自分以外の姿が見えない完全な闇の中で僕は周囲を見渡し、そして耳を澄ませたが何も聞こえて来なかった。
……おかしい。僕はまだ世界を壊していない。
僕以外の誰かが先に世界を壊した?
だとしたら何故僕の意識が残されているのだろう。
「
不意に僕の耳に入ってきたのは理解不能な言葉を発する男の声であった。
しかし、声の主には覚えがあるので僕はさほど取り乱す事も無く返事をした。
「僕にも解る言葉で話してくれるかい、ガスター」
「おっと失礼。はじめましてだね、」
ガスターの質問に僕は少し間を置いてから頷いた。
そして今度は僕から質問を投げかける。
「君は何処の世界の君なんだい?」
「私は何処の世界でもないよ。いや、正確には全ての自分の知識を共有してるから自分が何処から来たのかなんて解らないね」
なるほど、それは厄介な存在だね。
というか今思えば此処は普段僕がキャラ達と話すのに使っている空間じゃないか。
此処に連れてきたのが情報統合思念体と化したガスターさんだっていうんなら簡単には出れなさそうだ。
「ま、君の事なんて実際どうでも良いんだ。それより僕の邪魔をしてまでこの空間に連れてきた理由を教えてくれないか?僕をここに閉じ込めて出さないつもりかい?」
それならそれで対処するだけだけど。
だがどうやら彼の目的は他にあった様だ。
「なに、こっちで君と話したいという者の希望でね。空間自体は彼が作ったモノだが私はそれの空間維持を手伝ってあげているのだよ」
「……その言い方だと君以外の誰かが僕と話したがってるように聞こえるけれど」
僕は先程引っ掛かっていた疑念が今頃嫌な予感となって再び浮かび上がってきた。
なぜロードが出来なかったのか?
僕に決意がみなぎって無かったから?有り得ない。
じゃあどうして?
そう、答えは実に簡単な事だったのだ。
それは……
僕より固い決意を持った存在がいたから……
「察しが良くて助かるね。では私は下がるから、後は二人で話すといい」
そういってガスターの声は遠ざかって行った。
と、同時に近づいてくる小さな足音が一つ。
そして足音と共にその姿が少しずつ露わとなっていった。
「…………やあ、
僕は殺意を込めた瞳で目の前の存在を睨み付ける。
意識しか存在しないこの空間では彼を殺せない事は解っているが、それでも僕はこの殺意を抑える事など出来なかった。
「フリスク……ごめん。君が僕を恨んでいるのは当然だよね」
まだそんなふざけた事を……っ!
僕は調子のいい謝罪に怒りが増し、奥歯をギリギリと噛み締める。
こんな所に連れてきたガスターにも殺意が芽生えて来たよ。
すぐに存在ごと消し去ってあげるから覚悟してるといい。
「Frisk、君が幾ら謝ろうが僕が億万回君を殺そうが君を赦しはしない。僕の犯した業はそのまま君の罪なんだよ。僕がここまで来るのに皆を135,934,268回づつ殺してるのも全て君が世界をリセットし僕を別の世界へ飛ばした所為なんだ。解ってるのかい?」
「……わかってる。全ては僕が招いた結果で僕が背負うべきものだ」
……分かった様な事を言うなっ!
自分の手を汚した事も無い様な臆病者に僕の気持ちが解ってたまるか!!
「本当に……本当にそう思ってるなら…………僕を殺せ」
「えっ?」
「僕を殺して……僕の代わりにこの世界を壊してくれよ!」
僕はその為に此処まで皆を殺し続けてきたんだ。
僕の業を背負うというのであればそれ以外に方法はない。
だがどうせあいつは出来ない。
言葉で幾ら背負うとか言おうが実際に世界を壊すなんて臆病者のあいつに出来る筈が無い。
「…………それは出来ない」
「はっ、やっぱり口だけじゃないか!」
「ちがうっ!僕が出来ないと言ったのは世界を壊す事じゃない。君を殺す事だ!」
何を今更……冗談じゃない!
「僕が夢見た世界を否定して……その上僕の存在まで否定して……何が殺せないだ!お前は既に僕をあの世界から抹殺したんだ!同じようにすれば良いだけだろう!!」
「ちがうっ!信じてよ、僕は君を守りたかった……そして、救いたかったから君を遠ざけた!」
僕を守りたかった?救いたかった?
守りたいならそばにいる筈だ!僕はあの時まではちゃんと救われていた!
「そんな言葉は自分を正当化しようとしているに過ぎないじゃないか」
「……確かに結果として君を深く傷付けてしまった。けど……あそこで話したら優しい君はきっと僕よりも強い決意でリセットを止めていたはずだから。確かに僕の身勝手かもしれない……それでも……僕は君を失いたくなかった……だから……」
もういい……もう聞きたくない。
「もう君と話す事はない。あっちで待ってるから…………永劫殺される覚悟が出来たら復活するといい」
僕はFriskにそれだけ伝えると、この空間から出ていった。
*いやだ こわれるもんか。
僕が戻ると目の前にいた筈のパピルスの姿はなく、手に残った塵だけが彼がそこにいた事を漂わせているだけだった。
つまり僕は最後の最期に彼を見送る事が出来なかったんだ。
アイツのせいだ……アイツのせいで…………
僕は先程まで物言わぬ屍と化していたFriskを睨み付ける。
奴は当然の様に立ち上がり僕を真っ直ぐ見つめていた。
赦さない……世界が果てようと葬り続けてやるさ。
その姿が僕を更に苛立たせた。
僕はナイフを固く握りしめて再度そいつの心臓に突き刺した。
「…………」
「Frisk!…………え?で、でも……」
アズリエルが止めに入ろうとするがそれを止めさせたのは他でもないFrisk本人だった。
当然だろう?これは僕と奴の問題で彼らには関係無いんだから口を出すのは無粋ってものさ。
アズリエルも奴に言われて渋々手を下ろすが依然としていつでも動ける様に僕を警戒している。
まあ何をしようとアズリエルの攻撃なんてたかが知れてる。
僕は気にせずFriskに突き刺さったナイフを右に切り払いトドメを刺した。
「早く戻ってきなよ。僕の心をとことん逆撫でする様な君には諦める選択肢すら与えないよ」
その場で復活したFriskを僕はすかさず斬り捨てた。
僕に斬られたそいつは苦痛と後悔をない混ぜにした様な顔で何も言わずに再び倒れ伏した。
そして復活して…………
また殺して…………
再び復活して…………
再び殺して…………
……………………
………………
…………
……
。
どれ位の時が経っただろうか。
僕はFriskを殺し続けた……回数なんて気にしていないがまだ100,000回程度だろう。
当然僕の気が済む筈が無い。
こうしてる今も奴を殺し続けている。
アズリエルは一方的に虐殺を繰り返す僕を非難し、キャラは何も言わずに呆れた顔で僕を見ている。
そして目の前のただ殺され続けるFriskはここまで一言も話さず、僕から目を逸らす事なく避ける素振りすら見せようとしなかった。
僕より固い決意を抱いてるのだからこの程度で諦めたりはしない事は解ってるがそろそろ恨み言の一つや二つ出ても良いんじゃ無いだろうか。
そうでなくとも何かしら行動を起こすのが普通だろう。
僕は奴の狙いが読めずに僅かにもやもやが残るものの再び斬り付けていく。
だが、気にしないようにしていても一度芽生えた疑問というものは徐々に心を埋め尽くしていくのだ。
遂には芽生えた疑問を抑えられなくなり、僕は僅かな好奇心を引き金に聞く必要の無かった事をつい聞いてしまっていた。
「Frisk……お前は今僕に何回殺されたか覚えてるか?」
「1,126,125回……くらい、だね」
「そうか……その百万回以上もの間何もせずに僕に殺され続けてるのはどうしてだい?僕が疲れるのを待ってるにしても抵抗しないのは不自然だしね」
僕の質問に対してFriskは少しだけ躊躇ってからゆっくりと答えた。
「一つはあっちで話した通り君への謝罪のつもりかな?……例え君に億万回殺されようと僕は君を殺したくないから」
くだらない……だったらさっさと諦めればいいじゃないか。
「……他にもあるんだろ」
「そうだね。後はどんな理由でも君から僕に話し掛けてくれるのを待ってたんだ。君が話し掛けてくれるって事は僕の話を少しでも聞いてくれる気になってくれた事だからね」
つまりはコイツの思惑通りって事か。
気に入らないな。けどお陰でもう君と話す事は無くなったよ。
そうして僕は何度でも彼の事を斬り裂いた。
あれから更に君達観測者には想像も付かない程途方も無い時間が経っただろう。
既に僕の記憶にあるリセットされた回数を遥かに上回る程彼を殺し続けた。
だが……それでもFriskは毎回襲い来る痛みを堪え弱音すら吐かずに僕に殺され続けていた。
僕はその異常な決意に寒気すら覚え、気が付くと腕を降ろして彼に尋ねていた。
「はぁ……君の決意が固い事はどうしようもない位身に染みたよ。だけど、それだけの決意なら他に幾らでも目的を果たす方法があったんじゃないかい?」
それこそこっちの世界に飛ばされてきたばかりの僕と接触する事だって出来た筈だ。
けれどそれをせずにこうして僕に殺され続ける事を選んだ理由が僕には解らなかった。
「どうして態々こんな手遅れな僕の前に現れたんだい?」
Friskはその質問には答えずに眉を吊り上げてずかずかと僕に近付いてくる。
僕が彼の行動に警戒しながらナイフを構え直した直後、Friskは僕の右手に持ったナイフを強く叩き落とした。
「なっ!」
更に彼は武器を落とされた事で動揺を見せた僕の顔へと彼は広げた右手を勢い良く振り抜いた。
直後、接触した僕の頬とFriskの手の平から耳を劈くような破裂音が響く。
「…………え……?」
驚く程綺麗に入った平手打ちによって耳鳴りが酷く声が聞き取り辛くなっていた僕に、彼は聞こえるよう声を大にしてこう言った。
「君は手遅れなんかじゃない!あの頃から変わらず君は優しいままだ!君を悪く言う奴は例え君でも赦さないよ!」
……は?訳が分からない。
僕が唖然としてる中、Friskは思い出したかの様にアズリエルを睨みつける。
「アズ!この世界での出会い方じゃ仕方ないから大目に見てたけど、これ以上言うなら本気で怒るからねっ!」
「えぇっ!?ご、ごめん……」
Friskに何故か唐突に叱られたアズリエルはいつかのアズゴアの様にしょぼんと落ち込んでいた。
僕は未だに状況が掴めぬまま二人のやり取りを呆然と見ていると再び彼は眉を吊り上げたままこっちへ向いて尋ねてきた。
「フリスク、覚えてる?僕が君の力を借りて皆を地下から解放した時の事」
「あぁ、もちろん」
忘れる筈が無い。
それこそが今の僕の原動力でもあるのだから。
僕は彼に憎しみを浴びせながらそう答えると、彼は続けて訊いてきた。
「じゃあリセットの話を切り出す前に僕が今見たく君に怒ったのは覚えてるかな」
は?そんな記憶はな……い……?
でも何故か前にも怒られた覚えがある気がする。
いや、だけど普段は僕が彼を叱る事が殆どだったからそんな事があったなら覚えてる筈……。
「やっぱりそうだよね。僕がその直後にリセットの話をしたから仕方ないよ。けどね?僕がこれだけの決意を抱いたのは君からその話を聞いたからなんだよ」
「僕が言った事……?」
まさか、僕が何を言ったって言うんだ。
僕は記憶を遡り何の話をしていたか思い出そうと試みる。
Friskがリセットの話を持ち出す前…………確か……そうだ。
「僕が決意のみの存在だって話……だったかな?」
「そう、君はもう未練は無いから消えるだけだって言ったんだ。それに反対した僕を失望させようとこうも言った。『目を覚ませよ、僕は
ああ、それは言った気がする。
あの時はFriskが僕を未練に感じてリセットを選ぶ事が無いように諦めさせるためにそう言ったんだったかな。
どういう事かまさかそれが逆にリセットする決意を持たせたなんて皮肉もいい所だよ。
「まあ、君がそこで決意を抱いたって事は解ったよ。けれどそれは決意を抱いた理由でも、最初の質問の答えでもないよね?」
「僕が決意を抱いた理由は前にも言ってる……君を救いたいからだよ」
「……ちっ、また同じ言い合いを繰り返すつもりは無いよ。それで、どうして此処の僕の前に姿を現したんだ?い」
矛盾した行動を理解するなんて出来るはずが無いじゃないか。
僕が舌打ちを一つしてから先にもう一つの質問を聞くと、Friskは少し残念そうな顔をしながら質問に答え始めた。
「その理由だったら君と協力出来れば僕の願いを叶える事が出来るからだよ」
「君の願いをかい?どうして僕が協力すると思うんだい?と、いうよりそれは僕がこうなるのを解ってたって事だよね……?」
僕は目を細めながらそう問い詰めるも、彼は直ぐに否定してきた。
「それはちがうよっ!本来僕一人で君を救える様に考えていた。だけど君がそっちで世界を壊せるだけの力を手に入れたとガスターから聞いて急いで来たんだ」
ふーん、本来は来るつもりはなかったってわけね。
「すると僕が世界を壊さない様に止めに来たって事なんだね?」
しかし彼は首を横に振って答えた。
「そうじゃなくて、昔の様に君に僕の身体を使って欲しくて来たんだ。君の言う通り世界を片面からしか見て来なかった僕より君の方が相応しいと思ったんだ」
「それは、僕の願いを知ったうえで言ってるのかい?」
「大丈夫だよ。どんな願いでも僕は君の選択を信じるよ」
Friskは僕の両手を握って言った。
僕はそんな彼を見て誰かと重なった気がした。
「なんで……僕は世界を壊そうとしてるんだよ?それでもいいって言うのかい?」
「うん、君が全ての世界を壊したいなら僕は一緒に見守るよ」
彼はそう言って無邪気にはにかんで見せた。
だがそうするとFriskがあの時リセットをした理由が解らない。
本当は世界を壊す事が目的だった?
だったら今頃僕と同じ道を進んで僕に会わずとも達成出来るはずだ。
けれど他に理由が考えつかなかった僕は自分でもビックリする位素直に聞き返していた。
「Frisk、君自身はこの世界をどうしたいんだい?」
すると彼は不意に僕の事を抱き締めて小さな声で囁いた。
「君と一緒ならそれ以外に望むモノはないよ」
*ふむぅ……この流れは……