護衛が道   作:豊秋津

14 / 15
No.013 ネフェルピトー×開戦

 キルアの心には怒りが湧いていた。誰に対するものでもない。自分自身に向けられたものだ。

 つい数分前、自分はゴンの恩人を見殺しにした。

 そして今、自分は敵に背を向けて一目散に逃げている。カイトはゴンを無理矢理連れて逃げるという判断を肯定してくれたが、何のことは無い。自分が一番腰抜けだっただけだ。

 襲撃者は念を使えるキメラアントだった。底知れない薄気味悪さを持ったそのキメラアントの襲撃に気づいたのはカイトただ一人で、キルアとゴンに逃げるように促していたその一瞬の隙で右腕を切り飛ばされていた。

 自分の判断が間違っていたとは思わない。あの場に残っても出来ることは何も無かった。むしろ残ることこそがカイトの邪魔に他ならなかった筈だ。

 だが、ならば何故自分はあそこまでカイトについていってしまったのか。出来ることなど無いのに道中に出会ったキメラアントを基準にこの国で起きている出来事を安く見積もってしまっていた。

 結果、カイトを見捨てて自分は逃げている。

 一つの判断ミスが最悪な結果を招く。己のミスのつけをカイトに払わせてしまったことで、キルアは自責の念に駆られていた。

 だからだろう。人影が目の前に現れるまでキルアは全く気配に気づけなかった。

肝を冷やすがすぐに安堵に変わる。人影は見知った人物だった。

 

「驚いた。まさか君達とこんな所で会うなんて」

 

 マシロ=シロギヌ。ヨークシンでクラピカの同僚だった男だ。幻影旅団を退けたこの男のことをキルアは鮮烈に記憶していた。

 この場で出会ったことは天の配剤かもしれない。マシロならばカイトを助けられるかもしれない。

 

「アンタの助けが必要なんだ……! この先を行ったところでゴンの恩人がキメラアントと戦ってる。そいつは念が使えるキメラアントで、オレ達じゃどうしようもなかった……ッ」

 

 キルアの表情は苦渋に満ちていた。自分の未熟さへの怒りと尻拭いを頼むことへの申し訳なさ、そして助けが来た事で安堵している自分を恥じる気持ち。それらがごちゃまぜになってキルアの心を締め付けていた。

 マシロはキルアを安心させるかの様に微笑んだ。

 

「分かった。俺に任せといて」

 

「……頼む」

 

 キルアはその微笑に子供扱いされていると感じたが、同時にマシロを頼もしく思った。

 遠ざかるマシロの背中を見送ってからキルアも走り出す。

 キメラアントの巣があるNGLの奥地から一度も休まず駈け通したため国境を越えた頃には体力も尽きていた。気絶しているゴンを木陰に寝かせて自分も腰を下ろす。

 安全圏まで脱出できた安心感も加わって、キルアは気が抜けた。

 ぼぅっと地面を見つめる。

カイトは逃げられただろうか? マシロが救援に行ったとはいえ、(じか)にあの邪悪なオーラに触れたキルアには希望が見出せなかった。

 ゴンが目覚めた時になんと言えばいいのだろう。合わせる顔がなかった。

 

 

 

 

 

 

「ハハハ! 最高だね、キミ! もっと楽しもうよッ!!」

 

「……チッ」

 

 敵の奇襲から始まったこの戦い、初手で利き腕を失ったことからカイトが押された状況で推移していた。

 残った左腕も並以上に使えはするが、右腕程に感覚は鋭くない。何より右腕が無いことで攻撃にも防御にも一手足りず、敵の猛攻を凌ぎきるのにも無理が必要だった。

 そういう意味で気狂いピエロ(クレイジースロット)で3番のワンドが引けたのは確かな助けになっていた。敵味方にバフ・デバフを掛けることの出来るこの能力でカイトは彼我の肉体的能力差を埋めながら戦っていた。

 

「へー、なるほどね。この光の動きでフェイントができるんだァ」

 

 そう言ってキメラアントはオーラの動きを真似しだす。このキメラアントはカイトとの短い戦闘の中で念の扱い方を脅威的な速さで習得していっていた。

 猛攻を掻い潜りながらなんとか距離を空けるが、敵の跳躍ひとつですぐに距離は縮まりまた防戦一方になる。

 ゴンとキルアを逃がすために十分に時間を稼ぐつもりだったが、カイトは己が撤退するのは困難だと悟っていた。撤退の隙が見出せず、無理に背中を見せても振り切ることは叶わないだろう。この場を切り抜けるには敵に追撃を鈍らせる程のダメージを与えなければならない。

 身を切り裂かんと迫る敵の爪を、腕が伸びきる前に敵の懐に入って避ける。身体を預けながら肘で敵を打つ。僅かに開く合間。身体を背中方向に半転させて勢いをつけてワンドで殴る。その際一緒にデバフを掛ける。

 敵がたたらを踏んだところに追撃をかけるが蹴りを放ちながら後方に転回されて避けられる。転回で地に着いた腕の力で一際大きく跳んだ後、敵はまたすぐさま距離を詰めてくる。

 有効打に欠けていた。

 脅威を与えられる攻撃方法が無いために、敵は大胆な攻勢に出てこられる。

 デバフで敵のオーラを減らし、バフで自分のオーラを底上げしているとはいえ、元々のオーラ量の差が甚大なために通常の打撃では大したダメージは与えられていなかった。

 ダメージを受けるのはカイトばかりで、決定打を受けていないとはいえ浅傷は全身に出来ていた。

 

「ほらほら、もう疲れたのかニャ? 僕はまだまだ遊び足りないのニャ!」

 

「ぐ……ッ!」

 

 攻撃が来ると分かってはいても右腕が無い事で防御が出来ずに切り裂かれる。

 攻防の流れが途端に乱れ、なすがままに敵の爪の餌食になってしまう。もう一度敵の懐に入ろうとするが、軽やかにかわされ背中を切られる。次打の蹴りはワンドで防いだが踏ん張りがきかずに吹き飛ばされる。宙空で体勢を整えて、木の幹に足を着いて勢いを殺して着地。

 

「っ……く、はぁ……はぁ……」

 

 カイトの闘志は未だ萎えず、睨みつけるが敵の猫型のキメラアントはどこ吹く風だった。むしろますます笑みを深めた。

獲物を甚振(いたぶ)って遊んでいる、そんな雰囲気だ。望むところだった。ゴンとキルアのための時間稼ぎを念頭に始まったこの戦いだったが、自分が絶対的に優位だと言いたげな敵の笑みを見てカイトの心中にある想いが湧き上がってきた。

 

 “余裕気なその笑顔に冷や水をぶっかけてやる!!”

 

 オーラをより強く練り上げる。今までは敵の攻撃をいかに受けないかを重視した戦い方だったが、今からはいかに効果的な状況で敵の攻撃を受けるかだ。

 肉を切らせて骨を断つ。攻撃の瞬間こそ、意識的な意味でもオーラ的な意味でも間隙が出来る。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるというものだ。知らずに口角が上がる。

 

 両者が両者共笑みを浮かべている中で、しかしカイトが捨て身の攻勢に出る時は来なかった。

 

 二人が対峙する空間に銃声が響く。森の奥からハンドガンを連射しながら乱入者が現れた。

 突然の不意打ちにも関わらず、キメラアントは鋭敏な五感で捉えていたのかその一発目からの全ての弾丸を回避していた。乱入者は構わず突撃し、キメラアントもそれを迎え撃つ。

 キメラアントの刃物の様な爪が振るわれるかにみえたが、乱入者に触れる直前何かに阻まれる。よく見れば青みがかった透明な壁が乱入者の前に展開されている。そこから二人の近接戦が始まった。

 カイトはその一連を見つつも乱入者が現れた段階で、乱入者とキメラアントを挟みこめる位置へと走り出していた。常に乱入者と自分のどちらかがキメラアントの死角を取るという意図を持ったポジショニングとなる。乱入者もカイトの意図を察して位置関係を調節していた。それだけでも乱入者の実力の程がよく分かった。

 キメラアントが死角を取られるのを嫌って強引に間合いを開けたのなら、その間に乱入者へとバフを掛ける。乱入者がキメラアントへと向かって行ったら自分は敵の死角に回って時折援護する。

そうやって二人掛りで戦ってどうにか目の前のキメラアントと戦えていた。

 だがカイトにもこの均衡はいつまでも続かないと分かっていた。消耗の激しい自分が遠くない内に脱落する。そうなる前に光明を見出さねばならなかった。

 

 

 

 

 

 そのキメラアントを視界に収めたとき、マシロは自分の腰が浮つくのを感じた。

 今までに出会ったどの念能力者もが霞む莫大なオーラ量とそのオーラが孕む禍々しさに怖気が走った。対話も理解も不可能だと思える根本的な種族の溝を思い知らされるようなオーラだった。

 “絶”を維持したまま木立に隠れてハンドガンとナイフの点検を手早く済ます。そして深呼吸をひとつ行い、集中力を高めてからキメラアントに奇襲をかける。

 銃撃で敵が負傷する事などはなから期待していた訳ではないが、不意打ちの形になったにも関わらずその全てを避けられるとはさすがにマシロも予想していなかった。

 そのまま接近戦に移行。天狐の産衣(ガーディウス・ウォール)を使って相手の攻撃を上手く防ぎながら戦うが、マシロからの攻撃は敵にまるで通用していなかった。“周”で強化したナイフが肌を通らないのだ。表面を軽く傷つけるだけで、これ以上のダメージを望むのならばかなりリスクを取らなければならない。

 カイトと連携して注意を散漫にさせる様な攻撃をしていると敵はそれを嫌って一旦距離を取った。

 

「ニャハハハ、君もなかなか面白いね。ただの兵隊じゃ君達に勝てない訳だニャ」

 

 キメラアントは殺し合いの気負いなど微塵も無く、上機嫌に話しかけてくる。服に付いた埃を払ってから伸びまでする余裕さだ。

 

「ひとつ聞く。お前は直属護衛軍の一人か?」

 

「そうだよ」

 

「王は生まれたのか?」

 

「それは君達は知らなくてもいい事だよ。君達は僕の力試しの相手をしていればいいんだニャ」

 

 カイトが巣の中の情報を得ようとしたがやはり王の事となると口が堅い。

 

「人間を食料にするのは止めてくれませんか」

 

 会話が出来るのならもしやと思い言ってみたが、キメラアントはマシロの言葉にキョトンとした。

 

「どおして? この世のあらゆる生物は王と女王の下に統べられ、奉仕を義務づけられた存在なんだ。その命もお二人の物。お二人が所望されたのなら粛然と差し出すのが全生物の務めなんだよ」

 

 マシロは内心顔をしかめたい思いだった。それが当たり前だと一点の曇りなく心の底からこのキメラアントは考えているようだ。人間との共存など望む足がかりすらない。最早キメラアントは一国を滅ぼしたと言ってもいい惨状を作り出した。何とかNGLで手を打っておかないと被害は世界規模で広がっていくかもしれない。

 キメラアントが臨戦態勢をとりなおした。

 

「君達が女王様の邪魔をするなら、殺しちゃうよ」

 

 地を蹴ったと思った時には既に眼前に迫っていた。カウンターを合わせて腹を蹴り上げる。宙に浮いたキメラアントをカイトが更に蹴り飛ばす。

 

「悪いが前衛は任せるぞ」

 

 ワンドが背中に当てられる。マシロのオーラが漲り出した。

 

「制限時間ありのオーラ増幅だ。これを使って援護する」

 

「助かります」

 

 作戦を話し合う猶予は無いため手短に言葉を交わして意思の疎通を図る。

 木を足場にして移動しているキメラアントへ向けて気を研ぎ澄ませる。敵の僅かな意や動きを見逃せば致命的な代償を払うことになる。

 

 戦いは本格的な殺し合いへと移行する。

 

 

 




気狂いピエロ(クレイジースロット)の3番の能力が何も思いつかなかったのでテキトーな感じになってしまいました。

バトン?ロッド?ワンド?→魔法?→攻撃魔法は放出系っぽいから補助魔法?→バフ・デバフ?


段々畑様、佐藤東沙様誤字報告ありがとうございました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。