Muv-Luv Alternative ~take back the sky~ 作:◯岳◯
『大事なものは、人それぞれ』
声は言う。彼女は、悲しそうに自分に告げた。
『言葉でなんか言い表せないぐらい、多くの色が混ぜ合わさっている。どれが正しいかなんて、見えるからこそまるで分からない』
理解できない――――だけど、どうしてか理解できる言葉で、銀色の少女は言った。
『でも、分かった。どれも大切で同じものなんて一つもないって。誰だって、見てきたものが違う。黒が黒で、白が白かなんてことを知らないままに、教えられて染まって本当がなんであるかさえ分からないままに戦っていく』
人間らしいかもしれないと、彼女は言った。全てを知っても本当の真理が何であるかなんて、人によって異なると断言していた。
『だけど、私の欲しいものは一つだよ。本当の本当があったんだ。永遠も此処に。家族のように思っているみんなと一緒に戦って、誰からもそれが最善なんだって褒め称えられる』
彼女が孤独であった事は知っていた。言われずとも分かっただろう。よく自分の部屋に泊まりに来る、分からないはずがない。
だってそれは、横浜で。たった一人、部屋で夜を過ごしていた自分と同じなのだから。
『インドからこっち、色々あったよね。戦い、託されて、抗い、届かず、泣いて、怒って、悔しくて。本当に…………ほんとう、に』
誰かが死ぬなんて当たり前だった。むしろ人の死を聞かない日の方が珍しくて。
多くの誰かの終末に、自分達は向き合ってきた。
『絶対に正しいことなんて、ない。同じように、間違っているなんて断言できることもなかった。複雑な世界の中で、それでも戦う人は………死ぬなんて認めないって、必死で、抗って』
親しい人の死に狂乱する声を何度聞いただろう。それに落ち込む暇もなく、BETAは次々にやってくる。これが自分達の日常だった。
少女にとっては、外に出てからの。
少年にとっては、海を越えてからの。寝ても覚めても、戦うことで頭が一杯になっていた。背負うものは日に日に大きくなり。戦いの規模が大きくなるにつれて、雪だるまのように増えていく。
『すれ違いも、勘違いもあった。その中で、私達は戦ってきた――――望まれるままに、望むままに』
淡雪のように。本当に綺麗に、少女は笑った。
これは私のわがままだと、美しい笑みで言う。
『例え私がいなくなっても、タケルはタケルのままでいて………それが私の唯一の願いだから』
絶対に、忘れないで欲しいと。
小さくても不思議と透き通るソプラノの声は少年の心を揺さぶり、溶けるように消えていった。