モンスターハンター ~エピソード ココット~   作:Patrick

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リオレウスとの戦いから2ヶ月が過ぎたころのお話

〜登場人物紹介〜
・主人公
名前:クライン・クルーガー 15歳
武器:ハンターカリンガ
防具:ハンターシリーズ


第3話 赤き怪鳥を狩れ!

ココット村に行商人が多く訪れるようになり、村が少しずつ賑わうようになっていた。

 

ココット村周辺は温暖な気候のため農作などをするにはうってつけの土地だった。

 

村の西では畑を作って農場を作ろうとする計画まで上がっており、これによりココット村の流通がより改善されることを期待していた。

 

村の物流が上がったきっかけは2ヶ月ほど前にメタペタットからの商隊を迎え入れる体制を整えたことにある。

 

それに一役買ったのがココット村のハンター《クライン・クルーガー》と《マハト・アルペンハイム》だった。

 

2人のハンターはメタペタットの商隊を護衛している途中、《火竜リオレウス》と遭遇するが、なんとかその場を切り抜ける。

 

誰一人死人を出さずに、全員無事で救出できたことにより、恩を返そうとメタペタットの村がみんなこぞってココット村に積極的に流通を促すようになっていた。

 

当人たちは、その恩もまんざらでも無いという風に、今も狩りに出かけている。

 

たった一度の活躍も、駆け出しの彼らにとっては名声を飾る一つの出来事と捉えて、メタペタットの恩を確かに受けながらも、さらなる村の発展、自己の成長のために今日も仕事をこなしていた。

 

そしてクラインは今、1人ジャングルに来ていたの。

 

ージャングルー

 

メタペタットの村の近くに《メタペ湿密林》と呼ばれる地域がある。

 

ギルドでは通称《ジャングル》と呼ばれ、ハンター達の狩場として認定されている。

 

ベースキャンプがある場所はジャングルから離れた外れに位置し、景色が一望できるほど場所だ。

 

それと相対しジャングルの中は木々が生い茂り、ハンターの視界を遮るほどだ。

 

それはモンスターも同じことだろうが、彼らは長年ジャングルで暮らしているためか、その視界の悪さを逆手にとって狩りを行う。

 

ハンターの間でも非常に評判の悪い狩場で有名だった。

 

ベースキャンプは古代文明の遺跡跡なのか、石のトンネルや通路も整備されていたような跡がある。

 

この世界でははるか古代の時代に竜対戦時代があったと言われている。

 

かつての人類は今とは比べ物にならないほどの技術力を有しており、それは自然をも脅かすほどだと言われていた。

 

村長から聞いていた話ではあるが、実際にこうやって生で時代の産物を目の当たりにすると、この世界のそこの知れない深さを知り、モンスターと相対したときとはまた別の、恐怖心のようなはたまた好奇心のような気持ちが沸き上がってくる。

 

「すげー景色・・・」

 

ジャングルとは逆方向には、開けた景色が広がり、大きな滝がいくつも流れた景色が広がっている。

 

遠くでなっているであろう轟音の滝壺の音は、ここに届くまでには心地いいほどの音量になって届く。

 

初めて森と丘以外の狩猟地に出たクラインは、その景色を見て感動を覚えた。

 

同時にジャングルの中から「クェェェ・・」と鳥類の鳴き声が聞こえてきた。

 

「目的を忘れちゃいけないな・・」

 

今回の狩りの目標は《イャンクック》の討伐だ。

 

怪鳥の異名を持ち、飛竜と勘違いされがちだが、ランポスなどと同じく鳥竜種に分類されるモンスターだ。

 

しかしその特徴は大きく異なり、骨格はリオレウスなど飛竜のそれと変わらない。

 

ハンターの間では狩りの登竜門と呼ばれる存在で、駆け出しのハンターの当面の目標はこのモンスターを狩ることにある。

 

クラインも例に習い、イャンクックの討伐を受注してここジャングルにやってきたのだった。

 

クラインより少し先にハンターになったマハトもすでにイャンクックを討伐しており、彼に追いつくためにもクラインはイャンクック討伐を受けたのだ。

 

そのマハトはというと、元々、各地を転々とする流れのハンターではあったが、今は故郷のココット村に在籍し、依頼をこなしていた。

 

最初こそ、2人で狩りに出かけていたが、マハト曰く『イャンクックくらい1人で狩れなきゃ、俺の相棒とは呼べないな』とのことだった。

 

何かとクラインと張り合うマハトと、一切競争心を見せないクラインだったが、この言葉は確かになと腑に落ち、メタペタットから直々に依頼を受けたのだ。

 

「そろそろ向かうかなぁ」

 

駆け出しのハンターと言えど、リオレウスとの死線をくぐり抜けたクラインだ。

 

それからというもの、装備を整えてこの日のために準備をしてきたのだ。

 

クラインはアイテムポーチを確認し、必要な道具があることを認め、ベースキャンプから一番近い方の入り口からジャングルの中へと入っていた。

 

ージャングル エリア1ー

 

赤い怪鳥と呼ばれているのは聞いていた。

 

しかし実際に目の当たりにしてみると、それは赤というよりも桃色に近い体色をしている。

 

リオレウスと比べると見た目の凶暴さはそこまで感じず、動きはコミカルで、どこか可愛らしさすさ感じる。

 

しかし、その表情からは感情が読み取りづらく、人間でいうところ無表情な感じが不気味にさえ思えた。

 

怪鳥イャンクックは、クラインがエリア1に侵入したタイミングでちょうどやってきて着地した。

 

先程まで遠くから聞こえてきた彼の鳴き声が近付いているのは気がついていたが、こうもすぐに遭遇するとは思わなかった。

 

クラインは一旦、木々に息を潜めてイャンクックの動きを見る。

 

着陸するやいなや、口から火炎を撒き散らし、威嚇行動を行っている。

 

着陸して間もないタイミングを外的に襲われないようにするための一種の防衛手段なのかもしれない。

 

イャンクックの攻撃手段は、特徴的な嘴によるついばみと、その嘴から放たれる火炎液と呼ばれる発火性の液体を吐きかけ攻撃を行う。

 

注意すべきはその火炎液で、触れればやけどは免れないと、マハトから聞いていた。

 

噂通りのイャンクックは辺りに火炎液を撒き散らし、辺りの草木を焦がしている。

 

周りにはランポスなどの小型モンスターが数頭見られ、イャンクックは彼らに対して威嚇行動をしているようだ。

 

ワイバーンの中では比較的小さい部類に入るものの、縄張り意識は強いようで、小型のモンスターに対しては敵意を出すようだった。

 

それは人間であるクラインも変わりは無いだろう。眼の前に飛び出せば一触即発。

 

すぐさまその敵意はクラインにもくけられるはずだ。

 

クラインの狩りはモンスターの同行を観察し、攻撃パターンや癖を付いて攻撃を加えて行く手法だ。

 

村で一緒に狩りをしているマハトはそれとは逆で、果敢に攻め込み怯みなどで体勢を崩したところに、大剣の重い一撃を食らわせていく方法だ。

 

ハンターの性格により狩り方は千差万別。

 

「クェェェェ」

 

イャンクックの独特の鳴き声がジャングルの中にこだまする。

 

イャンクックがクラインに背を向けるタイミングでクラインは走り出す。

 

まずは一撃を加えてこちらに存在を気づかせる。臨戦状態時の攻撃パターンは戦い始めなければわからないのだ。

 

尻尾めがけて走りより抜刀しながらジャンプ斬りを敵の背後に加える。

 

ゾリッ

 

ドスランポスを切ったときとは違う感触が刀身から、柄を握るクラインの手に伝わる。

 

一度の切りつけで、ドスランポスの鱗とはまた違った質を伝え、鱗がより密集して別のものになっている。

 

その堅さはまさに甲殻と呼ぶべきもので、十分な切れ味がなければ弾かれるだろう。

 

尻尾の付け根を切りつけて、その斬った部分から若干の血が飛ぶ。

 

しかし対して有効なダメージを与えているとは思えなかった。

 

イャンクックからしたら木でも刺さった程度のダメージだろう。

 

だが、その一撃はイャンクックに自分の存在を知らせるのは十分だった。

 

イャンクックはクラインの方向に身体を向け、身体をのけぞらせる。

 

クラインはこのスキをついてさらに攻撃を食らわせようとする。

 

「グギャアァァァァ!」

 

突如、鼓膜を突き刺す咆哮がクラインの耳を襲い、慌てて耳を塞いだが、そのモンスターの咆哮はクラインの本能的な恐怖を掻き立てるのに十分だった。

 

リオレウスの咆哮を聞いた時と同じ感覚。

 

身体が硬直し、その場から動けなくなっていた。

 

イャンクックが次の動作に移るのを、クラインは両耳を塞いだまま目だけはイャンクックの大きく開けた嘴の中を覗いていた。

 

ーココット村ー

 

「クラインは無事に帰ってこれるかの?」

 

「村長、なに縁起の悪いこと言ってるんだ」

 

村では村長とマハトが話している。

 

クラインを送り出して数日経った。

 

今頃クラインはイャンクックの狩りの途中だろうか。

 

マハトはクラインとイャンクックが戦っている姿を想像し、自分が初めてイャンクックと対峙した時のことを思い出していた。

 

マハトは初の大型飛竜討伐成功まで、かなりの失敗を繰り返していた。

 

今でこそ、勇猛果敢なマハトではあるものの、ハンターに成り立てのころは右も左もわからず、ドスランポスを狩れたことを誇らしげに思い、自分の力を過信していた。

 

しかしそれは結局過信であったと、今思い返しても思う。

 

クラインには言っていないが、3度の敗北を喫して、4度目にしてようやくイャンクック討伐できたというのがマハトの経歴だった。

 

マハト自身、恥ずかしく同業者には誰一人として言っていない。唯一この事実を知っているのは、目の前にいるこの村長か。

 

「お主は何度目で狩猟できたんだったかのう?」

 

「や・・やめてくれ・・!」

 

遠くない過去ではあるが、早く無くしたい過去であった。

 

「マハトお主・・クラインも失敗しろなんて思っておらんじゃろうな?」

 

「まさか・・!そんなわけないだろ」

 

冷や汗が出たような気がするが、マハトは事実そんなことを思ってはいなかった。

 

ある程度ハンターとして経験を積んで、今ですらイャンクックの討伐は油断しなければ難なくこなせる。

 

その他の飛竜ともそれなりに経験もあったのだ。

 

そして何より、マハトはクラインにイャンクック討伐の際のポイントなどを教えていた。

 

有効な道具、罠、行動パターンなど。

 

わかる限りのことはクラインに伝えていた。

 

「そうじゃの。あんなに熱心に教えてやっていたもんなぁ」

 

「俺も成長したってことさ」

 

そう言い、マハトはふとクラインの家の方向に目をやる。

 

幼馴染としてこの村で一緒に育ったクラインとマハト。

 

2人とも親無しという境遇を持ち、お互いがハンターを志していた。

 

似たような2人ではあるが、性格は真反対。

 

マハトは熱血漢でクラインは冷静。物語の主人公なら断然自分だろうと、マハトは思っていた。

 

だが、マハトはクラインの底知れぬナニカを感じ取っていた。

 

普段、冷静でいようとも、あんな巨大なモンスターを前にしたら誰でもビビるものだろう。

 

現に、マハトも初めてイャンクックと対峙したときは心底ビビったものだ。

 

ましてやリオレウスと遭遇した時なんて、無事に逃げ切れるかどうか?という思いが先行し、まともに立ち向かおうなんて思いもしなかった。

 

しかしクラインは違った。苦戦するマハトの前に躍り出て、閃光玉によりリオレウスの動きを封じ、そしてリオレウスに立ち向かった。

 

その時、一瞬ではあるが視界に入ったクラインの姿は歴戦のハンターのそれだった。

 

クラインから恐怖心というものを感じなかったのだ。いや、正確には恐怖はあったのだろう。身体は確かにこわばってはいた。しかしそれ以上に、クラインを突き動かしていたものは違った。

 

「クラインはハンターを好奇心でやっておる」

 

ふいについた村長の言葉に、マハトは?と眉間にシワを寄せる。

 

「やつは力や名声欲しさにハンターをやっているわけではないんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「世界を知りたいんじゃと思う」

 

「世界・・?」

 

聞き慣れた、しかし耳に馴染まない言葉にマハトは困惑する。

 

そう言えばクラインのハンターの動機を聞いたとき「父さんや母さんがやっていたから」としか聞いたことがない。

 

マハトがハンターを目指したのは、商人をやっていた両親がモンスターに殺されたからだ。

 

そこからモンスターを倒せる力が必要だと思ったから。単純だった。

 

クラインもそんな理由だと思っていた。

 

「この世界はとにかく広い。そしてわし達が知らないこともたくさんある。本来クラインはハンターとしては不向きなんじゃよ」

 

「それじゃあ村長はなんであいつにハンターをやらせたんだ」

 

「わしはハンターのことしか教えられん。それにこの村はハンターのために建てた村じゃ。自分の村の子がハンターになりたいと言っていたら、ハンターをやらしてあげるのが道理じゃ」

 

「この村長は・・」

 

ハンターに向かない。村長の言った言葉を反芻させ、マハトはここ最近一緒に狩りに行った時のクラインの様子を思い浮かべていた。

 

ージャングル エリア3ー

 

草木が焼け焦げた臭いが鼻孔をつく。

 

焼けた臭いの中に生物独特の形容し難い臭いも混ざり、気分が悪くなりそうだった。

 

マハトが教えてくれた情報によるとあの火炎液は体内の火炎袋という器官で作られ、吐き出されるらしい。

 

しかしその火炎袋の中身は液体ではなく粉塵が詰まっており、おそらくそれを口内で唾液と混合させることで、あの火炎液を作っているのだろう。

 

この生物臭はイャンクックの唾液なのだろうか。

 

クラインは攻めきれずに一定の距離を取り確実に攻撃を加えられるタイミングで一撃を加え、距離を取る。

 

そうやって地道に敵の体力を削っていた。これがクラインの狩りの仕方だった。

 

クラインには狩りの師匠というものはいない。強いて言うなら村長になるのだろうが、彼から聞いてたのはハンターの心得のようなもので、実践的なことではない。

 

最近村に帰ってきたマハトと一緒に狩りに出るようになり、自分との狩りの違いを知ったくらいだった。

 

「オレとマハトの違い・・」

 

ダメージは与えている。だが、これほど巨大なモンスターに一体どれほどこれと同じように攻撃を食らわせればいいのだろう。

 

ヒット&アウェイの境地。確実に安全なスキでないと攻撃はしないこの方法だと、その名の通り防戦一方だった。

 

イャンクックは次の攻撃に備え、姿勢を構えている。この姿勢は突進だ。嘴を大きく開け、その巨体を思いっきりこちらに突進させてくる。

 

一見間抜けな姿ではあるが、あの巨体に巻き込まれたらひとたまりも無いだろう。

 

その威力はイャンクックが突進後、倒れ込んだ地面の様子を見て一目瞭然だった。土はえぐれ、立ち上がる際に力んだであろう足の跡が残っている。

 

これだけ距離があいていれば避けるのは簡単だ。だがその後、攻撃を入れるかどうかで迷う。

 

スキを狙って攻撃を与えるのは真っ当な狩猟法ではあるが、クラインの場合はより深く考えすぎて攻撃ができずにいた。慎重になりすぎるがゆえに守りに徹する。

 

自分は傷つかないが、相手にもダメージを追わせることができない。そんな状態が続いていた。

 

「行くしかない・・」

 

クラインは頭の中でマハトの姿を思い浮かべて、彼の動きと重ねるようにモンスターに斬りかかる。

 

モンスターにできる僅かなスキ。それはほんの数秒ではあるが、その数秒は確実に相手を追い詰めている。

 

瞬間、クラインは走り出しイャンクックの右横に入りこむ。尻尾の位置に陣取ると、ほぼ確実に尻尾回しがやってきて当たる可能性がある。

 

イャンクックの死角に入り込んだクラインを追い払おうと、イャンクックはその大きな巨体を構えて尻尾を振る体制を構えている。

 

それを確認したクラインは横に転がり、尻尾の攻撃範囲かた脱出した。次の瞬間には元々クラインがいた場所に尻尾が飛んできて、空を切る尻尾の音が響く。

 

そのスキを狙ってクラインは抜刀しながらイャンクックに飛びかかった。

 

イャンクックの右足後方を切りつけ、抜刀しながら振り下ろした剣を振り上げて2撃目を加える。

 

その瞬間、イャンクックが大きく体勢を崩して地面に転倒した。

 

この瞬間を狙ってクラインはさらに追撃を加えるべく、頭の方に向けて2撃3撃と攻撃を加える。

 

今まで一番の有効的な攻撃だろう。

 

色々な種族がいるが共通して弱点は頭部だった。

 

体を切りつけていたときよりも、剣先から伝わる感触は非常に柔らかく、飛び出す血飛沫もより多く見える。

 

イャンクックの頭部の大半を占める大きな嘴を切りつけて、傷が入っていく。

 

ある程度切りつけたところで、イャンクックは体制を立て直して、クラインの攻撃もお構いなしに立ち上がった。

 

クラインは距離を取り、イャンクックの次の動きを観察しようとした。

 

嘴からは体内で燃えたであろう炎が漏れている。

 

ゆっくりと脚を立てて、頭をフルフルっと降ってゆっくりと動くイャンクック。

 

クラインを確かに視界に入れて次に大きな咆哮を上げた。

 

「グギァァァァァ!」

 

ジャングル一帯に響き渡る大きな方向に、回避をすることを忘れていたクラインは思わず耳を塞いで硬直する。

 

そして次の瞬間には脚を蹴り出してイャンクックがクラインに突進をしてきた。

 

ギリギリ硬直を脱したクラインは横っ飛びに回避して、ズザーッと地面を滑る。

 

違和感をすぐに覚えたクラインは、次にイャンクックを視界に収めたときに、ドカッという鈍い音を聞いていた。

 

衝撃が体のあちこちから感じて、気がついたときにはジャングルの地面を見ていた。

 

クラインが覚えた違和感。

 

突進から次の突進までの間隔があまりに短い。

 

通常ですら突進後はその2本の脚では巨体を抑えきれずに地面を滑りながら停止するのだが、そのスピードすら上がっている。

 

《怒り状態》

 

モンスターは生命の危機に陥ると、怒り状態になり攻撃力や俊敏性があがるとマハトが教えてくれた。

 

モンスターと言えどもある程度の理性は備えているものの、人間のそれにはおよそ届かない。

 

しかし、一度このタガを外してしまうと、モンスターの凶暴性は一気に上る。

 

通常状態と同じ感覚で戦っていると、やられるぞ。とマハトが注意していたが、言ったとおりになっていた。

 

クラインが頭で次の行動を読もうと考えている間に、イャンクックは次の攻撃を仕掛けてくる。

 

結局防戦一方になってしまったクラインは、敵の攻撃をやり過ごすので手一杯になっていた。

 

盾でガードするも仰け反り、大きく回避をしようとしても立ち上がる前に次の攻撃がやってくる。

 

攻撃を紙一重でかわしながら、消耗するしかないクラインは、無限とも思われる時間を感じていた。

 

ーココット村ー

 

「あいつは頭の回転が早かった」

 

そういったマハトは、ここ何ヶ月か一緒に狩りに行ったクラインを思い返していた。

 

「リオレウスと対峙したときもそうだった。少しだけみたリオレウスの動きを分析して次の攻撃を予想して閃光玉を当てて相手を撹乱させていたんだ」

 

手数で相手をひるませるマハトのやり方とは真逆で、攻撃のスキを付いてこちらが攻撃していくヒット&アウェイ方式のクライン。

 

マハトはクラインから学ぶ部分も多々あったことを振り返る。

 

「ハンターにもいろいろいるがの、奴の場合はまた特殊じゃ」

 

普通は血の気の多い者がほとんどじゃからの〜。村長はそうつぶやいた。

 

そうだ。ハンターという職業は基本的に血の気の多い者がなることが多い。マハトもその一人だ。

 

男としての習性だろうか。巨大なモンスターを狩る自分を夢見てハンターを志すことが多い。

 

そんな中、クラインのようなハンターは稀と言える。

 

クラインがハンターになるきっかけに、少なからず両親のこともあるだろうが、復讐心に駆られてハンターになったようには見えない。

 

クラインはモンスターの習性を調べるのに余念が無かった。

 

リオレウスがなぜ火を吐くのか。ランポスの集団がなぜボスを筆頭に纏まりができるのか。

 

それらに対して疑問を抱くのがクラインだった。

 

と言ってもこれら知識が全く意味の無いものということもなく、それら知識が狩りに役立っている場面も多々あった。

 

「王立古生物書士隊が出しているモンスター図鑑も熱心に読んでるみたいだしな」

 

王立古生物書士隊とはモンスターを研究している組織のことで、現在判明しているモンスターの情報は彼らの研究の末わかっていることがほとんどだ。

 

それらモンスターの情報をわかり易くまとめたものが、ハンター向けに販売されているモンスター図鑑というもの。

 

これらには現在確認されているモンスターの生態などが事細かに描かれ、それからモンスター討伐のヒントにもできる。

 

一般的にハンター達がモンスターごとに行っている戦略はこれらモンスター図鑑を元にしている部分がほとんどだ。

 

「それは読んだほうがいいじゃろう。わしの時代にはそんなものも無かったからの・・」

 

それもそうだ。とマハトは腑に落ちたが、あんなものを読もうとも思わない。

 

そもそも、基本的なモンスターの対処法は図鑑を読まなくても、立ち回りの基本としてハンター間で勝手に伝わっている。

 

いうなればクラインは単純にモンスターに対する興味でハンターをやっているように思えた。

 

「それが悪いってわけではないがの。ハンターというものは人それぞれ千差万別じゃ」

 

村長はココット村の南東に立つ大きな木を見て呟いた。

 

もう少し暖かくなったら綺麗な桜が咲き、ココット村をより一層彩る景色の一部となる。

 

「いろんなハンターがいたほうが面白い。わしはそう考えてこの村を作ったんじゃ」

 

一際大きな木の根元には、かつて村長が使っていたと言われている《ヒーローブレイド》という片手剣が台座に突き刺さっている。

 

さながら英雄の剣という佇まいで置かれているその剣。しかし、長年手入れしていないせいか、少しばかり当時の輝きは失っているようだった。

 

いつか自分以上に使いこなしてくれるハンターが現れるだろうと願って、村長はその木の根元に台座を用意して突き刺したのだ。

 

次世代の英雄を育てるために。

 

ージャングル エリア2ー

 

ジャングルのエリア2はより一層木々が生い茂っているのは他のエリアとも変らないが、到るところに顔をもした石像や巨大な石塔などが建てられている。

 

一体誰がいつどんな目的でそれらが建てられたのか、様々な建造物がそこかしこに広がっている。

 

これも古代文明の名残なのだろうか。

 

こういった建造物が存在するということで過去に文明があったことがわかる。

 

そこに桃色の体色を持った巨大な飛竜が舞い降りる。

 

これら建造物が作られた時代には飛竜という存在はいたのだろうか。

 

イャンクックを狩ろうとこの場で戦っていた者はいたのだろうか。

 

そんな中、降りてくるイャンクックめがけて、クラインは閃光玉を投げつけた。瞬間、辺りが閃光に包まれてイャンクックの声がジャングルにこだまする。

 

大きな地鳴りが、イャンクックを地面に落としたことを伝えて、慣れてきた目を辺りに向けてイャンクックを確認する。

 

イャンクックは目をつむり地面寝転がりながら脚をバタバタとさせている。

 

そこにめがけてクラインは片手剣を振り下ろしていく。

 

気がつけばイャンクックの耳はボロボロになり耳の破壊が出来ているようだった。

 

どこかに素材が落ちているだろうか?

 

あとで拾おうにも今は狩りに集中していなければならない。ましてやこの巨大なモンスターを前に油断などできない。

 

先のエリアでは怒り状態のイャンクックの攻撃をギリギリのところで避けて、追い込まれさえもしていた。

 

エリア移動をしたイャンクックを追う形でこのエリア2にやってきたが、あの怒り状態をみるになるだけ相手にスキを作らせないようにしなければ、あっという間にこちらがやられてしまうのも容易に想像できた。

 

正直、あの怒り状態ではまともに攻撃できないことを悟ったクラインは、閃光玉や罠、タイミング次第では爆弾なども使っていこうと、戦略を立てていた。

 

尤も、それらがクラインの思い通りになるとも思えないが。

 

イャンクックの視界が戻ってきたのか、体制を立て直しクラインに顔を向けて威嚇行動をしている。口の端からは炎が漏れて怒り状態に移ったことを伝える。

 

大きく仰け反り、イャンクックの咆哮が再度クラインの鼓膜を突き刺す。

 

「ぐぎゃああああぁぁぁあ!」

 

何度聞いてもこの咆哮には慣れない。人間が持つ根源的恐怖心を刺激するように、身体が硬直してしまう。

 

モンスターの咆哮はハンターで言うところの閃光玉と同等か。

 

次の瞬間にはイャンクックはその巨体をクラインに突進させてきていた。

 

とっさに横に避ける。

 

先程と同じ動き担ってしまったが、基本的なこの立ち回りになってしまうだろう。

 

怒り状態のときは、はっきり言って攻撃するスキが無い。

 

いっそのことベースキャンプに戻って怒りが収まるのを待ったほうがいいか?

 

そう思うも、この状態のイャンクックから逃げ切れるとも思えない。

 

イャンクックに背を向けるということが、どれほど恐ろしいことか、クラインは理解していた。

 

地面に身体を擦り付けながら突進を止めるイャンクックが、次に攻撃を開始するまでに約1秒ほど。

 

まったく攻撃を与えるスキを与えられない。

 

『もう一発閃光玉を当てるか?』

 

そう思ったものの、怒り状態のスピードに合わせて閃光玉を当てることはできるのか?

 

そもそも避けるので精一杯な状態で、閃光玉を投げる時間があるかも危うかった。

 

『こうなったら・・・』

 

マハトの姿を思い浮かべたクラインは、武器を抜刀状態にし、盾を構えた。

 

『マハトは相手の攻撃を受け流して攻撃のチャンスにしていた・・・』

 

ここ数ヶ月、共に狩りに出たマハトの姿を思い浮かべて、彼の立ち回りを思い出していた。

 

マハトは常に攻撃を与えて、相手をひるませる戦法を得意とする。

 

力押しとでもいう無謀な戦法だと思ったものの、彼は本能的に効率的な狩りの仕方を見出していたのだろう。

 

攻撃を避けるときは、どうしても武器を納刀状態にしないと行けない。

 

武器の出し入れに取られる時間というものは、狩りの場においては無駄な時間だ。

 

それを省いたのが敵の攻撃をやり過ごして行うガード後の攻撃。

 

敵の攻撃を盾で受け流して、すぐさま攻撃へ転じる。

 

マハトの使う大剣は、その巨体ゆえ前方に構えれば盾としても使うことができる。

 

もちろん、武器に負担はかかるものの大剣によるガードはなかなか有効だった。

 

それを真似てみる。

 

クラインが使う片手剣という武器は剣と盾がセットになった武器で、攻守ともにバランスのいい武器となっている。

 

初心者ハンターが最初の使う武器としてよく選ばれ、クラインも例外では無かった。

 

ほとんどのハンターがある程度狩りに慣れてから他の武器を使い始めるが、クラインは片手剣を使い続けていた。

 

理由はその扱いやすさだろう。

 

盾のよる防御も、剣による攻撃も全てが軽くて機動性に優れていた。

 

マハトのような大剣は一撃が重い代わりに機動性に欠ける。

 

対してクラインは狩りはなるだけ動きやすい格好でモンスターを観察できるように片手剣を好んで使っている。

 

敵が攻撃を始めたタイミングで盾を構えて攻撃を待っていた。

 

巨体を猛ダッシュで突進させる攻撃。

 

目の前で攻撃を受けるというのはとてつもなく怖い。しかし、これを乗り越えなければ行けないような気がした。

 

グガン!!

 

鈍い重い音と共に、盾を構えた腕に衝撃が走る。

 

ガードと言っても全身で突進を受け止めているのには変わりなく、若干のダメージは追ったものの、敵の僅かな攻撃のスキを確実についていける。

 

クラインのすぐ後方に倒れ込んだイャンクックを確認して、そのまま飛んで斬りつける。

 

剣を握る腕を無心に振り回し、独特な鱗を斬りつける感覚を認める。

 

右足に横一閃の剣戟を与えた時、ちょうど立ち上がったイャンクックを転倒させた。

 

そのままクラインの眼前で倒れたイャンクックの頭が目の前にある。

 

鳥類独特の無表情で不気味な顔が目の前に現れた。

 

「うわぁぁぁぁぁあああ!!」

 

クラインの咆哮は恐怖か、自分を鼓舞するための叫びか。

 

切りつけているうちに「クエェェ・・」と弱々しい声を上げたかと思うと、イャンクックは動かなくなった。

 

徐々に剣を振る速度を落として、イャンクックの姿を確認する。

 

目を開けたまま、さっきまであった覇気がなくなっているようだった。

 

「たお・・した・・・?」

 

絶命したのだろうか。微塵も動かなくなったイャンクックを認めるとクラインは内からふつふつと何かが湧き上がってくる。

 

「やったぁぁぁぁ!!」

 

これだけ感情を顕にしたのはいつぶりだろうか?

 

戦っているうちは恐怖心半分の状態で戦っていて、なんとか攻撃をやり過ごすのに手一杯だった。

 

そして最後に出てきたのは歓喜の声だった。

 

始めて自分ひとりだけで大型モンスターを喜び、達成感。

 

マハトが言っていたのはこれだろうか?

 

ドスランポスを倒したときには感じれなかった喜びの感情。

 

巨大なモンスターを狩ることができるという人間の力。

 

ふとクラインは亡くなった両親のことを思い出していた。

 

ーココット村ー

 

「1週間経ったな・・」

 

「フォッフォッフォ。毎日その調子じゃが、心配かの?」

 

マハトはまだ村にいた。

 

クラインがイャンクック討伐出かけた日に同時に森と丘に狩りに出かけたマハトだったが、その依頼から帰ってきてからというもの、ずっと狩りに出ずに村にいたのだ。

 

理由はもちろんクラインだ。

 

「なんならメタペタットに行ってみてはどうじゃ?」

 

「もう1週間だから帰ってくるとしたらそろそろだろ?」

 

「帰ってくるのが不安ならお前さんも一緒に行ったら良かったのに」

 

そう、ただクラインの実力が不安であれば、いつも通り一緒に狩りに付いて行けばいい。

 

しかし、今回だけは違った。

 

「違うよ村長」

 

そう言い、マハトは次の言葉を口に出そうとした瞬間

 

「クラインが帰ってきたぞ〜〜!」

 

村の入り口にいる村人がそう叫び、マハトは言葉を飲み込んでとっさに村の入口に駆け出した。

 

「やれやれ、まったくわからんのぉ」

 

マハトは遠目からでもわかった。クラインの手に握られた麻袋が狩りの成功を証拠付けるものだと。

 

あれはギルドから支給される報酬品を入れるための麻袋だったからだ。

 

猛ダッシュで駆け寄ってくるマハトを見て、クラインは照れくさそうに手を振った。

 

幼馴染としてずっと一緒にいたクライン。

 

マハトは1年先にハンターになって先輩面をしていたが、これでやっと対等か。それとも共に競い合うライバルの誕生としての喜びか。

 

そのどちらでもない。

 

一人の親友の確かな成長を、誰よりも先に祝ってやりたかった。

 

イャンクックたった1頭の狩猟。

 

ベテランハンターになればなるほどそう言う奴がいるかもしれない。

 

しかし、自分達駆け出しハンターにとっては確かな一歩だったのだ。

 

クラインの元までやってきたマハトは、拳を前に突き出す。

 

クラインも照れ笑いを正して、精悍な顔で拳を突き出した。

 

ココット村に生える巨大な木がそよそよと風に吹いて流れる。巨木の下にある岩にささった一本の剣が綺麗に光っていた。


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