モンスターハンター:オールドテール   作:Patrick

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〜装備紹介〜
名前:クライン・クルーガー 18歳
武器:ポイズンタバルジン
防具:クックシリーズ

名前:マハト・アルペンハイム 19歳
武器:ブレイズブレイド改
防具:ガレオスシリーズ


第10話 森丘の決戦

「昇格依頼!?でも俺たち失敗したわけだし。」

「詳しくはわかりませんが、村長がこれをクラインさんに渡せって…。クラインさん達の依頼だって…!」

「そんな…。」

 

 村長が気を使って依頼を寄こしたなんてことは毛頭あり得ない。

 失敗を帳消しするために、依頼を受けろなんてことはしないし、あの村長が無茶な依頼を寄こすわけもない。

 これは妥当な判断で下された依頼で、今のクライン達なら成功できると、いわば村長の信用の表れのようなクエストである。

 

「火竜と雌火竜の同時討伐なんて…。」

 

 帰りの馬車の中で話していた内容である。火竜級の2頭討伐依頼など、街の上位ハンターの依頼のはず。それが、ノーマルハンターのクライン達に回ってくるのはおかしいことである。

 だが、それでもクライン達に受けろと村長が言ってきたのだ。

 納得できてはいないが、クラインはこれを受け取ることを決めた。

 

「マハトにも伝えてくる。」

 

 

ーーー森丘ーーーー

 

 火竜の番との闘いから1週間が経過した。クラインの背中の痛みはまだ少し残るが、薬草を塗り、包帯を巻くことで、なんとか気にならない程度になっていた。

 マハトは元から身体が丈夫なのか、身体の痛みなどはとっくに回復していた。

 二人はベースキャンプに降り立ち、持ってきたアイテムと支給品のアイテムをそれぞれとりわけ、ポーチに詰めていく。

 

「まさか、こんなに早く再戦が叶うとはな!」

 

 一週間前の、萎れたようなテンションになっていたマハトとは違い、今日の顔は晴れ渡っていた。それを見て、クラインは思わず笑う。

 

「なにテンション上げてんの?こないだ、僕らボコボコにされたばっかだよ?」

「だからだよ!こんなすぐリベンジできるなんて…、それに、ハードクラスへの昇格を掛けた依頼だ…。失敗は出来ねぇよ。」

「もちろん、もう失敗するわけにはいかないよ。火竜との戦闘もこれで3度目だからね。今度こそ、討伐してみせる。」

 

 火竜とは幾度か交戦をした。その中で、少しづつだが、行動パターンも読めていた。

 次こそは上手くいく。そんな予感を感じざるを得なかった。

 

「準備はできたか?クライン?」

「大丈夫。向かおうか。」

 

 岩壁に囲まれたベースキャンプの間にできた出入り口を通り、外に出るクラインとマハト。

 外に出ると照り付ける太陽に照らされ、一瞬、目を細める。

 もう幾度も見た光景だ。

 

 クラインとマハトは目を合わせて、火竜たちが待つ森丘の奥地を目指した。

 

ーーーエリア3ーーー

 

《シルトン丘陵》の奥地にして、高度も高い場所に位置するのがこのエリア3である。森丘の中でもかなり広めのエリアで、エリア2やエリア4、《シルクォーレの森》のエリア9、エリア10の合計4つのエリアへ行き来する道があるのがこのエリア3である。

 どこからもアクセスでき、広い場所のため、森丘において主に戦闘を行う場所となることも多い。

 

 ここには草食モンスターのアプトノスやケルビなどが、草を食んでいることも多い。

 クライン達がエリア3に到着すると、アプトノスが3頭、エリア3に来ていた。

 

 以前着た時と比べ、モンスターの姿を見かけるので、火竜たちは姿を消したのかとも思っていた。

 せっかくの昇格依頼が台無しだと、落胆仕掛けたものの、それは杞憂に終わる。

 

「おい、クライン、あれ。」

 

 エリア3に突入し、アプトノスを見ながら進んでいると、マハトは小声でクラインに話しかけた。

 マハトが指指す方を見ると、上空に《リオレウス》が飛んでいる姿を確認する。

 

「いたか…。」

 

 リオレウスは、地上で草を食んでいるアプトノスを見ているようだった。

 しばらく旋回していたリオレウスが、急降下してこちら側に迫る。リオレウスの鋭い後ろ脚の爪がアプトノスを襲った。

 その一撃でアプトノスが絶命する。リオレウスはアプトノスの死体に片足を乗せて、他のアプトノスを威嚇した。

 岩陰に隠れて様子を見るクラインとマハト。まだこちら側には気が付いていないようだった。

 

「あのアプトノスの死体は巣に持って帰るよね?」

「おそらくな。どうする?このまま奴を追うか?」

「いや、ここで仕掛けよう。巣に戻ってリオレイアと合流される方が厄介だ。」

「OK。そしたら俺から仕掛ける。」

「頼んだよ。」

 

 マハトは岩壁から躍り出て、走り出す。アプトノスを両足でつかみ持ち上げようとしていたリオレウスは、マハトの足音に気が付き、こちらを振り向いた。

 すぐに敵であるマハトを認識し、咆哮の構えを取る。

 それを確認し、マハトは走っているのにも関わらず目を閉じた。同時に、破裂音と共に閃光がリオレウスの眼前で爆ぜた。強い閃光により、リオレウスは咆哮を止め怯んでしまう。

 閃光玉を投げてすぐに、クラインもマハトを追いかけるように走り出す。

 マハトは走った勢いを乗せて、勢いよく抜刀し、大剣を振り下ろす。振り下ろした大剣がリオレウスの顔をに当たる。

 堅い甲殻は、マハトの鉤爪状の刃を通すことは無く、その外側を傷つける。深くは無いが、確実にもろいものにはしている一撃だった。一撃を放ち、すぐさま転がって距離を取り、大剣を納刀する。

 閃光で視界が眩んでおり、焦点の合わない、リオレウスの目を確認した。

 次の攻撃を待ち、マハトは一拍、間を置く。その横をクラインが駆け抜けて、こちらも抜刀斬りで一撃を振り下ろし、振り下ろした剣を返して二撃目をくらわす。二撃目の攻撃の最中、リオレウスの動きを確認し、まだ動きがないことを確認して、振り下ろしの一撃をくらわす。

 マハトの攻撃ほど、重い一撃ではないが、鋭い斬撃がリオレウスの堅い甲殻に薄く切り口が入る。

 リオレウスが脚でどっしりと地面を掴み、態勢を作り始めたのを確認して、二人は距離を取った。

 

「やっぱり、1体だけなら冷静に対処できそうだな。」

「そりゃそうね。けど、まだ始まったばかりだから、油断はしないでね。」

「もちろん!」

 

 視界を奪われたリオレウスはその場で回転し、尻尾を振り回す。いい加減な動きではあるが、この全方位に向けた攻撃は理にかなっていた。

 近づきたくても、迂闊に近づくことは難しい。張り付いて攻撃をしていると、間違いなく薙ぎ払われてしまう。

 クラインとマハトは、尻尾が過ぎ去ったところを狙って、一撃食らわせて離脱しながら、地道にダメージを加える。尻尾攻撃を終えて、リオレウスの視界が徐々に戻ってきているようだった。

 

「そろそろ離れるぞ!」

「うん!」

 

 リオレウスとは3度目の対峙ではあるが、まだその行動のすべてを見切れていない。その上、ほとんどまともに戦闘した経験がないため、この最初の対峙は、敵の動きを見切ることを優先して立ち回る。

 攻めには転じず見を意識して立ち回りをしていた。

 リオレウスの攻撃パターンは多く、牙や爪、尻尾、翼などの身体の部位を活かした攻撃から、体内で生成した火炎を吐出する攻撃などである。

 そして、最も注意すべきは《空の王者》の別名通り、地上だけでなく、空中の3次元の動きを可能にしている点だ。

 リオレウスは大きな翼を羽ばたかせ、空中に飛び立つ。クライン達の頭上のはるか上空に滞空するリオレウス。以前、狭いエリア6では、その狭さから、リオレウスのあまり飛行はしなかったが、ここエリア3が抜けた空間が広がり、滞空するには好条件な場所。

 まさにリオレウスの独擅場であった。

 

 「飛んだぞ!気を付けろ…!」

 

 リオレウスはそのまま上空を飛び回り始める。最初、アプトノスを仕留めた時のように、はるか遠くに飛び立ち、上空からこちらを見ながら、周辺を旋回している。

 

「さっきみたいに、空中から飛びかかってくるかもしれない!回避できるように備えておいて!」

「おうよ!」

 

 クラインは盾を構え、マハトは武器を納刀し、それぞれすぐに回避行動に移れるように構える。

 リオレウスは上空からこちらを伺うように飛び回る。やがて、距離が近づいてきた。

 

「来るぞ!」

 

 リオレウスは滑空しながら、後脚を突き出して、マハトに迫ってきた。大きな体躯を持つリオレウスが迫る。

 滑空状態であれ、ある程度の軌道修正は可能だろう。それを考えると、早い段階で回避をしようとしても無駄だと思ったマハトは、攻撃をギリギリまで待つ。

 滑空のスピードは速いものの、反応しきれない距離ではない。マハトとの距離が3mほどのところで、マハトは横に飛びこみ、リオレウスの攻撃を避ける。

 標的を失った後脚で、そのまま地面に着地し、滑走しながら巨体が止まる。鋭い爪が食い込んだ地面が抉れた。

 

「ナイス!マハト!」

「あっぶねー!当たったらあの地面みたいになっちまうなぁ。」

 

 攻撃の後隙を狙い、クラインはリオレウスに突っ込む。決して善戦しているわけではない。まだ戦いの火蓋は落ちたばかり。それでも、確実に削りながらも、リオレウス相手に立ち回れている。

 大型モンスターの攻撃は、身体が大きい分、攻撃の動作などが緩慢なことが救いだ。そのおかげで、冷静に観察することで、攻撃を避け隙を見極めることができる。

 クラインは片手剣をリオレウスの後脚に斬り付ける。その攻撃が効いたのか、リオレウスは足を崩し、地面に身体を倒した。

 

「今だ!」

 

 マハトも駆け寄り、地面に倒れるリオレウスに次々攻撃を加えている。

 モンスターは特定の部位を集中攻撃していると、怯んだり、転んだりする。そうして大きな隙を作り、ハンターに好機が向く。

 罠とは違い、タイミングを狙うことは難しいが、その分、大きな隙となるので、部位の集中攻撃は恩恵が大きい。

 マハトは弱点と思われる頭部を大剣で切りつけ、堅い甲殻に確実に傷をつけていく。

 クラインは、マハトの邪魔にならないよう尻尾を斬り付けていた。攻撃に夢中で気が付くのが遅れたが、失費には、クラインが付けた傷とは明らかに特徴が異なる傷跡がすでに残っていた。

 点のような傷で、おそらくガンナー系の武器による攻撃の跡だ。もしかしたら、この森丘に来る前に、すでにどこかのハンターと戦っていたのかもしれない。

 時間にして数秒だが、かなりダメージを稼げたはずだ。リオレウスは体勢を持ち直して地面に立ち上がる。

 立ち上がってからしばらくも、その場に立ち止まり、クライン達の攻撃を食らっている。動きが緩慢になっていた。

 頭部にいたマハトは距離を取るため、重い大剣を抜刀したまま移動する。その最中、リオレウスの口元から黒煙がにじみ出ているのを確認した。

 直後、リオレウスは咆哮し、その残響音がシルトン丘陵の奥まで響いてこだまする。やまびこになって、遠くからリオレウスの声が返ってくる。

 マハトとクラインは即座に耳を塞いだ。身体は硬直したが、目を動かしてリオレウスから付かず離れずの距離を保つ。

 

 モンスターの怒り状態は、極端に攻撃性や機敏性が変わる。攻撃の頻度が増え速度も増すのだ。さらに厳しい局面となる。

 近くにいたマハト目掛けて突進するリオレウス。マハトは大剣の腹で攻撃を受け流し、事なきを得るが、反動により、動きが封じられた。

 突進を終えて、すぐさまこちらに向き直るリオレウス。口元から常に黒煙が漏れていた。うっすらと開けた口内に炎が見えるのをクラインは確認した。

 

「火炎ブレスだ!」

 

 クラインが気が付いたのと同じタイミングでマハトも気が付き、再び防御の姿勢に入る。

 再び大剣の腹でリオレウスの火炎ブレスを受け止めたマハト。すぐさま大剣を担ぎ直し、リオレウスはその一発で火炎ブレスを止めずに、さらに左右に向けて火炎ブレスを放つ。

 三方向のブレスはクライン達も初めて見る行動である。幸い、こちらをちゃんと狙ったものでないため、当たらなかったが、位置取りを間違えたら、どれかに当たってもおかしくなかった。

 そして、ブレスを放って直後、再び突進をする。

 適度な距離を保ちながら、攻撃を避けるのに精いっぱいな二人。

 

「さすがに攻撃が激しいな…。これじゃあ攻撃のタイミングが…。」

「一旦離脱してもいいけど…。」

 

 そう言いかけ、地面に大きな影が映った。クラインはすぐさま上空に目線を向ける。

 

「やっぱり来た…!」

 

 以前と同じように、リオレウスの元に《雌火竜リオレイア》が現れた。この番の飛竜は、どちらかが戦っていると、合流する習性があるのだろう。

 

 

「クライン…!」

「準備は大丈夫だよ!」

 

 以前は、2体が合流して一気に窮地に追い詰められた。だが、今回は違った。場所もそうだが、それ以上に準備を怠らなかった。

 前回の狩りの失敗で得た反省点は大きい。2頭同時討伐も昔に、マハト共にこなしたことがあったが、今回は全く別ケース。

 リオス科飛竜のように番で行動を共にするモンスターの場合は、ちゃんと引き離して各個撃破が定石である。

 

 舞い降りるリオレイアには目もくれず、怒り狂うリオレウスの方へ向かうクライン。

 走りながら、クラインはアイテムポーチから《こやし玉》を取り出す。《素材玉》と《モンスターのフン》を調合して作られたこやし玉。モンスターが嫌う臭いを発しており、これを投げつけることで臭いが付着したモンスターは、その臭いを嫌って、その場から逃げ出すというアイテムだ。

 それ以外に用途はないものの、今回のような2頭討伐依頼には有効な手段でもある。前回は、この事態を予期していなかったため、持参していなかったが、2頭同時になる事態を避けるためにも、今回は大量に持ち込んでいた。

 ポーチに臭いが付着しないか不安ではあるものの、そんなことも言ってられない

 

 こやし玉の臭いが付着したリオレウスは、首を横に振って、付着した臭いを払おうともがく。しばらくして逃げるように、飛び去ってゆく。

 

「よし、いよいよ本命だね。」

 

 降り立つリオレイアに向き直り、クラインとマハトは武器を構えた。

 

ーーーエリア10ーーー

 

 リオレウスとの分断は上手くいき、入れ替わる形でリオレイアとの戦闘開始した。

 慣れてくるとリオレウスよりも厄介な動きはせず、常に地上で戦うため、戦闘はしやすい方だと思った。大技のサマーソルトに警戒さえしていれば、いずれも冷静に対処できるようになった。

 だが懸念点はあった。

 

 閃光玉や罠なども適度に使いながら、確実にこちらのアドバンテージを活かして弱らせた。

 そして、追い込まれるようにシルクォーレの森であるエリア10に移動してきた。間違いなく、今回はクライン達がリオレイアを圧している。

 

 木々が辺りに生えて、太陽が微かに差し込む薄暗い森の中にあって、リオレイアはその体色が保護色となっているようだった。見えなくはないが、丘にいた時よりも、視認性は若干悪くなっている。

 それでも、敵の挙動を見逃さず攻撃の手を休めることなく続けていた。

 リオレイアは、こざかしいハンター達に怒り狂っている。

 

 ここは、3年前にリオレウスと対峙した場所でもある。エリア10の奥地にはエリア11とエリア12と繋がり、そこは小型モンスターも入れない小さな場所となっている。

 小川が流れる綺麗な場所でシルクォーレの森の癒しスポットとなっている。

 

「懐かしいな…。ここ。」

「あれから火竜と戦えるまでになってるなんて、なんだか感慨深いよ。」

 

 まだイャンクックと対峙したこともない状態での、リオレウスとの邂逅だった。飛竜種との戦闘経験がない状態での、リオレウスとの戦闘は、新米ハンターのクラインにとっては、息もできないほど厳しいものだった。

 だが、その経験が活き、今ではココット村を代表とするハンターになったと言える。

 あの経験は、後に強く活きていることは間違いなかった。ハンター業は特に経験がモノを言う職業だと、クラインは思っていた。

 

 地域によっては、まともな飛竜の依頼も入ってこない出張所もあるらしい。ココット村も辺境の地と呼ばれてはいるが、ココットの英雄の存在やハンターが多く住んでいることもあり、依頼も多数舞い込む。

 そういった環境も関係し、ハンターの経験に大きく影響してくる。

 クラインは恵まれていた。順当に飛竜の討伐が舞い込み、様々なモンスターの狩猟経験を得られる環境。

 それは、あのココット村でないと実現できなかっただろう。

 

 ハンターはモンスターを狩る一方、ココット村のような辺境の地においては、人々が暮らしていくための、大きな助けとなる職業だ。

 モンスターを狩るだけでなく、危険な地へ希少な特産品を取りに行くことも仕事の一つである。そうすることで、集落でも交易ができるようになる。

 ハンターの仕事とは、狩りだけでない。なので実際は、ハンターと言えど、誰もが大型飛竜を討伐できる技量を持ち合わせているわけではない。

 

 クラインが当初、思い描いていたハンター像はどちらかと言えば、そういった危険な土地への採取などがメインであった。だが、マハトが村に帰ってきてから方向性は大きく変わる。

 大型モンスターの狩猟がメインとなり、採取などの依頼は減った。

 だが、同時にクラインが思い描くハンター像も変わりつつあった。

 

 様々なモンスターを狩猟していく中で抱いた生物への好奇心。

 生態を知れば知るほど、謎が出てきて、十分に捕獲されたモンスターであっても、完全には解明されていない生態もあった。

 それは何故なんだろう?と考え始めると、クラインは胸を躍らせる。

 ハンターとはまた違う感情なのだろうとは思うが、こうして村のためにハンター業をしながら、知的好奇心を満たせるのは、悪くなかった。 

 

「マハト!そろそろ罠を!」

「おう!」

 

 それはちょっとした機微だった。モンスターは弱ってくると、何かしらの異変を見せる。クラインは見逃さなかった。リオレイアが片足を引きずるところを。

 マハトは落とし穴を設置し、数秒後に罠が起動する。地面は軟化し、即席の落とし穴が完成した。後は誘導するだけである。

 クラインは、自分に意識を向けるように執拗に攻撃を加える。足元に張り付くクラインを嫌がり、足踏みや尻尾を振りながら、遠ざけようとする。かすり傷を受けながらも、クラインはいなし続ける。

 そうして、ジリジリと罠の方に追い詰めていく。

 リオレイアの脚が、罠に差し掛かり、流砂のようにリオレイアの穴に引きずり込む。

 

「いまだ!」

 

 穴に嵌って動けなくなったリオレイアに二人は猛攻撃を仕掛ける。

 堅い甲殻を持つリオレイアでも、幾度かの攻撃で徐々に甲殻や鱗が剥がれ、ところどころ肉が見えてる。赤い血が垂れ、傷が目立つようになっていた。

 その部位を目掛けて攻撃を加えていく。痛がっているのか、穴から抜け出そうとしているのか、リオレイアは激しくもがく。

 次第にリオレイアの動きが鈍くなっていった。そのまま穴に埋まったまま、動かなくなった

 

「倒した…。」

「ハァハァ。」

「やった…。リオレイアに勝った…。」

 

 達成感よりも、ひと段落した安堵を感じ、マハトは大剣を地面に突き立てて、それにもたれ掛かる。

 剣を振り続けていた腕が急に重く感じ、クラインは剣を持ったままダランと腕を降ろした。

 

「なんとか…なったね。」

 

 クラインも同様に安堵を得る。ただまだ気は抜けないでいた。残りのリオレウスは、雌火竜と比べて格段な強さを持つ飛竜だ。

 ギルドが定める危険度においても、ランクは一つ上に規定されている。

 今の自分たちが連戦して、苦労せずに倒せることは無いだろうとクラインは考えていた。

 

「ひとまず休憩しよう。」

 

 クライン達は、落とし穴に埋まったリオレイアの剥ぎ取りを済ませ、一度ベースキャンプに帰還する。

 一度、休憩し体力を回復してから、リオレウスに挑もうと思った。

 

ーーーエリア4ーーー

 

 エリア4は飛竜の巣がある高い山のすぐ隣のエリアだ。見通しが良い広いエリアだが、中央辺りには巨大な岩が鎮座している。

 この岩は、身を隠すにはちょうど良く、死角となりやすい場所である。

 クライン達は、その岩陰から顔を出し、リオレウスの様子を伺っていた。

 

「巣への見張りってとこか?」

「だろうね。僕らの存在は認識されているし、リオレイアに気付いてるかわかんないけど、なおさら巣を離れるわけにはいかないんだろう。」

 

 ベースキャンプで小一時間ほどの休憩を終えて、エリア4にやってきたクライン達。

 時間はすでに1日が経とうとしており、しばらくしたら夜になる。敵が寝静まったタイミングを急襲する作戦もあるが、朝早くに到着して、それから狩りを始めているクライン達にとって、それは何もメリットはない。

 

 昼間の動ける内に、敵の体力を削ろうと、エリア5の巣へ様子を見に行こうとしていた道中で、リオレウスを発見してしまった。

 リオレイアの討伐するのに、アイテムのほとんどを使ってしまい、《閃光玉》は残り3つ、《落とし穴》が1つしかなかった。

 クラインとマハト、二人分のアイテムがあったからこそ、比較的スムーズにリオレイアを狩れたが、そこでアイテムを消耗したおかげで、リオレウスに使える分のアイテムを大幅に減らしてしまった。

 リオレイアが乱入してくるような事態はもうないので、リオレウスに集中できるものの、強敵である以上、それがアドバンテージとして、大きく働くわけではない。

 いつも通り、慎重に相手の行動パターンを見極めて、体力を削っていくしかなかった。

 

「どう仕掛けるか?」

「こっちに気が付いた時の咆哮は、閃光玉で止めたい…。ただ、そうなると、後々危なくなった時に、逃げの一手を失うことになる。極力使わないで、攻撃しにいって、いなすしか…。」

「アイテムも残り少ないもんな…。調合分も持ってくりゃ良かったな。」

「だね。足りなくなるとは思ってたけど、ここまでとは…。」

 

 リオレイアでアイテムを投入しすぎたことに二人は後悔していた。だがそれも後の祭りである。

 いまは、あるものを使い、己の力を信じるしかない。

 

「行こう。マハト。」

「おう。」

 

 リオレウスの背後を狙うべく、二人は岩陰から飛び出した。小走りで尻尾の方に向かう。

 微かな足音に気が付いたのか。リオレウスは首を伸ばして周囲を見渡していた。だが、自身のその大きな翼が死角になっているのか、後脚に近づくクライン達に寸前まで気が付くことはなかった。

 

 クラインとマハトはほぼ同時に自分の武器を抜刀し、左右の後脚に斬りかかる。

 すぐにリオレウスは反応し、姿勢を低くして、クライン達の方に反転、咆哮の構えを取る。

 どのモンスターも初遭遇時に方向をしてくる。威嚇行動なのだろう。

 二人は攻撃直後にすぐに納刀し、あらかじめ耳を塞いだ。リオレウスの咆哮が響き渡り、塞いだ手を貫通して、恐ろしいモンスターの咆哮が耳に届く。

 やはりこれは慣れないものである。意識していても抗えない生物に対する根源的な恐怖か。クライン達は身を強張らせる。

  

 咆哮が終わり、数秒で硬直が解ける。だが、その隙を逃さないようにリオレウスは火炎ブレスを吐く態勢に入った。黒い煙が口から上がる。

 

「マハト!」

 

 短くマハトに声を掛け、注意を促す。直後にブレスを発射するリオレウス。前方に吐いた火球に反応し、クラインとマハトは同時に避ける。

 火球の威力はリオレイアと同等か。一度、リオレイアの火球を食らったことのあるクラインは、あの時の痛みを思い出した。

 

ーーーもう絶対に失敗はできないっ…!

 

 胸中で呟き、回避した身体を動かし、リオレウスの元へ近づく。

 攻撃直後のモンスターには、比較的、隙ができやすい。その隙をついてクラインは剣で攻撃を入れる。

 以前にゲリョスを捕獲した際に強化した《ポイズンタバルジン》には、ゲリョス由来の毒が含まれている。

 リオレイアは毒を保有しているため、耐性があったが、リオレウスには有効である。何度か斬撃を入れることで、リオレウスを毒状態にすることが可能であった。

 

 この《ポイズンタバルジン》は、《ハンターナイフ》から強化していった武器だ。そのころの原型はほとんど残っていないが、柄を握った時の感触は、ずっと変わらない。使い込まれた握り心地が感じられる。

 いま、マハトと共闘してリオレウスと戦っているのも不思議な気持ちになった。

 

ーーーハンターになったころは、こんな巨大なモンスターと戦うことなんて想像つかなかったな。

 

 目の前のリオレウスと対峙しながら、そんなことを思うクライン。リオレウスは、向かってくる敵を排除するために、その凶暴性を前面に押し出して、クライン達を圧倒する。

 しかしクライン達も、今まで数多のモンスターを狩ってきたハンターである。経験を活かし、リオレウスの攻撃を見切りながら、的確に攻撃を当てていく。

 リオレウスの眼前に出て攻撃することは難しいため、基本は後方を取る立ち回りを続けるクライン達。後脚や尻尾付近は、肉質が固く、ダメージの通りは悪いが、安全な立ち回りとなると、この位置取りがベストだった。

 慣れてしまえば、常にリオレウスの顔の前、前方に居ながら攻撃を避け、効率的にダメージを与えられるのだろうが、今のクライン達にその技量はない。

 不格好だが、それでも安全に安定に攻撃を与えられる方を選ぶ。

 

 だが、足元をチクチクと攻撃されてリオレウスの堪忍袋の尾が切れ始める。

 翼を広げ、首を少しだけ上へ持ち上げる仕草を始めた。それは咆哮する際の予備動作である。引いた首を今度は前方に突き出し、リオレウスは森丘中に響くかと思うほどの、怒りの咆哮を上げた。

 耳を塞ぐ二人。マハトは思わず、大剣を離し、地面に落としてしまった。

 

 すぐに拾おうとマハトは地面に落ちた大剣に手を伸ばす。だが、リオレウスはすぐに動き始める。

 怒り状態時のモンスターの行動スピードは大きく飛躍する。

 リオレウスの足元に落ちた大剣を拾う前に、突進を始めたリオレウスの巨体がマハトを直撃。マハトは吹き飛ばされる。

 突進の出始めで、衝撃でいえば小さい方である。しかし、リオレウスの巨大な重量がマハトを押し倒し、十分な威力は誇っていた。

 

「マハト!」

 

 吹き飛ばされたマハトは起き上がってすぐに、落とした大剣の元に走った。

 

「大丈夫だ!」

 

 痛がる素振りを見せることなく走るマハトを見て、クラインは安堵した。

 マハトは大剣を拾い上げ、リオレウスに向き直る。リオレウスは突進の勢いで地面を頭から滑走し、立ち上がるところだった。

 

「怒り状態で動きが俊敏になってる。タイミング見て閃光玉を投げるから、一気に攻撃を仕掛けよう。」

「了解!」

 

 クラインは閃光玉を投げるために、一定の距離を保ち、マハトはリオレウスに接近していく。

 すると、リオレウスが上空へ飛び立つ。剣が届かない上空に滞空に、リオレウスはブレス攻撃を仕掛けてくる。

 リオレウスの挙動を見逃さず、降ってくる火球を避ける二人。重力の影響もあってか、地上で放つ直線状の火球ブレスよりも、速度が速かった。

 

「こんな攻撃もしてくんのかよ!これじゃあ、攻撃もできやしねぇ!」

 

 マハトは降り注ぐ火球を避けながら言った。クラインも避けるのが必至だったが、これは逆にチャンスだと考える。

 ポーチに手を入れ、閃光玉を取り出す。火球を放つリオレウスの眼前目掛けて閃光玉を投げた。

 宙に投げた閃光玉に、リオレウスの火球の一つが当たる。それにより閃光玉は弾け、空中で閃光を放つ。

 咄嗟に目を塞いだ二人は、リオレウスが落下する地響きを聞く。

 

「よし!上手くいった!」

「ナイスだ!クライン!その手があったか…!」

 

二人はすぐに近づき、抜刀し攻撃を加える。滞空中の閃光はかなり有効的である。落下し、体制を崩したリオレウスは完全に無防備になり、大きな攻撃のチャンスとなった。

 クラインとマハトは、できる限りの攻撃をリオレウスに与える。モンスターに攻撃を与えられるチャンスなど、こういった時くらいしかない。

 可能な限り有効な部位に攻撃を当て、疲弊させていくことで、相手を追い詰めていく。

 しばらくして、リオレウスが起き上がる。時間にして10秒弱の間、リオレウスに大きなダメージを与えることができた。

 クライン達は一度距離を取り、リオレウスの次の出方を伺う。

 

「助かったぜ、クライン。」

「でもこれで閃光玉が残り2つ…。罠を使うタイミングも慎重に見極めないと…。」

「そうだな。ただ、閃光玉は空に飛んだあのタイミングベストだ。」

「タイミング合わせられるように頑張るよ。」

 

 リオレウスが火炎ブレスの構えを取る。クラインとマハトはその動きを見切れるように意識を集中した。

 

 

ーーーエリア9ーーー

 

 エリア4での戦闘が思いの他長引いてしまい、クライン達のスタミナは徐々に削られていた。だが、リオレウスも疲れ切ったのであろう。自分たちにも目もくれず、移動を開始し、このエリア9までやってきた。

 狩猟は長引けば長引くほど、ハンターは不利になる。モンスターも着実に体力が減っている以上、条件は同じように思えるが、狩猟が長引くほど疲弊していくのは間違いなくハンターだった。

 

 まずはアイテムの枯渇である。ハンターはモンスターを狩猟する際、より有利に立ち回れるように、様々なアイテムを持ち込む。このアイテムのおかげで、自分の数十倍ほどの巨体を持つ、モンスターを狩れるのだ。

 だが、アイテムはもちろん減っていく。持ち込めるアイテムの数にも限りがあるため、1つ1つのアイテムは慎重に使わなければいけない。

 かといって、出し惜しみをすると、時間もかかる。

 

 もう一つが、単純な体力の疲弊である。長時間にも及ぶ狩りは体力もスタミナも減っていくことになる。狩猟中にまともな食事がとれるはずもなく、支給品の《携帯食料》は、お世辞にも美味しいとは言えない。

 片手間に食べれる栄養食というのが携帯食料であり、一時的なスタミナ回復程度である。狩猟中の最高級料理はもっぱら《こんがり肉》だろう。

 しかし、それらは簡易な食事や睡眠で賄うことができる。大きな問題は長時間の狩猟による精神的な疲弊だった。

 

 クライン達が狩猟を始めてすでに10数時間。辺りはすっかり暗くなり始めていた。依頼の制限時間は50時間。つまり2日とちょっと。まだ依頼の四分の一しか時間は経っていないが、10時間以上、モンスターと対峙していることなどは滅多になかった。。

 依頼時間の50時間は、休憩や狩猟地内の移動を加味して設定されており、むしろ多いくらいの時間である。実際は、50時間をフルに使って狩猟が行われることは滅多にない。

 クライン達もいつもなら狩猟地に赴いてだいたい半日ほどで狩猟を追える。

 

 ただ、今回は2頭同時討伐の依頼である。前半のリオレイアにも時間を使い、小一時間の休憩を挟んでリオレウスに挑んでいる。精神的にも肉体的にも疲れが見え始めるころである。

 

 エリア9は木々が生い茂り、おまけに狭い。飛竜が降り立つだけで、道は塞がれ、回避もままならないようなエリアである。この狭いエリアには水場があり、その水を飲みに、飛竜は訪れる。小型モンスターも滅多にこのエリアにいることはない。

 辺りには獣人族のメラルーが数匹いた。メラルーは黒い毛並みが特徴の獣人族で、同族にアイルーという獣人族がいる。

 どちらも似たような猫の姿をした獣人族だが、その性格はアイルーとは異なる。アイルーは人間社会にも溶け込み、共に生活をし、共に働きもする種族だが、メラルーは人間に対して明確な敵意を持っている。

 理由は定かではない。攻撃性は低いものの、イタズラ好きで手癖が悪く、しょっちゅうハンターのポーチからアイテムを強奪していく。この盗んだアイテムはメラルーの集落に保管され、盗まれても集落を訪れることで、回収が可能なことがほとんどである。

 

 前回の失敗から、こういった不利な場所での狩りは控えるべきであるが、そのリスクを承知の上で、クライン達はリオレウスを追って、このエリア9にやってきた。

 木々で覆い隠され、日が落ち始めていることもあり、エリア9はかなり薄暗い。通路のようになっているエリア9には、水場があり、そこにリオレウスの姿はあった。

 クライン達は木陰に隠れながら、リオレウスの姿を確認する。

 

「いた…。のんきに水なんか飲んでやがるぞ…。」

「よし、なら幸い。今のうちに罠を仕掛けよう。」

 

 二人は小声で喋りながら、徐々に距離を詰める。気が付かれないであろうギリギリの距離まで詰め、クラインは罠を取り出した。

 

「罠が起動した音でどっちにしろ気が付かれる。迎撃できる準備をしておこう。」

「了解。」

 

 マハトはいつでも抜刀できるように構えた。

 薄暗く、視界が最悪になったこの状況で、二人がリオレウスを追ってきた理由は罠である。

 先ほどまで戦っていたエリア4や、エリア3など、夜であっても戦いやすいエリアは他にもある。しかし、広い反面、罠にかけるのが難しく、罠を仕掛けた後に逃げてしまえば、それが無駄になる。

 罠を極力無駄にしないよう、この狭いエリアの移動直後の警戒心が解かれたタイミングで罠にかけて攻撃するのが、今は最前であると判断した。

 

 クラインは、地面に《落とし穴》を設置するためポーチから取り出す。装置が起動する音はかなり大きい。モンスターが埋まるほどの巨大な穴を掘るためなのだから、それなりに地面に衝撃が走り、どちらにせよバレる。

 リオレウスとクライン達の間に罠を置くことで、より成功率は高まる。

 クラインが罠を置こうとポーチから《落とし穴》を取り出した。

 

「ニャーーッ!」

 

 クラインが罠を取り出すのを待っていたかのように、一匹のメラルーが飛び出してきて、《落とし穴》をくすねていった。

 

「あ、おい!」

 

 クラインは慌ててメラルーを取り押さえようと、飛びついたが、メラルーは俊敏な動きでこれを避け、すぐに地面に潜ってしまった。

 

「しまった…!」

 

 この一連のやり取りで、水を飲んでいたリオレウスがこちらに気が付き、顔を振り向かせる。

 

「くそ!!クライン!逃げるぞ!」

「うん!」

 

 この場でまともな戦闘は避けたかった。二人はリオレウスの咆哮を待たずに、すぐさまその場から立ち去る。

 この狭い立地は、相手にとっても不都合で、リオレウスがすぐに追ってくることはなかった。

 

ーーーエリア12ーーー

 

 《森と丘》の最奥部。木々で覆われた薄暗いエリア12にはメラルーの集落があった。集落といっても生活感はなく、森の中のちょっとした空間の中にあるガラクタが散らばった場所だ。

 夜も更けてきたが、集落にメラルーは一匹もいなかった。猫と同様の生態で夜行性なのだろうか。

 

「よかった。誰もいないみたい。」

「たくっ、手間かけさせやがって。」

 

 クライン達は先ほどメラルーに盗まれた落とし穴を奪い返しに、エリア12に訪れた。

 森丘にはたくさん来ているが、このエリアに用ができるのはメラルーにアイテムを盗まれた時くらいである。

 噂では、他では手に入らないレアアイテムが落ちていることもあるらしい。とはいえ、いつ落ちているかもわからないため、わざわざ訪れることもない。

 

 クラインはエリアの端っこにある猫の石像に近づく。これはネコ地蔵と呼ばれ、メラルーが盗んだアイテムなどが置かれる場所である。

 獣人族のメラルーがこの地蔵をどう作ったのか謎であるが、このエリアのランドマークのような存在である。

 クラインは地蔵の前に置かれた無数のガラクタの中から、《落とし穴》を見つける。

 

「あったあった。」

 

 特に苦労することもなく、落とし穴を取り戻すことができた。軽く泥を払って、傷がないかなどを確認する。誤って起動しているようなこともなく、一安心する。

 罠を拾い上げて、興味本位で地蔵の足元をよく観察してみた。暗くなっていて、最初はよくわからなかったが、それはよく見る閃光玉であった。

 

「マハト!こんなところに閃光玉が!」

「あ?どっかのハンターからパクったやつか?」

「ラッキー!2つもあるよ!」

 

 クラインはその閃光玉を拾い、ポーチに詰めた。まさに僥倖である。たかだが2つであるが、それでも戦況を変えるには充分な量だった。

 

「やったなクライン!これで少しは楽になる!でも、どうする?もう一度、罠を掛けにエリア9に戻るか?」

「ん~。またメラルーに邪魔されても嫌だからね…。」

 

 クラインは少し考え、木々がかかる天井を見上げる。

 

「一度キャンプに戻って仮眠を取ろうか。もうすっかり夜も更けたし、長期戦は覚悟したい。」

「だな。俺もそれがいいと思う。」

 

 気が緩んだのか、マハトは大きなあくびをして伸びをした。屈強な身体を持つマハトでも、やはり疲労は来るものなのだろう。クラインも、それにつられあくびをする。

 

「いったん寝ようか。再出発は日があける前に。」

「2~3時間ってとこだな。仮眠としては十分だ。」

「あんまり長いと、モンスターも回復しちゃう。相手の警戒を解くにもいい時間だ。」

 

 クラインは閃光玉以外にもアイテムが落ちていないか辺りを見る。特にめぼしいものがなかったので、そのままエリア12を後にした。

 

 

ーーーエリア5ーーー

 

「寝てるな…。」

 

 ベースキャンプで3時間ほど仮眠を取り、まだ日があける前にキャンプを後にしたクライン達。リオレウスが降り立ちそうなエリアを順番に巡り、彼らの巣であるエリア5まで来た。

 リオレウスはエリアのちょうど中央辺りで、気持ち良そうに寝ていた。クライン達は小声で会話をする。

 

 リオレウスは巣の中心で静かに眠っていた。敵がまだ周辺にいるのもお構いなしに寝るのは、モンスターの生存本能でもあるらしい。

 眠ることで少しでも回復を行うことができる、脅威の生命力を有しているのだ。

 

「寝ているところに罠を仕掛けよう…。」

「オーケー。」

 

 クラインは抜き足で寝ているリオレウスに近づく。マハトも後を付けるように慎重に近づいた。静寂に包まれた洞窟内では、ちょっとした音でも反響する。防具が擦れる音にも気を払いながら、慎重に近づいた。

 ポーチからはすでに罠を取り出しており、いつでも設置が可能だ。

 近距離までは行かず、ある程度、距離があるところに気て罠を設置。ただ、起動はしない。

 クラインの後ろにいたマハトは剣を抜刀し構える。寝込みを襲うことは、狩りでは定石である。

 狩るか狩られるかの中で、いかに先手を取れるかは重要であった。

 

「いくぞ…!」

 

 マハトは剣を振り上げて、勢いよく振り下ろす。マハトが持つ《ブレイズブレイド改》の鉤爪がリオレウスの頭の甲殻を抉る。

 唐突に与えられた一撃に、リオレウスは飛び起きた。

 

 マハトはすぐさま距離を取り、武器を構え直す。同時にクラインは罠を起動させた。

 リオレウスは、二人に向き吠える。リオレウスの怒りの咆哮が洞窟内に響き渡った。リオレウスの口元から黒煙が漏れ出しているのが見えた。

 

「もう怒ってる!?」

「いや、好都合!これなら罠に掛けやすい!」

 

 リオレウスはこちらに突進してこようとしていた。だが、クライン達の間には、罠が設置されている。 

 すぐにこちらに突っ込んでくるリオレウス。だが、突進を始めてすぐにリオレウスが穴に落ちた。

 

「いまだっ!」

 

 二人は飛びかかるように抜刀し、斬りかかった。リオレウスは暴れまわり、本来狙いたい頭部に上手く攻撃が当たらない。クラインの剣は、翼や爪に当たり硬い物同士が擦れ合う甲高い音が鳴り響く。

 罠にかかっている期間は1分にも満たないだろう。だが、その短い時間で少しでも多く攻撃を当てる。

 幾度かの斬撃により、リオレウスの甲殻や鱗が剥がれ傷が付き、肉が見えている部分もある。大量に出血してる箇所は無いものの、こういった傷はまだ複数個所にある。間違いなく弱ってはきているはずだった。

 しばらくして、リオレウスが落とし穴から逃げ出す。相手を拘束していたネットの粘着が切れ、不格好にもそのネットが身体に絡んだまま、無理やり翼を羽ばたかせ、そのネットを払う。

 

 エリア4での攻防では、ほとんど攻撃のパターンや癖などを見切るのに使った。今は怒りの時の動きの傾向もある程度、把握できている。戦闘時間は数時間のわずかではあるが、十分に動きを把握できているはずだった。

 

「ここで終わりにするぞ!クライン!」

「うん!」

 

 怒りで火炎が漏れ出すリオレウスの圧に押されないようにマハトは鼓舞した。

 そう、リオレウス討伐がもう目の前まで来ているのだ。一度は大敗した相手。だが、今度は準備も十分にし、対策を打ってきた。そしてこの依頼は、クライン達の昇格がかかった依頼でもある。

 

 二人はリオレウスの背後に回り込み、尻尾の付近を攻撃する。尻尾の甲殻は削げ落ち、ところどころ肉が見えるようになった。

 クラインは、その甲殻が剥がれている尻尾目掛けて攻撃する。剣がリオレウスの尻尾の肉を切り、もろくなっている部分を切り裂く。

 避けた尻尾を追撃するように、マハトは大剣を振り下ろした。その一撃が、尻尾の軟骨すらも切り裂き、リオレウスの尻尾がちぎれ、宙を舞う。

 

 尻尾を切断した勢いで倒れこむリオレウスに追撃すべくクラインとマハトは武器を構えたまま近づく。

 転倒したリオレウスの頭目掛けて、マハトの重い一撃が入った。

 鈍い音が響き、リオレウスの消えるような断末魔の声が洞窟にこだまする。翼を大きく広げて、最後の力でもがこうとするリオレウスだったが、その翼の力がフッと抜け、ゆっくりと地面につく。そして、リオレウスは動かなくなった。

 

「や…やった…。」

「はぁ…、はぁ…。」

 

 張り詰めた緊張が切れ、身体が熱くなっているのをクラインは感じた。

 マハトは握力が限界に達したのか、大剣を握っていた手が緩み、大きな音を立てて大剣が地面に転がる。同時に腰から地面にへたり込んだ。そのまま、手をついて、大きく開けた天井を見上げる。

 

「やったぁーー!!」

 

 マハトは洞窟の天井の穴から抜けるように、叫び声を上げる。

 クラインは呆然としたまま、リオレウスの倒れた死体と、マハトを交互に見る。じわじわと討伐に成功した実感が湧いてきた。

 

「マハト!」

「クライン!」

 

 二人はお互いに顔を見合わせ、表情が緩み笑顔が浮かぶ。

 クラインはマハトの元に駆け寄り、近づいて膝をついた。そして、マハトに向かって手のひらを見せる。

 マハトはそれを見て、自分も片方の手を上げ、クラインとハイタッチした。

 

「やったよ!僕ら勝ったんだ!」

「ああ!俺ら二人だけで討伐できたんだ!しかも2頭!」

 

 二人は火竜討伐の余韻に浸る。お互いを称え合い、称賛しあった。今まで二人でこなしたどの依頼より、達成感を得た。

 しばらくして、リオレウスの亡骸に近づくクライン。剥ぎ取り用のナイフを持ち出して、慎重にリオレウスの素材を剥ぎ取る。肉から鱗をはがし、まじまじと見る。

 丈夫な鱗の感触を手で感じ、噛みしめるように鱗を丁寧にはぎ取った。

 

「ありがとう…。」

 

 その言葉の意図が何かはわからない。しかしクラインの今の胸中を表現した言葉だった。。

 マハトもリオレウスの亡骸の元まで来て、剥ぎ取りを始める。火竜から採れる素材を用いた武具は、ハンターとして一つの勲章でもある。

 

「これで俺の武器も強化できるのか…。」

 

 マハトが扱う《ブレイズブレイド改》の強化先である《アッパーブレイズ》には《火竜の翼爪》と《雌火竜の翼爪》が必要だった。

 今回の討伐依頼で、一通りの素材も確保でき、マハトは自身の武器がまた一段強くなることに、心が躍る。

 

「よかったね!やっと強化できるんだ!」

「ああ、長かったよ、ほんとに。」

 

 マハトは約2年ほど、今の武器が強化できずに使い続けていた。火力不足を感じたことはない上に、今でも十分な攻撃力を持つ武器。それがさらに強化できるとなると、期待を抑えることができなかった。

 

「必要な素材は取った。外に出てさっさと帰還の合図を送ろうぜ。」

「ん、そうだね。」

 

 マハトは素材を大事そうにポーチに入れ、出口に向かう。帰りはエリア6の岩壁を飛び降りた方が近い。以前、クライン達がやられた方の出口へマハトは向かう。

 追いかけようと、クラインも立ち上がるが、何かを思いリオレウスの亡骸の方をもう一度見つめる。

 物言わぬリオレウスの亡骸をただボーっと見つめるクライン。

 

「両親がいなくなって、この火竜の子たちはどうなるのかな?」

「今さら同情か?」

「ううん。自分でやっておいて、同情するなんてことはないけど、それなりに責任を持ちたいというか…。」

「なんだ?火竜の雛でも育てるつもりか?」

「まさか!。」

 

 自らの手で殺めた命に同情するなんて、虫が良すぎる。ハンターはモンスターを狩る一方で、自然との調和を大事にしている。モンスターの命を奪うのは、人間の生態系が脅かされた時だ。無暗に命を奪うわけではない。

 ギルドが管轄している狩猟地も、人が生活に欠かせない場所だからこそ、そこの保全や生態系の維持のために、現れたモンスターを狩っている。

 今さら、モンスターの命を奪うことに罪悪感を抱いてはいない。だからこそ、奪った命の責任は持ちたいと思った。

 

「お前の両親だって、モンスターに殺されてんだろ?だったらお互い様じゃねぇか?」

「そうだね…。」

 

 ふと、洞窟の上の方から、翼を羽ばたかせる音が響いた。反応して、クラインとマハトは同時に剣の柄を握る。

 洞窟の天井を見ると、逆光で影になった小さな飛竜の姿が見えた。

 

「あれって…?」

「火竜の雛…。」

 

 その小さな飛竜の影は小さい翼を羽ばたかせ、空へ飛び立つ。

 クラインはその影を追いかけるために走り出し、影が飛び立った方の出口から外へ出る。

 そこは、崖がそびえるエリア6である。切り立った崖と山が連立するエリア6の上空を見上げるクライン。

 まだ、太陽の光が慣れていない目を細める。しばらくして、光に慣れると、遠くで小さくなっていく飛竜の姿をとらえた。

 しばらくして、マハトも出口を抜けてエリア6へきた。

 

「あれはどっちだろうな。レウスか?レイアか?」

 

 遠くてよく見えなくなった小さな飛竜の雛の影から、種別を判断することは難しかった。

 

「いつかまた、大きくなってここに帰ってきたらわかるさ。」

 

 まだ小さな飛竜の逞しい後ろ姿を見送って、クラインは優しく微笑んだ。

 




【補足】

・こやし玉の仕様
 原作ではMH2Gまで「未発覚に限り」効果があったこやし玉ですが、小説内では「発覚状態」であっても効果を発揮するようにしています。
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