十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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最終バトル中盤戦です。


第二十七夜 迅さの皇帝

 

 S2000とインプレッサの差は約一秒半。パワーの劣るマシンで、この差を埋める事は並大抵の事では不可能だ。

 ギャラリーの大半は、そう思っていたに違いない。

 

 右、左と、中速のコーナーが連続するセクションに、双方が突っ込んでくる。このコーナーは極めて速度が乗っている分、北海道の中でも特に鬼門とされる。

 “根絶の騎馬”伊達と“1stKINGDOM”古屋が、二台の動向を見守る。

「やはり、奴が前か……」

 先行するS2000を見て、伊達は苦々しく口を開く。

 

 覇魔餓鬼はセオリー通りに減速し、アンダーを嫌いフェイントモーションを使って進入。

 ラリー特有のテクニックを使い、モンスターマシンをねじ伏せる。

「見事なものだ。かつて、街道を制していたテクニックは並みじゃない……」

 古谷はそう評した。

 

 そして、少しでも差を詰めたい岩崎は。

(イン側の路肩をカットすりゃ……)

 一つ目の右コーナーに、あからさまにオーバースピードで飛び込んでくる。

「あいつ……あのスピードで突っ込んでくるのか!?」

 その速度に伊達は、思わず逃げる体制を作った。

「そんな……曲がり切れる訳が無い!?」

 古谷も同様に、大クラッシュするインプレッサが頭に浮かぶ。

 

 しかしインプレッサは、一つ目の右コーナーのイン側の路肩を飛び越える。

(……もう一丁!!)

 しかも、そのまま真っ直ぐに、二つ目の左コーナーもイン側の路肩も飛び越えて立ち上がって見せた。

 連続するコーナーの、インのそのまたインを、一直線のラインでぶち抜ける荒業でクリアしていく。

 

 無茶苦茶な走りだが、インプレッサの通過速度は、明らかにS2000を上回っていた。

「何だよ、今の走り方は……?」

 岩崎の見せたその気合に、古谷は呆気に取られるしかできない。

「あんな走り方じゃ、何時クラッシュしてもおかしくない……。

 完全にキレてやがる……」

 伊達は、背筋が凍るような錯覚に陥っていた。

 

 この二つのコーナーで、S2000とインプレッサの差が一気に縮まる。

 覇魔餓鬼は、当然その事に気が付いた。

(……バカな!?)

 ミラーに反射するインプレッサのヘッドライトが、明らかに大きく映り込んでいる。

(……こっちはベストラインでクリアしてるにも関わらず、何故ここまで追い上げられているんだ!?)

 覇魔餓鬼の中に、初めて焦りが生まれていた。

 

 

 緩い右の高速コーナーを抜けると、北海道で最も長いロングストレートになる。

 “無敗のエンブレム”劔は、二台の距離が一層接近している事を見逃さなかった。

「やっぱり、あのインプレッサは只者じゃないね」

「そりゃ……十三鬼将の大物だしな」

 共に見物する、“戦矛の鉄槌”富津は、冷静に答える。

「やっぱり、ダートならGT-Rよりはインプレッサをえらぶよなぁ……」

 冨津は、少し残念そうだった。やはりGT-R使いだけに、首都高最速を誇るGT-Rの姿を、拝みたかったのだろう。

「確かに、グラベルならインプレッサの方が有利だよ。

 だけど……それだけじゃ無い。あのインプレッサは、歴代でも屈指のスパルタンモデルである、“丸目スぺC”をベースにしてるのさ」

 劔が応えると、S2000とインプレッサが、ストレートをカッ飛んでいった。

 

「……そんなにすごいのか? あのインプレッサは?

 確かに速いが……」

 冨津の疑問に、劔は解説を始める。

「GDB自体、デビュー当初の評価はかなり低かったね。

 大きく重くなったボディに加えて、安定方向に振ったステアリング特性で、アンダーステアを誘発しやすい。

 GC8よりは確かに速くなったけど、同時期のAWDマシン……ランサーエボリューションⅦや、R34スカイラインGT-Rには敵わなかった。

 その結果、ファンの評価は著しくなかった……。R33GT-Rもそんな感じだったよね?」

 劔の回答に、冨津はコクリと頷いた。

「そんな中で、起死回生とも言えるモデルを投入した。

 それが“WRX-RA・STIバージョンスペックC”になるんだ」

「……標準のGT-RとVスペック位に違うのか?」

「いや……そんなレベルじゃ無いね。

 標準よりも装備類を削る軽量化に、足回りやボディの徹底的な補強等で、ノーマルモデルより遥かにスパルタンに仕上げた仕様となったんだ。

 その結果、後塵を拝していたランエボⅦやR34GT-Rに、勝るとも劣らない性能を持ち合わせたんだ」

 自信がほれ込むインプレッサの事を語る、劔の口は滑らかだ。

「……ベースマシン的には決して劣っちゃいない訳か」

 冨津は感心したように呟く。

「ええ。もっとも……あのS2000もかなりのモンスターだからね……。

 このバトルが、このまま終わるかどうか……」

 しかし、劔は一抹の不安を払拭できないでいた。

 

 

 ロングストレートを抜けると、ここからは低速コーナーが連続する区間に入る。

 平均速度の高い北海道では、この速度の落ちる区間は、オーバーテイクの仕掛けられる唯一のセクターと言っても過言ではない。

「……あの覇魔餓鬼さんが、まさか走り屋を排除するのが目的なんてよ。

 何がキングダムトゥエルブだよ……」

 “禁断のハールバート”佐竹は、やるせない気持ちを隠せないでいる。

「今更ウダウダ言ってもしかたねぇだろ。今は、バトルが終わるのを待つしかねぇさ」

 佐竹の師でもある“鋼の琥珀石”相馬はなだめる様に声をかけた。

 しかし、このポイントでギャラリーしているのは、キングダムトゥエルブの師弟コンビだけではない。

「……やっぱ、相馬らもここでみてるか」

 相馬と古い知り合いでもある内藤。

「パッシングポイントとなるなら、やっぱり低速区間のエリアになるからね」

 そして、相馬と碓氷で激闘を演じた竹中も、ここでの見物を決めていた。

「アンタたちもここを選んだか……」

 相馬はそう言いながら、チラリと目を向ける。

「まぁな。

 んで……相馬は、このバトルをどう見るよ?」

「そうだな……。

 スペックだけなら、確実にあのS2000が有利なのは間違いないが……」

 内藤の質問に対し、相馬は思わせぶりに答えた。

「四駆に改造した上に、ツインチャージャー……。

 エンジンの搭載位置が違うけど、丸でランチアデルタS4を思い起させるよ。そんなバケモノに、インプレッサで勝てるとは……」

 竹中は不安げな表情を作っている。

「いくら迅帝が速いって言っても……そんなバケモノに太刀打ちできる訳が無いじゃん」

 佐竹も、ほぼ同意見だった。

 

 その意見を聞き入れた上で、相馬はこう付け加えた。

「ただ……そのバケモノスペックに車体が追いついてるかは疑問だがな」

 その言葉に、内藤はニヤリと笑う。

「車体が追いついてる……?」

 佐竹は思わず聞き返した。

「……スペックだけなら、多分5~600馬力は軽く出てるだろうな。しかも、四駆に改造してるなら、ダートのトラクションも悪くねぇだろう。

 ただ……S2000のシャシーじゃ、明らかにオーバースペックになっちまうな」

 内藤は断言した。

「……そこまでチューニングしてるなら、ボディ補強とかもしっかりしてるだろうし、エアロも変えてたけど?」

 竹中は、そう聞き返した。

「いや……そういう次元の問題じゃねぇな。

 確かに、S2000は素性の良い車だぜ。車体のバランスも優れてる。ただし、元々の基本設計は2リッターのNAエンジンで走る事を前提に設計してるんだ。

 単純にパワーを上げたりとか、足回りを強化するとか……。そういうチュー二ングをする以上、元々のバランスを崩すって事はまぬがれねぇ」

「バランスを……?」

「……崩す?」

 内藤の言葉に、竹中と佐竹は頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「……むやみにパワーを上げれば、トラクションは得られない。軽い車体に、デカすぎるブレーキじゃ、バネ下重量は重くなりすぎてハンドリングは悪化する。

 車の何か一つの部品を変えれば、その代償に何処かの性能は落ちてしまう。そういう事だぜ」

 相馬はそう追従した。

「そういうこった。

 あのS2000みてぇに、パワーやトラクションを桁違いに上げて、それに耐えられるだけのボディ補強する。

 だが、元々が2リッターのマシンで受け止められるパワーの許容範囲を、軽く超えちまってる。

 そうなると、あのマシンは恐ろしく乗りにくいマシンになっちまう。恐らく、限界付近の特性は、極端にピーキーになってるだろうぜ」

 内藤はそう言い切る。

「……確かに、ランチアデルタS4もそうだ。

 恐ろしく速いマシンだけど、乗りこなせる人間は“ヘンリ・トイヴォネン”しか居ないと言われていた。

 だけど……そのトイヴォネンも、ツールドコルスで散ってしまった……」

 そう語った竹中の表情は、グッと引き締まる。

「……モンスターマシンだからこそ、こういう低速の区間では苦戦する。

 だから、ここでバトルを見極めるって訳か……」

 佐竹は納得した様に言う。

 

「ただ……それだけじゃないって、内藤は言いたそうだぜ?」

 相馬は見透かしたように聞く。

「まぁ……な」

 内藤は一呼吸置いてから、再び口を開く。

「……岩崎が、何で短期間で首都高のトップに上り詰めたか……わかるか?」

 そう言われ、竹中は少し考え込んだ。

「……ハイパワーマシンをねじ伏せるドライビングテクニックは勿論だけど、最高速度域で踏み切れる度胸もある。

 だけど……俺達と、決定的に違う点が分からない」

 竹中が何とかひねり出した答えには、決定打が足りていなかった。

「……スラロームの見切りが、あいつは抜群に上手い。それに加えて、その一瞬の判断で一切迷わねぇ。それに尽きるな」

 竹中だけでなく、佐竹も相馬も、内藤の言葉に自然に耳を傾ける。

「どこでどう動くか分からねぇアザーカーの群れの中でも、自分のマシンを通せるラインを一瞬で見極めてる。

 一般車を上手く使って、相手の前に出る。口で言うのは簡単だが、実行するには並大抵の事じゃ無理だぜ。それこそ、10年以上首都高を走ってる俺でもな。

 それこそ、あの見切りの方は“天性のモン”だろうな」

 内藤は断言した。

「でも……アザーカーの無い街道サーキットで、その天性の才能は役に立つのか?」

 竹中が、間髪入れないで聞き返す。

「間違いなく、立つな。

 後追いなら……相手のブロックを掻い潜って、オーバーテイクできるラインを見つけ出せるぜ。

 こういう、ラインの交錯するセクターで……アイツは勝負に出る」

 その言葉に、一同はハッとなる。

 

「“迅(はや)さ”の“皇帝”……迅帝の異名は飾りじゃねえ」

 

 内藤の予言は、的中するのか。

 バトルはいよいよ終盤へ……。

 

 




迅帝の異名の由来を考えてみました。
似合ってます?

いよいよ、次回にて決着です!!

感想、ご意見、車談義等、お待ちしてます。
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