さてさて。次なる戦いをお楽しみください。
余談ですが、皆さんの思う十三鬼将のキャラクターと、自分の思うキャラクターが一致しているのが、少し不安です……。
裏切りのジャックナイフが、榛名でのバトルを制した。この話は、瞬く間に街道の走り屋達、そして首都高の走り屋達に広まった。走り屋系の掲示板では、いくつ物スレッドが乱立する程だ。
それを知ってか知らずか。
魚住と君嶋は、湾岸線市川パーキングエリアに来ていた。四天王と呼ばれる内の二人が顔を揃えるケースは、滅多に無い事だ。
「とりあえずは……坂本が、勝ったらしいな」
魚住の言葉に、君嶋は何も反応しない。
「しかし、街道に侵攻する羽目になるとは……岩崎は何を考えてるんだかな」
「……さあな。
ただ、岩崎はすっとぼけては居るが、バカではない。少なくとも、あいつなりに考えてるんだろう……」
「考えねえ……」
魚住は半信半疑で、愚痴っぽく言う。
「魚住……。十三鬼将全員で手を組んでバトルに挑むのは、今まで一度でもあったか?」
「言われてみれば……。個々に協力する事はあったが、全員でバトルに挑むのは今回が初めてだな」
「そういう事だ。
坂本が言ってた通り、俺達十三鬼将は狙われる立場にある。だが、これだけ我の強い連中を集めても、まともにチームとして機能する訳が無い。
その為に、強大な敵が必要だったんだろう。俺はそう解釈してる」
君嶋は断言した。
「……つまり、その強大な敵が……キングダムトゥエルブって事か?」
「恐らくな……」
首都高を知り尽くした、ベテランの走り屋ならではの見解だった。
黒江世津子と佐々木士郎は、坂本に呼び出されるがまま、いつものカフェバーの来ていた。
「……勝ったって話は一応知ってる。んで、なんで俺らを呼び出したんだ?」
佐々木は坂本に言った。
「わざわざ自慢しに来たんなら帰らせてよ」
黒江は、実につまらなさそうで、スマートフォンから視線を外さない。
「……週末に、お前ら二人が遠征するって聞いたからな。
一応、相手の連中の事だけでも伝えるだけ伝えとこうって思ったわけよ」
意外と坂本の目つきは真剣そのものだ。
「……ほー。そのキングダムトゥエルブの連中は速いのか?」
佐々木の言葉に、坂本はコクリと頷いた。
「あんたがヘボなんじゃないの?」
黒江の口からは、暴言じみた返答が出ていた。
「……あんまり舐めてかかると、マジで負けるぞ?
こっちもギリギリで勝ったようなもんだ」
坂本は、薄氷を踏む思いだと、強く言い切る。
「……あっそ。だけどね……私は伊達に、あなたよりも長く首都高を走って無いのよ」
そう答えた、黒江は微かに笑みを見せていた。
「…………」
坂本も佐々木も何も言えず、ジッと黒江を見つめていた。。
「じゃ、ここは奢ってね」
そう言葉を残し、彼女はカフェから足早に立ち去ってしまう。残された二人は、とりあえずコーヒーを飲み干した。
「相変わらず、口と性格が悪ぃな……」
ぼやき気味に佐々木は言った。
「だな……。美人なのは認めるけど、あれじゃ嫁の貰い手が居ない訳だぜ……」
坂本もその意見に追従する。
余談はさておき、坂本から本題を切り出した
「……んでよ。佐々木は、キングダムトゥエルブに勝つ自信はあるのか?」
「…………」
佐々木は何も答えず、取り出した煙草に火を点けた。
「お前のマシンの戦闘力は認める。
でもな……アリストじゃ街道での勝ち目はまず無いぞ?」
その一言に、佐々木の表情は変わった。
「……舐めんな。これでも、俺はアリストに拘って首都高を走ってきたんだぞ?」
「そんな事は分かり切ってるぜ。
俺が聞きたいのは……」
「……うるせー!!
テメーにガタガタ言われるされる筋合いはねーよ!!」
そう言い放ち、佐々木は席を立ってカフェから飛び出していった。
「……ちぃ。最後まで聞けってんだよ……。
…………考え無しで、勝てる相手じゃねぇだろうが……」
一人残された坂本は呟いた。
店を飛び出した佐々木は、愛機のアリストを走らせた。
(……くそったれ、好き放題言いやがって)
しかし、坂本に言われたことは図星だったのも事実だ。
(……勝ち目なんて……)
「ある訳ねーよ……」
力無い言葉がこぼれていた。
赤城山、赤城道路。
一昨年に街道サーキットとして改装され、全国各地の街道サーキットで最も新しい設備を持つ。また、この峠もとある漫画の舞台として登場した経緯がある為、赤城が街道サーキットに生まれ変わる事を待ち望む走り屋も、さぞ多かったことだろう。
赤城でスラッシャーを務め“孤高の彷徨い”という異名を持つ栗原英二は、赤城を攻め込む青いJZA80が映し出されるモニターを、食い入るように見つめていた。
「……すっげぇな。五本走り込んで、常にタイムを縮めてやがる……」
同じ車種で街道を攻める走り屋として、驚異を通り越して悪寒さえも感じていた。
そして、刻まれたタイムは見事にレコードタイムを縮めていた。
パドックに戻ってきた、スープラのドライバーに栗原は歩み寄った。
「レコードタイムまで刻まれちゃうとはねぇ……。これじゃスラッシャーの面目丸つぶれだよ……」
嘆くようなセリフだが、栗原は笑みを崩していない。
「……そうですか」
王宮十二氏、第二の刺客である“王国の劔”鶴岡半蔵は、静かに答えた。
「同じスープラ乗りとして、尊敬に値するぜ。今日走り出した癖に、何年も赤城を走ってきた俺のレコードタイムを縮めてんだからな……」
「残念ですが……僕のスープラならば、まだ2秒は縮められますよ」
栗原に対して、鶴岡は言ってのけた。
「2秒……だと?」
栗原の表情は、あからさまに強張った。
「サスペンションをもう少し、煮詰める必要がありますかね。低速コーナーのトラクションがもう少し必要なので、下りならばリア車高を5ミリ落とせば十分ですよ。
それとフロントショックのリバンプ(伸び)側の減衰力も、柔らかくすればフロントタイヤの追従性も落ちないでしょうね」
細かくセッティングの方向性を言う鶴岡に、栗原は黙って聞くのみだ。
「あとは、リアのタイヤの空気圧を少し落とせば完璧です」
「大したもんだな……まるっきりGT並みに細かくセットアップするじゃないか」
栗原の言葉に、鶴岡はこう返した。
「……あなたもスープラに乗っているならわかりますよね?
FRで街道を速く走る事が、如何に大変かという事を……」
「……ああ。そいつは俺も重々承知してる」
栗原は、頷くしかなかった。
週末。赤城道路に詰め掛けたギャラリーは、オープン以来最高の観客数を記録していた。
赤城のレコードタイムを塗り替えた王国の劔に対峙する、ブラッドハウンド。
「あなたが僕の相手ですか……」
鶴岡は、相手のマシンを見て少々呆気に取られていた。
「……ああ。見ての通りのマシンだが、何か問題でもあるのか?」
佐々木は挑発するように口を開く。
「……残念ですね。
そんなセダンが相手では……少々相手にとって不足ですから」
余裕を伺わせる鶴岡の言葉に、佐々木の顔つきはムッとしていた。
「……そいつは好都合だぜ。
スポーツカーをセダンでぶっちぎるのが、俺のポリシーだからな……」
「僕の仕上げたスープラに勝てると思いますか?」
「負けるつもりでバトルするバカは居ねーよ」
売り言葉に買い言葉。しかし、ヒートアップする佐々木とは対照的に、鶴岡の表情は変わらない。
「……僕の求めるのは、完全な勝利です。
対等な条件で走った所で、完全な勝利とは思えませんから二つハンデを与えてあげますよ」
「…………ほー」
「一つは、ヒルクライムのバトルにしましょう。その方が、重量のあるアリストにしてみればハンデが減るでしょう。
もう一つは、あなたに先行してもらいます。追い抜ければ僕の勝ち。抜けなければあなたの勝ち。どうですか?」
「……好きにしやがれ」
鶴岡の提案に、佐々木は憮然としながら答えた。
「……では決まりですね」
鶴岡はニヤリと笑った。
「一個だけ忠告してやるぜ」
「何でしょうか?」
「お前……ハンデを与えた事を死ぬまで後悔するぜ」
佐々木は断言した。
スタートラインに並ぶ二台。前にグリッドを取った、ブラッドハウンドのJZS161アリスト。真後ろに着く、王国の劔のJZA80スープラ。
威嚇するようにエンジンを吹かし、二基の2JZのエキゾーストノートが、赤城の山間に響き渡る。
そして、レッドシグナルが点灯。
(……さて。スタートから頭が取れたな)
勝ち目が無いと自覚していた佐々木に、策は有るのか。
「……お手並み拝見ですかね」
アリストのテールを見つめる鶴岡は、まだ余裕を見せている。
そして、シグナルがブラックアウト。
二台のマシンが、一気に赤城道路を駆け上る。
テールトゥノーズで、ファーストコーナーに飛び込む。
先行するアリストは、十三鬼将の中でもダントツにヘビー級のマシン。その動向を、鶴岡はじっくりと観察する。
(なるほど……確かにパワーは凄いですね)
立ち上がり加速は、重戦車でありながらスープラに引けを取らない。
(ですが……その走りでリアタイヤは持ちますか?)
鶴岡は、コクピットで不敵に笑みを作っていた。
そして、佐々木もミラー越しにスープラの動きを感じ取っていた。
(……コイツ、性格悪いな)
佐々木は直感でそう思った。
パワー勝負のヒルクライムと言えど、街道を走る上ではコーナーリングやトラクション性能は必要不可欠。
加えて上りではリアタイヤに荷重がかかる分、FRの場合トラクションがかかる反面負担も増大する。
鶴岡の狙いはそこにあった。
(……ハイパワーのFRは、どうしてもリアタイヤの消耗が苦しくなりますからね。僕の400馬力に満たないのスープラでさえね。
首都高仕様のハイパワーFR……しかも重量のある16系アリストで、そこまで攻めたらリアタイヤは最後まで持つ訳が無いんですよ……)
そう。鶴岡は、ハンデと称してヒルクライムを選択した。しかし、本当にハンデを与えた訳ではないのだ。
もっとも、車重のあるマシンで街道を攻めれば、上り下り問わず基本的に不利であることは明白なのだが。
アリストのテール突っつきまわす、スープラのノーズ。連結された列車の様に、ぴったりとくっついている。
(……確かに速ぇーわ。坂本のアホが言ってたのは、嘘じゃねーな)
ルームミラー一杯に映る、スープラのヘッドライトが、佐々木にプレッシャーを与える。
王宮十二氏に選ばれた走り屋の実力を、改めて実感してしまう。
(……だけどな。何も作戦が無い訳じゃねーんだよ!!)
佐々木の眼光が一層鋭くなった事が、鶴岡に見えている訳がなかった。
アリストとスープラ。
2JZの甲高いエキゾーストは大好きです。皆さんは、お好きですか?
ご意見、ご感想、或いは車の話など(笑)、お気軽にお待ちしてます。