あの後、真・研究所からママの所へ戻った僕はたくさん泣いた。
もう二度と彼を殺したくない……傷付けたくないと。
何の事だか分かっていない筈のママはそれでも僕を受け止めてくれて優しく僕を抱きとめてくれた。
そんなママの温もりを感じ僕は更に泣いた。
僕が泣いている間、ずっとママが頭を撫でて慰めてくれた。
おかげで少し気持ちが落ち着き始めた僕は、この先どうすればいいか考え始める。
決意こそ挫けてないと思うが僕はもうFriskを傷付けるような手段は取りたくない。
だがいくら考えようと彼が傷付かないで元の世界に戻る方法なんて思い付く筈がなかった。
僕は今まで数え切れないほど繰り返す事で何かを成し遂げてきた。
その結果が今の有様だ。
僕はこの決意の力が無ければ何にも出来ない脆弱な人間の子供に過ぎない。
どうしようもない無力感が重く圧し掛かり、堪え切れなくなった僕は気付けばまたママに泣きついていた。
「ママ……僕は自分が嫌いだよ。僕の行動は親友を傷付ける事しか出来ない……受けるべき傷を負う事すら出来ない最低な自分が……大嫌いだ」
「それは……辛いわね、でも私は大好きよ?あなたはとても優しい子だもの。私や皆、そしてそのお友達の事もそんなに心を擦り減ってしまう程に思いやっているあなたの想い。きっとそのお友達だって気付いてくれてるわ。それでも辛いなら何時でも私を頼っていいのよ?」
「……ありがとう」
ママの優しさが身に沁みながらも同時に罪悪感が僕の背中から這い上がってくる。
……僕は卑怯者だ。
自分自身は一切傷付かないのにママもパピルスもFriskも皆僕に優しくしてくれる。
僕自身に傷付く身体がない事が今ほど恨めしく思った事はなかった。
……そうだ、こんな僕でもFriskの為に出来る事があったじゃないか!
この世界でなら彼を傷付けないですむんだ。
此処の皆を救って平和な世界でどうにか彼に身体を返して僕は彼を見守り続けよう。
それが彼の為であり僕の為なんだ。
*フリスク……大丈夫、大丈夫だよ。
いつしか泣き疲れた僕はFriskが肯定してくれた安堵感も相まって易々と意識を手放したのだった。
それからというものの、僕は皆を救う為に地下中を駆け回った。
パピルスと仲良くなり、アンダインも一緒にパズルで遊んだり。
アルフィーのところに通い、色々なアニメや漫画を見せて貰ったり時には推しについ議論を交わしたりもした。
そしてアズゴアとはお茶をしたり、それとなくママとの仲を取り持ったりもしてみた。
因みにママは当時のアズゴアが王としての仕事に追われて家庭を蔑ろにしていた事を怒っているだけで、他の世界より溝は深くなさそうだった。
そうして皆と仲良くなっていき、Friskが皆と幸せに暮らせる世界が現実の物となろうとしていた。
*みんながキミをしんじている。
最後の回廊。
その場所で僕は改めて彼と待ち合わせていた。
「よぉフリスク。オイラと話すのにこんな場所を選ぶなんて……一体何の話だ?」
僕はその場から動かずに質問に答えた。
「君との思い出の場所……だからかな?」
「思い出の場所ねぇ?あー……そういうことか。おまえ、これで何度目だ?」
だが僕は直ぐに不用意な一言だった事に気付くも時すでに遅し、サンズの警戒心を一気に引き上げてしまった。
何てことだ、まさかこの世界でも巻き戻しに気付いてるなんて思わなかった。
ともすれば此処で下手な嘘は逆効果になる。
僕は包み隠さずこの世界でのリセット回数を伝えた。
「この世界をやり直したのは5回、いや6回だね」
ロード回数で言えばその数百倍になってしまうけれど。
「そうか、じゃあおまえは何故繰り返してる?」
「僕が繰り返してる理由?そんなの……」
そんな事決まっている。
いや、決まっていた……だけど今は。
「……わからない」
「はぁ?わからない!?おいおい勘弁してくれよ。オイラ達は理由も無く巻き戻されてんのかよ…………なんて、そんなジョークで済まされると思ってんのか?」
サンズの表情が変わった事に気付いた次の瞬間には目の前に現れた彼に胸ぐらを掴まれていた。
「うっ……ぐぅ!」
「もしそれが本当ならニンゲンってのはどうしようもねぇクズ野郎だな?此処はテメェの
…………はは、返す言葉も無いね。
少し前なら反論の一つや二つ皮肉を交えて返してやれただろうけど、Friskの事を傷付けたくないと言うだけでこの世界を掻き乱そうとする愚か者には耳が痛いよ。
*違うっ!
違わないさ。僕のはただの我儘だ、サンズの言ってる事は正しいよ。
*違うっ!君は決して愚かなんかじゃない!君は自分の事がまるで分かってない!
Friskの言葉に当てられ、僕は一瞬意識が遠のいた気がした。
「サンズ……!」
「あ?」
不意に名前を呼ばれたサンズは胸ぐらを掴んだまま睨み返す。
「僕には記憶も残らずに巻き戻される君達の気持ちは解らないよ」
「あ、あぁそりゃそうだろうよ……解ってるならそんな力使わねぇだろうからな」
サンズは苛立ちを募らせながらも
対する
「だけど君だってフリスクがどんな思いで動いてるかなんて解らないだろ!」
「……そんなものは加害者側の言い訳だ」
「言い訳だろうが関係ない!フリスクは皆から憎まれ、誰にも理解されずとも決して諦めずに世界に抗い続けたんだ!」
「さっきから何言って……憎まれるような事をやったのは自分だろうが。それを理解して貰おうだなんて甘えだぜ?」
「解ってる。君に理解して貰いたいとか同情して欲しいとかそんなんじゃ無いんだ。僕はただ僕や皆の為に戦い続ける親友を頭ごなしに否定して欲しく無かっただけなんだ」
サンズは暫く難しい顔をしていたがやがて溜息一つ吐いて掴んでいた手を離した。
「はぁ……で?おまえは何者だ。支離滅裂しすぎて全く話が見えてこねぇぞ」
「そうだね、紹介がまだだった。初めましてサンズ。僕の名はFrisk、君が今さっきクズ野郎と罵った彼の親友だ!」
Friskは決意に満ちた瞳でサンズを見据えハッキリと答えた。
サンズは暫く悩んでいたがやがてFriskの言葉から限りなく正解へと近い答えを導き出した。
「二重人格……いや、よく見りゃ一つの身体に二人分の業が見えるな。だがまさか……」
「その考えで概ね正しいよ。基本的に肉体の主導権はフリスクの方だけどね」
「なんだそりゃ。あー……まぁよく分からねぇが、一つだけ確かな事がある」
そう言ってサンズは徐ろにガスターブラスターを召喚した。
「それはなんだい?」
「てめぇらの考えはどっちも俺達にとって最悪だって事だ!」
サンズが言い終えるか否かのタイミングでブラスターを躊躇いなく放った。
Friskは辛うじて避けるも僅かに右腕を掠めた。
「……っ!待ってよサンズっ!僕は君とやり合うつもりはない!」
「なら潔く諦めな、その方が俺も楽だからな」
「残念だけど、それは出来ないよ!僕達は皆を救うまで決して諦めない!」
Friskは
と、同時に彼は内側にいる僕へ呼び掛けた。
*フリスク、この戦いで君が僕の想いに気付いてくれると嬉しいな。
Frisk……何をするつもりなんだよ、早くロード……は駄目か。
じ、じゃあ直ぐにリセットを!リセットするんだ!
「……ったく、じゃあ諦めるまで俺と最悪な時間を過ごして貰うぜ」
骨がFriskへと無数に降り掛かってくる。
彼はそれらを何とか避けようと動くが、全ては避け切れずに腕や足に幾つも骨が突き刺さる。
「……っぅ!絶対に諦めない!」
「ちっ、まるで自分が正義だとでも言いたげな顔だな」
苛立たしげにFriskを睨み付けたサンズは動きの鈍った彼を重力操作で地面に強く叩き付けると上からガスターブラスターを放った。
Friskは全身ボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がる。
「う……ぐぅ……さっき言っただろ。僕は親友が罵倒されるのが我慢ならなかっただけだ。どっちが正しいなんて言うつもりは無いよ」
止めて……止めてよ!君が傷付くのは見たくないって言ってるのに……どうして!
「ああそうかい。ま、それならそれで構わねぇさ。じゃあな、もう来んなよ?」
サンズのその言葉を最後にFriskはガスターブラスターの閃光に包まれて消えた。
もう止めてよ……君が傷付く必要は無いんだ。
僕がいくら止めようとどんなに殺されようとFriskはサンズと対峙する事をやめない。
なんで……どうして……どうして僕の想いを分かってくれないんだ。
どうして僕じゃなく君が傷付かなくちゃいけないんだ!
「まだ来る気か?かなり殺した筈だけどな」
「まだ四桁も死んでいないよ。それとも君はこれだけで諦めてくれるのかい?」
「ぬかせ、テメェが諦めるまでは引かねぇよ」
Friskは普段は絶対に言わないようなセリフでサンズを煽り立てる。
彼は戦いを終わらせる気が無いようだ。
いやだ……止めて……やめてってば。これ以上君が傷付くのは見たくないんだよっ!
ねぇFrisk……僕が悪かったよ。
もっと頑張るから……もう諦めたりしないから……だから…………止めてよ。
しかし、縋る様に懇願する僕を彼は一蹴した。
*フリスク、僕が聞きたいのはそんな言葉じゃない。
分からない。彼が僕に何を求めているのか……
僕がどうしたら良いか分からずにいる中、Friskは唐突にサンズへ話し掛けた。
「サンズ。そういえば僕の親友は君の事が嫌いなんだってさ」
「そうかい、俺も嫌いだからお互い様だな」
「どうしてだと思う?」
「は?そんな事俺が知るかよ」
「力を持つ君が言い訳並べて出来る事もしないのが気に入らないんだってさ」
Friskはサンズを煽る為に今の話を持ち出したのだろうか?
それにしては脈絡が無さすぎる……他に何か目的が。
「でも僕は思うんだ。君と親友はきっと似た者同士なんだって、だから反発しあうんだってね?」
僕とサンズが似てる?Friskは一体何を言ってるんだ。
あんな怠け骨と僕が一緒なはずないじゃないか。
……有り得ない。
「そいつと似た者同士だって?馬鹿も休み休み言えってんだ」
当然サンズも否定する。だがFriskはそんな事ないと続けた。
「そっくりだよ。一人で全部背負い込んでどうにか出来ないか一人で悩む。だから周りがどう思ってるかなんて考えようとしない」
「…………」
「僕もそうだった。その所為で大切な親友に酷く辛い思いをさせてしまったんだ……だから僕はもう二度とあんな過ちは犯したくないし、君やフリスクにも同じ後悔して欲しくないんだ」
Frisk…………。
「そいつぁためになる話をどうも。まぁそうだな、おまえとの
僕はどうやらとんだ思い違いをしていたみたいだ。
今まで一人で頑張ってる気になっていた。どれだけ力を得ようと一人で見えるものなんてたかが知れてるのに。
僕は大切なものを見落としてたよ……Frisk、君はずっと僕と一緒に戦ってくれてたんだね?
「サンズ……」
サンズはFriskの周りを囲むように大量のガスターブラスターを展開し、一斉に照射した。
だけどこれ以上奴の好き勝手にはさせない!
僕は彼と共に戦う決意を漲らせ、表舞台に帰ってきた。
「……まさかあれを凌げるとは思わなかったぜ」
「待たせたねサンズ、君の質問にちゃんと答えに来たよ」
「最初の答え?あぁ、また入れ替わったのか。ややこしい奴だな……で、また分からないとか言うんじゃねぇよなぁ?」
僕は呼吸を整えてからサンズに聞こえるようにしっかりと声を出して言い放った。
「僕は
*フリスクっ!君ならそう言ってくれると思ってたよ!
僕が最初に決意し、別の世界の存在を知り新たに固めた決意。
それこそが皆を救う事であり全ての世界を救う事であった。
それが例え世界を否定する事であろうと僕は彼と一緒に成し遂げてみせる!
今のぼくにもう迷いはない。
「サンズ、まだ僕らと敵対したいならいくらでも付き合うよ。ただし君にはこの世界を救う為に協力してもらうからね?」
「…………へっ、お前らイカれてんな」
普通じゃないのは事は理解してる。
僕は決意に満ちた瞳でサンズを見つめ返した。
「はぁ……分かった、お前の勝ちだ。だがもしオイラの兄弟や仲間達を傷付けるつもりなら…………今度こそ最悪な目に合わせるぜ?」
「安心していいよ、そんな手段はもう使わない。さあスノーフルへ戻ろうサンズ」
「ああ、こっちに来いよ。近道を知ってんだ」
僕達は対策を考える為、僕達はサンズの近道でスノーフルへと向かった。
*もう大丈夫だね、フリスク?
ありがとうFrisk。大丈夫だよ、きっとどうにか出来るさ!
*ふむ……持ち直したか……だがそこまでだ。
*この世界から抜け出すことは叶わんよ。