十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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阿蘇のバトルも佳境です。
個人的には、NA派なんですよねー。音の話ですが。


第二十三夜 夢見の生霊の本気

 阿蘇、麓のパーキングスペース。

 バトルが始まりを告げたと同時に、内藤は語り始める。

「あの時のNSXはな……ミッションのギア比が違ってたんだ」

 その言葉に、一同は耳を傾けていた。

「……ギア比が違うって事は、加速を優先させるギア比って事じゃないの?」

 緒方はそう追従した。

「確かに、ギア比は首都高だけじゃなく、サーキットでタイムを詰める時でも重要な要素だろ?」

 魚住も、当然の意見だとばかりに答えた。

「……それと、あのレコードタイムにどんな関係があるんだよ?」

 岩崎は、ギア比とレコードタイムの関連に、疑問を浮かべる。

「……じゃあ聞くぞ。お前さんたちの愛車だが、トップギアでエンジンが回り切った時の速度は何キロだ?」

 内藤は続けて、聞きただす。

「……私のスープラなら、大体330キロだったわね」

「俺のGTOは、環状メインだから300を少し超える位までしか出したことないな。吹け切りでも、320に届くかどうか……」

「俺のR34は……回り切って多分335って所だな。つっても、バトル中にそこまで出す事も殆ど無いもんな。これ以上ギア比をロングにしても、加速が鈍くなるからもう少しローギアにしても良いくらいだぜ」

 岩崎の一言に、内藤はニヤリとする。

「……そういう事よ。

 結局の所、最高速を上げる事と加速力を上げる事は反比例しちまうんだ」

「そんな事、当然じゃない……」

 内藤の意見に、緒方はため息交じりで言い返す。

「……レコードを出した時のNSXは、6速吹け切りで270キロしか出ないギア比だったぜ」

 内藤に告げられ、一同は目を見開いた。

「吹け切りで270って……それこそ、サーキットのタイムアタックマシン位しか、選ばないギア比の選択じゃないか……」

 魚住は驚愕を隠せない。

「ま、あのNSXはシーケンシャルミッションに変えてる。横置きのV6だから、トランスファー丸ごと変えちまうから、ファイナルもLSDもそっくり乗せ換えることが出来る。セッティング変更自体に手間はねぇさ」

 内藤はそう言いながら、煙草を一本咥えた。

「……そういう事ね。C1内回りなら、300キロも出せるストレートなんて無いもの。むしろ加速に特化したセッティングの方がタイムを縮められるわね。

 C1内回りなら2リッター以下のマシンでも、平均速度が低い分腕が有ればハイパワーマシンと十分に戦えるわ……」

 緒方の言葉には、長年走ってきたベテランの見解が含まれるに違いない。

「……超高回転型のNAにプラスして、超クロスのシーケンシャルミッション。それに加えて……君嶋さんのテクニックが合わさればこその、レコードタイムか……」

 岩崎の表情は、珍しく引き締まっていた。

「今回は、その時のセッティングで街道に来てる。

 ……君嶋が本気で街道を攻めたらどうなるか。俺でもどうなるかわからんが……街道の猛者どもに後れを取る事はありえねえぜ」

 悪酔いだった顔つきは消え失せ、内藤の視線は鋭くなっていた。

 

 

 セカンドコーナーに飛び込むクサラ。アクセルオフ時に、アンチラグシステムが働いてエキゾーストがバチバチと音を立てる。それと同時にシーケンシャルドグミッション特有のノイズが、車内に飛び込んでくる。

 きっちり正確なブレーキングから、ステアリングで舵を当てる。僅かにテールがスライドし始めていても、カウンターステアは必要ない。AWDのトラクションと、ずば抜けた低速トルクに任せて、立ち上がりは全開で踏んでいける。

 世界を戦ってきたホンモノのモンスターは、いかなる路面でもその速さを発揮する。しかも、その条件下でもコントロールできる懐の深さは、そこら辺のチューニングカーで引き出せる物ではない。

 

 立ち上がって、相乃沢はミラーを見た時。

(……引き離せていない!?)

 NSXのヘッドライトは、確かにミラーに写り込んでいた。

(そんな……馬鹿げてるわ!!

 街道であのNSXは……WRCマシンと対等に走れるって言うの!?)

 相乃沢の背筋に、冷たい汗が一滴滴り落ちた。

 

 立ち上がりからの加速力では水を開けられる物の、ブレーキングからターンインの旋回性能は軽量ミッドシップのNSXが遥かに優位だった。

(……街道サーキットの中でも、阿蘇は平均速度が高い。

 悪いが……こういう中高速コーナーで、俺のNSXに勝てる奴は居ない!!)

 君嶋にしてみれば、車速の高いコーナーはもっとも得意とするところ。NAのミッドシップと言う、ピュアスポーツマシンの本領を発揮するにはうってつけの場面だ。

 

 

 C1内回りはあまり速度が乗らないと言っても、それはあくまで首都高というステージの中での話。街道と比べれば、アベレージスピードは相当に高くなるのだ。

 それに加えて、首都高でのバトルでもっとも重要なのは、アザーカーを追い抜いていくスラロームのテクニックとなる。

 アザーカーに追い抜きをかける際には、必ずレーンチェンジをしていく。つまり、200キロオーバーの領域で、連続して高速のコーナリングする事と同じ事をしているのだ。

 仮に直線ばかりの湾岸線でスラロームするだけならまだしも、狭く曲がりくねった環状線では、スラロームを繰り返しながらコーナリングもしなければならないのだ。

 つまり、C1を攻める時に、踏み切れる直線など存在しないのだ。

 

 君嶋は、元々高速域のコーナリングに絞って、NSXをチューニングし続けてきた。その内容は、足回りやボディのみならず、エアロダイナミクスにまで及ぶ。

 とは言え、NAエンジンでパワーを引き出すには排気量を大きくする。或いは、極端に高回転まで回せる様にするしかない。同じ排気量であれば、ターボエンジンの方が遥かに大きな出力とトルクを生み出せる。

 数値やスペックだけで言えば、ターボエンジンの方が優位なのは間違いない。

 しかしだ。不利と分かっていながら、何故NAエンジンに拘る人間が居るのだろうか。

 それは、数値やスペックで表せない物。フィーリングであったり、エキゾーストノートであったり、アクセルに忠実に反応するレスポンスだったりと、個々に別れるだろう。

 君嶋も、意図的にNAエンジンに拘る走り屋の一人だ。

 絶対的にパワーで劣るNAマシンで、首都高を戦い続ける事は並大抵の事では不可能だ。

 元々完成度の高いC32Bに、ハイカム、ハイコンプピストン、6連スロットル等、究極とも言えるハイレスポンスなメカチューンを施しても、そのパワーはブーストアップ仕様のRB26DETTにも遠く及ばないのだ。

 

 そこでキーポイントとなるのは、シーケンシャルドグミッションを組み、常にパワーバンドをキープできるギア比なのだ。

 トルクの細い高回転型のNAエンジンでは、エンジンのパワーの発揮できる回転域を保っておかなければ、速く走る事は出来ない。だからこそ、ターボ車以上にギア比の設定が重要となるのだ。

 マックスで270キロしか出ないと言うギア比も、C1内回りではそれ以上の速度は必要ないと踏んで設定したもの。あくまで、レコードだけを狙った裏セッティングなのだ。

 

 

 中速コーナーが連続する阿蘇のコースと、鋭い旋回性能をもつNSXの組み合わせは、鬼に金棒。クサラとの距離をみるみる縮めていく。

(……悪い夢でも見てるみたい。このクサラが遅い訳がありえないもの……。

 あのNSXは……速すぎる!!)

 NSXのヘッドライトが、ミラー目一杯に写る程接近してきた。相乃沢は、しきりに後ろを見てしまう。

 

 当然クサラが遅い訳では無い。君嶋の速さが異常なのだ。

(……捉えたぜ)

 君嶋の口元がニヤリと笑った。

 

 君嶋の速さを語る上で、異常な速さを見せるコーナーリングは欠かせない。

 ミッドシップの場合、エンジンが真ん中にレイアウトされる。車の中でもっとも重量物であるエンジンが車体の中央にある為、理想的な重量バランスを得られる。従って、ステアリング操作に対し、ダイレクトな反応をする旋回性能を得られる。それ加えて、駆動輪の上に重量物が乗る為、トラクション性能も優れている。

 F1に代表されるレーシングマシンがミッドシップである事から、走行性能だけを求めた究極のレイアウトと言えるだろう。

 半面、限界域が非常に高い故に、ドライバーの技量が問われる事も事実だ。ブレーキングでフロントに荷重を乗せられなければアンダーにしかならないが、乗せ過ぎればオーバーステアになって即スピン。ステアリングワークにしてもアクセルコントロールにしても、少しでもラフに操作すれば、オーバーステアに陥りやすい。

 中途半端なテクニックでは、そのポテンシャルを引き出す事は不可能なのだ。

 

 君嶋はその速さを維持するに、極めて高度な荷重コントロールする事で、ミッドシップレイアウトの優位性を引き出している。これこそが、レーシングマシン並みにシビアなマシンを手足の如く扱う、究極のドライビングテクニックなのだ。

 

 

 バトルは中盤に差し掛かっている。

 緩やかな下り勾配。右の中速コーナーで、NSXのノーズがクサラに張り付いた。

(……もう真後ろまできてるなんて。悪い夢でも見てるみたい……)

 相乃沢の背筋に、悪寒が走る。

(……さて。どう仕留めるか……)

 君嶋は、クサラのテールランプを睨みつけた。

 

 君嶋の荷重コントロール。それは、アクセルを踏みながら、ブレーキングを行う事にある。つまり、前後の荷重移動を素早く可能にするテクニック。

 それは“左足ブレーキ”だ。ラリーなどでは必要不可欠なテクニックとして知られているが、現代の2ペダルのレーシングカーでも当然の様に使われている。

 右足でペダルを踏みかえる必要が無いため、ロスなく前後の荷重を移し変えることが出来るのだ。それに加え、君嶋は左右の足で器用に踏力を変えて、細かく荷重移動をコントロールしている。

 レース用のシーケンシャルドグミッションを組むNSXであれば、スロットルで回転さえ合わせればクラッチを使わずシフトチェンジも可能となる。君嶋は、スタンディングスタート以外では、一度もクラッチを踏んでいないのだ。

 

 十三鬼将、否。首都高で最強とも言えるNA使い“夢見の生霊”が、本気で街道を攻め立てる。

 相手のミラーに己のマシンを写し込ませ、プレッシャーを与え続ける。長きに渡りトップに君臨する走り屋の気迫が、相乃沢を徐々に追い詰めていく。

(……こんなバケモノが相手になるなんて、思いもしなかったわ)

 背後からくる強烈なプレッシャーと格闘し続けるが、阿蘇の闇夜を切り裂くV-TECのNAサウンドが、相乃沢を苦しめていた。

 

 

 




次回で、阿蘇のバトルも決着です。

ご意見、ご感想、車談義などお待ちしてます。
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