先程から心の内側から何者かの強い決意が私を蝕もうとしてくる。
*ママが心配するよ?
*おうちに帰ろうよ。
言葉にすればそんなものだがその一言一言が私をこの世界へ押し止めよう重くのしかかる。
私は暖かい我が家へ戻ろうとする気持ちを更に強い決意を以てどうにか押し殺しつつ漸くルインズへと辿り着いた。
「ここは……君や奴が落ちてきた場所じゃないか。僕と君が最後にあったのはだって……」
フラウィーは無数に生えてるゴールデンフラワーを見ながら首を傾げていた。
それも当然だ。結界を壊した時の記憶は此奴には残っていない。
Friskの決意により私と奴を除き
だがここはある時間軸では間違いなく此奴と最後に会った場所である。
厳密に言えばフラウィーの記憶の元であるアズリエルの姿だったが。
「此処でお前は私の事を『りっぱなニンゲンじゃなかった』と評した」
「ぼくが?……いや、確かにそう思う事もあったけどそれはきっと僕の勘違いだったんだよ」
「変な気遣いは要らん。私が人格者でない事は私が一番解っている。当時の私にとってモンスター達の解放など人間を滅ぼすついでだったのだからな」
私は軽く思い出話に花を咲かせながらフラウィーをゴールデンフラワーの中に放り投げる。
そして私は奴が着地し体勢を整えたのを確認すると本題へと入った。
「だからフラウィー……いや、アズリエル。私を裏切り計画を阻害した貴様の事だけは赦さない」
「え……?嘘だろ……そんな事してる場合じゃ」
私はポーチから愛用のダガーナイフを取り出し構えると、奴の話に耳を貸さずに花畑へと振り下ろした。
「戦えフラウィー!私は本気だ。私を殺さなければ私がおまえを殺すっ」
「ちよっ!待って……待てってば!何なんだよいきなり!?訳が分からないよ!」
「どうした、私が攻撃出来ないか?はっ、ソウルレスが聞いて呆れるね……そうか、ならば死ね」
私は戦う意思を見せないフラウィーを掴み上げナイフを振り上げた。
その直後、奴の背後から無数の弾幕が降り注ぐ。
私は避ける為に後ろに飛び退くが、奴は私の意識がそれた一瞬の隙を突き蔓を掴んでいる手に叩き付けて私の手から逃れた。
「はぁ……君が協力してくれれば簡単なのに。ねぇキャラ?本気で僕に勝てると思ってるなら今すぐ考え直す事をおすすめするよ」
「ほう?おまえこそ私に勝つ気でいるとは面白い冗談だ」
「君達がこんな世界にうつつを抜かしてる間に僕はずっとこの世界を抜け出す方法を探し続けてたんだ。これがその成果さ!見るといい、この僕の決意の結晶を!」
そう言うとフラウィーは突然発光しだした。
あまりの眩しさに私は目を細めながら奴の方を見ていると光は徐々に形を変え始める。
「見ろ!これこそが埋まる事のない僕と君との絶対的な決意の差だよ!」
光が弾け辺りを再び暗闇が包み始めた時、フラウィーは無機物と有機物を綯い交ぜにしたような生物へと変貌していた。
「ははっ、何をしてたのかと思えば人間のソウルを取り込んでいたのか」
「そうだ!この世界の人間を六人ほどね?本当はもっと集めたかったけど中々良いのが居なかったんだ。此奴らだって一人一人は君達の決意には遠く及ばない存在さ。だから今はまだリセットが使えない。でも君のソウルを奪う位は出来るんだ。そして僕は君の力を取り込みこの世界を抜け……そしてあのクソマッドに僕を嘗めた事を後悔させてやるのさ!」
「いちいち煩いなぁ、良いから来いクソ花」
私が面倒臭そうに答えたのが気に入らなかったのか、フラウィーはモニターを怒りの表情に変えて私に仙人掌の様にトゲトゲしい腕を突き付けてきた。
「君はまだ理解してない様だね!この世界で最も決意が強いのは僕なんだよ!?だから君は大人しく僕に取り込まれていれば良いんだ!そうすればたまには僕の話相手として今みたいな姿で実体化させてやるよ!」
私は急に強気になったフラウィーに聞こえるように深く息を吐いた。
「……なんだよその溜息は。僕がその気になれば君なんか自我も残らずに吸収する事だって出来るんだよ、わかってる?」
「おいクソ花、確かに私はこの世界に抗えなかったし抗う必要も無いと考えていたさ。だがな……ただの人間を五人や六人集めた所で私の今までの決意まで否定出来ると思うなよ?」
私はフラウィーの腕を切り付けてやる事で奴の提案を蹴ると同時に宣戦布告を示した。
「そうかよ……キミはほんとうにばかだね」
そんな私の意思を汲み取ったであろうフラウィーはそれ以上口にせず、突き付けた爪を開いて私を捕まえようとしてきた。
もう少し時間が掛かるかと思ったが、奴がソウルレスである事が幸いしたか。
私は後ろに跳ぶ事で奴の爪を避け、奴の顔へと赤い斬撃を放つ。
奴は身を護る事もせずにそのまま受けて見せた。
「どうだ!君の攻撃なんかこれっぽっちも効いちゃいないんだ!」
そう得意気に語るフラウィーに対して私はにやりと不敵に笑って見せた。
「…………君はどうしてそんなに苦しい思いをしたいのか理解に苦しむね」
そうは言っても奴は今も私に何か逆転の一手があるんじゃないかと警戒してるだろう。
だが奴はあいつが全てを殺し尽くした時間軸の一つしか知らない。
あいつが無理矢理連れてきたりイレギュラーな事が起きてる以上記憶が蘇っている可能性もあるが、少なくとも奴は結界を壊した事を知らなかった。
そして今の姿で負ける事を考えていない。
つまり奴は知らないのだ。
全ての時間軸で自分が負けてきた本当の理由を。
決意のソウルを持った人間が抗うと決めた時の本当の強さを。
そして私だって元人間だ。あいつらが出来た事を私が出来ない道理はない!
*危ないよ……逃げ──*あなたはケツイでみたされた。
どうせ逃げる事など叶わないだろう。
それにもう十分だ、偽りでも私は最高な思いをさせて貰った。
安心しろ、礼としてこの世界線をあるべき姿に戻しそれ以上おまえらの世界には干渉する気はない。
*いやだ……寂し──*あなたはケツイを抱いている。
それも心配するな。私がリセットしてやる。
お前らとこの世界の私達ならまた正しい道を歩めるだろう。
*でも……キミがしんじゃったら──*ケツイ。
なら私に力を貸せ、お前達が協力すればクソ花に負ける道理など存在しない。
*……解った、ボクたちはケツイをあなたに託す。
!……ああ、確かに受け取った。
私はあいつらの決意をその身に感じつつナイフを構え直す。
「フラウィー、おまえは私達の決意を甘く見すぎだ」
「はっ、僕が決意を甘く見てるって?ばかなこというなよ。僕ほど決意の力を恐れている奴はいないよ。だからこそ僕を前にしてなお諦めようとしない君の蛮勇が理解出来ないといってるんだ」
「ならば私を殺してみるといい……出来るものならな?」
「言われなくても……そうするさ!」
フラウィーは無数の弾で私を囲い動きを封じる。
どうやらよけられない様にしてブラスターを放つようだ。
だから甘く見てると言うんだ。
最初から私を殺しに掛かればソウルを奪うチャンスくらい有ったかも知れんのに。
私は放たれたブラスターにより、まりょくで出来た肉体は一瞬で消し飛ばされる。
続く数瞬後にはソウルが半分に割れてしまうだろう。
だが…………
パリーンッ
*
「おい、いったいなにをした……なぜ生きてるんだ!」
「だから言っただろ、私達を甘く見すぎだと」
ブラスターも弾幕もくぐり抜けフラウィーの前に立った私は無造作にナイフを持つ腕を振り下ろした。
たったそれだけの動作で奴の仙人掌の様な腕は根元から音を立てて崩れ落ちた。
「あ……あ、有り得ない。僕の腕を一撃で切り落とすなんて出来る筈がないんだ!おまえまさかジェノサ──っ!?」
奴があいつの名を呼ぶ前に私は奴の残った腕も一振りで切り落とした。
「私は私だ、奴じゃない。二度と間違えるなっ」
「うぅ……な、ならなんでこの姿の僕をこうまで圧倒出来る……そんな事が出来るのはあの化け物しか考えられない!」
フラウィーがそう言い切るのも無理はない。
最初から負けるつもり等無かったとは言え、これは私にとっても予想外だった。
何が予想外だったかと言えば今私に託されている決意だ。
これは奴らの様な異常な決意なんかじゃない。
一つ一つは小さな想い……ハッピーエンドを願う気持ち……モンスターや落ちて来た人間達の幸せを願う気持ち。
大抵は好奇心というより強い決意によって追いやられてしまった人間達の良心がこの場所で集まり安住の地を生み出したのだ。
その不変の幸福を望む小さな決意の全てが私に託されたのだ。
フラウィーにとっては堪ったものでは無いだろうが、もはやお前に抗う術などない。
「フラウィー、お前はこの世界を抜け出すのが目的だと言ったな?」
「何を今更……君達と違って僕は最初からそのつもりだよ!」
そうだな。そしてその為には手段を選ばないお前だからこそ私は此処に連れてきた。
私があいつらの
……だが、私の目的は今やそれだけではない。
託されてしまったのなら裏切る訳にはいかないからな。
「ならばお前が奪ったソウルを返して貰おう」
「な、何を……そんな事言って僕を油断させて殺そうとし、してるんだろ!」
「今更そんな事をする意味が本当にあると思っているのか?」
力ずくで取り返す事など容易に出来る状況でそんな小細工は必要ない。
というよりもはやあいつが持ってる人間のソウルがなくても実行するだけの決意はある。
……だがな、私を裏切りあんなクソ花に成り下がろうとも奴は私の大切な家族なんだ。
血の繋がりなんてものはないが、簡単に切り捨てられるものじゃない。
「最後にもう一度だけ聞くぞ。今度こそ私に協力してくれるならそいつらのソウルを解放するんだ」
「…………………………わかった、どうせ目的は同じだ。それにもう君には勝てないと分かってしまったからね」
ロードでも試したのだろうか。
そういってフラウィーは六つの人間のソウルを体から取り出して私へ差し出して来た。
私がそのソウルを受け取ると奴の体は再び光り始め、そして何時もの花の姿へと戻った。
「さぁ、殺るなら今だよ。君なら一振りで僕を殺せるだろう?」
自棄気味に蔦を伸ばして地面に仰向けになるフラウィーを私は掴み上げると自分の右肩に乗せた。
「フラウィー、私は裏切る奴が大嫌いだ」
「知ってる、だから早く──」
「私にお前を裏切らせて罪を清算しようとしても無駄だ」
「は、何を言ってんのさ?君はさっきまで本気で僕を殺しに来てたじゃないか」
勿論だ。中途半端な決意では直ぐに曲がってしまうからな。
「そうだ。だが常識的に考えてみろ。協力を取り付けた相手を殺す奴が裏切り者じゃなくてなんだと言うのだ」
「なんだよそれ…………君の頭の中はお花畑かい?」
相変わらず失礼な奴だ、私からすればドリーマー家の方がよっぽどお花畑な考え方だ。
どう考えても私は一般的な常識を持った至ってまともな人外だろう。
まぁ常識から外れた存在が同じ常識外の奴に常識を説くってのも変な話だがな。
とにかくそんな詭弁とも取れる言い分をフラウィーに伝えて黙らせる。
そして私は私達の目的とあいつらとの約束を果たす為に決意を抱く……前に忘れていた事があった。
「フラウィー、悪いが家に居る
「えぇ~?別に良いんじゃないの、あいつはあのままでも幸せそうだし」
それは私も思わなくもないがそうも行かない理由があるのだ。
「私のソウルは今奴に繋がっているからな、この世界から離れると私が保てないのだ」
「ふ~ん、それって僕にデメリットないよね?」
ははは、やっぱり死ぬかクソ花?
だが私は頭の中お花畑ではないから無意味に弱点を晒す事はしていないのだ。
「私が途中で消えればお前はガスターの奴と同じ時空から永遠に閉じ込められるだろうな」
「ゔっ…………じゃあ行ってくるよ」
フラウィーは渋々了承すると肩から飛び降りてそのまま地面を潜って行った。
ふぅ……礼を言おう、お前達。
おかげで私は奴を殺さずにすんだ。
*あなたは優しい。
*力があればきっと正しい選択をしてくれると思った。
*だからあなたに託した。
私が優しいか……そんな事を言われたのは初めてだな。
本当に私が心優しい人間なら、きっと私の居た世界も此処のように優しい世界になってたかもな。
*ヒトはよわい。時に間違え、後悔し、そして願う。
*
*真に優しき人間は自分の過ちを認め、みんなの為に決意を抱き続ける事が出来る者。
はは、それは流石に買い被りすぎだ。
だがまあ……悪い気はしないな。
「お~い、何浸ってんのさ?やっぱり帰りたくないとか泣き出すつもり?」
おっと、どうやらフラウィーの奴が帰ってきた様だな。
全く……帰りたくなくなったのか?などと愚問を投げてきやがって、台無しだ。
「フラウィー……私が何の為にあいつを呼びに行かせたのか忘れたのか?」
「じ、冗談だってば!冗談だから狂気的なその笑顔でにじり寄って来るなよぉ!」
フラウィーは身体を震わせながらゆっくりと後退していく。
「キャラぁ〜、ママが怒っ──ひ、ひぃぃぃっ!?お、おばけだぁー!!」
そして何故か一緒に来ていたアズリエルまで扉の向こうまで逃げ出してしまった。
おまえらなぁ…………流石に失礼だとは思わないのか。
苛立っていたとは言え私は笑顔で聞き返しただけだぞ?
…………目を見開いたままだったのが悪かったのか?
*That's Right
*人間の可能性に