十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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あけましておめでとうございます。

今年も、この作品をよろしくお願いします。



第七夜 意外な幕切れ

 

 

 先行して逃げるSA22C型RX-7は、碓氷の様なテクニカルな街道サーキットでは、水を得た魚と同じだ。

(……ついていくので目一杯)

 首都高で馴らした竹中と、スープラをもってしても、追いかけるだけで必死になってしまう。

(内藤さんの言ってた通りだ……)

 

 

 碓氷に向かう直前に、竹中はある所へ寄り道していた。

 そこは工業地帯に店舗を構える、小さな自動車整備工場。その店の名は内藤自動車。“追撃のテイルガンナー”の異名を持つ、内藤健二が経営しているのだ。

 さびれた店舗に、くたびれた看板。それに似合わない、ピカピカに磨かれたFC3SのRX-7が鎮座してる。店主の腕前はピカイチで、十三鬼将の面々のマシンを整備する事も多々あるそう。

 

 まだ夜が明けない時刻。竹中が出撃する前に、一度寄ってほしいと、内藤直々に連絡があった。

「悪ぃね。早くいきたい所だろうけど、一個だけ伝えときたい事があってな」

 店先で、内藤は缶コーヒーを飲みながら言った。

「大丈夫ですよ。所で、話って何ですか?」

 竹中は特に気にする様子もなく、内藤に呼び出した理由を問いただす。

「おう。今日、お前と勝負する“鋼の琥珀石”……相馬秀吉の事だ」

「…………」

 竹中は何も答えないが、表情はグッと引き締まっていた。

「あいつとは、古い知り合いでな、SA22に乗ってる。

 セブンに乗ってる同士だから、そこそこ情報交換とか、パーツの売買もある仲だ。

 ただ……少なくとも、セコイ走りとか汚い真似をする様な奴じゃない。それは確かだ」

「そうですか……。では、一つ聞きます。

 その人は速いですか?」

「相当速いな……。少なくとも、俺と街道での勝負なら……三対七か二対八くらいで分が悪ぃな」

 内藤にそこまで言わせる走り屋は、少なくとも竹中は聞いた事が無かった。

「でもよ。相馬のヤローにも伝えといたぜ。

 こっちの若い衆も、滅茶苦茶速いってな」

 内藤は、ニヤッとしながらそう言った。

「……お気遣い感謝しますよ」

 竹中は、溜息交じりで答えるしかなかった。

 

 

 何とか食い下がってくるスープラを、相馬はミラー越しに確認していた。

(内藤の野郎の言ってた通りだな。街道で、俺にここまで食い下がってくる奴はそうそう居ない……)

 内心で、十三鬼将に敬意を表していた。

 

 

 1978年。オイルショックや排ガス規制などが続き、日本のスポーツカーは危機にあえいでいた。特に、高出力で燃費の悪いロータリーエンジンは槍玉に挙げられる有様だった。

 しかし、そんなマツダが満を持してデビューさせたのが、SA22C型初代RX-7だ。

 流麗でスタイリッシュなボディ。低く構えたノーズとリトラクタブルヘッドライト。一目見て、スポーツカーと分かるスタイルに搭載された、ロータリーエンジン。

 当初は“プアマンズポルシェ”等と揶揄されたものの、モーターの様に軽々と回るロータリー特有のエンジンフィーリングと、優れた前後重量バランスが生み出す軽快なハンドリング。SA22C型RX-7は、国産を代表するコーナリングマシンの系譜を作り上げた、偉大なる名車なのである。

 

 相馬秀吉もそのマシンに魅せられ、ロータリーエンジンにほれ込んだ一人である。

 自らプライベーターとして作り上げたSA22Cは、元々軽量なマシンを、更に軽量化しボディも十分に補強し剛性を確保。

 フロントストラット式、リア4リンク式と言う旧世代マシン故の足回りの設計の古さも、自作の車高調とブッシュ類のフルピロ化によって、タイヤの運動性能を引き出せる様スープアップ。ショートホイールベースかつナロートレッドなボディと相まって、峠の様なツイスティなコースでは、無敵のコーナリングを披露する。

 意外にも、ブレーキはパッドとローター、そしてブレーキホース程度で止めてあるのは、軽い車重が幸いしているに違いない。

 そして、決め手のエンジンは、12Aよりパワーが上がり、尚且つ部品も豊富な13Bに換装。

輸出用の高圧縮のローターを組み合わせたNA仕様で、ポートはペリフェラルポート加工。決め手は、ウエーバー48パイのダウンドラフトのキャブ仕様。アクセルに忠実に反応するエンジンは、まさしく80年代に一世を風靡したチューニングその物なのだ。

 丸でタイムマシンで持って来たかのようなチューニングにも関わらず、軽量コンパクトに加えハイレスポンスを武器に、現代のマシンと互角以上に戦えるマシンに仕上げたのだ。

 これこそ、相馬秀吉が街道で名を知らしめていた一番の理由だ。

長年にわたり古いSA22に拘り続けた上に、プライベーターながらショップのデモカーをかもる程進化させた。

 まさに、街道の守護神と言う名に、偽りの無い走り屋なのだ。

 

 このマシンを仕留めるのは、“スティールハート”を持ってしても簡単な事では無かった。

(……温存する事を考えたら、間違いなく離される……)

 竹中は、冷たい汗が背筋を流れた事を感じた。

 

 

 竹中の愛機は、首都高で戦う事を前提にチューニングされているが、決してパワーや最高速ばかりを求めている訳では無い。

 タービンやカムの変更で最高出力は550馬力まで上げているが、2JZの持ち味であるフラットなトルク特性を生かしたセッティングに仕上げた。

 重量のあるボディも軽量化を進め、ブレーキもストッピングパワーを確保できるように強化してある。

 ただ、何よりも竹中がこだわったのは足回りである。

 ハイパワーFRの場合、リアタイヤのトラクションを稼ぐ事が重要なのだが、トラクションばかりを求めてしまうと、必然的にアンダーステアが強い傾向が出てしまう。

 特に車高に関してのセッティングは、高過ぎず低すぎず、かつ前後のバランスを取らないとピーキーな挙動を示す様になってしまう。

 当然、バネやショックも単に固めるだけでは無く、常にタイヤが路面をとらえられる様に絶妙な固さと減衰力に決めて、荒れた首都高の路面を踏んでいける足回りにセットアップしている。

 

 勿論、路面の荒れた峠でも、その足回りは威力を発揮するのだが。

(……ここまで速いなんてね。だけど……)

 自らが想定していたより、遥かに厄介な強敵だった。

 

(……まだバトルは終わってない!!)

 それでも、竹中は諦めない。スープラに鞭を打ち、RX-7を追走する。

 

 

 中間地点を過ぎても、ひたすら先行する相馬のRX-7。

 ミラーで、スープラとの差を窺う。

(……離せねぇな)

 二車身程度の差を保ったまま離れない。

(ラスト手前で、碓氷で唯一の直線が有るからな……。もうちょっと先行しときたいが……)

 相馬はそう懸念した。

 直線と言っても、300メートルに満たない程度の短いストレートだが、パワー差を考えると二車身という差ではマージンが足りないと感じた。

(……こっちも、限界のペースだってのにな。大した腕だぜ……)

 ここまで先行してきた相馬も、決して楽な展開では無かったのだ。

 

 どちらも、付かず離れずの間合いを保ったまま、ラストの300メートルの直線と最終の左コーナーを残すのみ。

(……ここしか、チャンスは無い)

 コーナーを立ち上がり、2速から3速へシフトアップ。そして、竹中は奥の手を使った。

(スクランブルブーストだ!!)

 スクランブルブーストとは、短時間だけ加給圧を引き上げる、ターボ車ならでは裏技だ。長時間使用すればエンジンやタービンのブローは免れないが、ゴール間近の状況で勝負に出るには、この方法しか手段は無い。

竹中のそれは、通常のブースト1,3キロから1,8キロまで引き上げる。この瞬間だけ、スープラの2JZは、680馬力を絞り出す。

 

 一気にストレートをワープするスープラが、RX-7のルームミラーに接近してくる。

(……やっぱり、直線で来やがるか。

 頼むから、踏ん張ってくれよ……)

 相馬は祈る気持ちで3速へシフトアップ。

 

 アウト側のラインから、一気にまくってくるスープラのノーズが、RX-7に並びかける。

(……追いつけ!!)

 そして、竹中は4速へシフトアップ。

(譲ってたまるか!!)

 相馬も、アクセルべた踏みのまま、素早く4速に叩き込んだ。

 

 

 その瞬間。

 RX-7の車内に、パキン、と金属が割れる音が響いた。

「……っ!?」

 ステアリングはまっすぐにも関わらず、マシンのノーズが左方向へ向かっていた。

(こりゃ……駆動系か!?)

 その症状から、咄嗟に判断した相馬。

 フルブレーキングを試みて、右方向へ修正舵を当てる。

 

 しかし、速度域が速い分、急激な荷重変化が起きたRX-7。鋭いコーナーリングを見せるハンドリングが仇となり、急激にヨーイングが変化した。

(……ヤベェ!!)

 オツリを貰い、右方向へ一気にテールが滑り出していた。

 

 

(……動きがおかしい。トラブルか!?)

 そのマシンの急激は挙動から、竹中はRX-7に異常が起きた事を察知した。

(このままだと、ガードレールを突き破って真っ逆さまだ!!)

 この状況化で、竹中の取った手段は。

 

「……南無三!!」

 叫びながら、フルブレーキング。そして、右へ向かうRX-7のノーズを押し戻す様に、左へステアした。

 ガン、という鈍い音が室内に響き、強い衝撃がシートとハンドルを通じて、体中に伝わってきた。

 スキール音と、タイヤの焦げる匂いを感じた時。咄嗟に、サイドブレーキを思いっきり引き上げていた。

 

 ぶつかり合いながら、二台とももつれる様にスピンモードに突入。そして、最終コーナー入り口付近で、二台は進行方向と反対向きに止まっていた。

 

「…………ふぅー。

 ……今のは寿命が縮んだよ」

 竹中は、大きく安堵の息を吐き出した。

 

(……コイツ。俺がコントロール不能になった事に気が付いて……)

 そして、相馬はスープラのコクピットをジッと見つめた。

 

 コースを二台で塞いでしまい、碓氷全体に赤旗が掲示された。

 恐らく、すぐにでもマーシャルカーとレッカーが出動する事になるだろう。

 

 相馬はマシンを降りて、すぐさまスープラの元へ歩み寄った。

 ドアを開けて、開口一番に言った。

「……すまねぇ。体は大丈夫か?」

「ええ……。なんとも無いけど……あんまりスープラを見たくない気分かな」

 4点のシートベルトを外しながら、竹中は苦笑いして答えた。

 

 竹中のスープラは、左側のフェンダーがめくれ上がり、左ヘッドライトとバンパーはバキバキに割れていた。

 相馬のRX-7も、右フェンダーがグッシャリと歪んで、右足のキャンバーと切れ角が物凄く着いている有様だった。

「……こりゃ修理代が高そうだな」

 相馬はため息交じりに呟いた。

「でも、無事で何より……。

 あの時、動きが明らかにおかしかったからね」

 竹中に言われると、相馬の首は縦に動いた。

「ああ。4速に入れた瞬間に、ドラシャかデフギアのどっちかが、イッちまったんだろうな。いきなり左に曲がりだしたんでな。

 そんで一気にブレーキとハンドルで修正しようとしたら、オツリ喰らってこの有様よ……。

 アンタに助けてもらわなきゃ、マジで崖から真っ逆さまだったぜ……。ありがとうな」

 相馬に礼を述べられるが、竹中はあっさりした様子で答えた。

「気にしなくて良いさ。俺達は、走り屋だから……命のやり取りまでする気はないからね。

 首都高でも、峠でも。ましてバトルでも……楽しく走るのが一番と思ってる。

 相手を事故らせてまでバトルに勝つくらいなら……俺は走るのを辞めるよ」

 竹中はそう言い切った。

「へへ……一個借りが出来ちまったな」

 相馬はそう呟いて、空を見上げた。

 

 二人の元に、オフィシャルの車両と積載車が、たどり着こうとしていた。

 

 

 スタート地点のパーキングスペース。

「……そう。意外な結末だったわね……」

 結果を聞いた“孤高なる女帝”は、そう一言だけ答えた。

(岩崎君……あなたは素晴らしい仲間を持っているわね)

 内心でそう呟いた時、堀井は自然に笑みを溢していた。

 

 

 碓氷の決戦。十三鬼将とキングダムトゥエルブ。まさかの引き分け。

 

 




ダブルクラッシュとあっけない幕切れですが、これも思いついた結末です。

次回から、核心の部分に少しだけ触れていきます。

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