十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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投稿遅れて、申し訳ありません。
阿蘇のバトルも、いよいよ決着です。


第二十四夜 ロックオン

 

 クサラとNSXがテールトゥノーズをキープしたまま、中間地点を通過した。

 既に射程圏内に捉えられている相乃沢は、しきりにミラーで君嶋の出方を覗いみてしまう。

(インを少しでも開けたら、きっと刺される……)

 ロックオンされた状態で、先行にかかる重圧はとてつも無く重いものだった。

 

 相乃沢は、インに飛び込ませないようブロックラインをキープしてブレーキング。

(……つまらん技で抵抗するつもりか?)

 クサラのライン取りを見て、君嶋はすかさずアウトラインからレイトブレーキングを仕掛ける。

(……嘘!?)

 コーナー進入で、NSXのノーズを滑り込ませる。ミッドシップマシンのコーナーリング性能をいかんなく発揮させて、一気に並びにかかる。

(……でも立ち上がり加速なら!!)

 相乃沢がフルスロットルをくれると、再びクサラが前に出る。立ち上がり加速だけは、WRCマシンの威力を炸裂させる。続くヘアピン進入では、もう一度ブロックラインを通り君嶋を牽制。

 しかし、またもアウトラインからNSXがノーズを突っ込ませて、サイドバイサイドに持ち込む。

(……アウトから抜ける訳がないじゃない!!)

 立ち上がり加速に、絶対の自信を持つ相乃沢。立ち上がり加速の苦しいインベタのラインでも、NSXに後れを取る訳が無い。再度リードを奪い返した。

 

 リプレイを見ているかのような展開に、ギャラリー達の歓声は鳴りやまない。だが、君嶋は相手を確実に追い詰めていた。

 コーナリングに優れたNSXに加え、高度なドライビングテクニックを持つ君嶋をもってしても、WRCマシンをアウト側からオーバーテイクする事は不可能に等しい。

 では、何故アウトからブレーキング勝負を再三仕掛けているのか。

(……リズムが確実に狂ってるぜ)

 君嶋の最大の狙いは、それだった。

 

 左の複合コーナーが迫りくる。相乃沢は、またもインを閉めるブロックラインを通りながら、レイトブレーキング。

 そして、君嶋もアウトから並びかける。が、またまた立ち上がりでリードされる。全く同じ展開の攻防が続く。

(……レイトブレーキングは、そうそう多用するもんじゃない。急激な荷重移動を起こすって事は、それだけマシンの挙動を乱すって事だからな……。

 タイヤが食い付く内はまだ良いが……タレ出した瞬間に同じ走りは出来ないぜ!!)

 君嶋は、そこまで展開を読んでいたのだ。

 

 再三アウトからプレッシャーを与えられる間に、相乃沢はレイトブレーキングを多用せざる負えなくなっていた。

 しかも、ブロックラインを使い続けるという事は、レコードラインを外れているという事になる。それだけ分、タイムを落としている上に、タイヤへの負担を増やしている。

 

 相乃沢は、まんまと君嶋の術中に嵌められていたのだ。

 

 

 追い込まれた相乃沢は、完全に自分を見失っていた。

(……とにかく抑えなきゃ!!)

 それしか考えられなくなり、本来の走りを出来ないまま、ブロックを続ける。その重圧に追い詰められ、綱渡りの様な精神状態のドライビングが続き、相乃沢の集中力は限界に達していた。

 

 

 いよいよ、バトルも終盤に差し掛かる。

(……ここさえしのげば、パッシングポイントはもう無いわ!!)

 残りの距離を把握し、相乃沢は気合を入れなおす。短いストレートを挟み、右の中速コーナーを抜けるとヘアピンが連続する低速セクションになる。

 コーナーが連続する区間は、NSXの方が有利となる。だからこそ、何が何でも前に出す訳には行かないと考えていた。

(……あと少し抑えれば)

 ストレートを駆け抜け、中速コーナーが迫り来る。

 クサラは再びブロックラインを通り、フルブレーキング。

 丁寧にクリッピングポイントを舐め、相乃沢はミラーを見た。

(……NSXが居ない!?)

 今の今まで、ルームミラーに反射していたヘッドライトが消えているのだ。

(まさか……)

 相乃沢は、咄嗟に左ウインドウに視線を向けた時。

(……隣に居る!?)

 再び、アウトからサイドバイサイドに持ち込まれていた。

 

 並走のままコーナーを駆け抜ける。イン側はクサラが死守しているが、NSXの方もコーナーリングスピードを殺さないラインをキープ出来る。

 大外から君嶋のNSXがクサラを仕留めにかかった。

(抜かれる訳には……いかない!!)

 中速コーナーを立ち上がり、今度は左のヘアピンへのアプローチ。NSXとクサラが並んだまま、ブレーキング勝負。

(……お願い!!)

 相乃沢は、限界のレイトブレーキングを仕掛けた。

 しかしだ。

(……バカが!! 突っ張りすぎだぜ!!)

 NSX以上にブレーキングを我慢した相乃沢を見て、君嶋は心の中で罵った。

 

 限界を超えたレイトブレーキングは、大きな荷重移動を引き起こす。フロントに大きく荷重が移るという事は、必然的にリアの荷重が抜けてしまう。

「……ッ!?」

 極端なノーズダイブを起こしたクサラは、ステアリングに応じて急激なヨーイングを引き起こしていた。加えて、リア荷重が抜けていた為に、大きくテールが流れ出してしまう。

(……ヤバい!!)

 相乃沢は、咄嗟にフルブレーキングを試み、四輪のタイヤを一瞬フルロックさせた。

 

「…………!!」

 クサラの極端な挙動を、君嶋はよく見極めていた。

 スピンモードになった動きを察知し、180度回転した一瞬を判断して、紙一重でクサラの脇を擦り抜けてみせた。

 かすりもしないまま、NSXは悠々と阿蘇を走り続ける。

 対して、クサラは更にもう180度回転してから止まってしまうのであった。

 完全にストップしたクサラの周囲から、タイヤスモークが立ち上った。

(私は完全に追い込まれてた…………完敗だわ)

 相乃沢は、がっくりとうなだれるしかなかった。

 

 阿蘇の夜空に、C32Bの甲高いエキゾーストが木霊し続ける。それは、まぎれも無く勝利の咆哮だったに違いない。

 

 

「……そうか」

 バトル結果を見て、雑司ヶ谷は少し複雑な胸中だった。

(……皮肉なもんだぜ。

 普段はロータスエキシージに、相乃沢は乗ってる。そしてバトルに勝つために、クサラWRカーを持ち込んだ。

 にも関わらず、同じミッドシップのNAマシンである、NSXに負けてしまうなんてな。

 勝つ為の選択肢が裏目に出た……そう思えてならないぜ)

 雑司ヶ谷は、阿蘇の山々を遠い目で見つめていた。

 

 

 麓のパーキングスペースで、明暗のくっきり分かれた両者が、再び対峙する。

「……私の完敗ね」

 相乃沢の表情からは、悔しさと自身の不甲斐なさがにじみ出ていた。

 対照的に、君嶋はポーカーフェイスを保っている。

「……あんたは、ストリートを走る鉄則を知ってるか?」

 唐突に、君嶋はそう切り出した。

「鉄則……?」

「……ああ」

 少し相乃沢は、考える素振りをみせた。

 そして、出した答えは。

「……マージンのコントロールかしらね。

 エスケープゾーンの無いストリートコースだったら、ワンミスが即クラッシュに繋がるもの……」

 相乃沢の回答を聞き、君嶋はこう答えた。

「……つまらん答えだな」

 そう言われ、相乃沢の表情はムッとしたが、構う事無く君嶋は口を開く。

「確かに、マージンやリスクのコントロールは必要だ。だが、リスクを冒さずしてバトルに勝つ事は出来ないぜ。

 まして、パワーの劣るマシンで戦うのならな」

「……だったら、貴方の答えを聞かせてもらおうかしら」

 相乃沢に問われ、君嶋の出した結論は。

 

「……迷わない事だぜ」

「迷わない……?」

 戸惑いを見せる相乃沢。

「一瞬の迷いが、瞬時の判断を鈍らせるからな。だから、最初に聞いただろう?

 そのマシンと死ねるか……ってな」

「…………確かに、貴方はそう言ったわね」

「……俺はコイツとなら、心中しても構わない。そのつもりで走ってる」

 君嶋の言葉に、相乃沢はぐうの音も出せない。

「……勝ちを狙うあまりに、コースに有利なマシンを借りるのも手段の一つだろう。

 だがな……。

 そうまでして走る事が、俺には楽しいと思えないぜ」

「…………」

「……自分のほれ込んだマシンで、走る事。それが“走り屋”の有るべき姿だと俺は思うぜ」

 そう告げて、君嶋は振り返った。

(……私が敵う相手じゃなかったわ。格が違い過ぎるもの……)

 相乃沢に見えるその後姿が、とてつもなく大きな姿に見えていた。

 

 “夢見の生霊”が首都高トップの貫録を見せつける勝利。これで、双方の戦績は五分となった。

 

 

「お疲れ。良い走りだったわよ」

 そう労う緒方。

「……WRCマシンを相手にしながら手玉に取るとは、見事な物だな」

 魚住は感心しきりだ。

「お疲れさん。あー……頭いてえ」

 内藤は、まだ酒が抜けていないようだ。

「さすがだわ~。伊達にベテランじゃないねぇ~」

 岩崎も、賛辞を贈る程だった。

「お前らも見に来てたか……」

 しかし、仲間の出迎えにも君嶋の反応は淡々としていた。

「つれないねー。はるばる応援にきたってのによ」

 つまらなさそうな反応に、岩崎はついつい口を尖らせていた。

「……人の応援をしている余裕があるのか?

 あとはお前の出番だけだぞ?」

 君嶋にそう告げられると、岩崎はニヤリと不敵な笑みを見せる。

「大丈夫だぜ。

 これでも、裏で色々動き回ってたし……色々と秘策は仕込んであるさ」

「……だと良いんだがな」

 君嶋の反応は至極冷めていた。

(……本当に大丈夫かしらね?)

 呆れ交じりで、緒方は岩崎を見つめる。

(……この男の策は当てにならんからな)

 魚住も、半信半疑といったところだ。

(……また気持ち悪くなってきたぜ)

 絶賛悪酔い中の内藤は、そっちで頭が一杯だった。

 

「……いよいよ真打登場だぜ」

 そう呟いた岩崎の顔には、自信が漲っていた。

 残るバトルはあと一つ。最終決戦へのお膳立ては整っていた。

 

 

 某所。

 とある男が、阿蘇のバトル結果をパソコンで見ていた。

(……WRCマシンを持ち込みながら敗北するとはな。所詮は……走り屋でしかないという事か……)

 しかし、男は冷静であった。

「まあ、いいさ……。

 俺の標的は“迅帝”……岩崎基矢。奴さえ撃墜できればな……」

 あえて口に出した時、その表情には恨み辛みが浮き出ていた。

「俺様の“S2000”で……アイツに味あわされた屈辱を、倍にして返してやるぜ……」

 

 残るバトルは最終曲面へ……。

 




次回は、もっと早く投稿できるように頑張ります。

次回より、最終決戦です。お楽しみに!!
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