モンスターハンター:オールドテール   作:Patrick

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〜装備紹介〜
名前:クライン・クルーガー 15歳
武器:ハンターカリンガ
防具:ハンターシリーズ

名前:マハト・アルペンハイム 16歳
武器:ブレイズブレイド
防具:ランポスシリーズ


第2話 火竜強襲!

ココット村のハンターがメインで狩りを行う場所を《森と丘》と呼ぶ。《シルクォーレの森》と《シルトン丘陵》で構成される、年間を通して温暖な気候が特徴だ。

 

村近辺に位置するため、ココット村のハンターが優先的に依頼をこなすことが多い。

 

主に生息するのは、クラインが以前に狩ったドスランポスをリーダーとして行動するランポス。そして荷車を引くための動力として、また人間の食料としても重宝される草食種であるアプトノス。そのほかにも、様々な飛竜種がこの《森と丘》に生息している。そんな《森と丘》の生態系の頂点に君臨するのが、《火竜リオレウス》だ。

 

リオレウスはその俗称の通り、火炎を扱う飛竜で非常に獰猛で有名である。リオレウスの討伐は一流ハンターの証ともされているほど強敵で、ハンターの街ミナガルデでもリオレウスを討伐できるハンターは数十名ほどである。

 

このリオレウスには雌個体もおり、《雌火竜リオレイア》という飛竜である。番で縄張りを形成する習性があり、まれに2体同時討伐の依頼も発生する。

 

この依頼を受けられるハンターもさらに少ない。

 

それほど《火竜リオレウス》は、モンスターの中でもまた特別な存在なのである。

 

ーーーココット村ー

「卵があった?」

 

繁殖しすぎたランポスの抑制のため、ランポス10頭の討伐依頼から帰ってきたクラインは、狩りの最中、飛竜の巣とされる場所で大きな卵を発見したことを村長に報告した。

 

通称を《飛竜の卵》と言い、非常に栄養価が高く、美味として、王都の上流貴族のパーティなのでよく振る舞われる食材ということだ。

 

そこまで言われると気になりはするが、あれを持ち帰ろうなんて毛頭思わなかった。もっとも、勝手に持ち出しさえしたらギルドからどんな処罰を受けるかわからない。

 

そんな食料としても需要のある飛竜の卵は時にハンターの依頼の対象となることもある。その殆どが前述の通り王都からの依頼で、卵を取ってきて欲しいというもの。

 

しかし、その依頼はとても難易度が高いことで有名で、いくら実力のあるハンターでも卵運搬の依頼だけは避けてしまうということをよく聞く。報酬が高額なだけに、魅力的ではあるが依頼の危険度も非常に高いのが卵運搬依頼の特徴だった。

 

ただ、《飛竜の卵》があるということは、それを生んだ親がいるということ。《森と丘》を繁殖地としている飛竜はそう多くない。

 

「ふむぅ…。」

 

「飛竜が森丘に来たってことだよね?」

 

「ギルドからまだ何も連絡が入っておらんからのう。お主が依頼に出ている間にやってきたのかもしれんの。」

 

「ランポスが増殖してるから、てっきりまたドスランポスが現れたのかと思ったよ。」

 

「その可能性も大いにあるわい。むしろその可能性の方が大きかったんじゃが…。飛竜となったら、おそらく火竜じゃのう…。まいったわい…。」

 

《森と丘》を縄張りとする飛竜はそう多くない。あの卵はおそらく《雌火竜リオレイア》の卵だろう。繁殖期に入った火竜夫妻は非常に共謀で、縄張りへの警戒がより強まる時期だ。

 

「近々、メタペタットから隊商がやってくるんじゃ。おそらくもうこちらに向かってるころじゃろうて。」

 

「隊商?」

 

「もう少し村の物流を良くしようと思っての、行商人を入れることにしたんじゃ。いくらかお前さんらハンターにも役立つ物も仕入れようと思っての。」

 

「へぇ~。村長も仕事してるんだ。」

 

「フォッ!ただの老い耄れじゃないぞ。ただ気がかりなのが、隊商がこちらまで来る道程じゃ。おそらくシルトン丘陵を通ってくることになろうて…。」

 

「ゲッ!今はまずいんじゃない…?かと言って討伐?」

 

クラインはドスランポス討伐後、大型モンスターと戦っていない。そもそも、ココット村に大型モンスターの討伐依頼が流れてくることはそうそうない。この村にはクラインを含めて3名のハンターが在住している。その中で村付きのハンターと言えば、クラインと、もう一人のクラインより一回りも年上のベテランハンターだ。

 

ただ、そのハンターも長いハンター歴の中でケガを負い、リオレウス級のモンスターの討伐も厳しくなってきている。クラインには、まだ実力が伴っていなため、大型モンスター討伐の依頼が回ってくる優先度は低い。

 

「目撃したという連絡は来ておらん。卵だけ産んで、どっかに飛び去った可能性もある。今は事を急ぐ必要もなかろうて。危険なことには変わりないがの。」

 

「楽観的と言えば聞こえはいいけど…。」

 

「そう心配するな。隊商にはミナガルデから優秀な護衛ハンターが付くとのことじゃ。きっとそれなりのハンターを寄こしてくれるじゃろう。」

 

「そうか…。なら杞憂だったかな。」

 

ハンターは稀に護衛の依頼を受けることがある。大陸の移動は常にモンスターから襲撃される危険が付きまとう。それこそ行商人などの商売をしている人は、村から村へ移動するだけでも命掛けだ。

 

そこで、護衛依頼をギルドに出すことも少なくない。護衛は通常の狩りよりもはるかに難しい。モンスターに襲われた際は、護衛対象を守りながら、モンスターの討伐および撃退もこなさなければならない。普通の狩りよりも、集中力と状況把握能力が必要なため、完璧にこなせるハンターはそう多くなかった。

 

そのため、ハンターによる護衛は必ず4名揃わないといけない。4名というのはギルドが定める一つの依頼で出れるハンターの上限数だ。

 

余談にはなるが、依頼の人数は4名までと決められている。これはココットの英雄の逸話に基づいた話である。

 

ココットの英雄がある巨大龍の討伐に赴いた際、懇願された英雄の婚約者を5人目としてパーティに迎え入れ討伐に向かった。

 

巨大龍は無事撃退できたようだが、その戦いで婚約者は命を落としてしまう。そんな話から、狩りに出る人数は4人までとされ、5という数字はハンターの中では忌み数として嫌われるようになっている。

 

そんな背景もあり、護衛任務は上限数で依頼を受けるのが絶対条件だった。

 

「事が起こるまでは静観じゃ。お主も今日は休め。依頼ご苦労じゃったな。」

 

そう言って村長はクラインに今回の報酬金が入った麻袋を渡して、酒場の中に入っていった。

 

ココット村の酒場はミナガルデギルドの出張所も兼用している。昔から村長がギルドからやってくる依頼書の整理などをしているのを見てきた。ココット村で受ける依頼には、ミナガルデからココット村に一任された依頼と、村長の判断で発生する依頼がある。

 

出張所を構える村の長には、ギルド出張所の管理を任され、依頼の発注から受注までが任される。簡単な小型モンスターの討伐や採取依頼などは、簡単に依頼として発注することが可能だ。

 

対して、大型モンスターの場合だと村付きのハンターの実力などに応じて村長が依頼を作成するかが決まる。今のココット村に大型モンスターの討伐依頼を任せられるような人材はいないため、村長の判断で依頼されることはほとんどない。

 

この間のドスランポスは、クラインの今の実力に見合ったということで、村長がミナガルデに掛け合い、依頼を流してくれた。

 

ただ、特例もある。《緊急依頼》と呼ばれるもので、近隣地域への被害状況などに応じて早急に対処する必要がある場合に限り、討伐が許されるのだ。

 

飛竜に村が破壊されたり、早めに対処しておかなければ被害が及ぶ可能性がある場合に限り、出張所の代表者独断で依頼の発注が可能となる。

 

基本的に、モンスターの討伐などは生態系保全のためギルドにより管理がされている。ただ、ギルドは人々の安寧を第一としているため、人命が脅かされる場合においては、討伐の許諾が必要ないのだ。

 

だが、緊急依頼の発令は極めて稀であり、ココット村でも過去緊急依頼が出た事例は、クラインの父パトリックが生きていた時代であった。

ーーーミナガルデーーー

切り立った崖の中腹にその街はあった。既存の平地や洞窟などを利用して作られており、おおよそ街とはわからないほどの見た目をしている。人が住むには快適という環境ではなく、辺りは常にモンスター襲撃の可能性を抱えている。

 

街の中心である噴水のある広場には商店や武具工房が存在する。モンスターが生息する地域と近いが、街は人々で溢れかえっていた。

 

ミナガルデの広場にはハンターズギルドの本部を兼ねた酒場が存在する。その酒場は、洞窟を利用されて作られており、武骨ながらも活気ある酒場になっていた。

 

その酒場を利用するものは皆、その身を鎧で固めており、背には自己を主張するかの如く、多様な武器を背負っている。

 

片手剣、大剣、ランス、ハンマー、ボウガン。さらにその武器種の中にもモンスターの素材により見た目や性能が大きく変わってくる。より強敵のモンスター素材から作れる武具を装備していたら、それはそのままそのハンター自信の実力を表している。

 

そうしてハンターが稼いだお金が、ミナガルデに点在する各武具屋や商店、酒場などに流れて、この街の経済は形勢されている。

 

まさにハンターの街という他ないほどであった。

 

酒場の中は酒の匂いとハンターの防具から発せられ野性的な匂いで、独特な匂いが充満している。酒場にはギルドから依頼を受けるためのカウンターがある。その受付カウンターに、1人のハンターが依頼書を眺めていた。

 

「隊商の護衛任務…?」

 

全身の防具をランポスの素材で作られた《ランポスシリーズ》で固め、背には大剣《バスターブレイド》が収まっていた。

 

彼の名は《マハト・アルペンハイム》

 

ココット村出身であり、クラインの2つ上のハンターだ。新米ハンターの頃はココット村で、今のクラインと同じように村長から依頼を受けていたが、飛竜の討伐依頼をなかなか出してくれない村長に激怒して村を飛び出した。

 

その後、ミナガルデに移住してから、単独で《怪鳥イャンクック》を討伐するに至るが、道中はそう簡単なものではなかった。その苦い経験を経て、昔ほど村長を恨んではいなかった。むしろ、自分のことを思ってくれていたのだと、後になってだが理解することができた。

 

「そ、メタペタットからココット村までの護衛任務。4人で受けるのが前提なんだけど、依頼を受けてくれたパーティメンバーの一人が、別件で負傷しちゃって急遽増員が必要になっちゃったの。ハンターランクは問わないんだけど、飛竜の討伐経験が複数回あるハンターじゃないと厳しいかなって思って。」

 

そういったのはギルドの依頼を紹介する受付嬢だ。ハンターランクとは、ギルドに設けられているハンターの実力を示す称号のようなものである。ハンターランクに応じて受注できる依頼の難易度が変わってくる。

 

この制度はハンターの殉職率を大きく下げる役割を担っており、実力を挙げながら、士気もあがるど、確実に実力のあるハンターが育っていくようになっている。

 

ハンターランクは《ノーマル》《ハード》《G級》の大きく三段階で区切られ、細かく定義すれば1~30まで存在する。1~13までが《ノーマル》、14~20までが《ハード》、21~30までが《G級》という括りになっている。マハトは現在ハンターランク9の《ノーマル》である。

 

ミナガルデギルドには村などの出張所含め約150名ほどのハンターが在籍している。しかし《G級》に達したハンターは6名しか存在していない。それほど、高ランクに上がるのは難しいとされている。

 

もっとも、ランクが上がるにつれ、依頼が難しくなるため、命を落とす者やケガにより引退する者が相対的に増えていくのが関係している。現役で《G級》に君臨するハンターはギルドの中でもさらに特別な存在なのである。

 

「ココットかぁ…。」

 

「あなた確かココット村の出身よね?いいんじゃない?里帰りついでってのも。」

 

「里帰りって…。考えてはいたけど、いざ行くとなると…。」

 

「フォッフォッフォッ」

 

聞き慣れた笑い声が聞こえ、マハトは受付嬢の隣でテーブルに腰掛ける老人の方に目をやった。

 

この老人がこの街、ミナガルデのギルドマスターだ。ギルドマスターとは各管轄ギルドをまとめる最高責任者のような存在。その姿はココット村の村長と瓜二つで、マハトは最初ミナガルデに来た時、村長なのかと勘違いしたほど。

 

結論、村長ではなかったのだが、話を聞いてみると、どうやらこの老人は村長の兄弟らしい。驚くには充分であった。村長から逃げるためにミナガルデにやってきたのに、ここでも似た顔と対面するとは、最初こそ嫌気がさしたものである。

 

「もう頃合いじゃろうて。なんだかんだ、兄もお主のことを気にかけておるぞ。それに最近、新しいハンターも増えたんじゃろう?あれじゃ、双星の息子。お主も旧知の仲じゃろ?」

 

「クラインのことか?そっか、あいつももうハンター登録できる歳になったのか…。」

 

ハンターズギルドへの登録は16歳からと定められている。誕生日から登録することができ、出張所のあるココット村では即日ハンターとして活動することも可能だった。無論、マハトも16を迎えた日にハンターとなった。

 

だが、それからハンターとして活動するも、村長から受けられる依頼は採取依頼や討伐があってもランポスなどの小型モンスターのみ。そんなこともあり、ハンターになってから3ヶ月ほどは地味な仕事ばかり受けていた。

 

そんな依頼ばかりに嫌気がさしてマハトは村を出た。ハンターといえば強大なモンスターを狩る仕事という印象が強い。ココットの英雄の逸話だって、モンスターを打ち倒す英雄伝ばかりである。

 

もっと大きな敵を狩りたい、ハンターとして大型モンスターを狩りたいという思いとは裏原に、村長が出す依頼は鉱石の採取、肉の調達、村の先輩ハンターのトラップの材料収集など、雑用とでも言うべきか、なかなかハンターとしての経験が詰めずにいて、我慢できずにマハトは村を飛び出してしまったのだ。

 

それが約2年ほど前。今では、イャンクックをはじめ、大型飛竜の討伐経験は重ねてきた。リオレウスなどがハンターランクの関係で依頼を受けたことはないが、着実に実力は付いていた。

 

ここ最近マハトは、村にいても変わらないんじゃないか?とも考えるようになってきた。

 

ミナガルデに出てきて改めて知ったことだが、ハンターへの依頼難易度はすべてハンターランクによって管理されていた。ハンターになって3ヶ月そこらで飛竜の討伐依頼を受けられるわけがなかった。

 

村にいたころには知らなかったハンターの仕組みだ。すべてを自分で管理する必要があるミナガルデでは、ハンターランクというものを知り、段階を経て飛竜討伐に挑むということがわかり、当時の村長には申し訳ない気持ちが芽生えていた。

 

世の中を知らないただの子供であると、自身の無知に恥ずかしさもあった。そんなことも重なり、マハトはなかなか村に帰る勇気がでないでいたのだ。

 

「ちょうどいい機会じゃろ?今の成長したお主を見れば、兄も幾分、気が晴れる。それに今のココット村にはハンターが少ない。お主が先導して村のハンターの士気を上げてやるのもいいじゃろう。」

 

「わかった…、わかったよ!受けるよ、護衛任務!」

 

ギルドマスターの口車に乗せられている気がするが、マハトもきっかけが欲しかっただけに過ぎない。別に今更、あの村長を見返そうだなんて思ってない。ただ、あの頃よりかは色々なものが見えているつもりだった。それで見る村の景色もまた違うだろうと思った。

 

「フォッフォッフォッ!助かるよマハト。それじゃ移住の手続きも一緒にしておくかの。」

 

「それはまだ早いって…!」

 

ーーー森と丘ーーー

「いや~マハト君が来てくれて本当助かった!」

 

マハトが合流したパーティは《ノーマル》帯のハンター達で構成されている。リーダーはやけに声が高い《マルテ=フローエ》という男。顔合わせの際に、握手をし、アーム越しに伝わる手の感触が、声質に合わずやたらゴツゴツとしていたのが印象的だった。

 

ミナガルデから陸路で数日かけてメタペタットに移動し、隊商と合流。そこからココット村を目指して《森と丘》周辺にまで差し掛かっていた。

 

メタペタットからは8名。そこにマハトを含めた4名のハンターが護衛として帯同する総勢12名の編成である。

 

前方にマルテとマハト、後方には残りのパーティメンバーである《ルーカス=ヤンセン》と《ピーター=ペヒブレンナー》が配置する前方後方で守備を担っていた。

 

道中、小型モンスターの襲撃もありながらの移動である。商人たちを守りながらの戦闘はなかなか難しいことをマハトは痛感していた。護衛対象を意識しながらモンスターを相手にするのはかなり精神をすり減らす仕事だと思った。想像以上というのがマハトの感想である。

 

「ロホスのやつが前回の狩りで、ケガをしちゃってね。ゲリョスって戦ったことあるかい?あのモンスター、"死んだふり"なんて妙に賢い技を使ってきてさ。油断したロホスが剥ぎ取りをしてたところに…。」

 

《毒怪鳥ゲリョス》。マハトも数体ほど狩りの経験があった。毒袋という内臓器官で毒性の強い液状を生成し、それを吐き散らしながら攻撃を仕掛けてくることから《毒怪鳥》の異名がつけられた。その他にも、奇妙なトサカが特徴的で、このトサカには主食としている鉄鉱石などの鉱物が含まれており、トサカと嘴の先端を打ち合わせて、閃光を発することもできる。

 

知能も高く、マルテが言っていた死んだふりもしてくるため、初見のハンターがことごとくこの罠に引っ掛かり大ダメージを受けることも多い。通常の飛竜とは異なり、鱗や甲殻などは見当たらずゴム質の外皮を有しているのも特徴だ。

 

これだけトリッキーな要素を含んでいると、相当強いモンスターだと思うだろうが、ゲリョスの危険度はそこまで高い部類ではなかった。順当にいけばイャンクックの次に狩る飛竜がこのゲリョスとなることも多いだろう。

 

「あれは、俺もびっくりしたな。そのロホスって人は容体は大丈夫なのか?」

 

ロホスはマルテのパーティメンバーの一人である。今回、マハトはこのロホスの代わりとして依頼に参加している。

 

「右腕と左足の骨折。大けがだけど、幸い、ハンター生命に関わるようなものでもないってさ。全治3ヶ月らしい。」

 

ハンターは常に死と隣り合わせの職業であり、そういったケガも常について回る。命がまだあっただけロホスという人物はまだ幸運だろうとマハトは思った。

 

「今回の依頼に限らずさ、もしよかったら、また俺たちの仕事手伝ってよ!」

 

マルテは上機嫌にそう言う。

 

「悪いな。それはできない。」

 

「そっか…。今まで4人で狩りに出ていたからさ、どうにも3人ってのがしっくりこないんだよ。まいったなぁ。」

 

「いいんじゃないのか?当面は3人でも。」

 

「君は普段、一人で狩りすることが多いんだろ?こんなこと言うと、情けなく聞こえるかもしれないけど、ハンターは多いほうが心強い。僕もハンターをやって長いけど、未だにモンスターと相対するのは怖いものさ。」

 

声も考えも女々しいな。とは、昔のマハトなら思っていただろう。今のマハトには、マルテの気持ちが理解できた。

 

ほんの少し前のマハトは自身にあふれて、強さがすべてだと考えていたが、ミナガルデで依頼をこなしていく中で、ハンターという職業の厳しさや現実を大いに理解することができた。

 

マハトが今も、一人で狩りを続けているのは、単純に一緒にパーティを組みたいと思えるハンターに出会えていないからだ。狩りは1人よりも多人数の方が成功率も、生存率も上がる。

 

当たり前の理屈だが、ハンターの中には、自身の力に自信を持っているものも多い。パーティを組んで狩りをするハンターに対して「臆病者」と言う者も少なくない。

 

「おい!先頭部隊!向こうからモンスターが来てるぞ!!」

 

隊列を組んで歩く隊商の先頭にいたマハト達の後方から、偉そうにこちらに指示を出す青年の声が響く。

 

「ちっ。」

 

マハトはわざと聞こえるように舌打ちをした。

 

「おい!今舌打ちしたか?お前らの仕事は俺たちを安全にココット村に届けることだろう?早く仕事をしてくれ。」

 

アプトノスが引く大きな荷車の中から青年が顔を出していった。

 

彼の名前は《デニス=オーケン》。この隊商のリーダーであり、今後はココット村を拠点に商売をしていくらしい。非常に傲慢で自信家な性格で、プライド高い。

 

マハト達に偉そうな態度を取り、その態度にマハトは何度殴りかかりそうになったことか。それをマルテや他の隊商のメンバーが止めに入ってくれていた。

 

「マハト君…。依頼主ってのもあるけど、この依頼で最後だから。僕も今後はこの人から依頼は受けないよ。」

 

そう言って、マルテは自身が扱うランス《ロングホーン》を構えた。

 

「わかってるって。もうすぐココット村だ。雑魚はさっさと蹴散らして村に急ごう。」

 

《バスターブレイド》の柄に手をかけて、マハトは前方から近づいてくるランポスに走り寄る。

 

「たったの2匹だ。1匹ずつ行こう。」

 

「了解!」

 

マルテと並び、ランポスまで一直線に駆け寄る。場所は森と丘の一部であるシルトン丘陵まで来ていた。ココット村までは1日もかからないだろう。

 

ランポスを目掛けて走っている最中、太陽が雲に覆い隠されたように辺りが暗くなった。次の瞬間、マハトの頭上から不自然な風が吹く。

 

「な...!まさか…!」

 

マハトの後方から悲鳴が聞こえてきた。上空には赤い甲殻を身にまとう《火竜リオレウス》の姿があった。

 

ーーー森と丘ーーー

クラインは森と丘に来ていた。

 

数時間前、ココット村にメタペタットからの隊商と護衛のハンターがやってきた。

 

隊商がやってくるという話は聞いていたので、到着したのだろうと思ったがどうにも様子がおかしかった。

 

村にやってきた護衛のハンターは全部で3人。たしか護衛は4人で行うのがマストでは無かったか?とふと疑問がよぎったが、その原因はすぐに分かった。

 

護衛のハンターは3名。隊商は5人しか姿が見えておらず、残りのハンターと隊商のメンバーはまだ森と丘に取り残されているとのことだった。

 

3人のハンターはみな負傷しており、よく見ると防具にはうっすらと焼けた跡が見られた。

 

ただ事では無い雰囲気を感じ取った村人は直ちにけが人の処置に移ろうと準備に急いだ。

 

村長は冷静に、ハンターの一人に話しかけた。

 

『なにがあった?』

 

『か…火竜が…、リオレウスが現れたんだ…!』

 

声の高いハンターがそう告げて、遠目から見ていたクラインも状況を察するに至った。声の高いハンターは落ち着かない様子で、そのまま状況を説明した。

 

隊商たちは森と丘に差し掛かってすぐのところでリオレウスの襲撃を受けた。隊商たちは慌てふためき、先頭を走っていたリーダーは一目散に舵を切り直し、後退しようとしたがその際に荷車を破損させてしまい、停滞。

 

リオレウスに最も近かった、声の高いハンターともう一人のハンターが迎撃の態勢をとる。後方のハンター達には逃げるように指示をするが、慌てる隊商たちのせいで思うように避難が進まない。

 

火竜は地上に降り立ち、声の高いハンターともう1人のハンターに襲い掛かる。

 

そのうち、パニック状態に陥ってしまった荷車を引く1匹のアプトノスが人を乗せたまま、森の方に逃げてしまった。

 

声の高いハンター達は、後方のハンター達がそれを追っているときに、リオレウスが彼らに火球を放ち、2名が負傷。

 

残った隊商達に気が向かないよう、残された声の高いハンターともう一人のハンターがリオレウスに立ち向かう。

 

やがて、声の高いハンターもリオレウスの攻撃を食らい、もう一人のハンターは囮となるようリオレウスの注意を引き、森の中へと消えてしまった。

 

残された隊商のメンバーとハンター達は命からがら森と丘を離脱してココット村へとやってきたのだ。

 

声の高いハンターは、さらに声を細くさせて振り絞るように言う。

 

『早く、代わりのハンターを…!あの場にいては危険だと思い、真っ先に来てしまったが…まだ残っている者もいるんだ…。」

 

村長は一通りの説明を聞いて、曲がった腰を少し正して、辺りを見渡す。

 

『あいにく、この村もハンター不足でのう…。』

 

そう言いながら、村長はクラインを見つめた。

 

『くれぐれも討伐しようとは考えるな。できる限り被害は最小限に抑え、人命を救出するのじゃ。』

 

村長にそう言われ、クラインは森と丘にやってきた。

 

「ク、クラインさん…。本当に一人で大丈夫ですか?」

 

声をかけてきたのは、メタペタット隊商のメンバーの一人である《アントン=エデルマン》

 

村に着いた隊商の荷車の中で、被害が少なかった一台を、森と丘までの交通手段として使ってきた。彼は主に隊商が使う荷車やアプトノスの世話などをする整備担当の役職についている。

 

聞いたら、歳はクラインと同じらしい。

 

「無茶はしないですよ。村長は討伐するなって言ってたし、そもそも、討伐できるなんて考えてないです!できる限りのことはしますよ。」

 

正直、恐怖心は大きかった。だがそれよりも、人命がかかっていることが重要だった。モンスターに襲われる恐怖は相当なものだろう。

 

取り残された人達は、今ごろ対処できないほどの恐怖にさらされている。

 

今回は突発的な緊急依頼のため、支給品の用意もない。クラインは持ってきた自前のアイテムをポーチに詰め込み、ベースキャンプを後にした。

 

ーエリア1ー

「おかしいな・・」

 

シルトン丘陵のエリア1は草食竜のアプトノスが生息するだけのエリアで、牧場さながらの雰囲気を持っていた。クラインはこのエリア1の空間が好きで、わざわざここで休憩を取ることもあった。

 

広大な場所にも関わらず、なぜかここにはランポスなど小型モンスターも大型モンスターも入ってこない。だからこそ、アプトノスはここにいるのだろう。しかしこの様相は異常だった。

 

「アプトノスが一体もいないなんて…。」

 

いつもと違う空気にクラインは緊張を抱いた。空を見上げて、シルトン丘陵の高い位置ある山を見上げた。垂直に長いその山の頂部はぽっかりと穴が開いており、この穴から飛竜が飛来するらしい。そこは、クラインが《飛竜の卵》を見つけた場所でもあった。

 

「やっぱり飛竜が来ていたのか…。」

 

クラインはエリア1を急ぎ足で駆け抜けていった。

 

ーエリア2ー

そこはランポスの群れが大漁に湧いてくる場所で、丘に入ってきた侵入者をそこで食い止めるが如く、ランポスが襲いかかってくる場所だ。

 

だが、クラインの眼の前に広がっていたのは焼き焦げた異臭とランポスの死体だった。鱗は黒く爛れており、超高温の炎で炙られたとわかるほど、損傷の深いランポスの変わり果てた姿が辺り一面に広がっていた。

 

数頭のランポスの真ん中に、ひときわ大きな個体に大きな赤いトサカを持ったランポスの群れのボス、ドスランポスの死体も転がっている。

 

「そんな…あのドスランポスが…?」

 

青い鱗はただれて溶けており、所々深い爪痕も見られる。クラインの片手剣の刃でも通りにくかった鱗にここまで深く入るほど鋭利な爪を持ち、高温の炎を操るモンスターがここにいる。

 

「火竜の前では、ドスランポスもこんな扱いになるのか?」

 

数か月前に、あれほど苦戦した敵の死体を目の前に、今から自分が相対するであろう強大な敵に恐怖した。同時にクラインは残された隊商の安否について考える。

 

目の前のドスランポスの死体を見て、最悪の光景を想像してしまった。

 

頭を振って、浮かんできた最悪の光景を掻き消し、クラインは先を目指すために走り出そうとした。

 

その時、向かい側から人影が見えてきた。どう見てもハンターの姿ではない。それは間違いなく隊商の人だろう。

 

「よ、良かった!隊商の方ですよね?」

 

防具も纏っていない一般の人が2名。

 

「はい!そうです!助かった。救援のハンターがいらしてくれたんですね…。もう我々はダメかと。」

 

「はぐれてしまった別の隊商の方たちが村まで来てくれて…。ただ、そちらに付いていた護衛のハンターさんも、かなりのけがを負ってまして。」

 

「とんでもない…。心強いです。あ、実はまだ奥の森の方に、護衛のハンターさんとエマ…。うちの商人の一人がまだ。」

 

クラインは取り残された人は全部で四人と聞いていた。ハンター1名と商人が3名。あと二人がまだ、取り残されている。

 

クラインは商隊の人たちに状況を詳しく聞いた。

 

「火竜は今どこに?」

 

「森の奥の細いエリアに…。我々はハンターさんが隙を見て森から脱出させてもらいましたが、もう一人が逃げている途中にけがをしてしまいまして。それで脱出が遅れているようです。」

 

クラインはひとまず安心した。窮地なことに、変わりはないだろうが、ひとまず命を落としている者は一人もいないようだ。

 

「わかりました。とりあえずあなたは一旦ベースキャンプに避難しましょう。キャンプにはアントン君も来てもらってます。今は戻ってゆっくり休んでください。」

 

「あぁ…よ…よかっ…。」

 

途端、一人の女性は腰を抜かしその場に崩れ落ちてしまった。

 

ハンターはともかく一般の人がモンスターと遭遇する恐怖は計り知れないものだろう。

 

ハンターである自分でさえも、恐怖を感じずにはいられないのだから、目の前で泣き崩れているこの人の恐怖は計り知れないものだった。

 

クラインはその女性を背負い、一度ベースキャンプに帰還した。

 

ーエリア10ー

ーーーどうすればいい?

 

マハトは森の中で火竜リオレウスと向き合っていた。足元には隊商が牽いてきた荷車と、それを牽引していたアプトノスの死体が転がっている。

 

パニック状態に陥った荷車を牽いたアプトノスがこのエリアまで逃げてしまい、それに付いてくる形でリオレウスもおってきた。リオレウスは、狩ったばかりのアプトノスの死体を足元に置き、目線はマハトに向けている。

 

2名の商人は無事に逃したが、残る一人の女性が足をくじいてしまい、走ることができなくなった。

 

いまは森の奥の小さな沢が流れるエリアに避難してもらっている。そこは非常に細いエリアで、小型モンスターすら侵入してくることはなかった。そのエリアはアイルー達の住処となっており、時たま山菜籠を背負って竜人族の老人が居座っていることがある。

 

彼は、ハンターとしての実力も一流なようで、話しかけると時たま、戦利品であるモンスターの素材をくれることもある。彼がいれば心強かったが、今回は不在なようだった。

 

そのエリアを住みかとしているアイルーもある程度、人語を理解でき、むやみに人間に襲ってくることはない。ベースキャンプに次いで安全なエリアである。

 

だが、そこから抜けようにも、ここはベースキャンプとは真逆に位置する場所。安全地帯まで最も遠い場所であった。リオレウスももちろん、足を怪我して走れない女性一人を連れながら、森と丘を横断するのはかなりリスクがあった。

 

リオレウスは追い込んだ獲物を待ち受けるように、このエリア10から動かないでいた。瞬間、火竜が大きく顔を持ち上げ口周りに炎が見える。

 

ーーー火球だ…!

 

超高熱の火球を飛ばす技で、大剣でガードしても相当の衝撃を受けてしまう。マルテ達も、この火球の餌食となり、戦線離脱を余儀なくされた。

 

マハトは大きく横に吹っ飛びそれを回避する。マハトがいた場所を通り過ぎて、後ろの岸壁に当たる。パチパチと辺りの木々や草木を燃え上がらせた。

 

当たれば超高温で大火傷は避けられないだろう。マルテ達はモロに食らっていたが、あれではおそらく救援にもこれないだろう。

 

辺りに転がっているランポスの死体を見て、同じ素材を用いて作られたマハトの防具一式が同じ末路を歩むであろうことは容易に想像できた。

 

あの火球は絶対当たってはいけない。

 

だが近づくことすらままならない状態である。近づけばその大きな尻尾によるなぎ払い、もしくは鋭い牙による噛みつきなど、接近戦にも対応している。

マハトはただ遠くからリオレウスの技を避けることしかできずにいた。

 

飛竜の狩猟経験はそれなりにあったが、このリオレウスという飛竜はまったく別格だった。敵わないという現実を叩きつけられ、マハトの戦意は徐々に削がれていっていた。

 

と、その時だったーーー。

 

「目を瞑って!!」

 

リオレウスの後方、森の奥から声が聞こえ、とっさにマハトは目を閉じた。瞬間、閉じた向こう側で何かが破裂する音が聞こえ、次いで強烈な閃光が瞼の向こうで爆ぜた。

 

目を開けた時リオレウスは強烈な閃光で視界を遮られ、辺り構わず暴れまわっている。

 

「こっちだ…!」

 

閃光玉を投げてくれたハンターに腕を引っ張られ、マハトは目の前で暴れまわるリオレウスに目をやり、荒れ果てた森のなかの水場を跡にした。

 

ーエリア11ー

小さな沢が流れ、水の音が心地よく聞こえる。その奥にはアイルー達の住処がある。残された一人の女性商人はそこで休んでもらっていた。マハト達はリオレウスから逃げ、このエリアに駆けこんだ。二人はさらに奥を目指して歩いている。

 

「ありがとう。助かったよ。」

 

マハトは先程助けてくれたハンターに礼を言った。装備はハンターシリーズ一式でおそらくまだ駆け出しのハンターなのだろう。しかし、あの場で閃光玉を投げて敵を撹乱させたのは良い判断だと思った。

 

「その声…もしかしてマハト…?」

 

そう言って、ハンターシリーズのハンターは頭の装備を取った。

 

「なっ…!お前…クラインか!?」

 

マハトは見覚えのあるハンターを見て驚いた。クラインとマハトは幼少の頃は一緒に遊んでいたほどの仲だ。

 

「驚いたまさかクラインが来るなんて…」

 

「マハトこそ!メタペタットからの護衛がマハトなんて聞いてなかったよ!」

 

幼馴染との再開。極度の緊張状態の中に訪れたつかの間の安堵の瞬間である。

 

「ところでなんでお前が救援に?」

 

「マハト達が護衛してた隊商たち、ハンターも含めてみんな村に来たんだ。」

 

「そうだったのか。よかったみんな無事か?」

 

「うん、おかげでね。でも残されてる人もいるって聞いて。護衛のハンター達はみんな火竜の攻撃で負傷していて、動けない上に、村にハンターが俺しかいなかったからね。村長が討伐ではなく、あくまで人命の救助だって言ってたし、俺でも力にはなれるかなって。」

 

「すげぇ助かったよ。一人ハンター来るだけでも心強い。この奥に商隊を避難させたんだが、怪我をしていて走ったりとかできないんだ。」

 

「さっき会った隊商の人から聞いたよ。彼らならもう大丈夫。僕がベースキャンプまで送り届けたから」

 

「よかった。なんとか逃げ切れたんだな。何から何まで済まないクライン…。」

 

「いいって、いいって。しかしどうするかぁ~。このままあいつが立ち去るまで待つか?」

 

いずれリオレウスは立ち去るだろう。

 

しかし、辺りが暗くなってしまってからの移動はより危険が増す。夜の暗い中の移動は、こちらの動きを隠すには充分だが、それはモンスターたちにとっても同じ条件だ。こちらが襲われる可能性も出てくる。

 

できることなら早めにここを抜けたいと考えていた。

 

「クライン…。飛竜種の討伐経験は?」

 

マハトがクラインに聞く。

 

「いや…実はまだなくて…。」

 

「そうだよな。真正面から挑むのは得策じゃないな…。」

 

マハトはそう言って、背負っていた大剣を研ぎ出す。バスターブレイドを丁寧に研ぎながら次の策を考えていた。

 

「マハト。念のため、いろいろと道具は持ってきたんだけど。」

 

「道具?」

 

その言葉を聞いて、マハトは先ほどの閃光玉の存在を思い出した。

 

「さっきの閃光玉。クラインまさか、他にもアイテムを?」

 

「火竜って聞いてね。いくら何でも討伐は厳しいって思って、少しでも生存率を上げられるものがあればって。」

 

そう言って、クラインは自身のアイテムポーチの中身をマハトに見せた。

 

「お前、よくこんなに集めたな…。」

 

アイテムポーチの中には閃光玉以外にも、落とし穴も入っていた。

 

「閃光玉はさ、ドスランポスの狩猟の時に、支給されるものだから、使わずに貯めておいたんだ。落とし穴は持ってた素材を使って自前。」

 

「クライン。お前ってやつは…!こんなできる救援あるかよ。昔からマメな奴だと思ってたが…。」

 

「へへ、まぁね。」

 

「おいおい…。お前こんなものまで。」

 

クラインのアイテムポーチを漁っていたマハトは、その中に一つの書物を見つける。それは《モンスターリスト》というアイテムで、モンスターの生態などが記載された書物だ。王立古生物書士隊という組織が発行する図鑑のようなもので、生態や素材の説明が詳しく書かれている。

 

「一応さ、買えるだけの図鑑は買ってるんだ。リオレウスって火球ブレスってので攻撃してくるんでしょ?遠距離だったらそれに注意しないと、変に間合い取っても危ないよな。」

 

クラインは、事前にモンスターのことをよく調べる。現地で見て観察しただけではなく、できる限りの文献を活用して、相手がどんな攻撃をしてくるのか?どういった罠が有効か?などを考えていた。

 

「お前って結構ナードだよな。」

 

とはいえ光明が差したように思った。綺麗に研いだマハトのバスターブレイドの刃が微かに反射して沢の水面に映る。クラインの持つ片手剣ハンターカリンガと同じ素材を用いて作られたその大剣は、見た目からして相当な攻撃力を持っている武器だ。

 

「よし、したら作戦組むぞ…!」

 

ーエリア10ー

リオレウスは依然として、エリア10の水場付近に居座っていた。縄張りに侵入してきた敵を完全に排除するために、そこに留まっているのだろう。他エリアで見たランポスの群れの無残な姿を思い浮かべ、リオレウスは卵を守るために、ここまで殺気立っているのだろうとクラインは考察した。

 

「いいか?俺がまず先陣を切る。奴の気が俺に向いている隙に閃光玉で視界を奪う。その後、俺たちがエリア10出る動線に落とし穴を設置するから、そこ目掛けて、クライン達が駆け抜ける。」

 

「OK!」

 

「は、はい…!」

 

隊商の女性は上ずった声で返事をした。

 

「エマさん、大丈夫です。必ずここから抜け出してみせます。怖いかもしれませんが、もう少しの辛抱です。」

 

クラインは、メタペタット隊商の一人である女性《エマ=レームクール》にそう声をかけた。彼女はクラインよりも2つ年上の女性だ。隊商内では、主に経理や在庫管理など仕事を請け負っているらしいようだ。

 

顔面蒼白になっているエマを安心させるように言ったが、クラインの言葉もロクに聞こえていないようだ。一般の人が、いきなりこんなモンスターに遭遇したら、恐怖するのは仕方のないことだった。

 

むしろ、ここまでよくパニックにならずに済んでいると、クラインは関心していた。

 

「クライン!頼んだぞ!」

 

「ああ!」

 

マハトは勢いよく駆け出し、水場にいるリオレウスめがけて一直線に向かっていく。クライン達はエリア10に差し掛かる狭い木々で覆われた道の中に潜伏して、隙を伺う。

 

エリア10を抜けるには、丘であるエリア3を迂回してくルートか、エリア8の森を抜けるルートの2通りがある。おかからエリア3を迂回するルートだとリオレウスに追われる可能性が、大きく万が一小型モンスターがいた場合、危険なためクライン達はエリア8の森を抜けるルートを選択した。エリア8であれば、小型モンスターがいたとしても《ドスファンゴ》と呼ばれる猪のモンスターくらいで、リオレウスはその体格的に、エリア8まで侵入してくることはないだろうと、クライン達は考えていた。

 

そのままエリア8を経由してエリア1まで抜けてしまえば、モンスターの脅威は格段に減る。最も安全なルートだと言えた。

 

すべては、このエリア10を無事に切り抜けられるかにかかっていた。マハトは自ら囮になることで、リオレウスを誘導する役目を買って出た。

 

「うおおぉぉぉぉぉ!」

 

雄叫びを上げてリオレウスに向かっていくマハト。走りながら背の大剣の柄に手を欠け抜刀する。振り向きざまのリオレウスの脳天にマハトの大剣が振り下ろされる。

 

ドッ!という鈍い音が森の中に反響し、静かに音が吸い込まれていく。リオレウスは少し間を置いて、咆哮を上げ威嚇した。飛竜の咆哮はその音圧ゆえに直接聞いてしまうと、体が硬直し隙を与えてしまう。マハトはこれを大剣を盾にして音圧を塞ぐ。

 

リオレウスが吠え終わると同時に、マハトは納刀しながら距離を取る。先程の一撃でリオレウスは頭に血が登ったのか、口の端から炎がこぼれ落ちている。今にも炎を吐き出さんかというほどだが、怒りのあまり、漏れ出してしまっているのだろう。マハトはリオレウスの次の動きを慎重に見ながら、距離を取った。

 

リオレウスは、距離を詰めるためにマハトに向けて突進を始めた。十分な距離にいたマハトは横に飛びこみ、これを回避する。突進の勢いがありすぎたのか、リオレウスは態勢を崩して頭から地面に転ぶ。リオレウスの突進した先は、先ほどまでマハトがいた場所である。つまり、エリア10からエリア11に繋がる道の手前である。

 

マハトの役目はこの場所までリオレウスを誘導することであった。

 

クラインが持ってきた閃光玉の数は全部で5つ。先ほど使った分がなくなっているので、残り4つが残っている。4つもあれば、1発はあたるだろうが、それでも状況的に1つも無駄にするわけにはいかなかった。

 

「クライン!!」

 

マハトがクライン達のいる方に声を掛けると同時に、クラインが姿を現す。リオレウスは突進の反動で地面に伏して、立ち上げるところだった。

 

クラインがエリア10に侵入して、リオレウスの眼前に躍り出る。

 

ーーーここだ!

 

クラインは手に持っていた閃光玉を投げて、次の瞬間には破裂音とともに森一面が閃光に包まれる。閃光玉はモンスターの視界を短時間ではあるが奪うことができるアイテムである。

 

クラインとエマは閃光玉が破裂する瞬間に目を手で覆い、視界が奪われないようにしていた。マハトはそれを合図に、クラインから受け取った落とし穴を足元に設置する。設置個所はエリア8へと通じる道の途中である。視界が復活したリオレウスが、逃げるクライン達を追ってくるであろう動線上に落とし穴を設置したのだ。

 

視界を奪われたリオレウスが「グギャアア」と苦しむ声を上げるのを聞き、「今です!エマさん!」とクラインはエマをおぶってエリア10を駆け抜けた。クラインの持つハンターナイフが当たらないように、剣と盾を腹部に巻いて走りづらくなっているが、閃光が効いてる間には、エリア10を抜けられると踏んでいた。

 

クラインはエマをおぶって、落とし穴を仕掛けるマハトを目指す。マハトは罠を仕掛け終わり、クラインがこちらに駆けてくるのを確認して、走り出そうとしていた。その、後ろでは、目が眩み混乱しているリオレウスがこちらの方に頭を向けていた。リオレウスの口元から、炎が漏れ出している。

 

「まずい…!火球だ!!」

 

そうマハトが叫んだ瞬間、リオレウスは火球を勢いよく放った。声だけで位置を判断したのだろうか。火球はクライン達が走り抜ける方向へと放たれる。それを見たマハトがクライン達の前に躍り出て、大剣を盾にして火球を受け止めた。

 

「きゃああああ!」

 

火球の熱気により、辺りが歪む。鉄の焦げた臭いがして、静寂に包まれ、時間が止まったような気がした。

 

「俺は大丈夫だ!はやくエマさんを!」

 

大剣を盾にしながら、マハトは大声でクライン達を急かす。マハトは火球を受け止めた反動か、腕を押さえつけている。マハトを心配しつつも、クラインはエマを背負っている以上、助けに行くこともままならない。クラインは意を決して、走り抜けた。

 

クラインがちょうどエリア10を抜けたところで、リオレウスの視界は回復したようだ。身震いをし遠くで咆哮を上げていた。

 

マハトは今日2度も、リオレウスの火球を大剣で受け止めた。大剣を掴んでいた方の腕の防具は若干溶けており、ひりひりとした痛みが走っていた。おそらく、やけどしているのだろう。

 

痛む腕をかばっていながら、大剣を納刀したとき、リオレウスがマハトに向かって滑空してきた。マハトは無理やり身体をひねって地面に転がって、ぎりぎりを回避する。リオレウスの爪が少し掠るのを背中に感じた。

 

腹ばいで地面によけ、風圧を感じる。リオレウスは、逃げるクライン達に向かって滑空したようだった。だが、リオレウスの巨体では、クライン達が向かった道の間を通り抜けるのは無理だったよう、リオレウスは鳴き声を上げながら着地する。

 

着地したリオレウスがマハトの方を向いた。口からは炎がこぼれているのが見える。これ以上、火球を受け止めるわけにも行かない。だが、閃光玉を持っているクラインがすでにエリアを抜けてしまっているので、これ以上アイテムを使った足止めも難しかった。

 

このまま背を向けて、マハトもエリア3を抜けることも可能だろう。だが、背を向けたマハトにリオレウスが追撃してくる可能性は大いにあった。

 

1人残されたマハトは、逃げられない状況にまで追い込まれていた。

 

ーベースキャンプー

エリア8からエリア1までの道中、モンスターと遭遇することはなかった。この2つのエリアには大型モンスターが来ることはないが、小型モンスターは生息している。普段はブルファンゴやランポスなども見かける場所である。

 

「エマ!!」

 

ベースキャンプで待機していた隊商のメンバーであるアントンが、戻ってきたエマを見て叫ぶ。

 

「アントン…!」

 

足を引きずりながら洞窟をくぐってきたエマは駆け寄るアントンに体重を預けるように抱き着いた。

 

「よ、よかった無事で…!」

 

アントンはエマを抱き止めた。先に戻っていた他の隊商のメンバー含めて、今回の騒動により隊商から死者は一人も出ることはなかった。

 

「これでみんな無事に…。」

 

アントンはそこまで言いかけ、エマの背後を見て口籠る。

 

「あれ…?ハンターの方は?一緒に来たんじゃ…?」

 

「それがね…。」

 

ーエリア10ー

マハトは疲労困憊だった。もう走って逃げるスタミナも残っていない。依頼を受けたときにもらった支給品はとっくに底をつきており、すがるものは何もなかった。

 

エリア11に引き返せば休むことができるが、先ほどから全く移動する気配のないリオレウスを見るに、エリア11でやり過ごしても無駄だろう。

 

1時間でも2時間でも待てば、どこかに移動してくれるかもしれないが、そうなっては次はクラインを追って移動してしまうかもしれない。クライン達がエリア10を抜けて、それほど時間は経っていないはずだった。エリア8にもモンスターはおり、クラインは今頃、一人でその相手をしているのだと考えると、加勢に行ってあげたい気持ちもあった。

 

だが、このリオレウスは、道をふさぐようにマハトの前に立ちふさがる。

 

リオレウスが再び火球を吐く態勢に移るのを確認した。それを確認してマハトは回避の準備を始める。

 

転がって回避するのも1回ほどしかできないくらいに、マハトのスタミナは尽きていた。何度この攻撃を避けただろう。

 

おかげで、リオレウスの攻撃パターンはあらかた確認した気がした。突進や火球ブレス、滑空してのブレスや、足よるついばみなど。

 

ただ、このエリア10では空が木で覆われているため、リオレウスも翼を使うことがあまりなかった。空の王者の異名を持つリオレウスでも、この場所では戦いづらいはずだった。

 

リオレウスは火球ブレスを放ち、それは真っすぐにマハト目掛けて飛んできた。放たれた火球のスピードはそれほど速いものではない。

 

マハトは火球の距離感を見誤らないように注意深く見て、冷静にこれを交わす。地面を転がり、すぐにリオレウスを視野に収める。次にリオレウスは都心の構えに入っていた。右足を蹴り出す姿勢に移り、思いっきり突っ込んでくる。転がり後の隙、目掛けて突進をしてくるつもりなのだろう。

 

それなりに頭の使えるモンスターであることが、より凶悪に感じられた。

 

リオレウスが地面を蹴るのを確認したと同時に、マハトはリオレウスの後方。エリア8へと続く道の奥に人影を見た。

 

「マハト!!」

 

リオレウスが駆けだしたと同時にクラインの声が聞こえてきた。直後、閃光が辺りを包む。

 

助走をつけて駆けだしたリオレウスが閃光で目が眩んだことで地面に倒れる。

 

「早くこっちへ!」

 

スタミナが尽きているマハトはできる限りのダッシュでクラインの方向を目指す。リオレウスは地面に倒れたままジタバタと暴れまわっている。

 

マハトは足取りが重くなってきたが、最後のひと踏ん張りで、クラインに向かってダイブした。飛び込むマハトの両手を握り掴み、クラインはマハトを思いっきり引っ張る。

 

エリア10とエリア8を結ぶ入り口は両脇に岸壁があり、リオレウス1匹がギリギリ通れないほどの広さである。エリア8に進むにつれて道が狭くなっており、道の中腹までくれば、飛竜の侵入は難しい。

 

走るスタミナも残っていないマハトを、可能な限り道の中腹まで引きずりこみ、なんとかエリア10を脱することに成功したクラインとマハト。

 

マハトは肺で空気を一杯に吸い込み、呼吸を整える。

 

「ク…クライン…また…助けられ…。」

 

「はぁはぁ。今は喋んなくていいよマハト。はい。」

 

疲れ果てているマハトに、クラインは携帯食料を渡す。

 

マハトは差し出されたそれを無言で受け取り、封開けすぐに口に入れる。いつもなら味気のない携帯食料も、今のマハトにとってはありがたい栄養源だった。

 

クラインは持っていた水筒も渡して、マハトに渡すとこれもすぐに飲み干した。

 

思い返せば半日ほど、あの火竜と相対していたいことになる。張り詰めていた緊張が一気に解けて、マハトはその場にへたり込んだ。エリア10へと続く道の奥からは、リオレウスの方向が響き渡る。

 

エリア8に小型モンスターが一切いない理由も、あのリオレウスのプレッシャーによるものだろうと腑に落ちた。

 

「マハト、ほんとにお疲れ…!」

 

クラインは地面にへたり込むマハトを労う。マハトは声が掠れ、発生もままならないほどだった。

 

マハトはクラインを見上げて左拳を突き出す。クラインは口元を緩めてコツンと静かに当てた。左手の火傷に響いたが、マハトの中は充足感に満たされていた。

 

 

 




【2. ギルドの運営と構造】

ギルドは主に 内勤メンバー(受付嬢や管理職) と ハンター(実働部隊) に分かれている。
ハンターズギルドの上層部は 長命で知識の豊富な竜人族が中心となり、獣人族は補佐的な立場にあることが多い。ただし、獣人族の中にも管理職者は存在し、種族が階級を決めるわけではない。

ハンターの報酬制度は基本的に、成果報酬型である。依頼1件に対して報酬を支払い、ギルド所属ではあるものの、厳密な管理はされていない。
だが、中には「筆頭」と呼ばれるハンターもいる。筆頭はギルドに直接所属し、報酬体系もギルドからの固定支給である。

一般ハンターには公開されない依頼を請け負い、通常の「狩猟」「納品」「護衛」などの依頼区分とは異なる依頼を請け負う。

依頼における大きな違いは「調査」が主であること。
新種のモンスターや、生態があまり解明されていない種、未知のモンスターや場所の調査などがこれに該当する。
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