安価世界冒険記   作:倉月夜光

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Ⅲ物語の始まり

(…聞こえてますか……聞こえてますか……)

 

(今、あなたの心に直接語り掛けています……)

 

 

 

 (おそらく)夜中、急に聞こえる声で意識が浮上する。

 目を開けようとしても何も見えない当たり、()()()()()が夢の中で話しかけて来たのだろう。

 これまでも似たようなことは多々あったので、既に慣れてしまった感覚が腹立たしい。

 

 

 

「それで、何の用なのよ」

 

「おや、せっかく産みの親が声をかけてあげているのに悲しいね」

 

 実際に鳴きまねの声を送ってくるこの腹立たしさ、説明しきれないが、どうにかしてほしい。

 

「君の方も元気にやっているようだね。創りだした者としても安心できるよ」

 

「そんなこと、あんたにだけは言われたくないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」

 

 

 

 そう、こいつは頻繁に魔法、錬金術などで人工生命体を創り出す癖に、それらを全て外の世界に放出するような魔術師なのだ。

 私が2年ほどあいつの塔で過ごしていた間に知るだけでも、魔獣型数十体と、()()()()()()()()()、見た目がほぼ人間の人工生命体数体が創られ、塔の外に放流されたのは知っている。

 

 今ぱっと思いつくだけでも人の手足、肢体だけが生えたサカナマン(魚人(マーマン)や人魚《マーメイド》ではない)やドワーフの身体にエルフの耳、ワーウルフの足を持ったヒト(?)(本人は自分に誇りを持っていたらしい)や、ハチの巣を体に装備した超巨大女王蜂(温厚)などなど、思い出しきれないほどの魔法生物が生み出されていた。

 

 基本的に創る時はとても楽しいが、創り切ってしまうと一気に熱が冷めてしまうタイプなのだという。

 生み出された私が言える立場ではないのだが、もう少し責任というものを取って欲しい。

 いや、私が記憶の定着と実際の体験を積むまで置いてくれていたので、最低限の親としての責任は果たしているのかもしれないが、それでも言いたくなるのもしょうがないことだと思う。

 

 

 

「僕も一応は創り出した子全てに気を配ってるんだぜ?そうでもなければ君にこうして話しかけることもなかっただろうね」

 

「それは……」

 

 

 

 確かにそうだ。

 というか、こいつから話しかけてくるなんて珍しい。

 直に顔を合わせて生活していたときでも、あちらから私に話しかけて来たことなんて二桁回に届くかどうか位なのに。

 

 

 

「で、どうして私に話しかけてきたのよ」

 

「いやぁ、伏線を貼っておこうかなぁと、少しばかり思ってね」

 

「伏線?」

 

 

 

 こいつはいきなり何を言い出しているのだろうか。

 突拍子が無いのはいつものことだが、何で()()()()()()()()()のだろうか。

 

 

 

「いや、君の方はこのことを頭の隅にでも置いておけばいいさ」

 

「きっと、すぐに思い出すことになるからね」

 

「じゃあ、言いたいことは言ったから切るね。()()

 

 

 

 そう言って、やつは一方的に話を終わらせ、私の意識は急激に闇の中に落ちていった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「……ん」

 

 

 

 意識が浮上する。

 何か、気に障るような夢を見ていたような気がするが、()()()()()()()()()()()()()()

 部屋の中はいつもと変化の無いように見える。

 

 ……ただの気のせいなのだろうか。

 それとも、夢見が悪かったせいでいつもより神経質になっているのだろうか。

 

 ベッドから体を起こし、いつもと同じように服を着替える前にタオルを取り出す。

 

 

 

小さき水よ(ヌルヴァッサ)

 

 

 

 水を外に取りに行く時間を短縮するために水を魔術で産みだしタオルを濡らす。

 この時、魔力の操作によって水の温度は調整できるので、人肌ほどの温いぬるま湯を、タオルが吸収できる程度の量発生させる。

 この魔術を起動するときにかかる魔力は発生させる水の量の分だけであり、その他の水の発生位置や温度の調整などは、魔力操作によって調整出来るので、今後の探索などに影響が出ることは無い。

 

 インナーのみだった服を脱ぎ、濡らしたタオルで体を拭く。

 ここには個室備え付けのシャワーもあるが、自分がそれを利用するのは一週間で1~2日程度だ。

 そもそも魔術によって汚れを消せる以上、濡らしたタオルで身体を拭くのも自己満足だ。それでもこの気持ちよさを逃すのは勿体ない。

 

 首筋から腕やお腹を拭き、胸を抑える下着を外す。

 昨日は疲れていてそのままにしてしまっていたが、胸を押さえている下着は寝るときは外しておいた方がいいという知識がある。それでも面倒なものは面倒なのでそのままにしてしまったのだが。

 

 そこそこの大きさの胸を下から拭う。

 胸を動きの邪魔にならないように冒険中抑えている関係上、谷間や下乳の部分に笑い話では済まない量の汗がにじむ。

 こういう部分まで人を再現しなくてもいいと思うのだが、あの変態魔術師は偏屈なこだわりを捨てずに再現している。

 胸の下から周囲を回すように、丁寧に拭き取る。

 この時の爽快感が忘れられないのだ。

 

 上を拭き終わり、パンツを除き脱いでおいた下半身を拭き始める。

 パンツはそこそこの伸縮性のある素材のもの(クソ魔術師作)を利用しているので、脱がずに拭き続けることが出来る。

 

 

 

 身体中を丁寧に拭き終わり、いつも通りの冒険装備を着る。

 

 鏡の前に立ち、いつもと変わらない姿かを確認する。

 

 いや、今日は少し髪が乱れているようだ。

 昨日、手入れもせずにそのまま乱雑に寝たからだろう。

 部屋に備え付けてある机の引き出しから櫛を取り出し、鏡の前に机とセットの椅子を持って鏡の前に戻る。

 鏡の前で背を向けるように座り、乱れている部分の髪に櫛を通す。そこそこ強めに癖がついているようだが、それでも自分の髪は本来まっすぐなものなので、櫛を通すたびに少しずつ癖が消えていく。

 

 

 

 髪の癖を直し、もう一度鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。

 

 

 

 ―――その時、

 

 

 

 ―――ドォォォン!!

 

 

 

 早朝に発生するには似合わない、無粋な爆発音が響いた。

 

 

 

 それが聞こえた瞬間、私は部屋の窓を開き、外に飛び出していた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 自分の聴覚の良さから、爆発音がした方角は性正確に捉えている。

 その上、外に出ると推定爆発が起きた場所からは細い黒煙が上がっている。

 

 そこに向かって、()()()()()()()()()()()

 魔術を駆使し、自分の体重を軽減させ、踏み込むときに生まれる推進力を加え、風の抵抗を散らす。

 爆発音が聞こえたと言っても、まだ聞こえたばかりであり数少ない明朝から活動している人が少しばかり混乱している状況のようだ。

 その誰もかれもが爆発音のしたと思われる方向に目を向けていることで、自分に対する注目は全くないと言ってもいい。

 屋根の上を駆けている自分に向いている意識はない。

 

 爆発音がしてから51秒が過ぎたころ、煙の発生している視点が見えて来た。

 川に架かっているっている橋の下から煙が発生している。

 橋の上や橋の下に繋がる階段辺りから覗いている人はいるが、現場に踏み込んでいる人は居ないようだ。

 

 慣性を操作し、地面に着地する衝撃を和らげる術式を展開してから川脇の地面に着地する。

 こうすれば高速で降りても土煙もあがらないので周囲に迷惑がかかることもない上に、自分の着地の反動もなくなる。

 

 橋の下の爆心地と思われるところに駆け寄ると、漸くら爆発が起きた瞬間から舞い上がっていた多量の煙が収まり始めたところと見受けられた。

 

 爆心地は地面が軽く抉り取られており、中心に燃えるナニカが存在する。

 

 しかし、私はそれが何かを確認することが出来なかった。

 

 

 

 

―――揺れる煙のせいで見え隠れするが、

 

 

 

―――煙の向こうに見える人影は、

 

 

 

―――まぎれもなく、

 

 

 

—――普段の姿とは変わりはてた、

 

 

 

 

 

―――()()()()()()()()()()姿()()()()

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あ、あァ……」

 

 声が出なかった。

 

 知識として、人が死ぬということは知っていた。

 だが、こんなにも唐突に、あまりに無慈悲に、散らされるものだとは思いもしなかった。

 

 アカシアは普段と同じ服を着ていたことは、足元のスカートの切れ端、いや、()()()()から見て取れる。

 が、身に着けていたほとんどを黒い焦げあとへと変えていた。

 

 少し爆発の影響を免れた顔が悲惨であり、手で隠したのが間に合った半面は肌が残っているが、残りの半面が焼け爛れ、既に私が見慣れたアカシアの面影を奪っている。

 

 かろうじて、少し体が痙攣か、呼吸化は判別出来ないが、動いていることは見ることが出来た。

 

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 

 よく、物語の中では死ぬ間際の人に声をかけるというシーンがあるが、私にはそんなことは出来なかった。

 

 

 

 ……認められなかった。

 

 

 

 ―――アカシアが何か悪いことをしましたか

 

 ―――アカシアが何でこんな目に遭っているのですか

 

 ―――アカシアの将来を奪うのは何故ですか

 

 

 

 頭に浮かんでは、纏まらない頭の中を通り過ぎて消えていく疑問は数多ある。

 働かない頭をなんとか動かそうとしても、()()()()()()()()現実を理解することを拒否していた。

 

 だが、冷静な頭の一部では理解していた。

 

 目の前の光景が、唯一不変の現実なのだと。

 

 

 

「……」

 

 私は、不思議と忘れていた今朝の夢を思い出した。

 

 いや、そうなるようにロックがかかっていたのかもしれないし、そうでなくても大きすぎる衝撃が呼び覚ましただけかもしれない。

 

 

 

「………よ」

 

 

 

「助けなさいよ!クソ魔術師!!」

 

 

 

「はいはい、声が大きいね君は」

 

 

 

 自分の生みの親(クソ魔術師)は、最後に視た姿と一切変化がない怪しげなローブ姿で。私の目の前に現れた。

 

 

 

「あんたならどうにかなるんでしょ!だから助けてよ、助けなさいよ!!」

 

「君は少し落ち着きなさいよ、流石に気が動転し過ぎだ」

 

 

 

 目の前になんの様子も変わらないクソ野郎をみて、怒りがこみあげて来た。

 

「あんた一体どう―――」

 

 声が出なくなった。

 

 口に出せば簡単な原理が魔術によって引き起こされ、私の声は封じられた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 私の口周辺だけ、奇麗な空間制御で、高等な魔術式が展開されていた。

 

 無論、犯人は目の前の外道魔術師だ。

 

 

 

「だから落ち着きたまえ。なんで僕が出て来たのか、夢の件も含めて冷静になって考えてみなさい」

 

 

 

 思考が一気に加速した。

 こいつが夢に出てきたこと、自分がここで読んだ瞬間現れたこと、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「―――たすけて、くれるの?」

 

「ああ、そのためにこの場所に(登場人物として)いるんだからね」

 

 

 

 そう言って魔術師は手に持った木製の大きな杖をアカシアに翳し、転移の術式でどこかに、恐らくは私が産まれた塔に転移させられていった。

 

 

 

「じゃあ、彼女はこっちでなんとかするから。君は君のやりたいようにやればいい」

 

「―――おねがい…、彼女のことをお願い……!!」

 

「ああ、任されたさ」

 

 

 

 そういって魔術師は、自身もその姿を消した。

 

 

 

 

 ―――これが、全ての始まり。

 

 

 

 ―――物語(ストーリー)の起こりは、確実にこの事件だった。




( 一ヵ月以上開いたのは)許して下さい何でもしますから!

次回はおそらく試験後なので2月中旬以降です(震え声

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