十三鬼将とキングダムトゥエルブの激闘も、いよいよ大将同士の決戦を残すのみとなった。ここまでの戦いで、両者の戦績は五分であり、走り屋系の掲示板でも、その話題は連日取り上げられている。
そして、最終ステージの舞台に選ばれた街道サーキット。
そこは北の大地、北海道だ。
各街道サーキットは主にアスファルトの公道を改良した所ばかりだが、この北海道の街道サーキットは一味違う。
何故なら、ここに関しては北海道で開催された、WRCジャパンで使用していたスペシャルステージの一部を、街道サーキットとして生まれ変わらせたのだ。
その為、全面グラベル(未舗装)の路面となる。ラリーストが通い詰める事も多いが、気軽にWRCの気分を味わえるよう、本格的なラリーマシンをレンタルして走る事も出来る。
ピットエリアや、ギャラリースタンド、ライブモニターなど、他の街道サーキットよりも本格的な設備が揃っている事も大きな特徴とも言える。
当然、全日本ラリーのスケジュールにも組み込まれている、由緒正しい“街道サーキット”なのである。
決戦当日、昼過ぎ。
この北の大地に降り立った、十三鬼将の面々。桐山、佐々木、黒江、大塚の四人が第一陣として、この街道サーキットにやってきた。
「ここが最終決戦の舞台か……」
ここまでの戦いを振り返る様に、桐山は呟いた。
「まさかグラベルコースでバトルとは思わなかったぜ」
佐々木は、まさかのコース選択に驚きを隠せないでいた。
「……他の連中は、何時来るの?」
「さっき空港についたらしいぜ。二時間くらいしたら来るだろうな」
黒江に聞かれ、大塚はそう答えた。
夕方辺りから、この北海道の街道サーキットに続々と人が押し寄せており、夜になるとギャラリー席は満員御礼となっていた。
「……すっげぇ人だな」
その光景を見ながら、ポツリと呟いた男。
“エモーショナルキング”の称号を持つ男。フォーエバーナイツと異名を取る鴻上大樹は、異様に盛り上がる光景に圧倒されていた。
街道サーキットで最高の栄誉を持つ鴻上にとって、十三鬼将とキングダムトゥエルブの激戦の数々は興味を持つ事は当然だった。
「鴻上君。お久しぶりね」
その鴻上に話しかけてきたのは、堀井真紀だ。
「おっ……。誰かと思えば、堀井の姐さんじゃないっすか。ここんところ、随分とご無沙汰だったじゃないっすか」
「ええ。このところ、立て込んでてね……」
そう答えると、しばしの沈黙。
先に口を開いたのは、鴻上だ。
「姐さんは……このバトル、どっちが勝つと思ってるっすか?」
少し考える素振りを見せてから、堀井は答えた。
「そうね……。個人的には、岩崎君に買ってもらいたいと思ってるわ。でも……」
「……首都高最速の走り屋。と言っても、不慣れな街道サーキットに加えて、路面はグラベル。
まぁ、迅帝にしてみれば、不利な条件はそろってるもんなー」
鴻上の言葉に、堀井の首は縦に動いた。
「……それに加えて、最近このコースで正体不明の黄色いS2000が良く出現していたって話をよく聞いたのよ。
とんでもない速さで、グラベルを駆け抜けていくマシン。
正体は恐らく……」
「“街道プレジデント”……覇魔餓鬼さんで間違いないっすね。
……俺も後ろに何度か張り付かれたんすけど。マジでバトルしたら……負けっかもしれないっすわ」
「…………」
不穏な空気が、北海道の街道サーキットを包み始めていた。
そして、ピットエリアで対峙する、ここまで激闘を繰り広げてきた両陣営が対峙する。
この最終局面で初めてその正体を現した、キングダムトゥエルブの首謀者とその愛機。
「……まさか、我がキングダムトゥエルブが、貴様らにここまで追い込まれるとは思いもしなかったぜ」
“街道プレジデント”の異名を持つ、覇魔餓鬼は、そう言いながら十三鬼将を出迎えた。しかし、その表情には余裕が垣間見える。
対峙する“迅帝”、岩崎も不敵に笑みを作る。
「そりゃそうだろ。
……俺一人で全部バトルしてたら、アンタらキングダムトゥエルブ全員、まとめてぶっちぎってるぜ?」
その一言に、キングダムトゥエルブ、及び十三鬼将の面々から顰蹙の言葉が飛び交う。
「なんだと!?」
真っ先に批判の声を出したのは、桐山だ。
「ふざけた事抜かすんじゃねー!!」
佐々木も同調するように、ブーイングを上げる。
「そうよ!! だったら最初から一人で走りなさいよ!!」
黒江も文句を上げる。
「……調子に乗るなよ、バカが」
寡黙な君嶋も、呆れ気味に批判する。
主に味方からの罵声を一斉に浴びるが、岩崎は淡々としている。
「……舐めやがって。たかが、走り屋風情の癖に思い上がるなよ?」
覇魔餓鬼は、岩崎を鋭く睨みつける。
「……走る前に一個聞かせろ。アンタが街道にキングダムトゥエルブを送り込んだ理由はなんだ?」
岩崎も、睨みつける様に覇魔餓鬼を見た。
「簡単な事よ。
低次元で争う“走り屋”を排除する事だ!!」
覇魔餓鬼の言葉に、ギャラリー達やキングダムトゥエルブの面子から、どよめきの声が上がっていた。
「……排除?」
「そうだ。
この国のレーシングドライバーで、世界で戦えているドライバーは殆どいないだろう。自動車メーカーや、国内のパーツブランドが世界でトップ争いをしているにも関わらずな。
その為には、ドライバーのレベルアップを図るしかない。だからこそ、低次元なドライバーを振るいにかけて落とす必要があるだろう。
だからこそ、走り屋等と言う道楽は、邪魔な障害物でしかないのだ!!」
「……その為に、キングダムトゥエルブを結成したって訳か?」
「その通りだ。
我がキングダムトゥエルブこそ、最強のラリーチームとなり、手始めに街道を掌握。そして……いずれは首都高のみならず、各地の走り屋も排除するつもりだったさ。
だが、そこに……貴様ら十三鬼将が邪魔してくる等と思いもしなかった。しかも、首都高の走り屋如きに、苦戦する等と予想もしていなかったがな……」
「…………」
岩崎は何も答えない。
しかし、一番困惑していたのは、覇魔餓鬼が率いてきたキングダムトゥエルブだったに違いない。
「アンタ……俺達を利用してたのか?」
まず口を開いたのは、“禁断のハールバート”こと佐竹だ。
「冗談だろ? アンタは最強の街道チームを結成するのが目的だって言ってたじゃないか?」
“根絶の騎馬”こと伊達も、覇魔餓鬼に問い詰める。
「確かに最強の街道チームを作る目的は変わっていない。
少なくとも、首都高の走り屋程度に苦戦する様な奴は、必要ないがな」
覇魔餓鬼は突き放す様に言ってのける。
「……あの時と同じ様に“迅帝”が、この俺を邪魔してきやがる。本当に、貴様は忌々しい存在だ」
覇魔餓鬼の表情には、岩崎への怨念じみた感情がにじみ出ていた。
「計画が失敗してるのは……お前がヘボだからだろ?
そんなくだらねぇ計画、お前の好きにしろって話だぜ。まぁ……こっちを狙ってる以上、俺も本気で返り討ちにしてやるけどな」
岩崎の言葉に、覇魔餓鬼はヒートアップする。
「……あの時と同じと思うなよ?
このS2000は、あの時バトルしたマシンその物だが中身は別物だ!!」
周囲の視線が、覇魔餓鬼の後方に陣取るワイドフェンダーを纏う、黄色いS2000に注目があつまる。
「……ほー。グラベルでS2000で走れるのか?」
岩崎の言葉はもっともだ。
「F20C改2.4リッター仕様に、ターボとスーパーチャージャーを組み合わせたツインチャージ。
当然、足回りも強化し、ボディ補強も軽量化も、エアロダイナミクスも徹底的に行っている。
しかも……こいつは元々FRのS2000をベースに、インプレッサ用のセンターデフとフロントのドライブトレインを流用して、AWDに改造した究極のモンスターだ。
ターマックだろうがグラベルだろうが……このマシンで全て制圧してやろう!!」
覇魔餓鬼の愛機は、それこそS2000の皮を被った、怪物マシン。そのスペックだけなら、パイクスピークでも戦える戦闘力を秘めているだろう。
「……ほー。随分と金かけてんな……。インプかエボに乗り換えた方が安いんじゃねぇ?」
岩崎は、半ば挑発めいた言葉で牽制する。
「……貴様をこのS2000で撃墜する為に、ここまで仕上げたまでよ。
そもそも、貴様のマシンもここに無いだろうが。迅帝ご自慢のGT-Rはどうした?」
覇魔餓鬼に言われ、岩崎は一度腕時計で時刻を確認する。
「……バカ言いやがれ。ダートでGT-R走らせたら勿体ねえだろうが。
もうじき、来るはずだ」
「……ほう」
岩崎がそう言った直後、この北海道の街道サーキットに、一台のローダーが滑り込んできた。
そのローダーには“ファクトリーFUJI”と控えめにデカールが貼ってあり、荷台にはカバーに包まれた、一台のマシンが積載されている。
「……ったく。毎度毎度、無理な注文を言いやがって。ここまでの輸送費まで、耳を揃えて払ってもらうからな」
ローダーから降りてきたのは、ファクトリーFUJIの代表である藤巻直樹だ。岩崎と顔を合わせると、早々に文句を言い始めていた。
「……そう怒鳴んなよ、藤巻さん。
でも、おかげでこのバトルのお膳立ては整ったぜ」
「ま、こっちも仕事で引き受けてる以上、手は抜かねぇさ」
お互いに顔を合わせて、ニヤリと笑う。
そして、荷台をスライドさせて、積載されていたマシンを地面に下ろした。更に、マシンを覆うシートを引き剥がして、ベールに包まれたそのマシンを露わにした。
ついに正体を見せた、迅帝の愛機。
蒼いカラーリングと、壱・撃・離・脱のデカールは、GT-Rと相違は無い。しかし、そのマシンは……。
「……GDBのインプレッサだと!?」
そのマシンを見て、覇魔餓鬼は声を荒げた。
「こいつが、てめえの相手になるマシンだ。バトル相手にとって、不足はねぇだろ?」
「…………コース以外は、あの時と同じ条件だな。面白い……」
覇魔餓鬼の口元は、ニヤリとした。
「俺は、走り屋だ。走り屋としての意地を見せてやるよ」
岩崎は、断言した。
交錯する視線は、互いの愛機を睨みつけている。
最終決戦の火蓋が、今切られようとしていた。
迅帝は、街道バトルシリーズに参戦した際は、丸目のインプレッサに搭乗していました。