十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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いよいよバトル決着です。


第二十八夜 ラストコーナー

 

 

 北海道で唯一トップギアに入るロングストレートからのブレーキングは、グラベルの路面と相まって、攻略難易度は恐ろしく高い。

(ここのセクターのブレーキングはシビアになる……。

 問題は、奴がどう仕掛けてくるか……)

 ミラーに写り込むインプレッサのヘッドライトを見て、覇魔餓鬼は次の一手を模索する。

 

 対して、岩崎は。

(ストレート勝負になったら勝ち目は無いしな……ブレーキングで飛び込まない手はないぜ!!)

 真っ向からのブレーキング勝負を狙う。

 

 ストレート後に緩い左コーナーを抜け、高速の右コーナーの直後に左の低速コーナーと続く。

 横Gがかかりながらのブレーキングとなる為、むやみに強いブレーキングでは進入で挙動を乱してしまう。加えて、無理な突っ込みでは理想的なライン取りをトレースする事は不可能となる。

 覇魔餓鬼は可能な限り直線的なラインで進入し、セオリー通りのラインでブレーキングを試みる。挙動の乱れを抑えつつ、ブロックラインも通れるという最善の手段だ。

 

 コーナーの特性上、無理な進入は厳禁なのだが。

(……ここで勝負だぜ!!)

 岩崎は、乾坤一擲のブレーキングでS2000にアウトから並びかける。

(アウトから並ばれただと!?)

 覇魔餓鬼は、岩崎の無謀な突っ込みに我が目を疑う。

 

 しかし、さすがにオーバースピード過ぎた為、インプレッサのテールがブレイクし、左コーナー進入で直ドリ状態に陥る。

「……馬鹿め!! そのままお約束のコースアウトだ!!」

 挙動の乱れたインプレッサをミラーで見つつ、覇魔餓鬼は罵った。

 

「……んのヤロ!!」

 しかし、岩崎は諦めない。

 ステアリングを少しだけインに切り足して、シフトダウン。そこからアクセルを全開まで踏み込む。

 ヨーイングを、スピン方向に発生させノーズの向きを変える。そこから、四輪をホイールスピンさせつつも、リアに荷重を乗せてトラクションを稼ぐ事に成功。

 コーナーで真横を向きながら立ち上がるインプレッサ。驚異的なリカバリーでコースアウトは免れたが、S2000との差は再び開いていた。

(ちょっと突っ込み過ぎたか……)

 実際には、ちょっと所ではないほど突っ込み過ぎている。

 

(自爆したと思ったがな……。

 まぁ、いい。このままテールを拝んでろ!!)

 再び開いた差を見て、覇魔餓鬼は逃げの姿勢に入る。

(しくったけど……まだ追いつける!!)

 岩崎はS2000のテールランプを睨みつける。

 

 二台の攻防を間近で見ていた四人。

「……あんな突っ込み方で、良くコースに残れたな」

 佐竹は、呆然とテールランプの残像を見つめた。

「リカバーしてたけど、差は開いてるね……」

 竹中は、少し残念そうに呟く。

「ここでのミスは手痛いな……」

 相馬の一言に、内藤は頷く。

「だが……ここで終わるようなタマじゃねぇ」

 自分に言い聞かせるように、内藤はそう言葉を続けた。

 

 

 二つのヘアピンを抜けると、ここからは短いストレートを挟んで中速コーナーが連続する。

(……いくぜ!!)

 気合を入れなおし、岩崎は愛機に鞭を打つ。

 左の中速コーナーを全開でかっ飛んでいく、迅帝のインプレッサ。

(近づてくる……だと!?)

 S2000と一度は開いた距離を、コーナー一つ抜けるごとにジリジリと差を詰めていく。

 その気迫の走りは、バトル相手の覇魔餓鬼どころか、北海道に詰め寄ったギャラリー達をも圧倒している。

 それは、十三鬼将の面々も、キングダムトゥエルブの一員も同じだった。

「なんなんだ……あのコーナーリングは?」

 魚住は、自然に腕に鳥肌が立つのが分かった。

「フルスロットルのゼロカウンター……。あんな技そうそうお目にかかれないぞ……」

 兼山は目を見開いて、呆然とするしかできない。

「ダートの上とは思えないスピードだ……。あんな攻め方、D1でもありえねぇぜ」

 “ライオネル”永友も、圧倒されてしまう。

「……あんたドリフト野郎として、迅帝の走りをどう見る?」

 魚住は、永友にあえて聞いた。

「イカれてるぜ……」

「……走り屋の世界じゃ、それは誉め言葉だけどな」

 そうとしか答えれない永友に、兼山はそう突っ込んだ。

「間違いないな……」

 魚住は同意するように頷いた。

 

 

 残りのコーナーは幾つも無い。

(……追いついてやるぜ!!)

 スタートからここまで、全力でプッシュし続けてきた岩崎。

(……クソが!!

 何故……引き離せないんだ!!)

 その限界以上の走りが、覇魔餓鬼を追い込んでいく。

 

 最終区間に入る二台。

 十三鬼将の三人娘は、この区間でギャラリーをしている。

「……追いついてる」

 川越は、駆け抜けていく二台の差を見極める。S2000との差を、インプレッサはコンマ数秒まで追い上げているのはよく分かった。

「だけど……もう抜けそうなコーナーは無いわよ?」

 黒江は、不安げな表情を見せている。

「……勝負は、ゴールまでわからないでしょ。

 岩崎は……間違いなく最終コーナーで勝負に出るわ」

 緒方は、確信があるかのように告げた。

「岩崎は……S2000を抜けるんですか?」

 黒江は思わず、緒方に聞く。

「抜けるわ……きっと。あいつは……抜くのよ」

 そう断言した。

 

 ここまでバトルを繰り広げてきた両者も、ついに最終コーナーを残すのみだ。

「……この最終コーナーで勝負は決まるのね」

 相乃沢は、遠くから近付いて来るエキゾーストノートに耳を澄ました。

「…………そうだな」

 同じく最終コーナーに陣取る君嶋は、一言だけ答えた。

「だけど……直角に近い右コーナーに続いて、中速の左コーナー。道幅も狭いこの区間で、抜けるとは思えないわ……」

 相乃沢は、そう結論付けたが。

「……本当にそう思うか?」

 しかし、君嶋は意を唱えた。

「だけど、普通に二台で並べるギリギリの道幅しか無い上に、イン側は土手になってて、アウト側には壁があるのよ?

 ちょっとラインを被せれば、ブロックは出来るわ……」

 コースのレイアウト上、オーバーテイクは不可能だと相乃沢は断言した。

「……普通の走り屋なら、ここで抜くのは不可能だ。

 ただな……岩崎は普通じゃない。それは確かだ……」

 君嶋は、不気味な含み笑いを作っていた。

 

 

 ここまで先行してきた覇魔餓鬼。

(この二つを抑えてしまえば、ゴールだ……。

 狭い最終コーナーで、抜ける訳が無い!!)

 少しでもドルフトアングルを付けてしまえば、並走する事は不可能と踏んで、一つ目の右コーナーでは、フェイントモーションを使い進入。きっちりとブロックラインを通りながら、浅いドリフトアングルをキープ。S2000を巧みにコントロールする。

 

 追走する岩崎。

(……いやらしいライン通りやがって)

 当然、S2000の動きをつぶさに観察していた。

(だったら……!!)

 しかし、岩崎は一つしかない筈のラインを、丸で見ていなかった。

 

 長く曲がり込む最終の左コーナー。

 ここでも覇魔餓鬼は、絶妙のドリフトアングルをキープして飛び込む。

 進入時に、一瞬だけミラーを見た時。

「……居ないっ!?」

 ミラーから、インプレッサのヘッドライトは消えていた。

(だが……エンジン音は聞こえるぞ!?

 ……お前……何処を走ってるんだ!?)

 サイドウインドウ越しに、イン側を見た瞬間。

 

 インプレッサは、土手をバンクの様に使って、S2000のインに飛び込んでいた。

 

 岩崎は一つ目の右コーナーを真っ直ぐに立ち上がって、スピードを乗せたまま土手を突っ切っているのだ。

(喰らえ……必殺溝落とし!!)

 溝どころか車体自体を落としている訳だが、ついに最後の最後でインを奪ったインプレッサ。

(……インは貰ったぜ!!)

 バンク形状の土手を利用している分、岩崎はアクセルを踏み込んでいける。すなわち、覇魔餓鬼よりも遥かに速い速度での、コーナーリングを成立させたのだ。

「……そこはコースじゃないだろ!!」

 覇魔餓鬼は思わず罵ったが、岩崎に聞こえる訳が無い。

 

 そのまま、飛び跳ねながら立ち上がる。フィニッシュライン直前で、ついにインプレッサのテールランプを拝ませたのだ。

「……おっ……しゃあ!!」

 ゴールを駆け抜けた時、岩崎は左拳を突き上げた。

 最後の最後での逆転劇には、北海道のギャラリー達を熱狂させたのだ。

 

「……なんたる……不覚だ」

 そして、オーバーテイクされた覇魔餓鬼は、ガックリと肩を落とすしかなかった。

 

 

 パーキングスペースで、激闘を終えた両雄。その顔つきは、対極的と言わざる負えない。

「……くそ。一度とならず、二度も屈辱を味あわされるとは……」

 リベンジのならなかった覇魔餓鬼は、悔しさで顔を歪ませる。

「……アンタは、一個だけ勘違いしてるぜ」

 岩崎は厳しい顔で言い放つ。

「…………勘違いだと?」

 覇魔餓鬼は、その言葉に不服のようだ。

「……モータースポーツはハイレベルで、走り屋は低レベルって言ったろ?」

「……そうだ」

「確かにそうかもしれねぇが……それにはレギュレーションとルールが成立してる前提で成り立ってる。

 そういう制約があるから、テクニックが問われる“スポーツ”になる。

 でもな……走り屋ってのは最低限のマナーさえ守れば、勝つ為のルールしか守らない、どんな手段も許される“喧嘩”になるんだぜ」

「喧嘩……だと?」

「ああ。だからこそインカットもするし、路肩だって平気で走るぜ。走れる部分は、全部コースだ。

 だから、最後だってインに飛び込めたんだよ」

「…………」

「……ま、結局は速い奴が偉いってのは、“モータースポーツ”でも“走り屋”でも変わらねーけどな」

 そう言い放った岩崎は、少し満足気だった。

「一つ聞かせろ……。

 貴様と俺の差は……何処にあるんだ?」

 覇魔餓鬼は、絞り出す様な声で問う。

「……さあな。

 ただ、並みの走り屋と、トップレベルの走り屋に差が有るとすりゃ……“スピード”への執着心だろうな。

 十三鬼将(俺ら)は、スピードの中でしか生きていけねぇ人間だからよ」

 そう告げた時。

 岩崎は、笑みを見せていた。

「……そうか」

 ぽつりと呟き、覇魔餓鬼は天を仰いだ。

 

 岩崎は振り返ると、そこには十三鬼将の面々が岩崎を出迎えた。

「さて……バトルも終わったし、何か食いに行こうぜ?」

 岩崎がそう告げる。

「お、いいね」

「バーカ。こんな遅い時間に空いてるとこあるかよ」

「なら、ススキノで飲もうぜ。飲み屋なら空いてるだろ?」

「大分遠いわよ……。着いた頃には朝だから、閉店してるでしょ」

「なら……朝キャバはどうよ」

「……バカじゃないの」

 各自で好き勝手な事を言い合う。

 

 十三鬼将は本来チームではない。だが、一旦バトルとなれば無類の強さを発揮する。個人技こそ最大のチームプレイ。

 これが、十三鬼将の強さの秘密かもしれない。

 

「キングダムトゥエルブは……解散だ。後は……好きにしろ……」

 覇魔餓鬼は、吹っ切れた様にそう告げた。

「そうですか……。

 ……貴方は、これからどうするつもりですか?」

 相乃沢に聞かれ、覇魔餓鬼はこう答えた。

 

「もう一度……自分の走りを見つめなおす。それだけだ……」

 

 覇魔餓鬼の一言に、誰も何も答えなかった。

 

 

 

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