モンスターハンター:オールドテール   作:Patrick

9 / 11
〜装備紹介〜
名前:クライン・クルーガー 18歳
武器:ポイズンタバルジン
防具:クックシリーズ

名前:マハト・アルペンハイム 19歳
武器:ブレイズブレイド改
防具:ガレオスシリーズ


第9話 陸の女王

 もうすっかり慣れた景色が目の前に広がる。

 

 開けた景色の先には、温厚な草食竜の姿見え、豊かな生態系が彩っている。アルコリス地方にあるシルトン丘陵と呼ばれる地域だ。ミナガルデギルドが管轄する狩猟地"森丘"として認定されていた。

 多様な生態系が息づくその丘には、小型モンスターの草食竜アプトノスが生息し、新米ハンターはこのモンスターの討伐から始まる。

 アプトノスはモンスターの中でも比較的温厚だが、自身が襲われた際には、反撃もしてくる。並の人間であれば、その頭突きで致命傷になりかねない重い一撃を食らわせる。

 

 クラインも例外なく、このアプトノスが初めて討伐したモンスターでもある。このアプトノスから採れる肉は霜降り上で非常に美味しく、市場にもよく流通している。

 アプトノスの肉を欲しがる商人からの依頼はギルドによく発注されている。

 

 そういった採取クエストが、駆け出しハンターの最初の仕事となる。アプトノスの生肉納品を経て、武器の扱いやモンスターとの戦闘、そして報奨金でお金を稼いで、徐々に装備をグレードアップさせていく。

 そうして段階を経ることで、凶暴な肉食モンスターの討伐依頼へと進む。

 

 シルトン丘陵はシルクォーレの森と呼ばれる深い森と繋がっており、その森の中には、凶暴な肉食モンスターが多く生息する。特に多く生息しているのがランポスと呼ばれる小型の肉食モンスターだ。

 ランポスは時たま、大量発生し人里に降りては人間に危害を及ぼす。アルコリス地方は広大な土地面積を有しており、人里から人里へ渡る際の通り道となることもある。ランポスの被害はそういった移動する人々にとって脅威となる存在である。そのランポスを討伐することで、小型モンスターとの戦闘に慣れていく。

 

 ある程度、慣れればランポスの群れのボスであるドスランポスの討伐となる。いわゆる大型モンスターに分類され、ランポスと比較しても、凶暴性は段違い。

 ドスランポスほどになると、基本的な立ち回りは相手の隙を狙うことになる。下手に攻撃一辺倒になると圧倒今に敵の餌食となる。

 そうやって挫折と恐怖を味わい、乗り越えることで、ハンターにとっては永遠の宿敵である飛竜種と相まみえることになる。

 

 森丘には多様な生物が徘徊し、時期によりこの地に住み着くモンスターもいる。飛竜種討伐の登竜門と言われる《イャンクック》もたまに現れる。

 そうして、段階的に戦うモンスターの強さを上げ、ハンターとして成熟していく。

 

 だが、だいたいのハンターはイャンクック討伐で止まるか、その前で挫折する者がほとんどだった。

 イャンクックは飛竜種の中でも最弱と言われ、ベテランハンターであれば一人であっても苦戦を強いられることは少ないだろう。

 そんな凶悪な敵を打ち倒していくことで、ハンターとしてより名を上げることになる。

 

 森丘には、この地の頂点と呼ばれるモンスターがいた。全ハンターが己の名声を欲しがる際に間違いなく標的とするモンスターである。

 

 それが《火竜リオレウス》だ。

 

 リオレウスは森丘に巣を持つモンスターで産卵から子育ての時期になると、番である《雌火竜リオレイア》と共に現れる。この時期の火竜はとても凶悪であり、巣に近づくあらゆる生物に牙をむく。

 森丘は、普段は小型の肉食竜の被害を除けば特段、凶悪な場所ではないが、火竜が現れた時のみ、森丘の危険度はグンと上がる。

 そんな危険極まりない依頼を受けれるハンターはそう多くない。

 

 ハンターとして3年目も後半に差し掛かったクラインは、森丘周辺を脅かす《雌火竜リオレイア》討伐のために、森丘を訪れていた。

 

ーーーエリア2ーーー

 

 いつもなら小型肉食竜のランポスが闊歩するエリアにその姿は無かった。

 

「やっぱりいない…これってあの時と一緒だ…。」

 

 クラインがまだハンターに成りたてだった3年前。メタペタットからココット村に渡る隊商の護送中に火竜リオレウスが襲撃する事件が起こった。

 当時、護衛にあたっていたマハトは、火竜の襲撃を受け、その際に隊商たちはバラバラになってしまう。はぐれた隊商のメンバーを守るためにマハトは森の奥に取り残されてしまった。

 

 ココット村にやってきた他の護衛ハンターの要請で、まだ1年目だったクラインが急遽、救助に向かうことに。下手な戦闘は避けて、隊商のメンバーを護衛しながら村までの帰還を目指すのが任務だった。

 助けに向かったクラインは、そこで幼馴染のマハトと再会する。1年先輩のマハトと協力し、火竜の猛攻を退け、なんとか被害を出すことなく村への帰還を成し遂げたのだ。

 

 今となっては、あの出来事があったからこそ、ハンターとして抜きんでた実力を見つけたと二人は考えている。実戦による経験は練習の数倍の効果がある。

 あれから3年経ち、ついに《雌火竜リオレイア》討伐の依頼を頼まれるに至った。リオレイアはリオレウスの雌個体で、攻撃性はやや劣るものの、危険度でいえば遜色ないレベルであった。

 ハンターになってわずか3年で雌火竜の討伐は珍しいことではないが、それでも依頼を受けれるハンターは少ない。ギルドによるクライン達の評価が如何に高いかが、伺い知れる。

 

「ランポス達が一斉にいなくなるなんて…。」

「それだけ雌火竜の気が立ってるってことだろ?危険なことに変わりはない。」

 

 クライン達は雌火竜の捜索を続けていた。すでに雌火竜の被害は報告されており、大陸中央からシュレイドへ向かう隊商が行方不明となっているそうだ。

 陸路でシュレイド地方に向かうには、アルコリス地方は必ず通ることになる。雌火竜の強襲による被害は甚大なものだろう。

 ギルドも調査に向かいたいが、雌火竜の脅威がある以上、迂闊に近づくことはできない。そこへ、雌火竜討伐の依頼がクライン達に回ってきたのだ。緊急性が高いことと、ハンターランク上も問題ないというのがギルドの判断であった。

 クライン達は森丘の中央にある巣へと向かう。そこは火竜の巣であり、雌火竜が居るとしたら、そこである可能性が非常に濃厚であるためである。

 

「空にも気を付けながら、エリア5を目指そう。」

 

 クラインとマハトは静寂に包まれた、いつもと違う雰囲気の森丘に緊張しながらも、エリア5へと足を進めた。

 

ーエリア5ー

 

 森丘の中で最も高所に位置する洞窟がエリア5である。外見は煙突状の岩山で、頂上から中が空洞になっているため、この洞窟内を住処としている。

 クライン達は暗闇に慣れていない目を慣れさせるために洞窟の入り口で立ち止まり、ゆっくりと中の様子を伺う。洞窟内から煙突状に伸びた天井からは光が差し込んでいるものの、洞窟内を照らすほどではなかった。

 

「いそうか?クライン…?」

「いや…、影は見えないね。」

 

 このエリア5の洞窟内はそこまで広大ではない。実際、ここで飛竜と戦うとなれば、立ち回りにくいことこの上無いだろう。できればここでの戦闘は避けたかった。

 クラインはしばらく生物的な動きがないか洞窟内を観察していた。だんだんと視界も暗闇に慣れ始めて、ようやく辺りを視認し始める。

 

「大丈夫だ。今はいなそう。」

 

 生物がいないことを確認し、洞窟内に侵入する。餌として持ち帰った死肉の臭いや糞の臭いが入り混じった独特な動物的な臭いが充満していた。

 

「おい、クライン。これって…?」

 

 エリア5の少し段になっている高台を探索していたマハトがクラインを呼んだ。クラインもマハトのいるところに上ってみると、産座が作られており中には、割れた卵の殻があった。

 

「まさか、もう産まれたってこと?てことは今は産卵期じゃなくて育児期に入ったのか?」

「でも子供の姿は無いぞ?もう巣を離れたってことはないか?」

「確かに…。巣にも姿は見えないってことは、すでに森丘を離れたか、常に巣にいる必要は無くなったと考えるべきか…。」

 

 クラインはもぬけの殻となった巣を見つめ、思考しはじめる。マハトは考えることを止め、高台を降りた。マハトはそのまま洞窟内部をうろつき始める。

 

「この死肉、食べられてからまだそんなに時間が経ってなさそうだぞ?全然、肉が腐ってないし、乾燥もしてない。」

 

 マハトは足元に転がる肉片を足で突く。骨の周りに付いた肉が、まだ新鮮なまま、残っており、それがまだ食べられて間もないことを示していた。

 

 産座から離れた位置にある肉片に違和感を抱き、マハトは辺りを見渡す。肉を運んで、わざわざこの場で食べたとも考えにくかった。

 マハトが上空を見上げると、ちょうど洞窟の天井に開かれた穴が頭上に来ていた。天井からは陽が差し込んでいる。

 耳を澄ますと、キーキーという高い声が聞こえてきた。

 

「クライン!」

 

 マハトが呼ぶと同時に、クラインもその声を聴いていたようだ。

 

「産座はあくまで、卵が孵るまでの場所みたいだね。火竜の雛はこの上ってことか。確かに、空を飛べる天敵が少ない森丘では、地上にいるよりも高いところにいた方が安全だ。」

 

 2人の話し声が洞窟内に反響し、それが天井の方まで抜けていく。陽が差し込む洞窟内に、突然、影が差し込んだ。

 

「!?」

 

 クライン達の話し声に反応するように、影になった黒い塊がこちらを覗き込むように見え、次の瞬間には、それが大きな翼を広げ飛翔した。

 

「そこにいたか!?」

 

 子守をしていたのであろうリオレイアが巣に侵入してきたクライン達を見つけた。咆哮と共に降下してきて、リオレイアの声が洞窟中に響き渡る。

 気を抜いていたクライン達だが、すぐに意識を切り替え、戦闘の構えを取る。

 

 過去に一度、リオレウスとは交戦したことがあるが、どこまで動きなどのパターンが似通っているかは未知数だった。

 扱う攻撃方法は、リオレウスと共通した火炎ブレスや翼や足の爪、尻尾を利用した肉弾戦であることはわかっている。

 リオレウスと異なるのは、陸の女王の異名にあるように、強靭な脚力を有した地上戦を得意としている。

 ただ、飛行能力が低いわけではなく、飛ぶ頻度が少ないだけで、その能力は飛竜種の中では群を抜いている。

 地上戦を主としながらも、飛行能力を活かした攻撃をしてくる。

 最も注意すべきは、毒を有した尻尾によるサマーソルト尻尾攻撃だ。

 地上で横方向に薙ぎ払うように行う尻尾の回転攻撃とは異なり、空中に飛んで縦方向に回転して行うサマーソルトは、比べた尻尾の毒と合わせて致命傷になりかねない。

 攻撃範囲、速度共に最も警戒しなけれなならない攻撃となっている。

 

 例のごとく、敵の攻撃傾向などはクラインが調べ、マハトに共有済みだが、その目で見ない限りは対処が難しいのには変わりはない。相対して後は、敵の攻撃パターンを見極めるために立ち回る必要がある。

 

「マハト!このエリアは狭いから、攻めよりも逃げの方に意識しておいて!」

「おう!」

 

 マハトは眼前の雌火竜を見据え、大剣の柄を握る。逃げ優先と言われつつも、隙があれば少しでもダメージを稼いでおきたい、マハトのはやる気持ちが行動に出ていた。

 クラインも注意は促しつつも、マハトの性格は理解しているので、いつでも助けに回れるように立ち回りを構成していく。

 

 地上に降りてきた雌火竜は、クライン達を視界にいれながら、じりじりとマハト達の周りを歩きながら、出方を伺っているようだった。

 下手に動けば、返り討ちにあう危険性もあるため、マハトもまだ剣を抜かずにリオレイアの動向を目で追う。

 クラインはそのやり取りを見つつも、すでに剣と盾を構えていた。いつでも防御の姿勢を取れるために。

 

 リオレイアが足を止め、クライン達の方に身体を向ける。リオレイアの脚がしっかりと地面を掴むのを見て、突進が来ることを予期した二人は、マハトは回避の構えを、クラインは盾を構える。

 

 リオレイアは地面を蹴って、マハトの方に突進してきた。前傾になり顔を突き出しながら、その巨体の重量を全て前方に預けた突進。マハトはすぐさま横に転がり回避する。

 的を外したリオレイアは突進の勢いのまま、前傾のまま地面を滑走する。

 

 飛竜種は前肢が翼になっているため、受け身を取ることが難しい。リオレイアは突進の勢いをうまく殺しきることができずに、地面を滑走しながらその勢いを止めた。

 その隙を狙い、マハトとクラインは攻撃を仕掛ける。がら空きとなる後脚から尻尾にかけた部分に、剣を振り下ろす。

 どの飛竜種も、突進後の隙は大きい。これまでのモンスターの討伐の経験から、それを理解していた二人は合図をせずとも、飛び込んで攻撃をしていた。

 リオレイアが立ち上がるのを見て、二人は攻撃の手を止める。マハトは納刀しながら後退し、クラインは抜身のまま下がった。

 振り返ったリオレイアの口元から炎が漏れ出すのを確認する。それが火球ブレスであることを察知し、二人はリオレイアの前方から左右に散る。この攻撃はリオレウスでも見た攻撃だ。

 やはり、雌雄の違いはあれど、生態的構造は似た部分が多いようだ。

 

クライン達のすぐ横を、リオレイアが放った火球が通り過ぎる。火球の熱が大気を伝わってくるのを感じた。火球は洞窟の壁に当たり、洞窟内を焦げた臭いで満たす。

 

「やっぱり、基本的な攻撃はリオレウスと同じみたいだね。」

「ああ、一度戦っておいてよかったな。」

「同じ火竜だからって油断しないでよ?」

 

 リオレウスと戦った3年前と比べ、戦闘中に会話を行える余裕も出てきた。決して油断をしているわけではない。

 戦闘中でも周りを見れる余裕が、この3年で生まれてきた。それが初見のモンスターであってもだ。

 

 ブレスを打ち終わり、次の攻撃に移るリオレイアをいなす。

 尻尾回転攻撃や、噛みつき、突進などその巨躯を活かした攻撃を展開するリオレイアに対して、クライン達は冷静に対処しながら、隙を見つけてダメージを与えていく。

 

 ハンターに成りたてだったマハトは、敵の攻撃を喰らうことがよくあった。

 後隙を狙わず、とにかく攻撃を当てることが、正攻法だと信じていたいからだ。

 しかし、被弾が増えれば、ロスも増える。

 攻撃を食らった反動から立ち直るまでの時間。回復薬を飲む時間など。結果的に効率は悪かった。

 

 その欠点に気が付けたのは、クラインと狩りをするようになってからだ。

 クラインはマハトとは対照的に、慎重に狩りを行う。二人の間で基本的な立ち回りとなっているヒット&アウェイは、クラインが実践していたことだ。

 

 だが、クラインは慎重なあまり、手数を稼げないことが欠点だった。本来、片手剣は手数がメリットの武器である。それを活かせていないことを、クラインは自覚していた。

 クラインとは対照的な大剣という武器を扱うマハトは、勇猛果敢に敵に立ち向かう。二人の武器が逆であれば、それら欠点を補えたのだろうが、ハンターにとって武器を変えることは至難のこと。

 

 クラインはそんな欠点を、マハトの動きを見て克服していった。手数を増やすための立ち回りと、マハトのサポート。機敏に動ける片手剣だからこそ、相手を翻弄し、マハトの攻撃の隙を作る。

 3年間、二人で狩りをしていく中で自然とできた役割分担であった。一人で立ち向かうには、恐ろしい飛竜もマハトとなら自然と自信が沸いていた。

 そうして、ハンター歴3年で雌火竜に挑めるまでになった。着実に一つ一つの依頼を成功させていった結果だった。

 雌火竜の討伐は、ハンターにとって一つの区切りとも言える依頼でもあった。

 

「このまま押し切るぞ!」

「うん!」

 

 初めての相手とは言え、効率的にリオレイアを弱らせている感覚があった。決してそれを油断などはしていない。

 そのはずだったが、相手は陸の女王と呼ばれる生態系の頂点に君臨する生物である。クライン達の猛攻を、何もせずやり過ごすことなどしなかった。

 攻撃を続けるクライン達に、リオレイアの怒りが頂点に達する。口から火炎と僅かに黒煙がこぼれだしているのが見えた。クライン達の攻撃を気にせず、リオレイアはその場で咆哮を上げる。

 

「ぐっ…!」

 

 咄嗟に耳を塞ぎ、身体が硬直してしまう。その硬直の隙を狙い、リオレイアがサマーソルトを仕掛けてきた。硬直が解けてすぐに、二人は身体を投げ出し回避する。

 サマーソルトに勢いよく振られた尻尾から毒液が分泌され、それがビチャビチャと音を立て、地面に飛んだ。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

 幸い、動きに反応してすぐさま回避にできた。しかし、横回転の尻尾攻撃と比べ、サマーソルト攻撃の方が、威力が高いことを感じる。

 

「今のが…、サマーソルト?」

 

 リオレイアが着地してすぐさま、クラインに向かって火球をはいてくる。地面に倒れこんだ身体を無理やり動かして、火球を寸前のところで躱す。さらにその隙を逃さないよう、リオレイアはすぐに突進を繰り出してきた。

 

「まずい…全然、攻撃のタイミングが…。」

 

 モンスターは一定時間戦っていると、怒り状態となる傾向にある。この時の攻撃の速さや威力などは格段に増し、通常時と同じ感覚で戦っていると、すぐに攻撃をもらってしまう。

 これまで通りの動きが、一瞬で通用しなくなる。

 

「クライン!大丈夫か?」

「ぎりぎりっ!」

 

 突進で体勢を崩したリオレイアが立ち上がるのと同じタイミングで、クラインも立ち上がる。一気に劣勢にまで追い込まれる。

 

「これじゃあ、隙が無い!なんとかして足止めしないと!」

 

 マハトはポーチから閃光玉を取り出す。これであれば、強烈な閃光でモンスターの視界を奪って、一時的に行動を制限することができる。

 タイミングを見計らい、リオレイアがマハトの方を向いたところで、前方に閃光玉を投げる。

 

「いまだ!」

 

 瞬間、洞窟内をまばゆい閃光が照らす。クライン達は目を閉じ、閃光をやり過ごす。リオレイアは閃光で頭が眩んで、その場でじたばたと暴れ出す。視界が奪われたことで、パニック状態になっていた。

 だが、クライン達は近づくことを躊躇う。普通であれば、この閃光で視界が奪われた状態の時は、攻撃チャンスなのだが、暴れまわるリオレイアに近づくことができずいた。

 

「一旦、怒りが収まるまで、この場を離れよう!」

 

 クライン達は、最も近い出口であるエリア6に繋がる道へと走っていった。

 

 

ーーーエリア6ーーー

 

 リオレイア達の巣である窟に繋がるもう一つの道が、このエリア6であった。絶壁があるエリアで、崖を伝う移動を必要とする。

 崖を除けば、非常に狭い広場が最下層にあるため、モンスターもあまり出現しない。山脈が続く中に空間がぽっかり空いてできたエリアであった。

 標高は高いので、最上層から飛び降りることも可能である。

 

「一旦降りて、迂回してもう一度、巣に戻るか?」

「ここで待機してもしょうがないもんね。こんなところに突っ立ってたらいい的だ。」

 

 クライン達は、このまま巣に戻らずに、時間を置く意味でも、エリア6からエリア2に出て迂回して戻るルートで行くことを決めた。

 崖を降りようと、着地する足場を見定めている途中、一瞬、太陽の光が遮られ影になった。それに反応し、同じタイミングで二人は空を見上げた。

 

「ちっ、もう追ってきやがったか…!」

 

 空にはリオレイアが滑空する姿見える。逆光で鮮明ではなかったが、大きな翼を広げた飛竜の姿がそこにはあった。

 

「ここで戦ったら埒があかない。さっさと下に降りよう!」

 

 クラインは急かすように言った。すると、洞窟の方からリオレイアの咆哮が聞こえてくる。

 

「えっ…?」

 

 咆哮を聞いて、二人はもう一度、空を見上げた。空を舞っている姿は間違いなくリオレイアのそれだった。だが、後ろから聞こえてきた声も間違いなくリオレイアのものである。

 

「まさか…?」

 

 空を駆る黒い影が、こちらに向けて急降下してきた。太陽の反射角が変わり、その影の姿が鮮明になっていく。浮かび上がってきたのは、赤い甲殻に身を包んだリオレイアと瓜二つの姿である。

 

「リ…リオレウス!?」

 

 リオレイアかと思っていた影の正体は、リオレイアと対を為す雄火竜リオレウスであった。リオレウスはクライン達目掛けて、勢いよく滑空してくる。

 回避しようにも、クライン達がいる最上部付近には、逃げれるような隙間もない。かといって、再び洞窟の中に戻っては、怒り狂ったリオレイアの恰好の的である。

 

「飛び降りるぞ!クライン!」

「う、うん!」

 

 リオレウスがこちらに達する前に、マハトとクラインは勢いよくジャンプし、約20m強の崖を飛び降りる。降下中、頭だけを動かして、迫るリオレウスの姿を追った。

 突進の勢いで急旋回することもできず、リオレウスはクライン達が元居た場所に着地する。それを確認し、クラインは着地点に目線を戻す。

 

 膝をタイミングよく曲げ、落下の衝撃を吸収し着地した。再び、上空を確認すると、リオレウスはすでに飛び立ち、こちらに向かってきているようだった。

 

「さっさとこのエリアから逃げよう!」

 

 焦った口調でマハトが言い、二人は全速力でエリア6の出口を目指す。だが、リオレウスの滑空スピードの方が早く、いとも簡単に追い抜かされ、出口を塞がれてしまう。

 着地したリオレウスが「逃がさん」と言わんばかりに、クライン達に向けて威嚇行動を繰り返す。

 

「こんなん逃げ切れんのかよ…!?」

 

 マハトは大剣を抜き、クラインも剣を構えた。

 エリア6の崖下には広場があるが、かなり狭い。リオレウス一頭だけで半分以上埋まるくらいの広さである。

 ここでモンスターとの戦闘は、現実的ではない。それゆえ、体格の大きいモンスターにとって、この場は恰好の場所だろう。それをわかっているのか、リオレウスは下手に飛ばずに、じりじりとクライン達を追い詰める。

 

「万事休すだな…。こんなところで、まともに戦えるとは思えねぇ…。」

「なんとかして逃げ出す機会を作らないと…。でもどうやって…。」

 

 エリア6の出口が塞がれた今、もう一つの道はエリア5に繋がる最上部の道。だが、リオレウスに背を向けて崖を登ることなどできるわけもない。ましてや相手は空の王者と呼ばれる飛竜だ。空中で逃げ切れるわけもない。

 考えている間もなく、リオレウスが火球ブレスを放ってくる。クラインとマハトはギリギリで反応し、ブレスを避け、二人の横を通り過ぎた火球は、後ろの岩壁に衝突した。

 焦げた臭いを残し、火球が消滅し、辺りの草木をチリチリと焦がす。

 

「こんなの…、攻撃を避けるだけでいっぱいいっぱいだ…!」

「場所が悪すぎる。なんとかして、この場から逃げないと!」

「逃げるたってどうやって?」

 

 リオレウスは出口の前から動かずに、こちらをけん制している。他のモンスターと比べ、知能が高いのか、無暗に攻撃を仕掛けてくる素振りは無かった。隙を作るとしたら、閃光玉などのアイテムを使って突破口を開くしかなかった。

 以前、隊商の護衛任務の際にも、似たような状況に陥った。その時も、クライン達を逃がさないよう、エリアを移動せずにとどまっていた。

 獲物を仕留めるための本能か、リオレウスは他のモンスターよりも手強いのは間違いなかった。

 クラインは、以前にリオレウスと相対した時のことを思い返していた。

 

「マハト…。隙を作るから、まずはマハトが先に行ってくれ…。」

「バカ!?置いていけるわけ…。」

「前にもやったろ?あれと同じことをやる…。」

「なるほどね…。すっかり忘れてた。確かに状況はあの時と一緒だ。」

 

 活路を見出した二人は、リオレウスの方を向く。クラインはポーチに手を入れ、閃光玉の感触を確かめる。

 マハトは大剣の柄に手を掛けた。

 

「俺が、引き付けておく。その間に頼むぞ!」

 

 マハトはリオレウスに向かって駆けだす。駆けだすと言っても、距離はほとんどない。すぐに抜刀し、リオレウスに斬りかかる。

 頭を狙ったつもりが、リオレウスはすんでのところで首を動かして、マハトの振り下ろした剣を躱した。

 リオレウスはそのまま回転し、尻尾を振り回す。

 動作を見て、マハトは振り下ろした大剣を引き上げ、そのまま剣の腹部分を、迫る尻尾の咆哮に向ける。

 

ーーーガキンっ!

 

 リオレウスの硬い甲殻を纏った尻尾が、大剣の腹に直撃し、受け止めた衝撃でマハトは後方に少し飛ばされる。

 尻尾を振り終わって、再び正面を向いたリオレウス。そのタイミングでマハトは一度、顔の前から離れた。

 

 リオレウスは後ずさりしマハトと少し距離を取ってから、火炎ブレスを吐く。直線状に放たれる火炎ブレスを避け、マハトは距離を詰めた。ブレス後の隙に攻撃を入れていく。

 すぐさまリオレウスが反応し、マハトに対して噛みついてくる。ガキッと歯が擦れる音が聞こえた。その口元から火炎がこぼれ始める。火炎ブレスを吐く前触れだ。

 マハトはすぐさまリオレウスの顔の前から離れるために、横に転がった。だが、マハトの予想と反し、リオレウスはそのまま空中へ飛ぶ。

 

「マハト!上だ!」

 

 後方にいたクラインが声を張り上げた。空に飛んだリオレウスは、そこで滞空しながらブレスを放った。

 再び避けるのは不可能と判断し、すぐさま大剣をだし、防御の姿勢を取る。大剣の腹にあたり、高温に包まれるマハト。霧散していく火炎と一緒に焦げた臭いが漂った。

 

「あっつ…!」

 

 マハトは致命傷こそ無いが、盾を貫通し軽いやけどを負う。だが、狩りに支障が出るほどではなかった。

 滞空するリオレウスを見て、クラインは閃光玉を投げるために、ポーチから取り出した。

 同時に、クラインの頭上でモンスターの咆哮が鳴り響く。不意を突いた咆哮に、身体が硬直する。

 

「まさかやつまで…!?」

 

 空中には、先ほど戦っていたリオレイアの姿があった。リオレイアはクライン達を挟み込む位置に降り立ち、狭いエリア6に袋小路状態になってしまった。

 一対の火竜がクライン達を挟み込み、火竜たちの顔がすぐ近くに迫るほどであった。

 

「嘘だろ…?こんなのもう…。」

「マハト!落ち着いて!」

 

 こんな至近距離にいては、閃光玉を投げるのも難しかった。閃光玉は投擲後、数秒の間が必要だった。およそ1秒ほどではあるが、投げるとなると、それなりの距離が居る。この距離で投げたとして、破裂するころには、二体の視界を外れることになる。

 

 状況が悪化したことにより、マハトは冷静な判断ができなくなっていた。この状態を脱しようと、マハトは独断で出口方面に走る。

 

「くそやろぉぉぉ!」

「マハトっ!!行くなっ!」

 

 クラインの静止を聞かず、マハトはリオレウスの元へ走っていってしまう。

 迫るマハトに合わせるように、リオレウスが尻尾を振った。その尻尾がマハトの身体を直撃し、大きく吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされたマハトはすぐ近くの岩壁に、背中から衝突する。衝突の瞬間、吐血し、そのまま地面に倒れた。

 クラインは一瞬の出来事で、状況が理解できずにいた。ピクリとも動かないマハトを見て、悪寒が走る。

 

「マハト?」

 

 その時には、もうリオレウスの姿など確認する余裕もなかった。

 クラインはマハトに駆け寄ろうと走り出す。それを見たリオレイアがクラインに向けて火炎を放った。

 クラインは背後に迫る火炎に気付かず、背中に火炎が直撃した。鈍い衝撃と高熱がクラインの身体を包み込む。

 背中が焼ける痛みを感じ、衝撃で地面に倒れこむ。視線の先には、マハトの姿が見える。

 

ーーーま…ずいっ…このままじゃ…。

 

 朦朧とする意識の中で、2体の火竜の咆哮を聞いた。視界が霞み、霧のようなものが視界に充満する。

 クラインの意識はそのまま遠のいていった。

 

 

ーーー???ーーー

 

 身体に伝わる振動と背中の痛みで、クラインは意識を覚ます。目を開けると、視界は揺れており、その振動が馬車によるものだと気が付くのに数秒の間があった。ぼんやりしていた頭が、次第に覚醒していく。

 防具を着ていないことに気が付き、代わりに包帯が巻かれていた。背中に感じる痛みで、クラインは気を失う前の出来事を思い出す。

 

「そっか…。俺後ろから攻撃喰らって…。」

 

 背中のヒリヒリとした痛みは、リオレイアの火球をモロに食らったものだろう。比較的高い火耐性を誇るクック装備でも、直撃すればタダでは済まない。まだ、命があってよかったと安堵した。

 

「目覚めたか。クライン。」

 

 薄暗い馬車の奥からマハトの声が聞こえた。

 

「マハト!?よかった!マハトは大丈夫だったか?」

 

 クラインが最後に見た光景が、地面に倒れるマハトの姿だった。リオレウスの尻尾の攻撃をもろにくらってしまい、その反動で壁に打ち付けられていた。これも、防具を着込んでいても、怪我は免れない。

 

「お前ほどじゃない。前進を強く打ち付けたくらいで、ヒビも入ってねぇよ。」

「よかった…。いつっ!」

「大丈夫かっ?」

「いてて…。背中にモロに食らったんだよね。思い出した…。これ、火傷してる?」

「そこまで重症じゃないだろうけど…。」

「マハトが処置してくれたの?」

「簡単にな。支給品の薬漬けて包帯で巻いてるくらいだ。」

「ありがとう。」

 

 少しの沈黙が訪れる。今はギルドが手配した馬車の中だ。ココット村までは半日もしないくらいで帰れるだろう。

 つまりこれに乗っているということは、依頼は失敗したということだ。2人が重傷を負い、戦線復帰は不可能なので、帰還は当然だろう。

 依頼の失敗はいつ以来だろうか…。とクラインは考える。

 思えば、ハンターとなり、マハトと一緒に狩りに出るようになってから失敗して帰還したことはない。

 自信の実績を誇るつもりもないが、やはり失敗は悔しかった。

 

「全然、歯が立たなかったな。」

 

 マハトが伏し目がちに言う。マハとも悔しさを感じているのだろう。クラインも同じ気持ちだった。

 リオレウスの乱入や、場所の悪さも加味しても、仕方ないように思える。

 しかし、そういった状況もこれまで、何とか打破できていた。クラインの冷静さと、マハトとの連携はそういった状況を打破するには、バランスが良いと思っていたからだ。

 だが、今回は、続くトラブルで何もできずに一方的にやられた。

 

「きっと村長はしょうがないって言うんだろうけどさ。そうじゃないよね。」

「あぁ…。」

 

 馬車の揺れが沈黙を満たす。小窓から外をのぞくと、見慣れた景色が見えた。ココット村まではあと数時間くらいだろうか。

 広大な平原に山脈が連なる景色が見える。遠くに見える景色は飛竜だろうか。

 

「ミナガルデでは、あいつらの2体同時討伐の依頼とかもあったんだ。」

「火竜を2頭も!?まぁ、あり得なくはないか…。けど、それを狩れる人達って…。」

「ハードクラスのハンターとかだろうな。今回の依頼も、俺たち以外に流れるんだろうな。」

「そうだよね…。」

 

 悔しさをにじませて、帰路に着く二人。それから、ココット村に帰るまでに、二人の間で会話が生まれることはなかった。

 

 

ーーーココット村ーーー

 

「クライン達が失敗したって…。」

「火竜が乱入してきたらしいぞ。ギルドの観測はどうなってんだが…。そりゃ仕方ねぇよなぁ。」

「俺なんか、イャンクックの討伐依頼に出たら、フルフルに遭遇してリタイアしたことあるぜ?」

 

 そんな会話がどこからともなく聞こえてくる。

 破竹の勢いで依頼をこなしていたクライン&マハトペアの動向は、同郷のハンター達にとっても注目の的で、クライン達よりも年上の先輩ハンターですら、応援する気持ちが芽生えていたほどだった。

 一部のハンターは、クライン達の失敗を喜ぶ者もいるだろうが、それでも過半数はクライン達の失敗を残念がる者がほとんどだった。

 

 「仕方がない」。皆が口にしていた。

 討伐に出向いて、討伐対象外のモンスターと鉢会うなど、ハンターをやっていたらよく起こることである。

 それゆえに、大半のハンターは「仕方がない」で片づけていた。

 だが、その言葉を最も過敏に受け取っていたのはクラインとマハト達である。

 

 クラインは4年目、マハトは5年目を迎えたハンターだ。これまでノーマルランク帯のクエストをこなしてきて、着実に成長を続けていた。

 ハンターとしてそれなりにステップアップを重ねてきて、ハード帯への昇格も視野に入る時期である。

 

 もともと、クラインは村のためになれば良いという意識の元、依頼をこなしてきた。

 向上心の強いマハトと共に依頼をこなし、様々なモンスターの生態を知っていく中で、クラインの中にはハンターとして、より上に行きたいという気持ちが強くなっていた。

 それは名誉や名声といったものでは無い部分は最初から変わりはない。

 だが、ハンターとしてより上に行きたいという気持ちはあった。

 

「クラインさん達と話したか?」

「いや、まったく。とてもじゃないけど、声なんて掛けられる雰囲気じゃなかったよ。」

「そうだよなぁ。」

 

 酒場の話題がクライン達一色で染まる中、クライン達からハンター業を指南してもらっていたマルクスとティモも例外なく、クライン達のことを話していた。

 彼らはメルチッタという村出身のハンターだ。メルチッタにもギルドの出張所が設けられていたが、1年前にココット村に移住してきた。

 ココットに伝わる英雄の伝承はメルチッタにも伝わっている。その英雄の興した村に興味があったからだ。

 

 彼らには、憧れとするハンターがいた。約10年前、メルチッタに迫る古龍《幻獣キリン》の討伐に出向いて、その命と引き換えに、村を守った英雄だ。

 そんな英雄の背中を追うために、ハンターを続けている。その過程で出会った、ハンターの師と呼ぶべきクライン達の失敗は、彼らにも大きなショックを与えていた。

 

「別に失敗したから、どうとは思わないんだけど…。」

「当人たちが一番気にするよなぁ。」

 

 酒場で簡単な食事を食べながら、マルクス達は話し合っていた。

 酒場内をせわしなくギルドの従事者であるギルドガールが駆け回る。ハンターに提供する食事を持ち、ハンターが持つ武器やら防具、商人の大きな荷物が乱雑に床に置かれ、より狭くなった酒場内を慎重にかつ早く抜けていく。

 

「飯にでも誘うか?」

「そんなあからさまな…。多分、気は使われたくないんじゃないかなぁ。」

「とは言ってもなぁ…。俺たち一応、弟子だぜ?去年、マンツーで教えてもらってたろ?おかげでイャンクック討伐もできた。」

 

 マルクスとティモがハンターになって今年で2年目。去年一年は、基本的な狩りの立ち回りや、採取や採掘で取れるアイテムの勉強など、ハンターが知っておくべき基礎的なことを叩きこんでくれた。

 そして、今年の春ごろ。初のイャンクック討伐に出向き、クラインの助言があったおかげで何とか狩ることができた。

 

 ハンターに成りたてで、ココット村に来たばかりのころは、ドスイーオスにすら余裕がなく苦戦を強いられていたほどだ。

 わずか一年でも変わるものだと2人は実感していた。

 それも、クライン達の助力あってこそである。何かしないわけにも行かなかった。

 

「まずはクラインさんのところに行かない?あの人なら、そんなに怒らないでしょ?」

「た、確かに…。マハトさんは怒りそうだからな…。」

 

 一年間、師事していたおかげで、二人の性格も把握していた。

 マルクス達は、酒場の食事を綺麗に平らげ、支払いを済ませ、外に出た。

 外に出ると、酒場の出入り口の横に設けられたタルの上に、ちょこっと座るいつもの村長の姿があった。

 

「おお、マルクス、ティモ。ごきげんよう。」

「ごきげんよう。村長。」

 

 この村長が、かの有名な《ココットの英雄》である。

 いつもタルの上に腰かけているよぼよぼの竜人族のおじいちゃんだが、かつては凄腕のハンターだったと聞く。

 初めて会ったときは、このおじいちゃんがあの《ココットの英雄》だということが信じられなかったが、竜人族と言えど人。歳をとれば誰しもこうなるだろうと思い、自然とその違和感は消えた。

 

「今からクラインさん達のところに行こうと思ってるんですが、どんな様子でした?」

「おお、ちょうどええ。それなら頼みたいことがある。」

「頼みたいこと?」

「うむ、これじゃ。」

 

 そう言って、村長は一枚の依頼用紙をマルクスに渡してきた。

 

「え?これって…。」

 

 

ーーーココット村 クライン宅ーーー

 

 クラインの家は酒場の前の道を挟んで、すぐのところにある一軒家だ。村の中心地に位置し、村の中でも比較的大きな家である。

 クラインの両親がココット村に移住してきた際に、この家があてがわれ、それ以来はクルーガー家の家となっている。

 昔からハンターに貸し出す家の用で、備え付けのアイテムボックスや武器や防具を掛ける棚など、設備が充実している。

 今は全く使っていないが、家の奥には大きなキッチンとテーブルもあり、何人か呼んで食事を取ることもできる。

 その内、給仕用のアイルーでも雇ってみるかとクラインは考えていたが、それがいつになるのやら、今はもう検討が付かない。

 

 クラインはベッドに横向きに寝転がっていた。背中の火傷が痛むので、仰向けで寝るのが難しい。傷を労わるようにしながら、ボーっと思考を巡らせていた。

 

 クラインは失敗した狩りの記憶を思い起こしていた。

 エリア6に集結した火竜の番。それに阻まれるクラインとマハト。

 猛攻は突き、雌火竜の火球がクラインを襲う。

 

 思い返すと、恐ろしい出来事である。あの場で力尽き、気を失って命があるのが奇跡と言える。

 気が無くなる直前に見えた白い煙は、きっと《けむり玉》だろう。救助のために待機していたネコタクアイルーが使用したものだと思われる。

 ネコタクアイルーがどのようにして、ハンターを救助しベースキャンプまで運んでいるのか、気を失っているので見る機会はないが、状況に応じて、その場から逃げ出す術はたくさん持ち合わせているのだろう。

 

 こうして、思い返しても、反省点は多い。

 まずは、閃光玉しかアイテムを持ち込んでいなかったこと。アイテムの持ち込みはポーチのキャパの都合上、制限はあるものの、不測の事態に備えて、もっと持ち込んでも良かった。

 それこそ、ネコタクアイルーが使った《けむり玉》である。他にも、不都合な場所で戦闘を強いられたときに、強烈な異臭でその場から退散させるための《こやし玉》など。

 ハンターが使えるものはたくさんあった。

 あの時、閃光玉しか頼れるものがなく、おまけに空間が狭いのもあり、使うことが難しくなっていた。すべてを用意するのは難しいだろうが、それでもやれることは他にもあった。

 

 火竜に慣れていないのももちろん要因に含まれるが、それを補うだけの準備はできたはずである。

 寝ながらアレコレ考えていると、まるでいつも作戦を立てるように、段取りを考えはじめるクライン。

 この狩りの段取りを考えているときは楽しい。そしてそれがうまくはまった時の爽快感。そうやって、作戦をこなしながら、大きなモンスターを倒すことの達成感と緊張からの開放感。

 

 生命を奪っておきながら、気持ちいいというのは論理的にどうかと思う時もあるが、ハンターの魅力はそこにもあるように感じていた。

 

 クラインは、もう一度、火竜2体討伐を想定して段取りを考え始めた。

 すると、家の玄関口の方からマルクス達の声が聞こ得てきた。

 

「クラインさん!!いますか!?」

 

 トントンと優しくノックしていたほどが、ほどなくして少し強めに叩くノック音に変わる。

 クラインは最初、心配して訪ねてきてくれたのかと思い、その気遣いの優しさを感じた反面、気を使われていることの、申しけなさの二つの感情を抱く。

 ほどなくして、ベッドから起き上がり「は~い」と返事をして玄関口に向かった。

 

「心配して見に来てくれたのか?」

 

 玄関から外に出ると、マルクスとティモの姿があった。

 だが、その2人の表情はなぜか笑顔である。

 

「クラインさん!これ!!」

 

 そう言って、マルクスは勢いよくクラインの顔の前に、さきほど村長から受け取った依頼用紙を見せる。

 顔に近づけすぎて、何も見えなかった。

 

「おいおい!近すぎっ!」

「あ、す、すみません!」

 

 クラインの顔から紙を遠ざけて、そのままクラインに渡す。

 クラインは、渡された依頼用紙の内容を拝見する。

 渡された用紙の依頼内容を見ると『火竜リオレウスと雌火竜リオレイアの狩猟』と書いてあった。

 

「え?これって、あの2体の狩猟依頼の用紙?さっそく依頼化したのか…。」

「クラインさん達のです…!」

「え?」

「村長から渡された、クラインさん達の昇格を掛けた緊急依頼ですっ…!」




【重力について】

モンハン世界において、長年議論の対象となっている「常軌を逸した高さから落ちてもハンターが無傷問題」をしれっと、何事もないように作中では表現しています。

エリア6にて、リオレイアから逃げるために、高所から飛び降りるシーンです。公式の設定準拠でやらせてもらってる、この物語ですが、流石に作品にする以上、ある程度の設定は設けないといけないと思い、この作品上では重力加速度を「1.5㎨」としています。
月と同じくらいの重力です。

これは地球の重力の1/6の重力です。地球の重力加速度が「9.8㎨」です。

色々な事象を説明するうえで、"重力を地球よりかなり軽く"することで、色んな事が説明できるので、この設定にしました。ギリギリね。

自分の背丈以上の武器を平然と振り回すこと。
全身鉱物のグラビモスが飛べること
ラオシャンロンが歩いても地形がそんなに変わらない
などなど

モンスターの質量やら具体的な設定はわからないし、決めるつもりもないんですが、これで説明つくかなと。
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