護衛が道   作:豊秋津

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No.002 修行×ノストラード

 ゼノとの一件以来、護衛依頼が爆発的に増加した。

 それまでの開店休業ぶりが嘘の様な依頼数だったが、しかしマシロはその全てに断りを入れた。登録していた仲介業者との契約も打ち切った。

 修行の必要性を痛感したためである。

 そこらのマフィアが束になろうとどうとでも出来る自信はあったが、ゼノとの間に広がる深く広い海溝の如き差を目の当たりにして、今までの自分を笑いたくなる思いだったのだ。いくら研鑽を積んでいると自分で思っていても、ゼノのような本物達からしてみれば、停滞しているのと変わらなかっただろう。

 呼吸、体運び、体捌き、念の技術。どれもこれもゼノのそれは高次元で己の未熟さを突き付けられる思いだった。

 だが、同時に超一流の者が相手でも全く歯が立たないわけでもない事も分かり、それが小さいが新たな自信となった。小さかろうが、それを核に力をつけていけばいいのだ。

 

 マシロは、基礎と並行してゼノにも通用した"流”を洗練させることにしていた。

 攻防力のスムーズな移動は、念の戦闘において必須のスキルだが、それを超高速化させれば、攻撃にも防御にも常に攻防力100、すなわち"硬”を用いて戦い続けられるのではないかと考えたからだ。これが可能になれば、理論上はどんな格上が相手でも正面戦闘では勝つことが出来る。

 そのために必要となるのは、反射が如きオーラの移動速度だ。考えてからでは遅く、思う前に行えるようにならなければならない。

 

 それからのマシロの修行は壮絶だった。

 初めはピッチングマシーンから射ち出されるボールを硬で防ぐ訓練をしていたが、すぐに四方にピッチングマシーンを置くようになり、さらに進んでクロスボウを使うようになっていき、そして遂には実弾の入った銃を使うまでになっていった。

 怪我が絶えず、頻繁に重症も負うため常に傍には雇った治癒系の念能力者が必要だった。

 その能力者もマシロの狂ったとしか言い様のない修行に気圧されていた。硬とは敵が隙を晒した時に止めとして使うものというのがその能力者の認識だった。それを常に使い続けようと考えるマシロはどうかしていた。もしミスをすればその代償は己の命なのだ。その能力者にしてみればマシロのそれは狂人の発想だった。

 

 そして徐々に形に成り始めた修行。マシロは実践を求めて街へと出て行く。

 ヤクザくずれのチンピラを相手に殺さない程度に抑えた僅かなオーラを顕在化して、それをもって実戦にのぞむ。一人二人は問題にならずも人数が増えていくに従い対応に手間取り大怪我を負うこともあった。

 マシロがこの実践で求めたのは、死を相手取って躍り続けられるだけの精神力。流を極めた究極の戦闘術には必須となるものだ。

 どんどん力をつけていくマシロが念を覚えている犯罪者を相手にするようになるまでそう時間はかからなかった。

 

 この(かん)、マシロはハンター試験にも合格した。

 ボディーガードとしても力をつけるために、ライセンスの優遇措置を使って各国の護衛官養成訓練プログラムを受けるためだ。

 長年の蓄積によって網羅され体系化された知識と技術と経験則はマシロの成長の肥やしとなり、マシロを高める土台となる。

 

 ゼノとの闘いから3年。顔から幼さも消え、精悍な青年となったマシロは、この頃になると最早スペシャル・ワンと呼べるだけの力を身につけるようになっていた。

 

 自信と実力を醸成させたマシロは、ボディーガード業を再開させる。

 今度登録した仲介業者は以前よりもグレードの高い所であったが、ハンター証(ライセンス)のおかげで無審査での登録となった。

 再開一発目の依頼はしかし仲介業者ではなく、3年前ゼノから護った大手証券会社社長ランバートからの紹介だった。

 依頼主はマフィアの組長、依頼内容は娘の護衛。

 マシロの方針として、「悪人の護衛はしない」というものがあり、初めは断ろうとしたが、先方が必死に食い下がり、前任者が殺されたとの緊急性から短期間、娘の護衛に限ってのみ引き受ける事となった。

 依頼主のライト=ノストラードとはリンゴーン空港で合流することとなった。その後、ホテルベーチタクルで娘とその護衛達に引き合わされる。

 

 

 無垢で世間知らず。それがネオンという少女に抱いた最初の印象。

 マフィアの一人娘という肩書きから想像するような悪童ではなく、守ることに苦痛を感じない人物でマシロは安堵する。

 

「護衛の人を新しく雇ったってことは、カジノ行ったり、ショッピングしたり自由に遊んでもいいってことだよね、パパ?」

 

「いや、ダメだ。オークションを襲う様な悪い奴等からネオンを守るためにマシロくんを雇ったんだ。だから、ネオンは屋敷に帰るんだ。いいね?」

 

 一年で最も賑やかな時期のヨークシンに背を向けて帰らされることにネオンは不満そうだったが、ライト=ノストラードがネオンの欲しがっていた競売品を盗賊から取り戻すと約束すると渋々引き下がった。

 

「いい子だ。それじゃ、部屋に戻って支度をしなさい」

 

「……はーい」

 

 ネオンが部屋に戻ったのを確認したライト=ノストラードは護衛達に向き直る。

 

「ネオンには中止と言ったが、オークションは今夜から再開される。場所も時間も同じだ。旅団に盗まれた品も必ず取り戻すと十老頭は言っている」

 

「盗まれた?」

 

 クラピカが疑問を挟む。捕らえていた旅団所属の大男ウボォーギンの話では、競売品は陰獣の一人に先を越され、旅団は何も盗ってないとの話だったからだ。

 

「陰獣は全員旅団にやられたらしい」

 

 陰獣の全滅をライト=ノストラードは告げる。

 運搬役の梟と呼ばれる陰獣の一人も拐われていることから、競売品は旅団の手に渡ったと十老頭はみているとのことだった。

 

「陰獣が……死んだ」

 

 ポツリとマシロが呟く。

 

 その後、ライト=ノストラードがいくつか指示を出し、場は解散となった。

 

「少しいいだろうか?」

 

 護衛チームの新リーダーと紹介されたクラピカという青年がマシロに話しかける。

 

「指揮系統をはっきりさせておきたい。君は組長(ボス)が試験無しに直接雇った特殊な立場だが、私の指揮下と認識して問題ないだろうか?」

 

「ええ、問題ありません。短期の契約ですが、俺もこのチームの一員のつもりですから」

 

「そうか。早速で悪いが君の力が知りたい。君は何が出来る?」

 

 護衛員の適性に合わせた護衛計画の立案のためにマシロの実力を把握しようとするクラピカ。マシロは天狐の産衣(ガーディウス・ウォール)を発動してみせる。

 現れる青みがかった透明な壁。

 

「ご覧の通り念で作った壁です。ライフルの弾も防ぎますし、強化系の念能力者の攻撃もそこそこ耐えられますよ。試してみます?」

 

「面白そうじゃねーか。オレにやらせてみろよ」

 

 自信あり気なマシロに、素肌にベストといった出で立ちの毛深い男が腕を回しながら近づいて来る。先程紹介されたバショウという男だ。

 

「どーぞ」

 

 マシロが場を空けると、バショウは「よしっ」と気合いを入れ右ストレートを放つ。念能力者だけあってちょっとした事故のような衝撃だったが、壁には微塵も傷はみられない。

 

「く……っ、やるじゃねーか。なら………」

 

 オーラを練るバショウ。そして、練り上げたオーラを右手に集め、叩きつける。先程の比ではない威力の右ストレート。轟音。しかし、それでも壁は変わらずそこにあった。  

 「ほう」とクラピカは感嘆する。

 

「ちっ、オレの負けだ」

 

 バショウはドカッとソファーに身を預ける。

 

「よかった。これで壁を壊されてたら、格好がつかないところでしたよ」

 

 たははと笑うマシロ。顔合わせの時の緊張感はほどけ、場が弛緩する。護衛チームの5人はマシロを受け入れはじめていた。

 

 

 

 「周辺を確認してきます」と言って部屋を出ていくマシロを見送るクラピカにセンリツが近づいて来る。

 

「良かったわね。彼、信用できそうな人物で」

 

「ああ」

 

 組長(ボス)から臨時に人を雇ったと知らされたときは、チームの不協和音の種になるのではとの危惧もあったが取り越し苦労だった。

 ノストラード(ファミリー)が旅団に狙われるかもしれない今の状況で人柄と実力を信頼できる追加の人材は貴重と言えた。

 そして緋の眼(仲間の眼)を取り戻すために、まず組長(ボス)に取り入るというクラピカの目的からいってもマシロは有用な人物だった。ネオンの護衛をマシロに任せて自分はある程度手を空けることが出来るからだ。

 これから向かう十老頭が招集した旅団抹殺のための殺し屋チームへ参加している間もマシロがいれば問題無いと思えた。自分が垣間見た実力と噂に聞く実績からいっても、もし旅団と遭遇するようなことがあったとしてもネオンを守ることは出来るだろう。

 

 クラピカは出掛ける準備に取り掛かった。




 お気に入りに登録していただけたり、評価や感想を下さったりとありがとうございました。お陰様で2話目を投稿する活力になりました。

 主人公の能力名の天狐要素は今は見当たりませんが流しておいていただけると助かります(過去話を入れるタイミングを見失っちゃった)
 いやー小説書くのって難しい。

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