*まだっ!ちょっと面白そうだから待って!
*こいつの気力も奪えれば良かったのだがな……。
フリスクが突然帰ってしまった……なにがそこまで気まずいんだろう?
とは言え戻ってしまったものは仕方ないので僕は一人でアズリエルの所に向かった。
「Frisk……僕の事は心配しないでいいよ、誰かが花の世話をしなきゃ駄目だからね」
「アズリエル……本当に一緒に来ないの?」
「……うん、戻ったらまた皆を傷つけちゃう。もう皆とは合わない方が良いんだ。だからFrisk……僕の事は放っておいてよ」
アズリエルは寂しそうに笑って言った。
彼は諦めてるけれど僕は彼一人を置いてけぼりになんて出来ない。
僕は彼の手を握ったままじっと見つめた。
「……どうして行かないの?君は……」
アズリエルは僕の目を見てため息を吐くと僕に問い掛けて来た。
「ねぇ、君はどうしてこの世界に来たんだい?君もあの伝説はしってるよね?」
【イビト山に登った者は二度と戻らない】
もちろん僕は此処に落ちてくる前からその伝説の事を知っていた。
「……知ってたから来たんだよ」
「そっか……」
彼は僕の言った言葉の意味を理解したんだろう。
悲しそうに目を伏せてそう呟いた。
「実はね、フリスクが落ちてきた理由もあんまり良いものじゃなかったんだ」
僕も詳しく聞いたわけじゃないけれど彼女も僕と似たような境遇だったと聞いている。
「Frisk、君には本当の事を教えてあげる。フリスクは表には殆ど出さなかったけど人間の事をとても憎んでいたんだ。彼女から直接聞いた訳じゃないけどその憎しみが凄く強いって事は僕にも分かった」
フリスクが……?
彼女がそんな素振りなど見せた覚えが無かった僕は暫く呆然としていた。
しかしこっちの事情を知らない彼は僕の反応を別の意味で捉え慌てて弁解を始める。
「あ、ええと……同じ名前だけど君の事じゃないからね?」
「え?ああうん大丈夫っ、続けて」
「えっと……うん、実はね?その事に気付いたのはもうフリスクが毒を飲んで死んでしまった後だったんだけれど……フリスクと僕の魂を一つに融合させた時に身体を動かす力も二人に別れちゃったんだ。そして彼女は魂の抜けた自分の身体を持って結界を抜けたんだ」
そして人間の村に着いた彼女はアズリエルに声を掛けたらしい。
【一人残らず殺してしまおう】と……。
アズリエルは涙を堪えながら続けた。
「でも僕は彼女にそんな事させたくなかった……違うね、僕が嫌だったんだ。だから反対した……そのせいで僕達は……僕は……」
「アズリエル……辛いなら無理に話さなくても良いんだよ?」
僕は心配になり彼の言葉を遮るが彼は首を横に振る。
そして涙を拭うと、笑顔を作り大丈夫だと僕に告げて話を続けた。
「今思えばフリスクは君とはまるで違かったんだ。名前とか服の趣味とかは似てるけど……彼女は強い憎しみを持っていたし……正直立派な人間とは言えなかった。どちらかと言えば……酷い人間だったのかも知れない」
違う……!フリスクはそんな子じゃない!
彼女が導いてくれたから僕はここまで頑張ってこれたんだ。
「彼女はママ……トリエルさん達の願いを叶えようと諦めずに頑張ったんだ!それこそ僕なんかよりずっとずっと皆の為に心をすり減らしてきたんだ!なのにどうして君は彼女の事……はっ、ご……ごめん」
彼女の想いが否定されたような気がして僕はついカッとなって言い返してしまった。
アズリエルは面食らったような顔をしていたがやがてフッと薄く笑うと口を開いた。
「……そうだね、僕が彼女を悪く言う資格はないね。僕は今でこそあの時の選択が正しかったんだって言えるけど……結局彼女の想いを裏切ったのは事実だからね」
「…………」
なにをやってるんだ僕は……。
アズリエルを救いたいのに自分で彼を慰められない状況を作ってしまった。
「……」
「Frisk、僕の話を聞いてくれてありがとう。さあ、君はもう仲間の所へ戻らなきゃ。外の世界ではくれぐれも気を付けてね。地上は皆が思ってる程平和な場所じゃないから。フラウィみたいな奴も沢山いる。【良い奴】で居るだけじゃ解決できない事もある」
彼は逡巡した後、精一杯の笑顔で伝えた。
「アズリエル……僕は……」
「Frisk……うまく生きるには【殺さず殺されず】だよ。それをモットーに頑張っていればきっと大丈夫。それじゃあね」
僕では彼を救う事は出来ないのだろうか。
フリスク……君なら彼を救えるだろう?お願いだよフリスク、彼を……。
僕は今はその場に居ない彼女に心の中で祈った。
と、その時。扉の方から小さな足音が洞窟に反響して僕等の耳に届く。
気付けば僕とアズリエルは同じように扉へと視線を動かしていた。
「あ~あ、折角アズが人の悪口を言ってる所を飛び込もうと思ったのになぁ~」
「へ?フリスク……どうして此処に?」
「あ…………あ……ああ……」
なんと扉の奥からフリスクが不満そうに頬を膨らませながら入ってきたのだ。
気まずいからって戻ってったはずなのにどうして……。
突然の登場にアズリエルなんかは顔真っ青にして全身を震わせているのにフリスクはお構いなしに理由を話し始める。
「いやだからさ、どうせアズの事だから何時もの様に僕の悪口を言ってるんだろうなって思って。その現場を抑えてやろうって思ったんだけどさ?君が……そ、その……あんな風に言ってくれるなんて思わなくて……」
フリスクは顔を赤くしてモジモジしながらそう答えた。
「えーと……つまりアズリエルを驚かせようと僕一人に行かせたけど出るタイミングを逃したと」
「そ、そうだねぇ?」
はぁ……全く、僕が真剣に悩んでたって言うのに君は。
僕は未だに震えている彼に声を掛けてこっちの世界に引き戻そうと試みる。
「アズリエル?まず目を瞑って深呼吸して」
「う、うん……すぅ~…………はぁ~……あ、ありがとう」
「落ち着いた?そしたらゆっくりと目を開いて」
「うん………………うわぁぁぁっお化けだぁ!?ふ、フリスク!やめてっ!僕が悪かったから呪わないでぇ!?」
……そっか、そうだね。
死んだはずの人間が出てきたらそれは驚くだろうね。
結局僕がフリスクの事情を確りと説明してどうにかアズリエルは落ち着きを取り戻してくれた。
「……ごめん、二人共」
「今回は仕方無いよ。何も聞かされずに突然だったんだもん」
「あ~あ、ショックだなぁ……お化けとか案外的を得てる事言われたのがショックだなぁ」
フリスクは傷心中……の振りをしてアズリエルを弄っていた。
「ごめんってばぁ~……」
「自分だってお化けフラワーのくせにぃ」
「はうっ!うぅ~……」
「フリスクっ、良い加減にしなよ。それ以上やるとパピルスに嫌われるよ?」
「うぐっ……はぁ、仕方ないな。それじゃあFrisk、アズ、さっさとママ達の所に帰るよ」
そう言ってフリスクは立ち上がって歩き出そうとするが、アズリエルが待ったを掛ける。
「フリスク、彼には言ったけど僕は皆の所には戻れないんだ。僕はもう皆を傷付けたくないよ……」
アズリエルはいずれ花の姿に戻ってしまう。
そしたらまた優しさや思いやりを失ってしまう。
だからそれを何とかしなければ彼は此処を離れようとはしないだろう。
「う~ん、そうだねぇ……皆のソウルの残滓が器として機能してその状態だとしたらFriskの決意の力でも解決出来ないだろうしなぁ」
僕の力……そっか!
「ねぇ!器が無くても今のフリスクみたいに姿を留めて置くことなら出来ないかな?」
「うーん……出来なくな無いけど、クソ花ならぬクソモフが出来あがるんじゃないかなぁ?」
「自分の姿でフラウィみたいになるのは嫌だよ……」
そっか……そうだよね。
でもそうすると他に方法が……。
「あ、そう言えばクリスが言ってたおまけって何なんだろう?大体予想はついてるけどもしあってるならまだ実感は無いしなぁ」
「おまけ?クリスさんと何か話したの?」
僕がフリスクにそう尋ねようとしたその直後、大きな音を立てて空間の一部がガラスの様に割れた。
と、同時に見覚えのある人が出来た亀裂から飛び込んできた。
「僕を呼んだかな?」
「え……えっ!?」
「クリス……どうしたんだい?前にあった時はもう少し落ち着いて無かったかい?」
「何とかガスターから15分だけ許可が降りたからね、派手に登場しようと思ったんだ」
唖然とする僕と状況に追い付けずオロオロするアズリエルを置いて二人は何やら話し始めた。
「時間が時間が無いのか。じゃあ早速本題に入るけれどさ、あの時言ってたおまけの内容と既に僕に適用されてるのかを教えて欲しいんだけど。あ、念の為耳打ちで教えてもらえるかい?」
「なるほど、単純明快な質問だね。分かった……………………って所だね」
「なるほどねぇ……クリス、君は本当に良いのかい?」
どんな内容なんだろう……気になるけど態々耳打ちで聞くくらいだから教えてくれないんだろうなぁ。
「僕は問題ないよ。僕には有って無いようなものだから」
「へぇ~?そうなんだ~。じゃあさ、そのおまけアズに与える事は出来る?」
「え?出来るけど……どちらかにしか渡せないよ?」
渡す?一個しかないもの……う~んなんだろう。
僕が頭を悩ませているとその様子に気付いたフリスクが一言だけ伝えてくれた。
「アズを救えるとっておきさ」
「本当に良いのかい?」
「大丈夫さ、だから早く頼むよ。君が此処に居られる時間も限られてるんだろ?」
「……分かったよ。後悔しても遅いからな?じゃあおいでアズ」
「え……う、うん」
クリスさんに手招きされたアズリエルはおずおずと彼に近付く。
アズリエルがクリスさんの前まで来ると彼はアズリエルの胸元に手を翳した。
アズリエルを救うとっておきとは……。
僕は不安半分期待半分でその様子を眺めていると突如クリスさんの手が眩いくらいに瞬いた。
そして光が収まり目を開いた頃にはクリスさんの姿は何処にも無かった。
まさかとっておきって……クリスさん自身!?
『時間切れだってさ、ギリギリ間に合って良かったよ。またね~!』
だがどうやらそれは違ったらしくそんな彼の声だけが彼の居なくなった部屋にこだましていた。
「危ないなぁ……まあ間に合ったなら良いけど。じゃあ改めてママの所に戻ろっか?」
「え……うん」
アズリエルは何かが変わった事を実感したのか生返事だけを返してフリスクの後をついていくのだった。
行きと違い帰りは船を使い寄り道せずに帰ったので行きの6分の1位の時間で帰って来た……とおもう。
実際に時間を測った訳じゃないので解らないけどそんな感じで帰って来た僕達は皆に帰って来た事を伝えた。
「ただいまママ、パパ!」
「おかえりな…………アズリエル?」
フリスクに気付き顔を上げたトリエルはアズリエルに気付き表情を一変させる。
「ママ……みんな……その…………ごめん……なさい」
恐る恐る前に出てきたアズリエルは震える声を絞り出して謝った。
トリエルはそんな彼に駆け寄り優しく彼を包み込む。
「ごめんなさいアズリエル……貴方達を助けてあげられなくて……本当に……」
「アズ……ずっと辛い思いをさせてしまったね……本当に済まない」
そう言ってアズゴアも二人を力強く抱き止める。
そうして二人の愛に包まれたアズリエルは遂に堰を切ったように泣き始めた。
そんな三人を微笑ましく見つめていたフリスクに僕はからかい半分でせっついてみた。
「良いんだよ?君も行ってきなよ」
けれど彼女は悲しい目をしながら首を横に振った。
「僕は彼等を不幸な目に合わせた加害者だからね、流石にあの輪には入っていけないよ」
フリスクの気持ちは痛いほど解る。
けど……それでも彼女が悲しむ顔をいつまでも見ていたくない。
そう思った時、僕は咄嗟に彼女を抱きしめていた。
「へっ!?Frisk?どど、どうしたんだい急に!」
「大丈夫だよフリスク。何があっても僕はずっと君の味方だからね?」
「Frisk……うん、ありがとう」
僕は優しく微笑み返す彼女の瞳から涙が溢れなくなるまでずっと抱きしめ続けた。
「……よし、それじゃあ皆準備は良いかい?」
先程までの彼女達はもう居ない。
フリスクは皆へ最終確認すると先陣切って歩き始める。
僕とアズリエルもその後に続き皆もその後を付いていく、
そしてやがて見えてくるルインズの扉に似た形の大きな扉。
それをアズゴアの魔法によって開くとその先は真っ白に輝いていた。
フリスクは再び歩き出そうと一歩踏み出した所で足を止めた
後ろに続いていた僕も彼女にぶつかりそうになり慌てて足を止める。
「フリスク?」
僕は彼女にどうしたのかと尋ねると彼女はこちらを振り返り自然な笑顔のまま僕に話しかけた。
「Frisk、僕は何があっても君のそばにいるよ。これからも……この先も……ずっと君と一緒だからね」
「フリスク……うんっ、当たり前じゃないか。僕達はこの先もずっと一緒だ」
僕がそう返すとフリスクは屈託のない笑顔のまま正面へ振り返った。
そして彼女は再び歩みを進める。
その光景が僕に言い知れぬ不安を与えた。
僕は慌てて彼女の手を掴もうとしたが僕の手が彼女に触れる直前で光に包まれて消えてしまった。
「フリスク……っ!」
僕は彼女に追い付こうと急いで光の中へと入って行った。
※※※※※※※※※※※※※※※※
扉を抜けるとそこには夕焼け空が広がっていた。
だけど今の僕にはそんなものを見ている余裕なんて無い。
僕は一目散に先に来ている筈の彼女の姿を探した。
右も左も前も後ろも上も下も見える所は手当たり次第探す。
後から出てきたアズリエルや皆に聞いても中には居ないと答えが帰ってくる。
実際に入ってみてもその姿は見当たらない。
「サンズ!お願いだ!中にフリスクが居ないか見て来てよ!」
「お、おう分かった。だが奴は確かに此処を通った。だからあんま期待すんなよ?」
サンズはそう言って直ぐに探しに行ってくれた。
僕は彼が帰ってくるのを待ちながらフリスクの言葉を思い起こす。
僕は何があっても君のそばにいるよ……何があっても?
つまり彼女は何かある可能性を知っていた。
じゃあ何故……あっ、おまけ!?
僕は直ぐ様彼に確認を取る事にした。
「アズリエル!クリスさんが君に渡したおまけってなんの事だか解るかい?」
アズリエルは僕の剣幕にたじろぎながらもおまけの正体について考え始める。
「え……と……僕に残っていたソウルの残滓が上手く定着してるから……多分……その……器の代わりになるような何かだったん……じゃない……かな?」
器の代わりになる何か?そんなものが作れるのなら僕にも出来るはず。
だけどそれなら態々クリスさんが一つしかない物を渡さなくても良いはずだ。
まって……一つしか無い。それにフリスクが確かクリスさんに本当に良いのかって確認を取ってた。
つまりクリスさんが持っていた又はクリスさん自身の何かを渡した。
それは何か……器の代わりになるようなもの……違うっ!器そのもの、つまりクリスさんのソウル!?
でもそんな事って……いや、それよりもそれはアズリエルが持っていてフリスクは持っていない。
つまり彼女は
「うそだ……嘘だっ!信じない……信じられないよ……」
「Frisk!?大丈夫かい?」
アズリエルは心配そうに声を掛けてくるがそんな事はどうでも良かった。
そうだ……まだサンズが中を探してくれている…………きっと地下に居るはず。
だがそんな儚い願いも直ぐに打ち砕かれる事となった。
「っち、駄目だ。行ける所全て探したが見つからねぇ。やっぱコッチ側にいんじゃねぇのか……っておい!お前さん大丈夫か!?」
地下にも居ない……外にも居ない……じゃあやっぱり…………。
でもそしたらどうすれば……何のために此処までやって来たんだ。
そうだ……もう一度リセットすれば…………………………駄目だ、それは彼等との約束を破る事にもなるし……何よりフリスクはそんな事望んでいない。
でも、どうすればいいんだ……君が居ない世界に僕だけ居たって仕方ないじゃないか。
僕はその場に崩れ落ち空を見上げると、太陽は既に姿を隠しそこには月と星だけが世界を照らす闇が広がっていた。
お願いします……僕はどうなってもいい。
だから……だからフリスクを返して!
僕の願いに応えるかのように一筋の流れ星がキラリと光を放って空に消えていった。
「おいFrisk、てめぇなにしようと……」
「Frisk!駄目だよっ!」
何かに引かれるように僕は崖に向かい歩き出していた。
後ろではサンズとアズリエルが僕を止めようとするが、彼らでは僕の決意を阻む事など出来ない。
君と居れないのなら僕は……
*ありがとう、Frisk。
*おいおい、危ないなぁ……もっと行動に責任を持って欲しいね。
*その行動一つで世界が滅ぶかも知れないのに。
*ああ、丁度私も君に同じ言葉を送ろうと思っていた所だよ。
*え……?
*お前は余程世界を滅茶苦茶にしたいと見えるな?
*いやぁ……彼と約束しちゃったからね?それにあれは保険のつもりだったんだよ。
*ほう?あれで何かの保険になるとでも?
*それは……成り行きというかなんというか?
*はぁ……お前と言う奴は……