十三鬼将vsKINGDOM TWELVE   作:囃子とも

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次なるバトル開始です。



第八夜 広島の弔い合戦

 

 広島と言えば、マツダが本社を構える地である。ルマンを制したロータリーエンジンの所縁の有る場。その隣に位置する、呉市に中国地方唯一の街道サーキットが存在する。

 広島という通称で親しまれているその街道サーキットの正式名称は“野呂山街道”。旧名さざなみスカイライン。中国地区の走り屋達が、ここで腕を磨きしのぎを削っていたとされる。

 

 ここに参上したキングダムトゥエルブの猛者は、ロータリー使いの“禁断のハールバート”という異名を持つ、佐竹元網だ。

(……まさか、こんな形で広島に来るなんてな)

 きっちりとマツダミュージアムに立ち寄って、伝説の787Bを拝んでからこの野呂山街道に到着したのだ。

 

 スカイブルーにオールペンされた、SE3PRX-8が野呂山のパーキングに入ると、レモンイエローのシルエイティが待ち構えていた。

「アンタが、佐竹元網じゃろ? 話は聞いとるぜ」

 出迎えたのは、宅間裕也。“ワールドスプレマシー”と異名を持ち、野呂山街道のスラッシャーを務める、広島の主だ。

「……って事は、スラッシャーの宅間って事かい?」

「ほうじゃ」

 宅間は、流暢な広島弁で佐竹を出迎えた。

「まぁ、ここの街道にそがな速いのはおらん。グリップ派はほんなおらんけぇの。

 じゃが、ドリフトやったら他の街道連中に、負けとらんのじゃ」

(……すげぇ訛ってるな。聞き取りにくい)

 佐竹は、喉元まで出てきた言葉を、何とか飲み込んだ。

「ワシがスラッシャーしとんのも、ドリフトで全コーナー流したまんま走れるけぇ。ドリフトに限れば、ここのレベルは日本一じゃ」

 ニヤリと笑い、宅間は答えた。

「そうか……。

 仮に、広島の走り屋達が、グリップのバトルをしたとしてだ。十三鬼将と勝負になるのか?」

「ならんじゃろうな」

 佐竹の質問に、宅間は胸を張って答えた。

「…………」

 開き直ったような答えに、佐竹は答えを見失った。

「まぁ、走り込めるようにこっちの奴らには言っとくけぇ。好きなように走りんさい」

「ありがとうよ。助かるぜ」

 佐竹は頭を垂れた。

 

 佐竹はキングダムトゥエルブの中でも一番若く、走りの経験も他のメンツに比べて浅いと言わざる得ない。

(……走り込めるのはありがたいな。問題は……相馬さんが言ってた事だ)

 しかし、碓氷でスティールハートと激闘を繰り広げた“鋼の琥珀石”こと相馬秀吉とは師弟関係に当たる。

 中坊の頃から相馬の背中を追いかけて、免許取得と同時に即弟子入り。愛機も師匠に倣い、ロータリーエンジンを搭載するRX-8を選択した訳だ。

 

 街道の大ベテランに鍛えられただけあり、そのテクニックは紛れも無くホンモノだ。若いながらも、他のキングダムトゥエルブのメンツに引けを取らない実力を持つのだ。

 しかし、その師匠から言われた言葉とは何か。

 

(相馬さんは“十三鬼将は確かに速い。それに……ネットで言われてる様な奴らじゃない。あいつ等とバトルするなら、勝ち負けは別として得る物は多いぞ”って言ってた。

 何でそう言ってるのかわからないけど……俺には俺のバトルが有るんだ)

 

 ドライバーズシートに座りRX-8に火を入れると、甲高いロータリーのサウンドが唸りを上げる。

(……相馬さんの敵は俺が討つ)

 断固たる決意が、そこにはあった。

 

 

 兼山大吾は、山陽自動車道を降りてから、目的のビジネスホテルに到着。夜九時を過ぎて、ようやく休息を取れる状態になった。

(……広島はさすがに遠いぜ)

 高速道路を使うとは言え、その距離は700キロを超える。しかも、マシンはバリバリのチューンドマシンであり、ドライビングなら兎も角ドライブでの適正はあまり無い。加えて、普段首都高を攻めているとは言え、長距離の運転は勝手が違うもの。

 ホテルの部屋に入るや否や、荷物を置いてベッドに寝っ転がった。兼山の疲労感はさすがに大きい様だ。

(さて……明日のバトルはどうなるかな)

 体はくたびれてる筈なのに、眠気は無い。

 それは、まだ見ぬ強敵への高揚感のせいか。或いは不安なのか。

(敦也ですら、強敵だったって言い張る程だ。……キングダムトゥエルブ)

 天井を見上げながら思い浮かべる事は、その事ばかりだ。

 

(……やったろうじゃねぇか。俺のソアラで……撃墜してやるぜ!!)

 自身に言い聞かせる様に、握り拳を突き出した。

 

 

翌日、夜。十三鬼将とキングダムトゥエルブのバトルの話は、インターネット上でも話題になっており、今夜の野呂山にも多くの走り屋達がギャラリーに訪れていた。

 パーキングにて初顔合わせする両雄。

 スカイブルーのRX-8とミッドナイトパープルのZ30ソアラ。綺麗に仕上がった二台のマシンが、一層ギャラリーの視線を引き付けていた。

「兼山大吾だ」

 簡素な自己紹介の兼山。

「俺は、佐竹秀吉。あんたに恨みは無いが、師匠の敵としてバトルさせてもらうぜ」

 佐竹は対照的に、その闘志を隠そうとしない。

「そうかい。オメーの師匠とバトルしたのは、俺のツレだったんでな……。

 敵討ちって意味なら、好都合かもしれねーな」

 兼山は不敵に笑みを見せた。

「そのシャコタンソアラで、街道を攻めれるのか?」

「なめんなよ。ソアラがシャコタンなのは、昔の街道レーサーの頃からの定番だぜ。

 RX-8程度に、負けてたまるかよ」

「……あんたこそ、エイトだからって甘く見てると後悔するぜ」

 互いに、愛機に自信を漲らせた。

 

 

 スタートラインに二台が整列すると、ざわめくギャラリー達の声をかき消すかの様に、轟音を響かせる。

 互いに年式は違う物の、国産車を代表すると言っても過言ではない、美しいクーペボディを持つFR車だ。

 

 レッドシグナル……そしてブラックアウト。

(……だあぁっ、しくった!!)

 佐竹は、内心で叫んでしまった。

 スタートでのホイールスピンを嫌い4000rpmでクラッチをミートしたが、低速トルクの細いロータリーエンジン故に、トルクバンドに入らずにエンジンストールと言うミスを犯した。

 あっさりと兼山のソアラに、先行を許してしまう。

(……ばっかやろぉ。これじゃ相馬さんに顔向けできねぇぞ!!)

 自分自身に罵声を浴びせた所で、状況は変わらない。

 佐竹は、ソアラのテールランプを睨みつけた。

(ラッキー……。このまま、行かせてもらうぜ!!)

 漁夫の利とは、正にこの事。兼山のアクセルを踏みつける右足に力が籠る。

 

 

 クーペの語源は、carrosse coupe (カロッセ クペ)と言うフランス語から成り立っている。意味としては、一列のシートを供えた幌付きの馬車、を表す言葉だ。

 近年の日本では、軽自動車やコンパクトカー、またはワゴン車等の利便性に富んだ車両が売れ行きを伸ばしている。

 その反面、ボディサイズが大きな割に実用性に欠ける面や、排気量や重量が大きい点から、税金や燃費の負担が多い事。或いは若者の車離れ等の要因から、販売台数が大きく低下。数多くのクーペボディを持つ車両が生産中止に追い込まれている。

 

 しかし、世界各国の自動車メーカーの事情は、大きく異なる。

 各自動車メーカーはフラッグシップとして、クーペボディのマシンをラインナップしている。言わば、世界的に見てもクーペボディを持つマシンは、そのメーカーのベンチマークとなっているのだ。

 フェラーリやポルシェは当然。メルセデスベンツ、BMWと言った、一流のセダンを作るメーカーにも、クーペボディを持つフラッグシップのマシンが販売されている。

 他にも、アルファロメオ、アストンマーチン、ジャガー、ロータス、シボレー、フォードなど、各国のメーカーのラインナップを見ても、確実にクーペボディを持つ主力戦艦が存在しているのだ。

 

 つまり、クーペボディのマシンは、そのメーカーにとって特別な意味を持つ車両なのだ。

 

 

 RX-7の後継として産声をあげた、RX-8。観音開きという極めて特徴的なドアを持つこのマシンは、クーペともセダンとも言い切れない特異な存在でもある。

 しかし、新世代のロータリースポーツとして“RX”の名に恥じない動力性能を持っている。

 そのロータリーの血統を引くマシンは、特異なドアでも、やはり“クーペ”なのだ。

 

 優れた前後バランスが生み出す、軽快なコーナリングを見せながら、ロングホイールベースの持ち味であるスタビリティも抜群の安定感をもたらす。

(……RX-8は、世間で言われる様な悪いマシンじゃないんだぜ)

 佐竹元網は、ロータリーにほれ込んではいるが、最初からRX-8が好きだった訳ではない。

 むしろ最初はFD3Sの方が、余程欲しかった。

 しかし、それを師匠である相馬秀吉が許さなかったのだ。

(……RX-7の方が、当然パワーもあるしコーナーも速いさ。

 ただ、作り方を間違えると、恐ろしく乗りにくいだけのマシンに仕上がっちまう。それに、パワーに頼ったら腕は上がらねぇ。だからこそ、NAロータリーのエイトを、相馬さんは勧めたんだ。

 むしろ、マシンの懐の深さはRX-8の方が遥かに上なんだぜ)

 師匠の言葉を受けて、佐竹はひたすら走り込んできた。その成果が、現在に示されているのだ。

 

 RX-7は十年に渡り進化を繰り返してきた。しかし、あくまでも基本設計は90年代初頭の物。乗りこなせば速いが、挙動がピーキーで上級者向けと言う評価を、最後まで覆すことは無かった。

 しかし、RX-8は新世代のシャシーのおかげで、コーナリングスピードに加え、安定性も優れていると言うハンドリングを実現しているのだ。

 

 

 幾つかのコーナーを過ぎると、RX-8がソアラのテールにロックオンしていた。

(……コーナーはさすがに速いな)

 スタートの遅れを取り戻した佐竹を、兼山はルームミラーで確認した。

 

 JZZ30ソアラも、トヨタを代表するクーペボディのマシンだ。

 ソアラは代々そのスタイリングで、車好き達を魅了してきた。加えて、高性能GTカーと言う面から、豪華な装備と贅沢なエンジンを与えられている。Z10系、Z20系と7M-GTEという、当時最先端のエンジンをフラッグシップに持っていたことからも、その動力性能は国産車の中でも屈指の物だった。

 その為、ソアラは各パーツメーカーやチューニングショップが、多くのチューンドソアラを生み出してきた事は、意外と知られていない事実なのだ。

 そして、Z30系ソアラに至っては、最高速やゼロヨンのみならず。ハイパワーな1JZと強固なマニュアルミッションを持つ点から、ドリフト野郎にも選ばれる事も多かったと言うのも特筆すべき事。

 

 すなわち、チューニングベースとしての素性が高いからこそ、あらゆるステージで選ばれると言う事なのだ。

 30ソアラ発売から2年後に80スープラがデビュー。そのベースシャシーは、30ソアラだった事からも、基本性能の高さは見えてくるだろう。

 

 

 生まれも育ちも歴史も違う、二台のクーペマシン。

 

 この広島を制するのは、どちらのクーペか。

 

 

 




kaidoの本編では、シタール兼山はスープラでしたが、首都高バトルの頃のイメージでソアラに乗せてます。

今回は、あえてクーペにこだわりました。

余談ですが、広島弁は漫画バッドボーイズを参考にしております。
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