護衛が道   作:豊秋津

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No.004 クロロ×激突

 扉の外に立つクロロに、マシロは一瞬呑まれかけた。

 剣呑に光るその目には人としての温かさなど微塵も無い。全身からは触れる者全てに死を運ぶ死神の如き威圧が放たれていた。

 

「あ、クロロさん。どうかしたの?」

 

 マシロの背後でネオンが声を上げる。クロロの威圧は霧散し、人の良さそうな笑みがその顔に貼り付けられた。

 

「外の襲撃者がビルに侵入したらしくてね。君のところの護衛くんと一緒にこのフロアの安全を確認したいと思って来たんだ」

 

「何ッ、賊が侵入しただと!?」

 

 ライト=ノストラードが狼狽しているが、マシロは気が回らない。マシロの注意はクロロが胸元に掲げる人差し指に注がれていた。

 

"大人しくついてこい。でなければ、ここで事を起こす”

 

 そうオーラのメッセージが浮かんでいる。

 外の襲撃者と同じタイミングで仕掛けてきたということは、この男も幻影旅団の一人なのだろう。そして問答無用に襲って来ないところをみるに、ネオンの暗殺ではなく、拉致が目的だと思われる。

 

「ここの守りにはクラピカを呼び戻して下さい」

 

 「お、おい」とライト=ノストラードが声をかけるのも構わずマシロは部屋を出る。

 遠くではまだ銃声と爆発音が鳴っている。

 クロロの先導で静かな廊下を歩いていく。階段を降りて着いた先は広い休憩エリア。人っ子一人いない。

 歩みを止め振り返るクロロ。

 マシロは臨戦体勢に入る。

 

 駆ける。

 一息(いっそく)で詰まる間合い。

 マシロの飛び回し蹴りをクロロは後ろ回し蹴りで迎え撃つ。

 相殺される運動エネルギー。着地。そこは、死が濃密な領域。

 拳打、蹴撃の応酬が二人の間で火花の様に咲き乱れる。

 クロロのミドルキックがマシロを捉えた。

 しっかりとガードしたマシロは飛ぶに任せて距離を取る。いつもならここで銃撃を行って手を休めないのだが、ビルに入る際に武器の類いは全て預けてしまっていたため、生憎と今は丸腰だった。

 間髪入れずにクロロが駆け寄ってくる。

 腰の辺りから繰り出されるその攻撃に嫌なものを感じ取ったマシロは右前腕を”硬”で覆う。

 甲高い音を立ててナイフの刀身が宙を舞う。

 瞠目するクロロ。間合いを開ける。

 

 

 

(毒を塗ったナイフなんだけどな。折れますか)

 

 今の攻防でクロロは接近戦一辺倒は危険かもしれないと思い始めていた。

 マシロの"流”は寒気がする程静かで速い。

 接近戦を続けていると、念での防御が徐々に間に合わなくなっていって致命的な隙を晒すことになりかねない。

 

(……仕方無い)

 

 

 

 クロロの右手に本が現れた。マシロは警戒を強める。

 どんな能力が秘められているか未知数だが、それを相手のペースの中で使わせないために先手を取るべく走り出す。

 念弾を放って牽制。銃があれば銃自身の威力に念を纏わせることで、オーラの消費を和らげつつ速度と威力を高めた攻撃が出来る。やはり、銃が無いのは痛かった。

 と、進路上に急にテーブルが現れる。

 

「ッ!?」

 

 避けきれずにぶつかってしまうが、その勢いのまま前転することで体勢を立て直す。

 クロロを見やるが姿が無い。

 背後に気配を感じ、慌てて身を伏せる。

 唸りを上げた蹴りが上空を通過していく。

 振り向き様に足払いを仕掛けるが手応えは無く、クロロも居ない。

 頭上に天狐の産衣(ガーディウス・ウォール)で壁を作る。直後に響き渡る衝撃音。

 クロロの踵落としを壁が阻んでいた。

 マシロは壁を消して"硬”を込めた拳で殴りかかるが、またも姿がかき消える。

 そして、離れた場所にクロロが現れる。

 

「……瞬間移動ですか」

 

 厄介だなと考えるマシロ。恐らくは物と人を移動させる能力。安心材料は敵には強制出来なさそうなことか。

 だが、どうにも解せなかった。瞬間移動の能力なのに何故本を持っているのか。制約? それにしても本と能力の間に関連性が見えない。

 

「そういうあんたは念の壁を作る能力か。汎用性の高そうないい能力だ」

 

 クロロの問いには答えない。言質を与えないためだ。こちらが肯定しなければ、相手の答えは仮定のままだ。

 仕切り直す。

 確かに全ての距離が相手の間合いというのは厄介だがどうにもならない訳でもない。壁を幾つも生み出して自分を守りつつ、相手の動きを制限していけばいいのだ。

 じり、じりっと互いに仕掛ける契機を探り合う。

 

 

「なかなかにレベルの高い戦いをしておるの」

 

 通路の奥から2つの人影が現れる。

 1人は"生涯現役”と書かれた布を身に着けた老年の男。もう1人は猫科の肉食獣を思わせる壮年の男だ。

 

「ゼノ……さん」

 

「しばらく見ぬうちに見違えたのォ。オーラの質が段違いじゃ」

 

「知り合いか? 親父」

 

「前に話したことがあったじゃろ。仕事で面白そうな若造に出会したと」

 

「ああ、こいつがマシロ=シロギヌか。…………成る程」

 

 マシロに値踏みするような視線を向けた壮年の男は納得気に頷く。ゼノを親父と呼んでいることから、この男がゾルディック家の現当主シルバ=ゾルディックなのだろう。

 

「どれ、お主は下がっておれ。あやつはワシらの標的じゃ」

 

 そう言ってゼノとシルバが歩み出る。

 「ふう」と腰に手をやりながらマシロは大人しく下がる。別に敵を横取りされることに異存はなかった。

 

「逃げんの?」

 

 クロロが挑発してくるがマシロは取り合わない。

 

「別にあなたと決着をつけることが俺の仕事じゃありませんからね。ここはゾルディック家の方々に譲りますよ」

 

 マシロが加わればゼノとシルバの連携の邪魔をすることになる。或いは、マシロが一対一の決着に躍起になることをクロロは望んだのかもしれないが取り合う義理は無い。

 

「それじゃ、後はお二人に任せます」

 

 そう言ってマシロは、ノストラード父娘が待つゲストルームに戻る。

 

 背後から戦闘音が聞こえ始めた。

 

 

 

 窓から街を見下ろす。銃声も散発的になってきており、事態が終息に向かっている事を物語っていた。

 同胞の仇が手を伸ばせば届く距離にいるにも関わらず、戦うことが許されない状況にクラピカは苛立ちを隠せなかった。

 組長(ボス)の護衛のためにここを離れる訳にはいかず、フロアの安全を確認しに出たというマシロもまだ戻って来ない。

 

「大分静かになってきたな」

 

 ライト=ノストラードも落ち着きを取り戻したようで、ソファーに身を沈めて息を吐いている。

 扉が開く音がして、マシロが部屋に入ってきた。

 袖の部分が切り裂かれていたりと服に乱れがあり、何かがあったことは一目瞭然だった。

 

「何があった?」

 

 マシロは冷蔵庫を開けてペットボトルの水を取り出す。

 

「いやー参りましたよ。襲撃者がビルに侵入したというから行ってみたら、そう言った人自身が襲撃者なんですから。あの人も旅団の一員なんでしょうね」

 

 旅団という言葉にクラピカは余裕を無くす。

 

「撃退したのか!?」

 

「いえ、ゾルディックの二人が来たので途中で代わってきました」

 

 居ても立ってもいられず、駆け出そうとしたところで爆発音が響きビルが揺れる。

 

「な、なんだ今の爆発はッ!?」

 

 ライト=ノストラードが喚いている横を抜けてクラピカは部屋を出る。

 もしかしたら今の爆発で蜘蛛とゾルディックの戦いに決着がついてしまったのかもしれない。焦燥に駈られながらクラピカは必死に爆発の場所を探す。

 しばらくしてマフィアン・コミュニティーの警備員達が何かを囲むように集まっているのを見つける。

 

「何があった?」

 

 警備員の一人に話しかけると、その男は何かを指し示す。

 

「ああ、あれを見ろよ。ゾルディックがやったらしいぜ」

 

 「さすがだな」という警備員の言葉はクラピカの耳には届かなかった。指し示された先にあったのは、服がボロボロの左腕が欠損した若い男の死体。

 目を見開いたまま事切れている。

 クラピカは膝の力が抜けるような脱力感に襲われた。自分が真っ直ぐ立っているのかどうかも分からない。

 長年追い求めて止まなかった仇が、自分の手に拠らずに呆気なく息絶えていた。

 

 その後も警備員の無線を通して旅団の残党が死んだとの報告が続々と入ってくる。

 目の前の道が急に無くなったかのような喪失感にクラピカは包まれていた。




クロロの瞬間移動の能力は、原作でノブナガとヒソカが一触即発の時に使った能力を参考にしました。
効果は人と物をを瞬時に移動させるもので、範囲は自身の円の広さ、敵意をもった者は対象に出来ない、という感じで想定してます。

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