Muv-Luv Alternative ~take back the sky~   作:◯岳◯

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最終話 : 未来(あす)への咆哮

横浜基地の司令部の中は、言葉と情報の嵐に包まれていた。モニターには世界各国の戦況が映されていて、各地からの情報が蒼穹作戦の総本山とも言えるオルタネイティヴ4の中枢に集っていく。

 

夕呼は背筋を伸ばして白衣のポケットに手を入れながら、人類の青とBETAの赤が入り乱れては消えていく光景から目を逸らさずに見つめ続けていた。

 

「……刻限か。そろそろ、決着が付く頃合いと思われるが」

 

「ええ……ですが、我々が察知できるのは、突入部隊の勝利だけですよ」

 

ラダビノットの声に、夕呼は言葉だけで答えた。カシュガルの主であるあ号標的が居る場所は遠く、深い。突入部隊の壮健を伺い知る方法は、外からも察知できる反応炉の活動の消失を置いて他にはなかった。ハイヴ内での継戦可能時間は限られている。リミットを越えた時に反応炉がまだ活動を続けていれば、作戦は失敗とされてしまう。

 

それでも、できる事は最早無い。待つしか無い身である夕呼は、オリジナル・ハイヴが映し出されたモニターから目を離さないまま、ラダビノットだけに聞こえる声で呟いた。

 

「……BETAの強さの根源について。私達はずっとずっと前から、勘違いしていたのかもしれません」

 

夕呼は佐渡島から横浜で起きた一連のこと、平行世界からの情報の提供。その原因について考察を重ね続けて来た今、ある可能性に気づいていた。G元素という次元を歪める異星起源の物質。それを利用すればごく限定的だが、他世界を一部でも覗き込むことができるのではないかということ。

 

その結果、何が起きるのか。

 

―――まるで狙い済ましたかのように、人類の目論見の裏を突いてくるBETAの悪辣さ。

 

―――地球人類が協力しあわなければ、という危機感を抱かせない程度の絶妙な力加減で侵攻してくるBETAの嫌らしさ。

 

―――本気を出せば勝てるのに、と人類の誰が言ったのか、現実として今もBETAに敗北の辛酸を舐めさせられている現状を。

 

その全てが何よりの証拠であると、夕呼は3つの大きな現実が訴えかけてくるように感じていた。夕呼が00ユニットの素体に求めた素質を、よりよい未来を掴み取るための才能は、本当に人間だけのものだったのかという囁きを聞いた。

 

虚数空間に満ちている、人類が敗北した記憶の数々。全てがBETAに、時の運という形で味方をしていたのならば、という声も。

 

(もし、私の予測が間違っていなければ……人類は敗北の渦からは決して抜けられない。月のない夜の、海の闇のように―――負ける筈だわ、勝ち目が無いもの)

 

海を破壊できる者は居ない。人類がBETAとの戦争の果てに、母星を塩に塗れさせた上で絶望に流され消えるのは、当然の結果だったのかもしれない。未来の情報という反則技を使ってなお、勝率は目算で50%を越えなかった。あ号標的という地球上のBETAの頂点が、何も用意していないなど考えられなかったからだ。

 

「その割には落ち着いているが……何か、秘策でも?」

 

「ご明察ですわ。“鏡”を彼らは既に持っていましたので」

 

切り札として“剣”と“玉”を預けたと、夕呼は微笑と共に告げた。その顔に、絶望の色は欠片も含まれていなかった。

 

知っているからだ。自分よりも前に、絶体絶命の未来を知りながらも戦い続けてきた男のことを。

 

 

「残るは総力戦―――札を開いての、勝負所ですわ」

 

あとは、どちらが自分達にとってより良い未来を掴み取ることができるのか、勝敗の分かれ目はそこにあると、誰かに向けて何かを希うように。

 

 

夕呼はポケットで隠した震える拳を、強く、強く、握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初手、先制攻撃こそが勝敗を左右する最も大きな要因(ファクター)の一つである。様々な世界で多種多様な対戦術機戦を経験してきた白銀武は、その教訓に則って行動をした。全速で前へ、飛行級をすり抜けてあ号標的へと真っ直ぐに向かっていったのだ。

 

『な、にを―――!?』

 

連携は、と言葉を発しようとしたユウヤの前に飛行級が数体現れた。ユウヤは急ぎ進路を横に変え、その直後に放たれた36mmの砲弾は空を切った。

 

流れるように攻守が変わった。ユウヤに操られた不知火・弐型はその機動性を活かし、急激に方向転換をすると、自機に背中を向けながらタリサ達を攻撃しようとしていた飛行級に切りかかった。

 

だが、標的の飛行級は素早く振り返ると、ユウヤが振るった長刀を肘の部分にある装甲で受け止めきった。弐型は勢いのまま飛行級を装甲ごと両断しようとするが、

 

『ちっ!』

 

舌打ちをして方向転換を。ユウヤは安全な場所に一時的に退避しながら、カメラの端で飛行級の動きを捉えていた。長刀を持っているのに、突き出されたのは何も持っていない方の腕。何故、と考えたユウヤは更に舌打ちを重ねた。

 

『あいつの言った通り―――捕まえて再利用するつもりか!』

 

『―――それだけじゃない!』

 

言う暇もないのか、樹が叫ぶ。気づけと言わんばかりの強い口調に、ユウヤは困惑するもすぐに気づいた。

 

武器を使わなかった理由―――使えなかった理由。

 

『―――同士討ち、か!』

 

応えられる者は居なかったが、その声は全員に届いていた。新種とは言えど、光線級のように同士討ちを恐れる性質を持っているのならばと考える者も居たが、現況を打破するための光明と言えるまでには至らなかった。

 

『は………やいっ!?』

 

弱点と言えるだろう部分を見出したとはいえ、紙一重で相手の攻撃を回避し続けていた慧は素直に喜ぶ気にはなれなかった。ユウヤと同じく、弐型(自機)の短刀を相手に押し込んだ時の感触と、周囲で戦っている時の速度や機動。その全てが、想像を越えていたからだった。

 

そうして接敵して30秒が経過した頃には、もう誰もが気づいていた。ここに辿り着くまでの道中に倒してきたBETAとは根本的に違う、物量ではなく性能を強みに押し出してくる強敵だということに。

 

『危ないっ!』

 

『っ、助かる!』

 

慧は冥夜のフォローに感謝をしつつ、冷や汗をかいていた。それは冥夜も同じだった、自分が乗る武御雷には及ばないが、ユウヤや慧が乗る弐型よりは機動性に優れるだけではない、力も並々ならぬものがあると感づいていたからだ。

 

『―――っ、茜!?』

 

『ああああっっっ!』

 

悲鳴と共に、茜が乗っていた不知火の片腕が飛行級の一体に引き千切られた。配線が電気を帯びて踊る。下手人の飛行級はその成果に何の感慨を抱くこともなく追撃を仕掛けようとしたが、

 

『させるかぁっっ!』

 

援護に入った水月の長刀が、間一髪で入り込んだ。それでも飛行級を傷つけるまでには至らず、回避に成功した敵は油断なく距離を取りながらA-01と向かい合った。

 

知らない内に、距離を計りながら。近づけばやられると、一連の攻防で悟っていたからだった。性能もそうだが、何をして来るのか分からない怖さがある。恐怖をセンサーとしていた精鋭達は、だからこそ誰もが慎重になり、結果的に接戦を強いられていた。目の前の10数ばかりの敵に、優勢を勝ち取れない。そこでようやく、気づけることもあった。

 

『―――囮、か』

 

前方、あ号標的に近いエリアでのこと。そこでは20もの飛行級を相手に、必死で回避運動を続けている十束の姿があった。集中的に狙われ、あ号標的の触手までもが一人の機体に執着していた。

 

無茶な、無謀な、どうして、何を、という想いを浮かべる者は多かったが、誰も言葉にはしなかった。その意図に気づいていたからだ。指揮官クラスの数人が、多くの情報を掴み取っていた。

 

(―――あ号標的の防衛のためか、白銀武を優先した)

 

(つまり、飛行級は戦術を理解する頭はあれど―――)

 

気づく。

 

笑う、嗤う。

 

そして、吠え猛った。

 

『そういう、ことね………っ!!』

 

崔亦菲は歯噛みする。想い人に無茶を強いる弱い自分を、気づくことに遅れた愚かな自分を。その怒りに気付き、呼応したタリサは誰よりも速く援護に入った。

 

―――内心では感嘆していた。敵の習性の周知、開戦直後の不安を払拭する時間稼ぎ、数的不利を一時的にでも覆した神業なる一手を数秒で繰り出した衛士に。

 

自分の強みと弱味を最大限に活かしたそれは、少なくとも自分には思いつかない。ましてや、数秒で見出すなど何の冗談だと笑いたくもなるほどで。

 

ベテランというもの、歴戦という文字、それを埋められるぐらいの努力をしてきたという自負が砕けた音を聞いていた。味方で良かったという安堵と、悔しさが胸の中で焦がれて踊った。

 

一方で茜が傷つけられた様を見た築地多恵は、怒りのままに暴れまわっていた。まるで猫を思わせるような奇抜な機動で、対峙している飛行級を右に左に翻弄しようとするが、飛行級の捕捉の速度の方が上回っていた。

 

突撃砲の砲口が、ゆっくりと多恵の乗る不知火へと向けられた。多恵はその事に気付き、声にならない悲鳴と共に操縦桿を動かそうとするも一歩遅かった。

 

―――だが、多恵の判断は更に上を行った。このままでは被弾すると考えた後は、反射的な行動だった。持っていた突撃砲を咄嗟に手放し身軽になりながら速度を上げ、何とかといった様子で飛行級の斉射を回避しきったのだ。

 

『っ、武器が……!』

 

『深追いはするな、連携を―――!』

 

水月から、叱咤の声が飛ぶ。その額から、汗の水滴が流れていく。相手の力量を感じたことよる、肉体の本能的な反応だった。

 

それでも、弱音は吐けなかった。視線の先、援護が届かない所で孤軍奮闘をしている機体の姿が目に焼き付いていたからだった。

 

数的不利どころではない、まるで集団私刑(リンチ)だ。反撃する暇などない、四方八方から十束に向かって多種多様な攻撃方法を以て殺到していた。

 

突撃砲を持っている個体もいれば、74式近接戦闘長刀(日本製の長刀)だけではない、77式近接戦用長刀(中華製の長刀)や、中刀まで持っている個体も存在していた。武器を持っていない個体も居たが、素手でひっ捕まえようと次々に襲いかかっていた。

 

遠くで武が戦っている―――必死で凌いでいる様子を見た美琴は下唇の一部を噛み破ることで、感情のまま動き出そうとする自分を止めた。全てをぶち壊しにしたくなかったからだ。

 

『予め、潜ませていたのか………!』

 

『6時方向数2、来ます!』

 

『撃ち落せ、二度と触れさせるな!』

 

地面が壊れ、その1秒後に触手は加速を始める。近い所に出現したものは先任達が、美琴や千鶴は周囲を周りながら警戒しつつ触手を迎撃する役割に分かれていた。襲ってくる頻度は先程までの比ではなく、危うい所まで触手の侵攻を許す時もあった。

 

まるでモグラだ、と美琴は父に連れられた先で見た動物を思い出していた。数と力はその比ではなかったが。

 

(叩き落とせてはいるけど、余裕はない………!)

 

凄乃皇の護衛に回っている部隊が全力を尽くしても、危うい所まで攻め込まれている事に美琴は危機感を抱いていた。今は凌げるだろうが、戦いは短期決戦にはならない。集中力が途切れて二度目の接触を許せば、そこで終わりだ。

 

飛行級を相手にしている前衛チームも、何機かがダメージを負っていた。一方で相手を一体も撃墜できていない、押し込まれていることが傍目からも分かった。

 

このままでは、挽回が不可能な所まで追い込まれる。その前に対策を、と美琴は考えていた。戦況を変える一手を打つのは、早ければ早いほど良いからだ。

 

(―――いや、違う。隊長達が察知していない筈が無い)

 

僕が気づいていることに、まさか気づいていない筈がない。美琴はもしかして、という思いを封じ込めて自分の役割に徹した。

 

―――狩りの本分は、待つことにある。厳しい自然の中、準備不足のまま焦って動いた所で返り討ちにあうのが関の山。今、指揮権を担っている人たちは力を貯めているのだと美琴は考えた。

 

やれる事が無かったからでもあった。この状況を打開できるような攻勢の力を自分が持っていないことを、美琴は熟知していた。主広間で自分が担った、電磁投射砲や門級の開閉装置設置役が、あの速さを部隊の誰にも真似できないように。

 

(だから、僕にできること………今は、純夏さん達を守る!)

 

部隊は連携が命。信じられる人が居るのであれば、命令が下るまで役割に徹することが最善。そう判断した美琴の不知火が、落ち着きを取り戻した。

 

指揮を執り、迎撃をこなしつつその様子を見ていたまりもと樹は、小さく笑った。

 

今が“待ち”の一時である所まで、その理由を悠長に説明している暇がなかった。指揮官としてこの状況で一番に恐れているのは、不用意に持ち場から離れられること。二人は耐えきれず、痺れを切らして“逃げる方向に”動いた衛士が撃墜され、連鎖するように事態が悪化していく様子を多く見てきた。

 

(俺であっても、過去に例を見ない極限状況下だというのに………あの試験は無駄ではなかったんだな)

 

過酷な試練は精神の消耗と同時に、一つの恩恵が得られる。骨身にまで教えが染み込まれるということだ。軍人として、衛士として、部隊というものの本質を追い込まれても忘れていない美琴達の姿が、正にそれだった。もう新人扱いはできないな、と樹は触手を切り払いながら、祝福の言葉を送っていた。

 

『―――しかし、アイツも無茶をする』

 

『―――ええ、本当に。“まさか”の連続ですよ』

 

前衛にまで注意を払えるぐらいは余裕を保てていた二人は、苦笑していた。あ号標的の触手が、地面からのものだけになっているその理由が分かっていたから。

 

『前衛のチームにも、攻撃をしかけようとしていたが―――』

 

『また、切り払われましたね』

 

樹とまりもは、その眼で見た。あ号標的の正面から飛び出た触手が、その半ばで十束による斬撃や砲撃で殺されたことを。

 

それだけではない、武を含めた飛行級の“一塊”は攻防を重ねながらも、定期的にあ号標的の正面を通りかかっていた。触手が再生した後、攻撃を再開する時をまるで狙っていたかのように。

 

同士討ちを誘ったのか、あ号標的の攻撃を封殺するためか、どちらであっても損はしない一挙両得の戦術だった。あの一瞬で思いつくようなものではないし、思いついた所で実行するような者は世界中を探してもゼロであろう。その事に、戦術の狙いに、樹達だけではなく他の者も気付き始めていた。

 

『ですが―――紫藤少佐! あのままでは、いくらタケルでも!』

 

『分かっている、だが―――信じろ。あいつは、こんな所で死ぬような奴じゃない』

 

樹は言う。ヴァルキリー中隊には、最後まで模擬戦で明確な勝ち星を取れなかった相手であるという事を。クサナギ中隊には、お前たちのもうひとりの教官の役回りを、導き手となった男を信じろと。

 

『―――はい』

 

『分かってるっての! ……まずは、こいつらを片付ける方に集中しろ!』

 

慧の悔しそうでも信頼が溢れている回答に、タリサが続いた。その声に、一切の疑いは無かった。他の者達も同じだった。あの馬鹿者で、宇宙人で、規格外も極まる白銀武という男であればきっといつものように、と誰もが心から信じていた。今度は自分が助けるという、意地と対抗心で戦意を燃え滾らせた。

 

『きゃああっっ!』

 

―――また、一人。飛行級に掴まれて引き倒された仲間の悲鳴が聞こえようとも、必死で挽回の策を考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ普通に息を吸って、吐くだけ。その行為のなんと贅沢なものかと、武は戦術機の中でGの嵐を全身で受けながら、遠い昔の事を思い出していた。

 

秒ごとに訪れる危機を前に、考えてからでは遅過ぎた。自分が感じるままに毎秒、生き延びる道に全身全霊を賭してなお五分と五分の攻防が繰り返されている。武は自分の置かれている状況がどこか、非現実的なものだと思えていた。

 

(―――違う、惚けるな)

 

武は重力に振り回された脳と血液が自分の意識を奪い去ろうとする中でも、相手を逐一観察していた。そうして接敵してから3分が経過した頃には、いくつか飛行級の特性について分かることがあった。

 

(中身が無い、からか―――滅茶苦茶な機動をしやがる)

 

飛行級は中に衛士が居ないからだろう、衛士が居ればGで気絶しそうな程の急制動を使いこなした上で高速の移動を、回避と攻撃を惜しげもなく繰り出すことができる。

 

(狙いが正確だ―――まるで光線級のように)

 

突撃砲を持っている個体の照準を合わせる速度と正確さは、並の衛士とは比較にもならない。高速で上下左右に振り回していること、弾速が光速でないこと、2つの理由で未だ直撃は避けられているが、少しでも油断をすればたちまち四肢を撃ち抜かれるだろう。

 

(それだけじゃない、統率役の個体が居ないというのも厄介だ。群体として、連携を維持できる)

 

司令塔を潰せば良い対人戦とは異なり、飛行級はあ号標的という後方の指揮官により統率されている。死角からの攻撃が対処される原因は、あ号標的が後方からこちらの動きを把握しているからだろう。

 

(突ける穴が無い。性能も、総じて高い)

 

遠距離から攻撃をすれば良い要撃級や戦車級、後方から装甲の弱い所を狙えば良い突撃級、衝角さえ無効化できれば一方的に攻撃できる要塞級、近接さえすれば良い光線級。そのどれとも違う、その場その場で確実に有利な、こちらが“上回る”状況を作り出さなければ仕留めることができないのだ。

 

分析する武が乗る十束に、また一つ掠り傷が刻まれた。武は崩れる態勢を立て直し、更に襲い来る追撃を回避しながら、大きな舌打ちをした。

 

(くそっ! ―――強ぇっ!!)

 

クーデターの時や平行世界で戦ったことのあるF-22の精鋭さえも上回るだろう、飛行級は今まで戦ってきた相手でも間違いなく最強の敵だった。先に撃墜した2体も、ひょっとすればこちらの力量を測るための試金石だったと考えるぐらいの。

 

そんな強敵の群れに単騎で突っ込むことの、なんと無謀なことか。武は自覚しながらも、仕方がないと笑った。

 

―――他に方法が無いと、そう感じたからこその判断だった。この方法が唯一正しいものだと、自分の中に居る自分が叫んだようで。気づかない内に身体は、機体は、ただ前へと動いていた。どうしてこんな行動を、と。考える暇もない武の目の前に、再度のあ号標的から放たれた衝角の、触手が伸びる様が見えて―――

 

『―――させるかよ!!』

 

周囲の攻撃の間断を突いた攻撃、すれ違いざまの斬撃が伸び切った無防備な触手を切り裂いた。十束が振り抜いた左腕、黒色の中刀が触手の体液に汚れた。

 

攻撃の後、出来た隙に付け込まんとする飛行級の攻撃が雨のように殺到するが、十束は風のように駆け抜けた。距離にして数センチ、外れた攻撃が大空洞の壁や地面を徒に傷つけていった。

 

だが、無傷では収まらなかった。機体ではない、生身の肉体の方にまた一つ、ダメージが蓄積されていった。どこかの血管が破れたのだろうか、懐かしい鉄の味が唾液と一緒に舌の上を転がっていく。身体の軋みも徐々に増え続け、まるで棘の縄で縛り付けられているようだった。

 

『―――が』

 

勝機が見えない。武は打開策を思い浮かべられない中、サーシャを、純夏達を犯そうとする触手だけは確実に切り裂きながらも、徐々に傷ついていく自分の身体を引きずりながら戦闘を続けていた。

 

『―――それ、が』

 

諦めても仕方がないと言われるだろう、無茶も極まる状況だ。これだけ敵を引きつけて時間を稼いだと、敢闘賞どころではない最優秀賞を貰っても良いぐらいの働きだ。きっとそうだ、と武は自分の中に居る弱い自分の囁きを聞いた。

 

―――その全てを認めながら、武はあらん限りの力で叫んだ。

 

 

『それが、どうしたあああああああっっ!!!』

 

 

大声で、挫けようとする自分を吹き飛ばす。

 

武は笑いながら、眼の前の戦いに没頭していった。

 

(―――体力は軍人にとって最重要だと教えられた!)

 

疲労で動きが鈍ければ、たちまち撃墜されていただろう。そうならないのは、一番最初に一番尊敬する教官に教わった大切なことだから。

 

(―――油断をすればそれが最期だと、失った戦友達に教えられた)

 

庇い、死んでいった人。そこから学び、生き残る術を得た。体力不足を補い、再度戦場に出た果てに、過酷な環境での戦闘方法を磨いた。

 

衛士が死ぬ時は、操縦をしくじるか、諦めた時だ。多くの戦友の亡骸と死に様と自分の記憶を照らし合わせ、四方八方に囲まれた時でも戦い抜く戦術を会得した。

 

例えばほら、と。呟いた武は飛行級による包囲網が敷かれている最中に起きたイレギュラーの中、確かな空隙を見出した。

 

そこから先の行動を、武は自覚せずに成した。身体の動くままに、手を、足を、操縦桿を動かしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――な』

 

たまたま見ていたユーリンが、絶句する。拾いものだったせいであろう、飛行級の長刀に限界が訪れた。折れた白刃が飛び、たまたま傍に居た別の飛行級に突き刺さった。

 

そこからは瞬間の連続だった。

 

―――止まった飛行級の影から躍り出る、新手。だがコンマにして数秒遅れたその攻撃をまるで予見していたかのように、十束は飛行級の腕に手を添えて、振り上げた。

 

重心を崩された飛行級は、推進力をモーメントとして縦に回転し、密集気味にあった別の飛行級2体に衝突をして、轟音が鳴り響くその前に、胴体に大きな穴が開いた。

 

大当たり(ジャックポット)、とアーサーが居たら叫んでいたのは間違いがない程、的のど真ん中を貫いた120mmの砲弾は内部にあった可燃性の液体の漏洩を呼び込み。

 

―――爆発。

 

巻き添えになった4体が、各部に損傷を負いながら推力を失い、地面に落ちていった。周囲に居た飛行級も、撃墜までは行かなくとも、きりもみに回転しながら飛んでいく個体もあった。

 

握りが甘いのか、武器を持つのに適していないのか、手に持っていた中刀まで落としながら。それでも冷静なのだろう、飛行級は武器を拾おうと移動を始めた所で、頭を砕かれて死んだ。

 

『―――く、は』

 

狙撃を行った武は笑う。可笑しそうに。狙うべきはそこか、と心の底から嬉しそうに。

次に取った行動は、武装の放棄だった。無手の個体がやってくるその眼前に、捨てて良い方の中刀を優しく放り投げたのだ。

 

それを目前にした飛行級は、避けることを禁じられているかのように、武装を回収をせんと腕を突き出した。

 

直後、刃が回転した。十束が放り投げた中刀の柄を縦に蹴り弾いたのだ。体重が乗っていないため回転した刃は飛行級の手の表皮を切るだけに留まった。

 

だが、その行動さえ分かっていたとばかりに、赤色の塗装を肩に持った機体は鬼のような動きで襲いかかった。

 

回転していた中刀の柄を掴み、武装回収のために速度を落としていた飛行級の胴部を瞬時に貫き、

 

『飛べよ、そして―――』

 

間髪入れずに、推進力を活かした前蹴りが飛行級を蹴り飛ばした。3体の飛行級が密集している所に。

 

『―――派手に、散れ』

 

追い打ちで叩き込まれた36mmの劣化ウラン弾が爆発を誘引し、巻き込まれた別の個体が諸共に爆散した。

 

その結果に満足しないまま、武は次の標的を仕留めるために動き始めた。

 

―――どんなに絶望的な状況でも、諦めなければ勝機はきっと訪れるだろう。

 

訓練兵の頃に聞いた、どこかで建前だと思っていた教えがとても深い意味を持つものだと知ったのは、タンガイルでの激戦の最中だった。

 

燃料は無く、戦略的には大敗で、同じ隊の戦友まで失った。忘れられない一夜は、心に深い傷を残した。

 

その空虚と悲痛に耐えきれず、盛大に泣き散らかした後に交わした、クラッカー中隊の仲間達との誓い。武は重ね合った掌の上に、一つの真実を見出していた。

 

諦めたら、何もかもが終わる。それが前提であり、諦めない限り、死なない限りは未来へ続く道は例えか細いものでも繋がっているのだ。いつか来るであろう逆転の時を待望しながら、誰かが死ぬことで受け継いだ命を勝利のために保持することこそが。

 

アンダマンで共に訓練を乗り越えた、親しい戦友が命を使って伝えたかったことを、その重さと意味が胸に刻まれた。

 

―――だからこそ、諦めず自分を。弱いままで居る自分を、許さなかった。

 

『っ!』

 

爆発により生じた死角から襲いかかり、すれ違いざまに頭部を切断しながらも流れるように駆け抜けて。

 

―――死んでいい人なんて一人も居なかった。だというのに、恨み言ひとつ吐かずに、笑いながら死んでいった人たちも居た。

 

『ぎ―――ぃっ!』

 

数が減った影響で途絶える飛行級の連携、攻撃の密度。あ号標的か何者かは分からないが、攻撃パターンを状況に応じて変えようとしていた所を、生じた3秒の時間を逃さなかった武の手により、更に1体の飛行級が落ちた。

 

―――ビルマ作戦、マンダレーハイヴ突入の前後に起きた様々な事象はその極みだった。死に別れなんてまっぴらだった。死んでいい人達じゃなかった。もっと多くの時間を、多くの言葉を交わしたかった。

 

取り返しがつかないということを知った。進む度に傷ついて学び、失って強くなり、泣きながらも怒ることだけは忘れなかった。

 

負ける度に、何度も誓った。次は勝つ。次は失わない。次こそは絶対に誰も。叶えられないまま、戦場だけが過ぎていった。

 

ずっと焦っていた。今度こそ、何も成せないまま全てを失うのではないかという、恐れが武の中にあった。その根源とも言えるカシュガルの最奥で、武は長い旅の道すがらに習得した全てを費やしていた。

 

知恵を、経験を、技量を血と肉から絞り出して抗い、そして。

 

 

『―――パターンは、読めたぜ』

 

 

共に戦っているのだ。旅の途中に出会った、かけがえのない戦友と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――分かったぜ。どうして俺達はまだ全滅していないのか、その理由が』

 

飛行級は鋭く、強い。単純な性能で数えれば、白銀武が乗っている十束をも上回っている。数的不利を考えれば、1.5機相当か。だが、10分の経過してもなおこちらが撃墜されたのは不意打ちを受けた2機と、脚部と腕部にダメージを受けて退避した茜と多恵の2機だけだった。

 

もしも、あの蝿の魔王の1.5倍もの戦力を相手にしていれば自分達はどうなっていたのだろう。ユウヤは考えたくもない想像の先に、半壊は免れないだろうな、という結論を出していた。

 

だというのに、何故こんなに被害が少ないというのか。前衛を任されるに足る者達はその鋭い観察力を用いて戦いながら相手を分析した。

 

自分が置かれた状況と、前方で戦っている武と周辺の飛行級の様子を見た者達は気づいた。かの飛行級は、戦っている間に()()()()()()()()()()()()という事に。

 

『―――あたし達は、相手を見た上で戦い方を磨く。出来ないなんて言えねえ。勝つために敵を分析して、勝率を上げる方法を模索する』

 

対策をするのだ、しなければ愚か過ぎる怠慢だ。自分たちの戦力と数、相手の能力と相性、地形や環境に至るまで。衛士は戦闘中に様々な情報を頭に叩き込みながら、最も()()勝てる術を練り上げるのが前衛を任された衛士の仕事だった。

 

飛行級は、それを行わない。他のBETAと同じように定められた行動を繰り返すだけ。自分で考えて解を導き出す機能そのものが欠如していた。

 

『アンタ達が、決められた通りの答えしか出せないっていうのなら―――』

 

次に出るのが赤か黒か、読めない状況で掛け金を投じるのがギャンブルだ。時には確率論を越えて赤の目を出し続け、勝者と敗者を生み出すのが賭博である。だが、赤が出た後に黒が出ると分かりきっている勝負は、賭事ではない。

 

慧と亦菲、タリサと孝之から36mmの砲弾が放たれた。

 

そう、どこのポイントに突撃砲を撃てば、どのように回避をするのか予め分かっているのであれば。

 

『―――そこだ!』

 

『見えた―――!』

 

『もらったぁっ!』

 

飛行級に囮の攻撃を回避()()()上で、誘導したルート。先回りしていたユウヤと冥夜、水月が乗る機体が長刀を横薙ぎに煌めかせた。分断された飛行級が落下し、慣性のまま地面を削り転がっていく。

 

次の瞬間にはユウヤ達に別の個体が襲いかかるも、フォロー役に回っていたユーリンが突撃砲をばら撒き、攻撃の後の隙を埋めていった。他の者達も、陣形を整え直し、通信で次の策を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どんなに手強くても間抜けを相手に負けはしない、か』

 

前方で奮闘している仲間の背中を、その声を聞きながらサーシャは呟いていた。自分ではできないな、と声には少々の呆れが含まれていた。

 

頭が弱かろうが、性能は本物だ。今も完全に優勢ではなく、紙一重の攻防であることに変わりはなかった。戦術機動の精度や速さで劣る自分や中衛、後衛の衛士であれば撃墜されていた事は間違いなかった。

 

『それに―――運が良かった』

 

もしも、通路で出てきていたら。サーシャは紛れもない強者だったF-22の部隊のことを考えていた。戦術機よりも耐久性に優れる飛行級が、狭い通路の中で形振り構わず要塞級や戦車級と一緒に襲来していれば同じ末路を辿っていただろうことを。

 

そして、とサーシャは戦闘直後からずっと観察していた、飛行級が出てきた場所の解析結果を見た後にニヤリと笑った。

 

直後、レーダーが新たな機影を捉え、部隊の全員から驚愕の息遣いが溢れ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新手!? っ、これ以上は流石に勘弁して欲し―――っ?!』

 

開いたドームの中から、更に浮上しつつある反応は、間違いなく飛行級のもので。察知した武は口端の血を拭いながら舌打ちをした時に、言葉を聞いた。

 

大丈夫、という耳元に囁きかけるような優しい声。気づいた武は、指示通りに後方へと一端退避をした。

 

その後に見えたのは、尾を引いて飛ぶミサイルの姿。武の周辺、前衛チームと対峙していた飛行級の位置関係から、触手の発射角度まで。念のためにと全ての観察と分析を終えていたサーシャと純夏、霞とクリスカ、イーニァ達の狙いすましたミサイルはドーム中央にあった下層に続く穴へと飛来し、増援に出てきた新手に接触すると同時に四散した。

 

爆発に、爆発。飛行級の内部にあった可燃性の液体が勢いよく爆ぜ、その下に居た個体も誘爆していく。連鎖する破壊は穴の下まで続き、最期に起きた一際大きな震動が、飛行級の巣の終焉を意味していた。

 

『………って危ねえっ!』

 

あまりに急展開していく状況に呆けた武に、飛行級の攻撃が。回避が間に合い、奇襲は装甲の表面を僅かに削るだけに終わったが、武は目を回しながら取り敢えず叫んでいた。

 

『な、なんで察知できて―――』

 

『BETAの力は、物量だから』

 

F-22の部隊が敗れた原因として考えられるのは、地形と敵の数と、予想をしていなかった増援の存在とその物量。あ号標的が零した僅かな情報から最悪の状況を想定して準備はしていた、と当たり前のように語る。

 

自分だけではない、全滅も必至だった相手の秘策を封殺するその姿。頼もしさに、武は泣きそうになりながら突撃砲を放ち、また一体を撃ち落とした。

 

そして煙を上げて落ちていく飛行級の姿を背後に、先程の増援のタイミングから、武はある事を悟っていた。

 

(最初から、あの増援を出して来なかったのはきっと―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――飛行級なるものがまだ未完成の個体、だからだろうな』

 

触手を撃ち落としながら、まりもが言う。隣に居る、跳躍ユニットが破損した麻倉の機体を守りながら。

 

『恐らくは、最初に出てきた数が―――』

 

『―――ええ、この広場のスペースで互いに撃ち落とさないようにしながら、連携紛いの行動を取れる限界なのでしょうね』

 

その言葉に、撃墜し損ねた触手により機体の片腕を失いながらも、指示と攻撃を飛ばしていた樹が、そういう事かと呟いた。

 

『情報を入手したのが、恐らくは甲21号作戦の時―――準備不足という訳だ』

 

経路は不明だが、情報の精度が落ちていたのか―――あるいは、元よりBETAとして運用するような仕様になっていなかったのか。詳細は不明のため明確な答えは得られないが、飛行級が強敵ながらもまだ欠陥品であることは確かだった。

 

そして、と指揮官の二人は考える。未完成の個体を、どうしてこのような決戦に用いるのか。まともな指揮官であれば、まず取らない行動だ。あ号標的も処理能力や対策を練れるだけの立案能力はあるのにどうして、と考えた所で別のことにも気づいていた。

 

飛行級は圧されつつあり増援も壊滅しただろうこの状況にあってもどうして、四方にある隔壁を開放しないのか。数えるのも馬鹿らしいぐらい居るであろう雲霞の如き増援を送り込まないのか。

 

『まるで、ここで負けても構わないという風な――――』

 

樹が呟き、まさか、と戦慄いた。だが、言葉にしてしまえばしっくりくるものだった。霞を通じて交わした、あ号の言葉が嘘偽りないのであれば。

 

 

『―――は?』

 

 

その声を零したのは、誰だったか。ちょうど通信が途切れた空白に浮き上がった声は、着火された導火線のように明るい“棘”のように響き。

 

『―――はっ、ははは………』

 

誰のものかも分からない、乾いた笑い声が響く。震えを帯び始めたその声は、噴火の前の予兆に酷似していた。

 

声から、感情が伝搬していく。耳にした全員の頭に浮かび上がった言葉は、“自分は生命体ではないし人間を生命体とも思っていない”というものであり、そこから答えに辿り着くのは一瞬だった。

 

『つまり、お前はあれか―――自分達は10の37乗も居るし代わりも居る、人間は知的生命体じゃないから』

 

今負けても、知的じゃないから成長をしない災害とやらは、次に潰せばそれで良いと

 

仲間の命を、地球の命運を賭けて戦っている自分たちを相手にしていながらも、小蝿以下の塵屑を払うような感想しか抱いていないと。

 

 

『―――るな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御剣冥夜は今までに激怒した事はなかったと、過去の自分を思い返した。怒りを覚えたことはあった、だが今のこの胸に溢れる灼熱こそが憤怒という感情なのだと察した。

 

彩峰慧は、コレほどまでに相手を殺したいと思ったことはなかった。挑発を受けた時とは比べ物にならない、内臓の奥まで怒りで支配される感触を学んだ。

 

榊千鶴は、武の偽装した挑発の言葉を甘いと感じた。これほどまでの屈辱を、目が眩むほどの“苦さ”しか覚えない本当の意味での侮辱を知ったからだった。

 

鎧衣美琴は、子供の頃に行った森の命達を思った。環境の激変により滅びた種もあると、珍しくも寂しそうな表情を浮かべていた父の横顔が、汚されたように感じた。

 

気絶から回復した珠瀬壬姫は、国を越えて飛び回る父を思った。時には自分を犠牲にして交渉を進めていただろうその背中が、行為の全てが“こんな”もののために引き起こされたものだと知り、頭から血を、目から涙を流しながら前に寝そべった姿勢で狙撃し、飛行級の一体を撃ち落とした。

 

タリサ・マナンダルは、難民キャンプで苦しんている人たちのうめき声を思い出した。時折悪夢として自分を苛むその声が、今この時には力になった。

 

崔亦菲(ツィ・イーフェイ)は初陣で失った仲間の断末魔を思い出しながら、血走りながらも精度を増した眼球を駆使して機体を操った。どうすれば殺せるかという思考に、脳の機能が染まっていった。

 

ユウヤ・ブリッジスは、クリスカを、イーニァを産み出すほどに切迫していた状況を思った。それだけでは収まらない、彼女達を含めた全てが侮辱されたと、怒りに吠え猛りながら前へ。生まれてから今まで出した覚えのない大声と共に、鋭さが増した長刀の一撃が真っ向から飛行級の装甲を切り裂いた。

 

『―――め、るな』

 

神宮司まりもと紫藤樹、イェ・ユーリンはどこかで薄々と気づいていたと、他の者達ほどは感情を乱さなかった。ただ、()()は得られたと薄笑いを浮かべたまま、元々無かった容赦の二文字を越えて、新たな言葉を生み出しかねないほどに、その思考は、肉体は破壊の方向に傾いていた。

 

速瀬水月と鳴海孝之は、2機連携で新たに1機を撃ち落とした所だった。一瞬だが互いの思慕からくる動きの引っかかりを、思いやるという余裕(鈍り)を消し去る強い怒りに身体を支配されたが故に、高度な連携が可能になったからだった。

 

その中で出た綻びを、平慎二はこっそりと埋めていた。触手を撃ち落としながら、飛行級を牽制することで、この場にいる全員の負担を出来る限り少なくしようと。こんな奴らを相手にこんな所で死ぬなんて冗談でも御免だと、歯を食いしばりながら。

 

風間祷子は、過去よりも手に馴染まなくなった楽器の感触を思い出し、涙していた。音楽は極めようとすればあまりにも長い時間が必要になる。だというのにそれを奪い去ったものの正体がどんな戯曲で謡われたものより汚らしい存在だと知ったからには、それが存在することさえ許せなくなった。

 

宗像美冴は、京都で失った人を、本当は気弱で裏でいつも怖いと泣いていた舞園舞子(同期)の背中を擦った時の感触を、故郷と親友と自分の身体まで食い荒らされたシルヴィオの顔を思い出しながら、刃のような瞳で祷子と共に敵の出だしという出だしを砲で封殺していった。

 

碓氷沙雪は、平らになった故郷の風景を、亡くなった祖母を想いながら代償というものをBETAに教えてやると躍起になっていた。あの風景は、先祖代々の思い出がこめられた土地は、妹の片腕は安くはないぞと最大限に高く、借りの代金を払わさんがために。

 

伊隅みちるは軍に入った妹達の、幼馴染の顔を思い浮かべながら、これ以上手を出させないと希望の火を守ることに専念した。ここで勝てればあの子、あの人はと体力が尽きそうになりながらも、襲い来る触手を切っては撃ち落としていった。

 

麻倉篝は、片腕の突撃砲で触手を徹底的に潰していた。目の前で血まみれになった戦友の、亡くなった肉親の代弁者として、劣化ウラン弾を注ぎ込むだけ注ぎ込んでいた。

 

柏木晴子は、こんなものと弟を対峙させてはならないと、汚物の極みであるように思えた敵を、触手を壬姫と同じ格好で撃ち千切っていった。徴兵はまだしも実戦は、という現実的な阻止策を忘れて、全て殺さなければという使命感と共に。

 

涼宮遙は自分の役割を忘れずとも、流れ出る涙を止められないまま状況を報告し続けていた。評価演習で死んだ同期の友達、訳もわからないまま永遠に会えなくなった優しい人、号泣する水月の丸まった背中。それを怒りではなく力に変えられるのが涼宮遙という女性の強みだった。

 

涼宮茜は、晴子を庇いながら触手を撃ち落とし、時には水月と孝之の機体の背後に回ろうとしていた飛行級に向けて牽制の狙撃を繰り返していた。こんなに汚いものが仲間に、尊敬する人に触るなど考えられないといった様子で。

 

全員が、全身全霊を越えて目の前の敵と戦っていた。それがこの星に住まうものとして、人類の鋒として戦っている自分たちの天命(さだめ)であり、義務だと感じたからだった。

 

『―――ふざ、けるな』

 

そうして、全員の気持ちを代弁していた言葉が。全ての衛士の怒気という炎に油を注いでいた声が、急激に大きなものに転じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ずっと、目を背けたくなる試練の連続だった。だけど、壁にぶつかる度に強くなれた。忘れられない大きな傷でさえ前に進む力になった。失う度に、二度と繰り返したくないという決意と、覚悟の数は増えていった。

 

それでも明けない、絶望の時代を乗り越えてきた。武は、道中で眼にした屍の山を幻視する。()()()()()()()()()

 

逢魔の刻限のように、血の色のように赤い夕暮れがいつも見えて―――それがどうしたと断言できるぐらい、死んだ人達の優しさを、偉大さを覚えていた。

 

志を同じくする戦友と一緒に、生き残ることができた幸福を噛みしめる―――分かち合えることが尊いものだと思う当たり前を、共有できる喜びと共に。何気ない冗句を言い合いながら笑い合える時間は、劇的ではなくとも、これ以上無い至福の時だった。

 

(それさえも奪われる―――この世界に、全てを救ってくれる神様は居ない)

 

それでも、と。戦うことが定められた時代だった。どこかの誰かの世界のように、命を賭けなくてもいい世界とは違った。だけど、と武は傷つき倒れ絶望の縁に追い詰められても誰かが誰かを想い祈ろうとする真心は、言葉は、証明をするまでもなくそこに在るものだと信じていた。

 

それこそが戦う理由の根底にあるもの。どうしようもなく綺麗な、宝物だと思っていた―――その全てが、汚されたように感じた。

 

本当に分かっていた“つもり”だったんだな、と武は呟いた。生命として相手にされていないということ、その本当の感触をここに来て心の底から理解した。

 

その下手人、主から遣わされた蝿が目の前を飛んでいる。武は、口の中で広がっている血を唾とまとめて吐き捨てた。武御雷の中だとか、そういう些細なものは頭の中から消し飛んでいた。あちこち傷ついた機体や身体まで。

 

その代わりとして、脳から骨髄まで染め上げたものがあった―――それは今までに積み上げてきた、平行世界での記憶を持った上で培った、戦闘の経験だ。

 

全ての世界で味わったものがあった。勝利の記憶と、敗北の終わりだ。量で比してどちらが多いかと問われれば、武は圧倒的に後者の方が勝っていると断言するだろう。

 

―――だからこそ、この状況は武にとっては慣れ親しんだものだった。どうしようもない怒りを力に変えて戦う術を、疲弊し不利な状況から生き残るための立ち回りを、武は地球上の誰よりも深く習得していたのだ。欲し描いた未来を現実に落とす方法を、現実に“落とす”その手順を。

 

そうして、死の淵で磨かれた生存本能と学習能力が最大限になった武は、十束の機体性能を遂に完全に把握した。十全を越えて、規格外の衛士に操られた規格外の機体が、疾風さえも越えていく。

 

その先に現れた“それ”は、眼の前の飛行級からすれば針穴を通す閃光としか言い表すことができなかっただろう。予想を越えて鋭角に潜り込んでくる機影と斬撃の線が幾重にも刻まれ、その軌跡の中に居た数体の飛行級がまるで案山子のように、周辺に展開していたあ号標的の触手ごと切り捨てられた。

 

人類(にんげん)を―――っ』

 

残りの飛行級が、ボロボロになった十束に殺到する。その中で武は叫んだ。

 

自分の目で見てきた、荒れ果てた地球を、それでも青く美しい星を、空を、出会ってきた全ての人たちを心に抱きながら。

 

 

『―――地球(このほし)を! 無礼(なめ)るなあああああああぁぁぁっっ!!』

 

 

限界を越えて戦意を全開にした武の前面全てが、殺し間(キリング・フロアー)と化していく。減じさせられた飛行級の数が銀と赤の残影に貫かれては、その核という核を削られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――充填完了まで、あと3分! これなら……!』

 

純夏は満身創痍でも戦い続ける仲間たちを泣きそうな顔で見ながらも、勝利の足音を感じ取っていた。無傷な者は誰も居ない。誰もが機体の装甲を、四肢のいずれかを失い、衝撃を受けたことにより身体から血を流していた。それでも、戦意や士気は衰えるどころか天にも昇る勢いだった。

 

『……順調、過ぎる』

 

『え?』

 

『分からない。あ号標的は本当に、負けても良いだなんて思っているのか』

 

サーシャは呟き、別の可能性を考えた。敵の首魁は合理的な機械ゆえに、無駄を省くことを優先する。ならばこの状況で周辺のBETAを投入せず放置しているということは、充填が終わっても問題がないからかもしれない。

 

『……あえて、充填させた上で?』

 

『再度奇襲を、ということか。部隊長に報告を―――っ!?』

 

クリスカの声が、驚愕に染まる。予兆もなく、いきなり通信が途絶したからだ。

 

「電波妨害?! このタイミングで……!」

 

「ダメ、だれにもつながらない!」

 

「神宮司少佐、紫藤少佐! 誰でもいいから、応答を―――!」

 

クリスカとイーニァが悲痛な声を上げた。純夏達も焦っていた。連携を断ってきたということは、間もなくしてあ号標的は何かを仕掛けてくる、その予兆だと確信していたからだった。

 

「っ、レーダーに反応! これは、左右の門が開き始めているぞ………!?」

 

「この速度は―――飛行級! 恐らくは、別働隊だと思われます!」

 

「本機の直上にも反応が! これは……!」

 

ラザフォード場が捉えたのは、凄乃皇の頭上に降り注いだわずかな岩片。それは、最初に防げなかった時と同じ、触手の奇襲の予兆だとサーシャは直感で読み取った。

 

「手が足りない……でも、外に伝えようにも………ヴァルキリー中隊、クサナギ中隊、誰でも構いませんから応答して下さい!」

 

「タケルちゃん! 隊長! だめ、このままじゃみんなが………!」

 

遙と純夏の悲痛な声が響く。サーシャは沈痛な面持ちで目を閉じながら、まりも達に必死に訴えかけている遙に告げた。

 

「香月副司令からのメッセージを伝える―――この後に起こること全ての口外を、ラダビノット基地司令及び煌武院悠陽の名の下に禁じる」

 

時間がない、と一方的に告げたサーシャは遙の答えを聞かないまま、夕呼から預けられたコードを口にした。

 

「サーシャ・クズネツォワの名で許可を。緊急コード0999(オー・スリーナイン)―――社霞及びイーニァ・シェスチナプロジェクション能力の開放を申請する」

 

『……声紋、確認』

 

霞の頭にある耳飾りと、イーニァが身につけていた髪飾りから機械の音声が応答し。サーシャは、二人に向けて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ!? 今のは―――!』

 

突如浮かんだ映像に反応し、まりもは頭上を見上げた。間もなくして望遠で拡大した映像を見て、自分を襲った感覚が、映像が根拠のないものではなかったことを察した。

 

『―――飛行級は前衛のチームに、俺達は凄乃皇を守る! 俺が下、お前は上だ!』

 

『っ、分かった!』

 

樹からの接触回線で通信受け取ったまりもは、即座に移動を始めた。飛び上がり態勢を変えながら、罅が入っていた天井に向かって突撃砲を構えた。

 

その直後に、天井の壁を突き破って触手が現れた。同時に下からも、凄乃皇を狙った触手の攻勢が激しさを増した。

 

『く………っ!』

 

『このままでは………!』

 

まりもと樹は迎撃をしながらも、舌打ちをした。経験から、悟っていたからだ―――間に合わないことを。

 

腑に落ちない点もあった。天井の触手だが、最初に奇襲を受けた時と比べれば、その勢いが雲泥の差だったからだ。全力で奇襲を受ければ、間に合っていたか分からないというのに。

 

それにも理由が、と考えた所でまりもはちらりとあ号標的の方を見た。A-04も、同じように元凶であるあ号標的を見た。

 

『もしかして―――弱っている?』

 

『っ、通信が!?』

 

妨害が終わったのか、と喜ぶ純夏達に声がかけられた。

 

男は―――白銀武は、優しい声で命令を下した。

 

 

『主砲の、発射準備を―――奴の触手は俺が止める』

 

『っ?! しかし、この状況では―――』

 

最初のように、発射直前に妨害を受ければ今度こそ凄乃皇は取り返しのつかないダメージを受ける。下手をすれば周囲に居る味方ごと巻き込んで爆発する恐れもあった。

 

その心配は無用だと、十束が触手の切り払いに使っていた中刀を掲げた。

 

サーシャ達が望遠でそれを見た後、武は誇らしげに告げた。

 

 

(ゲート)級のあれと同じでな―――目の前に居る卑猥な糞虫のために用意した、殺虫剤ってところか』

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、武は悪戯を披露する子供のように笑った。

 

霞達があ号標的に接触を受けて情報が漏洩でもすれば、という万が一のことを考えた上でのこと。武と夕呼しか知らない、緊急事態に備えての切り札の存在を。

 

そして最後の最後の切り札となる弾も。

 

武は1秒で覚悟を決めた後、流血で塞がった片目を拭いながら、機体をあ号標的に向き直らせると、中刀を両手に構え―――直後、十束の背後にある跳躍ユニットの火が全開になった。

 

『な、にを―――!』

 

『弾が、奴の表皮を抜ける距離まで往く!』

 

『待っ――――』

 

秘策であろう、恐らくは長刀よりも効果があるとっておきの弾丸。それがあ号標的の防御を抜いて、影響が出る所まで近づくというのだ。まだ飛行級が残っているというのに、触手の攻撃も激化するというのに、その中心へと突っ込むと。

 

援護を、と戦っている衛士達を見るが、誰もが目の前のことから手を離せなかった。

 

サーシャは俯きながら、震える手で主砲の発射準備態勢に入るボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりは何時だったのだろう。全てが遠いもののように感じながら、武は操縦桿を前に倒していた。

 

敵は眼の前だった。武は前後左右から長刀を、短刀を、手を武器にして襲いかかってくる飛行級の間を中刀で受けて捌きすり抜けると更に加速をした。

 

全て置き去りに、十束が往く。だが、その代償は大きく、武の口から大量の血が溢れた。激痛という激痛が武を奔った。本能が身体に「止まれ、もう無理だ」と叫んでいるのだ。武はその全てを飲み込んだ上で不敵に笑いながら、前に進んだ。

 

進む度に、更にボロボロになっていく。その無茶の代償は意識にまで訴えかけてきた。武は気が遠くなっていく中、あいつらもこんな風だったのだろうか、と記憶の中でしか会えなくなった人たちの名前を呟き始めた。

 

『……ハヌマ、ガルダ……イルナリ………ハリーシュ、シャール、アフメド………』

 

本当の意味での“元”クラッカー中隊の戦友達や、ボパールハイヴ、亜大陸で死んでいった同じ戦線を共にした英霊が居た。

 

『ビルヴァール、ラムナーヤ………良樹、アショーク、バンダーラ、イルネン………』

 

同隊で戦い、眼の前で死んでいった友。同じ釜の飯を食った戦友で、同期で、自分の志という旗を立てるために散っていった友達が居た。

 

『ホー、ムスクーリ隊長、赤穂大佐、小川少尉、黛少尉、樫根少尉……紅葉(ホンイェ)………橘、操緒………』

 

口ずさむも、死に様を聞かされた者達は多すぎて、とても言い切ることはできない。

 

一体、何人が。考えてしまえば嫌になり、情けなくも叫びたくなる。どうして死んでしまったのか、もしも生きて、助かっていたらと考えてしまう。死者に引き摺られ過ぎるなと教官や戦友達に何十度も怒られたし心配されたが、武はそこだけは直せなかった。生命を駆けた人たちへの侮辱になるかもしれないが、そう考えてしまうことだけは止められなかった。

 

だけど、と最期まで戦った人たちを誇りに想う気持ちも本当だった。夜空に輝く星々のように、共に過ごした時間と思い出は、BETAであっても手を出すことが出来ない程に高くに在り。

 

『だから―――お前たちには、届かないんだよ』

 

武は置き去りにした飛行級を、空になった突撃砲を抱えながら追いかけてくる個体を感じながらも振り返らず、ただ前を見た。

 

そして、あともう少しと武が呟いた途端に、あ号標的はその動きを変えた。今までは見せてこなかった攻撃を―――凄乃皇を狙っていた時の太いが遅い触手ではなく、細くも速い触手をこちらに繰り出して来たのだ。

 

―――間に合わない。そう判断した武は、同時に中刀を振るった。

 

避けきれなかった3本の触手が、装甲を突き抜けて武の横腹と肩と足を抉った―――その直後に振るわれた中刀が根ごと触手を切り裂いた。

 

これで侵食は、と安堵をする暇もなく、武の脳に銃で頭を撃ち抜きたくなるほどの激痛が襲った。呼吸さえも満足に出来ない、痛いという二言だけで目の前が覆われていった。

 

平時であれば、みっともなく泣き叫んで子供のように転がりたくなっていたであろう、魂さえも悲鳴を上げているような、痛みという感覚の極地が、全身を貪り食い―――その中でも武は操縦桿から手を離さなかった。

 

 

『が、ああああああああああっっっっっ!』

 

 

雄叫びと共に、僅かたりとも減速しなかった十束が駆け抜けて―――遂に、弾倉に籠められた切り札が有効となる射程距離に入る。発射体勢に入ろうと減速をし、その時だった。

 

『―――っ!』

 

武は一瞬で状況を把握した。先程と同じ細い触手、追撃だろうか、こちらが撃つには間に合うが、()()()は間に合わないだろう。

 

察しながらも武は一秒たりとも迷わなかった。回避に動く身体の反射を抑えきりながら、突撃砲の引き金を引く指が動いた。

 

切り札が発射される時の震動が、十束を僅かに揺らし――――入れ替わりに、十束の眼前に6本もの触手が迫った。中にいる衛士の頭を、心臓を、肺を貫き蹂躙せんと唸りを上げて十束に襲いかかり―――届く前に十束の斜め後ろから放たれた砲撃を受け、その全てが爆ぜた。

 

 

(―――無茶、しやがって)

 

 

武の唇だけが動き、焦点が霞んでいた両目に涙が浮び―――その眼が、苦しみ悶えているあ号標的の姿を捉えた。

 

満足だ、と武の口から笑みが溢れると同時に、操縦桿を握っていた手から力が消えた。

 

直後、十束は失速をして―――中に居る武は、墜落とは異なる衝撃を感じた。

 

 

『あと5秒、急いで―――』

 

『亦菲、露払いを―――』

 

『離すんじゃないわよ、タリサ―――』

 

『援護は任せて、とにかく射線上から―――』

 

『くっ、あと3秒―――』

 

『だいじょうぶ、これなら―――!』

 

 

その声という声は、まるで遠雷のように。周囲に集まって居る仲間の声も、夢の中の出来事のように儚かった。

 

 

そして霞んでいく視界の中、武は荷電粒子砲を浴びて消えていくあ号標的の姿を見届けると、安らぎに誘われるまま静かに眼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球の重力を振り切った後の、横浜基地に帰投する途中の装甲連絡艇。

 

その中で見た光景を、社霞はずっと忘れなかった。

 

笑みを浮かべながら意識なく横たわっている、大好きな人の痛々しい姿を。

 

横浜基地に向けて、見たことのない顔で、怒鳴り声を上げながら準備を急がせている紫藤樹の姿を。

 

血が出ている箇所を必死に押さえながら、涙混じりに必死な声をかける葉玉玲とサーシャ・クズネツォワの姿を。

 

 

その数分後―――歯を軋ませながら俯き、拳を何度も床に叩きつけたユウヤの姿を。

 

 

 

 

 

 

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