Muv-Luv Alternative ~take back the sky~   作:◯岳◯

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47話 : 甲21号作戦(オペレーション・サドガシマ)(2)

 

帝国海軍の巡洋艦である最上の中央部は、蛍光灯と計器の光で照らされていた。夕呼は少し薄暗いその空間の中で、佐渡島ハイヴ周辺の様々な情報をBGMにしながら移り変わっていく状況を頭の中で分析し続けていた。

 

「―――ウィスキー全隊の損耗率12%、エコー全隊の損耗率5%。共に作戦継続に支障なし」

 

最上のオペレーターが信じられない、という表情で艦長の小沢と夕呼に報告を上げた。それを受け取ったピアティフが、先に上陸したウィスキー主力部隊が構築した戦線を説明していく。最上の艦長である小沢は動じず、静かに戦況を見極めていた。その中でも目を引くのが、損耗率の低さだ。当初はこの倍以上の数の衛士が、佐渡島の地に沈むことを想定されていた。

 

「XM3なる新OSの性能……想像以上ですな、香月副司令」

 

「いえ、帝国軍の技量があってこそですわ……本当に、よく踏ん張ってくれている」

 

XM3の成果に感嘆している小沢に対し、夕呼は自分だけの功績ではない意を示した。小沢は、レーダーに映る味方を示す信号を見ながら答えた。

 

「佐渡島ハイヴは日本の地に刺さった大きな棘であり、それを抜くのは軍民問わずの宿願です……国連軍との共同作戦とはいえ、踏ん張らない理由がありません」

 

日本という国のため、そこに住まう家族を守るために必死になるのは当然のこと。士気が高い理由を告げた小沢に対し、夕呼は失礼を詫びた。

 

そこにヴァルキリー中隊とクサナギ中隊が合流地点に到着したとの報告が艦の中に入った。ピアティフの報告を聞いた小沢の眼が少しだけ見開かれ、夕呼は小さく頷いた。

 

「ピアティフ中尉、A-01の状態は?」

 

「―――損耗、ありません。現在、警戒態勢を継続中とのこと」

 

「故障も脱落も無し、か。A-02の現在位置は?」

 

「―――確認しました。現在、新潟県魚沼市付近を進行中。各部正常、作戦遂行に問題ありません」

 

ピアティフの報告を聞いた小沢が、例の新型兵器ですな、と夕呼に話しかけた。

 

「佐渡島で戦っている将兵のためにも……新型OSと兵器同様、謳い文句に違わぬものであって欲しいものです」

 

先の二つが人類の寿命を10年繋ぐもので、A-02はハイヴ陥落という難行への交通費を1/100にする常識外の格安チケットと言う。夕呼が日本政府と帝国軍上層部に告げた言葉であり、先の二つは実戦にて証明されつつあった。

 

故に、小沢の言葉は表面上は帝国海軍士官らしいものであるが、その実は期待に満ちていた。夕呼は敏くその機微を感じ取ると、当然の結果が待っていると言わんばかりに頷きを返した―――が。

 

「―――ハイヴ周辺の地中部より、大規模な震動を確認! これは、」

 

「震源近隣の部隊より報告あり、推定個体数……計測不能! す、少なくとも4万以上のBETAが――」

 

「―――ハイヴ周辺の各(ゲート)よりBETAが出現中、支援砲撃の要請が次々に……!」

 

各オペレーターから矢継ぎ早に報告が上がってくる。小沢はそれらを聞き取りながら対処をしていくが、赤のBETAを示すシグナルの流れを観察すると、一つのことに気づいた。

 

「これは……新手の大半が、A-01が居る地点に?」

 

地中や門から流れ出るように出現したBETAの大多数が、帝国軍の陽動部隊ではなくA-01が待機しているポイントへ向かっている。気づいた小沢が夕呼に、対処について話しかけようとする直前、別方向からの報告が入った。

 

『―――こちらヴァルキリー1。香月副司令、状況はパターン2へ、繰り返します、パターン2です』

 

「ええ、あくまで想定の内ね―――ヴァルキリー中隊、クサナギ中隊ともにプランBへ移行。訓練した通りにやりなさい」

 

『―――ヴァルキリー1、了解。訓練以上の成果をお見せしますよ、香月副司令』

 

『―――クサナギ1、了解。ヴァルキリー中隊への援護と共に、更なる奇襲への警戒を継続します』

 

向かってくるBETAは止めるし、どこからやってくるかも分からないがとにかく潰す。そんな意図がこめられた通信が切れた。夕呼は満足そうに頷き、表面上は事態の推移を見守りながらも、内心では舌打ちをしていた。

 

(―――間違いなく、凄乃皇を狙ってるわね。白銀の情報じゃ、どうやって察知したのか、その詳細まではつきとめられなかったらしいけど)

 

()()()の甲21号作戦でのBETAの動きを鑑みると、A-02の役割から進行ルートまで読まれていた可能性が高い。夕呼はその事から、BETAは固有の察知能力ではなく、00ユニットからの情報漏洩により凄乃皇・弐型を待ち構えていたのだと推測していた。

 

今回、この世界でBETAに対する情報漏洩は起きていない。だというのにハイヴへ突入していないこのタイミングでの地中からの奇襲と、A-02を狙う動きである。

 

(原因は、不明―――材料はあれど、断定をする程の情報はない)

 

だが戸惑ってはいられないと、夕呼は瞬時に判断を済ませ、小沢の方を見た。

 

「小沢提督、BETAの狙いは恐らくA-02と考えられます。新手の中に光線級が居ない可能性は限りなく低いというのに、地上の部隊はレーザー照射を受けていません」

 

「なんと―――いや、確かに。しかし、敵は如何にしてそれを……!」

 

「今は不明ですが、問題ありません。先程も言いましたが、想定の内ですから」

 

堂々と、夕呼は告げた。

 

「ただ、独り言を許されるのであれば……先のクーデターでBETAが見せた挙動が決め手になったとだけ」

 

夕呼の言葉に、小沢はそういうことかと内心で呟いた。米国の手の者が何らかの方法で

佐渡島のBETAを誘き寄せたというのは、提督クラスであれば予想がついていたのだ。

 

「BETAの狙いはA-02への待ち伏せ、ですか……しかし、それでは支援砲撃も無駄になる可能性が高いですな」

 

BETAが想定外の行動を取ることに、小沢は拘らなかった。先の急な上陸の一件もあり、そういうものだろうと納得できる土壌があったからだ。そして、迷うことなく陽動部隊への支援砲撃を一時的に中止させた。夕呼の振る舞いと対処への早さ、現場たるA-01の理解度から、それが事実だと判断したからだ。

 

次に、有効な支援の方法を考えた。増援に備え、各戦艦の対レーザー砲弾には余りがある。とはいえ、レーザーに対する処置が施されていようとも、一定数の光線級が居ると思われる地点への支援砲撃は、飽和攻撃が原則だ。

 

数を揃えるには、通常弾頭から対レーザー砲弾への換装が必須。戦艦はそれらが完全自動化されているため、2分あれば砲撃が出来る状態になる。

 

「ええ。ですから、換装後に支援砲撃の開始を―――7割は陽動部隊が引きつけているBETAへ、残る3割をA-01に集まりつつあるBETA群に対して要請します。ただ、A-01の方は重金属雲の発生によるレーザーの妨害を最優先として下さい」

 

「……よろしいのですか?」

 

ウィスキー、エコー本隊が損耗する方が困ると判断している。小沢は夕呼の言葉からその意図を察したが、本命はあくまでA-02によるもの。

 

改めての全力支援砲撃により、両本隊の損耗はかなり抑えられるだろう。それだけではない、敵の密度が薄まれば本隊は追われるだけではなく、A-01に向かっているBETAの後背をつける可能性も出てくる。だが、新兵器を撃墜されれば本末転倒になる。

 

「A-01が精鋭揃いであることは確かでしょう。現在の状況も想定の内だという言葉を、疑いません。しかし、たった24機で数万のBETAを相手にするのは些か以上に……」

 

厳しいのではないのか、と視線で問いかける小沢に、夕呼は小さく笑いながら答えた。

 

「問題ありません、提督。そのための直援部隊です。彼ならば……いえ、彼らならば、必ずや目的を果たしてくれるでしょう。たかが10数分程度、耐えられない筈がない。それに―――」

 

夕呼はこれも演出ね、と内心で嫌々ながらも、ハイヴがある方角からA-02に向かっているBETA群を、A-02の攻撃範囲にまま重なっている敵の群れを指差し、告げた。

 

 

「―――夜を照らす光の花は、派手な方が美しいでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういうことで、プランBだ。各員喜べ、戦果が増えるぞ』

 

『―――了解! ……と、言う前に既に始まっていますが』

 

まりもの通信に、みちるが呆れたように答えた。大多数のBETAはハイヴ周辺に出てきたが、待機地点周辺に湧き出たBETAもゼロではなかった。即座に反応、奇襲を奇襲で返した前衛が、現在進行系で大暴れしていた。

 

『……こうしている内に、過去形になりそうな勢いですね』

 

『はしゃぎすぎだ、全く……しかし、ちょうど良い』

 

両中隊の前衛は、手早く周辺のBETAを片付けた。その後、まりもからこれから取る戦術についての説明が始まり、終わった。プランBの四文字で、全員が状況を理解するに至ったからだ。

 

部隊の誰もがレーザー照射を受けていないことから、演習通りの行動を取れば問題なく突撃級への対処は可能となる。

 

最初に、凄乃皇の攻撃地点である峡谷へ―――レーザー照射を受け難い地形ということで荷電粒子砲の発射地点に選ばれた地形―――その中で岩の壁のあちこちにある遮蔽物に隠れて、主機を落として潜伏、先行してくる突撃級をやり過ごした後、無防備な後背を突く。

 

峡谷の中は狭いため、突撃級が自分達の反応に気づいて方向転換をしようとしても、そのスペースはない。無駄に推進剤を使わず、手軽に料理が出来るという自然に優しい戦術だった。

 

次に戦艦からの支援砲撃後、峡谷から打って出て、A-02への射線が通る地点に居る光線級の掃討を行う。重金属雲が発生している中であれば、平地に近い地形でも十二分に戦闘は可能で、遠距離からちまちまと狙撃をするよりは格段に成功率が上がる。

 

『―――目標はあくまで光線級だ。無駄な戦闘は避け、移動に徹すること。要塞級による妨害が予想されるが、陽動はブリッジス、白銀の両名が担当しろ』

 

『マナンダルはブリッジスのフォローを頼む。必要ないかもしれんが、念のためにな』

 

機体の性能、機動力ともに両中隊でも突出しているが故の人選だった。ユウヤは重要な役割を任されたことに対して神妙に頷き、タリサと武はやっぱそうなるかと軽い調子で頷いた。

 

『速攻で潰しておきます。あとは、帰路の確保を―――敵味方に不知火・弐型の性能を見せてつけてやる良い機会ですから、ただ』

 

『今更10や20の要塞級に手間取るほど未熟じゃありません、ですから』

 

ユウヤと武は承知と答えるも代わりにと、まりもと樹の眼を見た。樹はため息と共に、分かっているさと答えた。

 

『目標の駆逐は任せろ。人類の希望の光に、光線級のレーザーなどという汚い手垢は付けさせんさ』

 

『紫藤少佐の言う通りだ―――貴様らも、腑抜けた成果を見せるなよ。怠けている所を見られれば、そこのクサナギ12が後ろから襲って来かねんからな』

 

まりもは冗談を混じえた喝を入れ、中隊の各員は様々に反応を見せた。

 

冗談のつもりで尻を押さえるもの、それを見てジト目になる者、むしろやり返すと意気込むもの、裏の意味に気づかず普通に気合を入れるもの、言葉の裏を読んで頬を染めるものなど。

 

『と、そうこうしている内に時間だ、各機移動を開始しろ』

 

まりもの命令に、両中隊は動き始めた。突撃級がやってくるのは10分後、十分に時間はあった。ばらばらに遮蔽物に隠れ、命令と同時に主機の出力を落とした。探知能力が低い突撃級だからこそ出来る荒業だが、誰もが素早く、行動に移していった。それを見届けた部隊長のまりもと樹、念のためと出力を落としていなかった武は、最後に準備を済ませようとした――――その時だった。

 

『地中から震動………これは、更なる新手か!?』

 

『出現したポイントは―――南東10kmの地点、まさか……!』

 

まりもと樹は出現ポイントと長岡市に居るA-02の地点を頭に思い浮かべると、舌打ちをした。

 

『待ち伏せか、このタイミングで………くそっ!』

 

武は忌々しげに叫んだ。両中隊の大半が、既に主機を落としている状態だからだ。再起動のタイミングは、ヴァルキリー・マムの涼宮遥に一任しているため、通信で内容を告げてから伝えなければならない。

 

だが、情報を伝えて移動を始めるにも間に合わない可能性の方が高かった。今もこちらに迫りつつある突撃級のことを考えると、起動タイミング次第で大惨事になってしまう。隊として動くことは難しいならば、と武は機体の向きを南東へ変えた。

 

『仕方ないな―――俺が行く。単独で行って生還できるのは俺だけだ』

 

『……それしかないか。急いで戻れよ』

 

『分かってるって』

 

出現ポイントに、光線級が居る可能性がある。それを考えると、A-02が新たに現れた光線級の射程距離に入るのは時間の問題だった。

 

支援砲撃も、これ以上の手を割くことは難しいだろう。そう考えると、何機かが行って南東の地点に居る光線級を掃討するのが最善だと思えた。幸いにして南東方面は完全に更地になっているため、迂回する必要はなかった。

 

支配地域の周辺を平地にするというBETAの習性に助けられた結果だ、しかし。

 

(光線級がこちらの撃破を優先すれば、命がけになるけど)

 

何の遮蔽物もない状況で、不特定多数のレーザー照射を回避しきることは武の技量と不知火・弐型の機動力をもってしても分の悪い賭けになる、が。

 

『いつもの事です、問答をしている時間さえ惜しい』

 

武はまりもと樹に伝え、主機を全開にしようと掌に力をこめた、その時だった。

 

 

『―――援護します、A-01の衛士様方』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生まれてから今までの自分の生を思い返せば、運が良いのか、悪いのか。様々な理不尽を強いられる時期が長かった風守雨音は、時々だが深く考えることがあった。

 

それでも、と今の雨音は笑っていた。人との縁も巡り合わせも、道の半ばで何を評することができようかと、目の前の光景を見て痛感していたからだ。

 

最初に驚いたのは、佐渡島の南部、莚場付近から上陸した小型戦術機『須久那』の一団の中に、かつての京都での同居人が居たこと。彼女、草茂日々来は三半規管その他、高い衛士適正により小型戦術機の操縦者として見出されていたという。

 

次に、ウィスキー本隊の勇猛な戦いぶりの影響だろう、南部にやってくるBETAの数が予想より少なかったこと。

 

佐渡島の戦闘条件に相応しいだろうと、長射程だが弾数の少ないタイプの電磁投射砲が須久那と共に運搬されていたということ、そして。

 

『ちまちまやってたら間に合わねえ―――前に出て砲撃地点を死守します!』

 

『えっ、しょっ、少尉!? ―――ああ、もうっ!』

 

『なっ、勝手に動くな、命令を聞かんか貴様らぁ!』

 

『大丈夫です、なんかここ最近はすげえ調子が良くて! それに、前に出て出鼻挫かなきゃ、大事な砲を守りきれねえっすよ!』

 

初陣である少年衛士は、命令を提案で突き返す暴挙に出た。それを受けた上官は怒りのあまり絶句するが、横から面白い、という声が入り込んだ。

 

『―――命令拒否は言語道断だが、一理ある。言ったからには度胸を見せろよ、陸軍のヒヨッコ』

 

活きのいい帝国陸軍の衛士の提案に乗ったのは、雨音に同道していた第16大隊、第二中隊の分隊に所属している磐田朱莉だった。迷っている暇もないと、突出した二人を追い越すように前へと打って出た。遅れて、僚機の吉倉藍乃が援護に入った。

 

『朱莉、熱くなりすぎないで! 冷静に、周辺の必要最低限のBETAを散らばらせるわよ! 風守大尉は後方に、援護射撃をしながら発射準備を!』

 

『分かってる、3年前の私じゃない。ただ、ここはとにかく前に出るのが最善だろう!』

 

電磁投射砲の据付から砲撃準備、発射までかかる時間は1分少々。だが、ハイヴ周辺に比べれば密度は少ないが、それでもここはBETAの占領地だ。退いて守るだけでは捌けなくなる可能性が高いため、優先して前に出ることは正しい判断だった。

 

雨音は先任の二人からの指示を果たさんと、電磁投射砲の据え付け地点を選別し、急いで命令を出した。

 

『狙撃地点は―――そこ! 急いで、時間がない!』

 

A-02への光線級のレーザー照射は始まっていないが、時間の問題だ。A-01の衛士が1機、単独かつ猛スピードでBETAが居る地点に向かっているが、間に合うかどうか怪しい。自分達も同じ距離、だがこちらには電磁投射砲がある。

 

故の、長距離での斉射を狙った戦術。これ以外の方法はリスクが高すぎると、雨音は判断していた。

 

須久那の操縦者は雨音に命じられるままに地中に穴を、次に小型の爆薬で穴の奥を広げ、最後に空気と反応する固化材で足元を固めるために。

 

『……あと何秒だ!』

 

『っ、すぐに―――今、出来ました!』

 

『え……!?』

 

速い、と応えるより早く、須久那の操縦者を統括している日々来は、作業を進めながら快活に笑った。

 

『万が一に備えて、より発展した訓練をしていましたから―――京都に帰るために!』

 

日々来の言葉に、雨音は泣きそうになるも、戦場であることを忘れずにただ目の前のことに集中した。誰よりも泣きたい人物が居るだろうと思っていたからだ。

 

上陸した衛士達が見た佐渡島の風景は、悲惨を越えていた。残骸もない、ただの荒野が大半を占めていた。まるで最初からそこに人が住んで居なかったと言わんばかりに、何もかもが(たいら)にされていた。

 

『―――固化材の準備も完了しました! 雨音様、お早く!』

 

『よしっ、相模中尉!』

 

『了解です!』

 

命じられた相模雄一郎は電磁投射砲の固定脚部を開けられた穴の中に入れた。素早く、数機の須久那が固化材をそこに入れていく。

 

間もなくして、雄一郎は電磁投射砲を起動した。超電導モーターが起動している音は、大気のみに減衰されることだろう。硬い岩盤以外は、全て砕かれてしまったから。

 

(―――この愚挙の報いを受けさせる。しかし、事前に気づけていなければどうなっていたことか)

 

任務を果たすべく動き、異変を察知したのは数分前のこと。出現ポイントと、BETA群の流れ。須久那の部隊と合流、周辺を警戒しながらそれらを観察していた雨音が、ぽつりと呟いたのだ。

 

崇継から、甲21号作戦の要旨と背景は、分隊指揮官である光と補佐である雨音は知らされていた。A-02狙いだというBETAの動きも。それらの目的を踏まえると、“A-01が居る地点とまだ新潟に居るA-02の間こそが、待ち伏せに最も相応しい場所なのではないか”。

 

同道していた帝国陸軍の分隊も、状況を観察した後、顔色を変えた。間違っていれば杞憂で済む、だが万が一そうだとしたらと、光はHQに報告をしたのだ。

 

すると本隊の風守光は待機、雨音は分隊と共に問題の地点へ向かうよう命令が出た。

 

(崇継様達や帝国軍本隊の奮闘が無ければ、分隊の派遣さえ許されなかったかもしれないけれど―――)

 

あるいは、第16大隊が先の新潟でBETAを電磁投射砲で迎撃した実績が無かったら、どうなっていたことか。雨音は突撃砲で近寄ってくる戦車級を掃討しながら、それも巡り合わせだと考えていた。

 

そしてカートリッジがロードされていく中で、雨音は前方で露払いをしていた衛士達に向けて叫んだ。

 

『発射準備、完了した! 全機投射砲の射線外へ、大至急退避せよ!』

 

『くっ―――聞いただろう、急いで逃げろ龍浪、千堂!』

 

帝国陸軍の分隊長から勝手に突出した初陣の2機に怒声が飛び、その時だった。あと40秒でA-02が新手の光線級の照射範囲内に入るという報せがあったのは。

 

そこに、電磁投射砲の射手である雄一郎から報告が上がった。

 

『マウントアーム固定完了。風守大尉、発射準備完了しました!』

 

『ああ、だが―――』

 

このままでは間に合わない。どうすべきかと迷った所で、第16大隊が誇る赤鬼と青鬼は叫んだ。

 

『撃て風守、逃げ場ならば上にある!』

 

『発射のタイミングに合わせる、カウントダウンを!』

 

『くそっ、やってやらぁっ!』

 

『少尉、私から離れないで下さい!』

 

遅ければ私達ごと、という意図を理解してから雨音は一瞬だけ迷うも、風のように即断した。飛べば当たらない、だがこの地はハイヴで、光線級の餌食に、といった迷い全てを飲み込んで、雨音は決断した。

 

『相模、中尉! 5、4―――』

 

『っ、了解! 3――』

 

『今だ、噴射跳躍を―――!』

 

朱莉が、射線から逃れきれない者達に、上空への退避を叫び。

 

―――同時に砲口から発射された幾重にも重ねられた雷光の如き弾丸は、凄乃皇を待ち伏せするBETAの群れを貫き、光線級その他の区別なく砕いていった。

 

斉射が続いたのは、14秒。終わった後、HQからA-02へのレーザー照射が止んだと、援護部隊に報告が入った。

 

直後に、艦隊からの支援砲撃がハイヴ周辺のBETAへ降り注いだ。雨音達は再度の大気が揺れる音を聞きながら、被害状況を確認した。

 

『―――被害報告! 上空に退避した機体は!』

 

『―――問題ない! 光線級は全て支援砲撃に向かってくれた!』

 

『磐田大尉、無事だった……いや、まだだ!』

 

雨音は電磁投射砲の斉射跡に、残存しているBETAを見つけた。光線級は居なく、要塞級、要撃級も粉砕できたが、戦車級が残っていた。

 

A-02の性能について、機密の部分が多いため雨音は全てを把握していないが、戦車級の噛みつきの厄介さは学ばされている。近づかれれば万が一ある。そう判断した雨音は、待機している味方と共に掃討に当たろうとした。

 

勝算はあった。決起軍による欠員が出たからだろう、帝国陸軍の衛士は訓練途中で戦場に駆り出されたらしいが、初陣だというのにまるで怯えていない。蛮勇であってもあの状況で前に出ることを選べる衛士はそう多くなく、その上で生還できるというのなら十分に使えると判断すべきだ。

 

故の全機動員での掃討戦、これが正しいと雨音が命令を下そうとするよりも早く、北東から死神がやってきた。

 

『レーダーに反応、これは―――識別信号出ました、A-01の不知火・弐型です!』

 

『はっ、速え……地面すれすれなのにあれだけ速度を出せるのかよ!?』

 

驚きの声が通信に鳴り響く。それを置いて、まるで地を這う風のように匍匐飛行で駆けてきた不知火・弐型は躊躇いなく敵陣深くに突っ込むと突撃砲を構えた。

 

そして孤立が、援護を、という言葉が声になるより早く、四方八方敵だらけの中、弐型は砲火の華を咲かせた。

 

手に持った、アームでマウントした突撃砲を計4門。やや上空を移動しながら、友軍機へ当たらない俯角で周囲のBETAに36mmの雨を降らせていった。

 

飛んでは、周辺のエリアのBETAを撃ち、着地して飛んではの繰り返し。たまらずと戦車級達は動き回るが、射手へ飛びつく動作さえ取ることさえできなかった。

 

絶妙な高度で射撃を浴びせてくる相手にされるがまま抉られ、血と肉で地面を汚す嫌がらせをすることが精一杯と、その光景を見ていた誰もが遊戯の一種のようにも感じられていた。

 

(それだけ、隔絶している………間合い、高度を完璧に管理して、光線級の照射を受けない状態でリスクもなく……!)

 

ハイヴがあるBETAの占領地の只中だというのに、一切のてらいが無い。誇るでもなく、ただ淡々とこれが一番速いと言うように、戦車級を一方的に鴨のように撃っては撃っては、撃ち潰していった。

 

そして30秒の後、追いついた雨音達は、来た道を帰っていく弐型の背中を呆然と見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴァルキリー・マムより両中隊へ、敵前衛防衛線を通過中―――最後尾通過まであと90秒!』

 

予定通りに、CPより主機起動の報が下された。凛々しくもどこか女性らしい柔らかさが残っている遥の声を聞いた鳴海孝之は、誰よりも早く起動のスイッチを押していた。直後に見たのは、横を通過していく突撃級の群れ。自機に伝わる震動で存在は感知していたが、見るのと感じるのとでは大違い。だが、一切の動揺なく孝之は突撃砲を構えていた。

 

(計算された通り、一定の射角を外れることなく―――)

 

フレンドリファイアを避けるために、徹底して訓練した。その上で効率までも磨き、練られた背後からの強襲は突撃級という突撃級の尻を抉り臓腑を貫き、前面の装甲まで辿り着いた所で止まった。

 

『支援砲撃、来ます!』

 

『時間通りか―――射撃の手を緩めるな、猪はすべてここで片付けていく!』

 

命令通りに、執拗な射撃が繰り返されていく。弾丸は、静止した地点で最も威力を周囲に分散するという法則通りに、放たれた36mmの劣化ウラン弾は突撃級の肉を引き裂き、その活動を停止させた。

 

「やらせは、しねえっ………!」

 

孝之は横浜での敗戦を忘れていない。隊では最もと言っていいぐらいに、明星作戦で屈辱を味合わされたからだ。故郷を焼かれ、家を砕かれ、思い出の全てを陵辱された。そして思い浮かべたのは、親しい人達の未来だ。

 

もしかしたら、この牙が後方に居る遥に届くかもしれない。

 

もしかしたら、不覚を取った水月が戦車級に、あの牙で。

 

考えただけで怖気が走る末路、それを現実のものとしない方法は唯一、戦い戦い勝つことだけで。

 

『いくわよ、孝之! 背中は任せたから―――』

 

『はっ、それ以上は必要ねえよ!』

 

先任として、男として先の言葉は言わせない。そんな意図が込められた孝之の返答に、水月は乙女のように笑い、動き始めた。

 

『ちょっ、速瀬中尉、少し早すぎますって!』

 

『うるさい、茜! 訓練どおりの内容でしょ、撃破数が訓練の時より下回ったら承知しないわよ!』

 

水月の少し無茶な要求だが、茜は言い返せなくなった。突撃級の掃討から打って出るまで、ほぼ演習で、シミュレーターで繰り返した状況と同じだったからだ。繰り返したというのに、前の成績を下回るというのは、怠惰以外のなにものでもない。最善を尽くせという隊の訓示を考えれば、それは隊員失格の烙印を押されることに等しかった。

 

同じく気づいた、ヴァルキリー、クサナギ問わずの了解の唱和が通信を占めて。両中隊は、出力を全開に、万を超えるBETAが居るであろうポイントに向けて出力を全開にした。

 

『―――いや、待て。白銀はどこだ』

 

『落ち着け、ブリッジス。あいつは南東部に現れた新手のBETAを―――』

 

樹が説明しようとした所で、猛スピードで近づいてくる反応を見た。

 

『これは……もう終わったのか?』

 

『ああ、ありがたい援護のお陰で―――神宮司少佐』

 

『分かりました……小言は後で』

 

まりもは状況を把握すると、峡谷の中央部に集まった隊員に向かって、大声で指示を飛ばした。

 

『各機、機体状況と陣形を確認しろ! これより光線級の駆逐を開始する。状況は訓練通りだが、決して油断はするな………そして』

 

まりもの命令に、全員が問題なしとの了解を。

 

そして次に出て来る言葉も、一人残らず予想できていた。

 

 

『訓練の時のように、()()()をする必要は最早ない―――遠慮なく、BETAにその力を見せつけてやれ!』

 

訓練以上の動きを見せろ、という無茶振り。

 

対する23人は了解の声と共に、主機出力が全開にした。跳躍ユニットが吼えたける音が峡谷に響き渡った。

 

そうして24機の精鋭は風となって峡谷を抜けた平野へと駆け抜けていき、開けた視界に雲霞の如く押し寄せるBETAの姿を捉えた。

 

『―――クサナギ12、エンゲージ、オフェンシブ!』

 

『―――クサナギ11、エンゲージ、オフェンシブ!』

 

先行した武とユウヤは、挨拶代わりの一撃を叩き込んだ。まだ密度が薄い部分を抉りこむように狙い、強引にスペースを作っていく。すかさず生じた隙間を抜けながら、地を歩くBETAを流れていく風景にした。兵士級を、闘士級を、戦車級を、要撃級を、要塞級を見ながらも、邪魔にならないならば存在しないも同じと言わんばかりに、前に進むことを優先した。

 

追随してきた他の衛士達も同じだった。邪魔となれば躊躇なく36mmを浴びせるが、障害にならない者は塵のように無視をして置き去りにしていった。

 

前衛が、中衛が、後衛が、まるで1個の暴力装置のように。圧倒的な性能でもって、立ち塞がるBETAを小石のように蹴散らしていった。

 

全ては、前へ。何よりも早く前へという意志の現れでもあった。一つの意志を切っ先に集中し、一糸さえ乱れない連携のちからで敵陣を突破していった。

 

『っ、前方に要塞級!』

 

『数―――20、30、どんどん集まって来ます』

 

『お待ちかね、だな―――クサナギ10、11、12、陽動を頼む』

 

光線級を守っているのだろう、要塞級が30体ほど壁のようになって道を塞いでいる。接敵するより早く確認した樹は命令を飛ばし、応じた武とユウヤ、タリサは左右に分かれていった。

 

ユウヤとタリサはコンビで、ユウヤがオフェンシブでタリサがそのフォローをしていた。積極的に要塞級へ攻撃を仕掛けていく、その背中を守るには経験で上を行き、反射神経が鋭いタリサの方が適任だった。

 

一方で、武は1機だった。20を超える要塞級を、その10倍は居るであろう他の種のBETAを相手取るという状況。それは孤立であり、自殺以外のなにものでもない。クサナギ、ヴァルキリー中隊の衛士も例外ではなかった。自分ならば1分生きられるか、と思えば思うほどに顔色は悪くなり。

 

それを引き裂くように、死神はそこに現れた。

 

「―――BETAだって、殺せば死ぬ」

 

要撃級の中枢部と思われる場所に三発、10cm以内の誤差で当てれば動かなくなる、そのことを知っているから。

 

「斬れば、死ぬ」

 

両腕に持った中刀を流れるままに、切り裂く道筋に逆らわずに刃の風とする。塞がるものがあれば、刺し身も同然。下ろされた戦車級は、赤い血飛沫となって宙に舞う。

 

「ましてや踏み潰されてまで生きている個体なんて、存在しない」

 

行き掛けの駄賃にと、小型のBETAを踏み潰す。ぷちり、ぐちゃりと大した手間でもない。念入りに隙間なく、さりとて余計なロスもなく、邪魔な歩兵を潰して潰して戦い続ける。全ては光線級を狩るために。対凄乃皇にレーザーを温存している今、光線級など置物に等しい。120mmが届く範囲となれば、勝敗は自動的に決まるほどに弱く。

 

「だから近づけさせないために、お前は来たんだろ?」

 

立ち塞がる要塞級、20体以上はあろうかという軍勢を前に、武は嘲笑った。

 

―――この程度で俺を止められると思っているBETAに目に物見せてくれると、戦意の一切を緩めず妥協せずに、燃え上がらせながら。

 

白銀武は、才能に溢れた人間ではなかった。並行世界で体験した経験と記憶と、幾ばくかの残滓、衛士としての適正があるだけ。1を知って10を知る斑鳩崇継とは違う、1より10を学んだ果てに軍勢を100の力のまま活かすヴィルフリート・フォン・アイヒベルガーとも違う。

 

任官から実戦まで、通常の過程を経るのであれば、大成などには届かない。成長速度で言えば常人と天才の間に位置する、秀才としても中の上でしかない、超一流には一歩届かない程度の腕前だった。

 

(だけど、知るか)

 

才能の上限、運のよさ、自分よりも上であろう天才が何人も居ようが勝利には及ばない程の敵の強大さ、全てを理解した上で知るか、と武は吐き捨てた。

 

全ては、この先のために。BETAに対する恐怖は、有り余るほどにある。肉を骨を内臓を脊髄を脳みそを潰された記憶は、それこそ無数に。それだけならばまだ可愛い、目の前で大切な人を潰された光景は、うっすらと脳髄に焼け焦げている。

 

防ぐために戦い、努力し、修練に修練に修練に修練を重ねた。悪夢を振り払うために、ずっと戦い続けてきた。

 

(だから―――なあ)

 

武は待ち伏せという真似をしてきたBETAを嘲笑った。そして、援護に入ってくれた見覚えのある衛士の顔を思い出し、胸を熱くしていた。

 

こんな事があるのか―――あってくれるのかと、泣きそうになっていたのだ。偶然か、必然か。どちらでも関係なく、武はただ嬉しかった。

 

「へ、へへ……!」

 

武の口から、笑みが溢れた。

 

―――それは、誘導が終わったことによるもの。

 

そして、武が乗る不知火・弐型の無防備な背中に要塞級の衝角が放たれた。

 

「―――本当に」

 

だが、弐型はすでに居なく、空振りした衝角が斜め後ろから36mmに撃たれて加速しながら方向を変えられて、

 

「度し難いお前らのバカさ加減は」

 

別の要塞級に衝角が突き刺さるのを見届ける武に、また別の方向から衝角が迫るも、

 

「死んでも治らないんだよな」

 

同じように、突撃砲で強引に向きを逸していった。

 

繰り返し、繰り返し、絶体絶命の一撃をリサイクルだと言わんばかりに活用しては、別の要塞級へと突き刺していく。人一人を完全に溶かすほどの強力な溶解液を、抉られ中身にぶち撒けられた要塞級は次々に倒れていった。下に居る、大勢の要撃級や戦車級を巻き添えにしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『す、ごい……』

 

死という死を呼び寄せる弐型を見ていた中隊の衛士達は、絶句していた。

 

要塞級の衝角を利用するなど、思いもしない。それを実行するのは、もっと()()()()。単独で撃破できれば一人前という、光線級を除けば一番に厄介なBETAがまるで小型種のように、呆気なく蹴散らされていく。

 

何より、敵の位置を調整しながら戦って、要塞級の転倒に他のBETAを巻き込むという発想自体がイカれている。

 

一歩間違えれば死ぬのだ、コンマ数秒読み誤れば潰されるのだ、遠くではシミュレーターでも聞いた悲痛な声が今も響いていることだろう、その一切合切を無視するかのように巨人の王は死を振りまいている。

 

その姿を見て、誰もが理解させられた。

 

白銀武という衛士がつけられた異名を。一番星(ノーザン・ライト)火の先(ファイアストーム・ワン)紅の鬼神(デーモン・ロード)、人間ではあり得ない異名が付けられたその理由を。

 

その姿を見ていた平慎二は、自分に才能がないことを自覚していたからもっと別のことに気づくことが出来ていた。基礎を修練し、何とかA-01の同僚に食らいついていた慎二だからこそ。

 

白銀武は、対人戦とは違ってアクロバティックな機動をほぼ使っていない。行っているのはごく基本的なことだけ。敵を認識し、間合いを調整し、適した順番で撃ち、切る。

 

だが、孤立しているのにそれだけで生き残れるということは、尋常さえも越えて、異様というにも当てはまらない。周辺のBETAの動き、その全てをコントロールしなければ到底不可能なのだ。それを可能とするには、莫大な戦闘経験が必要になる。

 

(極まりきった正道―――どれだけの修羅場を、いや、それだけじゃ無理だ)

 

比喩ではなく()()()()()()()()()()()して実地で学習しなければ、ここまでの域には達せない。

 

(極めつけは、動きだ。なんで訓練の時以上にキレてるんだよ)

 

どうして、命がかかった実戦の場で訓練以上の動きが出来るのか。慎二は震えながら、畏れるように呟いた。

 

―――人間業じゃない、と。

 

そんな人間はあり得ない。死んで生き返るというよりも、死の恐怖を越えてああまで戦える人間など。慎二の声は畏怖を越えて恐怖になっていく―――その直前に、涼やかな声が入り込んだ。

 

『うん、その通り―――だって宇宙人だから』

 

悲しくも誇らしげに、サーシャ・クズネツォワは言った。

 

『でも、良い宇宙人だと思う』

 

笑いながら、鎧衣美琴は言った。

 

『うん。だって、こうして悪い宇宙生物を殺してくれてる』

 

壬姫は、泣きそうな表情で言った。

 

『……地球が産んだ魔王だからかな』

 

慧の言葉に、茜が聞き返した。

 

『魔王って……?』

 

『副司令から聞かされました。銀の蝿―――蝿の王って』

 

聖書に記された蝿の王(ベルゼブブ)、最速の魔王。それよりも、と冥夜は言った。

 

『名前の通りなのだろう―――白銀で出来た武を振るう者。破邪の矛を以て、悪しき者達を退ける』

 

冥夜の声を聞いた、A-01の先任達は指さされた通りに武が戦っている姿を見て、思い出した。12機を相手取り、一歩も退かなかった規格外を。

 

『―――そう、我々のために、白銀は囮役を買って出た』

 

まりもは、事実だけを告げた。白銀武がBETAをああまで殺しているのは自分が適任で、人類のためになると考えた結果だと。

 

言われた者達は―――多少なりとも慎二の言葉に同じ気持ちを抱いていた数人は―――気づいた。()()は衛士、戦術機を操る者以外の何者でもなく。

 

そして、この場においてはどうしようもなく味方で、その理不尽を及ぼす相手はBETAだけなのだと。

 

『そうしている内に、あちらも終わったようだな』

 

まりもは、ユウヤとタリサが戦っている方を見た。割合的には武機よりも少ないが、2機は見事な連携でこの短時間に要塞級を10以上討ち果たした所を。

 

 

『よし、頃合いだ―――全機、匍匐飛行(NOE)で全力噴射を』

 

『重光線級狩りの時間だ、行くぞ!』

 

 

陽動の3機を残して、21機はBETAの防衛線に出来た大きな穴を堂々と、全速で通り抜けていった。元207Bの5人は当たり前のように、そして。

 

『―――ふん、やりすぎないようにね!』

 

『―――ありがとよっ!』

 

『―――悪かったな、敵わねえよまったく!』

 

『―――味方にするとここまで心強いとは!』

 

『―――人間離れもほどほどにしとくんだな!』

 

『―――聞きしに勝る姿、眼福だったぞ』

 

『―――先に行ってお待ちしていますわ』

 

『―――ま、ま、負けないから!』

 

『―――う、うちも負けね!』

 

『―――帰り道にまた会おうね!』

 

『―――と、とにかくがんばって!』

 

畏怖していた面々もそれぞれに、陽動を務めてくれた3機全てに、労いと感謝の言葉を残しながら。

 

『ユウヤとチワワも遅れないようにね! あと、そこの目立ちたがり屋も!』

 

『言ってろ、頼んだぞバカ』

 

『言われなくても頼まれるわよ、バカ!』

 

『……手綱、頼むわ』

 

『うん、任された』

 

負けん気全開の亦菲の言葉に苦笑を、相変わらずのユーリンの様子に笑みを。武は向けながらも戦い、ユウヤとタリサと合流した後は、光線級掃討に向かった者達が簡単に帰れるように周辺のBETAを徹底的に潰して回った。

 

―――その2分後、周辺に居た全ての光線級、重光線級の身体が穴だらけになって大地に転がっていた。

 

『ヴァルキリー・マムよりヴァルキリーズ、A-02は現在砲撃準備態勢で最終コースを進行中―――』

 

遥の通信に、全員が息を呑んだ。来たか、と誰かが呟いた。

 

『砲撃開始地点に変更なし。60秒後、艦隊による陽動砲撃が開始される―――90秒以内に被害想定地域より退去せよ!」

 

『―――全員聞いたな、即時反転、全速離脱を開始!』

 

『―――了解っ!』

 

喜びが混じった声は、ほぼ全員のもの。最短距離で元来たルートを、途中で武達と合流しながら匍匐飛行で砲撃開始地点へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『A-02予定のコースを進行中―――』

 

『―――陽動砲撃の砲弾撃墜率、10%』

 

最上の中、報告を受けた小沢は深く頷いた。

 

「照射地域を見るに、掃討に成功したようですな」

 

「ええ、これで問題なく始められますわ」

 

夕呼の合図に、ピアティフはA-02に向けて暗号通信を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

砲撃開始地点に到達した凄乃皇・弐型は、その中に居る衛士達は静かに発射の号令を待っていた。

 

「……しかし、辿り着いたな。レーザーの照射を受けた時は、どうなる事かと思ったが」

 

本州上空でのレーザー照射は予想外だった、とクリスカは呟き、他の3人も同意していた。ラザフォード場での防御が可能とはいえ、凄乃皇は図体がでかく、融通が利かない機体だ。衛士としての技量を活かして立ち回ることも難しいため、一度孤立してしまえばひどく脆い存在になってしまう。

 

故に、直援部隊が、武が、ユウヤが居る状況でも緊張したまま、目の前に見えるハイヴから眼を離せないでいた。その中で純夏は、中枢部に鎮座している()()に心の中で語りかけていた。

 

(………ここまで来たよ。私はもう、貴方に何もできはしないけど)

 

脳だけになっていた人。生き返らせることなど出来ない、意識が消失していた事から、例え戻せたとしても、その意味さえあるのかも分からない。量子電導脳にされる時も、反対はできなかった。

 

純夏は、人知れずそれを気にしていて。

 

だけどこれだけは絶対だ、と拳を強く握りしめた。

 

(あなたをあんな風にしたのは……諸悪の根源は、BETA。だから、これから一緒に、私達と一つになって、BETAを棲家ごとぶっ潰してやろうよ)

 

人の肉の身を、まるで玩具のように。死ぬまで弄ってきた外道の化物。あんな奴らなんて私で、私達であの牙城ごと吹き飛ばしてやろうと、純夏は胸中で語りかけた。

 

(そう……貴方がどれほど苦痛を受けたのか、私は少しだけれど分かるから)

 

そのままを体験した訳じゃないが、うっすらと残っているだけで十分だ。深く思い出さなくても許せないという感情が吹き出てくるほどの。

 

だから、私の手で、私達で潰す。一緒に戦ってきたみんなを、二度とあんな目に合わせないために。そうして純夏が決意するのと、HQから通信が入ったのは同時だった。

 

クリスカは通信を受けて頷いた後、同隊の仲間へと静かに宣言した。

 

「ピアティフ中尉から発射の命令あり―――砲撃準備!」

 

「―――クラウド02、チェック……クリア!」

 

「―――クラウド03、演算能力も規定値以上……いつでも、撃てます」

 

「―――クラウド04、制御システム問題なし!」

 

イーニァ、霞、純夏からの報告を受けたクリスカはトリガーのカバーを外し、最後に目標である甲21号を睨みつけるようにして、その引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『重力場に変動あり……! 全員、音と震動に備えろ―――来るぞ!』

 

武の声と共に、凄乃皇・弐型の胸部の砲口が開いた。そこに収束するのは、圧倒的な量の光。胸部のラザフォード場により加速された荷電粒子は、最初は散らばっていたが、徐々に集まっていく。その様子は、まるでいくつもの雷星が一つに集められていくようで。

 

それさえもラザフォード場で強引に集められ、ひとつの場に収束された荷電粒子が遂に解き放たれた。130mの凄乃皇を飲み込みかねない膨大な量の破壊のエネルギーは、集まってきたBETAを飲み込み、端に掠った要塞級や要撃級を一種の冗談のように吹き飛ばしながらハイヴへと直進し―――爆撃さえも超える轟音が、佐渡島中に鳴り響いた。

 

溶岩のような爆炎が、ハイヴの地表構造物(モニュメント)を丸々と包み込んでいく。火山の噴煙のように立ち上がった黒煙は周辺の大気から空まで汚していった。

 

密集していたからだろう、荷電粒子砲に呑まれたBETAは跡形もなく、弾かれたBETAは軽い紙くずのように、放物線状に飛んでいった。それはまるで、夜を照らす花火の、燃え散る屑星のようだった。

 

その中武だけは、別の意味で緊張していた。00ユニットを使わない荷電粒子砲の威力は、未知数だったからだ。

 

別次元の不安を抱いた武は沈黙を続けた。だが、それも僅か10数秒の間だけだった。黒煙は海からの潮風に流されていき、急速にハイヴの中心部への見通しが晴れていった。

 

そして黒煙が流れきった視界の中、佐渡島に居る者達が見たものは、ハイヴの堅牢な地表構造物(モニュメント)が打ち砕かれた()()だった。

 

『ほ、方角は……ハイヴの場所、間違ってないよね………?』

 

信じられない、という声が皮切りになり、それぞれが感動の叫び声を上げた。

 

 

『間違いない………私達は、人類は―――ついにやったんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――地表構造物(モニュメント)の破壊を確認!」

 

「―――基部以外は完全に崩壊している模様です!」

 

「―――ハイヴの周囲3エリアに、残存BETAありません!」

 

最上のオペレーターが、興奮混じりに報告を上げた。入ってくる通信の声も、歓声という歓声に満ちあふれていた。

 

言葉にならない、単語だけを繰り返しているだけの者が多かったことから、興奮の深さがうかがい知れた。

 

小沢は、感嘆に打ち震えた顔で夕呼を見た。

 

「す、素晴らしい……なんという攻撃力だ。戦艦からの砲撃でも僅かに削ることしか出来なかった地表構造物(モニュメント)を、たった一撃で……!」

 

小沢は、夕呼に感謝の言葉を捧げた。これで本当に、我々は、人類は生き残ることができるのかもしれない、と。夕呼は冷静に、何も終わってはいない事を伝えた。

 

「反応炉は未だ健在……ハイヴの核を潰さない限り、油断はできません」

 

「分かってはいます。しかし、BETA大戦勃発以来、フェイズ4のハイヴにここまでの損害を与えられた人間は存在しません」

 

正しく、人類史を()()した存在になった。夕呼はそんな称賛を受けたものの、喜びを見せることなく正直に答えた。

 

「このまま行けば、あと10年。終末が目に見えているこの状況で、たかがこの程度の成果を喜んでなどいられません」

 

浮ついてなどいられないと、夕呼はA-01に通信を繋げた。

 

「―――クサナギ12、聞こえる?」

 

『―――はい、聞こえます夕呼先生』

 

「―――そ。で、A-01の様子は?」

 

『少し浮かれてたようですが、部隊長が声かけてましたから、今は問題ありません。現在、近隣に集められた補給コンテナを使って本番に向けて準備中です』

 

須久那が運んできてくれたから余るぐらいですよ、と武は笑いながら答えた。

 

「ふうん……油断だけはしないでよ?」

 

『この程度の状況で油断とか、それこそまさかです。それにほら、作戦は基地に帰って乾杯の声が唱和されるまでって言うでしょ?』

 

「嫌味言わなくても用意してるわよ。ただし、反応炉をきっちりと潰して帰ってこれたらの話だけど」

 

『はは、楽しみです。じゃあ、ちゃちゃっと行って吹き飛ばしてきますよ』

 

武は答えると、補給の順番が来たので、と通信を切った。夕呼は満足そうに頷き、やり取りを見ていた小沢は、唖然とした表情で尋ねた。

 

「今の、衛士は……」

 

「軍人らしからぬ者、とおっしゃりたいのでしょう―――ですが、あの者こそが新OSの発案者なのです」

 

「……常識に囚われぬ発想を持つが故に、ですか。成る程、規格外ですな」

 

小沢は笑いながら、そうですか、と頷き。帽子のツバを持ちながら目を伏せると、息を少し吐きながら告げた。

 

「一生で二度、これほどまでに驚きが連続する日は訪れないでしょうな―――まさか、紅の鬼神が生きているとは」

 

「………何のことか分かりませんが」

 

「ええ……先程の貴方と同じ、ただの独り言です」

 

だが、小沢は確信していた。要塞級を態と集めた上でのあの撃破の速度に、数。50近くもの要塞級だけではない、周辺に居た要撃級や戦車級まで巻き込んで殲滅していく様を、レーダーだけでも理解できる狂った操縦を実戦でやれる者が、この星に二人以上居るとは思えなかった。

 

(そして、あの声の調子……20代の前半か、下手をすれば10代。副司令と言い、鬼神と言い……年若いというのに)

 

若さは未熟の同義語だ、だというのに二人とも老練の将官以上に、欠片も慢心していない。小沢は夕呼達のその様子から、二人が歩いてきた険しかったであろう道程を思った。飽きるほどに苦渋を味合わされてきたのか、見えた未来に何度も絶望しそうになるも諦めず、直走って来たのか。

 

(恐らくは、私と同じか……それ以上の絶望を抱いてきたのだろうな)

 

国土がBETAに蹂躙され、抗戦するも勝利を得られず。後退に後退を重ねて佐渡島が占拠された絶望の光景を、小沢は忘れてはいない。この作戦に参加している安倍艦長も同様だろうという確信があった。

 

臓腑を抉られるような苦しさ、取り返しのつかない事をしてしまったという焦燥、どれも言葉では到底表すことができない程に深く、黒い。いつか取り戻すと、小沢はずっと、佐渡島奪還の誓いを胸に、今日までを生きてきた。だが、戦況は日に日に悪くなるばかり。そんな時に、この作戦が発令された。

 

「海行かば、か………応えねば、水漬く屍にさえ成れぬな」

 

小沢は苦笑しながら、凄乃皇の第二射の準備が整った報告を受け。

 

――ー間もなくして発射された二度目の荷電粒子砲が、わらわらと地面より這い出てきたBETAを根こそぎに吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……よし、二射目も成功! 地上のBETAの反応、ありません!』

 

茜の興奮した声が、武の耳に届き。だが、武の顔は晴れなかった。

 

(順調極まりない、イレギュラーも対処できた。それは喜ばしい、喜ぶべきだ………だけどこの違和感はなんだ?)

 

一射目は最高の状況だった。大勢のBETAを巻き込んで貫き、絶望の象徴である塔を砕いたのだから。この上なく分かり易い成果で、当初の目的の一つは達成できたことは間違いなかった。

 

だというのに、喜べない―――どこか、何かがおかしいと。武は補給も終え、準備も万端で、順調すぎる作戦の推移からだろう、隊の士気が高まっているのを感じながらも周囲を警戒していた。恐らくは島中にあふれているであろう歓喜の叫びを遠くに聞きながらも、じっと甲21号の地表構造物(モニュメント)があった場所を睨みつけていた。

 

『……? どうしたのタケル、何か嫌なことでもあった?』

 

『そういう訳じゃないんだが、どう言えばいいのか――――なっ!?』

 

 

突如、コックピット内に鳴り響いた警報音に、武は驚いた。

 

直後に、計器に出た文字を見て更に驚き、叫んだ。

 

 

『っ、重力偏差警報――――――!?』

 

 

純夏、という叫びが通信に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――A-02、空間座標、固定不能!」

 

予兆もない、突然の不調。最上に居るピアティフは慌てて報告をしようとした、が。

 

「駄目です、機体が右に流されて………え?」

 

「どうしたのピアティフ、報告を続けなさいっ!」

 

「い、いえ………姿勢制御に問題ありません。傾きも、元に戻りました」

 

「……そう。何があったのか分かるかしら」

 

「―――はい。数秒だけ、CPUの演算能力が落ちていたようです。制御ぎりぎりのラインでラザフォード場を張れるほどに、出力が………」

 

バイタルモニターは4人全員の反応があるため、死んではいない。

 

だが何が、と思った所でピアティフがそれに気づいた。

 

「クラウド04のバイタルサインに、乱れが―――」

 

「………クラウド04?」

 

鑑が、と夕呼が考えようとした所に、緊急の通信が入った。

 

「―――A-02より通信が入っています!」

 

「……繋いでちょうだい」

 

夕呼の命令通りに、凄乃皇の中との通信が繋がり。

 

間髪入れずに、純夏の叫び声が最上の中に鳴り響いた。

 

『香月副司令―――繋がりましたか、副司令っ!』

 

「っ、落ち着きなさい! ……クラウド04、まずは深呼吸をしなさい。落ち着いて報告を―――」

 

『そっ、それどころじゃないんです! 夕呼先生、佐渡島は、甲21号ハイヴのBETAは………っ!』

 

 

そうして純夏は、ラザフォード場が乱れる程の、()()()()()()()()で得た成果を、夕呼に報告した。

 

『ぜんぶ………っ、どう………!』

 

「え?」

 

『佐渡島に、甲21号に()()()()()BETAは、ほぼ全てが陽動役なんです!』

 

「な―――なんですって!?」

 

頭の回転が人一倍速い夕呼は、そこで気づいた。純夏が、何を危惧しているか、その理由を。同時に、信じるべきかという疑念も湧いていた。00ユニットではない純夏からの言葉を信じるかどうか、夕呼は迷ったが、何の根拠もなく嘘をつくような性格ではない事を知っていたため、情報を整理した。

 

そこで、一つの事に気づいた。情報が漏れていない筈のA-02の侵攻、探知はありえるかもしれないが、待ち伏せはあり得ない。

 

だが、もしも凄乃皇が偶然BETAが居た場所を通っていたとしたら。甲21号と本州を結ぶ地下通路、その下に待ち伏せではないBETAが居たからこそ、と。

 

「これは―――A-02から? 香月副司令、情報が送られてきました―――こ、これはっ!?」

 

ピアティフは、驚きに絶句した。送られてきたデータは、佐渡島ハイヴのもの。そして、佐渡島から本州へと掘り進められているBETAの大深度地下通路の様子が映されていたのだ。

 

『データの通り、現在大深度からの地中侵攻が継続中―――先行している2体の母艦級が関東地方の地上部に出るのは、明日の未明!』

 

 

「………っ、関東への侵攻………甲21号のBETAが目指している、場所は………!」

 

 

夕呼はギリりと歯を食いしばって、拳を強く握りしめ。

 

通信の向こうの純夏は、原因も理由も分かりませんけど、と青ざめた顔で無慈悲な事実を告げた。

 

 

『敵の本命は、佐渡島ハイヴの防衛じゃありません―――――横浜基地です!』

 

 

佐渡島に残ったBETAは、地中からの待ち伏せ、奇襲さえも全ては陽動でしかない。伝えられた情報に夕呼は、疑問を呟くことさえ出来ず、ただ絶句することしかできなかった。

 

 

 


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