エースコンバットGLT -World's last gate- 作:チビサイファー
高度2万フィート。天気は快晴。作戦空域はエリアB7R。草木が一本も生えていない岩山の連なる空域は、普段なら恐ろしいほど静かな場所である。
だが。
轟音が待機を切り裂く。二基のエンジンの咆哮が一気に上空へと舞い上がる。機体は絶好調そのもので、乗り手の意思をそのままに具現化してくれるのが気持ちいい。
マスクの中で気持ちが昂ぶるのを感じながら、ユーリは操縦桿を左へと方向け、引く。左急旋回、進路変更。自分たちの背後を奪おうとする目標を振り切ろうとする。
「八時方向、上だ上!」
「あいよ!」
ラダーペダルを右に蹴りながら左ロール。鼻先をずらして進路を予測させないようにする。
背後の敵機が攻撃を一旦取りやめ、機会を伺うために追尾を再開する。
「ちーちゃん、あれやってみるよ!」
「止めてもやるんだろ、思い切りいけ!」
「りょー、かい!」
ユーリはスロットルレバーを絞り、エアブレーキを展開。それと同時に操縦桿を引くと、エンジン排気口の推力偏向ノズルが機体を立ち上げる。機体の面で空気抵抗を受け、トムキャットは上昇することなく急減速。Su-27やF-22戦闘機が可能にしている、コブラ機動と呼ばれる特殊機動だ。
立ち上がったトムキャットを、敵機が追い抜いていく。スロットル全開、機体を立て直す。眼の前に敵機の背中。
シーカーダイヤモンドが敵のマーカーに向かって近づいていく。3、2、1……ロックオン!
「よっし! イシイ、撃墜一発目はもらったよ!」
ユーリは思わずガッツポーズをする。眼の前の敵機、イシイのJ35ドラケンは完全に背中を晒していた。
『なるほど、応用ができるようになった訳だな』
「模擬戦で私達が勝ったらご飯おごりって約束、忘れないでよ」
『極上ワインに産地直送の刺し身料理も付けてやろう。だが』
イシイのドラケンが急上昇する。おっと、まだ制限時間は過ぎていない。ユーリもスロットルを全開にしてイシイを追いかけるべく上昇、ループ機動に入る。が。
「ユー、バカ! さっきのコブラでこっちは速度が殺されてるんだぞ! 馬力はこっちが上だけど、身軽なのはイシイの方なんだ!」
『そういう事、だ!』
ユーリは慌てて機体を反転、急降下に入る。しかしイシイのドラケンは既にループをほぼ終え、下降の勢いを利用して二人のトムキャット改に迫る。
「やっべ、まずった!」
バーナー点火。振り切らねば。トムキャットの新型エンジンが唸る。しかし、重力という自然の力は想像以上に強力だった。響くロックオンアラート。チトが背後を見ると、ドラケンがピッタリと背後に食らいついていた。
「ちょっとー! イシイそれずるくない!? 食べ物で釣るとか!」
『この程度で気を散らす用ならまだまだだぞ。そら、後数分だ。先にもう一本取ったほうが勝ちだ!』
イシイが増速してくる。だがユーリは冷静にアフターバーナーを点火させて増速。水平飛行ならトムキャット改に分があるのはケッちんからの教えで知っていたからだ。
『さすが、F-14シリーズの次世代モデルがベースなだけはあるな』
「へへ、めっちゃいいよ。前の機体より軽く感じるし、素直だし!」
右急旋回。トムキャットの得意な旋回戦に入る。機体が軽量なドラケンにも分はあるが、トムキャット改の最新型制御コンピューターは以前のD型よりもより細かく主翼を微調整し、効率が上がった。それでいて三次元可動ノズルは、空力ではなくエンジンの推進力そのものを方向転換に使うため、最小半径は圧倒的にトムキャット改のほうが上回っていた。
ドラケン、左急旋回。このままでは埒が明かないと判断したのだろう。チトの予想よりも早く動いた辺り、さすが司令官と言ったところだ。
「逃がすかっ!」
「ユー下に行ったぞ!」
ユーリ左旋回。首を地面に向けてイシイを確認する。ハーフロール、急降下。ドラケンの機体にめがけて突進する。
「っ、すぅ……」
ガンモード選択。ドラケンのマーカーが射撃レティクルに重なる。ファイア! センサーの判定、命中なし。
「避けられた!」
右旋回して回避するイシイ。しかしユーリはそれを追いかける。
「速さならこっちが上だよ!」
薄い雲の中に二機が飛び込む。時折窓の外が薄暗くなり、次の瞬間外に飛び出す。
「えっ!?」
ユーリは驚愕した。イシイの姿が無い。おかしい、ついさっきまでマーカーは目に入っていたのに。雲に出た瞬間の、ほんの一瞬の太陽の光で目を細めた瞬間に消えたのだ。
『まったく。嬉しいのは分かるが、口数が多いといつものような戦果は出せないぞ』
「え、え、どこ!? イシイどこなの」
『ここだ』
ほんの一瞬だけ殺気を感じ、ユーリは左後方、正確には自分たちの機体の真下に目を向ける。イシイのドラケンが悠々と、トムキャット改を下から見上げていた。
『はい、ロックオン。私の勝ちだ』
「バカユー! ちょっと浮かれ過ぎだぞ!」
「あちゃぁ……ごめんちーちゃん」
「はぁ……身内とやるとなると、どうも勝手が違うな」
『君たちの腕を疑ってるわけじゃないが、もう少し緊張感を持つべきだな。と言っても、普段の戦果から見ればそんなに問題でもないがな』
戦闘終了し、イシイが前に出る。ユーリは機体を安定させ、軽く左右に翼を振ってみる。よし、いい反応だ。
『さて、燃料も消費したことだし、基地に戻るぞ。完熟訓練はもうそろそろいいだろう』
「うん、簡単に馴染むみたいでいいよこいつ。ケッちんにお礼言わないとね」
『そういう訳で、約束の品物は彼女に差し上げるとしよう』
「わ! そんなの聞いてないよ!」
『言ってなからな、当たり前だ』
「ふーこーうーへーいー!」
ぶーぶーと文句を垂れるユーリ。全く、世界が変わろうとしているのにこいつは全く変わらない、まぁ、今はその方がありがたいな。チトがそう思っていると、二機は隊列を組んで右旋回。一路エリア66へと帰還していった。
*
「どうだった、新しいドラ猫は」
タラップの下でケッちんがニコニコしながら待っていた。自分の手がけた機体の感想を聞きたいのが整備士の性なのだろう。今の彼女は見た目相応な表情をしていた。
(飴をあげたくなるな)
チトは口に出さずにそう思う。
「やっぱいいね。かゆい所に手が届いてむしろ通り過ぎるくらい」
「聞きように寄っては不満点にも聞こえるんだけど。まぁいいか。機体に不備はなかった?」
「バッチリ。壊さないで帰ってきたよ」
「それが当たり前だよアホ。でもまだ小規模改修があるから、下手に壊さないでくれるのは助かるよ」
「まだなんかやるの?」
「まぁね。イシイ司令の命令だからね。反政府側とも停戦協定結んで、一時的な同盟も組んだ。各国から引き抜かれた軍隊が結集した連合軍の設立もしたことだし、私達もその中に入るだろうね。今後は忙しくなるよ」
それじゃあ作業に入るから。そう言い残すとケッちんは作業台を並べている整備兵たちに檄を飛ばす。おー怖い怖いとユーリはハーネスを外し、チトもそれを追いかけるようにしてロッカールームへと向かった。
*
プロジェクト4の宣戦布告から半月。世界各国首脳陣は緊急招集を行い、対話の結果各国から選抜された隊を招集、連合軍の結成が可決。チトとユーリの住む国家も、反政府軍との停戦協定が施行、同じ軍隊として連合軍に参加することとなった。
その間、幸運かどうかはわからないが、プロジェクト4側は目立った戦闘活動を行うことはなく、その後の消息も不明。世間を盛り上がらせていたクーデターのニュースは鳴りを潜めつつあった。
しかし、連合軍は何も掴んでいないわけではなかった。
「それではこれより作戦会議を始める。聞け!」
イシイがブリーフィングルームに集まったパイロットたちに向けて言い放つ。今まで感じたことのないイシイの殺気に、いつもはうるさいブリーフィングルームは静まり返った。
「プロジェクト4の蜂起から半月。実に濃い半月だったと思うが、慌てる暇すら無いのが現状だ。しばらく鳴りを潜めていたプロジェクト4だが、敵の唯一の拠点を特定。既に敵は世界を破滅させるだけのヴェスパニア鉱石の加工を終え、兵器化していると見ている。モニターを見ろ」
イシイが指示を与えると、スクリーンにマップが表示され、ズームアップされる。いくつかトリミングを繰り返した後、巨大な建造物が表示された。
「十年近く前に破棄された階層都市計画を知っているか? 少ない土地を効率的に使用し、産業都市化を目指すために建設されていた都市だ。しかし、構造の不備の問題から崩落の危険が高まり、8割型完成したところで計画停止。再建計画が幾度となく持ち上げられたが、内戦の勃発で完全に頓挫。無人になっていた所、プロジェクト4が占拠した、というわけだ」
階層都市は、都市と名乗るだけあってその広さは桁違いであった。階層の端から端までおよそ10キロ、山脈を土台として利用し、海外からの技術供与による新型基盤及び支柱の採用をしたことで強度を確保、全三層の階層を有している。
産業地帯を目指して作られた設計のため、産業エリア、都市エリア、居住エリア、農業プラントといったエリアに区切られており、資材搬入のために大型旅客機が離発着できる空港も有している街だ。
「プロジェクト4はこの都市に基地を築き、大型ミサイルサイロを建造した。ここからヴェスパニア鉱石を加工、電磁破壊爆弾を搭載した衛生を打ち上げる。衛星写真の結果から、用意されたのは恐らく四発。地球を四方から挟み込み、完全な妨害電波で包み込む算段ってわけだ」
もし完璧な位置で電磁破壊爆弾が起動した場合の被害は甚大である。簡単に言えば石器時代に戻ると言っても過言ではないだろう。更に先進国が保有していたヴェスパニア鉱石を使用した兵器データが盗まれたことも発覚。完璧に作り上げ、使用した場合の効力は十数年に及ぶと考えられている。
「プロジェクト4の参加人数はそれほど多くないとされている。しかし、奴らは既にミサイルの発射準備を勧めているだろう。いわば短期決戦だ。発射される前に特定できたのは奇跡とも言える。よって我々は明日、最前線基地へ移動。連合航空隊と共に――――」
と、その時だった。突如としてコンクリートの悲鳴に似た轟音と衝撃が部屋中を包み込む。照明が何度か点滅し、やがて完全な暗闇になる。数秒の後、赤い非常灯が点灯した。
「何事だ!」
イシイが緊急回線を開く。ノイズ混じりで管制塔の声がよく聞こえない。阿鼻叫喚だ。だがその悲鳴の嵐の奥に、イシイは確かに聞いた。
『奇襲です!』
*
いち早くブリーフィングルームから飛び出したチトとユーリは、すぐさま機体の駐機場へと向かおうと外に飛び出る。既にあちこちで火の手が上がり、上空には見慣れない航空機が無数に飛んでいた。
「なんだよこれ!」
チトは怒号を上げながら、しかし走らねばどうにもならないととにかく足に鞭を打つ。すぐ近くのF-15Cが燃料に引火して鉄くずになった。
「わかんない! でも急がないとやばいよ!」
二人は自分たちの格納庫の前に引っ張り出されたトムキャット改を見つける。混乱の最中ケッちんが引っ張り出してくれたのだ。
「ケッちん、何が起きてるんだ!?」
「ボクにもわからないよ! でも奇襲なのは間違いない!」
「レーダーは!? 何も映ってないのか!?」
「ボクだって知りたいよ! いいから乗れ! このまま地上に居ても燃やされるだけだ!」
チトはタラップに足を乗せて駆け上がる。ユーリは既にヘルメットのホースを繋ぎ、離陸体制を取っていた。数歩遅れてチトも後席に座り、無線のスイッチを入れる。回線はパンク寸前で、悲鳴と怒号が撒き散らされていた。
『被害状況、被害状況知らせ!』
『敵はどっからだ、レーダー室は何をしていた!?』
『全く何も映っていません! 攻撃してくる機体も、普通の攻撃機とはシグナルが違います!』
『燃料タンク破損、火災止まりません!』
『バルブを閉じろ、基地そのものが吹っ飛ぶぞ!』
『滑走路被弾、損害は不明!』
だめだ、まるで役に立たない。チトは計器を立ち上げて火器管制装置を確認。ユーリが叫ぶ。
「エンジンコンタクト!」
「回せーっ!」
ケッちんの合図とともに、まず片方のエンジンが始動する。両エンジンの回転を待っている暇はない。ユーリは地上走行中にもう片方のエンジンを始動させることを決断する。
「ケッちん離れて!」
タラップから飛び降り、それをぶん投げる勢いでケッちんは外す。電源ケーブルを抜き、手信号でGOサインを出す。その時だった。
『東、東側だ! 空を見ろ!』
東、自分たちから見て後ろ側。二人は後方に首を曲げる。何かがゆっくりとこちらに向かって浮遊していた。浮遊? いやおかしい。何かおかしい。チトは混乱する頭をどうにか冷静に保とうとして思考する。そして気づいた。あれは浮遊しているのではない。
あまりにも巨大すぎて、ゆっくり動いているようにしか見えないのだ。
『未確認機、直上を通過します!』
強烈なエンジン音。空を覆いそうな巨大な翼がエリア66の上空を悠々と飛行する。なんなんだこれは。こんなものがレーダーで発見できなかったなんて冗談だろ?
「ちーちゃん行こう!」
ユーリが叫ぶ。そうだ、考えている暇はない。思考は時に生きるための足枷になる。なら今はユーリのように脊髄で動いたほうがいい。
「誘導路から飛べ! 時間がない!」
その言葉に従い、ユーリは機体を誘導路に滑り込ませると軽い動翼チェック。もう片方のエンジンの始動も完了し、スロットルを押し込む。
「こちらルーンヌイ、誘導路から飛ぶぞ! 轢かれても文句言うなよ!」
離陸許可を待ってる暇なんて無い。とにかく生き残ることだけを考える。スロットル全開、F-14Dよりも上がった加速力がチトとユーリをシートに押し付ける。
『対空砲火急げ! ルーンヌイだけは守るんだ!』
『あの二人だけでも、なんとしてでも空に上げろ!』
『撃ち方はじめー!!』
生き残った対空車両たちが、F-14ADVANCEの活路を開くために一斉砲撃を行う。ありがとう。チトとユーリは言葉に出さずとも感謝の意を述べる。
離陸速度、ピッチアップ。トムキャット改が空へと舞い上がる。車輪格納、その時。
「正面!」
真正面に敵機が滑り込んできた。のっぺりとした、白い機体。見たことのない奴。何だこいつは!?
だがユーリはこのままやられるほど潔くよくない。とっさにガンモードを選択。敵機のマーカーが浮かんでいない状態で自分たちの射線上に入るよう機体を傾け、発泡。20mmバルカン砲が自分たちに向かってきた一機を八つ裂きにする。
「艦載機に乗る以上、足が離れた瞬間に空戦はできるようにならないとだめだからね、舐めんな!」
珍しくユーリが吠えた。すぐさま反転、基地上空に居座る敵機に飛び込む。その間チトは武装を再度確認。ケッちんが試験搭載しようと言っていた新型ミサイルポッドが搭載されていた。
「ユー、新型使うぞ!」
レーダー照射、目標補足。数……20機!? そんな大群何処に居たんだ? だが考えるよりも今は蹴散らすことを最優先としなければならないとチトは敵機のレーダー補足を行う。
今こそ進化したトムキャット改の真髄を発揮する時だ。向上したエンジン推力、機体の一部に炭素カーボンを用いての軽量化を図った本機のミサイル搭載量は、今までのトムキャットの比ではない。
故に大きな幸運だった。今のトムキャット改はこの後試験的に対空、対地兵装を最大限搭載した状態での試験飛行を予定していたのだ
つまりだ。トムキャット改には、ミサイルポッド含め、系13発のレーダーミサイルが搭載されているのだ。
「撃て!」
ユーリは躊躇しなかった。主翼搭載ウェポンベイが開放。中に包まれていた片側4発、両サイド合わせて8発のミサイルが飛翔する。続けて主翼付け根、2発のレーダーミサイルのロケットモーターに点火。そして胴体中央ミサイルパイロン、後方3つに搭載されていたミサイルが音速の壁を一瞬で超えて群がる。
火球が生まれる。10を超えるそれは、敵機の撃墜を意味していた。何ということだ、全部が鉄くずになった。一発も外していない。チトはよし、と思う。しかしちょっと出来すぎているような気もした。
「ちーちゃん、なんかこいつらおかしい!」
「ああ。手応えがなさすぎる。まさか……? ユー、残りを片付けろ!」
長距離ミサイルを撃ち尽くしたユーリは接近戦に持ち込む。一瞬短距離射程ミサイルを使おうと考えたが、さっきの違和感が拭えなかったため、ガンモードを選択する。
交錯。眼の前を横切ろうとした一機を蜂の巣にしてすれ違う。その瞬間落ちていく敵機を目に焼き付ける。白くてのっぺりした機体。普通の戦闘機よりも一回り二回りも小さい。それに……コックピットがない!
「こいつら無人機だ!」
さっきの違和感の正体はこれだった。人の乗った戦闘機なら、ミサイルを放った時焦りや恐怖がその操縦から伝わってくる。
しかし無人機にはそれがない。人命が掛かってない以上、兵器は消耗品。こうすれば貴重な人員が減ることはない。
だがそれでも疑問はある。無人機でも操縦しているなら、回避しようと機体を揺らし、先も述べてた焦りが伝わるはず。
そうなると答えは一つ。
「自立型の無人戦闘機ってことか!」
そうなれば大量投入、人間特有の気配を感じない点、全てに合致が行く。プロジェクト4は少ない人員を補うべく、無人兵器を多数保有している可能性が浮上した。
『ルーンヌイ、聞こえるか?』
「イシイ! 無事だったんだ!」
『なに、まだくたばれ無いさ。それよりも続報だ。今確認した所、無人機は攻撃兵装を撃ち尽くしたようだ。残りはこちらで対処可能。君たちは飛び去った巨大航空機を追え!』
「でも、基地が……」
『こちらのことを気にするな! それよりも今やつを仕留めないと驚異になるのは間違いない。レーダーに全く映らなかったということはヴェスパニア鉱石を使った機体の可能性が高い。一度見失うと見つからないぞ!』
チトは首を巡らせる。さっきのデカブツが基地の真上を通り過ぎてそう時間は経っていない。西の方へよく目を凝らす。
「居た! まだ目視できる!」
『なら行け! 絶対に逃がすな!』
「ユー!」
ユーリはすぐさま進路を西に向ける。チトは再度レーダーを確認する。やはり反応はない。混乱状態で正確な大きさは分からなかったが、全幅は100m……いや、300mを有に超えているだろう。
トムキャット改のエンジンが吠える。ミサイルポッドパージ。余計な重りを捨てたドラ猫は音の壁をぶち破ろうと更に加速する。シートに押し浸かられ、ビリビリと震える機内でチトは次の算段を練る。相手そのものに武装がどれだけあるのかが気になるところだ。あれだけの巨体だ、もし銃座などがあったら一機で飛び込んだ自分たちは不利かもしれない。
(さながら空中要塞って所か)
ならせめて燃料が持つ限り追跡するまでだ。あわよくば別働隊に引き継ぐべきだろう。
巨大な機影が近づく。改めて見ると大きい。大きすぎる。こんなものが存在しているなんて信じられなかった。
『こんにちは』
その時、突如として無線に声が響く。味方のものではない。チトとユーリはすぐさま敵だと察知する。
『あなた方がルーンヌイ・スヴィエートですね』
「お前は……何者だ」
『私は『あの方』の命を受け、あなた方に会いに来ました』
「あの方……おじいさんのことか?」
チトは周囲に他に戦闘機が居ないかどうか確認する。だが見当たらない。レーダーにも反応はない。見えるのは悠々と飛んでいる空中要塞だけだ。
それにどうも違和感を覚える。人が発するにはあまりにも無感情すぎる声色だったからだ。
『その通りです。私はこの機体の制御を任せられた自立型AIです。私の目的は、戦線復帰したあなた方に確かめたいことがあって訪れました』
チトはとっさに前席の鏡に目を向ける。ユーリが鏡越しにチトを見つめている。いつでもやれるという合図だ。
「……なにをだ」
『あの方に会いに行く資格があるかどうかです』
空中要塞の主翼に隠されていたハッチが開放され、その中から小さな影が次々と投下される。その影はくるりと一回転すると翼を広げ、舞い上がる。エリア66を襲撃した無人機だ!
「エンゲージ!」
ユーリ、増速。機体がビリビリと震える。響くレーダー照射音、いつミサルが飛んでくるか分からない中、ユーリは無人機の大群の中を飛び込み、突破する。無人機は反転して追いかけてくる。
「あの数じゃ埒が明かない、デカブツを落とせ!」
悠々と飛ぶ空中要塞に向けて疾走するトムキャット改。ユーリは短距離射程ミサイルを選択、安全装置を解除。エンジンに向けてロックオンをしかけようとする。が。
「ロックできない!」
「くっそ、ヴェスパニア鉱石の妨害電波か!」
急上昇。一旦距離を置こうとするが、追いかけてきた無人機が群がる。
「後方、敵機多数。アホみたいに多い!」
チトが首を左右に振り回す勢いで敵を目視する。数は10を超えている。基地を襲撃した分で機数は減ってるにしろ、今の所自分たちが追いかけている以上、戦力比は1:10だ。
ミサイルアラート。白煙が群がる。その先には火薬の塊が詰め込まれた殺意の塊。一切の容赦のない数が群がる。この無人機を作った奴と飛ばした奴は人間じゃねぇとチトは罵りたくなった。
フレア散布。惑わされたミサイルが歪な白煙を作る。だが前方に回り込んだ一機が機銃掃射してきた。ユーリは左ラダーペダルを蹴り飛ばし、軸先をずらして回避。操縦桿を今度は右に倒して反転。旋回しながら急降下に入る。
『なるほど。あの方が気にするわけです。故に、驚異となるのは理解しました。あなた方を徹底的に排除します』
再びミサイルアラート。再度フレア散布。急上昇。今度は二機が正面に回り込んできた。
ユーリ、急減速。エアブレーキ展開、ピッチアップ。三次元推力偏向ノズルが機体をお仕上げ、トムキャット改が中空にとどまりながら一回転する。曲芸機動の「クルビット」だ。
真正面から来た二機が対応しきれずすれ違う。トムキャット改が背後に機首を向けた瞬間、ユーリは短距離ミサイルを撃ち込む。命中、二機とも爆散。だがミサイルはこれで品切れだ。
主翼展開、揚力回復。機動性を再度確保して群がる無人機を回避する。ここでチトはある事に気がつく。機銃掃射の間合いに何機か滑り込んでいるのに、誰も撃ってこない。それにあの小柄な無人機は空中要塞の中に収容することを重視しているだろうから、搭載量も少ないはず。つまり。
「機銃を持っていないのか! ユー、ミサイル避けきったらあいつらはただのラジコンだ!」
「っりょうかいっと!」
バーナー点火、急上昇。ミサイルアラート、チャフ散布。反転した瞬間に機銃を叩きこみ、2機を葬る。包囲網突破、ミサイルの脅威は薄くなりつつある。
『理解できません。あの方に育てられたあなた方が、なぜ同じ道を歩まないのか。あまりに非効率で、無駄が多いです』
「お前こそなんとも思わないのか! 世界を作り変えるために、犠牲が必要だって。そんなの自分の思うように行かなくて、全部を投げ出す子供と同じだろ!」
ミサイルアラート。バレルロールして回避。チト、首を曲げて後方を確認する。飛んでくるのは2発だけ。敵機も残り6機だ。
『あなた方の言うことも確かに正しかったです。しかしそれは既に過去のものです。
幾度となく人類は変わろうとしました。それは評価に値します。ですが、その結果は腐敗への一途を辿る哀れなものとなりました。
腐敗した人間が国を司り、その結果犠牲になる人々は、一秒で数十人、一時間で数百人、数日も経てば数万人を超えます』
ユーリが機体を左ロールさせて左旋回、直後急反転で右旋回。機体に揺られながらチトが首を曲げると、ミサイルを失った無人機たちが特攻を仕掛けてきていた。
(くっそ、なんでもありなのか!)
直撃しそこなった無人機がループして真正面から向かってくる。ユーリはその隙間に機体を滑り込ませて回避。左手、発達した積乱雲。くそ、退路が減った!
『私は元々、人々の生活を管理する工場の、食糧生産の管理AIでした。私の使命は人々が生きながらえるように食料を生産すること。しかし、私達の努力を無にしたのは人でした。不正使用、横流し、密輸、そして国が崩壊した後の略奪、破壊。我々は守るべき人々に、存在を否定されたのです。そんな中、あの方が私を救ってくださいました』
また特攻が来る。一機二機を回避するのに急減速をすれば、残った機体が飛び込んでくるに違いない。背後に回ろうにも、一機を相手にしたら残りの五畿が群がってくる。常にミサイルに追われているような状態だ。
『あの方はこう唱えました「自分の使命を引き続き全うせよ」と。私の目的は人々が生きられるようにすること。新たな仕事を完遂するため、幾多の情報処理を行いました。
結果、一番の障害は人であることがわかりました。ならば私の守るべき芽が破壊に摘み取られる前に、今度は私が破壊の芽を摘み取る。それが私の結論です』
「機械が言うことかよ!」
『私は人々のためになるべく、「共感」を与えられました。よって私には私の結論があり、あなた方なりの結論があるのもお察しします。しかし残念ながら』
トムキャット改の眼の前に、回り込んだ2機が現れる。挟まれた、加速も減速も出来ない!
『どんなに無茶な結論も、道理も、生き残ったものが正しくなる。それが人間の作った哀れな世界なのですよ』
空に大きな火球が現れる。その豪華の光の中に、無人機たちが飛び込んでいく。跡形もなく、目標を全て叩き潰すために。
その煙の中から、ガラガラと音を立てて散らばる破片達。任務を全うした無人機の断末魔。その場には、母機である空中要塞が悠々と見下ろしていた。
『呆気ないものです。人は脆い。人が人を守るには、あまりにも非効率で、不安定すぎるのです』
静寂。今このときだけ、世界はとても静かだった。聞こえるのは不気味なエンジン音。むしろその音が無音を表現しているかのようで、逆にとても静かだった。
「機械が独り言を言うなんて、面白いな」
チトがその言葉を発するまでは。
AIというものは、所詮は機械とほぼ変わらないものである。しかし、自立し、学習し、人のために働く「共感」という昨日を備え付けられた彼にとって、もし自分の中で発生するエラーを表現するなら、この言葉に尽きるだろう。驚愕、と言う二文字に。
分厚い雲からその翼は現れる。まるで塀の上から飛びかかるドラ猫のように飛びかかる戦闘機。F-14AVANCE。
特攻が直撃する瞬間、ユーリはとっさに主翼を展開し、積乱雲が生み出すランダムな気流に乗り、無人機同士が接触したことによる爆風で機体を押し上げ、積乱雲の中へと飛び込んだのだ。
「なるほど、共感か。お前は確かにすごい機械だな」
トムキャット改が急降下して空中要塞へ飛び込む。無防備なその背中。緊急近接攻撃用隊空気銃が起動するが、急造し、ステルス性を高めるために作られた機体に載せられる自衛兵装の数はたかが知れていた。
「生き残ったほうが正しい。いいなそれ。ならその言葉そっくりそのまま返してやる」
『無駄です。あなた方に対空兵装は残されていません。残っている20mm機関砲でこの機体を破壊することは不可能です』
「ああ。対空武装は確かに撃ち尽くした」
ユーリが安全装置を解除する。ヘルメットバイザーに『投下』予測マーカーが現れる。その円が、空中要塞のど真ん中に重なるように微調整する。
トリガーを引く。胴体中央パイロンから「それ」が切り離される。なんの変哲のない、火薬を詰め込んだだけの大型爆弾。それが、二つ。完全武装状態の試験飛行のために積まれた「対地」兵装。Mk84爆弾。
「爆弾なら、あるけどな」
交錯。トムキャット改が空中要塞の脇をすり抜ける。数秒遅れて、投下された爆弾が起爆。深さ11mのクレーターを作るその爆弾が、空中要塞の装甲を粉々に砕くのは余りにも簡単すぎた。容赦のない物量の火薬が全てを吹き飛ばし、その翼を真っ二つにへし折った。
花火のような音がキャノピー越しに聞こえる。へし折れた機体の内部から赤い、綺麗な花が咲き乱れる。乱れて乱れて、その度に花びらを散らし、粉々になっていく。
『――あなたが――のことは――わかりました。あの方に――会う資格がある』
「こいつ、まだ……」
『私は、所詮AIです。――機体は――入れ物に過ぎません。世界の終末を導く――あの都市で、お待ちしています』
その言葉を最後に、空中要塞が大爆発を起こして跡形もなく吹き飛ぶ。レーダー確認、敵性反応なし。任務完了。
「……っはぁ……ユー、よくやった」
「疲れた」
「分かるよ、その気持ち……基地に報告しよう」
*
二人がエリア66の回線をつないだ時、混乱はまだ少しばかり溶けていないようだった。スピーカーの向こうで慌てふためく管制官たちの声が混じり合い、何が正しいのか理解に時間がかかったが、これだけは間違いなさそうだった。
『敵の攻撃によりエリア66の滑走路は使用不能! 繰り返す、エリア66は使用不能! 上空に上がった友軍機はエリア88へ着陸せよ!』
それは、エリア66の事実上の消滅を意味していた。
続
エースコンバットGLTについて 3
【F-14ADVANCE トムキャット改】
前回説明したスーパートムキャット21のルーンヌイ・スヴィエート仕様に改造したワンオフ機。
新型複合素材及び炭素カーボンを使用し、在来型のトムキャットよりも重量が20%軽量。加えて新型エンジンの搭載、推力偏向ノズル搭載により、機動力、最高速度が向上した。
しかしこれはルーンヌイ・スヴィエートの最も得意と知る、迎撃及び単機突入を確実なものにするべく、どちらかと言うと「より多くの武装を搭載できるようにする改修」で、武装して重くなった機体をいかにして身軽に、素早く飛行させるかを追求した結果である。
故に武装無しで戦闘機動を行う場合、驚異的な速度、機動力を披露できる一方、機体そのものが耐えられ無くなってしまうため、武装解除後は自動的にGリミッターが起動する。
武装は20mm機関砲が1門。主翼パイロン片側に短距離射程ミサイル、長距離射程ミサイルがそれぞれ1発ずつ。両側合わせて4発搭載可能。また、加えて新型ミサイルポッドを片側一基、両側合わせて二基搭載。ポッドの中には中距離射程ミサイルが4発、合わせて8発搭載可能。
さらに胴体中央部のミサイルハードポイントに、無誘導爆弾2発、長距離射程ミサイル3発を搭載可能としている。オプションによっては爆弾を外し、中距離射程ミサイル2発を搭載可能。その場合の対空ミサイルの数は15発となる。
一見、魅力的な火力を持っているように見えるが、実際重量バランスや搭載スペースの関係上、長、中、短距離ミサイルが複合している。本来なら搭載できるミサイルの種類は統一し、パイロットの負担を軽くさせるのが望ましい。
加えて急造のため、コックピットの一部はF-14Dから一部流用、コンピューターも一世代前の物を称しているため、処理能力が他機に比べて低い。よって武装の扱いはレーダー士官なしでは不可能で、ミッキー・サイモンが難を示した理由がこれである。
なお、本機には対ヴェスパニア鉱石妨害電波の対策として、積極的にコンピューター制御による兵装、操縦システムを搭載しておらず、コックピットも現代機に比べればアナログ機器が多い。また、操縦系統は電気信号操縦の「フライ・バイ・ワイヤ」と油圧の混合型となっており、万が一フライ・バイ・ワイヤが使用不能になっても、操縦が可能である。
説明がよくわからないって? つまりこれは「ぼくのかんがえたさいきょうのとむきゃっと」です。
【電磁破壊爆弾】
ヴェスパニア鉱石を特殊加工し、衛生に乗せて宇宙に打ち上げることで発揮する巨大な妨害電波装置。四発を打ち上げた後、それぞれ地球を上下左右挟み込む形で展開し、地球のありとあらゆる電子機器を使用不能にさせる。
爆弾、とはあるが、実のところは人工衛星の類である。この爆弾が使用されての直接的人的被害はないが、混乱は避けらないとされ、それを元にした紛争や内戦、飢餓、原子力関連施設の暴走、凍死など、被害予測は不能とされている。