Muv-Luv Alternative ~take back the sky~   作:◯岳◯

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最終エピローグです。

1.純夏

2.悠陽

3.サーシャの順で、サーシャで最後になります。


と、いうことで最初は純夏で。


最終エピローグ(1/3) 白銀武と鑑純夏

 

 

 

「……暇だ」

 

帝都の中央にある一軒家で、武は呟いていた。背もたれに体重を預けると、上品に受け止めてくれる。何時以来だろう、緩みきった服装のままぼーっとしていても咎められないのは。何なら昼間っからアルコールを摂取しても大丈夫だろう。

 

だけど、不安になる。武は隣でジト目になっている純夏に話しかけた。

 

「なあ、こんなにだらけてて大丈夫なのか? 明日にでも新しい宇宙人がこの地球を侵略すべく行動を開始したりは」

 

「それは国の問題だと思うよ、タケルちゃん」

 

「でも、帝都だって絶対に安全とは言えないんだぜ? 米国の秘密基地で開発されている超兵器がこの日本を襲う可能性だって」

 

「タケルちゃんは一体何と戦ってるの?」

 

「いや、だって暇だし」

 

「……私が居るでしょ?」

 

「あー、そういえば休暇本当に良かったのか? 純奈さん達の所に行かなくても」

 

「私がここに居たいの。……分かってる癖して聞くんだから」

 

いやでもタケルちゃんだし本当は分かっていないんじゃ、と純夏はぶつぶつ呟き始めた。リヨン攻略が終わった後、サーシャの出産も無事終わった。

 

容態も安定したため、心配は無いと聞かされている。だが、母子ともにまだ分かっていない部分が多すぎた。特にリーディングに関する能力は未知数のため、刺激しないようにと二人の初めての子供―――アーシャと名付けられた白銀家の長女は、香月モトコ博士に診てもらっている所だった。

 

「大丈夫かな……いやでも夕呼先生とモトコ先生だし」

 

「あ、二人から伝言。『休みだからって部屋の前にかじりつくように留まるの止めなさい、次やったら出禁ね』だって」

 

「……分かった。分かりたくないけど」

 

「サーシャちゃんも、体調崩してるし……心配だね」

 

「それ言ったら、『人の心配より自分の心配しろ』って怒られたけどな」

 

「A-01の総意だよ。上役が休まないと、下も安心して休み取れないんだから」

 

「分かってる。それも仕事だってことは……ストレスも、自分じゃ知らない内に溜まってるらしいしな」

 

そのため、A-01の一部には義務付けられたことがあった。家での休暇と家族サービス、あるいは意中の人と食事か何かをして真の意味で心休めるように。

 

そして、武である。一言で表すと激戦だった。名乗り出る女性陣、重なる視線、飛び散る火花。色々な要因やアピール、役割も含めた論争の結果、純夏は最終的に一緒の休暇を勝ち取ったのだった。

 

2ヶ月前に純夏がお風呂場アタックを経ての世紀の告白(自称)をして、武に受け入れてもらえたという要因が決定的だった。

 

(恋人らしく、恋人らしく……ってどんなのか分かんないけど、とにかく攻めなきゃ)

 

それとなくアピールをしているが、態度は告白前と変わらず。今この時も、無防備にだらけるだけで恋人っぽいことをしてくれないので、純夏はあれが夢だったんじゃないかと思い始めていた。

 

「二人の思い出を作っていこうって言ったのに……ぶつぶつ」

 

「何か言ったか?」

 

「……なんでもないよ。それより、午後からは殿下と約束があるんでしょ?」

 

「ああ。そういや、そろそろ着替えないと拙いか」

 

武は苦笑した。東北での二人だけの逢瀬―――と、悠陽の中ではそうなっているらしい―――というシチュエーションを悠陽はいたく気に入ったらしく、ここ帝都でも密会のように二人で会うことがあった。

 

今は亡き戦術研究会が作った廃屋からの秘密の地下入り口を拡張して、近くの高級料亭へと繋げたと武は聞かされている。

 

以来、武は季節の変わり目に悠陽と二人で何気ない言葉を交わし、他愛ない話を楽しんでいた。

 

「でも、そんなに遠くないのにもう着替えるの?」

 

「ああ。ま、私服もたまに着ないとサイズ変わってるかもしれないし」

 

関係各所から送られてきた服の数々を思い出し、武は乾いた笑いをこぼしていた。私服とかぶっちゃけ軍服しか無いんだけど発言に、女性陣が熱り立った結果だった。

 

買う金が無いわけではない。むしろ武はちょっとした資産家になっていた。昔からの衛士としての給料や、世界規模で衛士の在り方を変えたXM3その他、貴重というレベルではない情報提供の報酬、特別教導の見返りになどと色々あったからだ。

 

あるけど、あまり使ったことはない。この邸宅も風守所有の一部を譲り受けたもので、日用品も気がつけば揃っている。その上で服までも女性に買わせているのだ。

 

あれ、俺ヒモじゃね? と武は自分の在り方に疑問を持ったが、多勢に無勢ということで今の形に収まっていた。諦めた、とも言う。

 

「でも、流石に早すぎると思うんだけど」

 

「あー、あれだ。まあ、それだよ」

 

「へ、どれのこと?」

 

「察しろよ、バカ純夏」

 

武は耳を少し赤くしながら、純夏に告げた。

 

 

「デート行こうぜ、折角だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都で二人、ようやく特別ではない平穏が戻ってきた町並みの中。純夏は、どんよりとした顔でうつむいていた。

 

「タケルちゃんに察しろって、察しろって言われた……」

 

「おいおい、なんでそんなに凹んでるんだよ」

 

「だってタケルちゃんだよ?」

 

暇だの大丈夫かだの、アピールしていた理由を察した純夏だが、教えられなければ分からなかった自分に対して大いに凹んでいた。

 

「しっかし、平和になったなぁ。……子供の頃と比べれば、町並みとか全然違ってるけど」

 

「5歳の時だったよね。光さん以外の全員で東京に遊びに来たの」

 

幼すぎて、どの場所だったかは覚えていなかった。どの電車に乗り、どの駅で乗り換えたのかさえ分からなかった。

 

何となく楽しんで、久しぶりに父・影行と喧嘩ではない会話をして、ちょっと仲直りしたりもした。良い日だったと、武は当時のことを思い出しながら笑った。

 

まさか、この街を守るために何度も命を賭けることになるとは。夢にも思っていなかったことだと武が告げると、純夏はジト目になった。

 

「それは私のセリフだよ。幼馴染が海を渡るなんて、夢にも思わなかったんだから」

 

「ま、それはな」

 

「かと思ったら、綺麗で可愛い女の人達を大量に引っ掛けてくるし……ねえ、本当に何してたの?」

 

「うぐっ」

 

反論の余地を一切封じられた武が、胸を押さえた。その様子を見て、純夏がため息をついた。

 

「冗談だよ。……ちょっと、思う所はあるけど」

 

「どっちだよ」

 

「人を助けてた、ってことは疑ってないよ。だってタケルちゃんだもん」

 

「……そんなに良いモンじゃないんだけどな」

 

助けられた人は、確かに居る。反面、助けられなかった人の多さはどうだろう。最悪の状況が続く中で、勝つために誰かを見捨てなければならない事もあった。何よりも、自分がこの手にかけたという事実は消えないものだ。

 

義勇軍から斯衛、国連軍で戦う中で取った手段について、明らかになれば糾弾されるに違いないものも多くあった。武は、取りこぼしていったものを想いながら自分の掌を見下ろした。その掌に、純夏の掌が重ねられた。

 

「良いモンだよ。少なくとも私にとってはそうだもん」

 

「それは……身内贔屓が過ぎるだろ。汚い手も使ったのに」

 

「うん、でも贔屓が悪いだなんて思わない。やりたいやりたくないとかどうでも良くて、助けたいからタケルちゃんは戦ったんでしょ?」

 

その根底にあるのは、誰かを助けたいという気持ち。一人で多くの人をと戦い続けた中で、誰かから責められる行為が混ざっていたかもしれない。

 

純夏は、乗せた手で武の掌を包むように覆った。

 

「苦しんで苦しみ抜いて泣きそうになりながら決断したタケルちゃんを責めるなんて、そんな恥知らずな真似はしないよ。というか、一緒に責められる立場になりたいかな」

 

助けたい人の中に自分が含まれていることを、純夏は疑っていない。だからこそ、身内として糾弾する声があれば一緒に受け止めることを願っていた。

 

汚いだなんて、自分が綺麗だと思っているから言えるのだ。二人の想いが同じならば汚すなんて発想さえ出てこない。純夏はそう告げながら、顔を赤らめながら答えた。

 

「それに、もう遅いよ。さんざん汚されちゃったからね」

 

「そうだな……横浜一の芸人としてな」

 

「ふーん、そういう事言うんだ。……許してって言ったのに」

 

「いや、セーブしてたから大丈夫かなって思って……あとは、可愛いからつい」

 

気まずそうに武が呟くと、純夏が真っ赤な顔で目を背けた。

 

「卑怯だよ、最悪だよ……こんな風に女泣かせの鬼畜になるだなんて、それこそ夢にも思ってもいなかったよ……」

 

それでも逃げようだなんて欠片も思えないあたり、本当に罪が深すぎる。そういう点で言えば、戦争の手段うんぬんよりも純夏は文句を言いたかった。

 

「私も入ろうかな、T氏被害者友の会に」

 

「……待て。なんだその会、初耳だぞ」

 

「またの名を“鬼畜T氏攻略の会”っていうみたい。唯依ちゃんから誘われて知ったんだけど」

 

聞けば、謎の美少女Y・Kが会長を、顧問はS・Kが務めているらしい。武は目の前が暗くなった。

 

国連や帝国軍、斯衛の一部で“あの野郎いつか爆殺してやる”という声が上がっていることを武は聞いた事があったが、まさかそんな会が出来ていたとは夢にも思わなかった。

 

「いや、ちょっとは自覚しようよ。こっちもプライドがあるんだから」

 

「そうは言われてもなあ。全員が可愛すぎるし、仕方がないっていうか」

 

「……ほんとにいつか刺されるよ? っていうかむしろ私が刺したい。左で」

 

「洒落になってないからやめてくれ。……いや、冗談じゃなくて最近、威力がアレ過ぎるんだよ」

 

軍人として鍛えられた身体に中国拳法の理まで加わったドリルミルキィ・ファントムは、新たなステージに上がっていた。具体的に言えば殴られた武が、BETAの月面ハイヴどころか火星のハイヴまで幻視するぐらいに。

 

(……それでも怒らないのは、後ろめたさがあるからだよね)

 

純夏は見抜いていた。武は多くの女性と付き合っている事に、かなりの後ろめたさを感じていると同時に、どうして自分が、と不思議に思っていることを。

 

それでも応えるのは、不安だからだ。オリジナルハイヴで死にかけた時から、武は言い知れぬ不安をずっと抱いている。もしかしたら、明日にでも自分は死ぬのではないか、と。

 

リヨン前は、薄っすらとしたものだったかもしれない。それが、サーシャとの間に子供が生まれたことで反転した。無責任に誰かを置いて死ぬことは許されないという意味で、消えることを怖れたのだ。

 

(実際、私達にもいい知れない不安はあるんだよね……繋がっていないと、ふと消えてしまいそうな)

 

好意があることは大前提としてあるが、それを埋め合うために、心と身体の両方で繋がりを求める傾向があった。産めよ増やせよを国是としている背景もあったが。

 

後は、将来に対する不安。武が言ったような宇宙人はあり得ないが、BETAを地球から追い出した後に起こるであろうとされている、人間どうしの戦いについてはほぼ確定とされていた。既に夕呼が何かを掴んでいて、A-01の面々は覚悟するようにという通達を受けていた。

 

誰とも心を繋げずに、何も遺せずに死ぬなんて耐えられない。純夏は最近になってノーマークだった女性陣が動き出したのは、そういう不純ではあるが相反する純粋な動機も一部には有るような気がしていた。

 

(それ以上に、タケルちゃんが不用意な直球を投げすぎなんだけど)

 

某イタリア人のせいだという意見もあるが、純夏は原因の一部でしかないと考えていた。だってタケルちゃんだし、と。

 

「どうした、純夏。一人で百面相して」

 

「失礼だよ。私はただ、変わって欲しかった所も、変わって欲しくなかった所も含めてタケルちゃんだなあ、って思ってただけ」

 

その後のデートコースを巡った後、純夏は今の言葉をもう一度思い出すことになった。

 

悠陽との会食が明日に延期になったからと悪戯な笑みと共に告げられ、行きたかったレストランに二人で行くことになったり。

 

うろ覚えだったテーブルマナーを尋ねると、嘘を交えて教えられたり。

 

それでむくれると、やっぱり純夏のその顔は好きだな、と子供の時のような顔で告げられたり。

 

夜の帝都の街の中で、硬直する自分の少し先を歩き、振り返りながら手を伸ばしてくる。仕方ないな、と言いながら、優しい顔で。

 

純夏は、むくれながらも手を伸ばした。卑怯者なんだから、と想いながらも幸せいっぱいの微笑みと共に。

 

「今日はごちそうさま、タケルちゃん」

 

「良いって。……しっかし美味かったな」

 

「うん。あ、見てタケルちゃん」

 

純夏の指し示す先は、夜の空。二人は夜空を見上げながら、小さなため息をついた。そこには、かつての帝都では見ることが出来なかった、綺麗な星空が広がっていた。

 

「……思い出、だな」

 

「うん、思い出だね」

 

どこかの世界で同じようなことがあったかもしれない。

 

だけど、今この時のこの場所で、二人で笑いあっている何気ない時間は、間違いなく自分達二人の思い出だ。

 

少し喧嘩をして、仲直りをして、締まらないけどそれなりにムードがあり、ふとした発見をする時もある。

 

そんな、当たり前で何気ない時間が流れていく。純夏は武の掌を握りながら、楽しそうに告げた。

 

 

「積み重ねていこうね―――ずっと」

 

 

「当たり前だ。嫌だと言っても付き合ってもらうぜ」

 

 

まるで挑戦状を叩きつけられたように、武は不敵に笑った。

 

 

そして、最後まで二人は二人だった。

 

力強く引き寄せられ、強引に唇を奪われて顔を真っ赤にする純夏も。

 

ちょっと赤い顔になりながらも、してやったりの顔をする武も。

 

 

いつもの通り、白銀武と鑑純夏は幼馴染のように恋人のように。

 

 

帝都に広がる星空の下で騒ぎ笑い合いながら、帰るべき場所へと歩いていった。

 

 

 

 






あとがき

・そんな風な、この世界での白銀武と鑑純夏でした。

・サーシャとアーシャを心配はしていましたが、休むことを言いつけられたから

 こその、武の態度でした。


・ちなみに複数の女性と付き合うマナーとして、アルフレードから教わったルール
 
 『デート中に他の女性との名前を出さない』を徹底した武でした。


・被害者友の会は、アルフレード・ヴァレンティーノ氏を容疑者から外しました。

 教えが無くても武が素で恋愛原子核な野郎だということに気づいたからです。

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