護衛が道   作:豊秋津

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No.003 クロロ×セメタリービル

 ネオンは父親への憤懣でいっぱいだった。

 ネオンがどれだけオークションへ行きたいか知ってる筈なのに、そのために仕事の占いも譲歩していつもより多い数をこなしてきたのに、オークションは中止になったなんて嘘をついて家へ帰そうとしてきたのだ。

 父親が約束だなんて言い出すときは決まって嘘をつくときだとネオンは知っていた。今回もそう。父親の勝手な都合で自分を遠ざけようとしているに違いなかった。

 表面上は父親に従って帰り支度はしたが、このまま大人しく帰るつもりは更々無かった。

 父親の命令を受けている護衛達の目を欺くために、ショッピングを楽しんでいるふりをして油断させ、まんまと逃げ出すことに成功した。

 ネオンは大手を振って歩いて行く。空港の出口でタクシーを捕まえてヨークシンに戻るつもりだった。

 

 

 

 ネオンの後を追うマシロ。少し離れた所で全体の監視をしていたマシロは、ネオンがトイレで変装をして一般の女性客に紛れて逃げ出そうとしていることにも気づいていた。

 ネオンが乗り込んだ後に続いて自分も同じタクシーに乗り込む。

 

「あっ! マシロさん、どうして!?」

 

「お供しますよ、ネオンさん」

 

「え……いいの?パパの言いつけを破ってるんだよ」

 

 オークション会場に行くことを咎められず、訝しむネオン。

 

「どうしてもオークションに行きたいんですよね?  なら、俺もついていきますよ。護衛はいた方がいいでしょう」

 

「ありがとう! ふふ、マシロさんって今までの護衛の人達と違って話がわかるのね!」 

 

 無論、マシロはこのまま幻影旅団が襲う可能性の高いオークション会場まで行かせるつもりは無かった。

 会場へ入るには参加証が必要なのだが当然ネオンは持っておらず、そこまで行けば諦めもつくだろうという思惑があった。

 我が儘なお嬢様の意思も出来るだけ汲もうとマシロは考えていた。でなければ、今回のように暴発される恐れがあり、護衛対象のそういった考え無しの行動力が護衛する側からすれば一番困ることだからだ。

 

 マシロの思っていた通り、ネオンを乗せたタクシーはオークション会場手前の検問所で止められることとなる。

 ネオンは1年前から楽しみにしていたオークションをなかなか諦めきれず、タクシーを降りてどうにか父親の力を借りずに入る方法はないかと頭を悩ませているがそろそろ潮時だ。

 

「残念ですが戻りましょう、ネオンさん。街に溢れるオークションの空気は感じられたんですから今回はそれで我慢して、また来年来ましょう」

 

「え~~~! ここまできたのにィ……」

 

 口ではまだまだ諦めがつかないネオンだったが、その様子は先刻までと違って弱々しいものになっていく。

 タクシーの中で、ネオンに隠れてバショウにメールをしてあり、もう暫くすれば迎えの車が到着する筈だった。

 

 キッ。二人の近くに黒塗りの乗用車が停車する。

 後部座席の窓が開き、額に包帯を巻いた若い男が顔を出す。

 

「何か困り事ですか?」

 

 瞬間、マシロの警戒度が一気に上がる。

 男が纏うオーラが並みではなかったからだ。そして何よりその眼。暗くて吸い込まれるような底の無い色を宿していた。

 

「オークションに行きたいのに、検問を通るには参加証がいるんだって……」

 

「なら一緒に行きますか?」

 

「え、ホント!!? やったー! ありがとう!」

 

 警戒も何も無いネオンは無邪気に車に乗ってしまう。

 仕方なくマシロも前の座席のドアを開けて乗り込む。

 

「良かったー。検問通れなくて困ってたの。ホントにありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 一見好青年風な若いこの男、何か裏があって近づいてきたのではないかとマシロは勘繰っていた。

 強力な念能力者が、たまたま困っていたマフィアの娘で凄腕の占い師の前をたまたま通りかかって助けてくれたとは、護衛する身としては素直に受けとる事はできない。

 何があってもすぐに対応出来るように気構える。

 

 

 

 一方の好青年を演じているクロロもそんなマシロの警戒には当然気付いていた。

 予知に等しい占いをするというネオンに近づき、それが念能力ならば自分のコレクションに加えようと考えていたが、邪魔な番犬も一緒についてきてどうしたものかと思案する。ベストは、和やかに会話をしながら盗みの手順を踏んでいくことなのだが、優秀な番犬がいてはそれも儘ならないだろう。

 そのため、今は顔繋ぎだけに留めておく事にした。

 急がなくとも機会は直ぐにある。

 

 

 

 マシロ達を乗せた乗用車はセメタリービルの地下駐車場で停車する。

 車を降りたネオンは上機嫌といった足取りでビルの中へと入っていく。それに続くマシロとクロロ。途中クロロにカフェでの休憩を提案されるがマシロはそれを断り、クロロと別れる。

 係の者にゲストルームに案内してもらい、ネオンには競売のカタログを与えて休憩する。

 ここにいることをクラピカには知らせたが、ライト=ノストラードの怒りを買うことは明らかであり、マシロは憂鬱だった。

 そして案の定、乱暴にドアを開けて部屋に入ってきたライト=ノストラードはマシロを怒鳴りつける。

 

「何をやってるんだお前はッ!! ネオンを守るのがお前の仕事だろうが! それを危険だと分かっている所へのこのこと連れてきやがって!!」

 

「いや、申し訳ないです。本当は検問所で諦めて貰おうと思ってたんですが、親切な人がいましてね」

 

「どこのどいつだ、ソイツは! 余計なことをしおって」

 

 自分をここまで連れてきてくれた人への父親のあまりな言い方にネオンは反発する。

 

「そんな言い方ってないでしょ。クロロさんは親切で連れてきてくれたんだから。それに、元々はパパがオークションは中止だなんて嘘をついたのがいけないんじゃない!」

 

「む……いやそれはだな、ネオンの安全を思って……」

 

 ライト=ノストラードが言葉に窮したところでクラピカが部屋に入ってくる。その顔には些かの焦燥の色が浮かんでいた。

 

「今確認したのですが、ハンターサイトにお嬢さんの顔写真が載っていました」

 

「何、娘の顔写真が!?」

 

「お嬢さんをここへ連れてきた人物がそれを知っていたかどうかは分かりませんが、今後お嬢さんに近づく者には今まで以上に注意が必要かと思います」

 

 クラピカの報告を聞いて考え込むマシロ。

 

「どうかしたか?」

 

 クラピカが問いかける。

 

「……そのここへ連れてきてくれた人っていうのは手練れの念能力者でした」

 

「何!」

 

「底無しの暗さを持ったあの目、もしネオンさんを狙っていたんだとしたら碌な目的じゃないでしょうね」

 

 その時、遠くから銃声が聞こえてくる。爆発音も響き、ビル周辺が俄に騒がしくなり始めた。

 

「何だ、何が始まったんだ!?」

 

 狼狽えるライト=ノストラード。窓から市街を確認すると、彼方此方から絶え間ない銃撃音が聞こえ、車が炎上する光も見えた。

 

「何だこれは……」

 

「……恐らくは蜘蛛の襲撃です。私は暗殺チームの仕事に行きます。マシロ、ここは頼む」

 

「了解」

 

 マシロの返事を背中に受けて、クラピカは走って部屋を出て行った。

 

 

 

「…………始まったか」

 

 ウボォーへ贈る鎮魂曲(レクイエム)。追想の宴を旅団が催し始める。

 クロロは、ひとしきりその音色を鑑賞してから自分への刺客が横たわる部屋を出る。向かう先はネオン=ノストラードが憩うゲストルーム。

 静寂が漂う廊下を歩き、エレベーターに乗る。

 護衛がいようと構わなかった。見えない所で始末し、ネオン=ノストラードを避難と称して連れ出す。その後は当初の予定通りに事を運ぶ。

 クロロとしては珍しく暴れたい気分だった。

 

 エレベーターがゲストルームのある5階に止まった。

 

 

 

 壁に背を預け目を閉じているマシロの横をうろうろとライト=ノストラードは動き回っている。

 

「迎えは呼んだのだろうな! こんなところに居たら命が幾らあっても足りない!」

 

「今外に出ていく方が危険だと思いますよ。旅団は道なりにマフィアを殲滅しながら来ているようですから、鉢合わせるかもしれない」

 

 迎えに呼んでいたバショウ達は検問を通過出来ず、その外側で待機していた。

 落ち着きの無い父親とは対照的にネオンはソファーに座って競売のカタログを見ている。流石にいつもの元気は無く、カタログに集中することで不安を押し殺している様だった。

 

 マシロの背筋に寒気が走る。

 

 部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。




誤字報告を初めて頂いて驚いたのですが、この場でお礼申し上げます。


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