十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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2JZマシン同士のバトルの続きです。

余談ですが、アリストにスープラの6速ミッションとサイドブレーキを移植するのは、かなり高額になるそうです(^_^;)



第四夜 2JZの雄叫び

 

 

 赤城のピットエリアに設備されたモニターに映し出される、二台の2JZ搭載マシン。

 栗原は、両雄がコーナーを駆け抜けていく様子を食い入るように見つめていた。

「栗原さん、案外あのアリスト頑張ってますね」

 取り巻きの一人の問い掛けに対して、栗原の首は横に動いていた。

「そう見えるのは、恐らくあの鶴岡が抑えてるだけだ。

 その証拠に、区間タイムはレコードタイムよりも3秒近く落ちてる」

「……本当だ」

「確かに、アリストの野郎も決して遅くは無いが……このペースでは間違いなくリアタイヤが最後まで持たない」

「……って事は、どういうことですか?」

 取り巻きの察しの悪さに、栗原は小さくため息を吐き出した。

「鶴岡は、単にアリストのペースが落ちるのを待っているだけだ。

 あえて後ろを走っているのも、抜いた方が相手に与える屈辱感も大きいからな。確実に抜けるタイミングを見計らってる。

 随分と、したたかな男だぜ……」

 そう語った栗原は、モニターから視線を一度も離さなかった。

 

 

 スープラとアリスト。どちらも2JZ-GTEと言う日本を代表するエンジンを搭載する、トヨタの主力戦艦だった車両である。

 双方は、駆動系や足回りにはある程度の互換性もある為、アリストはスープラのセダン版と言われている。

 しかし、肝心要のベースシャーシに関しては、アリストはセダンのクラウンマジェスタがベースであり、スープラはクーペであるZ30系ソアラの設計をベースとしている部分に、大きな差が生まれる。

 アリストは2800mmとかなりのロングホイールベースであり、車重も1700kgを超えるヘビー級のボディを持つ。従って、低速コーナーの続く街道の様なコースは苦手としている。

 そして、スープラのホイールベースは2550mmと、同世代のスポーツカーの中でも短い部類に入る為、1500kgとGT-R並みの車重を誇る割に、軽快なハンドリングを見せるのだ。

 言い換えれば、スポーツカーとセダンのコンポーネンツの差が、丸々と現れているのだ。

 

 佐々木は、ミラーで後ろを見る回数が増えていく。

(……ったく、抜ける癖にあえて抜きに来ないってか? 嫌なヤローだ……)

 スタートしてから、鶴岡のスープラのノーズは、アリストのテールをロックオンしたまま変わらない。

(……もうすぐ中盤に入っていく。ここから、勾配が強くなっていく上に低速コーナーが続きます。

 もう、アリストのリアタイヤは限界でしょうね……)

 ジリジリと鶴岡は、佐々木を追い詰めていく。

 

 鶴岡のスープラは、パワーは重視せず足回りと軽量化に力を注いだチューニングを施してある。

 元々、低回転からトルクを発揮する2JZのツインターボエンジン。鶴岡のそれは、吸排気の変更とブーストアップで380馬力程度なのだが、全回転域のどこからでも加速していくフラットな特性を持つ。

 その素性を生かすべく、軽量化に力を入れて旋回性能を強化。さらに足回りの強化と細かなセッティングで、FRの泣き所のトラクションを向上。

(……街道でランエボやインプレッサに負けないスープラ作り上げる事が、僕の目標なんだ。

 首都高仕様のアリストなんかに、負ける訳が無いんだ!!)

 まさに、街道スペシャルと言えるマシンに変貌を遂げていた。

 

 

 中盤セクションのヘアピンの立ち上がりで、アリストはカウンターステアを当て始めていた。

(……コーナーじゃ逆立ちしたって敵わねーし、リアやべぇな……)

 もはや、重量級のマシンで攻めるには、リアタイヤの限界を迎えていた。タイヤトレッドは発熱し、内圧もかなり高くなっているだろう。

 佐々木のアリストは、首都高で勝ち続ける為に650馬力オーバーと言うハイパワーを絞り出している。しかし、あえて4ドアセダンにこだわる姿勢から軽量化は一切していない上で、ボディも補強している。その為、ノーマル以上に車重が増加してしまっている。

 

 湾岸線の様に完全に最高速に割り切ってしまえば、重量増はさほど負担にはならない。むしろ、車重の重さが高速域での安定感に一役買う為、軽量化しない事がデメリットばかりを生み出す訳ではない。

 しかし、街道の様な低速域では、加速でもコーナーリングでも、タイヤの負担を考えても、車重が重い事は足枷でしかない。

 

 ここまでテールを突っつき回していた鶴岡は、アリストの限界を見定めていた。

(……そろそろ、仕掛けるタイミングですね!!)

 佐々木のペースがこれ以上上がらない事を察知して、ここで勝負を仕掛けた。

 

 

「……来やがったな!!」

 しかし佐々木も、首都高のバトル巧者。奥の手を一つだけ用意していたのだ。

 

 

 右へアピンの進入で、アリストは大きくテールスライドし、挙動を乱した。

(……タイヤがバーストしたのか!?)

 これまで見せない動きに、鶴岡は目を見開く。

(いや……違う!!)

 しかし、アリストはコース内に踏みとどまって、大きなカウンターステアをキープ。

 そして、強大なエンジンパワーに任せて、リアタイヤを空転させて立ち上がる。大きな白煙を巻き上げながら、続くコーナーまでドリフト状態をコントロール。

 立ち上がりは、ハイパワーでホイールスピンを誘発させて、コース内を真っ白に染めてしまう。

(……こうすりゃ、前が見えねーだろ!!)

 佐々木の起死回生の一手。

 それは、ハイパワーFRの特権である、ド派手なドリフトだ。

 

 深いドリフトアングルでラインを塞ぎながら、猛然と白煙を巻き上げる重戦車。

(ま、前が見えない!!)

 スープラのヘッドライトが照らすのは、白い煙の壁のみ。視界を遮られ、鶴岡はアクセルを踏めない。

(こんな、バカげた手段を使うなんて……)

 鶴岡は度肝を抜かれるしかなかった。

 

 

 一見、ヤケになった様にも感じる佐々木の作戦だが、アリストと言う重量マシン故に正攻法では勝ち目がない。仮に前に出てブロックした所で、タイヤが消耗してしまえば狙ったラインはトレース出来ない。

 だからこそ、あえて派手で深いアングルのドリフトでラインをブロック。更にタイヤスモークで煙幕を張って、後追いの視界を遮ると言う作戦を組み立てたのだ。

(……こんな走り方を追いかけた事がない)

 何よりも鶴岡は、完全なグリップ派。これまでの走り屋人生の中で、ドリフト走行の後ろを走った事が無かった。

 

 佐々木は、アクセルべた踏みで赤城道路の、直線部分もコーナーも流しっぱなしでクリアしていく。赤城のドリフト野郎のお株を奪うその走りで、鶴岡を翻弄させる。

(……俺らは、速い走りだけじゃねー。魅せる走りも出来るんだぜ!!)

 その派手な走りに、無数のギャラリー達は圧倒された。

 

 後方を追走する鶴岡だが、前が見えない上に、先行するアリストのドリフト走行に惑わされて、リズムを組み立てられない。

(クソ……こんな手を使ってくるなんて……)

 想定外の事に、鶴岡はなす術が無かった。

 

 

 ブラッドハウンドのアリストは、タイヤスモークを途切れさせる事無く、赤城のゴールラインを駆け抜けていった。

「……オッケーィ!!」

 佐々木は、コクピットの中で左腕でガッツポーズを作った。

 まさかの展開に、赤城のギャラリー達は、どよめきにも似た歓声に包まれていた。

 

 

 パーキングスペースに停車し、戦い終えた二台が対峙する。

「……まさか、あんな作戦を使ってくるなんてね……」

 鶴岡の顔つきからは、悔しさがにじみ出ていた。それは、佐々木の戦略に対するものなのか。あるいは、想定外の事に対応しきれなかった、自分への不甲斐なさなのか。

「……言ったろ? ハンデを付けた事を死ぬまで後悔するってな」

 そう言った佐々木は、煙草をくわえて勝利の一服を味わった。

「……FRにこだわって街道を走ってきた僕が、同じ駆動方式の車に負けたのは初めてですよ……」

「……あんたさ。FRにこだわる割に、ドリフトしねーのか?」

「しませんよ。遅くなるだけですし……」

「その割には、抜けなかったじゃねーか」

「…………」

 佐々木の言葉に、鶴岡は何も答えられない。

「ま、ドリフトが遅くなるなんざ、俺だって重々承知してる。

 ……だけどな。派手なドリフトこそFRの特権だ。あんたがドリフトするかしないかともかく、ああいう走りは覚えといて損はないぜ?

 タイヤが終わっちまったけど、理屈抜きに面白れーしな」

「……嫌味ですか?」

「別に、そんなんじゃねーよ。俺の考え方だ。

 少なくとも、あんたが俺に勝てなかったのは、腕や車の差じゃねー」

「…………だとしたら、その差は何ですか?」

 鶴岡の問いに、佐々木は煙草をくわえた口元をニヤリとさせてから、こう答えた。

 

「……場数の差だ。

 少なくとも、俺はあのアリストに拘って、首都高を走ってきた。例え相手がどんなマシンでもな。

 スポーツカーもスーパーカーも、ぶっちぎってきたんだよ。俺達はな……」

 

 佐々木の言葉に、鶴岡は吹っ切れた様に呟いた。

「……次に走る時は、負けませんしハンデも与えません。

 今日の負けは……僕の驕りが敗因ですから……」

 

 

 榛名に続き、ブラッドハウンドが勝ち星を挙げる。十三鬼将が立て続けに勝利を収めた。

 

 

 

 赤城山から最寄りのコンビニエンスストア。

(……あのセブンは)

 帰路についた佐々木に見えたのは、駐車場に止まる坂本のFD3Sだった。

 

 駐車場に飛び込むと、アリストの姿に気が付いたようで、坂本も車から降りてきた。

「……よー。わざわざここまで来てんのは、出番が終わって暇だからか?」

「まあな。お前の負ける様を見届けにな」

 佐々木は右ウインドーを下げながら悪口を叩くと、坂本も減らず口で返す。

「……ま、何とか勝ったみたいだし、サーティンデビルスの面目は保ったんって訳だ」

 坂本はそう言いつつスマートフォンで、走り屋系掲示板のあるスレッドを見せた。

 そこに書かれたタイトルは“十三鬼将vs王宮十二氏 赤城の勝負は十三鬼将が勝った!!”と記載されている。

「ふん、ラクショー……って言いたいとこだが、今回はツキが回ってきただけだ」

 そう呟く佐々木。その顔には疲労感が浮き出ていた。

「……勝ちは勝ちだろ」

 坂本はそう言いながら、右手をスッと上げた。

「ふん……」

 鼻を鳴らしてから、佐々木も同じように右手を上げる。

 

 そして、パン、とハイタッチを交わした。

 

「……そういや、裏六甲で黒江もバトルしてるんだったっけな」

 佐々木は思い出したように口走った。

「そうだったな。まぁ……アイツならそう簡単には負けねぇと思うけどな……」

 坂本もそう同調してから、スマートフォンで再び走り屋系掲示板のホームページを開いた。

「……結果、出てるか?」

 佐々木に急かされるが、坂本は無言のままスマホの画面を見て固まっていた。

「どうなんだよ?」

「…………黒江、負けたってよ」

「……マジ!?」

 

 

 “ユウウツな天使”が敗北したという一報。

 キングダムトゥエルブの反撃が始まった。

 

 




次回は、皆さんも苦戦したであろう(?)ユウウツな天使の登場です。

首都高バトルの中でも、人気のあるライバルですが……。


ご意見、ご感想、クルマ談義等、お気軽にお待ちしてます( ̄▽ ̄)
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