護衛が道   作:豊秋津

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No.006 旅団×ホテルベーチタクル

 クロロ一行はホテルベーチタクルに到着する。

 途中思いがけず捕虜を取ることとなったが、マチの勘によればこの子供二人は鎖野郎とどこかで繋がっている。それが正しければ鎖野郎への手札の一つとなるだろう。

 クロロは捕虜への人手のためにフィンクス達を呼び出す。後は緋の眼を追ったパクノダ達が何か情報を持って帰ってくるのを待つだけだった。

 順調に鎖野郎に迫っている。焦りも不安も無い。獲物の影が見え始めた事への逸りも無い。

 正面玄関近くの柱の前で待機していると、自動ドアが開きコルトピが入ってきた。意識の無いパクノダを横抱きにしている。

 

「何があった?」

 

「マシロ=シロギヌ。アイツにやられた」

 

 パクノダを柱にもたれ掛からせながらコルトピが経緯を説明する。そばにしゃがんだシズクが介抱をし始めた。

 それを横に見ながらクロロはコルトピに確認する。

 

「緋の眼を持って移動していたのがマシロ=シロギヌだったのか?」

 

「ううん。スクワラって男。尋問しているところを襲われたんだ。今はノブナガがやり合ってる。情報はパクノダがちゃんと取ったと思うけど……」

 

 パクノダがこれでは肝心の情報は引き出せない。子供から隠し事を聞き出させようとしていたクロロの予定も狂った。

 パクノダが盗った情報次第だが時間を無闇に浪費すると、折角口を絞り始めた網から鎖野郎が逃げてしまうかもしれない。

 

「……やはり邪魔だな」

 

 クロロの口からポツリと零れる。

 ネオン=ノストラードの件といい、つくづくあのボディーガードはこちらの邪魔をしてくる。

 いまだ予知能力を諦めていないクロロの頭に「排除」の二文字が浮かぶ。

 

 突然辺りを暗闇が包んだ。停電。

 肉を打つ鈍い打撃音と共に戦闘の気配がクロロの近くで起こった。

 小柄な黒いシルエットが動いているのが見えたので捕まえる。雨空といっても外は停電のホテル内よりも明るいため、外に面する窓を背景にすれば人のシルエット位は見分けられた。

 もう一人の子供はマチがしっかり捕獲し直したようだったがクロロはまだ気を抜かない。示し合わせた停電からの反撃。子供の仲間からの襲撃がまだ残っているかもしれない。

 稲光がホテル内を照らす。

 

「!」

 

 パクノダが消えていた。

 

「団長!パクがッ」

 

「シズク、コルトピ、追え。恐らく鎖野郎だ」

 

 二人は走って外へ出ていく。

 マフィアが懸賞金を取り下げた今、襲ってくるのは旅団に恨みを持つ鎖野郎しかいない。

 マチの勘の通り子供二人は鎖野郎の仲間だったというわけだ。そして、鎖野郎は仲間の救出よりもパクノダの拉致を優先した。

 停電が復旧し明かりが点く。

 

「ッノブナガ!」

 

 ホテルに入ってきた人物を見てマチが声を上げる。

 ノブナガは脂汗を大量に流しながら右肩を押さえている。足取りもふらついていた。

 悪いこととは立て続けに起こるものだ。クロロは自身が良くない流れの中に入っていることを感じ始めていた。

 

 

 

 

「その女、ホンとに気絶してんのか?」

 

 パクノダの拉致に成功したクラピカは、レオリオの運転する車で急いでホテルベーチタクルから離れていた。

 

「ああ、大丈夫だ。意識は無い。それよりもレオリオ、急ぎ過ぎてあまり目立つような運転はするなよ」

 

「分かってるって」

 

 パクノダは手足を鎖で縛り付け、クラピカが着けていた変装用のカツラを被せていた。ジャケットも体に掛けてあり、外から見ただけでは一見するとポニーテールの女が寝ているようにしか見えない。追っ手がかかったとしてもすぐには見破られないだろう。

 

「どうする、クラピカ。記憶を読むって女は捕えたが、ゴンとキルアはまだ捕まったままだ。状況は五分になっただけだぞ」

 

「分かってる。これから旅団(クモ)の頭を誘い出す。その時の交渉で二人を助ける」

 

 人質の交換という形で救出するしか方法は無いだろう。

 ようやく自分の手に落ちた仇敵の一人。感情のままに殺してしまいたいという想いと仲間をその代償にすることは出来ないという想い。二つの想いがせめぎ合い、クラピカの拳は固く握り締められていた。

 

「……センリツ、マシロに電話してみてくれないか」

 

 ホテルに後からやって来た旅団(クモ)の話ではマシロと交戦したとのことだったが、もし無事なら自分を助けてくれるかもしれない。クラピカはマシロが事態を劇的に変えてくれるのではないかと僅かながら期待をかけていた。

 本当なら幻影旅団を自分だけの敵として一人で決着を付けたかったが、自分の激情に駆られた暴走のせいで仲間を危険に晒す失態をしてしまった今となっては、そんな自分一人のプライドに固執しているわけにはいかない。

 センリツは携帯を取り出して電話をかけ始める。

 

「マシロってお前の仕事仲間だったよな? 大丈夫かよ。旅団の相手が務まるのか?」

 

「彼は私が念を覚えてから出会った者の中で別格の力を持っていた。恐らく私の身近で唯一旅団(クモ)と対峙出来る使い手だ」

 

「マジかよ!! だったら始めっから協力してもらえよな!」

 

 レオリオの声が雨中の車内に響く。どんよりとした夜の雨空に差し込むような明るさがそこにはあった。

 

 

 

 

 待ち合いスペースのソファーに腰掛けるクロロを中心に旅団員達は固まっていた。フィンクス達も合流し、クロロを囲んでいる。

 ノブナガが負傷し、パクノダが拉致されたとあって皆一様にピリついていた。

 

「ノブナガは医者に行ってこい。シャルは腕のいい闇医者を探してやれ」

 

「分かった。ついでに医者まで付き添ってくるよ」

 

「いや、お前にはやってもらうことがある。残ってくれ」

 

 その具体的な内容をクロロは言わなかったが、シャルナークは納得しパソコンを借りにホテルの受け付けに向かう。その目に嚇怒の炎を宿しながらも己の不甲斐なさに下を向いているノブナガもその後を黙ってついていく。

 

「団長! オレもパクノダを探しに行ってくる。まだそんな遠くに行ってねー筈だ」

 

 息巻くフィンクスをクロロは押し留める。

 

「まぁ待て。パクノダを拐われたが、こっちにも人質はいる。コイツらが鎖野郎に仲間だと思われているのなら、何かしら連絡が来る」

 

「ただの捨て石だたら?」

 

 フェイタンが疑問を挟む。

 

「その場合でも連絡はくるさ。せっかく旅団の一人を捕まえたんだ、パクノダを餌にオレ達を絞首台に登らせる算段をつけたいだろうからな……」

 

 クロロは一度そこで言葉を切ってフィンクスとフェイタンが拘束している子供二人に目をやる。

「もっとも、その時にはこの子供達には捨て石に相応しい末路が待っているが」

 

 クロロを見てゴンとキルアは身を強張らせる。クロロの目から自分達二人の命に毛程も価値を見出だしていないことが読み取れたからだ。

 

 携帯の着信音が鳴る。

 クロロの携帯に電話がかかってきた。

 

「……パクノダからだ」

 

 着信画面を確認したクロロの一言に場が張り詰める。

 

「鎖野郎か?」

 

『これから3つ指示する。大原則としてこちらの指示は絶対だ。従わなければ即座にパクノダという女を殺す』

 

 前置きも何も無く電話の人物が命令を出してくる。中性的で落ち着いた声色だが、冷たさも感じさせる。電話の主が鎖野郎なら理知的な若い男だということだ。

 

『1つ、追跡はするな。2つ、人質の二人に危害を加えるな。3つ、団長(リーダー)に代われ』

 

「オレがそうだ」

 

『そうか。ならば、この瞬間から仲間との一切のコミュニケーションを禁止する。これから指定する場所にお前一人で来い。一つ教えておくが、こちらには嘘を見破る能力者がいる。小細工はしてもいいが、それがお前たちの有利になることは無いとだけ言っておく』

 

 クロロの口角が上がる。

 こちらの身動きを縛るために嘘を見破る能力者を持ち出したのだろうが、クロロには付け入る隙に見えた。対面しなければ嘘を見破れないならば、その時にはもう策謀は完了しているし、電話越しに見破れるとしてもその方法には見当がつく。

 

『一度誰かに代われ』

 

 マチに電話を渡す。

 奥からシャルナークが戻ってきた。クロロはシャルナークの元へ歩いていく。

 仲間とのコミュニケーションの禁止を言い渡されているが、相手からの一方的な約束事など遵守するつもりはさらさら無かった。

 

「どうかしたの団長?」

 

「ああ、今鎖野郎から電話が来たところだ」

 

 「え!?」と驚くシャルナークに構わずクロロは話を続ける。

 

「それでだ、シャル。あの銀髪の子供の方にアンテナを刺せ」

 

 シャルナークの顔には疑問が浮かんでいたが了承する。

 

「団長」

 

 マチが携帯を差し出してきたのでそれを受けとる。

 

「代わった」

 

『リンゴーン空港に8時までに来い。一人でだ』

 

 電話が切れる。

 

「団長、団員全員人質と一緒にアジトにいろって鎖野郎から指示されたけど、ノブナガはどうする?」

 

「問題ない。そのままにしておけ。他には何か言っていたか? マチ」

 

「もう1つの電話に不定期で連絡する。その際一人でも欠けていたらパクを殺すだって」

 

「そうか、分かった。とりあえずシズクとコルトピを呼び戻してくれ」

 

 鎖野郎は団員を人質にすればこちらを言いなりに出来ると考えているようだが、とんだ勘違いだった。

 確かにパクノダの能力は貴重で替えの利かないモノだが、旅団(クモ)の壊滅を天秤にはかけられない。

 仲間を切り捨てる覚悟は有るし、パクノダも旅団(クモ)のために死ぬ覚悟を持っている。

 鎖野郎は優位どころか対等の立場にすら立っていない。この認識の誤りが決定的にして致命的な鎖野郎のミス。そもそも同じルールで戦っていないことに気づいてすらいないのだ。

 クロロはシャルナークを見て頷く。

 頷き返したシャルナークは銀髪の子供に近づきながら、アンテナを取り出して刺す。

 

「キルアッ!?」

 

 黒髪の子供が叫ぶがフェイタンが拘束しているため身動き出来ない。

 

「ッ……いってェ」

 

「!!?」

 

 シャルナークが目を見開く。アンテナが刺さっているにも関わらず、銀髪の子供は操作されていない。

 

「……成る程。先客がいたのか」

 

 流石のクロロをしても想定外だったが、こういうこともあるかと気を取り直す。精神病の治療のために暗示をかける程度に弱く患者を操作する能力者もいる。この銀髪の子供もそういう治療を受けているのかもしれない。

 

「どうしようか団長」

 

「……もう一人の方に刺せ」

 

「ッやめろ!!」

 

 拘束しているフィンクスが銀髪の子供の顎を掴みあげる。

 

「黙ってろ、ガキ……」

 

 今度は成功したようで、黒髪の子供は意思の無い人形のように焦点の定まらない目をして立っている。

 

「それで? この子を操作してどうするの団長」

 

「恐らく鎖野郎はこの人質達を使ってオレ達の動向を監視させるつもりだ。それを欺く」

 

「なるほどね。でも、それには……」

 

 銀髪の子供に視線が集まる。

 フィンクスが顎を掴む手の力を強める。

 

「おい、そういう訳だからテメェはオレ達に話を合わせてろ。さもねーと……」

 

「……オレ達を殺すって? 無理だね。そんな事をしたら、アンタ達の仲間も」「問題無い」

 

「え?」

 

「そもそもお前達は見当外れなんだ。パクノダとお前達とでは人質としての存在の重さが違う。オレ達にとって個人の命は旅団(クモ)の壊滅を賭ける程重くない」

 

 "生かすべきは個人ではなく旅団(クモ)”。

 旅団結成時に掲げたその理念は今も色褪せることなく生きている。

 

 フィンクスの携帯が鳴る。

 シャルナークに銀髪の子供の拘束を任せ、フィンクスが電話に出る。そして直ぐに黒髪の子供と交代した。

 

「……うん、大丈夫。全員揃ってるよ。うん、リーダーもさっき一人でホテルを出ていった」

 

 銀髪の子供がどうにか仲間に情報の欺瞞を知らせようと焦っているのとは裏腹に、団員達はうすら笑っていた。

 クロロの一手で、獲物を追い詰めていると思っている猟犬が途端に狩られる立場に変わったのだ。

 鎖野郎の強硬な態度もここに至っては滑稽にしか映らない。

 フィンクスに電話が戻るがすぐに切れる。あまりに一方的なためにフィンクスは舌打ちをするも、自分達の方が優勢なため怒りもそこまでではない。

 

「では、リンゴーン空港へ向かうとしよう」

 

 クロロを先頭に幻影旅団はホテルを出る。

 稲光が夜空を走る。昼から降り始めた雨はいよいよ強くなっていた。




遅れまして申し訳ありません。
気力が衰退していて筆が進まず、この話も次話と一緒に上げようかなと思っていたのですが、次話もなかなか進まず取りあえず今話だけ投稿します。
ヨークシン編はもうすぐ終わるので、取りあえずそこまでは頑張って書きたいと思います。
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