名前:クライン・クルーガー 17歳
武器:ポイズンタバルジン
防具:イーオスシリーズ
名前:マハト・アルペンハイム 18歳
武器:ブレイズブレイド改
防具:クックシリーズ
ココット村には約10名ほどのハンターが在籍している。クライン達よりも経歴が長いハンターもいるが、これと言った成果を上げているわけではない。ハンターという職業は年功序列ではなく、完全な実力主義である。長くハンターをやっているからと言って、必ずしもハンターとしての実力が上がるというわけでもない。
現に、クライン達よりもはるか年上で、ハンター歴が10年以上になるハンターもココット村に存在する。しかし彼らの活躍はたまに森丘に依頼するイャンクックを複数人で狩れる程度の実力である。とはいえ、彼らがハンターとして劣っているわけではない。通常であれば、大型飛竜との対峙はイャンクックなどの危険度が1程度の飛竜ばかりである。そもそも、危険度の高いモンスターほど目撃数も少ないうえに、順当に上のランクのハンターに依頼が回る。下手に低ランクのハンターに依頼をしてしまうと、ハンターの死亡率も増え、危険なためギルドの判断により依頼の割り振りは徹底的に管理されていた。
それゆえに、様々な飛竜の討伐依頼が舞い込んでくるのは、名誉であるともいえる。
現在、ココット村にはミナガルデギルドよりアルコリス地方の森丘、メタペ湿密林、デデ砂漠、ジォ・テラード湿地帯の依頼が届くようになった。様々な狩猟地での依頼が可能なほど、実力のあるハンターとして認められている証拠でもある。
昔ココット村に在籍していた《紅翠の双星》と呼ばれる2人のハンターがいたころには、ミナガルデギルドが管轄するすべての狩猟地への依頼が舞い込んできていた。出張所への依頼内容は、在籍しているハンターによって大きく変わる。
現在では、その筆頭となっているのがクラインとマハトであった。そんな2人は、現在ふたたびジォ・テラード湿地帯へと足を運んでいる。以前のゲリョス捕獲に続いて2度目となる沼地での依頼であった。
ーエリア11ー
青白く発行する水晶が、洞窟内を微かに照らしていた。洞窟内は冷気が籠っており《ホットドリンク》が無ければ、すぐにスタミナを持っていかれるほど、凍てついている。夜の砂漠のような気温であるが、こういった環境でも必要に応じてハンターは活動をしなければならない。静寂に包まれた洞窟内に、ひと際大きな風切り音と不気味な生物の鳴き声がこだまする。
「きた…あれがフルフル…。」
真っ白な体色を持つ大型飛竜を目の前に、クラインは驚愕していた。大型の対となる翼と2本の脚を持つワイバーンに分類されるモンスターである。ワイバーン種こと飛竜は特段珍しい種族ではない。体長は飛竜種の中では比較的小柄な方で、全長が10mを超えるような種は未だに発見されていない。ゲリョス、リオレウスなどと同じ種族である。しかしフルフルの生態は非常に特殊であった。
全身を粘液を纏った白いブヨブヨした質感の皮膚に覆われており、飛竜種によく見られる鱗や甲殻を持たない。さらに驚きなのが目が退化し、完全に塞がっていることである。つまり視力を持たないのだ。だが、それでも生物として一定の生態系を為し、モンスターとして脅威を秘めているのだから、驚きである。
クラインは、フルフルの狩猟依頼の前に、調べられるだけの情報を集めていた。このルーティンは今まで通りである。これまでの大型モンスターの情報も一通り調べてきたクラインだったが、フルフルは特にその生態に興味を惹かれた。
視力を失うことは、生物として致命的なことであろうと思う。なぜ陸上で生活する生物であるフルフルが視力を失うことになったのかという疑問もあった。しかし、そんな種が今でも生存し、人類に対して脅威とされているのだから、フルフルが持つ驚異的な生命力が伺いしれる。
モンスターの生態を調べ、実際に目で確認すると、感心することがたくさんあった。クラインがハンターとしての魅力を語るなら、そういった生物の生態を垣間見えるところだろう。生態を理解していることで、狩猟の役に立つことも多分にある。
クラインは、依頼前に仕入れてきたフルフルの情報を思い起こす。洞窟内にやってきたフルフルの姿を確認し、体を微動だにせずその様子を見守る。顔を静かに動かし、少し離れた位置にいるマハトにアイコンタクトを送る。
今回の狩猟も例のごとくマハトとのタッグである。前回、沼地に来た際には、ココット村にやってきたばかりの新米ハンターであるマルクスとティモの2人を連れてきていた。流石に今回ばかりは飛竜がメインの依頼のため、同行はできない。マハトと2人の狩りは、ここ数年でかなり連携が極まっている。初見の飛竜でもある程度までは戦えるはずだ。
まずは相手の動きを伺うために、静観することにしていた。
フルフルは盲目のモンスターである。視力が失われているため、聴覚や嗅覚なで敵の位置などを判断しているとクラインは想定していた。最も有力な線は聴覚であるとも考えていた。その理由は、フルフルの主な生息圏内である。ミナガルデギルドの狩猟地内に出現するフルフルは主に沼地や密林の洞窟に現れる。洞窟内は比較的静かで、少しの音でも反響する。そういった周りの環境も利用している可能性は多いにあった。
そこで、クラインとマハトは一度、静観し奇襲をかけることにした。聴覚で判断している以上、敵が近づくのをギリギリまで待ち、近づいたところで一気に攻撃を加える。敵がクラインとマハトの間に来たところで左右から攻撃を仕掛けるというもの。
間には罠も設置して、初手の動きとしては十分である。狩りの出だしは非常に大事で、最初にどれだけ敵を弱らせるかが、終盤の狩りにも影響してくる。罠や環境の有効利用はハンターの定石とも言えた。
クラインは静かに呼吸を整え、洞窟に侵入してきたフルフルを見つめる。フルフルが入ってきた洞窟の入り口は、クライン達が洞窟に入った場所とは異なり、洞窟の奥にある。洞窟の上層部と繋がっており、飛竜は主にこの経路を使って洞窟内に入ってくる。
崖が高く、その上洞窟内の結露によって壁を伝うのが難しく、それより先の侵入がハンター達にとっては厳しくなっている。その奥にも洞窟に繋がっており、基本的に侵入ができなくなっている。ギルドが定めるエリア区分でも、その一帯はエリアの番号が振られておらず、秘境という扱いになっている。フルフルはおそらくそのエリアを巣としているという見解が出ている。
フルフルは洞窟の入り口に降り立つ。移動のたびにフルフルの特徴的な声が漏れ、それを聞いて鳥肌が立つ。フルフルの鳴き声は根本的に生物のそれとは異なる声をしている。洞窟の反響がそれをより際立たせた。
フルフルはクライン達が待ち構える方に歩いてくる。ノシノシと、その体重の重さで洞窟の床の面を這う水に波紋を生ませる。
少しずつ近づくフルフルの姿を見て、クラインはゆっくりとした動作で腰に収まる《ポイズンタバルジン》の柄を握る。マハトもフルフルの接近に合わせ、背中にかけた《ブレイズブレイド改》の柄を握る。
落とし穴はクラインとマハトの中間位置にあり、この罠へかかるのを待った。フルフルは長い首を伸ばし、頭を床ギリギリに寄せながら移動している。その姿は辺りの匂いをしきりに嗅いでいるように見えた。ここでクラインは一つ判断ミスをしたことに気が付く。
視覚が無い以上、フルフルはその他の感覚で獲物の位置を判断しているものと考えていた。その予想は概ね正しい。しかし、その感覚を聴覚のみに断定していたことが裏目に出たと気が付く。
フルフルは直後、クライン目掛けて首を伸ばした。
「まずい…!」
異常な動きに気が付いたクラインは、剣を抜くことすらかなわらず、フルフルの伸縮する首をすれすれで躱すために、横に飛ぶ。
クラインの横をフルフルの不気味な顔が横切り、無いはずの目と目が合ったような感覚に陥る。クラインはフルフルの首の動きに注視しながら、回避してすぐさま盾を構える。相手の動きが分からない以上、即防御態勢に移ることを意識した動きだ。
フルフルは伸ばした首を戻し、クラインの方向を向いている。すぐにウネウネと首を振り出す。直後、耳を劈くフルフルの咆哮が響き渡る。人の叫び声にも似た咆哮。これまでに対峙した飛竜種とも異なる咆哮が、クラインとマハトの身体を硬直させる。
洞窟に響き渡ることで、より一層音量が増し、根源的な恐怖を抱き、全身に鳥肌が沸き立つ。両手は耳を抑えるのに塞がられてしまい、目だけでフルフルの動向を追った。
咆哮が止むとフルフルは1歩、2歩と前進する。
視覚が無い分、音などで敵の位置を探るのだろうとクラインは考えていた。しかし、先のフルフルの動きは音に反応してクラインを狙うような動きではなかった。そもそも、クラインは音を出さないよう最善の注意を払っていた。防具が擦れる微かな音でも判断したのだろうかとも考えたが、クラインは別の理由も考えていた。
「マハト…!こいつもしかしたら、匂いで敵の位置を把握してるのかも!」
「匂い!?」
音を立てずに襲われたことから、考えられるのは嗅覚による探知と仮定した。だが、それでもやや疑問は残る。距離感を正確に測れるほどの嗅覚というのは生物が持てるのだろうかという疑問。
先ほどの攻撃は、正確にクラインの場所を把握していた。仮に嗅覚で敵の位置を把握していたとして、匂いというものは空気中に分散し多少の強弱はわかるものの、あそこまで正確に位置を把握できるのかと疑う。
「わからないけどね!とにかく罠はまだある!まずは罠に掛けよう!」
「了解!」
クラインは考えるのを止め、フルフルとの戦闘に注意を向ける。生態の理解は狩りを有利に進めることができる一方、不明確な生態の考察は、狩りの途中では命とりとなる。そもそも、ハンターの仕事は研究ではない。モンスターの狩猟だ。臨機応変に対応することがハンターに求められる立ち回りと言える。知りうる限りの生態を元に、狩りに挑む。それがハンターの立ち回りでもあった。
フルフルは不気味な声を発しながら、じりじりとクラインの方に近寄る。やはり、位置関係は把握できているようだった。フルフルは白い長く伸びた首の先端に顔がある。顔と言えど、通常の飛竜のように目や嘴といった器官があるわけではない。長く伸びた首の先端に大きな口が見え、閉じていると首だけに見え、それがこのモンスターの不気味さに繋がっている。
「でも視覚が無いことには変わりないんだろ!だったら少しくらい強気で攻めても大丈夫だろ!」
「あ!おい!マハト!迂闊に近づくなって!」
クラインの方を向いていたフルフルに向かって、マハトは駆け寄る。大剣の射程圏内に入ったところで、抜刀する。持ち手の部分を引っ張ると、複数の金属製の鉤爪が顕になる。マハトの扱う大剣《ブレイズブレイド改》は特殊で、この鉤爪による攻撃が主体になっている。斬るよりも抉ることに特化した武器だ。そのため、モンスターに与えられる傷も複雑でフルフルのように肉質が比較的柔らかいモンスターに対しては、威力は絶大となる。
マハトの振り下ろした剣がフルフルの右足の後方部分に当たる。通常の飛竜種であれば、鱗や甲殻をそげ落としながら、その下の皮膚にまで刃が到達する。しかし、フルフルの特殊な粘膜をまとった白くブヨブヨした皮膚では、いつもの攻撃の感触が伝わってこなかった。
鉤爪の刃はフルフルの皮を抉りとるよりも、ブヨブヨした皮に衝撃が吸収され、攻撃の感触が乏しかった。
「なんじゃこりゃあ?」
いつもの勢いで剣を振り下ろそうとしたが、異なる感触に攻撃の勢いが落ちる。以前、戦ったゲリョスのゴム質の皮に攻撃を加えた時も、攻撃の感触の違いに違和感を覚えたが、フルフルもまた、いつもと異なる感触が伝わった。
そのまま皮を引きちぎるつもりで剣を振り下ろし、剣先が地面に着地する。皮の表面にはコーティングされるように粘液のようなものが付着している。それが潤滑油代わりとなり、皮本来への攻撃を軽減していた。
「クライン!こいつの表皮、やたらとヌメヌメするぞ…!」
マハトがクラインに言い放つのと同じタイミングで、フルフルはマハトに顔を向ける。マハトもそれに気が付き、目線をフルフルの顔に向けた。無いはずの目に睨まれているような違和感を抱き、マハトは抜刀したまま、後退する。フルフルは首を少し竦めた後、マハトの方に首を伸ばす。
避けきれず、マハトは大剣の腹をフルフルに向け、首の攻撃をガードする。首を伸縮する勢いと自重で重い一撃が大剣越しに伝わる。目の前に迫るフルフルの赤い口を視野にとらえた。真っ赤な口内が見え、人間に近い歯茎のように見えるが、鋭い牙はモンスターのものであることは間違いない。口に飲まれたら助かることは無いとマハトに感じさせる。
ガードした勢いのまま、後方に下がってフルフルと距離を取る。幸い、それ以上先に首は伸びてくることは無く、追撃することなくフルフルの首は元の長さに戻った。
「やっぱりこいつ、正確に距離把握できてるぞ!?どういうことだ?」
「わからない!視覚以外の何かを頼りにしていることは確かだけど、動きとしてはほとんど、普通の飛竜と変わらないって考えてもいいかも!」
「そうかよ…!」
初見の狩りにおいて、モンスターの事前情報は非常に有用である。反面、事前情報に捉われすぎるばかりに、思うように狩りが進まないことも多いにある。今回は後者。事前情報に踊らされた失敗でもある。
マハトは体制を立て直すために、フルフルに追撃を加えようと近寄った。まずは、仕掛けた罠に嵌めることを第一に動こうとした。最初のこそ、罠の誘導は自発的に行おうと思っての配置だったが、それも失敗に終わってしまった。作戦通りにするため、マハトは自らが囮になり、罠まで誘導しようと考えていた。
だが、フルフルは次なる標的をクラインに向けているようだった。フルフルは身体は、クラインの方向を向いていた。当のクラインは剣を抜いてフルフルと向き合う。
「クライン!俺が気を引く!」
マハトは再び剣を振り下ろそうとした。フルフルは体勢を低くし、翼を地面につける。それに違和感を抱いたが、マハトの剣は止まらない。少しして、フルフルの低いうめき声が聞こえるのと同時に、フルフルの身体全体が、青く発光した。
「なん…!」
振り下ろした剣が、青く発光するフルフルの身体に触れる。同時に、マハトの身体に強烈な電撃が駆け回った。
「マハト!」
フルフルの電撃を身体全体から発生させる攻撃を、マハトはもろに食らってしまう。電撃の衝撃で身体が後方に吹き飛ぶ。
「ガっ…!」
洞窟の湿った地面に転がり、すぐに立ち上がろうとしたが、電撃で痺れ、思うように身体が動かなかった。痺れて感覚が消えかかった手足を無理やり動かして、マハトは手から離れた武器に手を伸ばす。
ぼやける視界の中で、フルフルの背中を見た。青い発光はすでに終わり、フルフルは翼を持ち上げ立ち上がった。
「まずい!マハトが!」
クラインはマハトに注意が向かないよう、攻撃後の隙を狙って斬撃を与える。マハトが言ったように、フルフルの表皮の感触は今まで戦ったどのモンスターとも違った。意識的には皮を裂くように斬撃を入れたが、想像とは異なり、表面の粘液に刃先が滑り、浅く皮を裂く程度であった。外傷もほぼ見られなかった。
「くそっ!なんだこの切れ味は!?」
フルフルはクラインの攻撃に反応するように首を振って攻撃をする。鞭のようにしなる首による打撃に加え、噛みつきよる攻撃もしてくるので、その攻撃範囲はなかなかに広い。半端に避けてしまうと、振り回す首に辺り、ダメージにつながる。慎重にフルフルの動きを見ながら、攻撃を加えていた。
マハトはその間に、一度距離を取り、回復薬を飲み干す。薬草とアオキノコを調合して作られた回復薬には即効性の疲労回復効果もあり、多少の疲労であれば回復することができる。これにはちみつを加えた回復薬グレードも存在し、そちらは回復薬と比べて回復量は高い。
回復薬を飲み干し、武器を持ち立ち上がる。まだ若干、身体の痺れが残っており、ところどころ感覚に違和感が残る。クラインが戦う姿を見て、おちおち休んでられないと思い、マハトも戦線に復帰した。
マハトが近づくのに気が付いたのか、フルフルは身体の向きを180度回転させ、マハトの方を向いた。
「なに!?」
クラインはそれを見て驚いた。やはり、フルフルには聴覚や嗅覚だけではない、第六感のようなものが備わっているような気がしてならなかった。
「くそっ!」
まだ抜刀もしていない状態でフルフルと向き合うマハト。フルフルは先ほど電撃を体中から発生させたのと同じ体制をとる。翼を地面に着き、姿勢を低くした。
「またくるぞ!マハト!」
「もう大丈夫だ!」
マハトは、一連の発電が終わるまで距離を取っていようと、足を止める。だが、フルフルはさらに首を振り回す動作を始める。姿勢を低くしたまま、長い首を上空に向ける。上空に向けたフルフルの顔から、先ほどと同じ電撃がほとばしる。
「違う…!これは…!」
上げた首を振り下ろし、フルフルの口腔からブレス上の電撃が放たれる。それは地面を伝いフルフルの口から放たれた後に、三方向に分裂した。
さっきとは違う行動に、マハトは一瞬判断が遅れ身体が硬直する。それなりの速度を保ち、迫る電撃の1つを、マハトはギリギリで躱した。
「あぶねぇ…!なんだ今の!?」
マハトはすぐさま起き上がり、大剣の柄を握る。背後にいるクラインは攻撃後の隙を狙ってフルフルに攻撃を加えていた。
未知の攻撃により、マハトはすっかり委縮してしまい、臆病なまでに距離を取る。フルフルが体勢を戻し、クラインに向き直ったのを確認し、背後からの攻撃を試みるマハト。
振り下ろす剣がフルフルのちょうど尻尾に触れる。
ーーーガキンッ!!
尻尾を直撃した剣が弾かれる。
「硬っ…!?」
クラインへの攻撃を続ける中、フルフルは再び翼を地面につけて、放電の体勢に入る。その時、尻尾は地面についていた。さながらアースのような役割をしているのだろうか。フルフルの身体がまたも青く発光しだす。ブレスではなく、身体中から電撃を放つ攻撃だろう。マハトは大剣をしまい距離を取り、クラインも後方にジャンプで下がる。
次の瞬間にはフルフルは全身から電撃を放出する。漏れ出る電流が洞窟の床に薄く張った水を伝うような気がして、クラインはまた一歩下がる。後ろに下げた足が何か触れ、カサッと音を立てるのを聞き、クラインは足元を見る。そこには、仕掛けていた落とし穴のネットに触れていた。気づかぬうちに、罠からかなり距離が離れていたようだ。
「マハト!罠はこっちだ!こっちに誘導しよう!」
「おう!」
反対にいたマハトに声を掛け、誘導を促す。フルフルの放電が終わり、姿勢を上げるのを確認したと同時に、横を抜けクラインの元へ向かうマハト。クラインの背後には罠が見えた。
フルフルは起き上がり、再び低く体勢を屈むのが見えた。電撃を伴う攻撃の際に見せる挙動だった。今は十分に距離が開いている。
「ブレスか!?」
マハトがクラインの元にたどり着いて、ブレスを避けるために身構える。フルフルの電撃ブレスは地面を伝って三方向に分かれていた。初動で見切れば避けるのは容易い。だが、フルフルは姿勢を低く、屈伸の要領で大きく跳躍した。
「!!」
幸い、攻撃を避ける態勢を取っていたため、フルフルの跳躍に被弾することは無かったが、まだ知らない動作があると一瞬だが身体が硬直してしまう。
行動パターンをある程度、把握しておけば考える前に身体が動く。しかし、まだ十分に慣れていないモンスターだと、身構え動きに遅れが出てしまう。
フルフルはやはり正確に、クライン達が居た場所に着地した。フルフルがどうやって位置を把握しているのかなどを考える余裕はクラインにはなかった。今はただ、そういうものだと理解して、目の前のことに臨機応変に対応する。
跳躍したことで、フルフルとクライン達の位置関係が変わる。フルフルは罠に近づいていた。
「よし…!いいぞ、このまま罠まで誘導しちまおう。」
跳躍後の隙を逃さないよう、マハトはすぐに攻撃を仕掛ける。モンスターの弱点は基本、頭部である。だが、初見のモンスター相手に頭部を狙うの、かなりリスキーである。
マハトとクラインはフルフルの背中や足を中心に攻撃を加える。幾度かの攻防でフルフルの独特の表皮の質感にも慣れてきている。ただ、的確にダメージを出せているかは微妙なところだと思った。
フルフルがクライン達の方に向く。相手の動きに合わせて、一時離脱し、二人は武器を構え、次の攻撃を見る。直後、フルフルの大きな咆哮が洞窟中に響き渡る。クライン達は耐え切れずに耳を塞いだ。
「怒ったか!?」
手を耳で塞いでも入ってくる、フルフルの不気味で大きな鳴き声に、本能的に身体が硬直してしまう。
フルフルの咆哮が終わってほんの数秒でもクライン達の身体の硬直は解けなかった。
唯一動く目だけ、フルフルから離さずに、その動向を見守る。フルフルの口から白い息が漏れている。興奮し体温が高まることで、あふれ出る息が暖かくなっているのだろうか。洞窟の冷えた空間では、それが特に見えた。
クライン達が硬直から解ける前に、フルフルの白い吐息が青白い電撃に変わる。フルフルの口から漏れだす電撃が見え、硬直から解けた身体を無理やり動かす。
フルフルはクライン達の方を向いて、電撃ブレスを放つ。これを間髪避けてフルフルの側面へ移動し、ブレス直後の隙を狙い攻撃を加える。
怒り状態のモンスターは行動が早くなる特徴がある。怒りにより気がせいているのか、攻撃後の隙も少なくなってしまう。
フルフルはクラインを向いて、前方に向けて噛みつき攻撃を数回行う。クラインは盾で攻撃を受けて、剣で応戦。その間に、マハトは別方向から攻撃を加えた。
「このまま罠まで押し込もう!」
クラインは反対側のマハトに言う。クラインの数歩下がったところに、仕掛けた落とし穴があった。クラインに気が向いている間に、フルフルに攻撃を加えるマハト。クラインはフルフルの攻撃をしのぎながらダメージを与えていく。
跳躍により、罠との距離はかなり近づいた。後は少しづつ追い込むだけだった。
「もう少しだ!マハト!」
「おうよ!」
攻撃の応酬により徐々にフルフルは罠に近づいていく。この落とし穴は、トラップツールという道具とネットを組み合わせて調合できる。トラップツールには使い捨ての用の工具が入っており、素材を用いることで簡単に罠を作成することが可能となっている。
トラップツールの外箱自体も、工具であり、これには特殊な器具が内蔵されている。モンスターを拘束できるほど、深い穴を一瞬で作れるほどの強力な衝撃を放ち、土をなんかさせることで落とし穴を作る。
ネットはカモフラージュ用の蓋であり、組み合わせたネットの色は、その土地に合わせて着色ができる。
落とし穴はモンスターほどの重さでないと作動はせず、人間が乗っても問題は無い。超重量級のモンスターが上を通過することで、落とし穴は作動し、深くまでなんかされた土がモンスターを引きずり込み、粘着性のネットで拘束する仕組みだ。
ネットの粘着性は、長時間モンスターを拘束するほどの効果はない。数秒ほどの拘束であるが、それでも大ダメージを与えるには十分な拘束力を持っている。
じりじりと追い詰め、フルフルの脚が落とし穴を踏む。瞬間的に地面が沈み、地響きが生まれる。軟化した地面に足を取られ、フルフルが地面に沈み込んだ。同時に、蓋の役割をしていたネットが沈み込むフルフルを起点に身体中にまとわりつく。
ジタバタと足掻くフルフルの脚は、軟化した土を掻き、底なし沼にはまったように体を地面に沈める。暴れることでよりネットが身体に絡んでいった。
「今だ!」
クラインとマハトは一斉にとらえられたフルフルに攻撃を加える。地面にあらわになっているフルフルの頭部を付近を斬りつけた。暴れまわることで、より斬撃を広範囲に食らう。時間にして数秒だが、やけに長く感じる。
数秒が過ぎたころ、ネットの拘束が解け、フルフルが思いっきり羽ばたくと、その巨体を穴から持ち上げた。羽ばたきにより、落とし穴によってぬかるんだ泥が飛び散る。
少し位置をずらし着地したフルフルは身体をふるまわせ、もう一度、翼を羽ばたかせると身体を反転させ、天井に張り付く。そのままエリアに入ってきた穴の方へと向かっていった。どうやらエリア移動をするらしい。
「あ、まずい!ペイントボール…!」
「やべっ!急ぐぞ!」
ペイントボールとは、モンスターの位置を把握するために用いるアイテムだ。強力な臭気を放つ《ペイントの実》と《ネンチャク草》を調合して作るアイテムだ。
ペイントの実はどぎつい色と臭気を放つ樹液を持ち、これを利用することで、ある程度エリアが離れていてもモンスターの位置を把握することが可能となっている。
クラインは慌ててペイントボールを投げたが、飛び立つフルフルに当たることはなく、地面に着地したペイントボールが割れ、洞窟内に独特な臭気が充満した。
ーベースキャンプー
一度、休息をはかるため、クライン達はベースキャンプに戻ってきていた。ペイントボールをつけ忘れたことで、フルフルの捜索から始めないといけなく、長期戦になると見越してのことだった。
「嗅覚でも聴覚でもない器官…。だとしたら触覚かな?体を纏う粘液と、電撃を扱う特性上、何かしら特殊な構造はありそうだ。」
クラインは持ち込んでいたモンスター図鑑を眺めながらつぶやいていた。狩猟中に気になっていたフルフルの生態について、何かしらヒントは無いかと、クラインは細かく図鑑を読み漁る。
とはいえ、フルフル自体、そこまで生態が解明されていないため、図鑑には確信的な内容は書かれていなかった。フルフルは古くから観測されているモンスターであるが、《奇怪竜》という別名が付いたのもつい最近のことだった。
「そもそも生物にとって視覚は欠かせない器官のはず。わざわざ視覚を失う理由なんて…。」
「フルフルって洞窟で生活してるんだろ?だったら、必要ないって判断しても自然じゃねぇか?」
「その説は言われているよ。けどね、陸棲でしかも飛竜だよ?洞窟から外にだってでるし、ミナガルデ以外のギルドの管轄では、寒冷地や火山地帯でも姿を現してるんだ。てことは、長距離も移動もしてるってことだ…。だとしたら他に視覚以外で正確に物を知覚できる何かがあるはずなんだ…。」
「おいおい、クライン。狩りにモンスターの生態の理解は大事だって思うけどよ。そんな研究者でもわかっていないところをここでうだうだ言ったって、解決しないだろ?」
「う…、ごめんマハト。これは単なる興味…かな…。」
「お前、ハンターらしくないというか、本来なら学者とかに向いてるよな。」
「あー、それ村長にも言われた。知的好奇心の方が強いから、お前は街に行って学者を目指した方がいいんじゃないか?て。ハンターになりたての頃かな。確か。ランポスの討伐依頼が来た時に、今みたいに念入りに調べたんだよね。」
「村長に言われたわけじゃなかったんだな、それ。てっきり村長の教えかと思ったよ。」
「村長からは相手の生態を知ることも大事だとは言われたけど、単純に調べるのが好きなんだよね。自分でも思うよ、研究者とかもいいかなって。」
「おいおい、自分で思ってんのかよ。それでなんでハンター続けてんだ?」
「前にも言ったろ?僕を育ててくれたのは、あの村の人たちだ。その人たちの生活の助けになるんだったら、なんだってするさ。」
「利他的だな。なんかこうもっと、名を上げるとかさ!なんかないのか?」
「みんながみんな、マハトみたいなハンターばかりじゃないって!それに、ハンターをやりながらでも、知的好奇心ってやつを満たすのは十分さ。」
「そうか…?まあ、お前が一緒にハンターをやってくれてるおかげで、俺も助かってる部分もあるからな。何も、学者になれとは言わないけども。」
「はは!ありがとマハト。」
クラインは図鑑を閉じた。休憩も済み、補給も終わった。フルフルの生態については、謎が残る部分は多いが、それはあくまでクラインの抱く疑問。狩猟において、マイナスになる要素ではなかった。臨機応変に対応するのがハンターの基本だ。狩りの成功率を上げるために、生態への理解は必要。だが、ハンターは現場で、その都度、判断する技術も求められる。
クラインは、事前に情報を調べ上げるリサーチ能力以外にも、その場の判断も瞬時に行える分析力も持ち合わせていた。
「作戦はどうする?」
「基本的な立ち回りは、今までと一緒でいいと思う。特段気を付けるのは、電気による攻撃かな。ブレス攻撃と、体中から電気を発生させる2つが、電気を用いた主な攻撃だと思う。」
「痛いどころじゃないぞ。手足が痺れて、そのあとも、残ったからな…。」
「むしろよく動けたよ。さすがマハトだ。あの電撃攻撃は、幸いで予備動作が大きいからね。いつでも離脱するつもりで攻撃をしていれば、避けるのは難しくないはずだ。」
「ああ、だな。ただ、あのブレスは厄介だったぞ?3つに分裂するやつ。」
「そうだね。あれに関しては、規則的に分裂されているものの、進路が読みづらい。理想としてはブレスを打つ前に、相手の近くに寄ることだけど…。」
「俺らは近接だから、付かず離れずの距離感にはいるから、その点は大丈夫かな。」
「跳躍が気になるね。あれで一気に距離取られることもあると思うんだ。」
先ほどの戦闘でわかる範囲の情報を整理する二人。イャンクックなど複数回、戦闘経験のある相手であれば、ある程度、敵の行動は把握できるが、初見のモンスターは別だ。どういう攻撃をして、どんな動作をするかは、都度現場で確認しないと把握はできない。モンスターの挙動を覚えることは、ハンターとして大事な立ち回りである。
「声掛けと、敵の動向を見失わないようにしよう。」
「おっけ。」
二人は腰を上げ、武器を手に取る。
ーエリア7ー
エリア7は沼地の奥地にある洞窟エリアだ。先ほどのエリア11と同じような洞窟だが、大きな違いはそこで自生している水晶だ。エリア11の水晶は青白い水晶だったのに対し、エリア7には赤い水晶が点在する。
水晶は発する色により、成分が異なる。無色透明が通常であるが、酸化鉄などを含むと、このエリア7に見られる赤い水晶のように赤く光を発する。
地面をほのかに赤く照らす洞窟の天井に、ひときわ目立つ白い生物が張り付いていた。フルフルである。
フルフルの翼から生えた爪や尻尾は吸盤のようになっていて、天井や壁に張り付くことが可能だ。こうして獲物を待ち、音もなく捕食することができる。音もなく這い回るので、意識していなければ、すぐに襲われてしまうだろう。
クライン達はフルフルを探すつもりでエリアを探索していたので、特段危険な目にあうことは無かった。だが、天井に張り付いたままでは、攻撃を与えることもできない。
「マハト、ちょっと耳塞いでて。」
クラインはアイテムポーチから音爆弾を取り出して、フルフルのいる天井に向かって投げる。大きな耳と持つイャンクックや、ドスガレオスなど優れた聴覚を持つモンスターには、その爆音で一時的に怯ませることが可能なお音爆弾。仮に聴覚を頼りにしているモンスターであれば、効果はあるだろうと思い、持ち込んだアイテムだ。
音爆弾、天井に達する少し前に破裂し、強烈な高周波が洞窟にこだまする。耳を手で押さえても、甲高い音が鼓膜を刺激する。しかし、フルフルは微動だにせず、変わらず天井に張り付いたままだった。
「聴覚でもないか…。」
期待はしていなかったが、何かしら反応はあってもいいとクラインは思っていた。だが、フルフルにクライン達の存在を気付かせるには充分だった。
フルフルは爪を天井からは反して、尻尾だけで天井から宙ぶらりんの体制になった。首を下に伸ばし、伸ばした頭から唾液が滴る。
洞窟の床には水が張っていてるが、そこにフルフルの唾液がしたたり落ちると「ジュ~っ」と音が聞こえてきた。強力な酸性の唾液もフルフルの武器と言えるだろう。
しばらく頭を垂れ下げたのち、腹筋よろしく体制を再び戻した後、天井から離れて地面に降りてきた。
それと同時にクライン達も武器を抜く。
白い巨体が地面に着き、地面が揺れる。水面に波紋が浮かんで、クラインの足元にまで及んだ。それを跨ぐように前進しフルフルに接近する。
フルフルの攻撃は、前方を薙ぎ払うように首を振りながら噛みつきを行うのと、回転して尻尾を振り回す攻撃。電撃系の攻撃は、身体中から電撃を放出する攻撃と、ブレスの2パターンである。電撃を連続で行わない辺り、ある程度のインターバルは必要だとクラインは考えていた。
フルフルは《電気袋》と呼ばれる器官を持っている。電気を蓄積することができ、蓄えた電気は衝撃を与えることで放電する仕組みを持つ特殊な器官だ。この袋自体に発電の機能は無いので、発電は別のところで行われており、そこで発電した電気をこの袋へ蓄えているということだ。ゆえに、電撃は有限ではない。
ただ、どのタイミングで発電を行い蓄電されているかはわからないので、そこを考えて立ち回るのは至難であった。
クラインは、敵の攻撃を見切りつつ、攻撃を加えていった。マハトもクラインとは逆の位置から攻撃を加える。
攻撃を避け、その後の隙を狙い剣を振る。どのモンスターでもこの立ち回りは変わらなかった。ただ、この基本的とも言える立ち回りになるまでには、モンスターの行動パターンをある程度、把握する必要がある。
クラインがハンターになってから、村長に言われるままに依頼をしていた。そもそも、ココット村に流れてくる依頼は、あまり多くはなく街とは違い、選ぶことが難しい。街のハンターともなれば、自身の装備の強化に必要な素材のために特定のモンスターの依頼を受けたりするなど、依頼の自由度も高い。
だが、村のハンターとなればそういったことも難しい。出張ギルドにはそういった不便さはあり、それが村付きのハンターが増えない理由でもあった。
だが、クラインはその限られた環境の中で、可能な限りの装備強化を行いながら、生計も立てていた。何より、ここ数年で様々なモンスターと渡り合えたことは、村付きのハンターとしての利点だとも思った。
色々なモンスターと渡り合えて、色々なモンスターの生態を垣間見えた。それはクラインにとって、ハンターになってよかったと思えることでもある。クラインはフルフルに向き直った。
フルフルが電撃を放つ構えを取る。動作が終わる前に、フルフルの身体中から放電が始まった。
クラインとマハトは予備動作を確認して、後退する。この放電攻撃中に、フルフルが動くことが無いため、離れてさえいれば、危険性は無い。
放電が終わって、フルフルが立ち上がる。そのまま続けて、フルフルは天井に飛び移った。
「くそっ…!厄介だな、あれ。」
マハトは納刀しながら上を見上げて言った。天井を這うフルフルの姿はより不気味に感じる。クラインも武器をしまい、フルフルの様子を伺った。
フルフルはゆったりとしたスピードで天井をのそのそ歩く。フルフルは飛竜種の中では小柄な方だが、それでもあれだけの大きさのモンスターが天井を歩く姿には、やや違和感を抱いた。
奇妙な光景に気を取られていると、フルフルが大きく動き、その巨体が天井から剥がれ始めているのが見えた。
「まずいっ!!」
フルフルの動き方から、こちら側に飛び込んでくると思え、すぐさまクラインとマハトは、その場から離れる。地面を思いっきり蹴り、身体を投げ出すようにフルフルの巨体を避ける。受け身を取り、前傾で地面を滑走する。
すぐさま起き上がり、着地したフルフルに視線を戻す。起き上がる途中でフルフルはマハトの方を向き、口から電気が漏れ出しているのが見えた。
危険を察知して、マハトは急いで起き上がり、再び回避できる姿勢に移る。
すぐにフルフルは電気を放ち、電撃が地面を這うように接近する。三つ又に分かれた電撃を躱して、マハトは地面を転がった。
ゆっくりした動作で、もたげた顔を上げるフルフル。距離が離れたマハトは、次のフルフルの動きに気を付けながら、接近しようとしていた。クラインは電撃直後の隙を狙って、走って接近する。片手剣の強みは機動力の高さである。大剣を扱うマハトと違い、一つ一つの動作にインターバルは必要なく、納刀している状態からでも繋がるように攻撃が可能だ。
走りざまに抜刀し、そのままジャンプ斬りで間合いを詰めながら攻撃をする。ジャンプ斬りで振り下ろした剣を返し、上方向に振ってさらに攻撃を与える。攻撃の終わりに、フルフルの姿を確認し、予備動作に移ったら、攻撃を止め、距離を取る。
フルフルの意識がクラインに向いたのを確認し、マハトも攻撃に加わる。2人の狩りは交互に攻撃を与える立ち回りだ。
そうして、攻撃を与え、フルフルを弱らせていった。
狩りを初めて数時間。マハトが放った抜刀斬りは、フルフルの脳天を穿ち、そのまま首が地面にもたげる。そしてフルフルは動かなくなった。
「ふぅ…。討伐完了かな…。」
物言わなくなったフルフルの死体を確認し、安心感がこみ上げる。張り詰めた緊張感が一気に解けるこの感覚は、達成感とでも言うのだろう。これまで何度も狩りに出て、無事に成功を収めてきたが、この達成感は心地よく思う。
「今回もなんとかなったね。」
「おう。ま、俺たちなら、もうどんなモンスターも大丈夫だな!」
「また、そんなこと言って!」
クラインは笑った。そのまま剥ぎ取り用ナイフを手に取り、フルフルの皮に刃を通す。
「やっぱり独特な皮だね。表皮の粘膜そうだけど、このブヨブヨした皮。」
「とても防具とか武器には使えそうもないけどな…。」
「電気袋って器官があって、そっちはそれなりに重宝されるらしいよ。なんでも衝撃で電撃を放つとか。」
「おい、まさか剥ぎ取るつもりか?もう電撃はこりごりだ。」
マハトは嫌そうな顔をして、フルフルの剥ぎ取りを進める。ギルドの決まりで剥ぎ取りできる素材の数は決まっていた。モンスターによるが基本は3つまで。余った分はギルドの従者により丁寧に解体され、後に報酬としてハンターに分配される。
しかし、戦闘で傷ついた部位もあるため、有効的に使える部位は限られる。いくら大きな体と言えど、実際に持ち帰れる部位は少ないのだ。
残りの皮や肉、骨などはその場に残す。そうして残したモンスターの亡骸には、その生態系の生物が食事にしたり、微生物にとってはすみか住処となる。そうして腐った死肉が大地に還ることで、その地に新たな生命が芽吹く。
「くっ…。表皮が分厚すぎて全然、内臓までいかない。」
「やめとけって、感電するぞ?あとはギルドの報酬に期待しようぜ。」
「うぅ~そっか。」
クラインは名残惜しそうに、素材を止め、いくばくかの素材を取りポーチに入れた。
「よし!戻ってさっさと休もうぜ!」
「あ、ごめん!ちょっとよく観察したい!あれなら先に帰ってていいから。」
「へっわかったよ。」
クラインは狩猟したモンスターの死体をよく観察する癖があった。ハンターにとってモンスターは討伐対象であり研究対象ではない。だが、クラインにとっては興味をそそられるものであった。
クラインはフルフルの顔に近づき、白い皮膚に覆い隠された口をナイフでめくる。中から真っ赤な口が見えた。
「小さいけど牙も付いてるんだ。でもこれじゃあ、ほとんど噛めないだろうから、咀嚼ではなくほとんど飲み込むように、食事するのかな。」
口周りを見回し、上唇辺りに黒い2つの点があるのを発見する。
「もしかして、これが鼻か…?てことはやっぱり嗅覚で…。」
洞窟の手前まで来て、マハトは振り返った。熱心にモンスターの死体を観察するクラインの姿を見て、マハトは肩をすくめた。
【ミナガルデギルドのハンターランク制度】
・ノーマル(下位)
「ミナガルデギルドに属するハンターのおよそ8割が、このランク帯に留まる。ハンター登録時点からノーマルハンターとして登録される。通常のモンスターを狩猟しながら技術を磨く段階。最初の内は簡単な採取クエストや草食モンスターの素材採取がメインとなる。ノーマル帯の中でも、依頼をこなしていくことで、大型モンスターの狩猟許可を得られる。」
ハード(上位)
「ミナガルデギルドに所属するハンターの2割が得られるランク。実力を認められた熟練ハンター。ノーマル帯のハンターでは対処が難しいモンスターの討伐など危険度は増す。ノーマルのクエストをこなしていく中で、ギルドから特別依頼をこなすことでHRを上げてハードに到達することができる。特別依頼は、今までよりも強力なモンスターであることが多い。」
G級(マスター)
「現時点(第7話)では、9名のG級ハンターが所属している。高峰の実力を持つハンター。古龍種や特別許可が必要なモンスターとの狩猟経験を持つ者。ハードの特別依頼として古龍及び古龍級モンスターの狩猟に成功したものが昇格できる。各ギルドでもG級帯のハンターは所属するハンター数のおよそ1%前後と言われている。」