エアフォース・オンライン:フェアリーズ 作:Bishop1911
無事に生還したにも関わらず、テルキスに散々嫌味を言われ、
基地に着陸するとすぐに
マリーから機銃の修理代をみっちり取られた挙句、
霧が立ち込める峡谷で長時間危険な飛行をさせた、と
危険手当の名目で手取りの4割近くを持っていかれた俺は
機銃の破損した部分のパーツを購入し、
格納庫で1人寂しく機銃の修理をしていた。
無論、こんな事をしなくても修理費をクランに払えば
勝手に修理してもらえる。
しかし、その中にはクランに納める分も含まれているため、
今回のようにいくつかのパーツを交換して終わるようなら
自分でやった方が安上がりだ。
「あっれー?誰かと思えばウワサの新入りくんじゃーん!」
なにか聞き覚えのない声に呼ばれて振り返ると
そこにはどこかで見た気のする女性プレイヤーが
月明かりを背景に格納庫のドアに背を預けて立っていた。
「はぁ…また冷やかしですか。」
帰還してからテルキスと30分近く口論をしていた俺は、
格納庫に向かう途中、トードを撃墜した件で
マジ卍のメンバーから冷やかしを受けていたため、
格納庫に籠もったのだが、どうやら戸締りをし忘れたらしい。
「聞かせてよ、トードを撃ち落とした話!」
「自分、今は忙しいので。」
冷たくあしらって端末を操作し、格納庫のドアを閉める。
「できれば戦闘ログも観たいなー、…よっと…。
あぶないあぶない。」
彼女はそれでも閉まる扉の間をすり抜けて
格納庫に入ってきた。
「ねえねえ!アイツどんな顔して墜ちたの?」
何か小悪魔的な雰囲気を纏わせながらメガネをクイっと
上げた彼女からは知的な印象と同時に何か危ないことに
巻き込まれそうな気がする。
「知りませんよ、そんなの。」
俺はメニュー画面からフリーフライトを選択して
管制塔に離陸許可を求める。
「それじゃあ、一緒に来たあの娘は?彼女?」
「ぅっ…」
心臓から通常の1.5倍くらいの血液が押し出されたような
感覚とともに俺は足を止めた。
動揺しているのが自分でもわかる。
しかし、動揺するほどの答えを俺が
持っていないことにも気づいた。
「…ただの腐れ縁ですよ。
あいつとが1番飛びやすいだけです。」
振り向きもせずに答えた俺は格納庫の出口に向かう。
「へぇー…、それには答えてくれるんだ…。
じゃあ、もうひとつ質問。」
彼女は後ろから軽快な足取りで俺の後ろをついてくる。
「何ですか…。」
「あの娘より飛びやすい娘がいたら代わってくれる?」
どうとでも解釈できる質問だったが、
そんな質問はさっきよりも簡単だ。
答えなんて脊髄反射で出てくる。
「ありえないっすね。」
「おっ、即答。」
少し感心したような表情で俺を見る彼女は
さらに口を開きかけるが、
『こちらニヨッテタワー。ショウ、離陸を許可する。』
いいタイミングで無線が入った。
「ショウ、了解。それじゃあ、失礼します。」
「またね。」
滑走路を走り出した俺を彼女が追ってくることはなく、
そのまま離陸した俺を滑走路から手を振って見送っている。
「不思議な人だなぁ…。」
無数の標的が現れるフリーフライトで機銃の動作や
照準にズレが無いかを確認しながら30分ほどの
夜間飛行を終えた俺は、ニヨッテ基地の滑走路に降り立った。
格納庫へ向かっていると、
入り口にはさっきの女性プレイヤーが立っている。
「自己紹介してなかったね。私はカールターナー。」
何語かも不明な名前だが、これで女性プレイヤーXの
固有名詞ができた。
「ショウです。」
俺も形式的に返して会釈し、格納庫に入る。
「釣れないなー。
女の子にはもっと優しくしてあげた方が良いよ。」
「優しさでミサイルを躱せるなら検討します。」
「へぇー、そう来たか…。」
格納庫の中までツカツカとついて来たカールターナーは
俺が機体セットを解除する傍らで作業台に腰を下ろす。
それでも彼女の長い脚は長さを持て余しているようで、
欧米人のように脚を組む。
「君は戦闘中によく指示を飛ばすみたいね。」
「それが何か?」
「ううん、私が飛べない間は頼りにできそうだなーって
思っただけ。」
「…飛べない…?」
「あ、知らないか。私、今日の昼頃に墜落したの。
あー、でもあれは不時着…んー…」
昼頃と言えばあの被弾した大型機だろうか?
確かに思い返してみれば操縦していたプレイヤーは
カールターナーだったような気がする。
「それはともかく。」
カールターナーは作業台から立ち上がってメニュー画面を開く。
「E/A-18Gって知ってる?」
E/A-18Gといえば、
F/A-18Fを基に設計された電子戦支援機で、
AFOでの分類はマルチロール機だが、
特殊兵装が電子支援ポッドや電子攻撃ポッドと
サポート系ばかりなので毛嫌いされている機体だ。
「知ってはいますけど…」
「私が復帰するまでの間、それに乗ってくれないかな。」
「どういうことですか?
カールターナーさんの機体は何なんですか?」
カールターナーは「そういえば言ってなかったか」と
1人で納得すると、
メニュー画面から機体セットの画面を呼び出す。
「私の機体はE-767早期警戒管制機。」
「なっ…」
言葉も出ない。
E-767と言えばAFO内では3千クレジット。
リアルマネーでいう30万円もする機体だ。
当然、その分だけ性能も高く、
普通ならAIのAWACSに任せる部隊の指揮や
敵レーダーへのジャミング、データリンクの範囲拡大など、
使い方次第では戦況を覆せる。
ただ、それ故にリアルマネーで30万円もする訳で、
カールターナーのように撃墜されたりすると
修理で数週間は飛べないだろう。
「だからお願い。」
「…事情はわかりましたけど…。
俺、今は新しい機体を買えるほどのクレジットを
持ってませんよ。」
「金ならあるわ。」
俺の事情などとっくに知っているかのような動作で
俺が喋り終える前からメニュー画面を操作していた
カールターナーは、1つのブリーフケースを実体化させる。
作業台の上で開けられたケースの中には大量の札束が
敷き詰められていた。
「これで足りるでしょう?」
「足りるも何も…」
ケースの中にはざっと5万クレジットはあり、
これだけあればE/A-18Gが2機買える。
「多すぎですよ。」
「釣りはとっておいて。」
なんとも頼もしいお言葉だが、俺だって長いこと
傭兵をやっている。金の出所を聞かないとヤバイ。
「カールターナーさん、このお金はどこから?」
「え…」
「まさか人のお金とかじゃ無いですよね?」
「んー…そんなわけ無いよ。」
カールターナーの表情が曇る。
「言わないとこっちも機体は変えません。」
「実は…」
ゴニョゴニョと事情を聞いてみると、
横領などでは無く、電子戦支援をできる機体が居ない間の
ツナギをしてくれるメンバーを探してこいとの指令とともに
トードから押し付けられたらしい。
要は尻拭いだ。
それで正規メンバーは誰も引き受けてくれず、
途方にくれているところで俺を見つけたそうな。
「でも俺、仮契約の傭兵ですよ?
いつ敵になるかもわからないのに…」
「その時はその時!
ショウくん、君しか居ないんだよ!」
俺の両手を握り、高い身長を低くしてその上での上目遣い。
俺は止むを得ず首を縦に振った。