エースコンバットGLT -World's last gate-   作:チビサイファー

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チトとユーリ

 

 

「暇だ」

 

 格納庫のベンチの上で仰向けになったユーリが呟く。口には板金をしゃぶり、鉄分を補給。ふわぁ、と大きな欠伸をし、むにゃむにゃと睡魔とダンスする。

 

「のんびりしてないで手伝え」

 

 F-14Dの後席に座り、マニュアル片手に機体の電気系統をチェックしながらチトが言う。先日の戦闘で損傷したF-14Dの修理は想定よりも長く掛かりそうだった。一番厄介なのが、先日ユーリがむちゃして展開した可変翼の予備パーツが届くのに時間が要することだった。

 

 修理を請け負ってくれている整備兵、通称「ケッチン」は、げんなりしながらも、メーカーに仕入れを早めてもらうように交渉に向かった。その間はチトとユーリがやれる範囲の修理とチェックをすることになっている。なっているのだが。

 

 ふにゃふにゃと猫のように目を細めるユーリはそれを手伝う気は全く無いようであった。

 

「だって私整備に関しては点で分からないし」

「体で飛ばすやつがいかに機体を労らないのかがよく分かるよ。お前が近距離でミサイル起爆したせいで、飛んできた破片が刺さって電気系統いくつか死んでるんだぞ。もしあの戦闘が続いてたらどうなっていたんだか」

「いやまぁほら、あれで蹴りが付きそうだったからさ。どのみち王道やって落とされたら元も子もないんだし」

「落とされないように、尚且つ機体を大事にするのが一番なんだって教わらなかったか?」

「器用じゃないので」

 

 ごろりと寝返りを打つユーリ。しかしチトは何も言わない。おかしいな、いつもならもう一言くらい言ってくるのだが。

 

 すると、ユーリに黒い影が差し込む。明らかな人の気配。ジリジリとした視線が降り注がれる。あーもう、眠いのに誰なんだろう。目を開けたユーリが見たものは。

 

 振り下ろされるレンチだった。

 

「ぐえ!」

「おいこらユーリ。人が修理パーツの納期早めるために駆けずり回ってるのにお昼寝とはいい度胸じゃないか」

「け、ケッチンいたい……」

 

 そこに居たのは小さな少女。エリア66切っての腕利き整備員のケッチンが、下水道に浮かんだ汚物を見るような目でそこに立っていた。

 

「んもー! 死んじゃったらどうするの」

「このドラ猫を最低でも一週間飛べなくした張本人に反論する余地はあると思うか?」

「ある。私も人間である」

「知ってるか。戦闘機乗りは血液じゃなくてケロシンが流れて、心臓がビス止めで出来てるから人間じゃないよ」

「じゃあちーちゃんも人間ではない?」

「チトはフライトオフィサーだからセーフ」

「差別!」

「区別だよ。それよか納品の話するから、そこに座って。チトも来てー」

 

 ケッチンは納品書の束を持ち直し、ユーリは体を起こしてベンチに座り、チトもコックピットから降りてくる。

 

「さっき業者と話し合ったけど、こっちにいくつか優先でパーツを持ってきてくれるって。主翼のユニット、電気系統、電子回路の予備パーツ。平凡な戦闘ができるようになるだけの物は確保できたよ。届くのは明後日。エンジンは予備の在庫が基地の倉庫にあったから明日にでも載せ替えて、三日後には飛べるようにはなるかな」

 

 その言葉を聞いてチトはほっと胸を撫で下ろす。

 

「助かるよケッチン。納期一ヶ月って聞いたときはどうなることかと思った」

「君たちは防空の要だからね。一ヶ月も飛べないんだったらこの基地は消し炭にされるよ。イシイ司令もそれも困るから、ちょっと圧かけたらしい」

 

 ほいほいとケッチンはチトに伝票を渡す。交換に必要なパーツリストと請求書。その数字を見てチトは少しばかり顔しかめる。

 

「特急料金だから仕方ないとは思ったけど、高くついたなぁ……」

「そりゃね。まぁ割高な分はユーリのクレジットから引いておくから」

「うぇ、私!?」

「当たり前でしょ。ユーリのせいでボクの三日三晩徹夜が決まってるんだよ。ボクの整備費無しにしただけありがたいと思ってね」

「ひーん、にしたってこれ高いよ。ケッチンの鬼、悪魔!」

 

 ごちんと振り落とされる拳。しかしこれはケッチンのではなく、チトの拳である。

 

「嫌なら機体を大事にしろ」

「はい……でも私も大事にして欲しい」

 

 ひりひりする頭を抑えながら、涙目でユーリは言う。そんな彼女を見て、ケッチンは待っていたかのように一つ提案した。

 

「なんなら私のちょっとしたお仕事引き受けてくれるならもうちょいまけてもいいよ」

「お仕事?」

 

 一体何をさせるんだとユーリは首をかしげる。

 

「ブンヤの取材対象」

「ブンヤ? ブンヤって要は新聞記者か何か?」

「そ。もうそこに居る」

 

 ケッチンがくい、と親指を向けた方に目線を向けると、メガネを掛けた男性が一人、人員用の扉の前でぽつんと気まずそうに立っていた。

 

「ど、どうも」

「彼の相手をしてくれたら半額。それでどう? 私集中したいから、ユーリなら暇でしょ」

「あー、そうだね。暇つぶしには良いかな。期限は?」

「無期限」

「げ、まじか」

「あいや、その」

 

 どうにか会話につけ入るタイミングを見つけたのだろう。おずおずとした様子で記者は口を開く。

 

「常日頃聞いて回るわけじゃないよ。君たちの普段の姿や、戦闘機で飛んでいるところとか、それと聞いてみたいことがあったら聞きに行くとか、そんな感じだから」

「おー、それなら楽ちんだ。乗った!」

「ありがとう。僕はカナザワ。月間ムーンウォーターの記者をやってる」

「私がユーリでこっちがちーちゃん。二人併せて~」

「チトです。よろしく」

 

 ユーリがなにかのポーズを撮るが、チトはすっぱりとスルーして会釈。がっくりとユーリは肩を落とす。

 

「ちーちゃんのイケず」

「黙れ」

「あはは……」

 

 まるでそのへんにいる女子高生か女子大生だなとカナザワは思う。果たして、この二人が本当にエリア66の危機を救ったトムキャットのパイロットなのだろうか。カナザワは苦笑せざるを得なかった。

 

 

 

 

 トトトトト、と軽快なエンジン音。過去の大戦時に作られた半装軌車、ケッテンクラートと呼ばれる車両のエンジン音だ。

 

 カナザワの取材を受けることにしたユーリは、まず基地の案内を依頼されたので一人ケッテンクラートに乗り込もうとした。しかしチトが「お前が乗ると爆走して壊れるからやめろ」と止め、結果チトが運転手、荷台でユーリが案内人という形になった。

 

「で、あれが予備機の格納庫。昨日の戦闘で燃えたけど」

「そ、そうなんだ」

「あっちが第三弾薬庫。これも昨日の戦闘で燃えちゃったね」

「お前はもっとまともに紹介することはないのか」

 

 先程から燃えて無くなったものしか説明しないユーリにチトはツッコミを入れる。カナザワも幾分か困っていたのでこれには助かった。そうしてこのやり取りで二人がそれなりに長い付き合いなのだということも、大方察した。

 

「それにしても昨日の戦闘はすごかったみたいだね。僕の乗ってた輸送機もしばらく待機を食らって、もう少しで手ぶらで本社に戻るところだったよ」

「こんなど田舎の基地に取材に来てもいい記事なんて書けるかわからないのに?」

「あはは、半ば上司の嫌がらせだからね。でも、腕利きが居るっていうのは噂になってたよ。それがまさか、君たちみたいな若い女の子だとは」

 

 いやはや、だから記者っていうのはやめられないんだとカナザワは自嘲気味に笑う。

 

「ま、好きでこうなった訳じゃないんだけどね」

「ああ。私とユーでこの基地を守るために任務に上がってたら、先輩たちがどんどん居なくなって、がむしゃらに生き残っていたらそんな風に呼ばれるようになった感じ」

 

 チトはクラッチを踏み、ギアをチェンジさせる。がるる、とケッテンクラートが喜んだように唸った。

 

「でも、ちらりと聞いた話じゃ君たちの実力も間違いないらしいじゃないか。僕も別のパイロットの取材をしたことはあるけど、君たちほどの戦果はなかったよ」

「それはまぁ、おじいさんの教えのおかげかな」

「おじいさん?」

「私とちーちゃんを育ててくれた人だよー」

 

 

 

 

 チトとユーリは元々戦争孤児だった。破壊しつくされた廃墟の街で、身を寄せ合って死に限りなく近いところまで行き、あと一歩で三途の川を渡るところで調査に来ていたおじいさんに救われた。

 

 戦闘機パイロットの教官担当だったおじいさんからしてみれば、二人の少女が虫の息で身を寄せ合っているのを見るのは辛いものだったのだろう。周囲の反対を押し切り、このエリア66へと連れてくることにした。

 

 その後二人は正式におじいさんの養子となり、このエリア66で暮らすことが決まったのだ。

 

「そのおじいさんは今何処に?」

 

 ランニングする訓練生の横をすり抜けた辺りでカナザワが何気なく聞いてみる。その言葉で、少しばかりチトの空気がピリピリしたことにカナザワは気付かない。当然だろう、会って一時間と経ってないのだからしかたない。ユーリはごく自然にフォローに入る。

 

「MIA。あれだよ、戦闘中行方不明。偵察任務に出た後、それ以降帰ってこなかった」

「あー……ごめん、聞くべきではなかったかな」

「戦争してるんだからこれくらい当たり前だよ。私達以外のパイロットも色々な人が死んだ。内戦も激しくなるばかりで困っちゃうね」

 

 ユーリはちらりとチトの背中を見る。その背中は少しだけ落ち着いたように見えた。チトにとっておじいさんとは知恵を与え、生きる希望を与えてくれた親でも有り、神にも等しい存在だ。もちろんそれはユーリも同様だ。

 

 しかし、本能で生きるユーリに対し、チトは知恵を使うタイプだったから、いかんせん敏感になってしまうのだ。

 

 もう少しだけフォローを入れよう。ユーリは言葉を重ねた。

 

「でも、私達はおじいさんが死んだとは思ってないよ。きっと何処かで行きてる。この戦争が終わったら、二人で探しに行こうって決めてるんだ。それで見つかったらみんなで帰ろうって。そのためにこの基地を無くすわけにはいかないんだ」

「だから君たちは防空迎撃専門の……」

 

 そう。第6航空師団第47基地防空迎撃隊、ルーンヌイ・スヴィエート。たった一機の戦闘機と二人の少女に与えられた、戦場での名前である。

 

「そう言うこと」

「それじゃあ君たちは、ずっとこの基地を守ってきたんだね」

「もう5年位にはなるかな。流石に今回は敵に一杯食わされたけど」

「留守中はどうしようもないし、まさかレーダーのあんな隙間をかいくぐられるとは思わなかったけどな」

 

 滑走路を横切り、一路メインの格納庫群へと進路を向ける。隣の誘導路を、紹介用の偵察機がタキシングしていった。

 

「なるほどね……いやはや、とても興味深いよ。記事にするにはもってこいのお話だね。もしよろしければ今後も君たちのことを記事にしたいと思うけど、どうかな?」

「おー、本当に!? 私達有名人じゃん!」

 

 荷台が派手に揺れる勢いでユーリは状態を起こし、ぐらりとケッテンクラートが揺れる。

 

「おいこら、揺らすな」

「だって取材だよー? つまり私達が主役だよ? こんなの初めてじゃん」

「私は嫌だよ。ていうか、現役の兵士が顔と名前晒したら休暇の時街歩けないぞ」

「マジか」

「考えれば分かるだろ」

 

 えー、やだなやだなとユーリは唇を尖らせる。しかしカナザワはこの反応は想定済みであるから、方向性を変える。

 

「じゃあ、君たちの話を匿名として記事にするのはどうだい? 口調とかは男女わからなくするし、写真もまぁ遠目のものとか撮らせてくれればそれでいいよ。記事は書き上がったらまず君たちに見せるし」

「だってさちーちゃん」

「まぁ……それならいいかな。私はあまり写さないでね」

「配慮するよ。もちろん取材料も出す。内容次第では上がるかもね」

「イェーイ助かるぅ! 今月の整備費ちーちゃんから借りなくて済むね!」

「半年分の借金してるの忘れるなよ」

「おえー」

「そういえばさっき格納庫のやり取りでも気になってたんだけど、そういうのって軍が全部負担するんじゃないのかい?」

 

 普通、正規の兵士なら武器備品の配給や整備は全て軍が行う。俗に言う、国民の税金でだ。

 

 しかし、チトとユーリに関しては少し事情が違う。

 

「私達は分類上傭兵だからね」

 

 と、チトは答えた。

 

「そうだったのか。なるほどそれで」

「私達が戦闘機に乗る訓練を始めた歳だと、正規の兵士としては入隊できなかったんだ。でもまぁ、傭兵のほうが何かと自由は効くから結果としてよかったけどね。この国はまだまだ兵士の練度が少ないから、おじいさんも世界中で傭兵やって、戦い方を覚えてこの基地で教官やってたんだ」

 

 それがこのエリア66の目的である。兵器は簡単に仕入れることが、一人のパイロットを一人前に育てるには10年近くの期間と莫大な費用が必要となる。ただでさえ時間がかかるのに、戦時中の育成は敵からの奇襲で貴重な人材を失うリスクも高い。よって傭兵を雇ったほうが安く済むのだ。

 

 しかし、かと言って新しい兵士の育成を疎かにするのは愚の骨頂である。腕利きの傭兵が集まるエリア66なら、より高度な訓練が行える。加えてここの立地は、天然の要塞として最大限機能し、先日まで敵の侵入を一切許さなかった。

 

 強いて言うなら、それまでにレーダー網を高速で突っ切り、強行爆撃しようとする敵も居た。その時がチトとユーリの出番である。

 

「私達の機体は、それこそ先進国では数を減らしてるけど、途上国の小さなこの国だったら十分すぎるほどの高性能機だし、迎撃任務も適任なんだ」

 

 それこそ、F-14Dの真骨頂である。核戦争の一歩手前まで行った冷戦時代に作られたF-14シリーズは、核ミサイルを搭載した爆撃機が接近してきた場合、真っ先に空母から離陸して迎撃を行うために設計された。

 

 空母から発進後、音の二倍で接敵。さらに長距離ミサイルでロックオン、撃墜する。その設計思想は貴重な人材育成を行うエリア66において、最初にして最後の砦というのにも等しかった。

 

 もちろん、なにも彼女たちだけに戦闘を任せるわけではない。ルーンヌイ・スヴィエートの役目は初動で敵の数を可能な限り減らすこと、ないし格闘戦に持ち込んでの時間稼ぎだ。その間に後続組が離陸し、合流したら連携して近接戦闘を行う。

 

 コンピューター制御の可変翼を搭載しているトムキャットは、この点においても非常に優位である。どの速度域でも、適切な角度を保ち、空戦を行えるのだ。

 

「なのに、ユーリっていうバカはその主翼をぶっ壊したんだ」

「へへへ……」

 

 いったい何を照れているのだろうか。カナザワからしたらユーリの顔は褒められたやんちゃ坊主のような顔だった。

 

「早くこの戦争が終われば、私達もおじいさんを探しにいけるのに激しくなって行くばかりだ。たまったものじゃないよ」

 

 訓練飛行を行う航空隊が編隊を組んで離陸していく。轟音が三人の耳を包み、その音が遠くなる頃を見計らってカナザワは再び口を開いた。

 

「資源を巡っての戦争だっけ?」

「正確に言えば違う。その資源を使って海外と手を組むか、自国内で使うか。俗に言う右翼左翼の溝が広がって起きたんだよ」

「なるほど。それだけの資源がこの国にはあったのか」

「多くの資源、っていうのも違うかな」

 

 駐機場の側を抜け、格納庫へと進路を向けながらチトは言葉を重ねる。

 

「ヴェスパニア鉱石って知ってる?」

「ヴェスパニア鉱石って、何年か前に発見された貴重な鉱石かい?」

「そうそれ」

 

 ヴェスパニア鉱石とは近年発見された特殊な効力を発揮する鉱石の一種である。発見されたのが旧ヴェスパニア王国の土地であった為名付けられたその鉱石は、調査をするに連れて驚くべき性質を秘めて居ることが発覚した。

 

 なんと、加工すればありとあらゆる電波を吸収し、レーダーに映らないのだ。それもノイズ一つも残さず、完全に姿を消せるのだ。つまり、これを元に爆撃機、ミサイルを作れば、補足されない兵器が完成する。小さな小国でも、長距離を飛ぶことができる爆撃機やミサイルさえ保有していれば、大国の大統領官邸を破壊することだってできるのだ。

 

 また、調査の結果電子機器に障害を発生させる効力もあることが学会で発表され、兵器利用の懸念がされているものである。その効力は、理論値ではあるが量さえ確保できれば地球全土の電子機器を破壊することができるとのことだった。

 

 しかし、発見されたものは米粒ほどの大きさの品物で、その後採掘されたことはない。よって兵器運用するには危険性は低いとされ、研究用に使われた鉱石は現在博物館の一角に展示されている。

 

 そのはずだったが。

 

「この国でそのヴェスパニア鉱石が大量に見つかったってわけ」

「それじゃあ資源が豊富だっていうのは」

「ただの噂。本来なら表立って話題になるものなんだけど、そうしたらその鉱石を狙う国が増えるわけで、秘密裏に仕入れたいってお国がいっぱいあるんだよ」

「……あの、僕ライターなんだけど、そんな事話して良いのかい?」

「別に機密にはされてないよ。ヴェスパニア鉱石自体は戦争前に発表されてたし、存在を隠すことはできなかった。内戦が始まったときも鉱石を巡ってるのは言ってたけど、こんな小さな国だし、そんなに感心もわかなかったんだろうね。でもって長く続いたから噂が独り歩きしたんだ。ま、国にとってはそのほうが都合いいんだろうけどね。下手に情報統制して話題にされるよりかは、情報のコントロールが楽なんだろう」

 

 あっけらかんというチト。まるで興味が無いかのような言い方である。

 

「実際、私達はそういうの興味ないからな。この基地を守る。それだけだよ」

 

 格納庫の眼の前までたどり着き、チトは車両のエンジンを切る。今日はここまで、という意味なのだろう。カナザワは荷台からそっと降りて、チトに礼を言う。

 

「ありがとう。のっけからこんなすごい話を聞かされるとは思わなかったよ」

「いい記事は書けそうか?」

「世界を揺らしかねないあれやそれについては、まぁ忘れることにするよ」

「これ書いたら大スクープで出世するかも知れないのにか?」

「いやなに、僕がこの記事を書いたところで、上司の手柄にされるからね。あえて黙っておくよ」

「あんた結構いい性格してるな」

「一応男だからね。意地はあるさ」

 

 それじゃあ、と言ってカナザワは宿舎へと戻る。一体どんな記者かと思ったが、割と好きな方な人間かも知れないなとチトは思う。

 

 さて、私達も部屋に戻ろう。チトはすっかり荷台で眠っていたユーリを起こすべく、ケッテンクラートの側面に搭載していたスコップを取り出し、振り下ろした。

 

 

 

 

 早朝。太陽が出てまだ十数分の頃。基地の一角にある格納庫の扉が開く。その中から牽引車に引かれて一機の戦闘機が屋外へと牽引される。言うまでもなく、チトとユーリのF-14Dだった。

 

「いやー、直ってよかったよかった」

 

 ふわぁ、と軽く欠伸をしながら、ユーリは格納庫から出てくる愛機を眺める。ヘルメットに異常がないかチェックしながらチトはじっとりとユーリを見つめる。

 

「次はあんなことするなよ」

「善処する」

「善処するって言葉はやる気のないやつが使う言葉だって知ってたか?」

「マジカ」

 

 駐機場への移動が終わり、電源車や燃料給油車が機体を取り囲む。この後は修理後のテスト飛行だ。

 

「ふあぁ……おはよ、ふたりとも」

 

 そんな二人のもとに、目の下にクマを作ったケッチンが現れる。見た目がチトより小さいにもかかわらず、この三日間修理のために全力を注いでくれてたことが見て取れた。

 

「ケッチンおはよー」

「おはよ」

「ったく、本当に手こずったよ。お願いだからもうあんな壊し方やめてよね」

「さっきも言われたのになぁ。まるでちーちゃんが二人いるみたい」

「お前に対しては私が5人居ないとダメな気がするよ」

「ちーちゃんがいっぱいで幸せかもね」

「言ってろ」

 

 そう言ってチトはヘルメットを被り、フライトスーツのジッパーを閉める。ケッチンはそんなチトの頬が少しだけ赤かったのを見逃さなかったが、触れないでおいた。

 

「二人ともこれから出撃かい?」

「お、カナザワ。おはよー。テストフライトだよ。写真撮る?」

 

 いぇーい。とピースするユーリ。本来ならこういう記事は自然のままのほうが良いのだが、まぁこれもいいかとカナザワはシャッターを切る。

 

「ほらユー、遊んでないでさっさと行きなよ。あ、報告書の提出は他の人に任せていいから。ボクは寝るよ」

「ほいほい、ケッチンありがとおやすみー」

 

 そう言いながらユーリもヘルメットを被り、機体へと向かう。さて、今日からまたお空と友達にならないとな。

 

 ユーリは二人に手を振り、タラップを上がってコックピットに体を沈める。ハーネスとベルトを括り付け、酸素ホースを繋ぐと計器を確認する。

 

 燃料計、電源を確認してエンジン始動手順を確認。そのタイミングで作業員から無線が入る。

 

「電源車、接続完了。コンプレッサー始動!」

 

 その合図で機体の右エンジンが目覚める。回転数確認、正常値まで順調に上昇中。

 

「右エンジン、回転数安定域まで到達。続いて左エンジン始動」

 

 チトがチェックリストを確認しながら機体の各システムを起動させる。油圧正常、火器管制装置確認。いずれも正常。その間に左エンジンも始動が完了。

 

「吹き上がりはバッチリだ。さすがケッチンだ、ありがたい」

「動翼チェックいくよー」

 

 ユーリが操縦桿を前後左右に倒し、動翼の確認を行う。地上整備員のOKサイン。ユーリはサムズアップで返答する。

 

『こちらタワー。ルーンヌイ、本日のテスト飛行はエリアB7Rで2時間の予定。離陸後、有視界飛行方式で直行せよ。今日は貸し切りだ』

「やりぃ、自由にできる。ちーちゃん全力飛行していい?」

「どうせテスト項目には入ってるから別にいいよ」

「いぇい、超頑張る」

 

 電源車が機体から離れ、車輪止めが外される。誘導員の手信号でブレーキチェック、異常なし。その他異常なし、出撃準備完了。

 

『ルーンヌイ、タキシング許可。今度は機体を壊すなよ』

 

 機体のブレーキ解除。エンジン出力を上げ、機体がゆっくり前進を始める。それに合わせてキャノピーを閉じ、ユーリはマスクを装着する。空を飛ぶときの本気の目。チトも酸素マスクに不備がないかサイドチェックし、引き続き機体のチェック項目を確認する。

 

 まだ修理の終わってない格納庫の目の前を通過し、そのまま滑走路へと滑り込む。まだ三分の一ほどが使えないが、トムキャットなら滑走距離は十分だ。

 

「動翼最終チェック」

 

 チトの言葉に従い、ユーリは再度操縦桿を前後左右に倒し、ラダーペダルを踏み込む。

 

「チェック完了」

『こちらタワー、ルーンヌイ、離陸を許可する』

 

 スロットル全開、アフターバーナー点火。ドラ猫が咆哮を上げて加速し、速度計の数字が狂ったように回転する。速度が3桁へと近づく。

 

「エンジン出力異常なし」

「行くよ、ちーちゃん」

 

 離陸速度到達。操縦桿を引き、機首上げ。車輪のサスペンションが伸び、続けて主輪も宙に浮く。体を浮遊感が包み、外を流れる景色が遠くなる。

 

 車輪格納。ランプ点灯、こちらも異常なし。

 

『ルーンヌイ、高度制限解除。貴機の幸運を祈る』

 

 進路変更、目標空域B7R。旋回ついでにユーリは機体を左右に振って機体の動きを確認する。上々だ。整備前よりもとても素直になった。ついでなので基地上空をぐるりと一周するべく、機体を左旋回させる。

 

「んー、帰ったらケッチンにご飯でも奢ろうかな」

「珍しい事を言うな」

「流石に三日徹夜は申し訳ないと思ったので」

「ま、それが良いだろう。お前にしては気が利く」

「私だって感謝してるしー?」

「そうならもうちょっと労って飛ばせよ」

「あーい」

 

 旋回が終わり、進路を訓練空域に向ける。険しく、空高く目指してそびえる山々を尻目に、ドラ猫の名を与えられた鉄の鳥は上昇していく。抜けるように青い空が、まるで祝福しているかのようにチトとユーリを迎えてくれた。

 

 

 

 

 離陸していくトムキャットをレンズに収め、カナザワは万足そうに笑みを浮かべる。ひとまず、来月連載予定の記事内容が決まったので、それを書くのが楽しみであった。ど田舎の基地に飛ばされたときはどうかと思ったが、むしろうるさい上司もいないし愉快な取材対象は居るしで、こちらのほうが居心地が良さそうだった。

 

「……さ、今日は部屋にこもって原稿を書き上げるかな」

 

 カメラを収納し、もう一度カナザワは空を見上げる。機体の具合を確かめているのか、二人の乗ったF-14Dは綺麗な

円を描いて旋回している。

 

 やがて満足したのか、進路を変えて一直線に飛び去っていく。戦闘機の中では巨体なその影が空の彼方に消えていくのに、そう時間は必要ないだろう。

 

 ここはエリア66。雛と雄鶏がせめぎ合う養鶏場はゆっくりと目覚めていく。そしてその地を守るドラ猫は、今日もその咆哮を大空に響かせ、己の存在を知らしめるべく縄張りへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 エースコンバットGLTについて

1.エリア66

 世界観は察しのついた人ならお気づきかもしれないが、エースコンバットの世界観をモチーフにしている。しかし、ゲームのエースパイロットや地名が登場することは、尺の都合上殆ど無い。

 チトとユーリが所属しているエリア66のモチーフは、エースコンバットZEROに登場したヴァレー空軍基地である。少女終末旅行の世界観が雪の多い世界だったこと、また「6」と言う数字に何かと縁があること、うp主がエスコンZEROが死ぬほど好きだという理由からこうなった。

 なお、基地名をエリア66にしたのは、単純に新谷かおる作品のエリア88がやっぱり好きだからである。完全アニメ化まだ?
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