十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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長らくお待たせしました。
令和一発目の投稿……パソコン復活です!!


第二十二夜 切り札vs切り札

 

 阿蘇。各街道サーキットでもっとも南に位置し、九州唯一の街道サーキットとなる。

 そして、オートポリス国際サーキットが近いという立地条件も手伝い、阿蘇街道サーキットの走り屋のレベルは極めて高い。また、国際サーキットでも攻めれる程度のハイチューンドマシンで無ければ、阿蘇では戦えない事も付け加えられる。

 

 阿蘇の主“ミラクレスサミット”の称号を得ている、“スプレマシーマーダー”こと雑司ヶ谷達。街道なら知らぬ者は居ない走り屋は、阿蘇を攻め込む一台のマシンから目を離さなかった。

(……奴は、あのマシンで阿蘇を走るのは初めての筈だ。あんな化け物を持ち込んで、見事に乗りこなしてる……。

 改めて大した走り屋だと思わされるぜ……“ティンバースラッシュ”)

 街道で五本の指に入る走り屋である、雑司ヶ谷にそこまで言わせる走り屋の正体とは。

 

 パーキングスペースで休息をとるそのドライバーは、長い黒髪をなびかせている。

「……恐れいるな。元ラヴァーズのエース……相乃沢沙耶」

 雑司ヶ谷の声に、振り返ったのは可憐な女性。

「どうもです、雑司ヶ谷さん」

 ニコリとほほ笑んだ相乃沢。

「……阿蘇をホームコースとしてる走り屋の中で、十三鬼将に太刀打ちできるのは、俺以外だと君くらいしか思い当たらない。

 まさか、キングダムトゥエルブに加わってるとは思いもしなかったがな」

 雑司ヶ谷の言葉に、相乃沢は不敵な笑みを作っていた。

「……ええ。首都高の走り屋がどんなレベルかは知らないけれど……絶対に負けられないんですよね」

「その為の、あのバケモノってわけか」

 そう言いながら、雑司ヶ谷はそのマシンに目を向ける。

 

 パーキングに陣取る、そのモンスターマシン。

 シトロエン・クサラWRカー。世界中の公道で、その実力を見せる本物の戦闘車両である。

「……どういう経緯でこんなマシンを持ち込んだかはわからんが、これは相手にしたくないな」

 雑司ヶ谷の口から、つい本音がこぼれ出していた。

「……絶対に勝てと言われて、大将からこれを借りたんですよ。だから……負けられないですね」

 相乃沢の表情は、勝利への自信が揺るぎない事が物語られていた。

 まさしく、王宮十二氏の“切り札”と言えるだろう。

 

 

 バトル当日。

 これまでの戦いと同様に、阿蘇には多くのギャラリーが押し寄せている。

 各ギャラリーコーナーのみならず、ゴール地点のパーキングエリアも、お祭りのように人が多い。

 そのギャラリーに混ざり、戦いを終えた四天王の三名。魚住、内藤、緒方がバトルを見届けに来ていたのだが。

「……うぇ。呑みすぎた」

 顔色の優れない内藤は、立っているのがやっとの状態だ。

「……芋焼酎ロックで、馬鹿みたいにガバガバ呑むからでしょ。自業自得よ……」

 緒方は、あきれ果てた様子で突っ込みを入れた。

(戦いも終盤だというのに、観光気分とは……。何て緊張感の無い人だ……)

 魚住も右に同じくという心境だった。

 

 そして、この阿蘇に訪れていた四天王だけではない。

「……おっ?

 やっぱり、御三方は来てたって事ね」

 声をかけられ振り向くと、三名の前には十三鬼将の総大将が立っていた。

「岩崎……。

 お前、ここまでほったらかしておきながら、今更ギャラリーに来たのか?」

 魚住は、我先に抗議を申し立てる。

「いや~……顔を見せなかったのは悪いと思ってるけど、俺も色々と建て込んじまっててさ」

 そう言いつつも、岩崎の顔に反省の色は無い。

「それはそうとして……。

 わざわざ阿蘇まで岩崎が来るって……。やっぱり君嶋さんの走りが見たかったって事?」

 緒方の言葉に、岩崎は頷いた。

「まぁね……。

 少なくとも……夢見の生霊が本気で走る所は、そうそう見れるものじゃないしさ」

 そう語った岩崎の顔つきは、グッと引き締まっていた。

「……未だに破られない、環状内回りのコースレコードは君嶋さんが保持してる。

 環状を長いこと走りこんでるが、あのタイムだけは抜ける気がしないぜ……」

 C1をホームコースとする魚住は、顔付きが強張る。

 

 すると、噂をすればなんとやら。

 麓からNAマシン特有の、甲高いエキゾーストノートが阿蘇に響き渡ってきた。

「来たわね……」

 緒方が呟くと、周囲のギャラリー達は一斉に視線を向ける。当然、岩崎達十三鬼将も同じ動きをとる。

 

「……あのレコードタイムを抜くのはお前さん達のマシンじゃ無理だぜ」

 不意に内藤はそう口を出した。

「……どういう事さ?」

 岩崎は即座に聞き返した。

「あ……ちょっとまっ……」

 その瞬間、内藤の口からは言葉ではなく、胃袋の中身が飛び出しそうになっていた。

 とっさに振り返って、茂みの奥へ駆け込む羽目に。

 

 内藤は十分ばかり、茂みに潜り込んでいた。人間のキャブレターから、燃料がオーバーフローしたため。平たく言えばゲロだ。

「……あー……ちょっとはマシになったな」

 ペットボトルの水で口をゆすいで、内藤は少しシャキッとした。

「汚いわね……」

「……仲間と思われたくないぞ」

 緒方と魚住は、内藤をここぞとばかりにこき下ろした。

「……返す言葉がないぜ」

 自業自得なだけに、内藤はそう言うしかない。

「君嶋さん、もう通り過ぎて行っちまったぜ……」

 岩崎にそう伝えられ、内藤はバツが悪そうだ。

「所で、さっき言おうとしてたのは何だったんだ?」

 魚住に聞かれ、内藤は改まった様子で口を開き始める。

「実は、あのレコードを出したときのNSXはな……」

 

 

 

 山頂のパーキングスペース。

 気温は肌寒い位なのだが、そこは異常なほど熱気を帯びていた。

 

「……貴方が私のバトル相手かしら? 随分と贅沢なマシンね……」

 讃える様に相乃沢は言うが、その表情には風格さえ感じさせる落ち着きがある。

「…………」

 しかし、君嶋は何も言わず相乃沢を見ていた。

 暫し沈黙。

「何言いたいことはある?」

 痺れを切らして、相乃沢は挑発めいた言葉を投げつけた。

「……アンタはそのマシンと死ねるか?」

 君嶋の一言に、相乃沢は首を横に振る。

「……クラッシュしなきゃ死なないわ。

 始めましょう」

 その時。君嶋はニヤリと笑みを見せた。

 

 

 クサラWRカーに相乃沢が乗り込もうとした時だ。

「沙耶……」

 呼び止められて、振り向くと。

「……真紀さん」

 “孤高なる女帝”堀井真紀が、相乃沢を呼び止めたのだ。

 共に、かつて“LOVERS”を率いて街道を駆け抜けた同士であり、相乃沢にとって堀井は師匠にあたる間柄なのだが。

「……何の様ですか?」

 相乃沢の反応は極めて冷めており、立て続けにまくし立てる。

「真紀さんは、“覇魔餓鬼”さんの誘いを断ったんですよね?

 街道を走ってきた同士なのに……」

「……そうよ」

「それは、気が向かないだけですか?

 それとも……“迅帝”。岩崎基矢に肩入れしてるからですか?」

 相乃沢の言葉に対して、堀井は首を横に振る。

「……じゃあ何で手を貸さないんですか?

 街道を……首都高の連中に好きにさせるつもりなんですか?」

「……彼等は、そんな走り屋じゃないわ。それだけは言い切れるわよ」

「……」

 相乃沢は、半ば堀井を睨みつける様だった。

「…………私で、十三鬼将を止めてみせます」

 そう断言して、相乃沢はマシンへと向かう。

「……沙耶」

 相乃沢は何も反応しないままだが、堀井は言葉を続けた。

「……走る楽しさを忘れないで」

 その一言を言われ、一瞬だけ動きを止めてしまう。

 しかし、相乃沢はそのままマシンへと乗り込んだ。

 

 

 グリッドに整列する両雄。

 片やWRCの実戦で戦っていた、本物のモンスターマシン。

 片や国産唯一と言える、スーパーカー。

 互いにポテンシャルは超一級なのは、語るまでもない。

 そして、AWDのターボマシンに対して、NAのミッドシップ。対極するレイアウトを持つ二台が、如何にしてバトルするのか。

 そして、バトルするドライバーの両名。

 ラヴァーズのエースと謳われた“ティンバースラッシュ”と、C1内回りのアンタッチャブルレコードを持つ“夢見の生霊”。

 ステージは違えど、どちらもストリートで名を馳せる、超一級の走り屋だ。

 今夜のバトルは、どんな死闘が演じられるのか。ギャラリー達の興味は尽きない。

 

 クサラのコクピットから見える、グリッドの景色。

 相乃沢にとっては、何時も見える阿蘇の景色とは違って見えた。

(……おそらく、あのNSXのドライバーは、今まで戦ってきた相手の中で一番手強い筈。だけど……コースとマシンは私に分があるもの。

 自分のベストを走りをすれば……負けない!!)

 大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。

 相乃沢は、二度三度ハンドルを握り直し、精神を統一させた。

 

 

 隣に並ぶ、君嶋のNSX。

 首都高のトップレベルの走り屋として、長きにわたって君臨する歴戦の猛者。とは言え、街道を攻める事も初めてだが、WRCマシンと戦うのも当然初めてだ。

(……四駆のターボか。俺にとっては一番好かないマシンだが……戦闘力は確かだろう)

 君嶋は、不意に押し殺すように笑いだしていた。

「……クックっクックッ」

 今現在、君嶋に取ってはバトルで不利な材料がそろっている。

 それでも、何故笑っていられるのか。

(バトルをやる前から追い込まれてるのは、簡単に分かる……。

 だからこそ……面白い!!)

 君嶋の視線は、鋭く研ぎ澄まされていた。

 

 

 騒めくギャラリー達をよそに、スタートのシグナルはレッドを点灯させる。

 四気筒のターボエンジンとV6のNAエンジンのエキゾーストノートが、阿蘇の夜空へ向けて威嚇しあうように吠え渡る。

 

 そして……ブラックアウト。

 

 ロケットスタートを決めたのは、当然ながらクサラだ。AWDのトラクション性能に加えて、最高出力は300馬力少し程度ながらトルクは60キロを超えている。

 加えて、相当に軽量化されたボディを持つ。スタートダッシュで、NSXに後れを取る訳が無い。

(……このままミラーに写らない位、ぶっちぎってあげるわ!!)

 相乃沢は、迫りくるファーストコーナーを鋭く睨みつける。

 

 阿蘇の場合、1コーナーまでのストレートが比較的長い。その加速力に物を言わせて、クサラがNSXを大きく引き離して1コーナーに飛び込んでいく。

 

 ギャラリー達の視線がクサラに注がれた。

「クサラが頭だぜ!!」

「速え!! 流石にWRCマシンだぜ!!」

 そして、見事なゼロカウンタードリフトで、鮮やかに1コーナーを駆け抜けていく。

 阿蘇で指折りの実力者に加え、モンスターマシンを持ち込んだ相乃沢。この瞬間にギャラリー達は、“ティンバースラッシュ”の勝ちを確信する。

 

 筈だった。

 

 少し間合いを開けてから、1コーナーに迫りくるNSX。

「スタートから、随分離されてるなー」

「ま、相手がバケモノ過ぎるましんだし……」

 君嶋は、ギリギリまでブレーキングを遅れさせ、文字通り1コーナーに“飛び”込んできた。

 そこから、地面に張り付いているかの様に、グリップしたまま駆け抜けていったマシンを見て、ギャラリー達は言葉を失っていた。

「……見たか?」

「見るも何も……何だよ今のコーナーリングスピードは……」

 その速さに、阿蘇のギャラリーは度肝を抜かれるしかなかった。

 

 

 




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