名前:クライン・クルーガー 17歳
武器:ポイズンタバルジン
防具:イーオスシリーズ
名前:マハト・アルペンハイム 18歳
武器:ブレイズブレイド改
防具:クックシリーズ
「火山か…。」
村長から受け取った依頼の紙を見ながらクラインは呟いた。
クライン達のハンターとしての成果は着実にミナガルデに評価されており、その活動範囲を大きく広げていった。現在、ミナガルデには5つの狩猟地が管轄されており、これまで森丘、密林、砂漠岩地、沼地の4つの狩猟地に足を運んだ。
順番にココット村から離れていくため、ココット村に流れてくる依頼はほとんどが森丘か密林ばかり。砂漠や沼地といった狩猟地には、こちらの地域では確認されない強力ななモンスターが多く生息しており、その狩猟地の依頼は優先的にミナガルデに在籍するハンターに流れていた。
近年、ミナガルデに在籍するハンターの減少に伴い、隣接するギルドから派遣されることが増えていた。ミナガルデギルドの意向としては、所属ハンターに依頼を流したいのだが、ハンターの不足により、外部に流さざるを得なかった。
そんな背景もあり、最近成果を上げているココット村のクラインとマハトには、以前よりも難易度が高い依頼が舞い込むようになった。
今回、村長から受け取った火山でのバサルモス狩猟もその流れであった。
「バサルモスって確か…。」
「うむ、鎧竜グラビモスの幼体じゃの。幼体と言えど、我々から見たら十分に巨大な生物じゃ。いっぱしの飛竜に変わりはない。お主にとっては因縁の相手かも知れぬがな。」
「因縁なんてそんな…。」
12年前。クラインがまだ5歳のころ。ハンターであった両親は鎧竜討伐のために火山に赴いた。クラインの両親はミナガルデでは《紅翠の双星》と呼ばれる有名なハンターで、また発展途上だったころのココット村にやってきたハンターだ。
二つ名で呼ばれることは、ハンターにとっては名誉であり、それだけでクラインの両親がどれだけ偉大なハンターだったかは計り知れる。
そんな両親が、ある日鎧竜の討伐に赴いた火山で行方不明となった。ギルドの判断では遺体が見つからないものの、死亡という判断をされている。火山のベースキャンプ付近には、当時クラインの父《パトリック=クルーガー》が装備していた防具の腕部位が発見された。
モンスターの狩猟中に不測の事態に陥り、モンスターに捕食されたか、マグマに飲まれたかのいずれかが、ギルドの見解であった。
5歳という物心が付いて間もないクラインにとっては計り知れないショックであった。両親を失う孤独感も味わったが、村長をはじめとしたココット村の村民が一丸となってクラインの面倒を見てくれた。
それもあり、両親を亡くしてから寂しさを感じたことは無い。同時にモンスターに対して恨みを抱くというようなこともない。
それでもクラインがハンターになったのには、村人たちへの感謝の気持ちによるところである。両親が居ない自分をここまで育ててくれた村への恩返し。クラインがハンターをしているきっかけはそれだった。
クラインがハンターになってから、双星の不在で及んだココット村の衰退は徐々に復興を遂げるようになっている。村への物流、人の移住、設備の充実。ハンターとして動いたクラインによる功績も多いにあった。
両親の死を受け入れ、クラインは人としてもハンターとしても自立していた。
「親がモンスターに殺されたからハンターになったなんて言えたらかっこいいんだろうけど、正直そんな気持ちは微塵もないかな…。ハンターになってからなおさら。ハンターは常に危険と隣り合わせだからね。きっと父さん達も覚悟できてたのかなって思ってるよ。」
「そこは昔からドライだよな。クラインは。お前の両親、スゴイハンターだったんだろ?ミナガルデにいたころ、たまに酒場で話題になってたぞ。《紅翠の双星》の話。」
「そうなんだ!?やっぱすごかったんだね。まだ話に出るなんて…。」
「俺たちもいつかは、二つ名で呼ばれたいよなぁ。」
「はは、頑張らないとね。」
両親を誇りに思う反面、クラインはそういった類の欲が全くなかった。ハンターとして名を残したいわけではない。ただ、この世界の歯車の一部として、ハンターとして生きることを決めただけ。村の貢献のためにハンターを続けるクラインにとって、マハトが夢想する先の未来は、魅力的ではなかった。
「お主らの最近の活躍は、しっかり街にも届いていおるぞ。それゆえの今回の依頼でもある。」
「火山ねぇ…。文献でしかまだ読んでないけど、活火山の影響でかなり過酷なところなんでしょ?そんなところまで狩猟地にするって…。」
「モンスターの生態系同様、人々の暮らしもそこに根付いておる。今回の依頼は近隣村の被害によるところじゃ。火山は鉱石が豊富に採れるからの。それを大事な資源として活用している村があるんじゃ。モンスターが居ると、思うように採取もできんからの。それに実際に村に被害も出ておるようじゃ。」
「へぇ~火山近くの村かぁ…。」
「ン・ガンカという村じゃ。今回赴く火山がある北エルデ地方の村じゃよ。鉱石が潤沢なことや溶岩が対流する関係から、鍛冶が盛んな村じゃ。一度その村を経由して、依頼に行ってもらうことになるじゃろう。」
「今回の滞在先ってことね。」
「いいね~、俺もまだ北エルデ地方には言ったことないなぁ。火山の麓にある村かぁ…。」
「まるで観光だね。ま、気持ちはわかるけど。」
ハンターとして働いていると、大陸の色々なところに足を運ぶことになる。ココット村とは行商の関係で親密な関係にある密林近くのメタペタット。砂漠のオアシスを利用して作られたレクサーラなど、これまで狩猟地と一緒に様々な村に行った。
「よし、そしたら準備ができ次第、出発しようか!」
「おう!」
クラインとマハトは村長から依頼用紙を受けとり、それぞれの家路についた。
ーン・ガンカー
北エルデ地方が、クライン達が住むココット村のある西シュレイド地方から見て南東に位置する場所にある。
アルコリス地方を超え、メタペタットからジォ・クルーク海を渡ると到達することができる。陸路でも行けるが、海路を利用した方が早い。北エルデ地方は三方を海に囲われた火山帯で、漁村なども多く存在する。
海路により、様々な村との交易も行っており、人の流れや経済も比較的安定している地域であった。
クライン達がミナガルデギルドが管轄する北エルデ地方の火山付近までやってきた。エルデ地方は北と南に分かれており、北はミナガルデ、南はドンドルマギルドが管轄する火山帯である。
鍛冶が盛んな村、ン・ガンカに到着したのは村を出発して1週間と少しが経った頃だった。
「すげぇな…。こんな火山地帯にも村があるなんて…。」
マハトは開口一番そう言った。これまでもいろいろな村に足を運んだが、ン・ガンカもまた異質な光景が広がる。
村の後方には巨大な北エルデ火山が見えた。火山灰と灰色の岩で全体的に灰色がかった景色の中で、溶岩が明るく映える。辺りからは金槌の叩く金属音も鳴り響き、賑わいが加速されていた。
「なんでも、街とかの武具屋にも、ここの武器や防具を卸してるらしいね。とんだ一大産業だよ。」
「へぇ~。」
興味無さそうに聞き流し、マハトとクラインは村の奥へ進む。この村は火山地帯へ向かうハンターの休憩地点となっており、ハンター達に貸し出すための宿屋もたくさんあった。依頼に対して、ハンターを多く見かけるが、狩猟だけではなく、採掘に訪れるハンターも多様にいる。
この火山地帯では、その環境から豊富な鉱物の採掘が可能となっており、鉱物の採取依頼も多く依頼される。クライン達が主としている森丘でも大地の結晶やマカライト鉱石など取れないことは無いが、採掘場所がかなり限定的で、そこまで多くの鉱物は取れない。この火山地帯では、たくさんの採掘ポイントもあり、さらに取れる量も多いので、採掘依頼は後を絶たない。
しかし、その特殊な環境ゆえに、モンスターの危険度も一線級である。そのため、火山にまで来れるハンターは、それなりに厳選されている。採取依頼ならともかく、それが討伐依頼ならなおさらである。
クライン達は村の中心部にある施設を訪れた。ミナガルデギルドの管轄となり、出張所が構えられた施設だ。
「こんにちは。バサルモス討伐の依頼を受けて、ココット村からきたものです。」
「はい!お待ちしておりました!長旅ご苦労様です!」
ギルド支給のメイド服に身を包んだ女性が、クライン達を見て、パァっと顔を明らめた。ココット村にも、受付嬢はいるが、どこの出張所にいっても支給される服は同じようだ。
ギルドガールと呼ばれる彼女らは、ハンターへのクエストの発注や管理などを主な業務としている。業務自体は簡単そうに見えるが、実は彼女たちのスペックは非常に高く、博物学、地理学など様々な知識が求められるようで、主に学術院出身の子が多いらしい。
実際、クラインも幼いころ、ココット村に配属されていたとあるギルドガールの話をよく聞いていた。思えばあの頃から、モンスターの生態に興味があったのだろう。そのギルドガールは、すでにココット村を離れており、どこかの受付嬢をやっているだろうとは思う。ハンターをやってれば、いつか会えるかなとクラインは思っていた。
「依頼はバサルモスの討伐です。最近、村近くに現れるようになって被害が出てしまいまして。それで駆除対象となったわけです。」
「なるほどね。」
ギルドガールは"被害"と具体的な内容を語らなかったが、おそらく死者が出たのだろう。人に危害をもたらしたモンスターは即討伐対象となるのが、ギルドの方針である。ギルドは生態系の保護を優先し、自然との調和を大事にしている。その前提はありつつも、やはり一番に考えるのは人間社会の安寧でもある。そのため、人を襲ったモンスターは討伐の対象となってしまう。自然の摂理とも言える。生きるために狩る。それも根底にあった。
「出発はいつなさいますか?ココットからここまでは相当な距離だったでしょう。長旅の疲れもあると思うので、一度、宿に戻ってから休息されては…。」
被害は出ているものの、緊急度はさして高くない場合は、現地入りしたのち休息も可能だった。
クラインは、マハトの方を見る。マハトは首を横に振り笑みを浮かべる。
「すぐに出れます。」
ーエリア1ー
火山といえど、そのほとんどが溶岩煮えたぎる場所ではなく、ベースキャンプ付近は、灰色の岩地が特徴のエリアとなる。ここを抜けていくと、火山の洞窟エリアに入ることができる。火山内部は、とても高温であり、《クーラードリンク》が必須のエリアだ。
そして、このエリア1はクラインが村長から聞いた話によると、父親が装備していた防具の破片が見つかった場所でもあった。クラインは辺りの風景を見て、昔に両親が訪れたであろう地に、複雑な想いを抱いた。
「クライン…?大丈夫か?」
「ん、大丈夫だよ。別に感傷に浸ってるわけでもない。ただ、実際に来てみると、色々と考えちゃうね…。」
「今でも両親のこと思い出したりするのか?」
「もちろん。忘れたことなんてないよ。ドライだなんてマハト言ってたけど、両親が死んだことを悲しんでないわけじゃないんだ。ハンターになったのも、やっぱり両親のことも関係してるのかな。正直、意識したわけじゃなかったけど、色々思うことはあるなぁ。」
言いながらエリア1を散策する。初めて来たフィールドは、地形などを把握することが大事である。事前に調べてきた情報によれば、バサルモスは火山地帯ではなく、このエリア1付近の岩地に生息している。このエリア1の隣はベースキャンプがあり、そのベースキャンプをさらに下れば、ン・ガンカに繋がる。人の居住区とも近いため、バサルモスの危険性は危惧されているところだった。
バサルモスは別名を岩竜と言い、その見た目は岩そのもの。それを利用し、地中に潜ることで岩として擬態することもできる。《見えざる飛竜》とも呼ばれ、岩に擬態したバサルモスに突然、襲われたという話もある。
クラインは、エリア1に点在する岩を確認する。どれも自生した岩のように見え、どれがバサルモスかは判断が難しい。そもそも、このエリアにバサルモスが居るのかすら、断定はできない。
「一つずつ確認して回るか?」
「そうだね。そうした方が良さそうだ。」
クラインとマハトは手分けして岩を探る。地面から突き出した岩はどれも似たような形をしているた。こういった擬態は自然界では、珍しいことではない。特にバサルモスのような幼体であれば、擬態をすることでその身を守る術になる。
幼体と言われるバサルモスはクライン達から見たら、十分大きな個体であるが、自然界ではまだ弱い部類なのだろう。それに、厳しい火山の環境において、バサルモスは生態系の中でも低い位置に属するモンスターだ。自分を守る術は大事なのだろう。
剥ぎ取り用ナイフの柄で、岩を一つずつコツコツと叩いていく。特に反応が無ければ次の岩へ。そうして、エリア1にある岩はすべて確認を終えた。
「どれも違うようだな。」
「次のエリアにいこっか。」
ナイフをしまい、二人はエリア1を後にする。
ーエリア3ー
エリア1からは火山洞窟に繋がる道と、奥の岩地へとつながる道の2通りがあった。今回の狩猟対象であるバサルモスは主に岩地に現れるため、岩地エリアであるエリア3へと進む。エリア3には、ブルファンゴの群れがいた。
「うわ、ブルファンゴかぁ。」
「戦闘中に邪魔されたら厄介だな。先に片付けておくか。」
「そうしようか。」
クラインとマハトは武器を抜き、3頭いるブルファンゴをそれぞれ各個撃破に当たる。元々はアプトノスやケルビと同じ、草食種として扱われていたが、近年、雑食性であることが判明し、牙獣種に分類された小型モンスターだ。ミナガルデギルドの管轄する地域では牙獣種の大型モンスターは確認されていないが、隣のドンドルマギルドなどでは、牙獣種の大型モンスターも狩猟の対象となるらしい。
クラインは突進してくるブルファンゴの攻撃をいなして、横を通りすぎたブルファンゴを斬り付ける。小型モンスターといえど、ブルファンゴの皮は比較的厚く、並の武器では倒すのに時間がかかるだろう。
以前のクラインの装備では、ブルファンゴの討伐にも時間がかかった。今となっては武器もそれなりの武器にまで強化し、大型モンスターにも立ち向かえる装備になっていた。ふと、それを思いハンターになってから3年だが、その間でもかなり成長したなと実感していた。
そのくらい、思考に余裕をもってブルファンゴを狩る。1頭目が地面に倒れたのと同時くらいで、突然地響きが聞こえてきた。明らかにブルファンゴのものとは異なるそれに、音の発生源の方に顔を向ける。
地面を割って、巨大な岩が動いているのが見えた。近くにはブルファンゴとマハトの姿が見える。
「なにっ!?そこにいたのか?」
なんと、マハトがブルファンゴの相手をしているその場に、バサルモスが潜んでいたのだ。ブルファンゴとの交戦中に岩に擬態していたバサルモスを刺激してしまい、姿を現したようだ。
「探す手間が省けたというかなんというか。」
クラインはすぐさまマハトの元へ駆け寄る。ブルファンゴはまだ2頭残っており、彼らの攻撃に気を払いながら、初めて戦うバサルモスとやり合うのは危険だと考えた。そこでクラインはまず、残った1頭のブルファンゴに標的を絞る。
「マハトはバサルモスの気を引いてて!僕がブルファンゴを先に片付ける!」
「わかった…!」
突然の急襲に焦るマハトも、クラインの動きを見て、落ち着きを取り戻す。とはいえ、まだ近くにブルファンゴがいる状態であった。バサルモスは地上に出てきて、ゆっくりとした動作で辺りを見渡す。
バサルモスは目の前のマハトを認める。身を構え、咆哮した。
「くッ…!」
咆哮により身が硬直する。少し離れた位置にいたクラインも、身がこわばり、歩が止まった。ブルファンゴも一瞬、身体を硬直させたような素振りを見せたが、クライン達よりも早く動き出す。後ろ足で地面を力強く蹴り上げると、全身を弾ませるようにして突進した。
回避では間に合わないことを悟ったクラインは、盾を構える。硬直が解けかけた盾が装備した腕を構え、衝撃に備えた。突進の衝撃を盾で受け身体で感じる。腕は痺れたが、致命傷は避けられた。攻撃をいなし、突進後の隙を狙って攻撃を入れる。
マハトは、硬直後、バサルモスに意識を向けた。バサルモスの攻撃パターンを把握するために、様子を伺いながら攻撃の機会を待つ。同時にブルファンゴの動向にも注意する。
バサルモスは全身を鉱物で覆われたモンスターで、その重量は相当なものだろう。体長はイャンクックはフルフルと大差ない大きさなので、飛竜種の中では比較的小柄な部類に入る。しかし、バサルモスが歩くたびに、地面が微かに振動するに、重量は相当だ。ただの尻尾攻撃や突進でも、巻き込まれたら一たまりもないだろう。それゆえに、ちょっとした動作も逃すことができず、気が抜けない状況ではあった。
マハトに緊張感が走る。視界の端では、ブルファンゴが後ろ足を蹴り、地面を均しているのが見えた。突進前の予備動作である。それを見て、マハトはさらに距離を取る。同時にバサルモスが巨体を横に向ける。右側面をマハト側に向けて、反対方向に重心を寄せ始めた。
「なんか来るっ!」
武器を出そうとして柄に添えていた手を放し、後方に下がる。ブルファンゴが突進を始めた。そしてバサルモスも右半身で体当たりをする。十分に距離を取ったマハトに当たることは無かったが、同時に突進を仕掛けたブルファンゴに直撃し、ブルファンゴが大きく吹き飛ばされる。
バサルモスの身体が当たった瞬間「ドスンっ!」という鈍い音が響く。地面に倒れたブルファンゴはそのまま息絶えてしまった。小型モンスターの中でも比較的丈夫と言えるブルファンゴがたった一度の体当たりで昇天してしまった。マハトの攻撃で多少ダメージを与えていたにしても、致命傷になったのは間違いない。
「こりゃあ、一発でも当たったら相当厳しいな…。」
幸い、邪魔だったブルファンゴが対峙されたのは良かった。しかし、まだ安心はできない。クラインは、すでにブルファンゴの討伐を終えたようだった。バサルモスの後方に、近づいてくるクラインの姿が見えた。いつも通り、挟み撃ちにして攻撃を分散しながらの連携で狩りを進めていく。
「いくぞ!クライン!」
「うん!」
大剣の柄を掴んで、思いっきり剣を抜刀する。その勢いで一撃をバサルモスに入れた。ガキンッという堅い感触が剣先から響く。予想通りの感触ではあった。身体中に鉱物を纏った生物なので、攻撃は通らないと予想していた。
クラインが事前に集めた情報では、バサルモスの外殻は堅い鉱物に覆われているものの、筋肉が発達した腹部は非常に薄いとのこと。この腹部がバサルモスの弱点である。これは成体である鎧竜グラビモスも同様らしい。つまり狙うのであれば腹部を中心に立ち回るべきだった。
ただ、腹部はほぼバサルモスの前方であり、足元に潜り込まないといけない。そうなると被弾は避けられないだろう。足踏みだけでも、こちらはダメージを追うほどなので、危険ではあった。
しかし、他の部位を攻撃指定も、ほとんど刃は通らないため、隙を見つけたは腹部に潜り込み、攻撃を加えていく必要があった。
今回の作戦では、腹部に潜り込むのはマハトが行う。クラインは陽動に回る作戦だ。クラインが持つ《ポイズンタバルジン》には、毒怪鳥ゲリョスから採れる素材で作られており、毒属性を持つ片手剣だ。状態異常を狙って、弱らせるのがクラインの役目となる。
この武器は、クラインがハンターになったころから愛用している《ハンターナイフ》を強化させたものであった。思えば3年もこの剣を振るっている。
クラインは馴染んだ愛剣を振るって、バサルモスに毒を蓄積させていく。その間もバサルモスは体内で生成された火炎液を吐き出したり、重量級の巨体を生かした体当たりを繰り返す。
ヒット&アウェイ。すっかり慣れたその立ち回りで、バサルモスの体力を確実に削っていた。
ーエリア1ー
バサルモスと交戦し始めて小一時間が経過しただろうか。エリア移動したバサルモスを追ってエリア1に戻ってきていた。
「本当にあれで幼体だと思う?」
「ん?確かに疑問だな。モンスターとしては十分脅威だと思うよ。」
「僕もそう思う。成体のグラビモスってどんだけ強いんだろうね。」
そんなことを漏らしていた。狩りは決して余裕ではないし、バサルモスと戦っていて、危うい場面もいくつかあった。気を抜かなければ失敗することはないだろう。
しかし、成体と呼ばれるグラビモスとなったらどうだろうか。
ハンターとして、それなりに飛竜との戦闘経験を積んできたクラインでも、火竜級の危険度を誇る飛竜とはまだ戦ったことは無い。グラビモスは火竜リオレウスと肩を並べるほどの強さだと言われている。
クラインの両親である、《紅翠の双星》と二つ名を付けられるほどの力量を持つハンターでも、失敗することもあるほどのモンスターであるのは間違いない。
バサルモスはそういったモンスターに立ち向かえるようになるための、いわば登竜門のようなモンスターでもあるのだろう。この経験を活かして、さらなる強さを持つ飛竜に挑む。そんな既定路線があり、クライン達は順当にその道を進んでいた。
「いつかは俺たちでグラビモスも倒してみような。」
「まだバサルモスも倒してないのに、それは早いって!気抜かないでよ?」
「もちろんだ。」
エリア1には相変わらず、岩が乱立している。ペイントボールの臭気的に、このエリアにいるのは間違いなかった。臭いの強い方に視線をやると、先ほどは見られなかった場所に岩が付きだしているのが見える。
「擬態と言えば擬態なんだけど、子供だましみたいもんだよな。」
「まあ、モンスターにとっては有効なんじゃない?とりあえず地上に出しちゃおうか。」
バサルモスが地上に飛び出す際の動きは非常に派手で、近づいたら巻き込まれ痛手を負う。そのため、クラインは遠目から、その辺で拾った《石ころ》を投擲した。
コツンとバサルモスの背中にある擬態岩に当たり、その岩が不自然に揺れ始める。地上から生えている岩が動く絵面は、なんとも不自然である。
地上に飛び出たバサルモスは、うねり声を上げて、クライン達の方に顔を向けた。
「よっし、いくぞ!」
マハトが先に接近し、腹部を目指す。腹部を覆っていた岩でできた甲殻はすでに剥がれ、その内にはピンク色の肉が見える。ここがバサルモスの唯一の弱点であり、最もダメージが与えられる箇所である。クラインは後に続いて、全体像を見ながらマハトの援護に回る。
クラインは、この火山に来てから、両親のことが頭から離れずにいた。両親が亡くなったのは今から13年も昔。グラビモス狩猟に赴いた両親だったが、その狩猟で命を落とした。
遺体は見つかっておらず、火山という環境ゆえモンスターに追い込まれ、溶岩に飲まれてしまったのだろうとギルドは結論付けた。グラビモスは鉱物食のため、人間に襲い掛かるが、捕食はしないためである。それ以上の詳細は、村長にも伝わっていないのか、特に何も聞けなかった。
親がハンターなので、狩猟で命を落とすことは仕方ないと、なおさら思うようになったのはここ数年のことではある。このバサルモスが両親を死に追いやったグラビモスの幼体だからと言って、憎しみが沸いてくるわけでもなかった。
(そうなると、このバサルモスにも親の個体が居るってことか…。)
狩りをしながら、ふとそんなことを思い浮かべた。
今、戦っているモンスターにも当然、親が居てこの個体はその子。当たり前である生命の繋がりをふとして感じた。
かといって、別に同情をするわけではない。ハンターとして、今はこのモンスターを狩ることに集中している。狩るか狩られるかの瀬戸際に、今は身を投じている。
そう、きっと両親を殺したグラビモスも同じ心境だったのかもしれない。自分の命を守るために、迫るハンターを退けた。それだけのこと。
クライン達が同族を殺されて、仇討のごとく、このバサルモスを討伐しに来ている。そしてバサルモスは自分の命の危機を退けるために、ハンターと戦う。
ハンターをやっていると、やや倫理観というものが薄れてしまっているような気がする。強いモンスターを倒すとは、他者の命を奪うことでもある。ただ、この他者の命を奪う行為は、どの生物も行っていることだった。
食料を得るために。自分の住処を守るために。誰かを守るために。
戦う理由は様々で、それが生きる理由でもあった。
頭の中で巡る思考とは裏腹に、バサルモスとの攻防は苛烈を極める。バサルモスは命の危機を感じ、逃亡を図るが、マハトの果敢な追撃がそれを許さない。クラインの毒が効いているのか。バサルモスは時節、紫色の涎を垂らす。
そして、マハトが放った縦斬りの一撃が、バサルモスの腹部をもろに強化に肉を抉った。同時に、バサルモスは超重量級の巨体を地面に伏せることになる。
「よし…!」
後方から見下ろす火山が噴火する音が聞こえてきた。
ーン・ガンカー
「お疲れ様でした!クライン様!マハト様!」
村に戻ってきたクライン達は、討伐完了の報告をしに出張所のある施設に戻ってきた。ギルドガールがこちらを労うように満面の笑みを浮かべ、クライン達を出迎えてくれた。
「それではこちらが報酬金になりますね!どうぞお受け取りください。」
「ありがとうございます。」
拳ほどの大きさはあろう皮袋を受け取ると、ずしりと金貨が擦れる音が鳴る。ハンターになりたてのころよりも圧倒的に増えた報酬金。それと比例するように、武具の生産費用もだんだん要求額が増えているので、全体的な生活水準は変わらない。
「報酬素材につきましては、一度ギルドの方で整理させて、後日村に送らせていただきますね!」
モンスターの素材は剥ぎ取り分と、ギルドの方から貰える報酬素材によって調達が可能である。討伐の場合は一度、ギルドの方で現地の確認を行う必要があるため、時差がある。
確認とは、モンスターが討伐されたことの確認以外にも、それ以外の生態系の以上の調査も含めたものである。討伐直後にまた凶悪なモンスターが現れていたり、ただちに異変が無いかを確認するためのものである。
ギルドの従事者はいずれも、ハンターではないため、火山のような過酷な環境に行っている従事者は大変だなぁとクラインは思っていた。
「船の出港は明日のお昼ごろの予定です!それまでゆっくりお休みくださいませ!」
ン・ガンカからメタペタットまでの定期船は1日起きに来航する。それまでは待機となるので、クライン達はゆっくりと休暇を取ることにした。この異国の地を巡れるのもハンターの良いところだとクラインは思う。
「とりあえず、今日はゆっくりしてようかな。さすがに疲れたぜ…。」
マハトはそう言って、宿に戻っていった。クラインも疲れていたが、せっかくなので村を見学しようと出張所を出て、市場の方に向かう。
市場と言っても、そこまで出店が多く出ているわけではなく、ハンターに必要な物資や村人のための食料などが売っているところで、特に観光に適したわけではない。
市場を適当に見ていると、ハンターの姿も散見される。火山に依頼で赴いたハンターはクライン達だけでなく、ミナガルデなど他のギルドから来たハンターも多い。特に交流するようなことは無いが、見たことのない装備も見られるので、クラインはついつい他のハンターの装備にも目を通してしまう。
そこで、見慣れない武器を腰に収めたハンターの姿を見かけた。剣の大きさはクラインが扱う片手剣ほどの大きさだが、それが二対ある。いわゆる双剣という武器で、盾をそのまま剣に変えたような武器である。クラインも片手剣を強化していく中で、一度双剣を使おうかと悩んだこともあったが、盾を剣に持ち帰る不安から、結局いまの武器に強化させた。
目を引いたのは武器種のことではなく、その武器を装飾する素材である。
ハンターが扱う武器のほとんどは、モンスターの素材を加工して作られる。知ったモンスターであれば、武器を見ただけで、どのモンスターの素材から作られた武器なのか判別がつく。しかし、そのハンターが腰に収めた武器は、クラインが知るどのモンスターの特徴にも当てはまらなかった。
まだまだ新米と言えるクラインだが、依頼をこなした報酬金で、モンスター図鑑を購入するほど勉強熱心だ。図鑑の種類はミナガルデ管轄以外にまで及ぶ。ミナガルデ管轄内では見ることができない牙獣種や海竜種といったモンスターの図鑑まで、最近は購入している。
現在、モンスター研究で判明しているモンスター数はゆうに100を超える。さすがに全部のモンスターを把握しているわけではないが、そのハンターが持つ、黒い鱗で覆われた武器の元となったモンスターは全く検討が付かなかった。
少なくとも、クラインが持つ図鑑上では、確認できないモンスターであることは間違いなかった。
好奇心が勝ったクラインが、その武器について聞こうと、そのハンターに近づく。ハンターは背丈から30代くらいだろうか。クラインは嘗め回すように前進を観察する。頭装備はつけておらず、顔が見えそうだった。肩まで伸びた黒い髪が見え、女性のようにも見える。少しして、そのハンターが動くと、長い特徴的な耳が見えた。
その耳は竜人族であることの特徴である。竜人族のハンターと言えば、村長も元はそうだったのだが、現在では竜人族のハンターは珍しいとされている。そもそも、竜人族は長寿であるがゆえに、繁殖に乏しく人間族よりも個体数は少ない。さらに自然との調和をより重視している価値観を持つため、自らモンスターを討伐するハンター職に就く者も少ないという。つまり、ココット村の村長のように自らハンターになる竜人族自体、数が少なかった。それがより、クラインの興味を引き立たせる。
クラインが話を聞こうと、ハンターの後ろまで来た時、そのハンターは突然、振り返った。まるで後ろに目が付いているように、最初から近づくクラインを見るように振り返ったのである。
「あっ…。」
不意を喰らったクラインは思わず、声が詰まる。竜人のハンターはクラインの目を無言で見つめ、しばらくの沈黙の後に口を開く。
「君は…紅翠の子か…?」
「え?こ、こうすい…?」
話しかけるつもりが、話しかけられたことに戸惑うクライン。むしろ、自分に話しかけているのかと疑い、クラインは周りを確認する。やはり誰もおらず、クラインはもう一度、そのハンターを見た。
「何か聞きたいことがあるんじゃないか?」
クラインは突然言われたことに、さらに戸惑う。そのハンターの顔付きは男性ではあるものの、女性の高い中性的な声だった。
「え、え~と。あの!その武器は一体…?」
「これか?これは双剣という武器で…。」
「いえ!そうじゃなくて…、その武器の素材は…?」
「はははっ!済まない。わかってはいたが少しからかった。これは…、そうだな。"己の戒めを象ったもの"とでも言っておこうか。」
「へ?」
クラインが求めた答えとは異なる返答をされ、肩を透かされてしまった。
「いまの君には、まだ早い。いつか街に出てきて、私と肩を並べるハンターになったら、わかる時が来るだろう。」
呆気にとられるクラインをよそに、そのハンターはクラインの元を離れていく。
「あ、あの!あなたの名前は?」
竜人のハンターはクラインの問いに足を止め、こちらを振り返った。
「ヴィリー・アマデウス=ディースカウ。君は?」
「ぼ、僕はクライン=クルーガーです…!」
「やはりクルーガー。命は紡がれていたんだな…。」
「両親のこと…知ってるんですか!?」
その問いに対し、ヴィリーは右手を挙げて去っていった。クラインは市場の通りの真ん中で立ち尽くしたまま呟いた。
「竜人族って言葉足らずな人が多いな…。」
ーーーン・ガンカの港ーーー
「両親を知ってる人にあった?」
「うん。ミナガルデの竜人のハンターだよ。」
出港を待つ船で、昨日ン・ガンカの市場で出会ったハンターの話をするクライン。言葉が足らな過ぎて、あまり会話という会話をした記憶はなく、そのことについて少し口交じりでマハトに伝えた。
「竜人族!?てことは…?」
「知ってるの?」
「俺が知る限りだと一人しかいない。もしかして、ヴィリーって名前だった?」
「そう!そうだよ!へぇ~結構有名なハンターだったんだ。」
「有名どころじゃねぇぞ!その人、ミナガルデのG級ハンターだ!」
「G級!?」
ミナガルデギルドでは《ハンターランク》という、数字によりハンターの実力を測るシステムが存在する。ミナガルデには1~30までのランクが定義付けられているが、大まかな指標として3つのランクに分けられている。
1~12までノーマル、13~20までをハード、21~30までがGクラスである。ヴィリーのハンターランクは30。つまり最上位のハンターなのである。
「ハンターランク30!?もう天上の人じゃん!」
「そうだよ!それにその人、普段あんまり街にいないんだぞ。街にいても会えることなんか中々ねぇんだぞ!?だから、余計驚いてんだ!」
「そういう情報早く言ってよ!そしたらサイン貰うとかなんかしたのに!」
「お前は…!モンスターの情報は過剰に集めるのに、同業者の情報は全然、皆無なんだな…。」
「む、だってハンターだけど、別に憧れのハンターとかもいないし…。この人になりたいとかも全然ないし…。」
「その割には、興味ありそうだな?」
「そこまでスゴイ人は別だよ!別!」
甲板で言い合いをしているクライン達のはるか後方。船客デッキの窓越しに、クライン達を見るヴィリーの姿があった。
【ヴィリー・アマデウス=ディースカウ】
ミナガルデ唯一の竜人族ハンター。老山龍撃退作戦時、前線で活躍したハンターの一人。
竜人族ゆえに不思議な感性を持ち、相手の感情を読み取ることができる。約50年前にとある非公開作戦に参加した。この時の作戦は被害規模があまりに激しく、ギルド側は壊滅的な被害をおってしまい記録が抹消されている。
この時のハンターの生き残りはヴィリーのみである。