エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
『…生きていたか、ショウ。』
プライベート回線で話しかけてきたのはテルキスだった。
どうやら俺はテルキスアレルギーになってしまったようで、
テルキスの声を聞いただけで耳の奥が痒い…気がする。
「ああ、生きてるさ。
あんたの財布を空っぽにするまで死ねるかよ。」
『お前はマジ卍にふさわしくない。』
嫌味盛り盛りで言い返した俺にテルキスは“ふさわしくない”と言い放ったが、
それならそもそも雇わなければ良い。
それに、俺が嫌われてるのと同じように俺もテルキスを嫌っている。
「奇遇だな。俺もあんたみたいな上司はふさわしくないって思ってたんだ。」
『…まあ良い。今は好きにしてろ。いずれは俺の手でお前を墜とす。』
ブチっという音ともに回線は切れ、
入れ替わるようにマリーが隣に並んで編隊を組む。
「次は?」
「敵機が来てたはずなんだが…。
AWACS、こちらアルファ1。敵機の位置を教えてくれ。」
『こちらAWACSスカイアイ。
2機の敵機はそちらから見て2時の方向にいるが、
先程からミッションエリア周辺を周回するだけだ。』
敵機というなら攻撃したくなるが、触らぬ神に祟りなしとよく言う。
昆虫でさえ巣を突かなければ襲ってこない。
一旦、テルキスに支持を仰ぐべきだと思うが、
さっきの無線の後で話しかける気にはならない。
どうしたものかとレーダーをにらみながら考えていると、
コンタクトは向こうから来た。
オープンチャンネルで何か話している。
<ぁー、あー、聞こえるかな?マジ卍の戦闘機。>
聞こえてきた生徒会長風のハリのある声に
俺とマリーは顔を見合わせる。
<こちらはケモノフスタン共和国軍だ。
君たちは我々の勢力圏に大きく侵入している。
直ちに退去しなさい。さもなくば、宣戦布告とみなす。>
「…は?」
初っ端からきつい。普通は「さもなくば撃墜」だろう。
かなり自信のあるもの言いをするところからして
脅し半分と言ったところだろうか?
敵機というからミッション中に現れた新手の敵NPCと
思っていたのだが、相手がプレイヤーなら
うっかり撃ち墜とすととんでもないことになることは
身を以て知ったばかりだ。
さすがにテルキスに聞かないわけにはいかない。
「テルキス?」
『全て聞いている。』
だったら話は早い。説明の手間が省ける。
『撃墜しろ。』
「は?」
撃墜する、と脅された数秒後に撃墜しろ、と
命令されるという明らかに戦闘不可避な板挟み状態に
俺は思わず素で聞き返してしまった。
『聞こえなかったか?その空域は我々マジ卍の勢力圏だ。
害獣は駆除しろ。』
「いや…、」
受け取り難い命令に躊躇いの色を隠せないが、
そんな感情は警報音とともに掻き消された。
「ミサイル!」
マリーの警告を聞いてレーダーに視界を落とすと、
12発のミサイルが俺たちの方へ接近している。
「嘘だろ!?アルファ2、ブレイクだ!ブレイク!」
すぐに編隊を解いて回避行動を取るように指示し、
フレアを散布しながら俺たちは散開する。
12発のミサイルは俺とマリーに6発ずつ向かってくる。
俺はスロットルを全開にし、一気に加速した。
ミサイルが1発、フレアにつられて
明後日の方向へ逸れる。残り5発。
「ーーッ!!」
ハイGターンで機体の向きを大きく変えると、
さらに3発が雲の中に入った俺の姿を見失って迷走する。
「クソッ、どこ行った!?」
しかし、俺も最後の1発を見失った。
警報音とHMDは後方からの接近を警告してくるが、
お互いに雲の中に居るため
残り1発のミサイルがどのタイミングで来るかわからない。
警報音が近くなる。
「ーーここだ!」
タイミングを見計らって体を捻った俺の目の前を
最後のミサイルが通り抜け…ずに爆発した。
「ぅぐっ…!アルファ1、被弾…!」
GGOのような被弾エフェクトが足にびっしりと貼り付き、
左腕に取り付けているモニターは
着陸装置が破損したことを示している。
『大丈夫…!?』
「大丈夫だ、飛行に問題は無い。そっちは?」
『全部避けた。』
なんとなくわかってはいたが、自分の技量の低さが身に染みる。
とりあえず、マリーと俺の特殊兵装が無事ならまだ戦える。
念のため兵装システムをチェックする。
異常のないことを確認した俺は、
スロットル全開で雲の中を一気に上昇した。
「ケモノフスタン共和国軍に告ぐ、
貴軍はマジ卍に対して不当な戦闘行為を行使している!
即刻中止せよ。」
少しでも時間を稼げればとオープンチャンネルで
ケモノフスタン共和国空軍とやらに呼びかけてみる。
しかし、返事をしたのはテルキスだった。
『何をしている、アルファ1。交渉の必要はない。』
「向こうは宣戦布告を押し付けてるんだ!
ここでまともに相手をすれば言いがかりをつけられるぞ!」
『方針に変更は無い。敵は全て撃墜しろ。
撤退は認められない。繰り返す、撤退は認められない。』
「危険手当と高所作業手当増し増しで請求してやる!」
三下のような無様なセリフを吐き捨てて
テルキスとの回線を切ると、指示を求めてマリーが
編隊の距離を縮める。
「どうする?」
「もう知ったことか、全部撃ち落とす!」
とは言うものの、機体性能で劣る俺は戦術で
優位を保って来た。今回もまた然り。
俺はすぐに左腕のモニターを
AWACSのレーダー情報とリンクさせて、
敵の飛行経路や行動パターンを含めた情報を自動解析させる。
単座機でこれをやろうとしてもそうはいかない。
AFOでは1人のプレイヤーあたり1機の航空機を操縦するが、
パイロットが2人以上居る航空機(複座機)には
レーダー/火器管制士官の代わりに
それなりの情報処理能力があるコンピューターが与えられ、
それをどちらかの腕に巻き付けて使う仕組みなのだ。
複座機ならではの機能を存分に使って解析した情報によると、
敵機は6AAMを運用できるファイターで、
その機動性からカナード翼機であることが推測できた。
「アルファ2、峡谷内を飛んで待ち伏せだ。
俺が待ち伏せポイントまでおびき寄せる。」
『そしたら背後を取って一気に叩く。』
「その通り。」
毎度のように俺が言いたいことを理解して先読みする
優秀な僚機のお陰で、今回のような
立て続けに戦闘が怒る場面でも柔軟に
作戦を立てて対応できる。
俺は相棒の物分かりの良さに感謝しつつ、
編隊を解くよう指示を出した。