令和一発目の投稿……パソコン復活です!!
阿蘇。各街道サーキットでもっとも南に位置し、九州唯一の街道サーキットとなる。
そして、オートポリス国際サーキットが近いという立地条件も手伝い、阿蘇街道サーキットの走り屋のレベルは極めて高い。また、国際サーキットでも攻めれる程度のハイチューンドマシンで無ければ、阿蘇では戦えない事も付け加えられる。
阿蘇の主“ミラクレスサミット”の称号を得ている、“スプレマシーマーダー”こと雑司ヶ谷達。街道なら知らぬ者は居ない走り屋は、阿蘇を攻め込む一台のマシンから目を離さなかった。
(……奴は、あのマシンで阿蘇を走るのは初めての筈だ。あんな化け物を持ち込んで、見事に乗りこなしてる……。
改めて大した走り屋だと思わされるぜ……“ティンバースラッシュ”)
街道で五本の指に入る走り屋である、雑司ヶ谷にそこまで言わせる走り屋の正体とは。
パーキングスペースで休息をとるそのドライバーは、長い黒髪をなびかせている。
「……恐れいるな。元ラヴァーズのエース……相乃沢沙耶」
雑司ヶ谷の声に、振り返ったのは可憐な女性。
「どうもです、雑司ヶ谷さん」
ニコリとほほ笑んだ相乃沢。
「……阿蘇をホームコースとしてる走り屋の中で、十三鬼将に太刀打ちできるのは、俺以外だと君くらいしか思い当たらない。
まさか、キングダムトゥエルブに加わってるとは思いもしなかったがな」
雑司ヶ谷の言葉に、相乃沢は不敵な笑みを作っていた。
「……ええ。首都高の走り屋がどんなレベルかは知らないけれど……絶対に負けられないんですよね」
「その為の、あのバケモノってわけか」
そう言いながら、雑司ヶ谷はそのマシンに目を向ける。
パーキングに陣取る、そのモンスターマシン。
シトロエン・クサラWRカー。世界中の公道で、その実力を見せる本物の戦闘車両である。
「……どういう経緯でこんなマシンを持ち込んだかはわからんが、これは相手にしたくないな」
雑司ヶ谷の口から、つい本音がこぼれ出していた。
「……絶対に勝てと言われて、大将からこれを借りたんですよ。だから……負けられないですね」
相乃沢の表情は、勝利への自信が揺るぎない事が物語られていた。
まさしく、王宮十二氏の“切り札”と言えるだろう。
バトル当日。
これまでの戦いと同様に、阿蘇には多くのギャラリーが押し寄せている。
各ギャラリーコーナーのみならず、ゴール地点のパーキングエリアも、お祭りのように人が多い。
そのギャラリーに混ざり、戦いを終えた四天王の三名。魚住、内藤、緒方がバトルを見届けに来ていたのだが。
「……うぇ。呑みすぎた」
顔色の優れない内藤は、立っているのがやっとの状態だ。
「……芋焼酎ロックで、馬鹿みたいにガバガバ呑むからでしょ。自業自得よ……」
緒方は、あきれ果てた様子で突っ込みを入れた。
(戦いも終盤だというのに、観光気分とは……。何て緊張感の無い人だ……)
魚住も右に同じくという心境だった。
そして、この阿蘇に訪れていた四天王だけではない。
「……おっ?
やっぱり、御三方は来てたって事ね」
声をかけられ振り向くと、三名の前には十三鬼将の総大将が立っていた。
「岩崎……。
お前、ここまでほったらかしておきながら、今更ギャラリーに来たのか?」
魚住は、我先に抗議を申し立てる。
「いや~……顔を見せなかったのは悪いと思ってるけど、俺も色々と建て込んじまっててさ」
そう言いつつも、岩崎の顔に反省の色は無い。
「それはそうとして……。
わざわざ阿蘇まで岩崎が来るって……。やっぱり君嶋さんの走りが見たかったって事?」
緒方の言葉に、岩崎は頷いた。
「まぁね……。
少なくとも……夢見の生霊が本気で走る所は、そうそう見れるものじゃないしさ」
そう語った岩崎の顔つきは、グッと引き締まっていた。
「……未だに破られない、環状内回りのコースレコードは君嶋さんが保持してる。
環状を長いこと走りこんでるが、あのタイムだけは抜ける気がしないぜ……」
C1をホームコースとする魚住は、顔付きが強張る。
すると、噂をすればなんとやら。
麓からNAマシン特有の、甲高いエキゾーストノートが阿蘇に響き渡ってきた。
「来たわね……」
緒方が呟くと、周囲のギャラリー達は一斉に視線を向ける。当然、岩崎達十三鬼将も同じ動きをとる。
「……あのレコードタイムを抜くのはお前さん達のマシンじゃ無理だぜ」
不意に内藤はそう口を出した。
「……どういう事さ?」
岩崎は即座に聞き返した。
「あ……ちょっとまっ……」
その瞬間、内藤の口からは言葉ではなく、胃袋の中身が飛び出しそうになっていた。
とっさに振り返って、茂みの奥へ駆け込む羽目に。
内藤は十分ばかり、茂みに潜り込んでいた。人間のキャブレターから、燃料がオーバーフローしたため。平たく言えばゲロだ。
「……あー……ちょっとはマシになったな」
ペットボトルの水で口をゆすいで、内藤は少しシャキッとした。
「汚いわね……」
「……仲間と思われたくないぞ」
緒方と魚住は、内藤をここぞとばかりにこき下ろした。
「……返す言葉がないぜ」
自業自得なだけに、内藤はそう言うしかない。
「君嶋さん、もう通り過ぎて行っちまったぜ……」
岩崎にそう伝えられ、内藤はバツが悪そうだ。
「所で、さっき言おうとしてたのは何だったんだ?」
魚住に聞かれ、内藤は改まった様子で口を開き始める。
「実は、あのレコードを出したときのNSXはな……」
山頂のパーキングスペース。
気温は肌寒い位なのだが、そこは異常なほど熱気を帯びていた。
「……貴方が私のバトル相手かしら? 随分と贅沢なマシンね……」
讃える様に相乃沢は言うが、その表情には風格さえ感じさせる落ち着きがある。
「…………」
しかし、君嶋は何も言わず相乃沢を見ていた。
暫し沈黙。
「何言いたいことはある?」
痺れを切らして、相乃沢は挑発めいた言葉を投げつけた。
「……アンタはそのマシンと死ねるか?」
君嶋の一言に、相乃沢は首を横に振る。
「……クラッシュしなきゃ死なないわ。
始めましょう」
その時。君嶋はニヤリと笑みを見せた。
クサラWRカーに相乃沢が乗り込もうとした時だ。
「沙耶……」
呼び止められて、振り向くと。
「……真紀さん」
“孤高なる女帝”堀井真紀が、相乃沢を呼び止めたのだ。
共に、かつて“LOVERS”を率いて街道を駆け抜けた同士であり、相乃沢にとって堀井は師匠にあたる間柄なのだが。
「……何の様ですか?」
相乃沢の反応は極めて冷めており、立て続けにまくし立てる。
「真紀さんは、“覇魔餓鬼”さんの誘いを断ったんですよね?
街道を走ってきた同士なのに……」
「……そうよ」
「それは、気が向かないだけですか?
それとも……“迅帝”。岩崎基矢に肩入れしてるからですか?」
相乃沢の言葉に対して、堀井は首を横に振る。
「……じゃあ何で手を貸さないんですか?
街道を……首都高の連中に好きにさせるつもりなんですか?」
「……彼等は、そんな走り屋じゃないわ。それだけは言い切れるわよ」
「……」
相乃沢は、半ば堀井を睨みつける様だった。
「…………私で、十三鬼将を止めてみせます」
そう断言して、相乃沢はマシンへと向かう。
「……沙耶」
相乃沢は何も反応しないままだが、堀井は言葉を続けた。
「……走る楽しさを忘れないで」
その一言を言われ、一瞬だけ動きを止めてしまう。
しかし、相乃沢はそのままマシンへと乗り込んだ。
グリッドに整列する両雄。
片やWRCの実戦で戦っていた、本物のモンスターマシン。
片や国産唯一と言える、スーパーカー。
互いにポテンシャルは超一級なのは、語るまでもない。
そして、AWDのターボマシンに対して、NAのミッドシップ。対極するレイアウトを持つ二台が、如何にしてバトルするのか。
そして、バトルするドライバーの両名。
ラヴァーズのエースと謳われた“ティンバースラッシュ”と、C1内回りのアンタッチャブルレコードを持つ“夢見の生霊”。
ステージは違えど、どちらもストリートで名を馳せる、超一級の走り屋だ。
今夜のバトルは、どんな死闘が演じられるのか。ギャラリー達の興味は尽きない。
クサラのコクピットから見える、グリッドの景色。
相乃沢にとっては、何時も見える阿蘇の景色とは違って見えた。
(……おそらく、あのNSXのドライバーは、今まで戦ってきた相手の中で一番手強い筈。だけど……コースとマシンは私に分があるもの。
自分のベストを走りをすれば……負けない!!)
大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。
相乃沢は、二度三度ハンドルを握り直し、精神を統一させた。
隣に並ぶ、君嶋のNSX。
首都高のトップレベルの走り屋として、長きにわたって君臨する歴戦の猛者。とは言え、街道を攻める事も初めてだが、WRCマシンと戦うのも当然初めてだ。
(……四駆のターボか。俺にとっては一番好かないマシンだが……戦闘力は確かだろう)
君嶋は、不意に押し殺すように笑いだしていた。
「……クックっクックッ」
今現在、君嶋に取ってはバトルで不利な材料がそろっている。
それでも、何故笑っていられるのか。
(バトルをやる前から追い込まれてるのは、簡単に分かる……。
だからこそ……面白い!!)
君嶋の視線は、鋭く研ぎ澄まされていた。
騒めくギャラリー達をよそに、スタートのシグナルはレッドを点灯させる。
四気筒のターボエンジンとV6のNAエンジンのエキゾーストノートが、阿蘇の夜空へ向けて威嚇しあうように吠え渡る。
そして……ブラックアウト。
ロケットスタートを決めたのは、当然ながらクサラだ。AWDのトラクション性能に加えて、最高出力は300馬力少し程度ながらトルクは60キロを超えている。
加えて、相当に軽量化されたボディを持つ。スタートダッシュで、NSXに後れを取る訳が無い。
(……このままミラーに写らない位、ぶっちぎってあげるわ!!)
相乃沢は、迫りくるファーストコーナーを鋭く睨みつける。
阿蘇の場合、1コーナーまでのストレートが比較的長い。その加速力に物を言わせて、クサラがNSXを大きく引き離して1コーナーに飛び込んでいく。
ギャラリー達の視線がクサラに注がれた。
「クサラが頭だぜ!!」
「速え!! 流石にWRCマシンだぜ!!」
そして、見事なゼロカウンタードリフトで、鮮やかに1コーナーを駆け抜けていく。
阿蘇で指折りの実力者に加え、モンスターマシンを持ち込んだ相乃沢。この瞬間にギャラリー達は、“ティンバースラッシュ”の勝ちを確信する。
筈だった。
少し間合いを開けてから、1コーナーに迫りくるNSX。
「スタートから、随分離されてるなー」
「ま、相手がバケモノ過ぎるましんだし……」
君嶋は、ギリギリまでブレーキングを遅れさせ、文字通り1コーナーに“飛び”込んできた。
そこから、地面に張り付いているかの様に、グリップしたまま駆け抜けていったマシンを見て、ギャラリー達は言葉を失っていた。
「……見たか?」
「見るも何も……何だよ今のコーナーリングスピードは……」
その速さに、阿蘇のギャラリーは度肝を抜かれるしかなかった。
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