どこまでも続く深淵に木霊する一体の男の声。
「これで今回の異分子の隔離は全て完了した。後はこの実験サンプルを元に決意の排斥手段を確立出来れば、私の
男が何かを始めると、何もなかった空間に二つの映像が虚空から突如出現した。
映像の一つには一人のニンゲンの男の子、もう一つにはニンゲンの姿をした女の子とフサフサな毛並みのモンスターの男の子の二体とモンスターの方に絡みつく黄色い花が映っていた。
「さて、過ぎた決意を挫けるのは無気力か虚実の幸福か」
男は何処からか取り出した椅子に腰掛け二つの映像を興味深げに眺めるのだった。
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FALSE TALE
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窓から差し込む日差しが顔にかかる。
私は眩しさから逃れる為に近くにある毛布に顔を埋めた。
「う……んっ……」
毛布の暖かさに思わず頬が緩む。
暫くその温もりを感じていると突如毛布が私に降り掛かって来た。
「うぐぅ……く……苦しい……」
ここまで来ると暖かいというより最早暑苦しい。
私は毛布を押し退けようとするが毛布は全然動かせなかった。
「うぅ……ん……ぐ」
一向に動かせない毛布に苛立ち始めた私は左足で毛布を強く蹴りつけた。
「うぐぅ……!」
漸く毛布は私を離れドスンという大きな音を立てて床へ落ちた。
……ドスン?
幾らなんでも毛布を落としただけでそんな音が鳴るだろうか。
私は寝惚け眼を擦り、落ちた毛布を見下ろした。
「うぅ~ん……あ……おはようキャラ」
「…………」
「うぐぅ!?」
私は思わず床に転がる
アズリエルは苦しそうに呻いた後、不満を漏らしながら上半身を起こた。
「なんだよぉ、酷いじゃないか」
「そんな事はどうでもいい。それより何故お前が私の布団で寝ているっ」
「……ねぇキャラ、その質問も可笑しいって気付いてる?」
私がアズリエルを問い詰めていると、不意に彼の右腕から彼と似たような声が聞こえて来た。
声のする方に顔を向けてみると其処には見知った喋る黄色い花、フラウィーがジト目で私を見上げていた。
大分頭が冴えてきた私はフラウィーの指摘で漸く状況を理解し始める。
「つまり私とアズはあの後ガスターに此処まで飛ばされたと考えるのが妥当か」
「そうみたいだね。でも困ったな……どうやらこの世界に飛ばされる前に君以外のソウルは取り除かれてしまったみたい」
アズリエルから人間のソウルを取り除いたか。
ふっ、それはつまり人間のソウルを七つ揃えた状態の此奴なら世界線を越える事が可能だと言っているような物だ。
ならば此処が何処かなどどうでも良い事だ。
「アズ、準備はいいか。人間のソウルを集めに直ぐ出るぞ」
「う……うん。そう……だね」
「キャラ、こんな甘ちゃんに頼むより僕を頼ってよ!」
私は無粋にも割って入って来たクソ花を掴み上げてはっきりと伝えた。
「クソ花がっ。私を二度も裏切っておいて良くもそんな口が利けるなぁ?」
茎を握る力を徐々に込めていく。
「うぐ……ご、ごめんよ。あの時はアイツの事を君と勘違いしていたんだ」
「それはそれで不愉快だな……まあいい。どちらにしろ私は貴様を信用していない。さっさと失せろ」
私はクソ花を放り捨てる。
クソ花は寂しそうな目で私を見つめていたが、私が睨み返すと直ぐに引っ込んで行った。
「……ったく」
「あれ?でも確か親友って彼の事だって……」
「うるさいっ!余計な事考えてないで行くぞっ」
全く、面倒な奴らだ。
部屋を出たが部屋の中と同様記憶にない場所であった。
だが一つだけ解った事がある。
それは窓の外から差し込む光が人工的な照明ではなかった事だ。
「これは……まさか」
「たぶんだけど、外の世界じゃ……ないかな?」
というよりそれ以外考えられないだろう。
だがこれはある意味都合が良い。
町か村か解らないが外であるなら必ず近くに人間は存在する。
私達は人間を探しに行く為、外へ続く扉を探し始めた。
だがそんな私達を止めたのは意外な存在だった。
「おはよう二人とも、もう朝ごはんの用意は出来てるわよ?」
「え……ママ?」
私達のママ、トリエルが階段を上がって来ている所だった。
「どうしたの?まるで幽霊にでも会ったみたいな顔して」
「あ……えと」
「解った、今から行くよ」
「えぇ、はやくいらっしゃい」
言葉を詰まらせるアズリエルに代わり私が返事をすると、ママは満足そうに階段を振り返り降りて行った。
私は未だ放心状態のアズリエルを肘で小突いて正気に戻す。
「早く降りるぞ、アズ」
「う、うん」
奴に連れて来られた世界はどうやら既に結界を壊した後だという事が解った。
だが私がこの世界のフリスクを操っている訳でもなくアズリエルも私のソウルを持ったままの姿でいる。
更にママが今の状況に何ら違和感を感じていない事から二つの推察が立てられる。
一つは元々この世界線では私とアズリエルが生存したまま地上に出る事が出来たのか。
もう一つは……可能性としてはこちらの方が高いが、ガスターによる催眠によるもの。
前者なら大した問題はないが、後者なら少々厄介だな。
私はこの後の事を考えながら久しぶりのママの手料理を堪能した。
アズから奪ったエビフライは格別に美味だった。
それから少し離れたアズゴアの家に遊びに行ったり近くの山を散策したり時間を忘れて楽しんだ。
そして帰りが遅いと二人してママに叱られたのだった。
……違う、そうじゃない。
二日目の朝。
私は昨日の自分を振り返って思わず頭を抱えた。
そして直ぐに対策を立てる為にアズリエルを叩き起こした。
「起きろアズ!つうか私のベッドに入ってくるなって言っただろ!」
「いぅ……な、なに?あ……ご、ごめんキャラ」
私は寝惚け眼を擦りながら頭を下げるアズリエルに手刀をかまして話を切り出した。
「そんなことよりっ!早くソウルを集めに行くぞ!」
「え、でもママの朝ごはんを食べてからでも……」
ママの朝ごはん……いや、しかし…………
「…………食べたら直ぐ出よう」
やっぱりママのご飯は美味しかった。
アズからはから揚げを一つ勝ち取った。
ご飯を食べた後は公園に行って歳の近い人間の子と夕方まで遊んだ。
いっぱいあそんだあとにたべたママのごはんはとってもおいしかった。
このままじゃ駄目だ。
三日目の朝。
ママが今日から学校だから早く起きなさいと部屋に入って来た。
私は目を覚ますと当然の様に私のベッドで眠るアズリエルを引きずり降ろし、窓から放り投げた。
「はぐぁ!?ななななにが起きたの!キャラ!?どうしたの!何処にぐふぅ!」
私も窓から飛び出してアズリエルが落ちた所へ飛び込む。
これでいい。後は人間のソウルを集めてこの世界を抜け出す。
なぜだか解らないがこの世界は早く抜け出さなければならない気がする。
「アズ!ボサっとするな、早く行くぞ!」
「え……で、でも……」
「でもじゃない!直ぐに此処を出るぞ」
私は視線を逸らそうとするアズリエルの手を引いて庭を出ようとした。
だがアズリエルの方を向いていたせいで背中に何かふかふかしたものにぶつかってしまった。
「うっ……こんな所に布団が干してあるなん…………て?」
「…………」
「マ……マ……?」
私が前を向くとそこには仁王立ちで私達を見下ろすママの姿があった。
ママは何も言わずに下を指さした。
恐る恐る私とアズリエルは下を見てみると、そこには花が土を被ってへこたれていた。
「ママ……えと……」
「二人とも、学校が終わったら真っ直ぐ家に帰ってきなさい。良いわね?」
「「……はい」」
気まずい朝食を終えた私達はママに連れられて学校へと向かった。
周りは皆初めての学校で浮足立っていたけれど、私とアズリエルはそれどころでは無かった。
まず理事長の挨拶で出てきたママにジッとひと睨みされ竦み上がってしまった。
そのまま始業式を終えて明日からの予定を聞かされた私達は下校後、全速力で家に帰った。
そして後から帰ってきたママに花壇を荒らした事と二階から飛び降りた事を三時間しっぽりと叱られたのだった。
それでもママは最後にはもうしないという約束と引き換えにシナモンバタースコッチパイを作ってくれた。
流石にアズリエルから盗れる空気では無かったが泣きそうな程おいしかった。
なんとかしないと……
どうして?
私達は幸せなのに?
解らない……
私は……
六十三日目の朝。
今日もアズリエルを私の布団から叩き落とす事から始まる。
……まぁ、休みだし最近寒くなって来たから少しくらい良いか。
そう結論付けた私は
………………
……………
…………
………
……
キャラ……
誰かが私の名前を呼んでいる。
起きろキャラ!
これは……アズ?なんだよ、今日は休みなんだからもう少しゆっくりしたって──
起きろバカキャラ!
……ふ、貴様が私の布団にいる事を許してやっていれば調子に乗りやがって。
怒りで眠気が飛んだ私は目を擦りながらアズリエルを力一杯蹴り飛ばした。
「うぎゃぁ!な、なに!?」
「アズリエルよ、私を馬鹿呼ばわりするとは覚悟出来ているのだろうな?」
*アズリエルに対する怒りで決意が漲った。
「き、キャラ?何を言ってるの?僕がそんな事言うはずが──」
*ナイフは何処だ。
「キャラァ!?落ち着いてってばぁ!」
「ちょっと二人とも、僕を無視しないでくれる?」
不意に聞こえてきた声に私は足を止めて振り向いた。
するとそこには黄色いクソ花が生意気にも溜息をついてこちらを見ていた。
何か前にもあった気がするがまあいい。
「フラウィー、まさか貴様か?私を馬鹿呼ばわりしたのは」
「だ、だってそうだろ!いつまでこんな所で足踏みしてるのさ!」
足踏み?一体このクソ花は何を言っているのだろうか。
「この世界から私が出る必要が何処にある」
「な……なにいってんだよ。此処は君が本来居るべき場所じゃないだろ!」
その通りだ。この世界は本来私とは全く関係ない世界だ。
過程などに一切関わらず、結果だけを得ている状態である。
だが、それの何が悪い?
アズリエルもママもアズゴアも他のモンスターも地上で幸せな生活を送っていて、そこに私の居場所がある。
「元の世界で今の様な事が起こり得ると思うか?」
「それは…………解らない。けど、君がやろうとしているのは現実から逃げているだけだ!君はいつから偽物の幸せなんかに甘んじる様な軟弱者になったんだい?」
フラウィーは私を責めるような目で言ってきた。
……ちっ、裏切者の癖に。
「おい、貴様こそいいつから私にそんな偉そうな事を言えるようになったんだ?」
「うぅ……でも、此処を抜け出すには僕だけじゃダメなんだ。だからお願いだキャラ」
クソ花は頭を床に擦り付けながら私に頼ってきた。
どうやら私の前から姿を消した後も一人でここを出る方法を探していたらしい。
私だって本当にこれで良いのか考える事はある。
だがこの世界の空気が私の決意を鈍らせ、幸せなママ達の存在が私の後ろ髪を引くのだ。
この気持ちはきっと私一人ではどうにもならないし、アズリエルは既にこの世界を受け入れてしまっている。
だから酷く気に入らないが、私はこのクソ花が戻ってくる事に賭けたのだ。
「おい、クソ花。ついて来い」
クソ花の茎を乱暴に握りしめ部屋を出ていく。
「ちょっ、キャラ!?一体何を……」
「アズはママを上手く誤魔化しといて」
「キャラッ!!」
私はアズリエルにそう伝えるとママに気付かれない様に玄関から家を出ていった。
「……どこ、いくのさ?」
「イビト山。地下世界を抜ける時、最後にお前に会った場所だ」
私は車に気を付けながらイビト山へと向かって行ったのだった。
*フフフフフ…………。