Muv-Luv Alternative ~take back the sky~ 作:◯岳◯
「何が本当なんだろうな」
轟音響く戦場の中。泰村良樹は地面という地面が揺れている上で、言った。
「意志とは何処にある。この行為の正気をどうやって証明する。嘘偽りのない、誰かの指示によるものじゃないってことをどう言えば信じてくれるのか」
既に、残るのは目の前のこいつだけ。他の全員は、熱に浮かされたように敵中深くへと吶喊し、幾千ものBETAと共に爆ぜた。それが使命だと言っていた。決して、誰かに指示されたからではない。ましてや怪しげなソ連軍人の催眠術染みた何かではないと。
違うと、泰村良樹は言う。
俺は、俺の意志でもって。最期に戦場で、自分というものをあらゆる人に、世界に知らしめたいのだと。
そうして、道は開かれた。
――――そうして、目の前には最期の壁が生まれようとしていた。
「俺も分からんなあ。例え分かったとしても、お前にゃあ分からないだろうが。まあ俺だってどこまで正気なのか………だけどな」
笑っていた。歯を見せて笑う、快活な笑み。
長いようで短い付き合いの中でも、見たことのない。
それは、正真正銘の笑顔だった。
「そうだ………正気じゃあ無理なのさ。俺はお前とは違って、才能無しの出来損ないだ。だから、こうするしかないんだ」
あいつらもきっとそうだったと、まるでこれが最期みたいに。
一匹の母艦級と、幾千ものBETAを道連れにした、アショークと同じように言う。
否、同じだった。アショークと、マリーノと同じ、やめろという言葉を微塵も受けとる気がないのが分かった。目には決意が。煌めきは危うく、狂っているようにも見えた。
だけど、それでも。それだけではないと、思えるような何かが。
「………生まれた時からクソまみれだった。吐気しか覚えない精子提供者、自分しか見えてねえ卵子提供者。合わさって生まれた俺がクソなのも当然だって悟ったよ。俺の名前もな。この世にゃあ糞しかないって気付かされた………だけどまあ、こっちに来れて良かったよ」
ドロドロになるまで訓練させられて。必死になって、一つのことに取り組めて。同じようなことを考えてる、仲間に出会えて。そいつらと一緒に頑張って、反吐に汚れて、最後には血反吐のようにぶち撒けられる仲間を見て。
「最後に一花。咲かせて一緒に逝けるってんなら、悪くない。だから止めてくれるなよ」
悪意はない、事実だけを並べ立てるというように。
だけど、泣いている俺を見て、何故か苦い顔をしていた。
「おいおい、泣くなよ英雄。男の子だろうが」
「っ、俺は! いや良樹、お前も………生きて、日本に………っ!」
「それはできない相談だ。俺も男の子なんでな………意地があるのよ、これが」
あいつらだけに格好つけさせるわけにもいかないと。そんな狂っている言葉を、正気の瞳で告げられてはもう、どうしようもなかった。
「………お前は俺のようになるなよ。明るいものから目を背けることしかできない人間には」
「やめろ、良樹!」
会話になっていなかった。狂乱の中で、意志だけがすれ違っていく。同じ所を向いていないからだろう。決定的な差異があって、埋められない何かがそこには存在していた。
諦めるように、あいつは告げた。
「そうやって叫んだって無駄さ。いつだって、
まったく忙しないと、冗談をいうように。そうして直後、冗談のような映像が飛び込んできた。前方で、地面から塔のような巨体が生えてきたのだ。空まで届くんじゃないかっていう、圧倒的な質量が前方の空をも隠した。よう、俺の死よ。良樹が呟くのが見えたような気がした。
「………俺の代わりとなる奴は、俺が殺した。先月のアレがそうさ。だから、しばらくは“おかわり”は来ないだろう」
元帥にも伝えてあるし、俺の出来ることは全て済んだと、泰村は。
「後は頼んだぜ、英雄―――白銀武。んで、ついでに兄貴も宜しく頼む。あの人、お前以外に友達がいないようなんでな」
ニッと笑う。あれじゃあ、友達増えねーだろうし、と苦笑して。
「まあ唯一、あの人だけは悪くなかった。だから、色々とフォローも頼むわ」
ほっぺたをかきながら、照れくさそうに。
「じゃ、ちっくら行ってくるわ――――」
そうして、まるで公園にでも遊びに行くように。
泰村良樹は、空の向こう側へ駆け登っていった。