 再び2台はツインドリフト。

「……ッ!?」

 しかし、内田のヴェロッサは、クリッピングポイントを取れずアウトへ膨らんでいく。

(インがお留守だぜ!!)

 その一瞬で、永友のマークⅡがノーズをねじ込んだ。

(ダメだ……インに付けない!!)

 もはや、内田のテクニックを持ってしても、修正は不可能だった。

(……いただきだ!!)

 クリッピングに付けないヴェロッサ。対して、マークⅡはドリフト決めてながら、インを刺した。

 並走して立ち上がった時、前に出ていたのはマークⅡだった。

 見事にオーバーテイクドリフトを決めて見せたのだ。

 

 

 ゴールラインを駆け抜けた両車。勝ったのは、ライオネルだ。

 しかし、雨中の難しいコンディションで、蔵王と言う難コース。しかも、見事なドリフトを披露して見せた両雄に、ギャラリー達の喝采は鳴りやまなかった。

 

 

 ふもとのパーキングスペースで、戦い終えた両者。

「……アンタのおかげで、すげえ楽しめたぜ。ここまで気持ちいい走りが出来たのは、そう何回も無い。

 だが、一個だけ聞かせてくれ。何故、途中からドリフトに変えたんだ?」

 永友は、率直に聞きただした。

「何ででしょうかね……。

 意地……と言ったところでしょうかね」

 内田の答えは、至って簡単だった。

「……意地?」

「ええ。

 貴方のドリフトのテクニックは、素晴らしかった。それに影響されただけですよ。単に……バトル相手と同じ土俵で勝負する事に、意義があると思うだけです」

 内田は、吹っ切れた表情だった。

「……ドリフト。特に追走になりゃ、相手を信頼できなきゃ寄せて走る事は出来ねぇ。

 アンタの走りは、信頼できる走りだったぜ。

 バトルの勝敗には確かに決まったが……それ以上にアンタと走れてよかった。それだけは確かだ」

 永友の言葉に、内田の表情は安堵の表情を浮かべる。

「僕も負けはしましたが……今日のバトルが出来た事は、十三鬼将として誇りに思います」

 内田の言葉を受け、二人はがっちりと固い握手を交わした。

 

 共に走ったからこそ、分かち合える瞬間だった。

 

 

 山頂のパーキング。

 バトルを見届けた、佐々木と今泉。

「……ドリフトしなきゃ、十三鬼将は勝てたんじゃないのか?」

 今泉の一言に、佐々木の首は縦に動いた。

「だろうな。ただ……仮にそれで勝ったとしても、蔵王に来たギャラリーは納得しなかったと思うぜ。

 少なくとも、グリップで走っててドリフトに煽られたままじゃ、カッコつかねーだろ?」

「フン……」

 佐々木の返答に、今泉は明後日の方向を向いてしまう。

(ま……この終盤での連敗は痛いけどな)

 内心で思いつつ、佐々木も視線を落としていた。

 

 

 雨中の蔵王。ドリフト勝負は“ライオネル”。永友は、幻のD1ドライバーと呼ばれた男の面目躍如の走りを見せた。

 

 残る決戦は、あと二つ。

 

 

 




次回の更新はいつになるのか……。
気長にお待ちください。
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