護衛が道   作:豊秋津

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3話投稿の3話目です。


No.011 救出×地獄

 ポックル達に忠告を受けた調査チームだったがそれで素直に帰るという者はおらず、むしろキメラアントの新種を調査出来る第一線に居ることに気炎を上げていた。

 しかし、そんな調査チームの意気を挫く出来事が起こる。

 いつもの様に森を探索していた時の事だ。ベースキャンプのある村からかなり離れた場所を探索していると、遠くの空に一団となって飛ぶなにかの群れを見つけた。視認出来る所まで近づいた調査チームは戦慄した。

 異形の生物達が大勢の人間を運んでいたのだ。

 人間は誰もがぐったりとした様子で、この先彼らが愉快な事にならないのは容易に想像が出来た。

 調査チームが受けた衝撃は如何程だっただろうか。キメラアントの新種に出くわしても1体や2体ならば問題にならないと考えていたのが、人間を運ぶ大群を前にして、とてもではないが事態は自分達が想像していた規模を遥かに越えていることを思い知ったのだ。

 村に戻った調査チームはその事をロセスに報告して、すぐに帰国の準備を始める。それを聞いていた村人達は浮き足立つ。マシロが倒した蟹に似た生物を見ているために、その同類が大群で人間を襲っていると聞いて恐怖したのだ。"自然のままに”というNGLの理念に共感していようが自分の死を前にして恬淡と受け入れられるかどうかは別の話だ。

 村人の中でも一際怯えているのはクルトとレイナだ。何しろ実際に一度襲われたのだから、当然のことだった。

 マシロはそんな兄妹を見てみぬ振りをすることは出来ず、ロセス達を国境まで送ったらまた戻ってくると約束を交わした。

 夜の行程は控え、次の日の日の出と共の出発となった。

 NGLの案内人とマシロが先頭になって、国境までの最短距離をなるべく休憩を取らずに急いだ。そして翌早朝、一行は国境の検問所に無事到着する。

 調査チームが検問所の人間に事態のあらましを懸命に説明するが徒労だった。NGLの理念が邪魔をして「それは大変だ」と言うだけで誰も対応しようとはしない。諦めた調査チームは、然るべき機関に通報するために国境を越えた。

 ロセスとの護衛契約を完了させたマシロは来た道を取って返す。

 案内人を断り、馬にも乗らずに走り出す。調査チームがキメラアントを見た地点がクルトとレイナの村から離れていたとはいえ、いつ標的にされるか分からない。

 走っているとマシロの耳に微かに銃声が届いた。

 立ち止まって方角を確認する。

 進路を変える。

 機械文明を拒むNGLで銃声が聞こえるというのは容易ならざる事だ。キメラアントもそこに居るかもしれない。

 調査チームがキメラアントを見た日は、マシロはロセスと共に村に残っていたために現場を見ていない。そのため、マシロはキメラアントの群れというものを一度自分の目で見ておきたかった。

 山の中を注意しながら走っていると、木陰に隠れるようにして立っている異形の生物を見つける。この間倒した生物とは似ていないが、あれもキメラアントだと思われた。

 幸いそのキメラアントはマシロにまだ気づいていなかった。

 観察しながら、注意して近づいて行く。何かを待ち伏せしているかの様なそのキメラアントの右手には拳銃が握られていた。拳銃を使えるのだとしたら、この間の個体より知能が高いことになる。

 キメラアントの向こう側から誰かの走る音が聞こえてきた。ポックルと名乗ったプロハンターと一緒に居た女性だ。

 何かから逃げるのに懸命な様子で待ち伏せしているキメラアントに気づいていない。

 念弾を放つ。

 女性を撃ち殺そうと拳銃を構えたキメラアントの頭蓋を粉砕して、その後ろの木の幹を大きく抉った。

 

「大丈夫ですか?」

 

 マシロが姿を見せた頃になって、女性はようやく自分がキメラアントに襲われそうになったところを助けられたのだと理解した。

 

「…………他の人たちはどうしたんです?」

 

「な……仲間……殺されてッ、さ、拐われて……ッ。助けないと……!!」

 

「落ち着いて下さい。俺が力になりますから」

 

 気が逸って口が上手く回らなかった女性だが、肩に置かれたマシロの右手の体温を感じて、ようやく落ち着きを取り戻し始めた。

 女性の名前はポンズといい、キメラアントに襲われて仲間を二人殺され、リーダーのポックルは拐われてしまったとのことだった。

 

「どっちに向かったかわかりますか?」

 

 聞けば拐われてからまだ間もない。巣に連れ込まれる前に追い付ける。

 

「え、ええ。……キメラアントを観察して、その巣の場所も分かるわ」

 

「ならば行きましょう」

 

「ほ、本当に大丈夫なの? 奴等の中には念が見えるのもいたわ。第一、奴等は人間とは比べ物にもならない程力が強いのよ。他に助けを呼んでからの方が……」

 

「それでは恐らく間に合いません」

 

 救援を呼びに行って戻って来るまでに何日かかることか分からない。

 ロセス達調査チームが一足早く報告しているだろうとはいえ、部隊を整え国境の人間を説き伏せて再びここに戻ってくるまでに果たしてポックルが無事でいられるかどうか。

 

「この場にいる俺たちだけで、どうにかするしかありません。大丈夫。俺が助けてみせますよ」

 

 ポンズは不承不承頷いた。

 たしかに救援を連れて戻ってくるような余裕はポックルにはないだろうし、何より冷静になってよく見てみればマシロは見たことの無い位の力強いオーラを纏っていた。もしかしたらマシロに出会えたことはこの上なく幸運なことなのかもしれない。

 

 ポックルを拐ったキメラアントの追跡を開始する。

 ポンズ達が襲われた場所とキメラアントの巣の場所を結んだ直線上のどこかを移動していると推測し追跡する。

 しばらくの後、崖下を移動するキメラアントの群れを発見した。6、70匹の群れだ。

 どこかの村を襲ったのだろう、人間を大勢運んでいる。その中にポックルもいた。

 

「い、いた! ……いたけど数が多すぎる。あんなにいたんじゃ、とてもじゃないけど助けられない。…………どうするの?」

 

「奇襲。殲滅」

 

 マシロとポンズは崖の上から眼下の様子を探る。

 確かに数は多いが脅威になりそうなのは、先頭にいる一匹とそれに比べれば大分劣るが、その近くにいる四匹だけだ。

 

「行きます」

 

 そう言うや否や、マシロはキメラアントの先頭に向かって走りだし、崖を飛び降りる。

 ギリギリまで気づかれないように"絶”で気配を絶つ。狙いは先頭の蠍の尾を持つキメラアント。

 踏みつけようという段階になって、何か違和感を感じたのか直前で気づかれる。が、回避は間に合わず、右半身はそのまま潰すことに成功する。

 

「ッッぐぃあ゛!!? 何者……!!!」

 

 まだ息を残していたが、ポンズを襲おうとしたキメラアントから調達した拳銃で頭を撃ち抜く。"周”で強化したそれは難なく頭蓋を貫通し、蠍型を絶命させる。

 

「え、あ!? ……ザザンさ」

 

 蜘蛛型のキメラアントの言葉が終わらない内に、同じように拳銃で殺す。

 自分達が襲われるとは微塵も考えていなかったのか、どいつもこいつも反応が遅かった。

 間断無く残りの三匹も仕留める。ゴリラ型、クワガタ型、特撮ヒーロー型だ。

 その頃になってようやく攻撃に転じるキメラアントが出始めた。しかし、その攻撃もバラバラで統率されたものではない。

 マシロは一匹一匹ナイフで殺していった。

 10分も経たない内に6、70匹いたキメラアントの群れは全滅した。

 

「…………う、嘘、でしょ。……信じられない。一人で全部倒すだなんて」

 

 ポンズが崖の上から降りてきた。その顔は驚愕に満ちている。

 

「ポックルさんはいましたか?」

 

 マシロの言葉に我に返ったポンズはポックルをさがし始めた。

 それを見つめるマシロの顔は暗かった。

 キメラアントを倒してめでたしめでたしとはいかない現実がマシロの目の前に広がっている。

 キメラアントが運んでいたおよそ50人の人間の処遇だ。

 何かの毒によって動けなくされているだけで、ここにいる全員が生きているのだ。

 だが、50人を移動させる手段も無ければ、避難させる場所も無い。よしんばクルトとレイナの村に運び込めたとしても、あの村には50人もの人間の面倒を見る余裕はないだろう。

 どう考えても見捨てていくしかない。頭では分かっていても心が納得出来なかった。

 

「マシロさん! ポックルがいました」

 

 ポックルを背負ったポンズが戻ってきた。

 

「…………分かりました。それじゃ、ここを片付けてから帰りましょう」

 

「え、片付ける?」

 

 マシロは大きくて硬そうなキメラアントの外殻を毟り取った。それをスコップ代わりにして大穴を掘る。

 程なくして出来上がったその穴にキメラアントの死骸を入れていく。

 

「何のためにこんな事を?」

 

「混乱と動揺の誘引。上手くすればキメラアント(奴等)の人間を襲う手を緩めさせられるかもしれませんが、どこまで望めるものか」

 

 一部隊の行方不明がどこまでキメラアントにとって衝撃となるかは分からないが、多少の時間稼ぎのためにマシロは殺したキメラアントを埋め、戦闘の痕跡も消した。

 その行為も完了し、遂に決断しなければならない時が来る。

 マシロはポンズが道の外れの森の中に運んだ人達を見る。

 助けられる命と助けられない命がある。そう自分に言い聞かせてマシロは50人の人間を見捨てた。

 木々を被せてキメラアントに見つからないようにしたのは、良心の呵責の表れか。

 

 まさにこの地は地獄といえた。

 異形の兵団に餌として家畜の如く屠殺される人間。折角それから逃れられても同じ人間に見殺しにされる人達。

 清々しく晴れ渡る青空が、一層世界の残酷さを際立たせていた。

 マシロの足取りは重い。




NGLの終わりまでは書いて一区切りさせたかったのですが、3話で力尽きました。
結局投稿が止まるのに期待を持たせるようなことをするなと、お怒りになる方もおられるかもしれませんが、次の更新を確約することが出来ませんので投稿させていただきます。
読者としての自分としては、投稿が止まっているお気に入りの小説が1話でも投稿されると嬉しいので、同じように感じてくださる方がいれば幸いです。
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