護衛が道   作:豊秋津

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No.001 ゼノ×邸宅

「...はぁ...はあ...余裕、ってやつですか?

暗殺者が正面から来るなんて」

 

「いやなに、依頼人が余計な事をしてくれたのでな、儂も好きにさせてもらおうと思っての」

 

 都会の宵闇。豪邸。そして、その庭で対峙する2人の男。

 一方は、駆け出しの若いボディ一ガード、マシロ=シロギヌ。もう一方は、世界一の暗殺一家の前当主、ゼノ=ゾルディック。

 マシロは肩で息をしながらも、少し離れた背後の木の陰に身を隠す護衛対象を意識に入れながら、油断なくゼノ=ゾルディックを睨む。

 

「意にそぐわぬ依頼人なら、退いてくれると...ありがたいんですけどねっ」

 

 そう言いつつマシロは接近戦を仕掛ける。

 左手の銃で牽制しつつ、右手のナイフで斬りかかる。

 

「そういう訳にはいかん。いい依頼人ばかりではない中で、それでも依頼をこなすのがプロというもんじゃ」

 

 激しい応酬の中で交わされる会話。マシロが攻めている様に見えても、精神的優位はゼノにあった。

 鋭く迫るナイフを身を屈めて避けるのと同時に足払いをかけるゼノ。マシロは跳んで回避する。そこに叩き込まれる攻防力を高めたゼノの蹴り。

 素早くコンパクトながらも絶大な威力を秘めたこの蹴りは、念能力者といえども並の者が受けたならそれだけで行動不能に陥る程のものだった。

 だがマシロは瞬時に凝によって防御力を集め完璧にガードしてみせる。

 

 再び離れる両者の間合い。

 

「ほぅ…」

 

 思わず漏れるゼノの感嘆の声。ゼノにしてみればマシロはまだまだ未熟で、隙もちらちら見て取れたものの、今見た流の技術。それは、才能の大きさを感じさせられるものだった。

 

「お主、年は幾つじゃ?」

 

 突然投げられる殺し合いの場に似つかわしくない質問。

 マシロは痺れる左腕を気取られないようにしつつ、間を置くために答える。

 

「……19」

 

「ほぅ、19! その若さでその技量。いや、実に見事じゃ。」

 

 ゼノは愉快だった。

 仕事前、依頼人が暗殺対象の恐怖を煽って楽しむために、ゾルディック家を雇ったと告げていたのだが、その事への不愉快さはもう消えていた。

 代わりに感じるのは、若い才能を前にした高揚。

 この闘いを生き延びることが出来たなら、この若者にとって何より得難い経験になるだろう。

 

「どれ、少しばかりワシの本気をみせてやるか」

 

 ゼノの右腕に生み出される、オーラの龍。

 未だ頭しか見せていないが、その偉容にマシロは肌が粟立った。いくら上手く防御しようとも、くらえば深傷は免れない。

 明確に形を取り始めた死。

 

 “牙突(ドラゴンランス)!!!”

 

 猛然と迫り来る龍の咢。

 全力で回避するマシロ。が、龍は追従して向かってくる。

 龍を自分ではどうこうできないと感じたマシロは、操者たるゼノに向かって走り出す。

 自分を貫こうとする龍からの致命傷だけは避けながら、傷だらけになって彼我の距離を詰めていく。

 その距離が一息になった時、ゼノは伸びきった龍を消し、左腕に新たな龍を作って迎え撃つ。

 ゼノをもってしても、決着を確信する必殺の間合い。

 

 “天狐の産衣(ガーディウス・ウォール)!!!”

 

 マシロを貫くかにみえた左腕の龍は、突然現れた壁に行く手を阻まれる。一瞬後には壁を砕きその勢いを再開させるも、既にその場にマシロの姿は無く、龍はただ前進して行く。

 驚愕するゼノ。

 マシロは壁の反動を利用して、その身をゼノの左側に潜り込ませた。

 全弾発射され尽くす銃弾。

 

「グゥ……ッ…!!」

 

 周によって念を纏ったそれは、瞬時に龍を消し防御に回ったゼノをしても無傷というわけにはいかなかった。

 二度目は無い勝機を掴んだマシロは全力で中段蹴りを放つ。

 吹き飛ぶゼノ。

 灌木を突き破り、手入れされた花壇を荒らし、その先の庭石にぶつかる。

 

「……ハァ……ハァ……ッ」

 

 マシロは、座り込みたい衝動に駆られながらも、どうにか身を奮い起たせて油断無く前を睨む。

 

 と、背後に感じる気配。

 振り返ると、震えながらもマシロに言われた通り隠れている護衛対象に迫る小さい人影。

 よく見ればおかっぱの子供で、その手にはナイフが握られている。

 

「ッ……!」

 

 マシロは慌てて能力を発動する。

 心臓にナイフが突き立てられそうになる寸前、護衛対象のスーツの襟のバッジ、そこにあった小さな宝石がさらさらと砕ける。

 そして現れる透明な壁。

 

「なに!!」

 

 勢い余って弾かれるナイフ。壁には傷一つ付いてはいない。

 

「ッ!」

 

 マシロの接近に気付いたカルトが反撃しようとするが、腕を取られ首に手刀を落とされて気絶する。

 

「どうです? ここは一度退いてくれませんか?」

 

 歩いてこちらにやって来るゼノに向かってそう問いかけるマシロ。

 

「はあ…見学だけさせるつもりだったんじゃがのォ。後で躾け直さねばなるまいて」

 

 ところどころ服がほつれ、汚れてはいるものの、先程のマシロの猛攻が嘘のように、ゼノ自身はいたって元気だった。

 カルトの首元に突き付けられているナイフを一瞥し、嘆息する。

 

「ま、仕方があるまい。可愛い孫の命じゃ。ここは、一度態勢を立て直すとするかのォ」

 

 腰が抜ける様に倒れながら安堵する護衛対象。

 

「じゃが、それは一時的にじゃ。依頼が無くなった訳ではないのを覚えておくことじゃ」

 

 そう言ってカルトを受け取ったゼノは、消える様に立ち去って行く。

 

 

「はぁ~~~。助かった」

 

 緊張の糸が解け安堵するマシロ。

 

(あれが上から数えた方が早いっていう実力者か……)

 

 皮肉な事に、カルトの乱入が生死を分ける分水嶺だった。そうでなければ自分は死んでいたと確信させるだけの力の差をマシロは痛感していた。

 それでも命は拾えたと気を取り直す。

 

「さて、ランバートさん。休んでる暇は無いですよ。

 死なないためにもゾルディックに暗殺を依頼した奴に話をつけに行かなければ」

 

 そう言ってマシロは護衛対象に肩を貸して屋敷に向かって歩いて行く。

 

 きっとゼノは、今回の暗殺依頼は依頼人の方から取り消されると予感しつつも立ち去って行ったのだろう。

 将来有望な若者に敬意を表して。

 

 

 そして、この日を境にしてマシロ=シロギヌの名は裏社会に轟き始める。

 世界一の暗殺者から依頼人を守り抜いた只一人の人間として。




 ずっと読み専だったのですが、申し訳ないと思い、自分も書いてみました。
 初めて小説というものを書いたのですが、ウンウン唸りながら7時間かかって出来たものは、たったの2500字弱。
 難しいっすね……。

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