十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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年内最後の投稿です。

意外性のある組み合わせにしてみました。


第六夜 街道の曲者

 

 

 事の発端は、岩崎が街道を侵攻すると言い出す一週間前の北海道旅行にあった。

 場所は北海道小樽市の小さな食堂から始まった。

「……いやー。やっぱり北海道の食い物は、ホント美味いわー」

 満面の笑みを浮かべながら、旬の海の幸を堪能する。

「喜んでもらえて何よりよ。岩崎君」

 体面に座る可憐な女性が、岩崎をもてなしているようだ。

「何か悪いねー、堀井ちゃん。こんなにご馳走になっちゃってさ」

「良いのよ。私もこっちに戻ってきた事、言ってなかったし」

 堀井と呼ばれたこの女性の正体は、堀井真紀。“孤高なる女帝”と呼ばれる、街道の走り屋達の重鎮の一人。

 かつて、街道で激速の女性走り屋のみで構成された“LOVERS”を率いて、クイーンとまで謳われた走り屋なのだ。

「相変わらず、GT-Rも調子良さそうだし。ちょっと運転させてもらったけど、メンテナンスもきっちり行き届いてるぜ」

「そりゃね。ああいうマシンは、マメに手入れしないとすぐに調子悪くなっちゃうもの」

 岩崎と堀井は、お互いにR34GT-Rのオーナー同士。そこそこに交流のある仲でもあった。

 

「岩崎君……。ここで本題に入っていいかしら?」

「……?」

 改まった様子で、堀井は聞きただした。

 

「……覇魔餓鬼。覚えてる?」

 

 その名前を聞き、岩崎の表情がグッと引き締まった。

 そして、堀井は話を続ける。

「……彼が何かを企んでるみたいね。しかも……街道で有力な走り屋達を集めてるそうよ。

 きっと……貴方の事を狙ってるでしょうね」

「…………ほー。堀井ちゃんの所にも、その話は来たの?」

 岩崎の質問に対し、堀井の首は縦に動いた。

「ええ、来たわ。でも……なんとなく、乗る気にならなくてね……」

 そう答えた。そして、こう続けた。

「覇魔餓鬼を……止めてほしいの」

 堀井のその問いに、岩崎の出した答えは。

 

「……ま、狙いたいんなら好きにさせりゃいいさ。

 だけど……簡単に狩れると思われるのも癪だしな」

 岩崎は、口元をニヤリとさせてから、はっきりと断言した。

 

「……狩られる前に狩ってやるさ」

 

 

 

 竹中敦也は、“スティールハート”と言う異名を持つ、JZA80スープラを駆る首都高の走り屋だ。

 高身長に加えて、俳優業でもこなせそうなイケメン。恐らく、十三鬼将の中で女性人気が最も高い走り屋だと言える。

 もっとも、寡黙かつ、走りにストイックな性格が災いして、そう言った浮いた話は全くない。本人もあまり女性に興味を示さない事もあるのだが。

(……俺のスープラは、例え首都高でも街道でも勝負できる仕上がりをしているんだ。

 相手が誰であっても……負けない)

 夜にも関わらず、自宅のガレージ内では明かりが灯っている。来たる決戦に向けての、愛機の整備に余念がない。

 

 そこへ差し入れを持ち込んだのは、同じ十三鬼将の兼山大吾だ。

「よう、敦也。やってるか?」

「おー。わざわざ、来てくれたのか?」

「まぁな。腹も減ってるだろうしと思ってよ」

 そう言いながら、兼山はホカ弁とお茶の入ったビニール袋を見せる。それを見た瞬間、竹中は空腹である事を思い出した。

「……サンキュー」

 軍手を外し、遅い夕食を取る事にした。

 

 十三鬼将の中で、基本的に走りに関すること以外で交流することは無い。ただし、竹中と兼山だけは例外になる。

 何せ、この二人は中学時代からの友人同士で、兼山を走りの世界に引きずり込んだのは竹中本人なのだ。

「なぁ、大吾……」

 竹中は、弁当を半分突っついた辺りで、不意にしゃべりかけた。

「どうしたんだよ?」

「……次に走る相手から、場所の指定があったんだ。

 わざわざ、インターネットの掲示板に書いてくれてたんだぜ?」

「ほー……。随分と、大胆な真似してくるな。んで、どこで走る事になったんだ?」

 少しだけ間を作ってから、竹中は答えた。

「……碓氷だ」

「……そうか。頑張れよ」

「ああ……。負けないさ」

 竹中と兼山はそれ以上何も言わなかった。

 そう。岩崎の言っていた“当たりくじを引いた奴は何処かのショートコースを走る”と言う言葉。

 当たりを引き当てたのは、スティールハートだったのだ。

 

 

 三日後。碓氷峠。

 かつてとあるレーサーが、アマチュア時代にテクニックを磨いていたとされる、伝説と由緒の有る峠である。

 現在は街道ショートコースとして生まれ変わり、そのテクニカルな舞台で、多くの走り屋の腕試しとドラテク特訓の場として君臨している。

 

 ショートコースと呼ばれる街道サーキットの特徴は、元来の街道サーキットと比べややコースが短い事。それに加え、営業は昼間しかされていない事。ただし走行料金的には、街道サーキットと差は無い割に、設備面では見劣りする部分が多い。

 ややマイナーな感が否めないとは言え、往年の峠を彷彿とさせるショートコースを走り込む走り屋も数は多い事も事実だ。

 

 快晴の碓氷峠。頂上のパーキングで待ち構えるのは、第四の刺客“鋼の琥珀石”の異名を持つ相馬秀吉。王宮十二氏の中で最年長であり、各街道サーキットを荒らしまわってきた、ベテランの走り屋だ。

「……来たな」

 山頂にまで届く、直列6気筒エンジンのエキゾーストノートが、相馬の聴覚を刺激した。

 

 現れたダークグリーンのスープラは、その獰猛な牙を隠すことなく、パーキングにその身を滑り込ませた。

 停車したマシンから降りた時、竹中はあるマシンの存在に気が付く。

(……SA22CのRX-7。内藤さんの言ってたマシンだな)

 何台かのマシンの並ぶ中でも、唯一と言える旧型のマシン。しかもボディーカラーは艶の無いサフェーサー(塗装の下地剤)のまま。しかし、そこから放たれる独特なオーラは、間違いなくホンモノの匂いがしていた。

 

「……あんたが、十三鬼将の走り屋さんかい?」

 相馬は、対峙する竹中に聞く。

「……ああ。今日は、良いバトルが期待できそうだね」

 竹中はお世辞で言った訳では無い。自身の直感が、そう告げているのだ。

「俺は、相馬秀吉ってもんだ。

 車はちょっとばかり古臭いが、舐めると痛い目をみるぜ」

 相馬は愛機のSA22C型RX-7を、親指で指しながら自信を見せる。

「俺は竹中敦也。

 むしろ、そういう古いマシンに拘ってる奴ほど、曲者が多いからね。特に、あなたの事は……内藤さんから聞いているんでね。

 敬意を表して、全力でバトルさせてもらうよ」

 竹中も、ニヤリとした笑みを見せていた。

「ほー……俺もアンタの事を内藤から聞いてるぜ。

 首都高でも相当な実力だとな。おかげで、クルマ見た瞬間にピンときたもんよ」

 

「……ま、すぐにでもバトルに移りたいところだが、ちょいと一人だけ紹介させてもらうぜ」

 相馬がそう伝えると、一人の女性が歩み寄ってきた。

「……あなたは?」

「初めまして。このバトルの立ち合い人をさせてもらう、堀井真紀です」

 その美麗な女性は、そう名乗った。

「……存じ上げてますよ、孤高なる女帝とね。

 街道の大物が見届け人とは、随分と豪勢なキャスティングだね……」

 竹中は感心しきりだ。

 

「そんじゃ、役者も揃ったところで、始めようぜ」

「ええ。望む所ですよ……」

 相馬の言葉に、竹中は同意する。

 

 

 碓氷峠、下りスタートライン。

 2JZとロータリーが、威嚇しあうように吠える。

(……SA22を選ぶ時点で普通とは思わないけど……エキゾーストノートは尋常じゃないね)

 耳に届くロータリーサウンドから、竹中はそう勘繰っていた。

(……スープラが相手か。久しぶりに血が騒ぐ……コイツは間違いなく速いぜ)

 そして、相馬もまた未知の敵に、興奮を抑えられなかった。

 

 

 レッドシグナル点灯……そして、ブラックアウト。

 上手くスタートを決めた竹中は、1コーナーまでの加速で先手を取った。しかし、相馬のRX-7も食い下がる。

(……やるねぇ。首都高の猛者ってだけはあるぜ)

 不敵に笑みを浮かべる相馬は、ファーストコーナーを攻め立てるスープラの挙動をじっくりと見定めていた。

 

 続く2コーナーの飛び込みで、二台の差は約一車身程度。

(こういう時は、先手必勝だぜ!!)

 相馬の視線が、一層鋭く研ぎ澄まされた。

 

 殆どまっすぐな道の無い碓氷峠。

 コーナーを立ち上がった瞬間には、中速の左コーナーが迫りくる。

(……こういう、緩やかなコーナーは、スープラが一番得意とする部分だ!!)

 先行する竹中は、理想的なアウトインアウトのラインをトレースする様に、アウト目一杯からチョンブレーキでアプローチを開始。

(……いただき!!)

 しかし、そのイン側を目掛けて、相馬はノーブレーキで飛び込んできた。

「……嘘!?」

 竹中は思わず口走った。

 しかし、インを取られた時点で、なす術は無い。旧型とは言え、RX-7のコーナリングワークは健在だった。

「……どんなもんよ!!」

 立ち上がりで、ノーズを前に出されて右に曲がり込む4コーナーで、相馬が前に出る。

 

 日本刀の如き、鋭いコーナーリングワークで、相馬のRX-7が序盤にしてオーバーテイクを決めた。

 竹中自身、バトル開始直後にオーバーテイクされた経験は皆無だ。

(これは……とんでもなく厄介な奴を相手にしてしまったな)

 思わず苦笑いを浮かべてしまう程、相馬の実力は計り知れなかった。

 

 街道のようなトリッキーなコースでオーバーテイクを決める事は、余程マシンの性能やドライバーのテクニックに差が無ければ、まず不可能だ。

 古いとは言え、SA22CRX-7自体コーナリング性能に関しては、現代のマシンの水準で見ても高いと言える。

 しかし、竹中のスープラも決してコーナリングが苦手なマシンではない。同世代のマシンの中でも、ハンドリング等は軽快であり、特に中速コーナー等ではFD3SやNSXを追いかけまわせるだけの性能を秘めている。

 

 ならば、何故相馬がオーバーテイクを決めたのか?

 

 一つは、マシンの重量の差。

 竹中のスープラは軽量化を進めてると言っても、実測の車重は1400キロ近くあり、重い部類に入る。

 そして、相馬のRX-7は現代のマシンとは比べ物にならない程、軽量でコンパクトなボディを持つ。カタログ値でも1000キロ少々のマシンを、ギリギリまでダイエットさせて、その車重はなんと900キロ程度。

 500キロと言う重量の差は、易々とパワーで埋められる物ではない。

 

 そしてもう一つが、バトルはまだ序盤だと言う事。

 オーバーテイクを決める上で、相手との駆け引きは重要なファクターである。

 まだ相手の手の内の読めない序盤で、オーバーテイクを仕掛けるのは極めてリスクが高い。場合によっては、ダブルクラッシュ。あるいは単独で自滅してしまう事も、珍しくは無い。

 ただし。

 裏を返せば、相手の隙を突く事も出来る為、極端にハイリスクながらハイリターンを得る事も可能だ。

 相馬は、竹中が相当な実力者であると踏んで、あえて序盤で仕掛けたのだ。

 

(抜かれたけど……。まだ、ゴールまでの距離は有る。

 ……絶対に、抜き返して見せる!!)

 竹中は、逃げるRX-7のテールランプを、鋭く睨みつけた。

 

 

 




次回は、年明けに投稿予定です。

オールドマシンに拘る走り屋は、実力者が多いイメージがありますねー。

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